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発明の名称 金属黒鉛質ブラシ
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−49894(P2007−49894A)
公開日 平成19年2月22日(2007.2.22)
出願番号 特願2006−194718(P2006−194718)
出願日 平成18年7月14日(2006.7.14)
代理人 【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
発明者 小林 博
要約 課題
火花放電が発生し難い金属黒鉛質ブラシを提供する。

解決手段
表面及び内部に気孔19を有する焼結体からなり、モータのロータ2に設けられるコア9に巻回されたコイル17が電気的に接続された整流子8に対し、摺接面で摺接することによりコイル17に給電を行う金属黒鉛質ブラシ1において、モータの作動時の整流子8との摺接による昇温に応じて気化する液体と、液体の沸点より高い沸点を有すると共に液体を分散させる溶媒とを含む乳濁液を気孔19の内に備える。
特許請求の範囲
【請求項1】
表面及び内部に気孔を有する焼結体からなり、モータのロータに設けられるコアに巻回されたコイルが電気的に接続された整流子に対し、摺接面で摺接することにより前記コイルに給電を行う金属黒鉛質ブラシにおいて、
前記モータの作動時の前記整流子との摺接による昇温に応じて気化する液体と、当該液体の沸点より高い沸点を有すると共に当該液体を分散させる溶媒とを含む乳濁液を前記気孔の内に備えた金属黒鉛質ブラシ。
【請求項2】
前記溶媒は合成油である請求項1に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項3】
前記合成油は、ポリアルファオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ジエステル、トリエステルから選択される少なくも一種の化合物を有する請求項2に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項4】
前記合成油は、重合度が2及び3のうち少なくともいずれかであるポリアルファオレフィンを主成分として有する請求項2または3に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項5】
前記液体は導電性を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項6】
前記液体は分散改質剤を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項7】
前記モータの作動時の前記摺接面の温度において、前記分散改質剤の熱分解率が5%以下である請求項6に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項8】
前記分散改質剤は、チタン系カップリング剤及びシラン系カップリング剤から選択される少なくとも一種のカップリング剤である請求項6または7に記載の金属黒鉛質ブラシ。

発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのロータに設けられるコアに巻回されたコイルに給電を行う金属黒鉛質ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシ付きのモータは、ブラシが整流子に摺接して給電がなされるものである。そして、整流子には、ロータに設けられるコアに巻回されたコイルが接続され、コイルに対して通電がなされると、ロータはハウジング内部にロータと対向して配設された永久磁石との吸引/反発力によって回転する。
【0003】
上記構成を有するモータでは、モータ駆動時にはブラシと整流子とが摺接することから、ブラシの摺接面において磨耗が発生するという問題があり、これまで、モータ駆動時のブラシに対する磨耗を抑えることを目的として、ブラシの材質の変更や、ブラシの硬さの調整によって、ブラシの電気的/機械的磨耗やモータ駆動時にブラシの摺接面に発生する火花放電を抑制することが検討されている。
【0004】
ブラシ付きのモータを車両用として適用する場合には、モータのブラシとして、他の種類のブラシに比べて電流密度が高い、黒鉛粒子と銅粒子とを接合溶剤を用いて混合し焼成する、所謂金属黒鉛質ブラシが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
金属黒鉛質ブラシの製造方法の一例としては、天然の黒鉛粒子をベースとし、溶解フェノール樹脂をバインダーとして黒鉛粒子に加えて捏和し、これに銅粒子としての電解銅粉(以下、「銅粉」と称する)を加え、さらに摺接面の潤滑性を向上させるための固体の潤滑剤として、少量の二硫化モリブデンの粉体または二硫化タングステンの粉体を加えて、水素ガスを含む窒素ガスがリッチな雰囲気中で700℃〜800℃の温度で焼結することが知られている。この場合、黒鉛粒子の表面に被膜として形成した溶解フェノール樹脂は、焼結時の温度で熱分解し、この熱分解によって炭化して非晶質炭素となり、非晶質炭素がバインダーとなって黒鉛粒子を結合させる。そして、この焼結の際の熱分解によって溶解フェノール樹脂溶液の有機物質は二酸化炭素や水蒸気となって昇華するため、金属黒鉛質ブラシの表面および内部には多数の気孔が形成される。なお、上記製法によって製造される金属黒鉛質ブラシは、銅粉の混合割合によって電流密度が決まる。
【0006】
金属黒鉛質ブラシ付きのモータを車両用に適用する場合には、モータは小さければ小さいほど、車両への実装性に優れる。このため、モータの出力が同一である場合には、モータは小さい方が商品性に優れたものになる。したがって、実装性の観点からは、金属黒鉛質ブラシの大きさについても制約を受けることになり、整流子との摺接面積が小さく、ロータに対し径方向の長さが短い方が優れたものになる。一方で、金属黒鉛質ブラシは、モータに大きな電流を流して車両に搭載した電子機器を動かすため、電流密度の高いものが求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−298913号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の金属黒鉛質ブラシを備えたモータでは、金属黒鉛質ブラシが動作することにより金属黒鉛質ブラシから整流子に向けて火花放電する。そして、放出される火花放電のスペクトルの波長から、放電の核では3000℃を越える温度になる場合があった。このため、従来の金属黒鉛質ブラシでは、金属黒鉛質を構成する銅粉が優先的に昇華し、銅粉の一部が欠如することによって金属黒鉛質ブラシの破壊が起こり、この結果、金属黒鉛質ブラシが磨耗するという問題があった。
【0009】
また、金属黒鉛質ブラシでは、電流密度を高くするために銅粉の体積割合を高くすると、火花放電も起こり易くなり、磨耗は促進される。このため、金属黒鉛質ブラシは、その実装性と磨耗寿命との観点から、車両用への使用に当たっては制約を受ける場合があった。
【0010】
さらに、金属黒鉛質ブラシを備えたモータでは、金属黒鉛質ブラシからの火花放電により電気ノイズが発生する。一般に、車両では、この火花放電による電気ノイズをコンデンサやコイルによって吸収させることにより、モータの近くに装着された他の車載電子機器に影響を及ぼさないようにしている。しかし、火花放電による電気ノイズの周波数が広い範囲に及ぶ場合には、電気ノイズを吸収するために複数のコンデンサやコイルをモータに実装する必要があった。このため、モータの車両に対する実装性はさらに低下し、電気ノイズ対策のために余分な費用がかかるという問題があった。
【0011】
このように、従来の金属黒鉛質ブラシを備えたモータでは、金属黒鉛質ブラシから発生する火花放電が主たる要因となって、様々な問題が発生していた。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑み案出されたものであり、火花放電が発生し難い金属黒鉛質ブラシを提供することを主な目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の金属黒鉛質ブラシの第1特徴構成は、表面及び内部に気孔を有する焼結体からなり、モータのロータに設けられるコアに巻回されたコイルが電気的に接続された整流子に対し、摺接面で摺接することにより前記コイルに給電を行う金属黒鉛質ブラシにおいて、前記モータの作動時の前記整流子との摺接による昇温に応じて気化する液体と、当該液体の沸点より高い沸点を有すると共に当該液体を分散させる溶媒とを含む乳濁液を前記気孔の内に備えた点にある。
【0014】
つまり、この構成によれば、金属黒鉛質ブラシは、モータの作動時には整流子との摺接によって摺接面が昇温する。そして、これに伴って金属黒鉛質ブラシの内部に存在する気孔も昇温し、特に整流子と摺接する摺接面に近い気孔ほど高い温度に昇温する。内部の気孔に存在する溶媒中に分散する液体は、溶媒の沸点よりも低い沸点を有するため、気孔の昇温によって溶媒より先に気化し、溶媒中において気泡(以下、「バルーン」とも称する)を形成する。形成したバルーンは、気孔の温度上昇に伴って熱膨張しようとするが、周りを取り囲む溶媒によって熱膨張が抑制されるため、その分、バルーンの内部の圧力が上昇する。そして、気孔のさらなる温度上昇によりバルーンの内部の圧力が大気圧以上に達すると、バルーンは溶媒や気化しない他の成分も伴って、気孔の開口部から金属黒鉛質ブラシの摺接面に移動する。そして、これにより金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面の間には、局所的に溶媒や気化しない他の成分等の液状体を介在させることができる。このため、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面の間には、液状体を媒体とした接触面が新たに形成されることにより、金属黒鉛質ブラシと整流子とは面接触となって摺接し、この結果、接触抵抗が低くなり、火花放電の発生を抑制することができる。さらには、摺接面には液状体の被膜が形成されるため、直接黒鉛の凝集磨耗と疲労磨耗を抑制することも可能となる。
【0015】
このように、本発明に係る金属黒鉛質ブラシでは、乳濁液を気孔内に存在させことにより、気孔が所定の温度以上に昇温した場合のみ気孔に存在する液体が気化して溶媒中でバルーンを形成し、バルーンの中でも内部の圧力が一定の圧力に達した摺接面に近いバルーンが優先的に摺接面に移動するようになり、これによって気孔内に存在する乳濁液に対して所謂自己給油機構を実現することができる。このため、限られた容積を有する気孔の内に存在する乳濁液から液状体を効率良く摺接面で使用することができ、単に気孔内に液状体を含浸したものと比べて、気孔の内に存在する乳濁液の使用期間を延ばすことができる。
【0016】
また、異なる沸点を有する液体をそれぞれ選択することにより、液状体が摺接面に滲み出る温度を任意に設定することができる。さらに、異なる温度で気化する複数の液体を溶媒に分散させることにより、幅広い温度領域において、液状体を摺接面に存在させることも可能となる。
【0017】
本発明の金属黒鉛質ブラシの第2特徴構成は、前記溶媒は合成油である点にある。
【0018】
つまり、この構成によれば、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面の間には合成油を含んだ液状体を媒体とした接触面が形成されるため、これにより合成油を媒体とした液体の潤滑作用が得られ、金属黒鉛質ブラシの機械的磨耗を減少させることができる。また、合成油を金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面の間に介在させると、摺接面に接触抵抗増大の要因となる水蒸気被膜が形成することを防止することができるため、金属黒鉛質ブラシと整流子との間に形成される電気的損失を減らし、さらにまた、火花放電をより発生し難くすることができる。
【0019】
本発明の金属黒鉛質ブラシの第3特徴構成は、前記合成油は、ポリアルファオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ジエステル、トリエステルから選択される少なくも一種の化合物を有する点にある。
【0020】
つまり、この構成によれば、ポリアルファオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ジエステル、トリエステル等の合成油は、潤滑性を有する、粘度が低い、粘度指数が高い、熱安定性を有する、液体の分散性が良好、吸湿性が低い、残留炭素分が低い、耐熱分解性を有する、低温流動性が良い、高温時の油膜保持能力がある、酸化安定性に優れる、整流子表面への吸着性が優れる、等の特性を有するため、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面に対して潤滑剤として適用することができる。
【0021】
本発明の金属黒鉛質ブラシの第4特徴構成は、前記合成油は、重合度が2及び3のうち少なくともいずれかであるポリアルファオレフィンを主成分として有する点にある。
【0022】
つまり、この構成によれば、上記のポリアルファオレフィンは、熱分解温度が230℃付近であり、熱分解開始温度も200℃付近であるため、金属黒鉛質ブラシの摺接面において熱分解し難い。沸点は0.1気圧においても200℃を越えており、大気圧では殆ど蒸発しないため、金属黒鉛質ブラシの摺接面において潤滑油として存在することができる。粘度指数は138と大きいため、幅広い温度範囲で潤滑性を保つことができる。40℃における動粘度は31cStと低いため、整流子と摺接する金属黒鉛質ブラシの摺接面の黒鉛粒子を磨耗させ難く、気孔内に低圧含浸する場合にも液体の分散性を損なうことがない。流動点は−57℃であり、−30℃での動粘度の上昇が抑制でき、−30℃の極低温でも潤滑油として用いることができる。
【0023】
本発明の金属黒鉛質ブラシの第5特徴構成は、前記液体は導電性を有する点にある。
【0024】
つまり、この構成によれば、摺接面における電気抵抗を大気の電気抵抗より小さくすることができる。このため、摺接面における液状体を摺接媒体として介在することによる接触面積の増大の効果と相伴って、金属黒鉛質ブラシと整流子との間に形成される接触電気抵抗を低下させることができる。そして、これによって金属黒鉛質ブラシに電位が印加された際に金属黒鉛質ブラシに加わる電界強度が低下し、黒鉛粒子が有するπ電子が電界によって励起し難くなるため、金属黒鉛質ブラシにおける火花放電を起こり難くすることができ、金属黒鉛質ブラシの電気的磨耗や電気ノイズの発生を抑制することができる。さらには、金属黒鉛質ブラシと整流子との間に形成される接触抵抗の大きに基づく電気的損失も小さくなり、効率的に整流子側に電流を流すことができる。また、接触抵抗の大きさに基づく摺接面におけるジュール熱を低減させることができるため、整流子の摺接面における酸化現象が抑制でき、これにより、酸化膜形成によって電気抵抗が増大することによる電気的損失を無くすことができる。さらに、酸化による体積膨張が要因となる整流子表面の破壊が抑制され、これによって整流子の摺接面の平坦度の悪化が抑制されるため、整流子と摺接する金属黒鉛質ブラシのアブレッシブ磨耗を防止することができる。
【0025】
本発明の金属黒鉛質ブラシの第6特徴構成は、前記液体は分散改質剤を有する
点にある。
【0026】
つまり、この構成によれば、分散改質剤によって、液体を溶媒に安定に分散されることができる。
【0027】
本発明の金属黒鉛質ブラシの第7特徴構成は、前記モータの作動時の前記摺接面の温度において、前記分散改質剤の熱分解率が5%以下である点にある。
【0028】
つまり、この構成によれば、分散改質剤は液体と共に摺接面に移動した後においても熱分解されないため、分散改質剤の性質を保持することができると共に、分散改質剤の熱分解物によって摺接面における凝着磨耗を引き起こす虞がない。
【0029】
本発明の金属黒鉛質ブラシの第8特徴構成は、前記分散改質剤は、チタン系カップリング剤及びシラン系カップリング剤から選択される少なくとも一種のカップリング剤である点にある。
【0030】
つまり、この構成によれば、溶媒中において、液体を粒子として良好に分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明に係る金属黒鉛質ブラシは、表面及び内部に気孔を有する焼結体からなり、モータのロータに設けられるコアに巻回されたコイルが電気的に接続された整流子に対し、摺接面で摺接することにより前記コイルに給電を行う金属黒鉛質ブラシにおいて、前記モータの作動時の前記整流子との摺接による摺接面の昇温に応じて気化する液体と、当該液体の沸点より高い沸点を有すると共に当該液体を分散させる溶媒とを含む乳濁液を前記気孔の内に備えたものである。すなわち、金属黒鉛質ブラシは、モータの作動時には整流子との摺接によって摺接面が昇温する。そして、これに伴って金属黒鉛質ブラシの内部に存在する気孔の内も昇温し、特に整流子と摺接する摺接面に近い気孔ほど高い温度に昇温する。気孔の内に存在する溶媒中に分散する液体は、溶媒の沸点よりも低い沸点を有するため、気孔の内の昇温によって溶媒より先に気化し、溶媒中において気泡であるバルーンを形成する。形成したバルーンは、気孔の内の温度上昇に伴って熱膨張しようとするが、周りを取り囲む溶媒によって熱膨張が抑制されるため、その分、バルーンの内部の圧力が上昇する。そして、気孔の内のさらなる温度上昇によりバルーンの内部の圧力が大気圧以上に達すると、バルーンは気孔の開口部から金属黒鉛質ブラシの摺接面に移動する。このバルーンの移動の際に、バルーンは溶媒や気化しない他の成分を伴って摺接面に移動する。
【0032】
そして、これにより金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面の間には、局所的に溶媒や気化しない他の成分等の液状体を介在させることができる。このため、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接状態は、従来のきわめて限られた僅かな接触点でのみ直接接触し、大半は大気を媒体とする摺接状態から、僅かな接触点と大気とに加え、新たに液状体を媒体とする摺接状態に変わる。この液状体を媒体とした接触面が形成されることにより、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面は液状体の面接触となるため、大気を介在した場合より接触抵抗は低くなり、火花放電の発生は抑制される。さらには、摺接面に形成される液状体の被膜により、金属黒鉛質ブラシと整流子とが直接摺接することによる黒鉛の凝集磨耗と疲労磨耗とを抑制することも可能となる。
【0033】
このように、本発明に係る金属黒鉛質ブラシでは、乳濁液を気孔内に存在させことにより、金属黒鉛質ブラシの内部に存在する気孔が所定の温度以上に昇温した場合のみ液体が気化して溶媒中でバルーンを形成し、バルーンの内部の圧力が一定の圧力に達した摺接面に近いバルーンが優先的に摺接面に移動するようになり、乳濁液は摺接面に対し所謂自己給油機構を実現することができる。このため、限られた容積である気孔の内部に存在する乳濁液から液状体を効率良く摺接面で使用することができ、単に気孔内に液状体を含浸したものと比べて、気孔に含浸した乳濁液の使用期間を延ばすことができる。
【0034】
また、本発明に係る金属黒鉛質ブラシでは、液体として異なる沸点を有するものを、金属黒鉛質ブラシの温度環境条件に応じてそれぞれ選択することにより、液状体が摺接面に滲み出る温度を任意に設定することができる。さらに、異なる温度で気化する複数の液体を溶媒に分散させることにより、幅広い温度領域において、液状体を摺接面に存在させることも可能となる。
【0035】
本発明に係る金属黒鉛質ブラシは、乳濁液が潤滑油を含むことが好ましい。潤滑油としては、天然油、合成油等、従来公知の潤滑油が適用でき、特に限定されないが、熱分解温度が高く、酸化され難いという観点からは、合成油を使用することがより好ましい。そして、このような潤滑油を使用すれば、金属黒鉛質ブラシの内部に存在する気孔の温度上昇に伴って、潤滑油が摺接面に移動することにより、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面の間は、局所的に潤滑油を含んだ液状体で満たされ、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面は潤滑油を媒体とした摺接状態となる。このため、潤滑油を媒体とした液体の潤滑作用により、金属黒鉛質ブラシの機械的磨耗を減少させることができる。また、潤滑油を金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面の間に介在させると、摺接面に接触抵抗増大の要因となる水蒸気被膜が形成することを防止することができるため、金属黒鉛質ブラシと整流子との間の電気抵抗に基づく電気的損失を減らし、さらにまた火花放電をより発生し難くすることができる。
【0036】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、ロータ2に対して給電を行う金属黒鉛質ブラシ(以下、単に「ブラシ」とも称する)1を用いたモータ10の構造を示す断面図であり、この図1を参照して、モータ10の構成について簡単に説明する。
【0037】
図1に示すモータ10は、ハウジング7の中でロータ2が回転を行う構成となっている。ロータ2は円筒状を呈する金属製のハウジング7の中に回転自在に収められ、ロータ2を収納する側のハウジング7はハウジング13に対してボルト等の締結部材14により固定されハウジング13と一体となっている。ロータ2はシャフト4によって支持され、シャフト4の一方の端部(図1に示す右側)には2つの平行な面を互いに有する二面幅が設けられている。この二面幅に対して、被駆動装置の被駆動シャフト16が軸方向から挿嵌されて結合されており、モータ10の回転を被駆動シャフト16から外部出力できる構成となっている。
【0038】
ロータ2には、コア9を構成する複数の鉄板が軸方向に積層された状態で、コア9の中央にシャフト4が圧入されて一体で取り付けられ、ロータ2とシャフト4とは一体回転する。シャフト4の他端は、ハウジング7の奥に圧入されたベアリング(第1ベアリング)12の内輪に圧入され、ハウジング7に対してベアリング12によって回転自在に軸支される。一方、円筒状となったハウジング7の内面には、周方向において複数の円弧状を呈するマグネット11が、接着剤等によってハウジング7に貼り付けられている。
【0039】
また、ハウジング7が取り付けられるハウジング13には、ロータ2が取り付けられるモータ取付け面に凹部13aが形成されている。この凹部13aにベアリング5の外輪5aが圧入により取り付けられ、シャフト4はベアリング5を介して軸支される。これにより、ロータ2を軸支するシャフト4は、2つのベアリング5,12によって、両持ちで回転自在に軸支される。この場合、ベアリング12が圧入される方向とは反対側のシャフト4の他端には、ベアリング5の内輪
5bにシャフト4が圧入されている。このベアリング5の外輪5aは、ハウジング13に形成された凹部13aの内径に圧入されて配設される。また、ハウジング13内において、モータ10のハウジング13とベアリング5との間には、スプリング3が配設される。
【0040】
スプリング3は、バネ性(バネ定数)の高い平板上の円盤形状を呈する金属から成り立っており、中央にシャフト4が貫通する孔3dを有する。スプリング3は中心から120度の位置より外径から内径に向かって周方向に3つのスリットが形成され、軸方向に対して三次元的に曲げられ、支持部3aから連続的に付勢部3bが形成されている。スプリング3は支持部3aにて凹部13aの段部に周状に当接して係止され、付勢部3bにてベアリング5の外輪5aの側面に当接して、ベアリング5を軸方向(図1に示す左方向)に付勢する。
【0041】
一方、ベアリング5のロータ側にはホルダ6が配設される。ホルダ6は樹脂より成り、ハウジング7と同軸で配設される。また、ホルダ6はロータ側に設けられたコア9に巻回されるコイル17に対して整流子8から給電が成され、この整流子8に当接するブラシ1を2つ有する(図1では一つのみ表わす)。また、ホルダ6には外部からブラシ1を介してロータ側に給電を行うコネクタ15が一体で形成される。このコネクタ15に対し、図示しない外部コネクタを接続することにより、ブラシ13を介してロータ2のコア9に巻回されたコイル17に給電を行うことができる。コイル17に給電が行われると、ロータ2とマグネット11との間で電磁的な吸引/反発力が働き、ロータ2が回転する。
【0042】
この様な構成及び動作を成すモータ10におけるブラシ1について、以下に詳しく説明する。この実施形態におけるブラシ1は、図2の模式図に示す如く、黒鉛粒子18をベースとした、表面及びその内部に多数の気孔19を有する焼結体22から成り立っており、その気孔19の内には含浸剤21が含浸してある。まずは、ブラシ1となる焼結体22の製造工程の一例について、図3を参照して、説明する。
【0043】
ブラシ1の製造では、天然の黒鉛粒子18(粒径:5〜150μm)を用意し、黒鉛粒子18に対して2〜3重量%の粒状ペレットから成るノボラック構造(または、レゾール構造)のフェノール樹脂を黒鉛粒子18のバインダーとして用意する(S1)。そして、ノボラック構造(レゾール構造)のフェノール樹脂をアルコール類によって溶解させ、フェノール樹脂の溶解溶液を作る(S2)。ここで使用するアルコール類は、例えば、メタノールを使用すると良い。また、この場合、上記したフェノール樹脂の溶解にアルコール類を用いなくても、ケトン類(例えば、アセトン等)を用いても良い。即ち、S2におけるアルコールによる溶解では、黒鉛粒子18に対して加えるフェノール樹脂の溶解溶液の粘度によって黒鉛粒子18の表面に形成されるフェノール樹脂の被膜の厚さが決定される。その後、黒鉛粒子18に対して、フェノール樹脂の溶解溶液をスプレー塗装する(S3)。S3におけるスプレー塗装では、黒鉛粒子18の表面に均一なフェノール樹脂溶解溶液による被膜が得られる様、塗布を行う。
【0044】
そして、表面にフェノール樹脂の溶解溶液が塗布された黒鉛粒子18を捏和する(S4)。ここでの捏和は、黒鉛粒子18を混練装置によって、所定時間の間(例えば、3〜5時間程)均一に混練する。その後、大気中にて30分間程度、自然乾燥させた後に、所定形状、例えば直径が0.5mmで長さが2mm程度の大きさに押し出し成形する(S5)。
【0045】
押し出し成形により得られた黒鉛粒子18(造粒粒子)に対して、モータ10の駆動時にブラシ1に流す電流量を所定の電流密度に設定する為に、ブラシ1に流す電流量に応じて銅粉を配合し、整流子8との滑りを良くする為に、固体潤滑剤としての二硫化モリブデンの粉体を配合する(S6)。なお、固体潤滑剤としては二硫化タングステン等の粉体を配合してもよい。そして、銅粉及び二硫化モリブデン等の固体潤滑剤がそれぞれ均一になる様に混合する(S7)。その後、プレス装置により加圧成形(例えば、プレス成形)を行い、ブラシ1の所望形状となる様に成形する(S8)。そして、得られた成形品は水素ガスを含む窒素ガスがリッチな雰囲気中で700〜800℃の温度で2〜3時間、還元焼成を行う(S9)。この還元焼成によって、フェノール樹脂が熱分解され、これによって生成した非晶質炭素が黒鉛粒子18同士を結合し、ブラシ形状をした焼結体22が出来る。この様にして出来上がった焼結体22の表面及び内部には、フェノール樹脂の熱分解時に二酸化炭素ガスや水蒸気などのガスが発生することによって、図2の模式図に示す如く、隣接する黒鉛粒子18との間に多数の気孔19が形成される。
【0046】
このような焼結体22は、例えば、含浸剤21が入った容器に浸漬し、0.1気圧以下の低圧状態で一定時間(例えば、30分)放置(低圧含浸)した後、容器から取り出すことにより、気孔19の内に含浸剤21を含浸させることができる。
【0047】
ブラシ1の気孔19の内に含浸させる含浸剤21は、モータの作動時の整流子との摺接による昇温に応じて気化する液体と、当該液体の沸点より高い沸点を有すると共に当該液体を分散させる溶媒とを含む乳濁液を用いる。これにより、上述の通りブラシ1の摺接面に確実に液状体を滲み出させることができる。
【0048】
含浸剤21としての乳濁液は、特に限定はされず、様々な種類の液体及び溶媒を任意に選択することができる。溶媒としては、例えば、以下の特性を有するものが好ましい。
【0049】
1.潤滑性
溶媒は、ブラシ1の気孔19内において、液体を良好に分散させると共に、摺接面に移動した後は、ブラシ1と整流子8との間において潤滑作用を奏することが好ましい。これにより、ブラシ1の摺接面が整流子8との摺接によって機械的に損傷するのを防止することができる。
【0050】
2.粘度及び粘度指数
溶媒は粘度が低い方が好ましい。溶媒の粘度が低い方が、ブラシ1の摺接面に作用する流速勾配に対するせん断応力の比率が低くなる。このため、ブラシ1の摺接面に作用するせん断応力が小さくなり、黒鉛粒子18がブラシ1から削り落とされ難くなる。また、溶媒の粘度が低いと、ブラシ1の摺接面から削り落とされた黒鉛粒子18が整流子8に付着し難くなるため、ブラシ1の摺接面における黒鉛粒子18の凝着磨耗及び疲労磨耗も起こり難くなる。具体的には、例えば、溶媒の動粘度は40℃において50cSt以下であることが好ましく、100℃においては10cSt以下であることが好ましい。
【0051】
また、溶媒の粘度が高くなり過ぎると、ブラシ1と整流子8との摺接面の間隙に滲み出た溶媒は、ブラシ1の摺接面により大きな固着力で固着し、溶媒同士の固着力も大きくなる。このため、溶媒の粘度が低い場合に比べて、滲み出た溶媒の分散状態は相対的に変わり難く、間隙全体に溶媒が充填されるまでに要する時間は相対的に遅くなる。すなわち、ブラシ1と整流子8との間隙に形成される電気抵抗は、大気層が形成する電気抵抗と溶媒の層が形成する電気抵抗との直列接続になるため、間隙に溶媒の層が形成されると、大気層が形成する電気抵抗分が低下し、溶媒の層が形成する電気抵抗分が増加する。溶媒の比抵抗が大気の比抵抗より低い場合では、間隙の電気抵抗は、溶媒が滲み出る時間の経過と共に電気抵抗は低下し、間隙が連続した溶媒の層で形成されるに至って、一定な抵抗値になる。したがって、溶媒は動粘度が低い方が、溶媒がブラシ1の摺接面に滲み出ることによって、ブラシ1と整流子8との間隙の電気抵抗が低下して火花放電が起き難い溶媒の分散状態になるまでの時間を短くすることができる。なお、火花放電が起こると、火花が整流子8に到達し、整流子8の一部を昇華させ、整流子8の表面が荒らされる。これによってブラシ1の摺接面で黒鉛粒子のアブレッシブ磨耗が引き起こされる。また、摺接面が荒らされることで、摺接面で黒鉛粒子の凝着磨耗が起こり易くなるため、さらに整流子8の表面が荒らされ、火花放電はより起き易くなる。そして、凝着磨耗が起こる部位に近接した溶媒は変質し、液体の潤滑作用が低下する。このためブラシ1の機械的磨耗が促進し、さらに摺接面の状態が悪化することで火花放電の発生頻度が高まる。
【0052】
一方、溶媒の粘度が低いと、ブラシ1と整流子8との接触点近傍における合成油の被膜の厚みを薄くすることができる。すなわち、ブラシ1と整流子8との接触点近傍には溶媒の被膜が形成されるが、この被膜が薄ければ薄いほどブラシ1と整流子8との間隙に形成される電気抵抗は低くなり、単分子膜になれば電気抵抗は殆ど形成されない。また、被膜は点でなく面で形成され、この接触面が摺接面で多数形成されるため、ブラシ1と整流子8との間隙の電気抵抗は大きく低下する。これにより、ブラシ1に印加される電界の大きさは大きく低下し、この結果ブラシ1は火花放電が起こり難くなる。
【0053】
また、溶媒は粘度指数が高い方が好ましい。これによって、溶媒は温度による粘度変化が小さくなるため、幅広い温度範囲において溶媒の粘度を低くすることができ、ブラシ1の摺接面の黒鉛粒子18が損傷し難くなる。
【0054】
3.熱安定性
溶媒は、熱安定性を有するものが好ましい。すなわち、溶媒は、高温時にも熱分解、加水分解等、化学変化しないものが好ましい。これにより、ブラシ1と整流子8との摺接面において溶媒は潤滑性を保持することができる。具体的には、溶媒は150℃において熱分解及び加水分解し難いものが好ましく、190℃において熱分解及び加水分解し難いものがより好ましく、200℃において熱分解及び加水分解し難いものがさらに好ましい。このような溶媒であれば、高温雰囲気下でも使用される自動車用途等にも適用ができる。
【0055】
4.液体の分散性
溶媒は、ブラシ1の気孔19の内において、液体粒子として良好に分散させることが好ましい。例えば、液体が有極性である水やアルコール等の親水性の溶液の場合には、溶媒は、親油性(または、疎水性という)、または無極性であることが好ましい。この場合、溶媒は親油性が高いほど分散性が向上し、極性が低いほど安定分散に寄与する。
【0056】
5.吸湿性
溶媒は、吸湿性が低い方が好ましく、吸湿性を有しないことがより好ましい。例えば、液体として水より沸点が高いものを使用する場合には、溶媒に水が溶解していると、ブラシ1の気孔19の内の昇温により、液体がバルーンを形成するより先に水蒸気のバルーンを形成し、溶媒を伴って摺接面に移動する。これにより、所期に設定した温度とは異なる温度で溶媒が消費されるため、ブラシ1への液体の自己給油性が阻害される。また、水分は摺接面において溶媒の加水分解反応や、整流子8への酸化水和物や水酸化物の形成を促進する場合がある。このため、溶媒中に存在する水分の割合は低い方が好ましい。
【0057】
6.残留炭素分及び熱分解性
溶媒は、残留炭素分が低い方が好ましく、残留炭素分を有しないことがより好ましい。溶媒に残留炭素分が含まれていると、溶媒が摺接面に移動した後に残留炭素分がブラシ1及び整流子8に固着し、ブラシ1の摺接面において黒鉛粒子の凝着磨耗を引き起こす虞がある。
また、溶媒は熱分解され難い方が好ましい。溶媒が摺接面において熱分解され、低分子量の固形物を形成すると、同様にブラシ1の摺接面において生成された固形物が黒鉛粒子の凝着磨耗を引き起こし易くなる。
【0058】
上記特性を有する溶媒としては、例えば、合成油を使用することができる。合成油は親油性が高く、無極性の溶媒であるため、液体としてアルコール等を用いる場合には安定に分散させることができる。
【0059】
中でも、ポリアルファオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ポリオールジエステル等のジエステル、ポリオールトリエステル等のトリエステル等の合成油は、上記特性に加え、低温流動性が良い、高温時の油膜保持能力がある、酸化安定性に優れる、整流子表面への吸着性が優れる、等の特性を有するためより好ましい。例えば、ポリアルファオレフィンは、粘度指数を高くすることが容易で、幅広い温度範囲において動粘度の変化が小さいため好ましい。また、ポリアルファオレフィンは、流動点が低く、低温における動粘度の上昇も抑制できると共に、吸湿性を有しないため加水分解反応も起こり難い。さらに、ポリアルファオレフィンは、熱分解温度が200℃以上であり、また残留炭素分を有しない。
【0060】
ポリアルファオレフィンは、粘度指数と流動点に優れたα−オレフィン、例えば、1−デセン、1−ノネン、1−オクテン等を重合した合成油である。ポリアルファオレフィンは、その重合度によって粘度、沸点、熱分解性等の特性が変わるものであるが、例えば、分子量が約535で、重合度が2及び3のうち少なくともいずれかであるポリアルファオレフィンを主成分として有する場合は、以下の特性を示すため、特に好ましい。すなわち、このようなポリアルファオレフィンは、熱分解温度が230℃付近であり、熱分解開始温度も200℃付近であるため、ブラシ1の摺接面において熱分解し難い。沸点は0.1気圧においても200℃を越えており、大気圧では殆ど蒸発しないため、ブラシ1の摺接面において潤滑油として存在することができる。粘度指数は138と大きいため、幅広い温度範囲で潤滑性を保つことができる。40℃における動粘度は31cStと低いため、ブラシ1の摺接面の黒鉛粒子18を磨耗させ難く、気孔19内に低圧含浸する場合にも液体の分散性を損なうことがない。流動点は−57℃であり、−30℃での動粘度の上昇が抑制でき、−30℃の極低温でも潤滑油として用いることができる。なお、さらに溶媒としての粘度を低下させて、ブラシ1の摺接面における黒鉛粒子の凝着磨耗および疲労磨耗を抑える場合には、例えば、重合度が2であるポリアルファオレフィンを主成分として、分子量を低下させたものを用いればよい。
【0061】
また、合成油には様々な添加剤を添加することができる。例えば、合成油を構成するベースオイルに対し、(1)酸化防止剤としてベンゾトリアゾール、(2)防錆剤としてベンゾトリアゾール、(3)消泡剤としてポリアクリケート、(4)極圧剤としてリン酸エステル、(5)磨耗防止剤としてリン酸エステル、(6)油性剤として高級アルコールエステル、(7)粘度指数向上剤として星形ポリマー、(8)流動点降下剤としてポリアルキルアクリレート、(9)抗乳化剤としてポリオキシエチレン系界面活性剤、を添加することができる。これにより、合成油にそれぞれ、(1)ベースオイルの酸化によるスラッジやラッカーなどの異物の発生を抑え、整流子表面への生成された異物の化学吸着や異物の生成時に生じる整流子の腐食を防止する、(2)整流子の表面に化学吸着し被膜を形成することで、整流子の酸化や腐食を防止する、(3)ベースオイルに分散することで、ベースオイルが発泡する際に、泡の界面張力を低下させ、泡の被膜を破壊して潤滑性能を維持する、(4)摺接面の臨界状態において整流子表面に被膜を形成し、黒鉛粒子の凝着磨耗を抑制する、(5)整流子表面に低融点の吸着保護膜を形成し、整流子の磨耗を抑制する、(6)低温時に整流子表面に吸着膜を形成し、滑り摩擦係数を下げ整流子の機械的磨耗を抑制する、(7)高温時に分子構造が開放されてベースオイルと結合し、粘度低下を抑制し、ベースオイルの膜圧を確保し、黒鉛粒子の凝着磨耗を防ぐ、(8)低温時にベースオイル中のワックスが析出し、結晶固化による流動性の低下を抑制する、(9)水分混入時のエマルションを破壊し、ベースオイルと水分を分離する、等の性能を付与することができる。
【0062】
乳濁液の溶媒及び液体のうち少なくともいずれかは、導電性を有することが好ましい。これにより、摺接面における電気抵抗を大気の電気抵抗より小さくすることができる。このため、摺接面における液状体を媒体とすることによる液体の接触面積の増大の効果と相伴って、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面に形成される接触電気抵抗を低下させることができる。そして、これによって金属黒鉛質ブラシに電位が印加された際に金属黒鉛質ブラシに加わる電界強度が低下し、黒鉛粒子18が有するπ電子が励起し難くなるため、火花放電を起こり難くすることができ、金属黒鉛質ブラシの電気的磨耗や電気ノイズの発生を抑制することができる。さらには、金属黒鉛質ブラシと整流子との摺接面に形成される接触抵抗の大きに基づく電気的損失も小さくなり、効率的に整流子側に電流を流すことができる。また、摺接面の電気抵抗の大きさに応じて発生する摺接面におけるジュール熱を大きく低減させることができるため、整流子の摺接面の酸化現象が抑制でき、酸化膜形成による電気抵抗の増大による更なる電気的損失の増大を無くすことができる。さらに、酸化による体積膨張が要因となる整流子表面の破壊を無くすことによって整流子の表面の平坦度が維持され、これにより金属黒鉛質ブラシの摺接面における黒鉛粒子のアブレッシブ磨耗の発生を防止することができる。
【0063】
溶媒に合成油を使用する場合には、液体に導電性を付与する。この場合、液体に電解質を溶解することによるイオン導電性の付与や、電子導電性の液状物質を混合することにより電子導電性を付与すること等ができ、特に制限はない。電解質を溶解させる場合には、電解質としては金属塩、金属石鹸、界面活性剤等、特に限定はされないが、溶解度が高い方がイオン導電率が高くなるため好ましく、例えば、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カルボン酸塩等の陰イオン界面活性剤、アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤等を選択することができる。より具体的には、陰イオン系の界面活性剤としては、オクチル硫酸ナトリウム、デカン酸カリウム、デカン酸ナトリウム、直鎖型ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等、陽イオン系の界面活性剤としては、臭化デシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。このような電解質を溶解させれば、1ミリジーメンス/cm程度、もしくはそれ以上のイオン導電性の溶液を得ることができるため好ましい。
【0064】
イオン導電性の液状物質は、液体または溶媒そのもの、もしくはその一部として用いることができるため好ましく、イオン導電性の液状物質としては、例えば、イオン性液体を用いることができる。イオン性液体は、陽イオンとしては、ピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、脂肪族アミンカチオン、脂環式アミンカチオン等が例示でき、陰イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲン化物イオン、硝酸イオン、テトラフルオロボレート(BF4-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6-)、トリフルオロメタンスルホニル(TFSI)[(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-]、塩化アルミニウム[AlCl4-、Al2Cl7-]等が例示できる。導電性材料としてイオン性液体を用いる場合には、イオン性液体自体が摺接面において潤滑剤としても作用することができるため、ブラシ1と整流子8との摺接面の滑り摩擦係数を低減でき、ブラシ1の機械的磨耗を減らすこともできる。そして、摺接面において長期に亘ってイオン導電性と潤滑性とを保つためには、イオン性液体は、250℃でも熱分解し難く、耐加水分解性を有するものが好ましく、例えば、陰イオンとしてTFSIを有するものを挙げることができる。さらに、イオン性液体は、1ミリジーメンス/cm程度、もしくはそれ以上のイオン導電性を有するものが好ましく、3ミリジーメンス/cm程度のイオン導電性を有するものがより好ましい。TFSIを陰イオンとするイオン性液体の中では、例えば、下記に化学式を示す、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの5種類を挙げることができる。
【0065】
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【0066】
イオン性液体を用いる場合には、イオン性液体自体が液体であるため、合成油に直接分散させることができるが、使用したイオン性液体が所定の温度において気化し難い場合には、所定の温度で気化するアルコール等の液体に溶解させて合成油に分散させてもよい。さらに幅広い温度範囲で、合成油及びイオン性液体を摺接面に滲み出させる場合には、イオン性液体を異なる沸点を有する液体に溶解させたものを用いてもよい。これにより、それぞれの液体の沸点に応じて合成油及びイオン性液体を摺接面に滲み出させることができる。
【0067】
このような電解質あるいはイオン性液体の摺接面におけるイオン導電性は、イオンの移動に基づく。モータ10の駆動時においてブラシ1と整流子8との間に加わる電位によって、カチオンとアニオンが移動する。そして、摺接状態におけるブラシ1と整流子8との摺接面に加わる電位は、摺接面の部位に応じてその大きさは異なり、さらに時間的にも常時変化している。このため、ブラシ1及び整流子8の摺接面のカチオンとアニオンの配列は時間的に変化する。また、摺接が途切れた瞬間やモータが動作しない時点では、配列が解除される。このようにブラシ1と整流子8との摺接状態が変化することにより、摺接面におけるカチオンとアニオンの配列は時間変化し、カチオンとアニオンの移動に基づく導電性が保たれる。また、配列の解除と再配列によっても、イオンの移動に基づく導電性が維持される。
【0068】
金属黒鉛質ブラシ1に用いる乳濁液は、特に限定はされないが、溶媒に合成油を使用する場合には、液体には、モータの作動時のブラシ1と整流子8との摺接による昇温に応じて気化するものであって、合成油の沸点より低い沸点を有し、合成油の中で乳濁化するものを選択することができる。この場合、合成油は無極性の液体であるため、合成油に分散させる液体としては有極性の液体を選択することが好ましく、有極性の液体として、例えば、水、アルコール等を適用することができる。
【0069】
中でもアルコールは、様々な沸点を有する多くの種類があり、ブラシ1の使用環境に応じて選択することにより、希望する温度においてブラシ1の摺接面に合成油を滲み出させることができる。すなわち、例えば、ブラシ1の摺接面の平均温度が150℃付近であれば、沸点が130℃付近にあるアルコールを選択すればよく、モータ10を連続駆動させたときに、摺接面の平均温度が25℃の外気温より50℃上昇する場合は、沸点が60℃付近にあるアルコールを用いればよい。また、摺接面の平均温度が、ある温度幅を有し、ある頻度をもって温度領域を形成する場合には、温度幅に応じたアルコールを複数選択し、さらに温度頻度に応じた割合でアルコールを混合すればよい。表1に、沸点が60℃から140℃までの温度範囲にあるアルコールを示す。これらのアルコールは、摺接面の温度と温度頻度に応じて使い分けることができる。例えば、摺接面の温度が90℃から130℃の範囲になる場合には、エタノール、1−プロパノール、1−ブタノールの3種類を選択すれば、その温度範囲においては3種類のうち少なくともいずれかのアルコールが気化するため、摺接面に合成油を滲み出させることができる。なお、通常、モータの作動時におけるブラシ1と整流子8との摺接面の温度は160℃程度まで達するため、沸点が上記範囲にあるアルコールであれば、モータの作動時の摺動による昇温に応じて確実に気化させることができる。
【0070】
【表1】


【0071】
液体は、分散改質剤を有することが好ましい。すなわち、上記のように合成油とアルコールとから乳濁液を作製する場合には、疎水性の合成油に分散する親水性・有極性である液体粒子の界面を疎水性に改質することにより、乳濁液の分散安定性を向上させることができる。具体的には、例えば、アルコールの重量に対し、疎水性の分散改質を2wt%前後の割合で混合すると、合成油にアルコールの微粒子を安定して分散させることができる。
【0072】
また、分散改質剤は、耐熱分解性を有するものが好ましく、具体的には、モータ10の作動時のブラシ1の摺接面の温度において、分散改質剤の熱分解率が5%以下であるものが好ましい。これにより、分散改質剤は液体と共に摺接面に移動した後においても熱分解されないため、分散改質剤の性質を保持することができると共に、分散改質剤の熱分解物によって摺接面における黒鉛粒子の凝着磨耗を引き起こす虞がない。
【0073】
分散改質剤は、界面活性剤、カップリング剤等の従来公知のものを適用することができる。界面活性剤としては、例えば、脂肪酸エステルや脂肪酸エステルの誘導体、リン酸エステルの非イオン型アニオン界面活性剤等を用いることができる。これらは、親水基と疎水基とを有するため、親水基が液体粒子の表面と水素結合すると共に、疎水基が分散溶媒の分子鎖と相互作用する。そして、これにより液体粒子の分散安定性を向上させ、液体の粒子が気化し、この気体が熱膨張する際には、分散溶媒と共に熱膨張を抑制するように働く。このようなリン酸エステルとしては、例えば、イソトリデシルアルコールにエチレンオキサイドを付加したポリオキシエチレンイソトリデシルアルコールを無水リン酸と反応させて生成するリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとからなるエステルの混合物を適用することができる。また、耐熱分解性の観点からは、例えば、親水基としてイソプロポキシ基を備え、疎水基として下記式(1)を備えるカルボン酸エステルであれば、180℃における熱分解率は2%であり、200℃における熱分解率は4%である。また、同様の親水基を備え、疎水基として下記式(2)を備えるリン酸エステルであれば、180℃における熱分解率は2%であり、200℃における熱分解率は5%である。このような界面活性剤であれば、耐熱分解性に優れるため好ましく適用することができる。すなわち、このような高級脂肪酸エステル等は、200℃以上の温度においても熱分解性が2〜5wt%以下であるのに対し、自動車用の各種モータにおけるブラシの摺接面の平均温度の最高温度は130℃〜170℃の間にあり、自動車等の車両用途に使用しても界面活性剤の組成変化はほとんどない。
【0074】
【化6】


【化7】


【0075】
分散改質剤として、カップリング剤を用いる場合には、例えばチタン系カップリング剤を好ましく適用することができる。チタン系カップリング剤は、加水分解性を有する親水性の官能基と疎水性の官能基とを有するため、親水基が液体粒子の水酸基と加水分解反応し、液体粒子に疎水基が形成される。これにより、疎水性の分散溶媒中に乳濁液の液体粒子として安定に分散させることができる。
【0076】
チタン系カップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、下記式に示すものが好ましく適用できる。なお、下記式において、例えば、アルキル鎖の炭素数は、特に限定されるものではない。
【0077】
【化8】


【化9】


【化10】


【0078】
また、カップリング剤として、シラン系カップリング剤を用いることもできる。シラン系カップリング剤は、特に限定されないが、親油性の分散溶媒との親和性が高い長鎖アルキルを持つものが好ましく、下記式に示すデシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が例示される。これらのシラン系カップリング剤は、その沸点がそれぞれ、132℃/10mmHg、202℃/10mmHg、236℃/10mmHgと高く、摺接面において蒸発することはない。もちろん、これらのシラン系カップリング剤が有するアルキル鎖の炭素数やアルコキシ基の炭素数は任意に変更可能である。
【0079】
【化11】


【化12】


【化13】


【0080】
このように、分散改質剤は、ブラシ1の摺接面においても化学的に変質しないため、ブラシ1の摺接面に移動した後においては、液体粒子を取り囲んで潤滑剤として作用し、液体粒子が摺接面で応力を受けて破裂した場合には、分散改質剤が単独でも潤滑剤として作用する。
【0081】
また、合成油を乳濁液の液体として用いることもできる。この場合には、溶媒として、合成油の沸点より高い沸点を有し、合成油を乳濁化でき、且つブラシ1の摺接面の最高温度、例えば150℃でも熱分解されないものを選択することが好ましい。このような観点から、無極性の合成油に対しては、例えば、耐熱分解性を有し、有極性の溶媒である親水性の脂肪酸エステルを用いることができる。このような乳濁液は、合成油中にイオン性液体や、電解質を溶解したアルコール溶液等を混合することによりイオン導電性を付与することができる。この場合には、イオン導電性の液状物質は合成油中に乳濁化する。このように液体を乳濁液にすると、液体に複数の性質を持たせることができる。
【0082】
このような液体が乳濁液である乳濁液を作製する場合には、上記の方法にて予め合成油中にアルコール溶液を分散させた乳濁液と、親水性の脂肪酸エステルと、合成油の乳濁液の重量対して2wt%程度の親水性の分散改質剤とを加え、遠心分離機を用いて攪拌することにより、合成油の乳濁液の微粒子を脂肪酸エステル中に安定して分散させることができる。合成油の乳濁液の微粒子は、アルコールの大きさの5倍から10倍程度の大きさになるように、回転速度と回転時間を決めて溶液を攪拌すればよい。
【0083】
このようにして得られる乳濁液の気孔19の開口部における挙動は、気孔19の開口部は乳濁液が最も高い温度に昇温された部位であるため、乳濁液中のアルコールは、最も昇圧されたバルーンになって摺接面に吐き出る。バルーンが気孔19の開口部から摺接面に移動する際に、バルーンは溶媒である合成油の内部に存在するので、バルーンに伴って合成油も摺接面に滲み出る。摺接面に移動するバルーンの大きさが、気孔19の開口部の大きさに比べて相対的に小さい場合は、より多くの合成油を伴ってバルーンが摺接面に移動する。
【0084】
一方、摺接面に移動するバルーンの大きさが、気孔19の開口部の大きさに比べて相対的に大きい場合は、バルーンが摺接面に移動する際に伴う合成油は少なくなる。ブラシ1における焼結体22の気孔19の開口部の大きさは、1μm〜30μmまでの幅を持つ。したがって、バルーンの大きさが、30μm以上であれば、合成油が滲み出る量が少なくなる。また、バルーンの大きさを、1μm〜30μmの間にある所定の大きさに制御すれば、バルーンの大きさによって、摺接面に滲み出る合成油の量も制御し易くなる。さらに、アルコールの種類を変えることでバルーンが摺接面に吐き出される温度特性が変えることができる。このような観点から、乳濁液中のアルコール微粒子の大きさとアルコールの種類とを組み合わせることで、摺接面に滲み出る合成油の量を、摺接面の温度範囲と温度頻度に応じて、自由に設計できる。したがって、モータ10の使用態様によって決まるブラシ1の摺接面の温度範囲と温度頻度とに応じて、乳濁液中のアルコール微粒子の大きさと、アルコール種類とを決めればよく、例えば、乳濁液中のアルコールの微粒子は30μm以下になるように、遠心分離機の回転速度と回転時間を予め決めて、アルコールを乳濁化すればよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
イオン性液体として、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドを用いた。このイオン性液体は、容積比1対1で、クロロホルム、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、1−プロパノール、1−ブタノール、イソペンチルアルコールの各種の溶媒に相溶する。また、イオン導電性は10-3ジーメンス/cmを持ち、イオン性液体の中でも最も高いイオン導電性をもつ。
【0087】
本実施例では、イオン性液体の体積1に対し、メタノールの体積比を0.2、1−ブタノールの体積比を0.4の割合で混合し、イオン性液体のアルコール溶解溶液を作製した。そして、このイオン性液体のアルコール溶解溶液を分散させるための合成油として、250℃での熱分解性と加水分解性とが2〜3%であり、動粘度が100℃で4cSt、40℃で17cSt、−40℃で2500cStであり、流動点が−70℃、粘度指数が122であるポリアルファオレフィンを使用した。このポリアルファオレフィンを体積1に対して、前記のイオン性液体のアルコール溶解溶液の体積比を0.4の割合で混合し、混合液を遠心分離機にかけて攪拌し、ポリアルファオレフィンにイオン性液体のアルコール溶解溶液が1μm以下で乳濁化させた。この乳濁液を容器に移し、この容器内に大きさが4.5mm×9.0mmのブラシ1を浸漬し、真空ポンプで0.1気圧まで減圧して30分間維持し、乳濁液が含浸剤21として気孔19の内に含浸されたブラシ1を得た。
【0088】
このブラシ1をモータ10に装着し、ブラシ1の整流子8に対する荷重を78.5kPa、モータ10の回転速度を3.6m/sとして、ブラシ1と整流子8との間に10Aの電流を流し、モータ10を100℃の雰囲気温度で連続回転させた。その結果、ブラシ1は3000時間連続動作を行っても、実用性をもつ性能を有することが分かった。
【0089】
(実施例2,3)
含浸剤21として、ポリアルファオレフィン中にメタノールを乳濁化させたものを脂肪酸エステルに分散させたもの(実施例2)、及び実施例2のメタノールに対し、さらに25℃でのデカン酸カリウムを飽和溶解度まで溶解させたものを用い、実施例1と同様の試験を行った。
その結果、表2に示す通り、実施例2では、連続1000時間動作までは、ブラシ1の磨耗速度に大きな違いが現れなかったが、連続2000時間に至る途中でブラシ1の磨耗が進行し、ブラシホルダーが破壊された。しかしながら、実施例2は、この負荷条件では最低でも1000時間の連続動作が可能であり、多くの車載モータ10への応用が可能になる。
実施例3では、摺接面の導電性の付与による効果が大きく、この負荷条件において、ブラシ1は3000時間連続動作でも、実用性をもつ性能を有した。
また、いずれの実施例においても、含浸剤21を有さない現行品のブラシより磨耗量は低減することが分かった。
【0090】
【表2】


【0091】
(実施例4〜9)
以下の実施例では、電解質として直鎖型ドデシルベンゼンスルホン酸リチウムを用い、これをメタノールと1−ブタノールとにそれぞれ溶解させたものを液体として使用し、表3及び化14〜16に示すポリアルキレングリコール、ジエステル、ポリアルファオレフィンのそれぞれを溶媒として使用し、表4に示す含浸剤21を作製した。なお、液体には、分散改質剤として、チタン系カップリング剤である「プレンアクトKR TTS(商品名)」(味の素ファインテクノ社製)を混合した。
【0092】
【表3】


【化14】


【化15】


【化16】


【表4】


【0093】
これらの含浸剤21を、それぞれ大きさが4.5mm×9.0mmのブラシ1の表面及び内部の気孔19内に低圧含浸した後、ブラシ1を直径23mmの銅製スリップリングに対向させて配置した。スリップリングを周速度3m/sの速度で単相誘導モータによって回転させ、スリップリングの表面温度を室温と120℃の2種類の温度条件で、ブラシ1をバネ圧力400g/cmでスリップリングの表面に押し当てることにより、ブラシが一
定の荷重でスリップリングに摺接される状態を作り、そのまま連続500時間、スリップリングを回転させた。なお、比較例1として、同一の大きさの金属黒鉛質ブラシ1に含浸剤21を含浸しない場合についても同様の試験を行った。
【0094】
その結果、表5に示すように、実施例4,6,8を比較した場合、ブラシ1の磨耗量は、実施例4,6,8の順で少なくなっており、分散溶媒としてポリアルファオレフィンが最も適していることが分かった。なお、比較例1と比較した場合では、実施例1の場合でも含浸剤21を含浸しない場合より磨耗量は半減しており、含浸剤21の効果が認められた。実施例5,7,9を比較した場合でも、同様にポリアルファオレフィンを用いた場合がブラシ1の磨耗量は最も少なくなった。なお、120℃においては、実施例2でもブラシ1の磨耗量は0.5mmであり、比較例1の5分の1の磨耗量に低減しており、常温の場合に比べてさらに大きな含浸剤21の効果をもたらしていることが分かった。
また、液体としてメタノール溶液を用いた場合には、常温で使用した方がブラシ1の磨耗量は少なくなっており、1−ブタノール溶液を用いた場合には、120℃で使用した方がブラシ1の磨耗量は少なくなっていた。これは、液体の沸点によって、気孔19の内でバルーンを形成する温度、及びバルーンが摺接面に移動する温度が異なるためであり、使用する液体を選択することにより、任意の温度で摺接面に液状体を存在させられることが確認できた。
【0095】
【表5】


【0096】
(実施例10)
実施例9で使用したブラシ1を使用して、実施例1と同様の試験を行い、連続100時間及び500時間回転させた場合のそれぞれの磨耗量を測定した。なお、比較例2として、含浸剤21を含浸しないブラシ1を用いた場合についても同様の試験を行った。
【0097】
その結果、表6に示すように、実際にモータ10に装着した場合には、比較例2との磨耗量の差はさらに大きくなった。これは、実施例10では火花放電が起き難くなったため電気的磨耗が減少し、これによってアブッレシブ磨耗が減少したためであると考えられる。
【0098】
【表6】


【0099】
以上の通り、本発明の金属黒鉛質ブラシ1の気孔19の全体に、合成油と導電性の液体とを有する含浸剤21を含浸したことにより、液体の潤滑作用に加えて、摺接時の火花放電の抑制、及び液体の潤滑作用の相乗効果が得られ、金属黒鉛質ブラシ1の磨耗量が低減できる。また、ブラシ1と整流子8との接触抵抗を低下させることができるため、モータ10の出力が増大する効果も得られる。
【0100】
本発明の金属黒鉛質ブラシを備えたモータは、車両のエンジンを冷却するウォータポンプを駆動するモータ、冷却ファンを廻すモータ、エンジンのオイルポンプを駆動するモータ等の車両用途や、その他さまざまな用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の一実施形態における金属黒鉛質ブラシを用いたモータの構成を示す断面図
【図2】金属黒鉛質ブラシの組成を示す模式図
【図3】金属黒鉛質ブラシの製造工程を示す工程図
【符号の説明】
【0102】
1 金属黒鉛質ブラシ(ブラシ)
2 ロータ
4 シャフト
7,13 ハウジング
8 整流子
9 コア
10 モータ
17 コイル
19 気孔
21 含浸剤
22 焼結体




 

 


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