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発明の名称 リチウムイオン二次電池用負極、その製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−5149(P2007−5149A)
公開日 平成19年1月11日(2007.1.11)
出願番号 特願2005−184300(P2005−184300)
出願日 平成17年6月24日(2005.6.24)
代理人 【識別番号】100097445
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 文雄
発明者 古結 康隆 / 本田 和義 / 小川 裕子
要約 課題
高容量でハイレート充放電特性とサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極を提供することを目的とする。

解決手段
集電体と前記集電体に担持された活物質層とからなり、前記活物質層の元素は、少なくともシリコンと窒素とを含み、前記活物質層の厚さ方向において、前記活物質層の前記集電体に接している側の窒素比率が、前記活物質層の前記集電体と接していない側の窒素比率より大きく、かつ前記活物質層が結着剤を含まないリチウムイオン二次電池用負極を用いる。
特許請求の範囲
【請求項1】
集電体と前記集電体に担持された活物質層からなるリチウムイオン二次電池用負極であって、前記活物質層は、少なくともシリコンと窒素とを含み、前記活物質層の厚さ方向において、前記活物質層の前記集電体に接している側の窒素比率が、前記活物質層の前記集電体と接していない側の窒素比率より大きく、かつ前記活物質層が結着剤を含まないリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記活物質層の前記集電体と接していない側から、前記活物質層の前記集電体に接している側に向かって、窒素比率が連続的に増加している請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記活物質層に含まれる活物質がSiNxで表され、前記集電体に接していない側の端から全体の厚みの1/10までの範囲における平均の窒素比率xaが、0≦xa≦0.2の範囲にある請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記活物質層に含まれる活物質がSiNxで表され、前記集電体に接している側の端から全体の厚みの1/10までの範囲における平均の窒素比率xbが0.2≦xb≦1.0の範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記活物質層の片面あたりの厚みTが、0.5μm≦T≦30μmである請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
集電体を、所定の範囲を連続的に移動させる間に、シリコンの単体を用いるスパッタリング法または蒸着法により、前記シリコンの単体を構成するシリコン原子を、窒素含有雰囲気を通過させて、前記集電体上に所定の厚みのシリコンと窒素とからなる活物質層を形成する工程を包含し、
前記所定の範囲内で、前記窒素含有雰囲気に含まれる窒素の濃度分布を変化させることにより、前記活物質層の厚さ方向において、前記活物質層に含まれる窒素の比率を変化させるリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項7】
前記所定の範囲において、前記集電体が移動する方向に沿って、前記窒素含有雰囲気における窒素の濃度が連続的に減少している請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項8】
前記窒素含有雰囲気がアンモニア、プラズマ化された窒素もしくはラジカル化した窒素からなる群より選ばれる1種以上を含む請求項6または7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項9】
集電体を、所定の範囲を連続的に移動させる間に、シリコンの単体およびシリコン窒化物の両方をターゲットとして用いるスパッタ法または蒸着法により、前記シリコンの単体および/またはシリコン窒化物を構成する原子を、前記集電体上に堆積させて、所定の厚みの、シリコンと窒素とからなる活物質層を形成する工程を包含し、
前記集電体が移動する方向に沿って、前記シリコン窒化物ターゲット、次いで前記シリコンの単体ターゲットの順に並んでおり、
前記所定の範囲において、前記両方のターゲットから前記集電体に向かって移動する原子群に含まれる窒素の比率が、前記集電体が移動する方向に減少しているリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の負極を用いたリチウムイオン二次電池。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関し、具体的には、その負極および負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の駆動用電源として、リチウムイオン二次電池が広く用いられている。リチウムイオン二次電池用負極として黒鉛材料を用いた場合、リチウムを放出するときの平均電位は約0.2Vであり、このときの電位は比較的平坦に推移する。この電位は難黒鉛化性炭素を用いた場合と比べて卑であるため、高電圧と電圧平坦性が望まれる機器の電源としては、黒鉛材料からなる負極を備えるリチウムイオン二次電池が好適に用いられている。しかしながら、黒鉛材料は単位質量当りの容量が372mAh/gと小さく、かつこれ以上の容量増加は望めない。
【0003】
一方、高容量を示す負極材料としては、シリコン、錫およびそれらの酸化物などのリチウムと金属間化合物を形成する材料が有望である。ただし、これらの材料は、リチウムを吸蔵するときに結晶構造が変化するため、その体積が膨張する。例えば、Siからなる活物質を備える負極を用いる場合に、その負極活物質にリチウムを最大量吸蔵させた状態では、Li4.4Siとなる。SiからLi4.4Siに変化したときの体積増加率は4.12倍である。一方、黒鉛の場合、リチウムを最大限吸蔵させたとしても、その体積増加率は1.2倍である。
【0004】
上記のように、活物質の体積変化が大きいと、活物質粒子の割れ、活物質と集電体との接触不良等が生じるため、充放電サイクル寿命が短くなるという問題が生じる。特に活物質粒子の割れが生じる場合、活物質粒子の表面積が増加するために、活物質粒子と非水電解質との反応が増長され、活物質表面に被膜が形成されるなどして、その界面抵抗を増大させることから、充放電サイクル寿命を短くする大きな原因となる。
【0005】
これに対して、膨張ストレスを緩和する空間の確保と集電性の確保のために、例えば、表面に凹凸を有する集電体上に非晶質シリコンの薄膜を形成する方法が検討されている(特許文献1参照)。特許文献1では、薄膜と銅からなる集電体との密着強度を強化するために、薄膜形成後、熱処理することでシリコン−銅混合層を形成する方法が記載されている。
【0006】
また、部分窒化酸化シリコンと炭素材料の混合物を負極活物質に用いることが検討されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−83594号公報
【特許文献2】特開2002−356314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の負極では、本発明者らが追試したところ、シリコン中のリチウムイオン伝導度が低く、高い電流値で充放電した場合(高負荷率充放電もしくはハイレート充放電の場合)、分極が増大し、放電容量が減少するという問題が生じる。特にシリコン単体の薄膜では、膜厚方向に大きなリチウムの濃度勾配が生成され、容量が低下しやすい。さらに、シリコン単体では膨張率が極めて大きいため、極板の変形も大きく、正極と負極を対向させた電極体が挫屈し、特性の劣化や安全性上の問題が生じる。
【0008】
これに対し、シリコンと集電体界面の膨張ストレスを緩和するために、シリコンを柱状構造に形成する工程や、銅がシリコン中に拡散するように熱処理を施す工程が必要であり、多大なコストを要する。
【0009】
特許文献2の負極では、活物質層が部分窒化酸化シリコンの単一比率の粒子からなるため、電導性が低くなる。この場合、活物質層に炭素などの導電剤を添加することが必要となるため、容量密度が低下する。これらの理由から高容量のシリコンの特性が活かせず、期待する容量が得られない。
【0010】
さらに、特許文献2の実施例のように導電剤として黒鉛を用いる場合には、充電時に黒鉛表面で分解するために電解液にプロピレンカーボネートを使用することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来の課題を解決するために、本発明は、集電体と前記集電体に担持された活物質層からなるリチウムイオン二次電池用負極であって、前記活物質層は、少なくともシリコンと窒素とを含み、前記活物質層の厚さ方向において、前記活物質層の前記集電体に接している側の窒素比率が、前記活物質層の前記集電体と接していない側の窒素比率より大きく、かつ前記活物質層が結着剤を含まないリチウムイオン二次電池用負極を用いるものである。本発明の負極を用いることによってハイレート特性とサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池とすることができる。
【0012】
また、本発明は、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法に関する。この製造方法は、集電体を、所定の範囲を連続的に移動させる間に、シリコンの単体を用いるスパッタリング法または蒸着法により、シリコンの単体を構成するシリコン原子を、窒素含有雰囲気を通過させて、前記集電体上に所定の厚みのシリコンと窒素とからなる活物質層を形成する工程を包含し、前記所定の範囲内で、窒素含有雰囲気に含まれる窒素の濃度分布を変化させることにより、活物質層の厚さ方向において、活物質層に含まれる窒素の比率を変化させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、負極のリチウムイオン伝導性を向上させることにより、ハイレート充放電特性が優れ、かつ活物質の膨張収縮により活物質層と集電体との界面に生じるストレスを抑制して、サイクル特性の優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、集電体と前記集電体に担持された活物質層とからなり、前記活物質層は、少なくともシリコンと窒素とを含み、前記活物質層の厚さ方向において、前記活物質層の前記集電体に接している側の窒素比率が、前記活物質層の前記集電体と接していない側の窒素比率より大きく、かつ前記活物質層が結着剤を含まないリチウムイオン二次電池用負極を用いることによって、電池のハイレート充放電特性が向上すること、および集電体付近の活物質の膨張率が小さく剛性があることによるストレス緩和によって、電池のサイクル特性が向上することを見出したものである。
【0015】
図1に、本発明の一実施形態にかかる負極の縦断面図を概略的に示す。
【0016】
図1の負極は、集電体2と、集電体2の上に担持された活物質層1とからなる。この活物質層は、結着剤を含んでいない。
【0017】
負極活物質は窒素とシリコンとからなり、例えば、シリコンとシリコン窒化物の混合物、シリコン窒化物単体等が挙げられる。例えば、シリコンとシリコン窒化物の混合物の場合、シリコンとシリコン窒化物それぞれが活物質として機能する。また、負極活物質がシリコン窒化物単体の場合には、シリコン窒化物が活物質として機能する。
【0018】
集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼等が挙げられる。
【0019】
図1の負極の活物質層においては、上記のように、活物質層1の集電体2と接していない方の表面1aから、活物質層1の集電体2と接する側の面1bに向かう深さをDとすると、Dが大きくなるほど(つまり、表面1aから面1bに向かって、表面1aから離れるほど)、シリコンに対する窒素の比率が増加している。例えば、シリコンと窒素からなる活物質層に含まれる活物質をSiNxで表した場合、シリコンに対する窒素のモル比x(以下、窒素比率という)が、活物質層の集電体に接していない側と比較して、集電体に接している側において大きくなっている。
【0020】
活物物質層のシリコンに対する窒素比率が高い領域では、リチウムイオン伝導度が大きくなるため、面1bに向かって、表面1aから離れるほど、リチウムイオン伝導度が増加する。本発明では、上記のように、活物質層の厚さ方向で、窒素比率の分布が異なるため、表面1aからリチウムイオンが活物質層内に拡散する際に、活物質層全域で、リチウム濃度をほぼ一定にすることが可能となる。これにより、活物質層の厚さ方向における、リチウムの濃度勾配を低減することが可能となるため、ハイレート充放電時においても、活物質層全域で、充放電反応をより均一に進行させることが可能となる。従って、良好なハイレート特性が得られる。
【0021】
リチウムイオン伝導度が増加する理由については、現在のところ、その詳細は不明であるが、次のように推察される。すなわち、リチウムを吸蔵したシリコン窒化物は、一部の窒素がリチウムと反応して窒化リチウムが生成されて、リチウムイオン伝導度が向上する。また窒化リチウムは電導性も高いため、電極の抵抗が下がる。
【0022】
本発明者らの検討により、活物質層に含まれる活物質をSiNxで表す場合、シリコンに対する窒素のモル比xと諸特性とは、下記の関係にあることがわかった。すなわち、モル比xが小さくなると、その容量は大きくなるが、リチウムイオン伝導度が低くなり、リチウムとの反応時の活物質の膨張率が大きくなる。逆に、モル比xが大きくなると、リチウムイオン伝導度は高くなり、リチウムとの反応時の活物質の膨張率は小さくなるが、その容量が小さくなる。
【0023】
つまり、上記のように、シリコン窒化物は、窒素比率が高いほど、膨張率が小さくなる。このため、例えば、充電時において、シリコン窒化物は、電導性とイオン伝導性が向上するため、シリコン窒化物とリチウムイオンとの反応速度が速くなると考えられる。
【0024】
また、活物物質層の厚さ方向において、表面1aから面1bに向かって、窒素比率が高くなるため、面1b付近の存在する活物質の充電時の膨張率が低下する。充電時の膨張率が低下すると、集電体と活物質との界面に生じるストレスが緩和され、活物質が集電体から剥離することが低減されるため、集電性が向上する。これにより、電池のサイクル特性を向上することが可能となる。
【0025】
本発明の負極において、活物質層の集電体に接していない側から、活物質層の集電体に接している側に向かって、窒素比率が連続的に増加することが好ましい。これにより、上記のような効果をさらに向上させることが可能となる。
【0026】
また、前記活物質層に含まれる活物質がSiNxで表され、前記集電体に接していない側の端から全体の厚みの1/10までの範囲における平均の窒素比率xaが、0≦xa≦0.2の範囲にあることが好ましい。
【0027】
窒素比率xaは低くても、ハイレート充放電特性に影響を及ぼさない。これは、リチウムの拡散距離が短いために、リチウムの十分な供給速度を維持することができるからである。一方、窒素比率xaが0.2より大きい場合には、電池容量が低下する点で不十分である。
【0028】
また、前記活物質層に含まれる活物質がSiNxで表され、前記集電体に接している側の端から全体の厚みの1/10までの範囲における平均の窒素比率xbが0.2≦xb≦1.0の範囲にあることが好ましい。
【0029】
窒素比率xbが0.2より小さい場合、リチウムイオンの伝導度が低下するため、ハイレート充放電容量が低下する。一方、窒素比率xbが高くなるにつれて活物質の充放電容量が低下するため、xbが1.0以上では電池容量が低下する。
【0030】
さらに、xa、xbが0≦xa≦0.2、0.2≦xb≦1.0の範囲にある場合、xaとxbとの比(xb/xa)は、2〜10であることが好ましい。これは、窒素比率と諸特性に関する前記理由により、前記範囲にあればさらに高い電池容量とハイレート充放電容量が得られるからである。2より小さい場合、活物質層の表面と集電体に接している側の端の窒素比率差が小さくなり、ハイレート特性とサイクル特性を両立することができないため好ましくない。10より大きい場合、前記活物質層内の膨張率格差が多大となり膨張ストレスでひずみが生じるため好ましくない。
【0031】
上記活物質層には少なくともシリコンと窒素とが含まれるものであるが、さらに酸素が含まれていてもよい。酸素が含まれていると、窒素が含まれる場合と同様にリチウムイオン伝導度が向上するため、ハイレート充放電容量が向上する。
【0032】
上記活物質層の片面あたりの厚みTは、0.5μm≦T≦30μmであることが望ましい。活物質層の厚みが0.5μmより小さい場合、十分な電池容量を得ることができない。活物質層の厚みが30μmより大きい場合は、活物質層の厚さ方向の電気抵抗が高くなるため、ハイレート充放電容量が低下する。
【0033】
また、上記活物質層に含まれるシリコンやシリコン窒化物は、非晶質であり、CuのKα線を光源とするX線回折測定において、10°〜40°の位置に半値幅0.5°以上のブロードなピークを持つことが望ましい。結晶質のシリコンはイオン伝導度が低く、ハイレート充放電容量が小さい。さらに、結晶質のシリコンは、膨張により割れやすいため、電池のサイクル特性が低下する。
【0034】
また、集電体の表面は、粗化されていてもよい。集電体の表面を粗化することにより、活物質層と集電体との密着強度を向上させることができるからである。
【0035】
以上のように、上記のような窒素比率の分布を有する活物質層は、窒素比率の分布が一様である活物質層と比較して、高い電池容量とハイレート充放電特性を両立させることができる。
【0036】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極には、黒鉛を用いる必要がないため、電解液の溶媒にプロピレンカーボネートを用いることができる。プロピレンカーボネートを用いることにより、電池の低温環境下における放電容量を向上させることができる。
【0037】
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極の作製方法について説明する。
【0038】
本発明は、集電体を、所定の範囲を連続的に移動させる間に、シリコンの単体を用いるスパッタリング法または蒸着法により、前記シリコンの単体を構成するシリコン原子を、窒素含有雰囲気を通過させて、前記集電体上に所定の厚みのシリコンと窒素とからなる活物質層を形成する工程を包含し、
前記所定の範囲内で、前記窒素含有雰囲気に含まれる窒素の濃度分布を変化させることにより、前記活物質層の厚さ方向において、前記活物質層に含まれる窒素の比率を変化させるリチウムイオン二次電池用負極の製造方法を見出したものである。 例えば、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、図2または図3に示されるような、蒸着装置またはスパッタ装置を用いて作製することができる。
【0039】
図2の蒸着装置は、真空チャンバー(図示せず)内に配置された、集電体の巻出しロール12、キャン13、巻き取りロール14、ならびにシリコンターゲット15aおよび15bを備えている。図2の蒸着装置において、長尺の集電体11が、巻出しロール12から、ローラー18、キャン13、ならびにローラー19を通って、巻き取りロール14に向かって移動する。また、ターゲットを、電子ビーム(EB)加熱手段(図示せず)によって、加熱している。
【0040】
集電体11と、シリコンターゲットとの間には、窒素含有雰囲気が存在しており、集電体11を、キャン13に沿って回転移動させながらシリコンターゲットを加熱等して、シリコン原子を、その窒素含有雰囲気化で通過・堆積させていく。これにより、シリコンと窒素とからなる活物質層が、集電体11がキャン13を回転移動する間に集電体上に徐々に形成されていく。
【0041】
図2の装置では、窒素含有雰囲気として、たとえば、アンモニアガスが用いられ、ノズル16から矢印の方向に放出される。ノズル16の位置は、図2に示されるように、アンモニアガスが、集電体11が移動する方向に沿って吹き出されるように、集電体上に活物質層が形成される最初の位置(成膜開始位置)の近傍にあることが好ましい。
【0042】
さらに、このとき、集電体11の移動方向に向かって、アンモニア濃度が低下するように、ノズル16からのアンモニアの流量及び吹き出し角度を調節する。
【0043】
窒素含有雰囲気を用いる場合、窒素含有雰囲気に含まれる窒素の量やその流量を調節することにより、集電体が移動する方向に、窒素濃度を減少させることが可能となる。また、窒素含有雰囲気は、窒素を含むものであればよく、アンモニア、プラズマ化された窒素もしくはラジカル化した窒素からなる群より選ばれる1種以上を含むのが好ましい。上記のように、アンモニアガスそのものであってもよい。
【0044】
つまり、集電体11が、キャン13を通過し始める位置、つまり成膜開始位置を通過するときに、窒素とシリコンからなる活物質層が堆積され始める。このとき、成膜開始位置上においては窒素濃度が高いため、堆積された層において、シリコンに対する窒素比率が高くなる。
【0045】
成膜初期位置から離れ、キャン13を通過し終える位置(成膜終了位置)まで来ると、活物質層の厚みは厚くなるが、成膜開始位置と成膜終了位置との間では窒素濃度が減少しているため、シリコンに対する窒素比率が、集電体から離れるとともに減少することになる。
【0046】
このようにして、活物質層の厚さ方向において、活物質層の集電体に接している側の窒素比率を、活物質層に集電体に接していない側の窒素比率よりも高くすることが可能となる。上記製造方法において、成膜開始位置から成膜終了位置に向かって、すなわち集電体が移動する方向に向かって窒素濃度が連続的に減少していることが好ましい。そうすることにより、活物質層における窒素比率を連続的に変化させることが可能となる。
【0047】
ここで、窒素含有雰囲気として、アンモニアガスを用いる場合、アンモニアガスの流量は、シリコン原子の堆積速度、真空チャンバーの容積、真空チャンバーを排気するために用いるポンプの排気能力、ターゲットを蒸発させるスピード等に基づいて決定される。
【0048】
また、蒸着装置が電子ビーム加熱手段を備える場合には、真空チャンバー内のアンモニア圧力が高いと、その電子ビーム加熱手段が異常放電する場合があるので、真空チャンバー内の圧力が5×10-4Torr以下となるように、アンモニアガスの流量を調節することが好ましい。
【0049】
さらに、アンモニアの代わりに窒素ガスを用いて、図2に示されるように、ノズル16の近傍に、窒素をプラズマ化するための手段17を配置してもよい。これにより、窒素をプラズマ化し、シリコンと窒素の反応を促進することができ、安価な窒素ガスを用いることが可能である。また窒素を用いる場合にはアンモニアに比べてガスの腐食性が低いので、設備構成材料の腐食に対する配慮をあまり行わなくて良い。
【0050】
窒素をプラズマ化するための手段17として、例えば高周波を加える方法がある。真空槽内の部材を電極としてこれに高周波を印加することによって窒素プラズマが発生し、励起された窒素ガスはイオンやラジカルとなることでシリコンとの反応性が高まる。印加する高周波は13.56MHzが比較的簡便でプラズマ化に有効であるが、特にこの周波数に限定されるものではなく、100kHzや2.45GHzなどのマイクロ波の印加も有効に用いることが出来る。投入電力を効率よくプラズマエネルギーとするためにスパッタ装置で用いるような整合器を用いることが有効である。
【0051】
次に窒素をプラズマ化するための他の方法としてイオン照射がある。その際、イオン源として市販のイオン銃を用いることが出来る。窒素を含むガスはイオン銃の中に導入することも可能であるが、成膜空間にガス導入することによってもイオン化は可能である。なお、窒素を含むガスが腐食性の場合にはイオン銃の内部にガス導入すると特に熱陰極型の場合にはフィラメント寿命が著しく短くなるので成膜空間へのガス導入の方が好ましい。
【0052】
さらにラジカル源を用いて窒素ガスのラジカル化を行うことも出来る。イオン源が荷電粒子の生成を行うのに対し、ラジカル源では非荷電で化学的活性の極めて高いラジカルを生成することが出来、これによってもシリコンと窒素の反応性を高めることが出来る。ラジカル源として市販のラジカル銃などを用いることが出来る。13.56MHzでの励起や2.45GHzでの励起を利用することが出来る。
【0053】
プラズマ源としてプラズマ銃を用いることも可能である。プラズマ銃ではタングステンフィラメントからの熱電子放出を利用した直流放電により、プラズマ銃内部でアルゴンプラズマが生成され、生成されたプラズマ中の電子が引き出し電極が作る電界により加速されて成膜空間に照射され、シリコン原子や窒素を含むガスの励起やイオン化が出来る。これによれば大面積での反応が容易である。
【0054】
電子ビームを照射することも有効である。シリコン原子や窒素を含むガスが存在する空間に電子ビームを照射することにより、イオン化がなされる。特にこれらの粒子が高濃度となると衝突確率が増加し、プラズマ密度が急激に高まる。電子ビームの加速電圧は例え
ば−2kV〜−40kVであり、望ましくは−8kV〜−30kVである。加速電圧の絶対値が小さすぎると、プラズマ化の効果が小さくなってしまう。加速電圧の絶対値が大きくなりすぎると、プラズマ化は顕著であるが絶縁破壊や異常放電など設備上の対策が大がかりとなり、ときには成膜面に放電に伴うダメージが発生する。
【0055】
窒素をプラズマ化するための方法はこれらの方法に限定されず、他の方法を用いた場合にも本発明の効果が損なわれるものではない。
【0056】
また、集電体の移動速度やシリコン原子の堆積速度を変化させることによって、活物質層の厚みを変更することもできる。
【0057】
また、上記所定の範囲(例えば、成膜開始位置と成膜終了位置との間)の長さは、形成される活物質層の厚み、集電体の移動速度、成膜速度等によって、適宜決定することができる。
【0058】
また、ターゲット15aを窒化シリコンとし、ターゲット15bをシリコンとし、これらを集電体の移動方向に順に並べ、これらを同時に蒸発させることにより、ターゲットから集電体に向かって移動する原子に含まれる窒素原子の比率を、集電体が移動する方向に減少させることが可能となる。これにより、集電体が、成膜開始位置に到達すると、まず、窒素の比率が高い膜が形成される。集電体が、成膜終了位置に進むにつれて、ターゲットから移動してくるシリコン原子と窒素原子の合計に含まれる窒素原子の比率が低下するため、活物質層の厚み方向において、集電体から離れるにつれて、窒素比率が小さくなる。このようにして、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を作製することもできる。なお、このとき、遮蔽板20aの開口面積や、遮蔽板20bの高さや角度や、ターゲットを蒸発させるときのエネルギーを調節することにより、所望の窒素比率の分布を有する活物質層を得ることが可能となる。
【0059】
また、蒸着装置の代わりに、スパッタ装置を用いても、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を作製することができる。
【0060】
図3に、本発明の負極を作製するために用いられるスパッタ装置の概略図を示す。図3において、図2と同じ構成要素には、同じ番号を付している。また、図2の蒸着装置と同様に、集電体上への活物質層の形成は、真空チャンバー(図示せず)内で行われる。
【0061】
図3のスパッタ装置において、高周波電源22によって、アルゴンのようなスパッタガスがプラズマ化される。
【0062】
図2の蒸着装置の場合と同様に、シリコンターゲットと集電体との間には、窒素を含む雰囲気が存在しており、成膜開始位置から成膜終了位置に向かって、窒素濃度が減少している。
【0063】
このプラズマ化されたスパッタガスにより、シリコン原子が、窒素からなる雰囲気を通過し、シリコンターゲット21aおよび21bから集電体上に、窒素と共に堆積される。このとき、成膜開始位置から成膜終了位置に向かって、つまり集電体の移動方向に向かって、窒素濃度が減少しているために、得られる活物質層は、図2の蒸着装置で作製された負極と同様に、活物質層の厚さ方向において、負極の表面から集電体側に向かって、窒素比率が増加している。
【0064】
図3に示されるようなスパッタ装置では、高周波電源22によって、スパッタリングガスのアルゴンをプラズマ化するときに、導入した窒素もプラズマ化される。このため、図
3のようなスパッタ装置には、窒素をプラズマ化するための手段(例えば、電子ビーム照射装置等)を設けなくてもよい。
【0065】
また、集電体の移動速度やシリコン原子の堆積速度を変化させることによって、集電体上に形成される活物質層の厚みを変更することができる。
【0066】
また、上記蒸着装置を用いる場合と同様に、ターゲット21aに窒化シリコンを、ターゲット21bにシリコンを用いて、これらを、集電体の移動方向に沿って順に並べ、そして同時にスパッタすることにより、負極の表面から集電体の方に向かって、窒素比率が増加した活物質層を備える負極を形成することができる。
【0067】
上記蒸着装置やスパッタ装置において、ターゲットをそれぞれ1つしか備えていないものにおいても、活物質層を形成するときの、集電体の移動速度、アンモニアまたは窒素の流量、ターゲットに加えられるエネルギー等を調節することにより、上記のような負極を作製することができる。
【0068】
また、集電体を必ずしも移動させながら成膜する必要はない。例えば集電体が静止した状態で、成膜開始時から徐々にアンモニアや窒素などの、含窒素ガスの分圧やイオン化率などを小さくしながら活物質層を形成することで、負極の表面から集電体の方に向かって、窒素比率が増加した活物質層を備える負極を形成することができる。
【0069】
以上のような作製方法を用いることにより、負極の表面から集電体に向かって、活物質層の厚さ方向に、窒素比率が増加する活物質層を集電体上に形成することができる。さらに、窒素比率を連続的に変化させた活物質層を形成することができ、このような活物質層は、充電時に活物質が膨張したとしても、そのときのストレスが特定箇所に集中することがない。また、ターゲットに安価なシリコンの単体を使用し、一つの真空槽内で、活物質を形成できるため、低コストに、かつ高効率に、負極を製造することが可能となる。
【0070】
以下に、本発明を、実施例に基づいて詳しく説明する。
【実施例1】
【0071】
(i)正極の作製
平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)100重量部に、導電剤であるアセチレンブラックを3重量部混合した。得られた混合物に、結着剤であるポリフッ化ビリニデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を、PVdF重量に換算して4重量部加えて練合し、ペースト状正極合剤を得た。この正極合剤を、アルミニウム箔からなる集電体シートの両面に塗着し、乾燥後、圧延して、正極を得た。
【0072】
(ii)負極の作製
負極の作製方法は、後述する。
【0073】
(iii)電池の作製
作製した正極および負極を用いて、図4に示されるような、17500サイズの円筒型電池を作製した。
【0074】
正極31と負極32とをセパレータ33を介して渦巻状に捲回して、極板群を作製した。極板群はニッケルメッキした鉄製の電池ケース38内に収納した。正極31から、アルミニウム製正極リード34を引き出して、正極端子40に接続した。正極端子40は、樹脂製封口板39の中央に取り付けた導電性部材に接合されており、その導電性部材の裏面に正極リード34を接続した。負極32からはニッケル製負極リード35を引き出して、
電池ケース38の底部に接続した。極板群の上部には上部絶縁板36を、下部には下部絶縁板37をそれぞれ配置した。次に、エチレンカーボネート(以下、ECという)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCという)との体積比1:3の混合溶媒中に、濃度が1mol/LとなるようにLiPF6を溶解させた電解液を、電池ケース38内に所定量注液した。最後に、封口板39により、電池ケース38の開口部を密封して、電池を完成した。
【0075】
次に、負極の作製方法について説明する。なお、負極の作製は、EB加熱手段(図示せず)を備える蒸着装置((株)アルバック製)に、集電体巻き出し装置、キャン、巻き取り装置等を設けた、図2に示されるような蒸着装置を用いて行った。
【0076】
負極の作製は、基本的に、上記で説明したようにして行った。
【0077】
負極集電体として、幅10cm、厚み35μm、長さ50mの電解銅箔(古河サーキットフォイル(株)製)を用いた。
【0078】
窒素含有雰囲気としては、純度99.999%のアンモニアガス(日本酸素(株)製)を用いた。アンモニアガスは、ノズル16から流量10sccm(standard cc/min、流量の単位)で放出した。なお、ノズル16は、ボンベからマスフローコントローラーを経由して真空チャンバー内に導入された配管に接続した。
【0079】
ターゲットには、純度99.9999%のシリコン単結晶(信越化学工業(株)製)を用いた。
【0080】
集電体である銅箔を、巻きだしロール12に装着し、キャン13を経由させ、空のボビンを設置した巻き取りロール14で巻き取りながら、毎分7cmの速度で走行させた。なお、キャン13の温度は、20℃とした。
【0081】
このとき、シリコン単結晶のターゲット15aおよび15bに照射される電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッションを300mAに設定した。
【0082】
シリコン単結晶を蒸発させ、アンモニア雰囲気を通して、集電体である銅箔上に、シリコンと窒素とからなる活物質層を形成した。
【0083】
次に、集電体の他方の面にも、上記と同様の方法で、シリコンと窒素とからなる活物質層を形成した。活物質層の厚みは、片面あたり、7μmとした。
【0084】
最後に、得られた極板を、所定の大きさに切断して、負極を得た。この得られた負極を、負極1とする。
【0085】
負極1の表面を、AES(オージェ電子分光)分析により、分析した。得られた結果を図5に示す。
【0086】
図5に示されるように、活物質層の集電体と接していない方の表面からの深さが深くなるほど、窒素(曲線B)の量(原子%)が増加し、シリコン(曲線A)の量が減少していることがわかる。
【0087】
活物質層の集電体と接していない方の表面においては、酸素比率(曲線C)が高くなっている。これは、作製した負極を真空チャンバーから取り出すときに空気中の酸素と反応して、酸化膜が形成されたためと考えられる。
【0088】
また、図5から、集電体と接していない方の表面の窒素比率が最も低く、深さ6μmまで連続的に窒素比率が増加していることがわかった。
【0089】
さらに、負極1を、CuのKα線を用いるXRD(X線回折)分析により、分析した。その結果を図6に示す。同定の結果、銅のみが検出された。また、得られたチャートの、2θが10°から35°にかけてピークが見られないことから、シリコンと窒素とからなる活物質層に含まれる活物質が非晶質であると考えられる。
【0090】
以上の分析結果より、負極1の活物質層に含まれる活物質は、非晶質であり、活物質層の厚さ方向において、負極1の表面から集電体に向かって、窒素比率が増大していることを確認した。
【0091】
比較として、負極を作製するときに、アンモニアを導入せず、集電体上にシリコンの薄膜を形成したこと以外、上記実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を、比較電池1とした。
【0092】
次に、部分窒化シリコン粉末とそれを用いた極板を下記の方法で作製した。(株)高純度化学研究所製シリコン粉末をセラミックトレイに仕込み焼成炉に投入し、窒素ガスを流入させながら1200℃の温度で3時間処理した。得られた塊状物を粉砕し、平均粒子径5μmの部分窒化シリコン粉末を得た。蛍光X線分析をおこない元素比率を求めた結果、SiN0.3であった。上記の部分窒化シリコン粉末と平均粒径5μmの人造黒鉛(TIMCAL社製のSFG5)と結着剤であるPVdFとを、50:50:9の重量比で混合して、混合物を得た。この混合物に、NMPを加えて、ペーストを得た。このペーストを、集電体である銅箔の上に塗布し、乾燥して、厚み20μmの塗膜を集電体の両面に形成した。得られた極板を所定の大きさに切断して負極を得た。この負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。得られた電池を比較電池2とした。
【0093】
次に図2に示される蒸着装置において、蒸着源の近傍に均一にガスが吹き出されるようにノズル16を改造して(図示せず)成膜を行った。これにより、厚み方向の窒素比率が一定なSiN0.3上記装置を用いて、実施例1と同様にして電池を作製した。得られた電池を比較電池3とした。
【0094】
(評価方法)
以上のようにして製造した電池1および比較電池1〜2について、周囲温度25℃において、充電電流40mAで、電池電圧4.2Vまで定電流で充電し、20分間休止した後、放電電流40mAで、終止電圧2.5Vまで放電する充放電を2回繰り返した。2回目の放電容量を初期容量とした。
【0095】
次に、その電池を周囲温度25℃において、充電電流40mA、終止電圧4.2Vで充電し、20分休止した後、放電電流400mAで終止電圧2.5Vまで放電して、そのときの放電容量を求めた。上記初期容量に対する上記400mAでの放電容量の比を、百分率値で表した値を、ハイレート容量比率とした。
【0096】
次に、その電池を周囲温度25℃において、充電電流40mA、電池電圧4.2Vまで定電流で充電し、20分間休止した後、放電電流40mA、終止電圧2.5Vまで放電する充放電を100回繰り返した。上記初期容量に対する、100サイクル目の放電容量の比を、百分率値として表した値を、容量維持率とした。
【0097】
得られた結果を、表1に示す。
【0098】
【表1】


【0099】
表1より、電池1は、全体的に良好な特性を示した。それに対して、比較電池1は初期容量がやや大きいものの、ハイレート容量比率が小さく、サイクル特性も悪かった。
【0100】
電池1のハイレート容量比率(以下、ハイレート特性という)と100サイクル目での容量維持率(以下、サイクル特性という)が良好であった理由は、活物質層と集電体の界面が窒素リッチなSiNxで形成されており、リチウムとの反応量が少ないため、その部分での活物質の膨張収縮が大きくなく、活物質と集電体の界面での接触が保たれて良好な特性が得られたと考えられる。
【0101】
それに比べ、比較電池1はシリコン単体であり、電池1のシリコン窒化物と比較して理論容量が高いため、初期容量は少し高くなったが、リチウムとの反応時の膨張率が大きいために、活物質層と集電体の界面での膨張ストレスによって部分的に活物質層が剥離し、その部分での抵抗が高いためにハイレート特性が悪いと考えられる。またサイクル特性が悪いのは、上記界面抵抗の増加による分極の上昇による容量低下や、活物質層が部分的に剥離して導電性が破壊されることが要因と考えられる。
【0102】
比較電池2は、シリコン窒化物粒子を結着剤などとともに塗布した電極を用いているが、電池1に比べて、ハイレート容量比率はやや劣るものの、比較的優れていた。しかし、その初期容量は小さく、また、100サイクル目での容量維持率は極めて劣っていた。
【0103】
比較電池2において、導電剤として人造黒鉛を混合したことによりハイレート特性は良好であった半面、初期容量は低下した。また、100サイクル目での容量維持率が劣るのは、粉体間の導電性が膨張収縮によって破壊されたためと推定する。
【0104】
比較電池3は初期容量は比較的優れており、実施例1と同等の値であった。しかし、ハイレート特性とサイクル特性は劣っていた。ハイレート特性が悪い理由は、シリコン窒化物がリチウムイオン伝導性に劣るためである。また、サイクル特性が劣るのは、薄膜中の活物質組成が一定であるために、薄膜全体の膨張率が一定であり、活物質層と集電体の界面での膨張ストレスによって部分的に活物質層が剥離したと考えられる。シリコン窒化物を用いることによって、シリコン単体を用いた比較電池1よりはややサイクル特性は良好であるが、電池1と比較すると、かなり特性が劣る。
【実施例2】
【0105】
次に、電解液中の溶媒にプロピレンカーボネート(以下、PCという)を用いた場合の初期容量を測定した。
【0106】
電解液としては、PCと、EMCとを体積比1:3で混合した混合溶媒にLiPF6を濃度が1Mとなるように溶解したものを用いた。
【0107】
上記の電解液を用いたこと以外、実施例1と同様にして、電池2を作製した。
【0108】
比較として、上記電解液を用いたこと以外、比較電池2と同様にして比較電池4を作製した。電池2、および比較電池4を用いて初期容量を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0109】
【表2】


【0110】
表2からわかるように、電解液がPCを含む比較電池4では、初回充電時に大量のガスが発生し、その後放電することが不能となった。これは、初回充電時に、導電剤として負極に混合されている黒鉛表面でPCが分解し、その際に、黒鉛表面上に皮膜が形成されないため、PCが分解され続ける。その結果、正常な充電反応が起こらないためと考えられる。
【0111】
なお、電解液がECを含む比較電池2の場合、初回充電時にECの分解は起こるが、黒鉛上に分解生成物からなる被膜が形成されるため、その後はECは分解されない。よって、正常な充電反応が起こる。
【0112】
一方電池2では、負極に導電性の優れた薄膜を用いており、比較電池4のような導電剤としての黒鉛を含んでいないため、PCを含む電解液を用いても、何ら問題がないことがわかった。
【実施例3】
【0113】
次に、活物質層の窒素比率の好ましい範囲について調べた。この実験は、図2に示されるような蒸着装置を用い、真空チャンバー内に導入するアンモニアの流量を変化させて、活物質層の窒素比率を変化させることにより行った。
【0114】
負極を作製するときに、アンモニアの流量を5sccmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を電池3とした。
【0115】
負極を作製するときに、アンモニアの流量を20sccmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を電池4とした。
【0116】
負極を作製するときに、アンモニアの流量を2sccmに設定し、電子ビームのエミッションを350mAに設定し、銅箔の走行スピードを毎分15cmに設定したこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を電池5とした。
【0117】
負極を作製するときに、アンモニアの流量を20sccmに設定し、電子ビームのエミッションを250mAに設定し、銅箔の走行スピードを毎分2cmに設定したこと以外は、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を電池6とした。
【0118】
なお、電池3〜6において、集電体片面あたりの活物質層の厚みは、すべて7μmとした。
【0119】
電池3〜6に用いられる負極について、AES分析を行った。シリコンと窒素の存在比率から、シリコンに対する窒素のモル比xを算出し、集電体と接していない側の端から全
体の厚みの1/10までの範囲における平均の窒素比率xaと集電体と接している側の端から全体の厚みの1/10までの範囲における平均の窒素比率xbを求めた。さらに、電池3〜6について、初期容量、ハイレート容量比率、および100サイクル目での容量維持率を、上記のようにして測定した。得られた結果を表3に示す。
【0120】
【表3】


【0121】
総体的に、窒素比率が高いとハイレート容量比率が向上し、サイクル特性が優れるが、初期容量は低下する傾向があることが判明した。ハイレート容量比率が高いのは、窒素比率が高いと、リチウムイオン電導度が高いためと考えられる。サイクル特性が優れるのは、活物質の膨張率が低減し、活物質の割れや離脱が抑制されたためと考えられる。初期容量が低下するのは、窒化シリコンの窒素比率が高いと、リチウムとの合金化反応量が低減するためである。また、初期容量とハイレート放電容量とサイクル特性とが総じて優れているのは、負極表面付近の活物質層におけるSiNxのシリコンに対する窒素のモル比xaが0≦xa≦0.2であり、集電体との界面付近の活物質層における窒素のモル比xbが0.2≦xb≦1.0となる場合である。
【実施例4】
【0122】
次に、図2に示されるような蒸着装置を用いて、集電体の走行速度を変えて、活物質層の厚みの有効範囲を調べた。
【0123】
負極を作製する場合に、集電体である銅箔の走行速度を毎分25cmに設定して、電子ビームのエミッションを250mAに設定し、集電体の片面あたりの活物質層の厚みを0.5μmとし、正極の厚みを実施例1で作製した正極の厚みの1/8倍となるようにしたこと以外、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を電池7とした。
【0124】
負極を作製する場合に、集電体の走行速度を毎分2cmに設定して、集電体の片面あたりの活物質層の厚みを20μmとし、正極の厚みを実施例1で作製した正極の厚みの1.2倍となるようにしたこと以外、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を電池8とした。
【0125】
負極を作製する場合に、集電体の走行速度を毎分1.6cmに設定して、集電体の片面あたりの活物質層の厚みを30μmとし、正極の厚みを実施例1で作製した正極の厚みの1.5倍となるようにしたこと以外、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を電池9とした。
【0126】
負極を作製するときに、集電体の走行速度を毎分1.4cmに設定して、集電体の片面あたりの活物質層の厚みを35μmとし、正極の厚みを実施例1で作製した正極の厚みの2倍となるようにしたこと以外、実施例1と同様にして、電池を作製した。得られた電池を電池10とした。
【0127】
ここで、電池7〜10の正極の厚みを異なるようにしたのは、負極の厚みが大きく異なるため、それに合わせて正極の厚みをかえることにより、実際の電池設計により近づけてハイレート特性やサイクル特性を評価するためである。
【0128】
電池7〜10を用いて、初期容量、ハイレート容量比率、および100サイクル目での容量維持率を、上記のようにして測定した。得られた結果を表4に示す。
【0129】
【表4】


【0130】
ここで、初期容量は参考として記載した。活物質層厚みが薄いほど、初期容量が低いのは当然であり、優劣の評価には考慮しないこととした。
【0131】
集電体の片面あたりの活物質層の厚みが厚いほどハイレート特性、サイクル特性ともに悪くなるという結果であった。これは厚みが大きいほど充放電に伴う体積の膨張・収縮が激しいため、集電性が悪くなるためと考えられる。30μm以下が好ましい厚みであった。
【0132】
なお、集電体の走行速度を毎分25cm以上に設定した場合、活物質層の厚みが0.5μmより薄く成膜することは可能である。負極の容量と合わせる場合、対向する正極の厚みが薄くなり、上記のような正極の製造方法では作製が困難となる。また、電池容量も著しく減少するため、シリコンの高容量化のメリットが得られない。しかし、特に、電池を薄型にする場合には、有効である。
【0133】
活物質層の厚みが0.5μmである電池7の場合には、容量は低いが、ハイレート容量比率が極めて高く、高出力が要求される電池に有望であることがわかる。本実施例では、集電体の厚みを統一したため、片面あたりの活物質層の厚みが0.5μmである場合、集電体の厚みが活物質層に比べて必要以上に厚いため、電池ケースに挿入できる活物質層の体積が減少して、容量が低い値を示した。
【実施例5】
【0134】
次に、活物質層を形成する種々の手段について検討した。
【0135】
(作製方法1)
図2に示される蒸着装置を用い、ターゲット15aおよび15bとしてシリコン単結晶を用いた。アンモニアガスの代わりに窒素ガスをノズル16から導入し、流量を20sccmに設定した。窒素ガスは、純度99.7%の窒素ガス(日本酸素(株)製)を用いた。ノズル16付近に設置したEB照射装置17を、加速電圧−4kV、エミッション20mAに設定し、窒素ガスをプラズマ化した。このとき、シリコン単結晶のターゲット15aおよび15bに照射される電子ビームの加速電圧を−8kVとし、エミッションを300mAに設定した。集電体を毎分7cmの速度で走行させながら、シリコンと窒素からなる活物質層を形成した。このような条件で、集電体の両面に活物質層を形成して、負極を作製した。得られた負極を用いて、上記実施例1と同様にして、電池を作製した。得られ
た電池を電池11とした。
【0136】
(作製方法2)
図2に示す蒸着装置を用い、ターゲット15aに窒化シリコンを、ターゲット15bにシリコンを用いた。窒化シリコンに照射する電子ビームの加速電圧を−8kVに設定し、エミッションを300mAに設定した。また、シリコンターゲット15bに照射する電子ビームの加速電圧を−8kVに設定し、エミッションを300mAに設定した。集電体の走行速度を毎分7cmで走行させながら、蒸着初期に、主として窒化シリコンからなる層を成膜し、活物質層の厚さ方向に、徐々にシリコンの比率が高まるようにし、蒸着終端でシリコンからなる層を成膜して、活物質層の厚さ方向において、集電体に接していない側から集電体に接している方の側に窒素の比率を増加させた活物質層を形成した。集電体の他方の面にも、この操作を繰り返して活物質層を形成した。上記負極を用いて、実施例1と同様にして電池を作製した。得られた電池を電池12とした。
【0137】
(作製方法3)
負極を、スパッタ装置((株)アルバック製)に、集電体巻き出し装置、キャン、巻き取り装置等を設けた、図3に示されるようなスパッタ装置を用いて作製した。
【0138】
集電体として、幅10cm、厚み35μm、長さ50mの電解銅箔(古河サーキットフォイル(株)製)を用いた。この銅箔を巻きだしロール12に装着し、キャン13を経由して、空のボビンを設置した巻き取りロール14で巻き取りながら、毎分0.1cmの速度で走行させた。
【0139】
スパッタガスとして純度99.999%のアルゴンガス(日本酸素(株)製)を用いた。アルゴン流量は100sccmに設定した。
【0140】
ターゲット21aおよび21bとして、純度99.9999%のシリコン単結晶(信越化学工業(株)製)を用いた。
【0141】
ターゲット21aおよび21bをスパッタするときの、高周波電源(図示せず)の出力を2kWに設定した。
【0142】
真空チャンバー(図示せず)内の圧力は1Torrとした。
【0143】
窒素からなる雰囲気としては、純度99.7%の窒素ガス(日本酸素(株)製)を用いた。ノズル16からの窒素の流量は1sccmとした。なお、ノズル16は窒素ボンベからマスフローコントローラーを経由して真空チャンバー(図示せず)内に導入された配管に接続した。
【0144】
上記のような条件で集電体の両面にシリコンと窒素とからなる活物質層を形成した。集電体の片面あたりの活物質層の厚みは6.0μmとした。
【0145】
AES分析により、活物質層の厚さ方向のSiとNとの比率を求めた。その結果、電池1の負極の活物質層における窒素分布とほぼ同様の窒素分布であることがわかった。
【0146】
上記負極を用い、実施例1と同様にして電池を作製した。得られた電池を電池13とした。
【0147】
(作製方法4)
次に図2に示される蒸着装置において、蒸着源の近傍に均一にガスが吹き出されるよう
にノズル16を改造して(図示せず)成膜を行った。アンモニアガスの流量を15sccmに設定し、銅箔の走行速度を毎分14cmに設定し、電子ビームのエミッションを300mAに設定した。その他の条件は実施例1と同様にして、シリコン単結晶を蒸発させ、アンモニア雰囲気を通して、集電体である銅箔上にシリコンと窒素とからなる第一の活物質層を形成した。
【0148】
次に、モーターの回転方向を逆転させて巻き取りロール14から巻きだしロール12の方向に銅箔を移動させ、蒸着開始位置に巻き戻した。アンモニアガスの流量は5sccmに設定し、銅箔の走行速度を毎分14cmに設定し、電子ビームのエミッションを300mAに設定した。その他の条件は実施例1と同様にして、シリコン単結晶を蒸発させ、アンモニア雰囲気を通して、集電体である銅箔上に、シリコンと窒素とからなる第二の活物質層を形成した。
【0149】
次に、集電体の他方の面にも、上記と同様の方法で、シリコンと窒素とからなる活物質層を形成した。活物質層の厚みは、片面あたり7μmとした。
【0150】
AES分析を行った結果、第一の活物質層の窒素比率はほぼ均等に0.1であり、第二の活物質層の窒素比率はほぼ均等に0.5であった。第一の活物質層と第二の活物質層の界面の窒素比率は急激に変化しており、窒素比率が非連続的に変化していた。上記負極を用い、実施例1と同様にして電池を作製した。得られた電池を電池14とした。
【0151】
電池11〜14について、上記と同様にして、初期容量、充放電効率、ハイレート容量比率、および100サイクル目での容量維持率を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0152】
【表5】


【0153】
電池11の結果と電池1の結果とを比較すると、初期容量以外はほぼ同等の値であることがわかった。つまり、窒素ガスをプラズマ化させることでシリコンとの反応性を向上させ、アンモニアを使用せずにシリコンと窒素からなる活物質層を形成させることができた。
【0154】
また、電池12の結果から、ターゲットにシリコンと窒化シリコンのようなシリコン窒化物の2種類を用いる方法も有効であることがわかった。
【0155】
表1の電池1と電池13とを比較して、蒸着装置を用いるか、スパッタ装置を用いるかにかかわらず、同等の性能の負極を作製することができることを確認した。
【0156】
電池14の結果から、窒素比率が非連続に変化する場合でもハイレート充放電特性とサイクル特性の向上に効果があることがわかった。ただし、表1の電池1と電池14を比較すると、電池14は総体的に特性がやや劣る。これは、窒素比率が非連続的に変化している界面に膨張応力が集中し、割れや欠けなどが生じてリチウムイオン伝導性の低下や電子伝導性が低下したことが要因と考えられる。この結果より、窒素比率は連続的に変化していることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明により、高容量で、ハイレート充放電特性とサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用の負極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用負極を概略的に示す縦断面図
【図2】本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池を作製するときに用いる蒸着装置を示す概略図
【図3】本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池を作製するときに用いるスパッタ装置を示す概略図
【図4】実施例で作製した円筒形電池の縦断面を概略的に示す図
【図5】本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用負極を、AES分析法を用いて分析したときの結果を示すグラフ
【図6】本発明の一実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用負極を、XRD分析法により分析したときの結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0159】
1 活物質層
1a 活物質層の集電体と接していない方の表面
1b 活物質層の集電体と接している面
2、11 集電体
12 巻きだしロール
13 キャン
14 巻き取りロール
15a、15b、21a、21b ターゲット
16 ノズル
17 窒素をプラズマ化するための手段
18、19 ローラー
20a、20b 蒸発した原子を遮蔽するための遮蔽板
22 高周波電源
31 正極
32 負極
33 セパレータ
34 正極リード
35 負極リード
36 上部絶縁板
37 下部絶縁板
38 電池ケース
39 封口板
40 正極端子




 

 


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