米国特許情報 | 欧州特許情報 | 国際公開(PCT)情報 | Google の米国特許検索
 
     特許分類
A 農業
B 衣類
C 家具
D 医学
E スポ−ツ;娯楽
F 加工処理操作
G 机上付属具
H 装飾
I 車両
J 包装;運搬
L 化学;冶金
M 繊維;紙;印刷
N 固定構造物
O 機械工学
P 武器
Q 照明
R 測定; 光学
S 写真;映画
T 計算機;電気通信
U 核技術
V 電気素子
W 発電
X 楽器;音響


  ホーム -> 核技術 -> 株式会社日立製作所

発明の名称 放射性同位元素製造装置、及びターゲットのリサイクル方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−101193(P2007−101193A)
公開日 平成19年4月19日(2007.4.19)
出願番号 特願2005−287352(P2005−287352)
出願日 平成17年9月30日(2005.9.30)
代理人 【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
発明者 土田 一輝 / 岡▲崎▼ 隆司 / 関 博文 / 梅垣 菊男
要約 課題
ガン検診や脳や心臓の新陳代謝を検査するPET診断を行う放射性同位元素製造装置に関し、高収率で安定的に供給することが可能で、かつターゲットの寿命も長い放射性同位元素製造装置を提供する技術である。

解決手段
加速器により加速したイオンビーム(R)が照射されると放射性同位元素を生成する原料水(W)が封入されるターゲット(20)が、真空領域(U)及び原料水(W)の境界を形成するとともにイオンビームが透過する透過フォイル(22)と、透過フォイル(22)と共に原料水(W)が封入されるスペース(S)を形成するボディ基板(24)と、を有し、ボディ基板(24)及び透過フォイル(22)のスペース(S)の側表面が、金、白金、パラジウムの群から選択される少なくとも一つの貴金属材からなることを特徴とする。
特許請求の範囲
【請求項1】
イオンビームを出射するイオン源と、
前記イオン源から出射された前記イオンビームが加速される真空領域を有する加速器と、
加速した前記イオンビームが照射されると放射性同位元素を生成する原料水が封入されるターゲットと、を備え、
前記ターゲットは、
前記真空領域及び前記原料水の境界を形成するとともに前記イオンビームが透過する透過フォイルと、
前記原料水が封入されるスペースを前記透過フォイルと共に形成するボディ基板と、を有し、
前記ボディ基板は、
金、白金、パラジウムの群から選択される少なくとも一つの貴金属材からなることを特徴とする放射性同位元素製造装置。
【請求項2】
イオンビームを出射するイオン源と、
前記イオン源から出射された前記イオンビームが加速される真空領域を有する加速器と、
加速した前記イオンビームが照射されると放射性同位元素を生成する原料水が封入されるターゲットと、を備え、
前記ターゲットは、
前記真空領域及び前記原料水の境界を形成するとともに前記イオンビームが透過する透過フォイルと、
前記原料水が封入されるスペースを前記透過フォイルと共に形成するボディ基板と、を有し、
前記ボディ基板は、
銀、銅、アルミニウム、チタン、ニオビウムの群から選択される少なくとも一つの高熱伝導材からなる本体部と、
前記本体部のうち、少なくとも前記スペースが形成されている表面が、金、白金、パラジウムの群から選択される少なくとも一つの貴金属材から形成されていることを特徴とする放射性同位元素製造装置。
【請求項3】
前記貴金属材は、前記本体部の表面にメッキ、蒸着、圧着接合のうちいずれかの手法により設けられることを特徴とする請求項2に記載の放射性同位元素製造装置。
【請求項4】
前記透過フォイルの前記スペースを形成する側の面は、金、白金、パラジウムの群から選択される少なくとも一つの貴金属材によりコーティングされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の放射性同位元素製造装置。
【請求項5】
前記透過フォイルを前記真空領域側から支持するとともに、前記イオンビームが通過する複数の通過口が設けられている支持グリッドと、を有し、
前記支持グリッドの表面は、金によりコーティングされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の放射性同位元素製造装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の放射性同位元素製造装置で用いられた使用済みの前記ボディ基板を回収し、その表面を電解研磨して再生することを特徴とするターゲットのリサイクル方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の放射性同位元素製造装置で用いられた使用済みの前記ボディ基板を回収し、これを溶解させる工程を経た後、新たなボディ基板を製造するための原料として用いることを特徴とするターゲットのリサイクル方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガン検診や脳や心臓の新陳代謝を検査するPET診断において、患者に注射する放射性薬剤を製造する放射性同位元素製造装置に関し、特に、18F放射性同位元素を得るために、原料となる18O濃縮水(原料水)を封入するとともにイオンビーム(陽子線)が照射されるターゲットに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
18F放射性同位元素(以下、F−18という)のポジトロン放射を利用した、患者の断層撮影による診断(以下、PET(Positron Emission Tomography)診断という)を実施することにより、有効なガン診断が可能であることが知られている。このため、PET診断は、米国、欧州に加え日本国内の核医学分野で多数利用され始めている。
患者に注射するF−18を含む放射性薬剤は、水素イオンを加速器で加速してなるイオンビームを、18O水(以下、O−18水(原料水))が封入されているターゲットに照射して、18O(p、n)18F反応により製造される。
近年、PET診断のニーズの増加に対応してPET診断装置を導入する病院・医療センターが増加するのに伴い、F−18を高収率で安定的に供給することが可能な放射性同位元素製造装置が求められている。
【0003】
ところで、F−18の収量を向上させるためには、ターゲットに照射するイオンビームの出力を増加させることが考えられる。しかし、イオンビームの出力を増加させるとO−18水(原料水)の一部が気化して沸騰するのでボイド(気泡)が形成される。このようなボイドが、ターゲットの内部で多数発生したり大きく成長したりすると、このボイドにより押しのけられてビーム照射を受けることができないO−18水(原料水)が増加してF−18の収率が低下する問題が生じる。
【0004】
この問題は、特に、高価なO−18水(原料水)の使用量低減を目的として、O−18水が封入されるスペースを薄厚にして低容量化した薄型ターゲットを用いる場合に顕著にあらわれる。
つまり、ターゲットの内部でO−18水(原料水)が沸騰して蒸気のボイドが発生すると、その直径はターゲット内部のスペースの幅より大きい場合があるので、ターゲットに照射されたイオンビームは、O−18水(原料水)が存在しない領域を、何ら反応に関与せずに通過してしまうことがありうる。
特に、エネルギーが高いイオンビームの中心部が照射されるターゲットのスペースの部分領域ではO−18水が排除されてしまい、イオンビームのエネルギーが有効利用されないのみならず、F−18の収量低下に大きく寄与してしまうことが問題である。
【0005】
このようにF−18の収量が低下することを防止するために、従来のターゲットは、熱伝導率の大きな銀、ニオブ材、又はアルミニウムなどを用いて、昇温したO−18水(原料水)の冷却特性を向上させたり、スペースに封入されているO−18水をArやHeガスなどで加圧してその沸点を200℃以上に上げたりして、O−18水の沸騰によるボイドの発生を極力低減させることに努めてきた。
【特許文献1】米国特許第5,917,874号明細書(第2列,56−58頁、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ターゲットに封入したO−18水(原料水)にボイドが発生することを完全に阻止することは不可能である。このため、スペース壁面の銀やニオブ材が、ボイド中の水蒸気にさらされた状態で、イオンビームの照射を長時間にわたり受けると、その壁面が腐食(酸化)するとともに、O−18水中に溶出して微粒子となって析出することになる。
このように、ターゲット内部のスペース壁面の水蒸気による酸化反応が進行すると、同時に水の分解(還元)が副反応として進行し、新たな分解ガス(水素ガス)が生成することになる。これにより、ボイドがさらに成長することになり、F−18の収率の低減に拍車がかかるとともに、ターゲット圧力が急上昇してイオンビームの照射の継続が困難になるなどの問題が生じた。
【0007】
さらに、銀やニオブ材で構成された従来のターゲットでは、その表面が腐食して堆積した腐食生成物(微粒子)を除去するために、その表面を研磨剤でこすって平滑にするメンテナンスを頻繁に行う必要があり、ターゲットが磨耗して寿命が短くなる等の問題があった。また、この腐食生成物がO−18水を取り出す配管内に堆積すると配管がつまる問題をおこしていた。
【0008】
本発明は、係る問題を解決することを課題とし、放射性同位元素の原料水を封入するターゲットを構成する材質に改良を加えることにより、放射性同位元素を高収率で安定的に供給することが可能で、かつターゲットの寿命も長い放射性同位元素製造装置を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために本発明は、放射性同位元素製造装置において、イオンビームを出射するイオン源と、前記イオン源から出射された前記イオンビームが加速される真空領域を有する加速器と、加速した前記イオンビームが照射されると放射性同位元素を生成する原料水が封入されるターゲットと、を備え、前記ターゲットは、前記真空領域及び前記原料水の境界を形成するとともに前記イオンビームが透過する透過フォイルと、前記原料水が封入されるスペースを前記透過フォイルと共に形成するボディ基板と、を有し、前記ボディ基板は、金、白金、パラジウムの群から選択される少なくとも一つの貴金属材からなることを特徴とする。
【0010】
本発明がこのような構成を有することにより、ターゲットに封入される原料水に接する壁面は、水蒸気に対する耐食性の高い貴金属材から構成されることになる。これにより、原料水の中でボイドが大きく成長することがないので、原料水は全体にわたりイオンビームの照射を受けることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PET診断に用いる放射性薬剤を製造するに際し、ターゲットに封入された原料水(O−18水)にイオンビームを照射しても、放射性同位元素を高収率で安定的に供給することが可能で、かつターゲットの寿命も長い放射性同位元素製造装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る放射性同位元素製造装置について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の放射性同位元素製造装置10は、イオン源11、高周波四重極型線形加速器(Radio Frequency Quadrupole、以下、RFQと称す)12a、ドリフトチューブ型線形加速器(Drift Tube Linac、以下、DTLと称す)12bおよびターゲット20を有する。なお、このRFQ12aとDTL12bとの組み合わせにより本発明における加速器12が形成されている。
【0013】
イオン源11は、イオンとなる源物質(ここでは水素ガス)をイオン化して陽イオンのイオンビームRとして引き出す役割をなし、その周囲には、質量により所望のイオンのみを選択的に取り出す図示しないマグネットやイオンビームRを整形する図示しない静電レンズ、さらにはイオンビーム発生部等が設けられている。
なお、イオン源11には、熱陰極方式のデュオプラズマトロン型イオン源またはPIG型イオン源を使用することができる。また、長寿命で大電流を発生することのできるマイクロ波放電型イオン源を使用することもできる。
【0014】
RFQ12aは、このイオン源11の後段に設けられ、イオン源11から出射されたイオンビームRを所定のエネルギーまで加速させるものである。RFQ12aの内部には、波形状の四重極電極を有する真空チャンバが備えられている。この四重極電極によりイオンビームRの進行方向と直角な方向に四重極電界が形成され、イオンビームRが集束されながら加速される。
なお、ここで使用されるRFQ12aに替えて、六極以上の偶数の磁極を持つ多重電極型の高周波加速器を用いてもよく、これら以外の高周波加速器を用いることもできる。
【0015】
DTL12bは、RFQ12aで加速されたイオンビームRを入射して、さらに加速するものである。DTL12bの内部の中心には、複数個のドリフトチューブ14が軸方向に並んで配置されている。このドリフトチューブ14の内部には、図示しない四極電磁石が組み込まれていて、イオンビームRは、このドリフトチューブ14内を通過する際に、収束を受ける。そして、このドリフトチューブ14,14の間で、イオンビームRの加速が行われる。
このようなRFQ12aおよびDTL12bは、組み合わされて、最終的に7MeV程度の高エネルギーのイオンビームRを生成する線形加速器(加速器)12として機能する。なお、本実施形態で用いられる加速器は、このような線形加速器に限定されるものではなく、サイクロトロンが用いられる場合もある。
【0016】
ターゲット遮へい体13は、その中心部にターゲット20を格納し、このターゲット20にイオンビームRが入射すると同時に発生する人体に有害な放射線を外部に漏らさない役目を果たすものである。
【0017】
ターゲット20は、図2(a)に示すように、支持グリッド21と、透過フォイル22と、ボディ基板24と、筒状体28とから構成されるものである。
【0018】
ボディ基板24には、原料水Wが封入されるスペースSが設けられている。このボディ基板24に設けられている送液流路26aは、原料水WがスペースSに注入されたり、この原料水Wが放射性元素に変換された後に回収されたりするときに流動する流路である。また、ガス導入路26bは、スペースSに封入されている原料水Wを加圧するためのアルゴンガスが導入される導入路である。さらにボディ基板24には、イオンビームRが照射されて、上昇した温度を下げるための冷媒Eが循環する冷却路25aが形成されている。
【0019】
スペースSは、イオンビームRの入射面の直径が20〜30mm程度、同入射方向の深さが0.3〜0.4mmである薄肉構造を有するものである。このような構造は、低エネルギーで、イオンビームRの飛程が短く、ビーム径・形状を調整することが可能な(いずれもサイクロトロンと比較した場合)、前記したような線形加速器12にとっては適した構造といえる。その理由については、後記する実施例の部分で検証されている。
【0020】
さらに、スペースSに、封入される1回の原料水Wの量は0.5cc以下であり、高価な原料水Wの使用量をおさえつつ所定の収量のF−18を製造することが可能になる。これは、サイクロトロン方式で通常用いられる厚型ターゲットと比較して、同量のF−18を得るに当たり使用する原料水を1/4程度まで低減することができる。
【0021】
また、スペースSに封入されている原料水Wは、温度上昇して沸騰による気泡が発生しないように、ガス導入路26bから導入されるアルゴンガス(Ar)で加圧されるとともに、冷却路25a,25bを循環する冷媒Eにより冷却される。そして、変換された放射性同位元素を含む水は、ガス導入路26bから導入されるアルゴンガスの加圧下でバルブ28bを解放することにより、送液流路26aを通じて、合成装置29に回収されることになる。
【0022】
また、イオンビームRが照射されて原料水Wの温度が上昇するのを抑制するためには、原料水Wの熱がターゲット20の外部に逃げやすいようにターゲット20が熱伝導性の良い材料で構成されることが望ましい。さらに、原料水Wが接するスペースSの外壁は、化学的に安定で耐食性の高い材料で構成されることが望ましい。
【0023】
そこで、ボディ基板24は、金、白金、パラジウムの群から選択される少なくとも一つの貴金属材から構成されていることにする。これにより、イオンビームRが照射されて原料水Wが温度上昇により沸騰して気泡(水蒸気)を発生しても、この水蒸気によりスペースSの壁面が腐食されることがない。また、生成した放射性同位元素と化合物を形成することもない。
【0024】
透過フォイル22は、スペースSの真空領域U側の側面を密閉状に仕切る境界を形成するものであって、照射されるイオンビームRが透過するものである。この透過フォイル22は、チタン製又はHavar製の薄膜で構成されている。また、この透過フォイル22のスペースSを形成する壁面は、金、白金、パラジウムの群から選択される少なくとも一つの貴金属材によりコーティングされている。これにより、透過フォイル22の表面も、原料水Wに発生した気泡(水蒸気)や、生成した放射性同位元素(F−18)と反応することがない。
【0025】
支持グリッド21は、図2(b)に示すように、照射するイオンビームRを通過させるため、その裏表を貫通する複数の通過口27,27…が設けられている。支持グリッド21は、透過フォイル22に対して真空領域U側に接して設けられ、スペースSに封入された原料水Wの圧力により透過フォイル22が降伏しないように押さえつけて支持するものである。さらに、支持グリッド21は、イオンビームRの照射により昇温した原料水Wの熱を外部に逃がす熱伝導体としての役目も果たす。
【0026】
このため、支持グリッド21は、熱伝導性、及び高温における機械的特性がバランスよく優れた材質で構成されることが望まれ、例えばDS Copper(アルミナ分散強化銅)又はクロム銅が用いられている。さらに支持グリッド21の表面は、金によりコーティングされており、これにより、透過フォイル22との熱接触性を向上させたり、支持グリッド21の放射化を抑制したりすることが可能になる。
筒状体28は、冷媒Eが通流する冷却路25bが設けられており、その端部がボディ基板24に接し、支持グリッド21を介して伝達される原料水Wの熱を吸収するものである。
【0027】
原料水Wは、O−18水が濃縮して含まれる水溶液であり、送液流路26aからターゲット20のスペースSに封入される。そして、ターゲット20がイオンビームRの照射を受けると、このイオンビームRは、支持グリッド21の通過口27,27…、透過フォイル22を透過して、この原料水Wに衝突し、O−18水が核反応して、放射性同位元素であるF−18が放射性同位元素として生成することになる。
【0028】
次に、図1,図2を参照して、以上のように構成された放射性同位元素製造装置10の動作を説明する。
まず、放射性同位元素製造装置10を作動させるにあたって、事前に、ターゲット20をターゲット遮へい体13内に収容しておく。
図示しない作動スイッチを操作すると、RFQ12a、DTL12bに対して、所定の高周波電力がそれぞれ供給され、RFQ12a、DTL12bのそれぞれに電界が形成される。その後、イオン源11に所定の電力を供給する。これにより、イオン源11のイオンビーム発生部(図示せず)から出射されたイオンビームRがRFQ12aによって所定のエネルギーまで加速される。加速されたイオンビームRは、RFQ12aから出射されて後段のDTL12bに入射され、DTL12bでさらに加速される。
このようにして加速されて高エネルギーとなったイオンビームRは、ターゲット20内の原料水(O−18水)Wに照射される。そして、イオンビームRがO−18水に照射すると、核反応によりF−18が生成される。
【0029】
このようにして、F−18が生成される過程において、ターゲット20の内部で原料水Wの温度は上昇するが、冷媒Eにより冷却されているボディ基板24や支持グリッド21を経由して熱が外部に逃げるので、到達温度が低く抑えられる。さらに、スペースS内は、図示しない配管から供給されるアルゴンガスにより圧力が高く設定されているために、原料水Wの温度が200度を超えた程度では、気泡が発生することがない。
【0030】
そして、原料水Wの到達温度が、スペースS内の圧力における飽和蒸気温度を超えたところで、水蒸気の気泡が発生する。この水蒸気の気泡はスペースSの壁面に付着するが、この壁面は、貴金属材(金、白金、パラジウムのうちの一種以上)で構成されているので、水蒸気がこの壁面と反応することがない。すなわち、従来品のように、スペースSの壁面が銀材からなる場合と異なり、壁面が酸化されて微粒子状に剥がれたり、水蒸気が還元されて分解ガス(水素ガス)を生成して気泡がさらに成長したりするようなことがない。
【0031】
このように、スペースSの内部で、水蒸気の気泡が発生したとしても、その気泡がさらに大きく成長しないので、封入された原料水Wは、ほとんど除外されることなくイオンビームRの照射を受けるので、生成するF−18の収率が低下することがない。
【0032】
このようにして、所望する収量のF−18が得られたところで、送液流路26aからF−18を含む濃縮水がバルブ28bを通り放射性薬剤の合成装置29に送られ、F−18を含む濃縮水からF−18が抽出される。なお、F−18へ核反応しなかった残りのO−18水は、非常に高価であるため、サイクロン等で用いられる厚型ターゲットを使用している場合は、通常、蒸留または精製の工程を経たのち、回収してターゲット20内で再利用される。しかし、本実施形態で用いられている薄型ターゲットではF−18への変換率が高いので、F−18へ核反応しなかった残りのO−18水を再利用しなくても経済性を大きく損なうことはない。
【0033】
前記した実施形態においては、スペースSが形成されるボディ基板24の全体を貴金属材料で構成した例を示したが、他の実施形態として、ボディ基板24の本体部を高熱伝材で形成し、原料水Wが接するスペースSの表面を少なくとも貴金属で構成する場合もある。
具体的には、ボディ基板24の本体部を銀、銅、アルミニウム、チタン等の低コストな高熱伝導材で構成し、その表面を貴金属物質(金、パラジウム、白金)でメッキや蒸着によるコーティングをしたり、圧着接合により複合化させたりすることが考えられる。
【0034】
まず、銀材等で構成されたボディ基板24の本体表面へのメッキを施工する場合について検討する。この場合、メッキ厚は、ターゲット20の長寿命化及び放射化低減の観点から10〜100μmの範囲内であることが望ましい。この範囲よりメッキが薄いと、コーティングの効果が充分に発揮されず、ボディ基板24の本体表面の銀材の腐食が進行する場合がある。一方、この範囲よりメッキが厚くなると、表面が曇ってざらついた面になり、F−18がトラップされてしまう傾向が顕著になる。
【0035】
このような、メッキ表面のざらつきを回避するためには、メッキ施工に用いるメッキ液は、含まれる金メッキ粒子が極力小さなものを選定するとともに、メッキ物(ボディ基板24の本体)に対し等方的にメッキ液が当たるようにノズル噴射型のメッキ装置を使用することが望ましい。また、メッキ膜を肉厚にすると膜中にメッキ液が閉じこめられる可能性があるため、劇毒物が含まれないメッキ液を選定する必要がある。
【0036】
また、銀材等で構成されたボディ基板24の本体表面への金蒸着を施工する場合は、スペースSから通じる送液流路26a及びガス導入路26bの孔の内壁まで金を蒸着させることができないので、必要に応じてメッキ加工と併用する必要がある。
【0037】
次に、銀材等で構成されたボディ基板24のスペースSの表面を圧着接合による複合化により形成する場合について検討する。この圧着接合による複合化方法の一例として、高温等方加圧(HIP:Hot Isostatic Press)圧着法が挙げられる。具体的な複合化によるターゲット20の製作方法としては、ボディ基板24及び圧着する金部材を800℃以上に加熱し、約2千気圧で圧着する条件がとられ、これにより十分な接合面が形成されることが確認されている。
【0038】
以上述べたように、本実施形態に用いられるターゲット20において、原料水Wが接触する壁面が貴金属物質(金、パラジウム、白金)で形成されることにより、その表面が腐食されることがなくなる。このため、金で構成されたターゲットの表面は長時間の使用でも殆ど劣化せず、腐食生成物も付着しないため、有機溶剤、お湯、水等で超音波洗浄するだけでクリーニングが簡略化される。よって、ターゲット20は、そのメンテナンスの頻度や所要時間が短縮されるとともに、長寿命化がはかれることになる。なお、万が一、ターゲット20の表面に傷が入ったり、堅く付着した不純物が生じたりした場合には、その表面を荒らさずに除去するために、電解研磨により再生することが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る放射性同位元素製造装置は、以上述べたように、ボディ基板24により形成されるスペースSの壁面部分が、水蒸気に対する耐食性に優れる貴金属(金、パラジウム、白金)により構成されることになる。これにより、ターゲット20に封入された原料水(O−18水)にボイドが発生して、スペースSの壁面が水蒸気にさらされても、この壁面が腐食したり、新たな分解ガスが発生してボイドが成長したりすることがなくなる。
さらに、スペースSの壁面部分が、貴金属(金、パラジウム、白金)により構成されることにより、耐食性以外にも、(1)生成したF−18のフッ素と化学反応しない、(2)熱伝導性が良いために原料水W(O−18水)の温度上昇が抑制される、(3)イオンビームの照射による放射化が少ない、(4)装置を通過するような金属不純物を生成しない、といった優れた特徴もターゲット20は、あわせもつこととなる。
【0040】
金、パラジウム、白金等のような貴金属でターゲット20を構成する際、高コスト化に対する課題の解決が避けられない。前記したように、ターゲット20は、使用により劣化が進行する消耗品であるといえるので、使用が所定期間経過したボディ基板24に関しては、溶融して新たなボディ基板24を製造するリサイクルを行うことが望ましいといえる。
【0041】
ところで、ターゲット20にイオンビームRが照射され続けて、含有される金の一部が核変換されて生成する水銀の放射性同位体は、64.1時間毎に半減するので約1年間放置することにより、そのほとんどすべてが金に戻り安定化する。そうすれば、一般に作業が行われている場所で、金を含有するターゲット20をリサイクルする為の、溶融、不純物除去、鋳込み、鍛造、圧延等の加工を安全実施することが可能となる。
特に、ボディ基板24の構成材が、金又は白金である場合は、それらの構成材は放射線強度の減衰時間が短いことを利用して回収・溶解が容易である。
このようにして、リサイクルにかかるコストは、補充する金を含めても、1個の銀ターゲット材料を購入する金額で、10個の使用済みターゲット20を再生することが可能であると概算される。なお、同様のリサイクルは、白金でも可能であるが、パラジウムの場合、長半減期の核種が生成するためリサイクルは難しい。
【実施例】
【0042】
次に、図2と適宜他の図面を参照して、本実施形態品の効果を検証するとともに、従来品と対比してその効果を確認した。
ここで、本実施形態品とはボディ基板24を金(99.99%)で構成したもの、従来品とは銀−ニオブ合金で構成したものをさす。
図3に示されるように、原料水WにイオンビームRが照射されることによりO−18水からF−18に核変換される反応確率は、このイオンビームRのエネルギーが5−6MeVで最大となり、3MeV以下の低エネルギーでは小さくなることがわかる。
【0043】
一方、図4に示すように、ターゲット20にイオンビームRが照射されると、O−18水を通過する過程で、ビームエネルギーは減衰することになる。ここで、ターゲット20に入射時のエネルギーが6.5MeVとした場合、約0.43mmの厚さの水を通過したところでイオンビームのエネルギーは3MeVになり、図3で示した結果と照らして、約0.43mm以上の領域では、F−18を生成することができないことがわかる。
【0044】
さらに図4(a)において、深さ方向0.43mm以上の領域では、3MeV以下の低エネルギーのイオンビームRは、原料水W(O−18水)を加熱させるだけとなり、ボイド発生の要因となる。さらに図4(b)で示される0.55mm近傍のブラックピークが存在する領域では、原料水W(O−18水)を加熱するのに消費されるエネルギーの量が最大となるのでボイドの発生も最大となる。
この検証結果に基づいて、ターゲット20は、図2に示すように、原料水Wが封入されるスペースSが薄肉な構造・寸法をとるわけである。
【0045】
また、イオンビームRの照射を開始してからターゲット20の内部で生成するF−18の生成量の経時的変化は、図5に示される評価グラフで表される。この評価グラフによれば、加速器出力ビーム電流が40,60,80,100μAのように大きくなるほど、F−18の生成量が増加するといえる。なお、この評価グラフは、加速器12から出力されたイオンビームRが、透過フォイル22及びこれを支持する支持グリッド21を通過する透過率を62%として作成されている。この図5の評価グラフより、100μAの加速器出力ビーム電流が1時間照射されることでターゲット20の内部には1Ci(37GBq)のF−18が生成されることが読み取れる。
【0046】
通常、PET診断の現場では、一回の検査にかかる時間と、患者に投入されるF−18の量との関係から、放射性同位元素製造装置10に求められるF−18の製造能力は、1時間当たり1Ci程度(1Ci/h)であるといわれている。このようなF−18の製造能力が確保されるためには、図5の評価グラフの結果より、加速器出力ビーム電流が100μAで付与されていることが必要条件となるが、前提条件として(1)所定のエネルギーのイオンビームがO−18水へ有効に照射されていること(2)O−18水の厚さがO−18水中のイオンビームの飛程程度確保されていること(3)ビーム照射される領域のO−18水の密度が維持されていること(4)製造されたF−18水がターゲット内から効率良く取り出せることが要件である。
【0047】
すでに前記したように、イオンビームを照射することで、ターゲット20に封入された原料水Wの内部にボイドが発生・成長してしまうことは、これら(1)〜(4)に記載した要件の阻害要因になり得る。このため、ボイドの発生・成長を抑えて、スペースS内における原料水W(O−18)の密度を確保できるようなターゲット20の材質が選定されることが必要となるわけである。
【0048】
図6は、従来品のターゲットと本実施形態品のターゲットにより、製造されたF−18の飽和収率を対比させたものである。ここで、F−18の飽和収率とは、F−18のβ崩壊時間(110分)に比べ十分長い時間ビーム照射を続けるとO−18水中に存在するF−18の生成量と崩壊量がバランスして殆ど一定となった際のF−18の量を、入射する陽子ビーム電流で規格化したものである。
【0049】
これによれば、本実施形態では、加速器出力ビーム電流を上昇させても、飽和収率が一定値で維持されるのに対し、従来品1では、飽和収率は加速器出力ビーム電流の上昇とともに低下する傾向が得られた。そして、従来品2の構成のようにさらに支持グリッド21の材質を熱伝達の悪いSUS材を用いたものとした場合は、原料水Wにボイドがより多く発生するので飽和収率はさらに低下する結果が得られている。
この結果より、加速器出力ビーム電流を、F−18の製造能力の目標値である1Ci/hを達成するために必要な100μAにした場合、本実施形態品ではF−18の収量が理論値通りに得られているのに対し、従来例では理論値通りに得られていないことがわかる。
【0050】
図7は、従来品のターゲットと本実施形態品のターゲットを用いた場合において、ビーム電流を変化させた場合のターゲット内部の圧力変化を検出した結果である。この結果、本実施形態品では、ビーム電流に対し、直線的に圧力が変化するのに対し、従来例では60μAを境に圧力が急上昇することがわかる。
この本実施形態品における直線的な圧力変化は、原料水Wの温度上昇に伴う水蒸気のボイド発生によるものと考えられ、従来品における圧力の急上昇カーブは、水蒸気とこれに接するターゲット20の壁面との反応による反応ガス(水素ガス)が生成してボイドがさらに成長したことに関連するものと考えられる。
【0051】
なお、従来品と本実施形態品のターゲットを同じ条件で、所定期間、使用し続けたところ、従来品のターゲットではその表面に微粒子の付着が確認されたが、本実施形態品ではそのような微粒子は確認されなかった。従来品のターゲットに付着したこの微粒子の成分分析を行ったところ、図8に示すように、ターゲットと同じ成分からなることが判明し、ターゲットの壁面から剥がれたものであることが判った。これより、従来のターゲットでは、イオンビームの照射の下、原料水Wと壁面が反応して壁面を腐食するが、本実施形態ではそのような現象が発生しないことが実証された。
【0052】
図9に示すように、以上の検証をふまえて、ターゲット20のボディ基板24を構成する材質として、水蒸気に対する耐食性、熱伝導性、F(フッ素)との化合物形成の観点から比較検討した結果、金が最も優れ、続いてパラジウム、白金とする結果が得られた。なお、これら3つの材料の内で最も熱伝導性の悪い白金においてさえ、現在汎用されているニオブ材と同程度の冷却性が確保できると考えられている。
ここで、◎は極めて優れた性質を示し、○は使用可能であることを示し、△は性能に不満があることを示し、×は使用不可能であることを示し、?は実験を行っていないことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る放射性同位元素製造装置の断面図である。
【図2】(a)本発明で用いられるターゲットの側面断面図で、(b)はターゲットの正面を示す正面図である。
【図3】ビームエネルギーの強度に対するF−18の生成核反応断面積を表すグラフである。
【図4】(a)イオンビームがO−18水を通過する際、透過する距離に対し減衰するエネルギーの強度を表すグラフである。(b)同、エネルギーの単位距離あたりの減衰量を表すグラフである。
【図5】100,80,60,40μAの異なる値を示す加速器出力ビーム電流が照射される時間に対し、F−18の生成量を表すグラフである。
【図6】本発明のターゲット、従来のターゲットを使用した場合を対比して、加速器出力ビーム電流に対する飽和収率の変化を示すグラフである。
【図7】本発明のターゲット、従来のターゲットを使用した場合を対比して、加速器出力ビーム電流に対するターゲット内部の圧力変化を示すグラフである。
【図8】従来のターゲットを使用した際に、その表面に付着する微粒子の成分分析結果を示すデータである。
【図9】本発明の放射性同位元素製造装置のターゲットを構成するのに最適な材質について検討した結果を示す表である。
【符号の説明】
【0054】
10 放射性同位元素製造装置
11 イオン源
12 加速器
20 ターゲット
21 支持グリッド
22 透過フォイル
24 ボディ基板
27 通過口
R イオンビーム
S スペース
U 真空領域
W 原料水




 

 


     NEWS
会社検索順位 特許の出願数の順位が発表

URL変更
平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年


 
   お問い合わせ info@patentjp.com patentjp.com   Copyright 2007-2013