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発明の名称 筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−2796(P2007−2796A)
公開日 平成19年1月11日(2007.1.11)
出願番号 特願2005−185911(P2005−185911)
出願日 平成17年6月27日(2005.6.27)
代理人 【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
発明者 安永 真 / 武田 智之 / 中島 彰 / 堀込 泰三 / 高木 大介 / 内山 克昭 / 日高 匡聡 / 石井 仁
要約 課題
点火時期の大幅な遅角によって、触媒の早期活性化と後燃えによるHC低減を実現するとともに、燃圧が低い段階でのスモーク等の悪化を回避する。

解決手段
触媒コンバータの早期昇温が要求される内燃機関の冷間始動時に、点火時期ADVを圧縮上死点後に設定するとともに、点火時期前でかつ圧縮上死点後に燃料を噴射する超リタード燃焼を行う(a)。点火時期直前の高圧燃料噴射により筒内の乱れが向上し、火炎伝播が促進されるので、安定した燃焼を実現できる。始動初期には、燃圧が不十分であり、スモークやHCが悪化するので、(b)のように、圧縮行程噴射I1の噴射量割合を増やし、膨張行程噴射I2を少なくする。燃圧がさらに低い段階では、(c)のように全量を圧縮行程噴射I1とする。
特許請求の範囲
【請求項1】
筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えるとともに、点火プラグを備えてなる筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置において、所定の運転状態のときに、点火時期を圧縮上死点後に設定するとともに、この点火時期前でかつ圧縮上死点後に燃料を噴射する超リタード燃焼を行う一方、燃圧が低い始動直後の期間は、圧縮上死点後の燃料噴射量が減少するように、少なくとも燃料の一部を圧縮上死点前に噴射することを特徴とする筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項2】
超リタード燃焼においては燃料の全量を圧縮上死点後に噴射し、燃圧が低いときには燃料の一部を圧縮上死点前に噴射することを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項3】
超リタード燃焼においては燃料噴射を2回に分割し、1回目の噴射を圧縮上死点前に行うとともに2回目の噴射を圧縮上死点後に行い、燃圧が低いときには2回目の噴射量割合を減少させることを特徴とする請求項1に記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項4】
燃圧が低いほど圧縮上死点後の噴射の割合が少なくなるように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項5】
圧縮上死点後の噴射が所定の最小噴射時間以下となる条件では、燃料の全量を圧縮上死点前に噴射することを特徴とする請求項4に記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項6】
燃料温度に応じて、圧縮上死点後の噴射と圧縮上死点前の噴射との噴射量割合を補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項7】
所定の運転状態として、排気ガス温度の昇温が要求されたときに、上記超リタード燃焼を実行することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項8】
超リタード燃焼における点火時期は、圧縮上死点後15°〜30°CAであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項9】
燃圧が低いときの圧縮上死点後の噴射量の減少に伴って点火時期を進角補正することを特徴とする請求項8に記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項10】
圧縮上死点前の噴射を吸気行程中に行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置。
【請求項11】
筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えるとともに、点火プラグを備えてなる筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御方法であって、機関冷機状態での始動時に、始動初期の第1の段階では、燃料の全量を圧縮上死点前の吸気行程中もしくは圧縮行程中に噴射して圧縮上死点前に点火を行い、これに続く第2の段階では、燃料の一部を吸気行程中もしくは圧縮行程中に噴射するとともに、残部の燃料を圧縮上死点後に噴射して、この噴射時期から遅れた圧縮上死点後に点火を行い、さらにこれに続く第3の段階では、第2の段階よりも圧縮上死点後の燃料噴射量の割合が大となった超リタード燃焼を行うことを特徴とする筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒内に燃料を直接に噴射する筒内直接噴射式火花点火内燃機関に関し、特に、排気系の触媒コンバータの早期昇温(早期活性化)が要求される冷間始動時などにおける噴射時期および点火時期の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、筒内直接噴射式火花点火内燃機関の触媒暖機方法として、排気浄化用の触媒コンバータが活性温度よりも低い未暖機状態のときに、吸気行程から点火時期にかけての期間内で、部分的な空燃比の濃淡を有する混合気を燃焼室内に形成する後期噴射と、この後期噴射より前に燃料を噴射して、後期噴射の燃料と後期噴射の燃焼とで延焼可能な、理論空燃比よりもリーンな空燃比の混合気を燃焼室内に生成する早期噴射と、の少なくとも2回の分割噴射を行い、かつ点火時期をMBT点より所定量リタードさせるとともに、機関の無負荷領域では点火時期を圧縮上死点よりも前に設定し、無負荷領域を除く低速低負荷領域では点火時期を圧縮上死点以降までリタードさせる技術が記載されている。上記後期噴射は、圧縮行程の中期以降、例えば120°BTDC〜45°BTDCに行われる。
【特許文献1】特許第3325230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
内燃機関の冷機時における触媒の早期活性化および後燃えによるHC低減のためには、点火時期の遅角が有効であり、より大きな効果を得るためには、圧縮上死点以降の点火(ATDC点火)が望ましい。ATDC点火で安定した燃焼を行わせるためには、燃焼期間を短縮する必要があり、そのために、筒内の乱れを強化して、燃焼速度(火炎伝播速度)を上昇させることが必要である。
【0004】
このような乱れの強化のために、筒内に高圧で噴射される燃料噴霧のエネルギにより筒内に乱れを生成することが考えられる。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、主に、1回目の燃料噴射(早期噴射)を吸気行程中に行い、2回目の燃料噴射(後期噴射)を圧縮行程中の120°BTDC〜45°BTDCに行っている。このように最後の燃料噴射が圧縮上死点よりも前では、その噴霧により筒内に乱れを生成しても、圧縮上死点以降はその乱れが減衰してしまい、ATDC点火での火炎伝播速度上昇には寄与しない。
【0006】
例えば、図7は、吸気ポート内に設けたガス流動制御弁(例えばタンブル制御弁)を作動させた場合とこのようなガス流動制御弁を具備しない場合とについて、筒内の乱れの大きさを示したものであるが、ガス流動制御弁を作動させることで吸気行程中に生成した乱れ(符号Aの部分)は、圧縮行程の進行とともに減衰し、圧縮行程後期のタンブル流の崩壊に伴い一時的に乱れが大きくなる(符号Bの部分)ものの、圧縮上死点以降は符号Cで示すように急速に減衰してしまい、その乱れを用いた燃焼改善(火炎伝播向上)はあまり期待できない。燃料噴霧による乱れについても同様であり、圧縮上死点より前の燃料噴射により乱れが生成されたとしても、圧縮上死点以降の点火燃焼には寄与しない。
【0007】
このため、ATDC点火の方が排温上昇やHC低減に有利であるが、燃焼安定性が成立しないため、特許文献1では、無負荷領域では点火時期を圧縮上死点前(BTDC点火)としている。
【0008】
本発明は、このような実状を踏まえて、触媒の早期活性化およびHC低減などのためのATDC点火での燃焼安定性を改善することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えるとともに、点火プラグを備えてなる筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御装置において、所定の運転状態のとき、例えば触媒コンバータの冷機時のような排気ガス温度の昇温が必要な場合などに、点火時期を圧縮上死点後に設定するとともに、この点火時期前でかつ圧縮上死点後に燃料を噴射する超リタード燃焼を行うことを特徴としている。なお、NOxを吸着するNOxトラップ触媒においては、硫黄成分(SOx)が触媒に付着することによりNOx吸着性能が低下するので、触媒を強制的に高温化してSOxを放出するSOx放出処理(硫黄被毒解除)を行う必要があるが、このSOx放出処理の際の排気ガス温度の昇温を、上記の超リタード燃焼を利用して行うことも可能である。そして、本発明では、特に、燃圧が低い始動直後の期間は、圧縮上死点後の燃料噴射量が減少するように、少なくとも燃料の一部を圧縮上死点前つまり吸気行程中もしくは圧縮行程中に噴射する。
【0010】
すなわち、圧縮上死点以降では、吸気行程や圧縮行程で生成された乱れは減衰してしまうが、圧縮上死点以降の膨張行程中になされる燃料噴射によって、筒内の乱れを生成・強化することができ、ATDC点火での火炎伝播が促進される。従って、点火時期を圧縮上死点後とした超リタード燃焼が安定的に成立する。
【0011】
ここで、上記のように圧縮上死点後に燃料を噴射する超リタード燃焼においては、十分に燃圧が高くないと、噴霧の粒径が大きくなり、スモークやHCの悪化が生じる。上死点付近では、例えば筒内圧が1.5MPa以上となるので、2.0MPa以上の燃圧がないと、燃料を十分に微粒化できない。これに対し、機関始動時には、燃圧はクランキング開始とともに上昇し始め、機関回転数に伴って上昇するので、始動直後に、燃圧が不十分なまま超リタード燃焼によるスモークやHCが発生する懸念がある。
【0012】
そこで、本発明では、燃圧が低い始動直後の期間は、圧縮上死点後の燃料噴射量を減少させ、少なくとも燃料の一部を圧縮上死点前つまり吸気行程中もしくは圧縮行程中に噴射する。このように圧縮上死点後の噴射量を少なくすることで、燃圧が低いことによるスモークやHCの悪化が抑制される。
【0013】
この場合、燃圧が低いほど圧縮上死点後の噴射の割合が少なくなるように制御することが望ましく、圧縮上死点後の噴射が所定の最小噴射時間以下となる条件では、燃料の全量を吸気行程中もしくは圧縮行程中に噴射することが望ましい。
【0014】
また燃圧が低いときの圧縮上死点後の噴射量の減少に伴って点火時期を進角補正することが望ましい。
【0015】
また、燃料噴霧の粒径は燃料温度にも大きく影響されるので、燃料温度に応じて、圧縮上死点後の噴射と圧縮上死点前の噴射との噴射量割合を補正することが望ましい。具体的には、燃料温度が低いほど燃料噴霧の粒径が大きくなるので、圧縮上死点後の噴射量を減少させる。
【0016】
なお、燃圧が十分に高い状態での超リタード燃焼の態様としては、燃料の全量を圧縮上死点後に噴射する態様のほか、燃料噴射を2回に分割し、1回目の噴射を圧縮上死点前に行うとともに2回目の噴射を圧縮上死点後に行う態様がある。前者の場合、燃圧が低いときには噴射を2回に分けて燃料の一部を圧縮上死点前に噴射することになり、後者の場合、燃圧が低いときには2回目の噴射量割合を減少させることになる。
【0017】
また、本発明の制御方法は、筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を備えるとともに、点火プラグを備えてなる筒内直接噴射式火花点火内燃機関の制御方法であって、機関冷機状態での始動時に、始動初期の第1の段階では、燃料の全量を圧縮上死点前の吸気行程中もしくは圧縮行程中に噴射して圧縮上死点前に点火を行い、これに続く第2の段階では、燃料の一部を吸気行程中もしくは圧縮行程中に噴射するとともに、残部の燃料を圧縮上死点後に噴射して、この噴射時期から遅れた圧縮上死点後に点火を行い、さらにこれに続く第3の段階では、第2の段階よりも圧縮上死点後の燃料噴射量の割合が大となった超リタード燃焼を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、点火時期を圧縮上死点後に設定した超リタード燃焼の燃焼安定性を十分に確保することができ、例えば冷間始動の際に、触媒の早期活性化および後燃えによるHC低減を達成することができる。そして、燃圧が不十分となる始動直後は、燃料の一部を圧縮上死点前に噴射することにより、燃圧不足によるスモークやHCの悪化を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1は、この発明が適用される筒内直接噴射式火花点火内燃機関のシステム構成を示す構成説明図である。
【0021】
この内燃機関1のピストン2により形成される燃焼室3には、吸気弁(図示せず)を介して吸気通路4が接続され、かつ排気弁(図示せず)を介して排気通路5が接続されている。上記吸気通路4には、吸入空気量を検出するエアフロメータ6が配設されているとともに、制御信号によりアクチュエータ8を介して開度制御される電子制御スロットル弁7が配設されている。排気通路5には、排気浄化用の触媒コンバータ10が配設されているとともに、その上流側および下流側にそれぞれ空燃比センサ11,12が設けられており、さらに、上流側の空燃比センサ11と並んで、触媒コンバータ10入口側での排気温度を検出する排気温度センサ13が設けられている。
【0022】
燃焼室3の中央頂上部には、点火プラグ14が配置されている。また、燃焼室3の吸気通路4側の側部に、該燃焼室3内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁15が配置されている。この燃料噴射弁15には、高圧燃料ポンプ16およびプレッシャレギュレータ17によって所定圧力に調圧された燃料が、高圧燃料通路18を介して供給されている。従って、各気筒の燃料噴射弁15が制御パルスにより開弁することで、その開弁期間に応じた量の燃料が噴射される。19は、燃圧を検出する燃圧センサ、20は、上記高圧燃料ポンプ16へ燃料を送る低圧燃料ポンプである。
【0023】
また内燃機関1には、機関冷却水温を検出する水温センサ21が設けられているとともに、クランク角を検出するクランク角センサ22が設けられている。さらに、運転者によるアクセルペダル踏み込み量を検出するアクセル開度センサ23が設けられている。
【0024】
上記内燃機関1の燃料噴射量や噴射時期、点火時期、等は、コントロールユニット25によって制御される。このコントロールユニット25には、上述した各種のセンサ類の検出信号が入力されている。コントロールユニット25は、これらの入力信号により検出される機関運転条件に応じて、燃焼方式つまり均質燃焼とするか成層燃焼とするかを決定するとともに、これに合わせて、電子制御スロットル弁7の開度、燃料噴射弁15の燃料噴射時期および燃料噴射量、点火プラグ14の点火時期、等を制御する。なお、暖機完了後においては、低速低負荷側の所定の領域では、通常の成層燃焼運転として、圧縮行程の適宜な時期に燃料噴射が行われ、かつ圧縮上死点前の時期に点火が行われる。燃料噴霧は点火プラグ14近傍に層状に集められ、これにより、空燃比を30〜40程度とした極リーンの成層燃焼が実現される。また、高速高負荷側の所定の領域では、通常の均質燃焼運転として、吸気行程中に燃料噴射が行われ、かつ圧縮上死点前のMBT点近傍において点火が行われる。この場合は、燃料は筒内で均質な混合気となる。この均質燃焼運転としては、運転条件に応じて、空燃比を理論空燃比とした均質ストイキ燃焼と、空燃比を20〜30程度のリーンとした均質リーン燃焼と、がある。
【0025】
本発明は、触媒コンバータ10の早期昇温が要求される内燃機関1の冷間始動時において、排気温度を高温とするように、超リタード燃焼を行うものであり、以下、この超リタード燃焼の燃料噴射時期および点火時期を図2に基づいて説明する。
【0026】
図2は、超リタード燃焼の3つの実施例を示しており、実施例1では、点火時期を15°〜30°ATDC(例えば20°ATDC)とし、燃料噴射時期(詳しくは燃料噴射開始時期)を、圧縮上死点以降でかつ点火時期前に設定する。なお、このとき、空燃比は、理論空燃比ないしはこれよりも若干リーン(16〜17程度)に設定される。
【0027】
すなわち、触媒暖機促進ならびにHC低減のためには、点火時期遅角が有効であり、上死点以降の点火(ATDC点火)が望ましいが、ATDC点火で安定した燃焼を行わせるためには、燃焼期間を短縮する必要があり、そのためには、乱れによる火炎伝播を促進しなければならない。前述したように、圧縮上死点以降では、吸気行程や圧縮行程で生成された乱れは減衰してしまうが、本発明では、圧縮上死点以降の膨張行程中になされる高圧の燃料噴射によって、ガス流動が生じ、これにより筒内の乱れを生成・強化することができる。従って、ATDC点火での火炎伝播が促進され、安定した燃焼が可能となる。
【0028】
図2の実施例2は、燃料噴射を2回に分割した例であり、1回目の燃料噴射を吸気行程中に行い、2回目の燃料噴射を圧縮上死点以降に行う。なお、点火時期および空燃比(2回の噴射を合わせた空燃比)は実施例1と同様である。
【0029】
このように、圧縮上死点後の燃料噴射(膨張行程噴射)に先立ち、吸気行程中に燃料噴射(吸気行程噴射)を行うと、吸気行程噴射の燃料噴霧による乱れは圧縮行程後半で減衰してしまい、圧縮上死点後におけるガス流動強化には殆ど影響を与えないが、噴射燃料が燃焼室全体に拡散していて、ATDC点火によるHCの後燃えの促進に寄与するので、HC低減および排温上昇には有効である。
【0030】
また、図2の実施例3は、燃料噴射を2回に分割し、1回目の燃料噴射を圧縮行程にて行い、2回目の燃料噴射を圧縮上死点以降に行う。このように、圧縮上死点後の燃料噴射(膨張行程噴射)に先立ち、圧縮行程中に燃料噴射(圧縮行程噴射)を行うと、実施例2の吸気行程噴射に比べれば、圧縮行程噴射の方が、その燃料噴霧による乱れの減衰が遅くなるため、この1回目の燃料噴射による乱れが残り、圧縮上死点以降に2回目の燃料噴射を行うことで、1回目の燃料噴射で生成した乱れを助長するように乱れを強化でき、圧縮上死点付近における更なるガス流動強化が図れる。
【0031】
この実施例3の場合に、1回目の圧縮行程噴射は、圧縮行程前半でもよいが、圧縮行程後半(90°BTDC以降)に設定すると、上死点付近での乱れをより高めることができる。特に、この1回目の圧縮行程噴射を、45°BTDC以降、より望ましくは20°BTDC以降とすると、圧縮上死点以降のガス流動をより強化することができる。
【0032】
このように、実施例1〜3の超リタード燃焼によれば、点火の直前に燃料噴霧により筒内の乱れを生成・強化することができ、火炎伝播を促進して、安定した燃焼を行わせることができる。特に、点火時期を15°〜30°ATDCまで遅角させることにより、触媒の早期活性化およびHC低減のための十分な後燃え効果を得ることができる。換言すれば、このように点火時期を大きく遅らせても、その直前まで燃料噴射を遅らせて、乱れの生成時期も遅らせることで、火炎伝播向上による燃焼改善を達成できるのである。
【0033】
次に、燃圧に関連した冷間始動時の制御について説明する。なお、ここでは、超リタード燃焼として、前述した図2の実施例3(燃料噴射を2回に分割し、1回目の燃料噴射を圧縮行程中に行い、2回目の燃料噴射を圧縮上死点以降に行う)を例に説明するが、図2の実施例1あるいは実施例2であってもよい。冷機状態からの始動の場合、上述のような排気ガス温度の上昇のために、始動後、直ちに超リタード燃焼とすることが望ましいのであるが、始動直後(例えばクランキング開始から1〜2秒程度の間)は、燃圧が不十分であり、スモークやHCが悪化する。図4は、クランキング開始後の燃圧変化を示しており、これは、機関回転数の立ち上がりと相似しているが、クランキング開始後、例えばa点付近で初爆が発生し、さらに機関回転数が上昇するに伴って、燃圧が目標燃圧に到達する。また、図5は、圧縮上死点付近で燃料を噴射した場合の燃圧と燃料粒径との関係を示しており、図示するように、燃圧が低いほど、粒径が増大し、これに伴ってスモークやHCが悪化する。
【0034】
そこで、この実施例では、燃圧が図4の所定の圧力P1(例えば圧縮上死点での筒内圧以上の2MPa程度に設定される)に達するまでは、図3の(b)に示すように、燃圧が十分であるときの超リタード燃焼(図3の(a))に比べて圧縮上死点後の膨張行程噴射I2の噴射量を少なくし、かつ圧縮上死点前の圧縮行程噴射I1を増加させた噴射を行う。また、このとき、膨張行程噴射I2の噴射量の減少に伴って、点火時期ADVを進角補正する。圧縮行程中に圧縮行程噴射I1として噴射された燃料は、膨張行程噴射I2の噴射時期前に筒内に拡散し、希薄混合気を形成するので、燃圧が多少低くても、スモークやHCの悪化が抑制される。
【0035】
また、このとき、膨張行程噴射I2と圧縮行程噴射I1との割合は、燃圧に応じて異なる割合となり、燃圧が低いほど膨張行程噴射I2の割合が少なくなるように制御される。従って、燃圧が低い段階におけるスモークやHCの悪化が確実に回避される。
【0036】
そして、燃圧が非常に低く、膨張行程噴射I2が所定の最小噴射時間以下となる条件では、図3の(c)に示すように、燃料の全量が圧縮行程中に噴射される。つまり、膨張行程噴射I2の割合が0となり、圧縮行程噴射I1が100%となる。具体的には、燃圧が図4の圧力P2より低い段階では、燃料の全量が圧縮行程中に噴射される。
【0037】
従って、クランキング開始からの経時的な噴射の態様の変化としては、3段階に変化することになり、まず燃圧が非常に低い第1の段階の間、具体的にはクランキング開始から燃圧が圧力P2に達するまでは、図3(c)のように燃料の全量が圧縮行程中に噴射される。この噴射時期では圧縮上死点に比べて筒内圧が低く、かつ点火までの間に混合も促進されるので、燃圧が低くても確実に初爆を開始することができ、かつスモークやHCの悪化が回避される。次に、燃圧が図4のP2からP1の間にある第2の段階においては、図3(b)のように膨張行程噴射I2と圧縮行程噴射I1とに分割した形での噴射が行われる。この状態では、点火時期は圧縮上死点よりも遅角しているので、スモークやHCの悪化を抑制しつつ排気ガス温度の上昇作用が早期に開始される。そして、燃圧が図4の圧力P1に達した後の第3の段階では、図3(a)に示す本来の超リタード燃焼となり、排気ガス温度の上昇作用が最大限に得られる。
【0038】
なお、燃料噴霧の粒径は燃料温度によっても影響され、燃料温度が低いほど粒径が大となる。従って、燃料温度が低いほど膨張行程噴射I2の噴射量が減少するように、膨張行程噴射I2と圧縮行程噴射I1との噴射量割合を補正するようにしてもよい。
【0039】
図6は、上述した燃圧に基づく超リタード燃焼の切換処理の一例を示すフローチャートであって、まずステップ1で、吸気温や油水温などに基づく排温上昇要求の有無を判別し、排温上昇要求があればステップ2の超リタード制御へ移行する。排温上昇要求がなければ、ステップ7の通常噴射制御へ移行する。ここでは、燃料の全量を圧縮上死点前つまり圧縮行程中もしくは吸気行程中に噴射する。
【0040】
ステップ3では、燃圧が所定値以下であるか判定し、所定値以下であれば、ステップ5で、前述したように、膨張行程噴射の噴射量を減少させるとともに圧縮行程中もしくは吸気行程中の噴射量を増やした状態で、2回に分割した燃料噴射を実行する。また燃圧が十分であればステップ4へ進み、燃料温度が所定値以下であるか判定し、所定値以下であれば、同じくステップ5へ進む。そして、燃料温度が十分に高ければ、ステップ2へ戻り、所定の超リタード燃焼を行う。なお、ステップ5では、詳しくは、燃圧や燃料温度に応じた形で、膨張行程噴射の噴射量と圧縮行程中もしくは吸気行程中の噴射の噴射量とが設定される。また、ステップ6では、膨張行程噴射の噴射量が所定の下限値以下でないか判定し、下限値以下であれば、ステップ7の通常噴射制御へ移行する。
【0041】
なお、本発明の超リタード燃焼は、排気系の触媒コンバータ10としてNOxトラップ触媒を用いた場合の硫黄被毒解除のためにも利用することができる。NOxトラップ触媒は、流入する排気の排気空燃比がリーンであるときにNOxを吸着し、流入する排気の排気空燃比がリッチであると、吸着していたNOxを放出して触媒作用により浄化処理するものであるが、燃料中の硫黄成分(SOx)が触媒に結合するとNOx吸着性能が低下する。そのため、適当な時期に、触媒を強制的に高温化してSOxを放出除去する処理(いわゆる硫黄被毒解除)が必要である。本発明の超リタード燃焼は、非常に高い排気温度を得られるので、このNOxトラップ触媒の硫黄被毒解除処理に適したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る内燃機関全体のシステム構成を示す構成説明図。
【図2】本発明の超リタード燃焼の燃料噴射時期および点火時期を示す特性図。
【図3】燃圧に応じた燃料噴射時期および点火時期の一例を示す特性図。
【図4】機関始動時の燃圧変化を示す特性図。
【図5】燃圧と燃料粒径との関係を示す特性図。
【図6】超リタード燃焼の切換制御の処理を示すフローチャート。
【図7】従来技術における筒内の乱れの変化を示す説明図。
【符号の説明】
【0043】
3…燃焼室
10…触媒コンバータ
14…点火プラグ
15…燃料噴射弁
19…燃圧センサ
25…コントロールユニット




 

 


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