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発明の名称 2サイクルエンジン用軸受付きコンロッド
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−24235(P2007−24235A)
公開日 平成19年2月1日(2007.2.1)
出願番号 特願2005−209439(P2005−209439)
出願日 平成17年7月20日(2005.7.20)
代理人 【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
発明者 市川 健一
要約 課題
エンジン運転中の耐潤滑不足性を向上させることができ、軸受部の長寿命化が可能な2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドを提供する。

解決手段
この2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドは、2サイクルエンジンにおけるコンロッド1の大端1bまたは小端1cに軸受4を嵌合させたものである。軸受4は、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪11の内径面11cに沿って複数の針状ころ12を配列したシェル型ころ軸受である。シェル型の外輪11の内径面11cの周方向面粗度を、Ra0.05〜0.3μmの数値範囲とする。外輪11の内径真円度は10μm以下とする。外輪11の筒部の偏肉量は10μm未満とする。
特許請求の範囲
【請求項1】
2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、上記シェル型の外輪の内径面の周方向面粗度を、Ra0.05〜0.3μmの数値範囲としたことを特徴とする2サイクルエンジン用軸受付きコンロッド。
【請求項2】
2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、上記シェル型の外輪の内径真円度を10μm以下の数値範囲としたことを特徴とする2サイクルエンジン用軸受付きコンロッド。
【請求項3】
2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、上記シェル型の外輪の筒部の偏肉量を10μm未満の数値範囲としたことを特徴とする2サイクルエンジン用軸受付きコンロッド。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドの製造方法であって、前記シェル型の外輪を加工するプレス加工にしごき工程を設け、このしごき工程における前記外輪の外径面となる外径側しごき面での潤滑条件を、略流体潤滑状態とする2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドの製造方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
この発明は、2サイクルエンジンに用いられる軸受付きコンロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
排気量の小さい2サイクルエンジンに用いられる軸受付きコンロッドにおいては、その軸受として、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受が用いられる。このころ軸受におけるシェル型外輪のプレス加工は、従来、以下に概略的に示す工程で行われている。
まず、絞り工程で円形ブランク素材をカップ状に成形してから、決め押し工程でカップ底コーナ部を所定のコーナ半径に決め押しする。この後、底抜き工程でカップ底中央を打ち抜いて外輪の一方の鍔部を形成し、トリミング工程でカップ上端部を均一高さにトリミングする。なお、上記絞り工程または決め押し工程の後に、しごき工程を加える場合もある。通常、これらのプレス加工は、トランスファプレスや順送りプレスを用いて行われ、トランスファプレスを用いる場合は、円形ブランク素材の打ち抜き工程も一緒に組み込まれることが多い。外輪の他方の鍔部は、熱処理後の組立て工程で、カップ上端部を内方に折り曲げることにより成形される。
【0003】
前記シェル型外輪のブランク素材には、SCM415等の肌焼鋼の鋼板が用いられ、所定の製品強度を確保するために、プレス加工後に浸炭焼入れ、焼戻し等の熱処理が施される。肌焼鋼の鋼板はSPCC等の軟鋼板に比べて炭素含有量が多く、絞り性の目安となるr値が低いので、絞り工程での絞り回数を複数回に分けて、1回当たりの絞り比を小さく設定している。
【0004】
このように、シェル型外輪は多数のプレス加工工程を経て形成されるので、金型の精度誤差や、加工工程ごとの不均一なひずみの累積により、筒部の真円度や偏肉量等の寸法精度が削り加工で形成される外輪よりも劣り、軸受の寿命も短くなる。
このようなシェル型針状ころ軸受の寿命を向上させることを目的として、シェル型外輪の熱処理を軸受組立て後に行い、かつ、この熱処理を浸炭窒化処理後に、さらに焼入れ、焼戻しするものとして、外輪の外径真円度を高めるとともに、各軸受部品の強度も高めるようにしたシェル型針状ころ軸受の製造方法がある(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特許第2997047号公報(第2頁、図10〜図12)
【特許文献2】特許第3073937号公報(第1〜2頁、図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されたシェル型針状ころ軸受の製造方法は、軸受組立て後に熱処理を行うので、シェル型外輪の熱ひずみを低減してその外径真円度を高めることができるが、シェル型外輪のプレス加工工程は従来と同じであるので、内径真円度や筒部の偏肉量はあまり改善されない。ちなみに、従来のシェル型外輪の内径真円度は、内径が25mm程度のもので15〜40μmであり、特許文献2に開示された製造方法のものでも10μmを超える。また、筒部偏肉量は、特許文献2に開示された製造方法のものも含めて、内径が25mm程度のもので10〜20μmである。このため、スミアリング等の表面損傷や表面起点型の剥離が発生して、軸受寿命が短くなることがある。
【0006】
また、プレス加工で形成されるシェル型外輪は、削り加工で形成される外輪よりも内径面の面粗度が粗くなる。通常、削り加工で形成される外輪の内径面の面粗度はRa0.05μm程度であるのに対して、シェル型外輪の内径面の面粗度はRa0.4μm程度である。このため、従来のシェル型針状ころ軸受を、2サイクルエンジンのロッドに採用した場合、潤滑油がガソリンと混合されて希薄となり潤滑状態が極めて悪く、かつ高速回転下で使用されることから、ころの転走する外輪の内径面ところの間で潤滑不足が発生し易くなる。
【0007】
この発明の目的は、エンジン運転中の耐潤滑不足性を向上させることができ、軸受部の長寿命化が可能な2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドを提供することである。
この発明の他の目的は、厳しい使用条件下においても、軸受の長寿命化を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明における第1の発明にかかる2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドは、2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、シェル型の外輪の内径面の周方向面粗度を、Ra0.05〜0.3μmの数値範囲としたことを特徴とする。
【0009】
シェル型外輪の内径面の周方向面粗度の下限をRa0.05μmとしたのは、これよりも周方向面粗度が細かくなって内径面が滑らかになり過ぎると、転走する針状ころの弾性接触領域に保持される潤滑油が少なくなり、スミアリング等の表面損傷が生じ易くなるからである。
周方向面粗度の上限をRa0.3μmとしたのは、以下の理由による。本発明者は、シェル型外輪の内径面の面粗度を変えたシェル型ころ軸受について、耐潤滑不足試験を実施した結果、Ra0.3μm以下にすると、潤滑不足が抑えられ、2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に用いるという用途にも適用できることを確認した。
この内径面の周方向面粗度が耐潤滑不足に効果があるのは、つぎのように考えられる。すなわち、針状ころのころ径に対して、ころの回転方向の凹凸(周方向面粗度)がある程度以上に粗くなると、ころとの間に形成される油膜を突き抜け金属接触を起こす。このため、周方向面粗度がRa0.3μmを超えると、耐潤滑不足性が損なわれるものと思われる。
【0010】
この発明における第2の発明にかかる2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドは、2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、上記シェル型の外輪の内径真円度を10μm以下の数値範囲としたことを特徴とする。
【0011】
外輪の内径真円度を10μm以下としたのは、以下の理由による。本発明者は、シェル型外輪の内径真円度を変えたシェル型ころ軸受について軸受寿命試験を行った結果、内輪真円度と軸受寿命は良い相関関係を有し、内径真円度を10μm以下にすると、厳しい使用条件下でも十分な長寿命化を達成できることを確認した。
【0012】
この発明における第3の発明にかかる2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドは、2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、上記シェル型の外輪の筒部の偏肉量を10μm未満の数値範囲としたことを特徴とする。
【0013】
外輪の筒部の偏肉量を10μm未満としたのは、以下の理由による。本発明者は、シェル型外輪の筒部偏肉量を変えたシェル型ころ軸受について軸受寿命試験を行った結果、外輪の筒部偏肉量と軸受寿命は良い相関関係を示し、筒部偏肉量を10μm以下とすると、厳しい使用条件下でも十分な長寿命化を達成できることを確認した。
【0014】
シェル型外輪の内径真円度や筒部偏肉量の低減が軸受の長寿命化に効果があるのは、内径面での針状ころの転走が円滑になり、ころのスリップやがたつき等による内径面での局部的な摩擦や応力集中が抑制されるためと考えられる。
【0015】
この発明の2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドの製造方法は、この発明における前記いずれかの構成の2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドを製造する製造方法であって、前記シェル型の外輪を加工するプレス加工にしごき工程を設け、このしごき工程における前記外輪の外径面となる外径側しごき面での潤滑条件を、略流体潤滑状態とする方法である。
外輪の内径面の周方向面粗度、内径真円度、および筒部偏肉量の少なくともいずれかを前記数値範囲に規制する方法として、上記のように、前記シェル型外輪を形成するプレス加工にしごき工程を設け、このしごき工程における前記外輪の外径面となる外径側しごき面での潤滑条件を、略流体潤滑状態とする方法を採用することができる。
この方法の採用により、シェル型外輪を形成する過程におけるカップ成形物の上端面が板厚方向で均一に近くなるので、ブランク径を小さくして歩留を向上させることができるとともに、絞り加工に必要なプレス荷重も低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明における第1の発明にかかる2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドは、2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、上記シェル型の外輪の内径面の周方向面粗度を、Ra0.05〜0.3μmの数値範囲としたため、エンジン運転中の耐潤滑不足性を向上させることができ、軸受寿命が向上する。
この発明における第2の発明にかかる2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドは、2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、上記シェル型の外輪の内径真円度を10μm以下の数値範囲としたため、厳しい使用条件下でも、軸受の長寿命化を達成することができる。
この発明における第3の発明にかかる2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドは、2サイクルエンジンにおけるコンロッドの大端または小端に軸受を嵌合させた軸受付きコンロッドであって、上記軸受を、絞り工程を含むプレス加工で形成されたシェル型の外輪の内径面に沿って複数の針状ころを配列したシェル型ころ軸受とし、上記シェル型の外輪の筒部の偏肉量を10μm以下の数値範囲としたため、厳しい使用条件下でも、軸受の長寿命化を達成することができる。
【0017】
この発明の2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドの製造方法は、この発明における前記いずれかの構成の2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドの製造方法であって、前記シェル型の外輪を加工するプレス加工にしごき工程を設け、このしごき工程における前記外輪の外径面しごき面での潤滑条件を、略流体潤滑状態とするものであるため、ブランク径を小さくして歩留を向上させることができるとともに、絞り加工に必要なプレス荷重も低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
この発明の一実施形態を図1ないし図4と共に説明する。図1は、この実施形態の軸受付きコンロッドの部分破断側面図を示す。この軸受付きコンロッドは、例えば2サイクルエンジン、特に小型エンジンに用いられるものであって、コンロッド1と、コンロッド1の大端1bおよび小端1cに嵌合させたシェル型ころ軸受4とでなる。コンロッド1は、図2(A),(B)に断面図および平面図で示すように、コンロッド本体1aの両端にそれぞれリング状の大端1bおよび小端1cを形成したものであり、これら大端1bおよび小端1cの円筒面状の各軸受嵌合孔2,3内に、前記シェル型ころ軸受4がそれぞれ圧入状態に嵌合させてある。大端1bおよび小端1cに嵌合させた各シェル型ころ軸受4は、寸法が異なる他は、互いに同じ構成のものである。
【0019】
シェル型ころ軸受4は、図3に拡大断面図で示すように、絞り工程を含むプレス加工で形成された円筒状のシェル型外輪11と、このシェル型外輪11の内径面11cに沿って配列した複数の針状ころ12と、これらの針状ころ12を回転自在に保持する保持器13とでなる。シェル型外輪11の両端部は内径側に向けられた鍔部11a,11bとされている。保持器13は円筒状に形成され、円周方向の複数箇所に、針状ころ12をそれぞれ保持するポケット14が設けられている。この保持器13は、両端のリング状部分13aと、周方向に隣合うポケット14間に形成されて両側のリング状部分13aに繋がる柱部13bとで構成される。保持器13の両側のリング状部分13aは、シェル型外輪11の鍔部11a,11bの内径側部分に対向配置される。保持器13は鋼材製とされ、プレス加工、削り加工、溶接組立のいずれかの製法により製造される。
【0020】
シェル型外輪11は、図4に概略的にフロー図で示す工程により以下のように製造される。まず、プレス加工により、SCM415リン酸塩皮膜処理鋼板の円形ブランク素材が、1回の絞りしごき工程でカップ成形物とされ、そのカップ底コーナ部が決め押し工程で所定のコーナ半径に決め押し成形される。絞りしごき工程では、ダイス側に潤滑性に優れたプレス加工油が塗布され、外径側しごき面での潤滑条件が略流体潤滑状態とされる。
つぎに、底抜き工程でカップ底中央部が打ち抜かれて外輪11の一方の鍔部11aが形成され、トリミング工程でカップ上端部が均一な高さにトリミングされる。この後、プレス加工された外輪11は熱処理工程で浸炭焼入れ・焼戻し処理され、最後の組立て工程で他方の鍔部11bが内方への折り曲げ加工により形成される。
【0021】
シェル型外輪11の上記プレス加工では、絞り工程を1回のみとし、しごき工程をこの1回の絞り工程と同時に行う絞りしごき工程とするが、絞り工程を3回以下の複数回とし、しごき工程を最終回の絞り工程と同時に行う絞りしごき工程としても良いし、あるいはしごき工程を絞り工程または決め押し固定の後で別に行っても良い。
【0022】
この実施形態では、上記工程でシェル型外輪11を製造することにより、シェル型外輪11の内径面11cの周方向面粗度をRa0.05〜0.3μmの数値範囲に、内径真円度を10μm以下の数値範囲に、筒部偏肉量を10μm未満の数値範囲に規制する。周方向面粗度、内径真円度、および筒部偏肉量のうちのいずれか一つまたは二つを上記の数値範囲としても良い。
【0023】
この構成の2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドによると、シェル型ころ軸受4におけるシェル型外輪11の内径面の周方向面粗度をRa0.3μm以下としたため、2サイクルエンジンのコンロッドの大端または小端の軸受という用途で要求される運転条件においても、軸受の潤滑不足が抑えられ、軸受の長寿命化が達成される。また、上記周方向面粗度をRa0.05μm以上としたため、スミアリング等の表面損傷も生じ難い。
シェル型外輪11の内径真円度は10μm以下としたため、厳しい使用条件下においても、十分な長寿命化が達成される。
また、シェル型外輪11の筒部の偏肉量を10μm以下としたため、この点からも、厳しい使用条件下で、十分な長寿命化が達成される。
【0024】
また、この2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドの製造方法は、シェル型ころ軸受4におけるシェル型外輪11の内径面の周方向面粗度、内径真円度、および筒部偏肉量の少なくともいずれかを前記数値範囲に規制する方法として、上記のように、シェル型外輪11を加工するプレス加工にしごき工程を設け、このしごき工程における前記外輪11の外径面となる外径側しごき面での潤滑条件を、略流体潤滑状態とする方法であるため、次の効果が得られる。すなわち、この方法の採用により、シェル型外輪11を形成する過程におけるカップ成形物の上端面が板厚方向で均一に近くなるので、ブランク径を小さくして歩留を向上させることができるとともに、絞り加工に必要なプレス荷重も低減することができる。
【0025】
つぎに、試験方法および試験結果を示す。本発明者は、プレス試験機を用いて、SCM415鋼板の絞りしごき試験を行い、カップ成形物の内外径面の面粗度、内径真円度、および筒部偏肉量を調査した。この結果、ダイス側(カップ成形物の外径面しごき面)に潤滑性の優れた高粘度プレス加工油を塗布すると、シェル型外輪11の内径面となるカップ成形物の内径面における面粗度が外径面よりも細かくなること、および内径真円度と筒部偏肉量が改善されることを見い出した。
【0026】
図4の工程で製造された上記シェル型外輪11について、内径面11cの面粗度、内径真円度(すなわち内径面11cの真円度)、および筒部の偏肉量を測定した結果を図5〜図9に示す。測定した外輪11の寸法は、外径28mm、軸方向長さ16mm、肉厚0.95mmである。
内径面11cの面粗度の測定では、外輪11を軸方向に沿って半円筒状に2分割して行った。内径面11cの面粗度は、周方向と軸方向に沿ってそれぞれ測定した。周方向面粗度は、外輪11の両端から内側へ各2mmの位置と軸方向中央位置の計3箇所で測定し、軸方向面粗度は周方向に各90°の位相差をなす4箇所で測定した。
なお、円形ブランク素材の面粗度は、図5(A)に示すように表裏面ともRa0.49μm程度、外輪11の外径面の面粗度は、図5(C)に示すようにRa0.44μm程度である。
【0027】
図5は上記面粗度の調査結果を示す。この調査結果によると、円形ブランク素材の面粗度が表裏面ともRa0.49μm程度であるのに対して(図5(A))、カップ成形物内径面の面粗度はRa0.15μmと非常に細かくなっている(図5(B))。カップ成形物外径面の面粗度はRa0.44μmであり(図5(C))、円形ブランク素材の面粗度とあまり変わっていない。
なお、図5に示すカップ成形物内外径面の面粗度は、いずれも軸方向に沿って測定したものであるが、周方向に沿って測定した面粗度もこれらと略同等であった。この測定結果は、通常の絞りしごき工程で観察されるものとは逆である。通常の絞りしごき加工では、ダイスでしごかれるカップ成形物外径面の方が細かい面粗度となり、内径面の面粗度は円形ブランク素材の面粗度とあまり変わらない。
【0028】
これらの試験結果から、以下のことが考えられる。すなわち、カップ成形物外径面の面粗度が素材の面粗度とあまり変わらなかったのは、カップ成形物の外径側しごき面では、加工される素材とダイスが殆ど接触しない略流体潤滑状態であったと考えられる。このように、ダイス側の潤滑条件を略流体潤滑状態にすると、ダイスとの摩擦に起因する外径側しごき面での剪断力が殆ど無くなって、ポンチとダイスの間のしごき部における応力が板厚方向で均一な圧縮応力状態となり、図6で検証されるように、素材が板厚方向で均一に減厚変形するようになる。
【0029】
図6は、前記カップ成形物の上端部の板厚断面図を示す。上記推定を検証するように、ダイス側に潤滑性に優れたプレス加工油を塗布したカップ成形物の上端部は、板厚方向で均一に軸方向へ延伸している。このように、素材が板厚方向で均一に減厚変形して軸方向へ延伸すると、ポンチに接触するカップ成形物の内径面がポンチ面に沿って軸方向へ相対移動し、この相対移動によるポンチ表面との摺動で内径面の面粗度が細かくなったものと考えられる。
一方、通常の絞りしごき加工によるカップ成形物の上端部は、外径面側が著しく軸方向に延伸している。これは、ダイスとの摩擦に起因する剪断力でカップ成形物の外径面側が優先的に減厚変形し、内径面側があまり減厚変形しないからである。このように、内径面側があまり減厚変形しない通常の絞りしごき加工では、カップ成形物の内径面がポンチ表面と殆ど相対移動しないので、その面粗度は素材とあまり変わらない。
【0030】
前記外径側しごき面での潤滑条件を略流体潤滑条件とする加工方法では、図6に示したように、カップ成形物の上端面が板厚方向で均一になるので、ブランク径を小さくして歩留りも向上させることができる。また、ブランク径を小さくすることにより、絞り加工に必要なプレス荷重も低減される。
【0031】
シェル型外輪11の内径真円度と筒部偏肉量については、後に表1に示すように、内径真円度は10μm以下に、筒部偏肉量は10μm未満に低減されることを確認した。これの調査結果は、以下のように考えられる。すなわち、上述したように、しごき加工におけるダイス側の潤滑条件が略流体潤滑状態とされて円形ブランク素材が板厚方向で均一に減厚変形すると、カップ成形物の筒部偏肉量が低減されるとともに、ポンチに接触するカップ成形物の内径面がポンチ表面に沿って軸方向へ相対移動してポンチ外径面の形状になじみ、ポンチから離型後もカップ成形物の内径真円度が良好に保持されるものと考えられる。一方、通常の絞りしごき加工では、カップ成形物の内径面側はあまり減厚変形せず、ポンチ表面とも殆ど相対移動しないので、カップ成形物の内径真円度や筒部偏肉量はあまり改善されない。
【0032】
図7(A),(B)は上記面粗度の測定結果の他の一例を示す。そのうち図7(A)は外輪11の軸方向中央位置で測定した内径面11cの周方向面粗度であり、Ra0.18μmと非常に細かくなっている。図示は省略するが、外輪11の両端から内側へ各2mmの位置で測定した内径面11cの周方向面粗度もRa0.05〜0.3μmの範囲にあり、円形ブランク素材の面粗度や外輪外径面の面粗度よりも細かくなっている。また、図7(B)は外輪11の周方向の1つの位相で測定した内径面11cの軸方向面粗度であり、Ra0.15μmと非常に細かくなっている。図示は省略するが、他の位相で測定した軸方向面粗度も、いずれもRa0.3μm以下と非常に細かくなっている。
【0033】
図7に示した実施例および比較例につき、耐潤滑不足性試験を行った。下記の表1は、図7に示したシェル型外輪11と、比較例となる3つのサンプルのシェル型外輪を用いてそれぞれシェル型ころ軸受を構成し、これを2サイクルエンジンに組み込んで耐潤滑不足性試験を実施した結果を示す。この場合のサンプル1の周方向面粗度はRa0.36μm、サンプル2の周方向面粗度はRa0.36μm、サンプル3の周方向面粗度はRa0.44μmである。また、この場合の試験条件は以下の通りである。
混合比:ガソリン:潤滑オイル(50:1)
運転パターン:フルスロットル
運転時間:2時間または焼付くまで
【0034】
【表1】


【0035】
この焼付き性試験によると、外輪内径面の周方向面粗度がRa0.36μm以上の場合(サンプル2,3の場合)には焼付きが発生したが、周方向面粗度がRa0.30μm以下の場合(実施例、サンプル1の場合)には焼付きは発生せず、問題なく2時間運転ができた。このことから、上記したようにシェル型外輪11の内径面11cの周方向面粗度の上限をRa0.3μmとすると、耐焼き付き性に効果があることが確認できる。
【0036】
シェル型外輪11の内径面11cの周方向面粗度の上限をRa0.3μmとすることが、耐焼き付き性の効果を上げる理由は、つぎのように考えられる。すなわち、針状ころ12のころ径に対して、ころ12の回転方向の凹凸(周方向面粗度)がある程度以上に粗くなると、ころ12との間に形成される油膜を突き抜け金属接触を起こすため、周方向面粗度がRa0.3μmを超えると耐焼き付き性が損なわれるものと思われる。
【0037】
次の表2は、図4の工程で製造したシェル型外輪11(実施例A〜F)と、従来の工程で製造したシェル型外輪(比較例A〜F)について、その内径真円度と筒部偏肉量を測定した結果を示す。測定した外輪の寸法は、外径28mm、軸方向長さ16mm、肉厚0.95mmである。内径真円度と筒部偏肉量の軸方向での測定位置は、上記した内径面の周方向面粗度の測定位置と同じ3箇所とし、筒部偏肉量については、これらの各軸方向位置での周方向に90°の位相差で4箇所、合計12箇所で測定した。
【0038】
【表2】


【0039】
この測定結果によると、各実施例A〜Fのものは、いずれも内径真円度が10μm以下で、筒部偏肉量が10μm未満となっている。なお、比較例Aは、先の特許文献2に開示された製造方法で製造たものである。
【0040】
この測定結果から、上記したしごき加工におけるダイス側の潤滑条件が略流体潤滑状態とされて円形ブランク素材が板厚方向で均一に減厚変形すると、カップ成形物の筒部偏肉量が低減されるとともに、ポンチに接触するカップ成形物の内径面がポンチ表面に沿って軸方向へ相対移動してポンチ外径面の形状になじみ、ポンチから離型後もカップ成形物の内径真円度が良好に保持されるものと考えられる。一方、通常の絞りしごき加工では、カップ成形物の内径面側はあまり減厚変形せず、ポンチ表面とも殆ど相対移動しないので、カップ成形物の内径真円度や筒部偏肉量はあまり改善されない。
【0041】
表2に示した実施例および比較例のシェル型ころ軸受について軸受寿命試験を行った。次の表3,表4は、表2に示した実施例A〜Fおよび比較例A〜Eのシェル型外輪を用いて組み立てたシェル型針状ころ軸受についての軸受寿命試験の結果を示す。各実施例A〜Fおよび比較例A〜Eのサンプル数は各々8個とし、軸受寿命はL10寿命(サンプルの90%が破損しないで使える時間)で評価した。この場合の試験条件は以下の通りである。
アキシアル荷重:9.81kN
回転速度:5000rpm
潤滑油:スピンドル油VG2
【0042】
【表3】


【0043】
【表4】


【0044】
図8は、上記軸受寿命試験の結果における内径真円度とL10寿命の関係を示す。この図から、シェル型外輪11の内径真円度が10μm以下である各実施例のものは、いずれもL10寿命が200時間を超え、軸受寿命が大幅に延長されていることが分かる。なお、内径真円度が10μmを超える比較例のものは、最も優れた比較例AでもL10寿命が200時間に満たない。この試験結果から、上記したようにシェル型外輪11の内径真円度を10μm以下とすることで、厳しい条件下でも十分な長寿命化を達成できることが確認できる。
【0045】
図9は、上記軸受寿命試験の結果における筒部偏肉量とL10寿命の関係を示す。この図から、筒部偏肉量についても、10μm未満である各実施例のものはいずれもL10寿命が200時間を超え、軸受寿命が大幅に延長されていることが分かる。この試験結果から、上記したようにシェル型外輪11の筒部偏肉量を10μm未満とすることで、厳しい条件下でも十分な長寿命化を達成できることが確認できる。
【0046】
上記したように、シェル型外輪11の内径真円度や筒部偏肉量の低減がシェル型針状ころ軸受の長寿命化に効果があるのは、外輪内径面11cで針状ころ12の転走が円滑になり、ころ12のスリップやがたつき等による内径面11cでの局部的な摩擦や応力集中が抑制されるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の一実施形態にかかる2サイクルエンジン用軸受付きコンロッドの部分破断側面図である。
【図2】(A)はコンロッドの断面図、(B)は同平面図である。
【図3】同コンロッドにおけるシェル型針状ころ軸受の拡大断面図である。
【図4】同軸受のシェル型外輪の製造工程のフロー図である。
【図5】(A)は同シェル型外輪のブランク素材の面粗度の図、(B)はカップ成形物内径面の面粗度の図、(C)はカップ成形物外径面の面粗度の図である。
【図6】カップ成形物の上端部の板厚断面図である。
【図7】(A)は前記シェル型外輪の内径面の周方向面粗度の図、(B)は同内径面の軸方向面粗度の図である。
【図8】シェル型外輪の内径真円度と軸受寿命との関係を示す図である。
【図9】シェル型外輪の筒部偏肉量と軸受寿命との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1…コンロッド 1a…コンロッド本体
1b…大端
1c…小端
2,3…軸受嵌合孔
4…シェル型ころ軸受
11…シェル型外輪
11a,11b…鍔部
11c…外輪内径面
12…針状ころ




 

 


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