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発明の名称 ロックアップ装置
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−2990(P2007−2990A)
公開日 平成19年1月11日(2007.1.11)
出願番号 特願2005−187487(P2005−187487)
出願日 平成17年6月27日(2005.6.27)
代理人 【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
発明者 井上 雄二 / 田端 淳 / 鎌田 淳史
要約 課題
ロックアップ装置のスリップ頻度やエンジンの出力の増加にも対応でき、ロックアップ装置の係合開始後および係合完了後のそれぞれの状況に好適に対応できるロックアップ装置を提供する

解決手段
ロックアップピストン38のフロントカバー18の径方向内側に環状の湿式摩擦材44を配置し、その外周縁より径方向外側に環状のダイアモンド状炭素薄膜プレート46を配置することで、係合開始時は動摩擦係数が高く、耐熱性、耐摩耗性に優れたダイアモンド状炭素薄膜プレート46をフロントカバー18に接触させ、係合完了後は、静摩擦係数が高くシール性にも優れた湿式摩擦材44を接触させることで、高トルクの伝達が可能となる。
特許請求の範囲
【請求項1】
エンジンの回転が伝達されるフロントカバーと、該フロントカバーに連結され該フロントカバーと一体的に回転させられるポンプインペラと、該ポンプインペラの回転を流体を介して出力軸に伝達するタービンランナとを有する流体伝動装置において、前記フロントカバーに対向した状態で前記タービンランナに軸心方向に移動可能に設けられた円板状のロックアップピストンを備え、該ロックアップピストンを前記フロントカバーに押し付けることによって前記エンジンの回転を直接前記出力軸に伝達するロックアップ装置であって、
前記ロックアップピストンおよび前記フロントカバーの相互に押し付けられる面の少なくとも一方に、ダイアモンド状炭素薄膜コーティングされたダイアモンド状炭素薄膜プレートと湿式摩擦材とが固着され、
前記湿式摩擦材は前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートよりも径方向内側に環状に配置されるとともに、前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートは該湿式摩擦材の外周縁より径方向外側に環状に配置されていることを特徴とするロックアップ装置。
【請求項2】
前記ロックアップクラッチおよび前記フロントカバーの面の一方に設けられた湿式摩擦材およびダイアモンド状炭素薄膜プレートと他方の面との間隔は、非係合時において、外周側に向かうほど小さくされていることを特徴とする請求項1に記載のロックアップ装置。
【請求項3】
前記摩擦材のダイアモンド状炭素薄膜プレートには、径方向外側に向かうにつれて該ダイアモンド状炭素薄膜プレートの厚みが薄くなるように傾斜面が設けられ、
前記フロントカバーの該傾斜面と対向する部位には前記傾斜面と略平行に傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のロックアップ装置。
【請求項4】
エンジンの回転が伝達されるフロントカバーと、該フロントカバーに連結され該フロントカバーと一体的に回転させられるポンプインペラと、該ポンプインペラの回転を流体を介して出力軸に伝達するタービンランナとを有する流体伝動装置において、前記フロントカバーに対向した状態で前記タービンランナに軸心方向の移動可能に設けられた円板状のロックアップピストンを備え、該ロックアップピストンを前記フロントカバーに押し付けることによって前記エンジンの回転を直接前記出力軸に伝達するロックアップ装置であって、
前記フロントカバーおよび前記ロックアップピストンの一方および他方には、湿式摩擦材およびダイアモンド状炭素薄膜コーティングされたダイアモンド状炭素薄膜プレートが相互に接触可能にそれぞれ固着されていることを特徴とするロックアップ装置。
【請求項5】
前記湿式摩擦材およびダイアモンド状炭素薄膜プレートの相互に接触させられる摩擦面は、非係合時において外周側に向かうほど相互間隔が小さくなるように設けられていることを特徴とする請求項4に記載のロックアップ装置。
【請求項6】
前記ロックアップピストンに設けられている前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートは、径方向外側に向かうにつれて前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートの厚みが増すように形成されていることを特徴とする請求項4または5に記載のロックアップ装置。
【請求項7】
前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートは、前記ロックアップピストンに周方向に設けられている環状溝に嵌め着けられていることを特徴とする請求項5または6に記載のロックアップ装置。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体伝動装置内に設けられているロックアップ装置の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の自動変速機内にはトルクコンバータに代表される流体伝動装置が備えられており、エンジンの回転はトルクコンバータを介して自動変速機の入力軸に伝達される。トルクコンバータは、ポンプインペラ、タービンランナ、およびワンウェイクラッチを介して自動変速機のケースに固定されたステータからなり、各部材に備えられている羽根車が作動流体である油に浸されこれを媒介としてトルクを伝達する。
【0003】
また、トルクコンバータに備えられているロックアップ装置は、エンジンの回転をポンプインペラに伝達するフロントカバーに対向するように配置され、ロックアップ装置に備えられているロックアップピストンがフロントカバーの内壁面に押し付けられることでロックアップ装置が係合させられると、エンジンからの回転が直接自動変速機の入力軸に伝達される。
【0004】
ところで、前記ロックアップピストンは円板状の形状を有し径方向に比較的長く、ロックアップピストンのフロントカバー側の油圧とタービンランナ側の油圧との差圧によって摺動するが、この差圧によってロックアップ装置の係合時にロックアップピストンがたわむことが知られている。
【0005】
また、ロックアップ装置のロックアップピストンとフロントカバーの互いに接触する面の少なくとも一方には摩擦材が備えられる。この摩擦材は、係合開始後には大きなすべり速度に対処するための大きい動摩擦係数、摩擦に対する耐摩耗性、および摩擦熱に対する耐熱性が必要とされ、係合完了後には高トルクを伝達するための大きい静摩擦係数が必要とされるが、この係合開始後と係合完了後に要求される摩擦材の条件は互いに相反するものであり、これらの条件を同時に満たす摩擦材を見つけることは困難であった。
【0006】
上記の問題を解決するため、特許文献1に記載されているロックアップ装置は、フロントカバーの内周面と外周面とに各々異なる摩擦材を配置し、係合開始後は外周面側に位置する比較的動摩擦係数の大きい摩擦材をロックアップピストンに接触させ、係合完了後はロックアップピストンのたわみにより内周面に位置する比較的静摩擦係数の大きい摩擦材を接触させることで、前述の問題を解決している。
【0007】
また、特許文献2に記載のロックアップ装置は、繊維を混入した樹脂からなる摩擦材の外周面を切削することによって比較的大きな動摩擦係数を有する低樹脂率層を露出させ、内周面側は比較的大きな静摩擦係数を有する高樹脂率層が露出することによって、特許文献1と同様にロックアップピストンのたわみを利用し係合状態に応じた摩擦材を接触させることによって、前述の問題を解決している。
【0008】
【特許文献1】特公平2−5945号公報
【特許文献2】特開平5−99297号公報
【特許文献3】特開2003−343597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年のロックアップ装置のスリップ制御によるスリップの頻繁化やエンジンの出力の増加に伴うトルクコンバータの入力トルクは増加しており、上記特許文献1および2を始めとしたこれまでの摩擦材ではこれらの増加事項に対処しきれない恐れがあった。さらに、特許文献2では、動摩擦係数の大きい低樹脂層を露出させ、係合時における線接触を防ぐために摩擦材の切削加工を行う必要があるが、摩擦材は非常に薄いためフロントカバーに固着した状態で切削しなければならず、その状態での摩擦材の切削はフロントカバーの内周面に切削のバイトが接触する問題があり加工が困難であった。
【0010】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、近年のロックアップ装置のスリップ制御によるスリップの頻繁化やエンジンの出力の増加にも対応でき、ロックアップ装置の係合開始後および係合完了後のそれぞれの状況に好適に対応できるロックアップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、上記目的を達成するための請求項1にかかる発明の要旨とするところは、エンジンの回転が伝達されるフロントカバーと、該フロントカバーに連結され該フロントカバーと一体的に回転させられるポンプインペラと、該ポンプインペラの回転を流体を介して出力軸に伝達するタービンランナとを有する流体伝動装置において、前記フロントカバーに対向した状態で前記タービンランナに軸心方向に移動可能に設けられた円板状のロックアップピストンを備え、該ロックアップピストンを前記フロントカバーに押し付けることによって前記エンジンの回転を直接前記出力軸に伝達するロックアップ装置であって、前記ロックアップピストンおよび前記フロントカバーの相互に押し付けられる面の少なくとも一方に、ダイアモンド状炭素薄膜コーティング(以下、DLCコーティング)されたダイアモンド状炭素薄膜プレートと湿式摩擦材とが固着され、前記湿式摩擦材は前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートよりも径方向内側に環状に配置されるとともに、前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートは該湿式摩擦材の外周縁より径方向外側に環状に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このようにすれば、摩擦材に使用されるダイアモンド状炭素薄膜コーティングされたダイアモンド状炭素薄膜プレートは他の摩擦材に比べても動摩擦係数が高く、耐熱性および耐摩耗性に優れているため、ロックアップ装置の係合開始時においては、ダイアモンド状炭素薄膜プレートがフロントカバーと接触するので大きなすべり速度や高トルクに対応することが可能となり、さらに係合が進みすべり速度が少なくなるとともにロックアップピストンがたわみ始めると、静摩擦係数が高く油のシール性にも優れた湿式摩擦材をフロントカバーに接触させることで高トルクが伝達可能となる。
【0013】
ここで、好適には、請求項2にかかる発明では、請求項1に記載のロックアップ装置において、前記ロックアップクラッチおよびフロントカバーの面の一方に設けられた湿式摩擦材およびダイアモンド状炭素薄膜プレートと他方の面との間隔は、非係合時において、外周側に向かうほど小さくされていることを特徴とする。このようにすれば、係合開始時にダイアモンド状炭素薄膜プレートのみを面接触させることができるため、実用的なロックアップ装置となる
【0014】
ここで、好適には、請求項3にかかる発明では、請求項1または2に記載のロックアップ装置において、前記摩擦材のダイアモンド状炭素薄膜プレートには、径方向外側に向かうにつれて該ダイアモンド状炭素薄膜プレートの厚みが薄くなるように傾斜面が設けられ、前記フロントカバーの該傾斜面と対向する部位には前記傾斜面と略平行に傾斜面が設けられていることを特徴とする。このようにすれば、ダイアモンド状炭素薄膜プレートおよびフロントカバーに互いに略平行な傾斜面を設けることで、それら2つの部材が面接触し易くなるとともに湿式摩擦材が係合開始時においてその傾斜面による空間によってフロントカバーと接触するのが防がれるため、湿式摩擦材の耐久性が向上し実用的なロックアップ装置となる。
【0015】
また、好適には、上記目的を達成するための請求項4にかかる発明では、エンジンの回転が伝達されるフロントカバーと、該フロントカバーに連結され該フロントカバーと一体的に回転させられるポンプインペラと、そのポンプインペラの回転を流体を介して出力軸に伝達するタービンランナとを有する流体伝動装置において、前記フロントカバーに対向した状態で前記タービンランナに軸心方向の移動可能に設けられた円板状のロックアップピストンを備え、そのロックアップピストンを前記フロントカバーに押し付けることによって前記エンジンの回転を直接前記出力軸に伝達するロックアップ装置であって、前記フロントカバーおよび前記ロックアップピストンの一方および他方には湿式摩擦材およびダイアモンド状炭素薄膜コーティングされたダイアモンド状炭素薄膜プレートが相互に接触可能にそれぞれ固着されていることを特徴とする。このようにすれば、ロックアップピストンまたはフロントカバーにダイアモンド状炭素薄膜プレートが固着されるため、対向して配置される湿式摩擦材の切削加工を行うことなく高頻度スリップや高トルクに対応可能なロックアップ装置を提供することができる。
【0016】
また、好適には、請求項5にかかる発明では、請求項4に記載のロックアップ装置において、前記湿式摩擦材およびダイアモンド状炭素薄膜プレートの相互に接触させられる摩擦面は、非係合時において外周側に向かうほど相互間隔が小さくなるように設けられていることを特徴とする。このようにすれば、このロックアップ装置の係合完了時には湿式摩擦材とダイアモンド状炭素薄膜プレートとを全面接触させることが可能となるため実用的なロックアップ装置となる。
【0017】
また、好適には、請求項6にかかる発明では、請求項4または5に記載のロックアップ装置において、前記ロックアップピストンに設けられている前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートは、径方向外側に向かうにつれて前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートの厚みが増すように形成されていることを特徴とする。このようにすれば、ロックアップ装置が係合するにつれて同時にロックアップピストンもたわみ出すが、この傾斜面を係合完了時には湿式摩擦材とダイアモンド状炭素薄膜プレートとが全面当たりするように設けることで実用的なロックアップ装置となる。
【0018】
また、好適には、請求項7にかかる発明では、請求項5または6に記載のロックアップ装置において、前記ダイアモンド状炭素薄膜プレートは、前記ロックアップピストンに周方向に設けられている環状溝に嵌め着けられていることを特徴とする。このようにすれば、ダイアモンド状炭素薄膜プレートがロックアップピストン内に嵌め着けられるのでロックアップピストンの軸心方向長さが抑えられるため、全体としてもロックアップ装置の軸心方向長さを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明が適用された自動変速機10内に備えられているロックアップ装置14付のトルクコンバータ12の断面図である。自動変速機10は、図示しないエンジンと駆動輪との間に置かれ、エンジンの出力を駆動輪に伝達する。なお、トルクコンバータ12はその軸心Cに対して対称に構成されているため、その下側が省略されている。
【0021】
トルクコンバータ12は、エンジンの回転をトルクコンバータ12内に充填されている作動油を介して出力軸16に伝達するためのものである。トルクコンバータ12は、フロントカバー18、ポンプインペラ20、タービンランナ22、ステータ24、およびロックアップ装置14によって主に構成される。
【0022】
フロントカバー18は、エンジンの出力を伝達する図示しないクランクシャフトに連結されクランクシャフトと同じ回転数で軸心Cを中心に回転させられる。ポンプインペラ20は、フロントカバー18に連結され、フロントカバー18が回転すると、フロントカバー18と一体的に軸心Cを中心に回転させられる。そして、ポンプインペラ20が回転すると、ポンプインペラ20内に充填されている作動油は、ポンプインペラ20内の羽根車に押されて回転し、それによって発生した遠心力で外周方向に追いやられる。この作動油はポンプインペラ20と向き合うように配置されているタービンランナ22の羽根車に衝突し、その衝撃力によってタービンランナ22を回転させた後、そのタービンランナ22の羽根車のカーブに沿って流れ、後述するステータ24を通ってポンプインペラ20に戻りトルクコンバータ12内を循環する。
【0023】
また、ポンプインペラ20が回転を始めた状態など、ポンプインペラ20およびタービンランナ22の相対回転差が大きい場合、タービンランナ22から流出する作動油の流れはポンプインペラ20の回転を妨げる方向に流れるが、ポンプインペラ20とタービンランナ22との間にワンウェイクラッチ26を備えたステータ24を介在させることで、このステータ24の羽根車によって作動油の流れがポンプインペラ20の流れを助ける方向に変換させられる。
【0024】
一方、タービンランナ22の回転数が上がり、ポンプインペラ20およびタービンランナ22の相対回転差が減少すると逆にステータ24が流れを妨げてしまうが、ワンウェイクラッチ26でステータ24が回転することでその妨げを防いでいる。
【0025】
このようにして、タービンランナ22が回転させられると、タービンランナ22は、トルクコンバータ12内の出力軸16にスプライン嵌合されているタービンハブ28にリベット30によって連結されているため、その回転はタービンハブ28を介して出力軸16に伝達される。
【0026】
また、トルクコンバータ12内にはフロンカバー18に隣接するようにロックアップ装置14が配置されている。このロックアップ装置14は、タービンランナ22と同様にリベット30によってタービンハブ28に接続されている。
【0027】
ロックアップ装置14は、中空円板状のセンタープレート32内に第1ダンパ34および第2ダンパ36の2つのダンパとそのセンタープレート32およびフロントカバー18の間に介在されているロックアップピストン38とを有している。
【0028】
第1ダンパ34および第2ダンパ36は、それぞれロックアップ装置14の係合および解放時に発生する衝撃を吸収するために設けられ、それぞれセンタープレート32の両面を貫通する中空部にスプリングが内蔵され、衝撃発生時にスプリングに衝撃を吸収させるとともにスプリングの脱落を防ぐクッションプレート40がセンタープレート32の両面に付設されている。なお、センタープレート32の外周面はスプライン形状となっている。
【0029】
ロックアップピストン38は円板形状を有しており、その内周部はタービンハブ28にオイルシールを介して摺動可能に嵌め付けられ、外周部はセンタープレート32のスプライン歯の間隙に摺動可能に嵌り合わされるため、センタープレート32と一体的に回転させられる。
【0030】
また、ロックアップピストン38のフロントカバー18に押し付けられる側の面には摩擦材42が固着されている。
【0031】
図2は、その摩擦材42の拡大図である。摩擦材42は、径方向内側に位置する円環状の湿式摩擦材44とその湿式摩擦材44の外周縁より径方向外側に配置されているDLCコーティングされた円環状のダイアモンド状炭素薄膜プレート46(以下、DLCプレート)とからなる。
【0032】
このDLCプレートは、基板の表面に窒化層が形成されている。その窒化層の層厚は、10μm〜600μmの範囲において設定可能であるが、より望ましい好適な範囲が50μm〜400μmであり、最も好適な範囲は100μm〜300μmである。窒化層の膜厚を10μmから600μmに設定することにより、イオン衝撃による凹凸形成を好適に行うことができる。
【0033】
また、その窒化層の表面には機械的なアンカー効果を有する図示しない凹凸部が形成されている。その窒化層の表面には、シリコンを含んだダイアモンド状炭素薄膜(以下、DLC−Si薄膜という)が被覆されている。なお、このDLC−Si膜は約2000Hvの硬さを備えている。
【0034】
また、ダイアモンド状炭素薄膜は非晶質硬質炭素膜ともいう。従って、ダイアモンド状炭素薄膜は非晶質(アモルファス)の炭素膜である。このDLCーSi薄膜の膜厚を0.1〜10μmの範囲にすることにより耐摩耗性が向上するが、さらに望ましくは1μmから5μmの膜厚の範囲とされている。この厚みが0.1μm未満では摩耗に対する耐久寿命が短く、実用に向かない。逆に10μmを越えると被膜が脆くなる。
【0035】
また、DLC−Si薄膜は、ダイアモンド状炭素に対するシリコンの割合が1重量%〜80重量%の範囲で設定可能であるが、より望ましい範囲は5重量%から50重量%であり、最も好適な範囲は10重量%〜40重量%である。ダイアモンド状炭素に対するシリコンの割合が1重量%未満の場合は、良好なDLC−Si薄膜を被膜形成することができない。ダイアモンド状炭素に対するシリコンの割合が10重量%未満となると煤が発生しやすくなり、被膜自体が脆くなる。また、ダイアモンド状炭素に対するシリコンの割合が80重量%を越えると炭素の比率が少なくなり、摩耗しやすくなる。なお、このダイアモンド状炭素薄膜(DLC)にシリコンを含むことによってダイアモンド状炭素の接着性が改善されている。
【0036】
ここで、DLCプレート46の表面加工法について説明する。なお、この表面加工方向については、例えば特開平10−130817号公報および特開平11−310868号公報に開示されている。
【0037】
まず、DLCプレート46の基板に公知の窒化処理を施す。これによりこの基板には窒化層が形成される。この窒化層の表面に対して、ヘリウム、アルゴン等の希ガス或いは水素ガス等のクリーニングガスによるイオン衝撃(スパッタリング)を行う。そして、このイオン衝撃によって、この窒化層表面には機械的なアンカー効果を有する多数の微少な凹凸部が略均一に形成される。
【0038】
次に、その凹凸部が形成されている窒化層に対してイオンプレーティング(アーク、ホロカソード方式など)、スパッタリング、真空蒸着、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)等により、DLC−Si薄膜を被覆形成する。
【0039】
このようにして被覆形成されたDLCプレート46は、他の摩擦材に比べ耐摩耗性、耐熱性に優れており、μ−V特性(摩擦係数μとすべり速度Vとの関係)は正の勾配(右肩上がり)を有している。すなわち、すべり速度が大きくなるにつれて動摩擦係数も大きくなる。これにより、クラッチ係合開始後などのすべり速度が大きい時には優れた摩擦材として機能する。
【0040】
また、湿式摩擦材44は径方向において同じ厚さとされている。しかし、このDLCプレート46は、内周側は湿式摩擦材44と同じ厚さであるが、径方向外側に向かうに従ってそのDCLプレート46の厚さが薄くなるように形成されることにより、その摩擦面に第1傾斜面48が設けられているとともに、フロントカバー18も同様に第2傾斜面50が設けられ、それぞれの傾斜面は略平行となっている。また、第2傾斜面50が設けられることによって、非係合時において、ロックアップピストン38に固着されている摩擦材42とフロントカバー18との接触面の間の間隔Dは、外周側に向かうほど小さくされている。
【0041】
上述のように構成されたロックアップ装置14において、図示しない油圧制御回路によって図1に示される矢印Aの方向に作動油が流れると、ロックアップピストン38のタービンランナ22側の油圧とフロントカバー18側の油圧との間に発生する差圧によって、ロックアップピストン38はフロントカバー18側に移動させられ摩擦材42はフロントカバー18に押し付けられる。
【0042】
また、係合開始時はロックアップピストン38とフロントカバー18との間のすべり速度が大きく、摺動し摩擦熱を生じながら徐々にトルクの伝達が行われる。押圧開始時においては、DLCプレート46およびフロントカバー18の第1傾斜面48および第2傾斜面50によってその傾斜面部のみが互いに面接触させられる。
【0043】
この係合作動において、DLCプレート46は前述のように動摩擦係数が大きいため、伝達トルクの同期化が早く、ロックアップ装置14の係合が円滑に行われる。さらに、DLCプレート46は耐熱性および耐摩耗性に優れているため、焼損および摩耗が抑制される。
【0044】
さらに差圧が大きくなってロックアップ装置14の係合が進みロックアップピストン38がフロントカバー18に圧接されると、図3に示されるように、ロックアップピストン38は、タービンランナ22側の背圧によってたわみが生じ、そのたわみによってDLCプレート46はフロントカバー18から隔離し、摩擦材42とフロントカバー18との接触面がDLCプレート46からそのDLCプレート46の径方向内側に配置されている湿式摩擦材44に変化する。
【0045】
この係合作動においては、ロックアップピストン38とフロントカバー18とのすべり速度は小さくなっており、湿式摩擦材44は、静摩擦係数が大きくシール性にも優れているため、高トルクの伝達が可能となるとともに、湿式摩擦材44とフロントカバー18との間の作動油の漏洩がなく係合力の低下が抑制される。
【0046】
上述のように、本実施例によれば、ロックアップピストン38のフロントカバー18に押し付けられる面に、径方向内側に環状の湿式摩擦材44を配置し、その外周縁より径方向外側に環状のDLCプレート46を配置することで、係合開始時は動摩擦係数が高く、耐熱性、耐摩耗性に優れたDLCプレート46をフロンカバー18に接触させることで円滑な係合が可能となり、係合完了後は、静摩擦係数が高くシール性にも優れた湿式摩擦材44をロックアップピストン38のたわみを利用してフロントカバー18に接触させることで、高トルクの伝達が可能となるともに作動油の漏洩による係合力の低下を抑制させることができる。
【0047】
また、本実施例によれば、ロックアップピストン38とフロントカバー18との間の摩擦面の間隔Dを外周側に向かうにつれて小さくすることによって、ロックアップ装置14の係合開始時にDLCプレート46のみが面接触するため、実用的なロックアップ装置14となる。
【0048】
また、本実施例によれば、摩擦材42のDLCプレート46には、径方向外側に向かうにつれてそのDLCプレート46の厚みが薄くなるように傾斜面を設け、フロントカバー18のDLCプレート46との接触面も同様にDLCプレート46と略平行な傾斜面を設けることによって、係合開始後はDLCプレート46の第1傾斜面48とフロントカバー18の第2傾斜面50のみを面接触させることが可能となり、円滑にロックアップ装置14を係合させることができる。
【0049】
また、本実施例によれば、DLCプレート46はフロントカバー18とロックアップピストン38とがスリップ時に接触する面にのみ配置することでDLCコーティングによるコストを抑えることができる。
【0050】
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
図4は、図2と同様に本実施例が適用されたロックアップピストン38とフロントカバー18との間の拡大図である。本実施例では、フロントカバー18側に湿式摩擦材44、ロックアップピストン38側にDLCプレート46が円環状に固着されている。
【0052】
なお、DLCプレート46は、前述の実施例と同様の方法で表面加工され、前述の実施例と同様に耐摩耗性および耐熱性に優れ、μ−V特性は正の勾配を有している。
【0053】
また、DLCプレート46は、径方向外側に向かうにつれてDLCプレート46の厚みが増加させられて第3傾斜面52が設けられている。このため、相互に対向する湿式摩擦材44の摩擦面とDLCプレート46の第3傾斜面52との間隔Dは外周側に向かうほど小さくされている。この第3傾斜面52は係合完了時にDLCプレート46が全面接触させられるように設計されている。さらに、本実施例ではDLCプレート46は、ロックアップピストン38のフロントカバー18側に設けられている環状溝54に嵌め着けられている。
【0054】
上述のように構成されたロックアップ装置14において、図示しない油圧制御回路によって差圧が発生させられると、ロックアップピストン38はフロントカバー18側に移動させられDLCプレート46は湿式摩擦材44に押し付けられる。
【0055】
本実施例では、係合開始後から径方向外側からDLCプレート46が徐々に湿式摩擦材44に押圧され始め、ロックアップピストン38のタービンランナ22側の油圧よってロックアップピストン38はたわみ始める。
【0056】
さらに押圧が進み、係合が完了すると、図5に示されるようにロックアップピストン38のたわみとDLCプレート46の第3傾斜面52によってDLCプレート46と湿式摩擦材44とが全面接触させられる。
【0057】
上述のように、本実施例によれば、フロントカバー18には湿式摩擦材44、ロックアップピストン38にはDLCプレート46をそれぞれ接触可能に配置させることによって、係合開始時においてはDLCプレート46の性質によって円滑な係合がなされるとともに、係合完了後においては湿式摩擦材44によって高トルクの伝達が可能になる。
【0058】
また、本実施例によれば、ロックアップ装置14の非係合時において、湿式摩擦材44およびDLCプレート46の相互に接触させられる摩擦面は、外周側に向かうほど相互間隔Dが小さくなるように設けることで、ロックアップ装置14の係合完了時には湿式摩擦材44およびDLCプレート46とを全面接触させることができる。
【0059】
また、本実施例によれば、DLCプレート46には、径方向外側に伸びるにつれてそのDLCプレート46の厚みを増すような第3傾斜面52を設けることによって、係合完了後においてはDLCプレート46と湿式摩擦材44とを全面接触させることが可能となり効率よく高トルクを伝達することが可能となる。
【0060】
また、本実施例によれば、DLCプレート46をロックアップピストン38に設けられている環状溝54に嵌め着けることによって、ロックアップピストン38の軸心方向の厚みの増大を抑制することができ、全体としてもトルクコンバータ12の軸心方向長さを抑えることができる。
【0061】
また、本実施例によれば、DLCプレート46はフロントカバー18とロックアップピストン38とがスリップ時に接触する面にのみ配置することでDLCコーティングによるコストを抑えることができる。
【0062】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0063】
例えば、本実施例では、フロントカバー18とロックアップピストン38とが互いに接触する摩擦面のロックアップピストン38側に湿式摩擦材44およびDLCプレート46が固着されているが、必ずしもロックアップピストン38側に限定されるものではなく、フロントカバー18側に湿式摩擦材44およびDLCプレート46を固着して実施することもできる。
【0064】
また、本実施例では、フロントカバー18とロックアップピストン38とが互いに接触する摩擦面のロックアップピストン38側にDLCプレート46が固着され、フロントカバー18側に湿式摩擦材44が固着されているが、必ずしも上述の構成である必要はなく、ロックアップピストン38側に湿式摩擦材44が固着され、フロントカバー18側にDLCプレート46が固着されることによっても実施することができる。
【0065】
また、本実施例の摩擦材は円環状に摩擦材を固着しているが、必ずしも円環状に固着させる必要はなく、適度に間隔を設けて環状に摩擦材を配置させることによっても実施することができる。
【0066】
また、本実施例では、トルクコンバータ12にロックアップ装置14を設けているが、必ずしもトルクコンバータ12である必要はなく流体継手(フルードカップリング)に本発明を適用することも可能である。
【0067】
また、本実施例では、シリコンを含んだダイアモンド状炭素薄膜(DLC−Si薄膜)を窒化層の表面に被覆したが、必ずしもダイアモンド状炭素薄膜にシリコンを含む必要はなく、さらに、窒化層以外にも炭化層または炭窒化層の表面にDLCコーティングを施すことも可能である。
【0068】
また、本実施例では、ロックアップピストン38に環状溝54を設け、軸心方向の長さを抑えているが、環状溝54をフロントカバー18側に設け湿式摩擦材44をその環状溝54に嵌め着けて実施することも可能である。
【0069】
また、本実施例では、ロックアップピストン38およびフロントカバー18の互いの摩擦面が外周側に向かうにつれてその間の間隔Dを小さくするための傾斜面が設けられているが、この傾斜面の設け方は本実施例に限定されるものではなく、例えば、ロックアップピストン38またはフロントカバー18が径方向に対して傾斜している構造にするなど、他の様々な方法で傾斜面を設けることによっても実施することができる。
【0070】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施例が適用された自動変速機の要部断面図である。
【図2】図1のロックアップ装置の係合部を拡大図である。
【図3】図1のロックアップ装置の係合が完了した時の図である。
【図4】本発明の他の実施例である係合部の拡大図である。
【図5】図4のロックアップ装置の係合が完了した時の図である。
【符号の説明】
【0072】
14:ロックアップ装置 16:出力軸 18:フロントカバー 20:ポンプインペラ 22:タービンランナ 38:ロックアップピストン 42:摩擦材 44:湿式摩擦材 46:ダイアモンド状炭素薄膜プレート(DLCプレート) 48:第1傾斜面 50:第2傾斜面 52:第3傾斜面 54:環状溝




 

 


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