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発明の名称 多層構造物
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−231718(P2007−231718A)
公開日 平成19年9月13日(2007.9.13)
出願番号 特願2006−140264(P2006−140264)
出願日 平成18年5月19日(2006.5.19)
代理人 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
発明者 播磨 浩一
要約 課題
地震等によって振動する構造物の曲げ振動を抑制するとともに、地震等によって振動する構造物の振幅を抑制して微小振動にし、さらに、構造物に設置されたアイソレータの変位を小さくすることを目的としている。

解決手段
斜め方向に運動するアイソレータ2が、鉛直下向きに凸の円弧軌道Aに沿って運動するように設置され、地震や風による振動が抑制される多層構造物において、アイソレータ2が、複数の層間にそれぞれ設置され、アイソレータ2の運動方向の傾斜角度θが、上層にいくに従い非減少的に増加するように順次変化されている。
特許請求の範囲
【請求項1】
斜め方向に運動するアイソレータが、鉛直下向きに凸の円弧軌道に沿って運動するように設置され、地震や風による振動が抑制される多層構造物において、
前記アイソレータが、複数の層間にそれぞれ設置され、
前記アイソレータの運動方向の傾斜角度が、上層にいくに従い非減少的に増加するように順次変化されていることを特徴とする多層構造物。
【請求項2】
請求項1記載の多層構造物において、
前記複数の層における前記円弧軌道の円弧中心の高さ位置が少なくとも一部で異なるように、前記アイソレータの運動方向の傾斜角度が設定されていることを特徴とする多層構造物。
【請求項3】
請求項1または2記載の多層構造物において、
前記複数の層における前記円弧軌道の円弧中心の高さ位置が上層にいくに従い非下降的に上昇するように、前記アイソレータの運動方向の傾斜角度が設定されていることを特徴とする多層構造物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の多層構造物において、
前記アイソレータが、少なくとも積層ゴムを有する構成からなり、
前記アイソレータが設置された層間に、上層部を支持するとともに前記円弧軌道の方向の動きを許容する可動支承が設置されていることを特徴とする多層構造物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の多層構造物において、
前記アイソレータが設置された層間に、前記円弧軌道の方向の振動エネルギーを吸収して振動を減衰させるダンパーが設置されていることを特徴とする多層構造物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の多層構造物において、
前記アイソレータによる前記円弧軌道の円弧中心が、そのアイソレータよりも上方にある上層構造の重心位置にくるように、前記アイソレータの運動方向の傾斜角度が設定されていることを特徴とする多層構造物。
【請求項7】
請求項6記載の多層構造物において、
前記上層構造の重心回りの回転トルクを作用させない特異点での特異振動の周波数と構造物の円弧振動の何れかの次数の周波数とを一致させるように、構造物の円弧方向剛性が設計されていることを特徴とする多層構造物。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータが設置されて地震や風による振動が抑制される多層構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の免震手法として、水平方向に運動する積層ゴムを用いた手法があるが、高層ビルでは、水平方向の剪断より曲げが卓越することや、積層ゴムの大変位による転倒モーメントが増大することがあるため、積層ゴムを利用した免震手法の適用は難しい。そこで、従来、高層ビル最下部に積層ゴムを斜めに装着して積層ゴムを鉛直下方に凸な円弧軌道に沿って運動させる免震手法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この免震手法は、固有周期を長周期化する際に生じる免震部位の過大変位を抑制するために用いられており、免震性能とのトレードオフがあるため、免震部位の変位が比較的小さな低層建物には効果的である。
【0003】
一方、建物にダンパーを設置して建物の揺れを低減しようとする制振手法がある。制振手法における最も一般的なダンパーとして、鉛を用いた履歴ダンパーやオイルを利用した粘性ダンパーなどの局所的な変形抑制に効果的な部品ダンパーがあるが、これらの部品ダンパーは、構造物全体の共振特性を大きく変えることがなく、建物の揺れを低減させる際の補助的なものである。そこで、従来、構造的なダンパーにより高層ビルの制振を行う制振手法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この制振手法は、建築物上部と下部を分断することによりマスダンパ効果で制振する手法であり、中間免震にも部類する手法である。この手法は、中間免震とすることで建物全体の固有周期を長くすることにより、通常着目する地震周期領域での建物の振動が、節の無い1次モードではなく、中間免震部付近を節とする2次モードで振動するように設計するものであり、2次モードが1次モードより振幅が小さいことを利用した制振手法である。
【0004】
また、固有周期の異なる構造物を連結した構造が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この構造によれば、連結したことによって曲げ剛性を上昇させることができ、また、連結部での大きな運動によって連結部のダンパーの減衰性能を向上させることができる。
【特許文献1】特開平10−68247号公報
【特許文献2】特公平6−60538号公報
【特許文献3】特公平4−26385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に記載された従来の免震手法は、高層の建物に適用した場合に、十分な免震性能を得ようとすると、根元である積層ゴム部(アイソレータ)の変位が非常に大きくなるという問題がある。また、上記した特許文献1に記載された従来の免震手法では、斜めに配置した積層ゴムが、その上の構造体の重量によって積層ゴム中央部付近で大きくはらんで破断する虞があるという問題が存在する。
【0006】
また、上記した特許文献2に記載された従来の制振手法では、単に固有周期を長周期側にシフトしたに過ぎず、一般の複数周期の混入した振動で2次モードが卓越する構造となっていないため、逆に長周期地震の影響が顕著に表れる可能性があるという問題が存在する。また、強風に対しても有効とされているが、強風による振動では卓越モードが顕著に表れるため、地震動で意図したような2次モードでは振動せず1次モードでの振動となり、逆に振幅を増大させる可能性があるという問題が存在する。
【0007】
また、上記した特許文献3に記載された従来の構造は、高層建物で問題となる共振特性を大きく変えるものではなく、連結することにより1つの建物となるため、異なる周期振動によるダンピング効果は期待できず、また、連結部での負荷が非常に大きく現実的では無いという問題がある。
【0008】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、地震等によって振動する構造物の曲げ振動を抑制することを目的としている。すなわち、地震等によって振動する構造物の振幅を抑制して微小振動にするとともに、地震入力に対する各層の応答加速度をそれぞれ減少させ、さらに、構造物に設置されたアイソレータの変位を小さくすることを第1の目的としている。
また、本発明は、長周期地震や風振動に強い多層構造物を提供することを第2の目的としている。
さらに、本発明は、アイソレータの上にある構造体の重量によって当該アイソレータが破断することを防止することを第3の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した第1の目的を達成するため、本発明は、斜め方向に運動するアイソレータが、鉛直下向きに凸の円弧軌道に沿って運動するように設置され、地震や風による振動が抑制される多層構造物において、アイソレータが、複数の層間にそれぞれ設置され、アイソレータの運動方向の傾斜角度が、上層にいくに従い非減少的に増加するように順次変化されていることを特徴としている。
【0010】
中低層の建物では剪断が問題になることが多いが、ラーメン構造等の建物をTimoshenko梁で考えると、高層の建物では、回転慣性の効果が大きく表れることにより曲げが卓越することになるため、曲げ振動への対処が必要である。回転慣性の効果は遠心力となって表れるため、遠心力を抑制することで、高層の建物の曲げ振動を抑制することができる。
上記した本発明では、鉛直下向きに凸の円弧軌道に沿って運動するアイソレータにより、地震発生時に、多層構造物の複数の層において、鉛直下に凸の円弧運動がされることになり、構造物の曲げ運動と逆方向の遠心力が生じ、構造物全体の遠心力の縮退が実現され、これによって、構造物の曲げ振動が抑制される。
【0011】
また、上記した本発明では、鉛直下向きに凸の円弧軌道に沿って運動するアイソレータが、複数の層間にそれぞれ設置されていることで、構造物が微小振動となって構造物の振幅が抑えられるとともに、各アイソレータの変位が分散されて小さくなり、さらに、地震入力に対する各層の応答加速度もそれぞれ減少する。
【0012】
また、構造物の最上階に向かうに従って遠心力の影響は大きくなるが、上記した本発明では、複数の層に設置されたアイソレータの運動方向の傾斜角度が、上層にいくに従い非減少的に増加するように順次変化されているため、上層ほど大きくなる遠心力に対して適正に対処される。
【0013】
ところが、上記した本発明では、例えば、図1に示すように、複数の層における各円弧軌道Aの円弧中心Oが構造物の最上階にそれぞれ位置した構成(以下、最上階不動の構成と記す。)であると、図2に示すように、最上階の振幅が抑制されるとともに、構造物の根元部での巨大変位は緩和されるが、中層部での変位が大きくなる。これは、振動形態の大勢を決する卓越モードである1次モードでの振動抑制ができていないことによるものである。図3は最上階不動の構成における固有振動モードの形状を表しており、図4のグラフは最上階不動の構成における周波数応答を示している。図4に示すように、1次共振の振幅ゲインが優勢であり、このため混合周波数である地震動、インパルスあるいはステップ応答に近い風振動では卓越モードである1次モードがメインとなって表れる。特に、最上階不動の構成では、圧倒的に1次が卓越していて、2次は縮退している。従って、1次共振は長周期地震として懸念される帯域にシフトし、一層大きな振幅を引き起こす可能性がある。このように、周波数応答で1次モードが卓越している限りは長周期地震、風振動に関してはむしろ大振幅となり改悪となったり、単に巨大変位を最上階以外の部分に転嫁したに過ぎない結果になったりする可能性がある。
【0014】
なお、図5に示すように、構造物の中層部分の何れかの層間にアイソレータ2を設置して中間免震にした構成にした場合でも同様である。図6は中間免震の構成における固有振動モードの形状を表しており、図7のグラフは中間免震の構成における周波数応答を示している。図6、図7に示すように、中間免震で意図するのは、注目周波数(一般には最もエネルギーが大きいとされる1Hz)付近に2次共振をセットすることにより、1次モードより2次モードの振幅ゲインが小さいことを利用して制振しようというものであるが、依然として1次共振のゲインが卓越していることには変わりは無く、周波数帯域をシフトしたに過ぎない。したがって、長周期地震、風振動に関してはむしろ大振幅となる可能性がある。
【0015】
そこで、本発明は、上記した長周期地震、風振動による大振幅の問題を解決し、上記した第1の目的に加えて上記した第2の目的を達成するべく、複数の層における円弧軌道の円弧中心の高さ位置が少なくとも一部で異なるように、アイソレータの運動方向の傾斜角度が設定されている構成とすることが好ましい。
また、本発明は、複数の層における円弧軌道の円弧中心の高さ位置が上層にいくに従い非下降的に上昇するように、アイソレータの運動方向の傾斜角度が設定されている構成とすることが好ましい。
【0016】
上記した本発明では、固有振動モードのうち、2次モード以上の高次モードがメインとなって表れ、1次モードと比べて高次モードが卓越された状態となり、地震振動や風振動に対してあたかも高次モードで振動しているかのように振舞う。高次モードでは、振動に多数の節があり、節部分での変位量は小さく、これに伴い腹の部分の変位も小さくなって振幅が減少される。したがって、上記した本発明のように、アイソレータの運動方向の傾斜角度が設定されることで、高次モード卓越による制振機能とアイソレータによる免震機能とをそれぞれ有する。すなわち、アイソレータにより振動応答を長周期・低周波数化するが、アイソレータの運動方向の傾斜角度が変化されることによる多節振動の高次卓越振動となるため擬似的に高周波化したことになり、この結果、アイソレータが設置されていない構造物の固有周期より短周期となる。
【0017】
また、本発明は、上記した第1,第2の目的に加えて上記した第3の目的を達成するべく、アイソレータが少なくとも積層ゴムを有する構成からなる場合に、アイソレータが設置された層間に、上層部を支持するとともに円弧軌道の方向の動きを許容する可動支承が設置されている構成とすることが好ましい。
【0018】
上記した本発明では、円弧軌道方向の復元力は、円弧軌道方向に運動能力を有する積層ゴムからなるアイソレータによってまかなわれ、構造物の重量などの鉛直荷重は、可動支承によって支えられる。また、可動支承は、円弧軌道の方向の動きを許容するため、アイソレータの運動を阻害することはない。
【0019】
また、本発明は、アイソレータが設置された層間に、円弧軌道の方向の振動エネルギーを吸収して振動を減衰させるダンパーが設置されている構成とすることが好ましい。
【0020】
上記した本発明では、円弧軌道の方向の振動エネルギーを吸収するダンパーにより、振動が減衰される。特に、高次モードでは減衰率が大きいため、大きな減衰効果が得られる。
【0021】
また、本発明は、前記アイソレータによる前記円弧軌道の円弧中心が、そのアイソレータよりも上方にある上層構造の重心位置にくるように、前記アイソレータの運動方向の傾斜角度が設定されていることが好ましい。
【0022】
上記した本発明では、アイソレータから上層構造に与える力は上層構造の重心位置を通り、あたかも下層部分からの力がアイソレータで上層構造の重心方向に屈折するかのごとく振舞う。従って、上層構造に水平方向の力が与えられるが、回転トルクは作用しない状態(特異点)となる。この特異点での振動(特異振動)の様子としては、あたかも構造物(剛体)が平行移動するが如く、殆ど最下層から最上層までが層間変形無く、層間変形は地面と最下層間のみで平行移動しているように見える。
【0023】
また、本発明は、上層構造の重心回りの回転トルクを作用させない特異点での特異振動の周波数と構造物の円弧振動の何れかの次数の周波数とを一致させるように、構造物の円弧方向剛性が設計されていることが好ましい。
【0024】
上記した本発明では、特異振動に円弧振動が重畳され、円弧方向の低剛性方向で高周波振動が起こり、高次モードが卓越される。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る多層構造物によれば、地震等によって振動する構造物の曲げ振動を抑制することができる。また、地震等によって振動する構造物の振幅を抑制して微小振動にすることができる。さらに、構造物に設置されたアイソレータの変位を小さくすることができる。
【0026】
また、複数の層における円弧軌道の円弧中心の高さ位置が少なくとも一部で異なるように、アイソレータの運動方向の傾斜角度を設定し、また、複数の層における円弧軌道の円弧中心の高さ位置が上層にいくに従い非下降的に上昇するように、アイソレータの運動方向の傾斜角度を設定することで、構造物の振動が高周波化されるため、高周波化による振幅の減少、高周波化による高減衰、アイソレータによる免震を得ることができるとともに、長周期地震や風振動に対して制振を行うことができる。
【0027】
また、積層ゴムを有するアイソレータが設置された層間に、上層部を支持するとともに円弧軌道の方向の動きを許容する可動支承を設置することで、当該可動支承により、鉛直荷重が支えられるため、積層ゴムに作用する鉛直荷重が低減され、積層ゴムの中部付近が鉛直荷重によってはらみ、破断することを防止することができる。
【0028】
また、アイソレータが設置された層間に、円弧軌道の方向の振動エネルギーを吸収するダンパーを設置することで、振動を減衰させることができる。特に、高次モードでは、減衰率が大きくて大きな減衰効果が得られるため、ダンパーによる振動減衰が効果的となる。
【0029】
また、アイソレータによる円弧軌道の円弧中心が、そのアイソレータよりも上方にある上層構造の重心位置にくるように、アイソレータの運動方向の傾斜角度が設定されている状態(特異点)にすることで、上層構造の重心回りの回転トルクが作用しないので、構造物の振動が小振幅且つ高周波の特異振動となる。
【0030】
また、上層構造の重心回りの回転トルクを作用させない特異点での特異振動の周波数と構造物の円弧振動の何れかの次数の周波数とを一致させるように、構造物の円弧方向剛性が設計されていることで、特異振動に円弧振動が重畳され、円弧方向の低剛性方向で高周波振動が起こり、高次モードが卓越される。これにより、高減衰となり、制振性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る多層構造物の第1、第2の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0032】
[第1の実施の形態]
まず、本発明に係る多層構造物の第1の実施の形態について説明する。
【0033】
図8は第1の実施の形態における多層構造物を模式的に表した図である。
図8に示すように、第1の実施の形態における多層構造物は、複数層の塔状構造物であり、各層間に、鉛直下向きに凸の円弧軌道Aに沿って円弧運動する後述する凹型アイソレータ機構1がそれぞれ設置された構成からなる。なお、必ずしも各層間に凹型アイソレータ機構1をそれぞれ設置する必要はなく、例えば一層おきに凹型アイソレータ機構1を設置してもよい。ただし、凹型アイソレータ機構1を減らすとそれだけ各凹型アイソレータ機構1の変位が大きくなる。また、上記した「円弧運動」水平方向と鉛直方向とを各1軸とする面で切断した場合の運動であって一般の3次元では球面運動を意味し、本発明における「円弧軌道」は、一般の3次元では鉛直下向きに凸の球面を意味する。
【0034】
図9は凹型アイソレータ機構1が設置された層間部分の拡大図である。
図9に示すように、多層構造物のn階と(n+1)階の間に設置された凹型アイソレータ機構1は、斜め方向に運動するアイソレータ2と、上層部である(n+1)階の部分を支持するとともに円弧軌道Aの方向の動きを許容する可動支承3と、水平方向に運動する水平積層ゴム4とから構成されている。
【0035】
アイソレータ2は、円弧軌道Aに沿って運動するように斜めにセットされた積層ゴム5からなり、鉛直下向きに凸の円弧軌道Aに沿って運動するように、n階と(n+1)階の間に装着されている。積層ゴム5(アイソレータ2)は、構造物の端部に配置されている。なお、アイソレータ2は、その円弧軌道Aの方向の運動能力が、円弧軌道Aに対して垂直な方向の運動能力よりも著しく大きいもの、言い換えれば、円弧軌道Aの方向の剛性が、円弧軌道Aに対して垂直な方向の剛性よりも著しく低いものであればよく、例えば、転動部材や滑り部材、さらには、繊維長方向の剛性が高い異方性材料(繊維や炭素系、グラファイト等を織って作ったもの)等であってもよい。また、アイソレータ2は、円弧軌道Aの方向、つまり斜め方向に積層された積層ゴムを鉛直方向にセットしたものでもよく、或いは、積層ゴムと他の部材を組み合わせて構成されたものであってもよい。さらに、アイソレータ2は、必ずしも各層間に設置する必要はなく、また、構造物の端部以外に配置してもよく、その個数も限定されず、さらに、その剛性を同一にする必要もない。
【0036】
可動支承3は、円弧軌道A’に沿って転がる複数の転動体6からなり、各アイソレータ2の近傍にそれぞれ配置されている。なお、可動支承3は、滑り部材であってもよい。また、重力(上層部の重量)による積層ゴム5のはらみが問題ないほど小さい場合、或いは、アイソレータ2が転動部材等からなり、はらみの問題がない場合には、上記した可動支承3を省略することもできる。
【0037】
水平積層ゴム4は、水平にセットされた積層ゴムからなり、構造物の中央に配置されている。なお、水平積層ゴム4に代えて、水平方向に運動機能を有する他のアイソレータを設置してもよく、例えば、転動部材や滑り部材、異方性材料を設置してもよい。また、水平積層ゴム4を省略することも可能である。
【0038】
図10は各層におけるアイソレータ2の傾斜角度分布を示したグラフである。
図8、図10に示すように、各層におけるアイソレータ2の取り付け角度(運動方向の傾斜角度)θは、上層にいくに従い非減少的に増加するように順次変化されている。
【0039】
ここで、経験的に得られた各層におけるアイソレータ2の取り付け角度θの第1例を説明する。なお、以下に説明する第1例は、構造物のアスペクト比(高さ/幅)が5であり、構造物の層数が10層であり、各層の水平方向の寸法は10m、鉛直方向の寸法は10mであり、構造物の各層間端部にアイソレータ2がそれぞれ装着され、さらに、剛性比が、円弧方向剛性:円弧垂直方向剛性=1:1000で剛性特性が同一の場合の一例である。
【0040】
図11は第1例におけるアイソレータ2の取り付け角度θを示した表である。
図11に示すように、アイソレータ2の取り付け角度θは、図10の破線の如く上層にいくに従って折れ線状に増加するように、下層で穏やかに角度上昇して上昇に従って大きく角度上昇する。なお、アイソレータ2の取り付け角度θは、折れ線状に増加しなくてもよく、例えば、図10の実線で示すように、上層にいくに従って単純増加するものでもよく、或いは、図10の一点鎖線で示すように、上層にいくに従って階段状に増加するものでもよく、さらに、上層にいくに従って曲線的に増加するものでもよい。
【0041】
また、図8に示すように、各層におけるアイソレータ2は、各層間に設置されたアイソレータ2の円弧軌道Aの円弧中心Oの高さ位置が少なくとも一部で異なるように、その取り付け角度θをそれぞれ所定角度に設定して設置されている。
【0042】
図12は第1例における各層の円弧軌道Aの円弧中心O位置を示す表であり、図13は第1例における各層の円弧軌道Aの円弧中心O位置を表すグラフである。なお、図12、図13は、アイソレータ2の取り付け角度θが図11に示す角度である場合であって、各層の高さが10mである場合の一例である。
図8、図12、図13に示すように、各層間にそれぞれ設置されたアイソレータ2の円弧軌道Aの円弧中心Oが上層にいくに従い非下降的に上昇するように、各層のアイソレータ2の取り付け角度θが設定されており、各層の円弧中心Oは、構造物の中層から最上階にかけて、ほぼ等間隔に存在する。なお、図12、図13では、円弧中心Oの位置は、上層にいくに従い略直線状に単純上昇しているが、上層にいくに従って折れ線状に増加してもよく、或いは、上層にいくに従って階段状に上昇してもよく、さらに、上昇にいくに従って曲線的に上昇してもよい。
【0043】
図14は構造物の振動状態を模式的に表した図であり、図15は構造物の固有振動モードの形状を表した図であり、図16は構造物の周波数応答を示したグラフである。
上記した第1例の如くアイソレータ2等を設計したとき、構造物の振動応答は、図14〜図16に示すように、4次モードが卓越した状態となる。なお、この4次モード卓越は、図11〜図13に示す例に限定されず、図10に示す種々のパターンで起こり得る。また、固有振動モードのモード形状は、角度設計により異なり、必ずしも図15に示す1〜4次モード形状のようになるとは限らない。例えば、凹型アイソレータ機構1の円弧運動により剪断振動が顕著化した場合に、曲げと剪断が重畳されることによって、3次モードで節が4つなるとともに4次モードで節が3つなる場合も有り得る。
【0044】
次に、経験的に得られた各層におけるアイソレータ2の取り付け角度θの第2例および第3例を説明する。なお、以下に説明する第2例および第3例は、構造物のアスペクト比(高さ/幅)が5であり、構造物の層数が20層であり、各層の水平方向の寸法は20m、鉛直方向の寸法は5mであり、構造物の各層間端部にアイソレータ2がそれぞれ装着され、さらに、剛性比が、円弧方向剛性:円弧垂直方向剛性=1:1000で剛性特性が同一の場合の例である。
【0045】
図17は第2例および第3例におけるアイソレータ2の取り付け角度θを示した表であり、図18は第2例および第3例における各層の円弧軌道Aの円弧中心O位置を示した表であり、図19は第2例および第3例におけるアイソレータ2の取り付け角度θを示したグラフであり、図20は各層の円弧軌道Aの円弧中心O位置を表すグラフである。
図17〜図20に示すように、第2例は上記した条件で4次モードを卓越させる場合の一例であり、アイソレータ2の取り付け角度θを基準として設計されている。アイソレータ2の取り付け角度θは、下層で緩やかに角度が上昇して、上層に従って大きく角度が上昇する折れ線型とした。また、各層の円弧軌道Aの円弧中心Oは、最下層近傍でやや減少するものの、上層に従って放物線状に上昇する。
【0046】
また、第3例は上記した条件で5次モードを卓越させる場合の一例であり、円弧軌道Aの円弧中心Oの位置を基準として設計されている。円弧中心Oは、中間層から最上層に従って1次関数で等間隔に上昇するよう設計されている。ただし、前記設計では最上層近傍での角度が非常に急峻となるため、最上層近傍の円弧中心Oの位置を、角度最大値を40(deg)とするように修正している。そして、アイソレータ2の取り付け角度θは、上層に従って放物線状に上昇して、最上層近傍で既定最大値となる。
【0047】
図21は第2例における構造物の振動状態を模式的に表した図であり、図22は第2例における構造物の固有振動モードの形状を表した図であり、図23は第2例における構造物の周波数応答を示したグラフである。上記した第2例の如くアイソレータ2等を設計した場合、構造物の振動応答は、図21〜図23に示すように、4次モードが卓越した状態となる。なお、固有振動モードのモード形状は、第1例と同様、角度設計により異なり、必ずしも図22に示す1〜4次モード形状のようになるとは限らない。
【0048】
図24は第3例における構造物の振動状態を模式的に表した図であり、図25は第3例における構造物の固有振動モードの形状を表した図であり、図26は第3例における構造物の周波数応答を示したグラフである。上記した第3例の如くアイソレータ2等を設計した場合、構造物の振動応答は、図23〜図26に示すように、5次モードが卓越した状態となる。なお、固有振動モードのモード形状は、第1例及び第2例と同様、角度設計により異なり、必ずしも図25に示す1〜5次モード形状のようになるとは限らない。
【0049】
なお、構造物の根元部分から中層(第1例では5層位まで、第2例および第3例では10層位まで)までの根元付近の層におけるアイソレータ2の取り付け角度θの設定は、構造物の振動の卓越モードに大きな影響を与えるため、誤差には敏感である。例えば、図11や図17に示す根元付近の層の取り付け角度θは、許容誤差が1(deg)位である。一方、先端に近づくに従い角度誤差は鈍感となり、例えば、図11や図17に示す最上階付近の取り付け角度θに10(deg)位の誤差が生じても卓越モードに大きな変化は生じない。したがって、構造物を高次卓越モードで振動させる本発明の場合、構造物の根元付近におけるアイソレータ2の取り付け角度θの設定が非常に重要となる。
【0050】
上記した構成からなる多層構造物によれば、鉛直下向きに凸の円弧軌道Aに沿って運動するアイソレータ2により、地震発生時に、多層構造物の各層において、鉛直下に凸の円弧運動がされることになり、構造物の曲げ運動と逆方向の遠心力が生じ、構造物全体の遠心力の縮退が実現される。これによって、構造物の曲げ振動を抑制することができる。また、鉛直下向きに凸の円弧軌道Aに沿って運動するアイソレータ2が、各層間にそれぞれ設置されていることで、構造物が微小振動となるとともに地震入力に対する各層の応答加速度もそれぞれ減少し、構造物の振幅を抑えることができるとともに、各アイソレータ2の変位が分散されて小さくなり、構造物に設置されたアイソレータ2の変位が小さくすることができる
【0051】
また、各層に設置されたアイソレータ2の取り付け角度θが、上層にいくに従い非減少的に増加するように順次変化されているため、上層ほど大きくなる遠心力に対して適正に対処される。これによって、構造物の曲げ振動を適正に抑制することができる。
【0052】
また、各層における円弧軌道Aの円弧中心Oの高さ位置が少なくとも一部で異なるように、具体的には、各層における円弧軌道Aの円弧中心Oの高さ位置が上層にいくに従い非下降的に上昇するように、アイソレータ2の取り付け角度θを設定しているため、4次モードや5次モード等の高次モードが卓越され、構造物の振動が高周波化される。これによって、高周波化による振幅の減少、高周波化による高減衰、アイソレータ2による免震機能を得ることができるとともに、高次モード卓越による制振機能を発揮することができ、柔構造でありながら制振機能を有する多層構造物を提供することができる。さらに、高次モード卓越により、卓越周期が通常の剛構造の建物よりも短周期となる。このため、中間免震などは卓越周期が長周期地震で懸念される領域にあり、長周期地震に弱いと考えられるのに対し、上記した構成からなる多層構造物は、高次卓越は長周期地震帯域では縮退した低次モードであるため、免震機能を有しながら長周期地震に対しても強い。さらに、上記した構成からなる多層構造物は、高次モード卓越により、一般に卓越モードで振動する風振動でも多節振動による小振幅振動となるため、風振動にも強い。
【0053】
また、積層ゴム5からなるアイソレータ2が設置された層間に、上層部を支持するとともに円弧軌道Aの方向の動きを許容する可動支承3を設置しているため、当該可動支承3により、鉛直荷重が支えられる。これによって、積層ゴム5に作用する鉛直荷重が低減され、積層ゴム5の中部付近が鉛直荷重によってはらみ、破断することを防止することができる。
【0054】
次に、上記した構造物と異なる構造物に本発明を適用する場合の対応について説明する。
上記した第1例、第2例、第3例では、構造物のアスペクト比が5であって層数が10層或いは20層である場合の設計例について説明しているが、上記した第1例、第2例、第3例における構造物と異なる構造物に適用することも可能である。
【0055】
高次モード卓越においても、図1に示す最上階不動の場合と同様に、そのモード決定の重要因子は円弧軌道Aの円弧中心Oの位置である。従って、構造物のアスペクト比が異なる場合や、アイソレータ2を端部以外に装着する場合などでも、円弧軌道Aの円弧中心Oの位置が同じになるよう、図11や図17の取り付け角度θを基準にして角度変換すればよい。
【0056】
図27は異なる構造への角度変換の例を示す図であり、具体的には、n階と(n+1)階の層間に着目して、図27(a)に示すように、アスペクト比5の構造物にアイソレータ2を一対設置する場合を、図27(b)に示すように、アスペクト比rの構造物にアイソレータ2を二対設置する場合に角度変換する場合の例を表している。なお、図27において、符号hは基準面(地面)からアイソレータ2までの鉛直高さ寸法であり、符号dはアイソレータ2から円弧中心Oまでの鉛直高さ寸法であり、符号w、w1、w2は対を成すアイソレータ2の水平間隔の寸法であり、符号θ、θ1、θ2はアイソレータ2の取り付け角度である。
【0057】
図27(a)に示す角度変換の基となる構成(以下、基準構成と記す。)における円弧中心Oの高さ位置yは次式(1)で表される。
【0058】
【数1】


【0059】
また、角度変換する構成(以下、変換構成と記す。)では、円弧中心Oの高さ位置からアイソレータ2の高さ位置までの鉛直距離dが同じになるように角度設計する。また、変換構成のように水平位置に2対のアイソレータ2を配置する場合には、各々のアイソレータ2の取り付け角度θ1、θ2がそれぞれ次式(2)で表される。
【0060】
【数2】


【0061】
したがって、例えば図11の表に示す取り付け角度θを基準にするなら、図11の表に示す取り付け角度θの値を上式(2)に代入計算して、変換構成におけるアイソレータ2の取り付け角度θ1、θ2をそれぞれ算出すればよい。
【0062】
一方、例えば図12の表に示す円弧中心Oの位置を基準にするなら、以下の如く算出すればよい。
まず、上式(1)は次式(3)のように変形される。
【0063】
【数3】


【0064】
そして、図12の表に示すアイソレータ2の高さ位置hの値、および円弧中心Oの高さ位置yの値を上式(3)に代入計算して、アイソレータ2から円弧中心Oまでの鉛直高さ寸法dの値を求める。その後、その鉛直高さ寸法dの値を上式(2)に代入計算して、変換構成におけるアイソレータ2の取り付け角度θ1、θ2をそれぞれ算出すればよい。
【0065】
なお、アイソレータ2が二対以上、アイソレータ2の位置が左右対称でない場合、アイソレータ2の個数が左右均等でない場合などにも同様に算出可能である。これにより、アスペクト比が異なっても、角度変換にアスペクト比rは陽には表れず、構造物の幅の比で計算される。これは、局所層間での円弧中心にのみ着目すればよいことを意味する。
また、勿論、構造物が20層の場合には、図17や図18に示す表の値を基準にしてもよく、さらに、層数が10層や20層以外の場合は、目的とする構造物の階数をNとして、図11の表の10層をN層と読み替え、1〜(N−1)層は図11の表の値を補間し、上述した方法によって角度変換して算出すればよい。
【0066】
さらに、上述した第2例、第3例ではアスペクト比が5の場合に4次モードや5次モードを卓越させる例を示したが、これを上述した方法で角度変換しても、同様に4次モード卓越や5次モード卓越となるとは限らない。例えば、アスペクト比が5よりも小さい構造物に角度変換すると、卓越モードが下がる、つまり、4次モード卓越だったものが3次モード卓越になったり、5次モード卓越だったものが4次モード卓越となったりする場合が多い。反対に、アスペクト比が5よりも大きい構造物に角度変換すると、卓越モードが上がる、つまり、4次モード卓越だったものが5次モード卓越になったり、5次モード卓越だったものが6次モード卓越となったりする場合が多い。ただし、いずれの場合も高次モード卓越であることには変わりない。
【0067】
[第2の実施の形態]
次に、本発明に係る多層構造物の第2の実施の形態について説明する。
【0068】
図28は第2の実施の形態における多層構造物を模式的に表した図であり、図29は第2の実施の形態における凹型アイソレータ機構1が設置された層間部分の拡大図である。
上記した第1の実施の形態では、アイソレータ2の取り付け角度θは、経験的に得られた第1〜第3例によって設定されているが、以下に説明する第2の実施の形態では、図28,図29に示すように、アイソレータ2による円弧軌道Aの円弧中心Oが、そのアイソレータ2よりも上方にある上層構造Xの重心位置O’にくるように、アイソレータ2の取り付け角度θ(運動方向の傾斜角度)が設定されている。つまり、n階のアイソレータに対応する円弧中心Oがn階から最上階までの層(上層構造X)の重心位置O’と一致するように、各層のアイソレータ2の取り付け角度θがそれぞれ設定されている。このように、上層構造Xの重心位置O’と円弧中心Oとが一致するようにアイソレータ2の取り付け角度θが設定されると、アイソレータ2より上の上層構造Xの重心回りの回転トルクがゼロにすることができ、この状態がアイソレータ2を用いた構造物の特異点であり、また、この特異点での振動が特異振動である。
【0069】
具体的には、図29に示すように、各層の大きさ及び質量が均一であって、各層のアイソレータ2が中心軸対称に均一位置に装着されている場合、n階におけるアイソレータ2の取り付け位置の間隔をw、アイソレータ2から最上階までの高さをLとすると、n階に対応する取り付け角度θは、次式(4)で表される。
【0070】
【数4】


【0071】
なお、本発明は、上記した仮定に限定されるものではなく、アイソレータ2が2対以上ある場合、アイソレータ2の位置が左右対称でない場合、アイソレータ2の個数が左右均等でない場合などにも同様に算出可能である。
【0072】
ここで、特異点に対するアイソレータ2の取り付け角度θ及び円弧軌道Aの円弧中心O位置の一例を示す。
なお、以下に説明する一例は、構造物のアスペクト比(高さ/幅)が5であり、構造物の層数が10層であり、各層の水平方向の寸法が20m、鉛直方向の寸法が10mであり、構造物の各層間端部にアイソレータ2が装着され、さらに、円弧方向剛性は滑りあるいは転がりのみを仮定してゼロとした場合の一例である。ただし,剛性値はアイソレータ2の取り付け角度θ及び円弧軌道Aの円弧中心Oの設計値に影響を与えない。
【0073】
図30は上記した設計法により求められたアイソレータ2の取り付け角度θと円弧軌道Aの円弧中心O位置との一例を示した表であり、図31はその一例における各層のアイソレータ2の取り付け角度θを表すグラフであり、図32はその一例における各層の円弧軌道Aの円弧中心O位置を表すグラフである。
図30,図31に示すように、この一例では、アイソレータ2の取り付け角度θは、上層に従って弓形に上昇しており、つまり、下層で緩やかに上昇して上層に従って大きく上昇している。また、図30,図32に示すように、円弧軌道Aの円弧中心Oの位置は、上層に従って直線状に上昇している。
【0074】
次に、上記した特異点特有の振動について説明する。なお、議論を解り易くするため、無重力とし、円弧垂直方向剛性は有限値とするが円弧方向剛性はゼロとする。
【0075】
図33は特異点で設計された多層構造物におけるアイソレータ2から上層構造Xに与える力を表した図である。
図33に示すように、円弧方向剛性がゼロであるから、アイソレータ2から上層構造Xに与える力は、上層構造Xの重心位置O’を通る。これは、あたかも下層からの力がアイソレータ2で上層構造Xの重心方向に屈折するかのごとく振舞う。従って、上層構造Xには水平方向の力が与えられるが、回転トルクは作用しない。
【0076】
図34は特異点で設計された多層構造物の振動の様子を表した図である。なお、図34では、解り易くするために下層の動きを誇張して示しているが、実際は、あたかも剛体(構造物)が平行移動するが如く、殆ど第1層(最下層)から最上層までが層間変形すること無く平行移動しているように見える。つまり、特異点で設計された多層構造物は、顕著な層間変形が地面と第1層間のみで生じ、第1層よりも上層では層間変形が殆ど生じない。本発明では、このような特異点での水平振動を特異振動と称する。
【0077】
ここでは、円弧垂直方向剛性のみを仮定しているから、この振動の固有周期は円弧垂直方向剛性(を水平方向に射影した値)にのみ依存している。アイソレータ2においても円弧垂直方向剛性は高剛性であるため、特異振動は一般的には小振幅で高周波となる。そして、周波数応答は、FFT(高速フーリエ変換)で調べても特異振動周波数の単一周波数であるかの如く、特異振動周波数のみ突出している。
ちなみに、円弧垂直方向剛性を無限大とすると水平方向外力に対して動かない。これは、特異点では水平方向を実現する変形値が存在しないことを意味する。現実には円弧垂直方向剛性を有限なので図34のように振動する。このように、構造物において或る特定方向に運動できない位置、姿勢が特異点と呼ばれる。
【0078】
ここまで、議論を解り易くするべく、無重力で円弧方向剛性をゼロと仮定して説明してきたが、重力下、あるいは円弧方向剛性がゼロでない場合においても特異点は存在し、図34のような高周波水平振動が起こる。なお、下記の説明において、混乱を避けるため、無重力で円弧方向剛性をゼロとした場合には、単に特異点、特異振動と称し、これ以外の場合、つまり、重力下、あるいは円弧方向剛性がゼロでないとした場合には、派生特異点、派生特異振動と称する。
【0079】
特異点で設計された多層構造物では、図33に示すように、円弧垂直方向力ベクトルが重心を通るようになっているが、派生特異点で設計された多層構造物では、円弧垂直方向力ベクトルと円弧方向剛性ベクトルの和が重心を通るようになる。従って、派生特異点とすると、アイソレータ2の取り付け角度θは特異点の場合より小さくなり、すなわち、アイソレータ2は水平に近くなり、特異振動周波数も低くなり、振幅も大きくなる。よって、本発明では、より高周波かつ小振幅である方が高次モード卓越として適しているという観点から、特異点が用いられている。
【0080】
図35は構造物の振動状態を模式的に表した図であり、(a)は円弧方向剛性がゼロの場合、(b)は円弧方向剛性が小の場合、(c)は円弧方向剛性が中の場合である。また、図36は構造物の周波数応答を表したグラフであり、(a)は円弧方向剛性がゼロの場合、(b)は円弧方向剛性が小の場合、(c)は円弧方向剛性が中の場合である。
図35(a),図36(a)に示すように、円弧方向剛性がゼロの場合、多層構造物の振動は、特異振動である水平振動のみの周波数となる。そして、円弧方向剛性を徐々に大きくすると、図35(b),図36(b)に示すように、円弧方向の回転振動(円弧振動)が構造物の層数に相当する次数分だけ表れる。具体的には、図35に示す例では、多層構造物は10層としているため10次モードまで存在する。さらに、円弧方向剛性を徐々に大きくしていくと、図35(c),図36(c)に示すように、10次モード卓越から5次モード卓越へと移行する。
【0081】
積層ゴム5、転動体6を用いた場合に想定される円弧方向剛性/円弧垂直方向剛性≦1/1000の領域では、水平振動(特異振動)と円弧振動が相互干渉を起こすことは無く、ほぼ独立に扱うことができる。従って、例えば、図35(c),図36(c)に示すように、円弧方向剛性を調節することにより円弧振動5次を特異振動と同一周波数になるよう設計することが可能である。この場合、あたかも曲げ5次モードが卓越した振動のように振舞う。
【0082】
以上より,高次モード卓越のメカニズムは、水平振動である特異振動に、円弧振動が重畳されることにより生じるものであることが解る。そして、高次モードの卓越周波数は特異振動周波数に相当し、高次モードの次数は特異振動周波数に最も接近している円弧振動の次数であることが解る。
【0083】
高次モード卓越振動の優れた制振原理は、第1に、特異振動が小振幅であることであり、第2に、円弧振動が高周波であることである。
特異振動は円弧垂直方向の高剛性に依存する高周波振動であり、円弧振動振動が重畳されていない図35(a),図36(a)に示す振動では、小振幅になるが減衰が小さい。一方、図35(c),図36(c)に示す振動のように特異振動に円弧振動が重畳されると、円弧方向の低剛性方向で高周波振動が起こり、この場合には高減衰となる。
【0084】
従って、上記した特異点で設計された多層構造物は、その特異点での特異振動の周波数と構造物の円弧振動の何れかの次数の周波数とを一致させる、つまり、円弧振動共振周波数の領域の内側に特異振動周波数が含まれるように、その構造物の円弧方向剛性が設計されていることが好ましい。例えば、図35(c),図36(c)に示すように、円弧振動の5次固有振動数(共振周波数)が特異振動の周波数と一致するように、構造物の円弧方向剛性を設計する。なお、特異振動の周波数に一致させる円弧振動の周波数は5次に限定されるものではなく、所望の次数の周波数を特異振動の周波数に一致させるように、円弧方向剛性が設計される。
【0085】
上記した構成からなる多層構造物によれば、アイソレータ2による円弧軌道Aの円弧中心Oが、そのアイソレータ2よりも上方にある上層構造Xの重心位置O’にくるように、アイソレータ2の傾斜角度θが設定されているため、上層構造Xに水平方向の力が与えられるが、回転トルクは作用しない特異点となる。このように、上層構造Xの重心O’回りの回転トルクが作用しないので、構造物の振動が小振幅且つ高周波の特異振動となる。
【0086】
また、特異点での特異振動の周波数と、構造物の円弧振動の何れかの次数の周波数とを一致させるように、構造物の円弧方向剛性を設計することで、特異振動に円弧振動が重畳され、円弧方向の低剛性方向で高周波振動が起こり、高次モードが卓越される。これにより、高減衰となり、制振性を向上させることができる。
【0087】
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。
図37は凹型アイソレータ機構1が設置された層間部分の拡大図である。
上記した実施の形態では、図9に示すように、多層構造物のn階と(n+1)階の間には、アイソレータ2と可動支承3と水平積層ゴム4とが設置されているだけであるが、図37に示すように、n階と(n+1)階の間に、円弧軌道A”の方向の振動エネルギーを吸収するダンパー7が設置されていてもよい。
【0088】
図37に示すように、アイソレータ2と併用するダンパー7は、円弧軌道A”の方向の振動減衰するよう斜め装着されている。この円弧軌道A”は、アイソレータ2の運動方向である円弧軌道Aや可動支承3の運動方向である円弧軌道A’と同心の円弧である。アイソレータ2は円弧軌道Aの方向とこれに垂直な方向では剛性が大きく異なる。同じダンパーを用いるなら、低剛性の方が減衰定数が大きくなり早く減衰する。従って円弧軌道Aの方向の方が著しく低剛性なので好適である。なお、ダンパー7の種類は問わないが、速度比例型の粘性ダンパーなど,振動1周期間の減衰エネルギーが振動数増加に伴い増加するタイプが好適である。これは高次卓越により振動数が上昇するためである。
【0089】
以上、本発明に係る多層構造物の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本発明は多層構造の建物を多節振動により制振することを軸としており、一般的には塔状構造物に有効な構造であり、層数の多い高層建物で特にその現象が顕著となるため、上記した実施の形態では、複数層の塔状構造物である構造物を例にして説明しているが、本発明は、塔状でない構造物であってもよい。本発明は、アスペクト比が大きい構造物に有効ということではなく、例えば、ビル幅の広い高層ビルではアスペクト比は小さいが、層数が多い構造物にも有効であり、このような構造物の場合でも顕著な多節振動を行うことになる。また、勿論、本発明は無重力あるいは微小重力の宇宙構造物にも適用可能である。
【0090】
また、上記した実施の形態では、各層の円弧軌道Aの円弧中心Oが異なるように、アイソレータ2の取り付け角度θが設定されているが、請求項1に記載された発明は、各層の円弧軌道Aの円弧中心Oが同一であってもよく、例えば、図1に示すように、円弧中心Oが最上階部分にある最上階不動の構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】最上階不動の構成からなる多層構造物の模式図である。
【図2】最上階不動の構成からなる多層構造物の振動状態を表す模式図である。
【図3】最上階不動の構成における多層構造物の固有振動モードの形状を表す図である。
【図4】最上階不動の構成における周波数応答を示すグラフである。
【図5】中間免震の構成からなる多層構造物の模式図である。
【図6】中間免震の構成における多層構造物の固有振動モードの形状を表す図である。
【図7】中間免震の構成における周波数応答を示すグラフである。
【図8】本発明に係る第1の実施の形態における多層構造物の模式図である。
【図9】本発明に係る第1の実施の形態における多層構造物の層間部分の拡大図である。
【図10】本発明に係る第1の実施の形態におけるアイソレータの傾斜角度分布を示したグラフである。
【図11】本発明に係る第1の実施の形態におけるアイソレータの傾斜角度値の第1例を示した表である。
【図12】本発明に係る第1の実施の形態における円弧軌道の円弧中心位置の第1例を示す表である。
【図13】本発明に係る第1の実施の形態における円弧軌道の円弧中心位置の第1例を示すグラフである。
【図14】本発明に係る第1の実施の形態の第1例における多層構造物の振動状態を表す模式図である。
【図15】本発明に係る第1の実施の形態の第1例における多層構造物の固有振動モードの形状を表す図である。
【図16】本発明に係る第1の実施の形態の第1例における周波数応答を示すグラフである。
【図17】本発明に係る第1の実施の形態におけるアイソレータの傾斜角度値の第2例及び第3例を示した表である。
【図18】本発明に係る第1の実施の形態における円弧軌道の円弧中心位置の第2例及び第3例を示す表である。
【図19】本発明に係る第1の実施の形態におけるアイソレータの傾斜角度値の第2例及び第3例を示したグラフである。
【図20】本発明に係る第1の実施の形態における円弧軌道の円弧中心位置の第2例及び第3例を示すグラフである。
【図21】本発明に係る第1の実施の形態の第2例における多層構造物の振動状態を表す模式図である。
【図22】本発明に係る第1の実施の形態の第2例における多層構造物の固有振動モードの形状を表す図である。
【図23】本発明に係る第1の実施の形態の第2例における周波数応答を示すグラフである。
【図24】本発明に係る第1の実施の形態の第3例における多層構造物の振動状態を表す模式図である。
【図25】本発明に係る第1の実施の形態の第3例における多層構造物の固有振動モードの形状を表す図である。
【図26】本発明に係る第1の実施の形態の第3例における周波数応答を示すグラフである。
【図27】本発明に係る第1の実施の形態における異なる構造への角度変換の例を示す図である。
【図28】本発明に係る第2の実施の形態における多層構造物の模式図である。
【図29】本発明に係る第2の実施の形態における層間部分の拡大図である。
【図30】本発明に係る第2の実施の形態におけるアイソレータの運動方向の傾斜角度と円弧軌道の円弧中心位置との一例を示した表である。
【図31】本発明に係る第2の実施の形態におけるアイソレータの運動方向の傾斜角度を表すグラフである。
【図32】本発明に係る第2の実施の形態における円弧軌道の円弧中心位置を表すグラフである。
【図33】本発明に係る第2の実施の形態におけるアイソレータから上層構造に与える力を表した図である。
【図34】本発明に係る第2の実施の形態における多層構造物の振動の様子を表す模式図である。
【図35】本発明に係る第2の実施の形態における多層構造物の振動状態を表す模式図である。
【図36】本発明に係る第2の実施の形態における多層構造物の周波数応答を表したグラフである。
【図37】本発明に係る他の実施の形態における多層構造物の層間部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0092】
2 アイソレータ
3 可動支承
5 積層ゴム
7 ダンパー
A,A’,A” 円弧軌道
O 円弧中心
O’ 重心
X 上層構造
θ,θ1,θ2 取り付け角度(傾斜角度)





 

 


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