米国特許情報 | 欧州特許情報 | 国際公開(PCT)情報 | Google の米国特許検索
 
     特許分類
A 農業
B 衣類
C 家具
D 医学
E スポ−ツ;娯楽
F 加工処理操作
G 机上付属具
H 装飾
I 車両
J 包装;運搬
L 化学;冶金
M 繊維;紙;印刷
N 固定構造物
O 機械工学
P 武器
Q 照明
R 測定; 光学
S 写真;映画
T 計算機;電気通信
U 核技術
V 電気素子
W 発電
X 楽器;音響


  ホーム -> 繊維;紙;印刷 -> セイコーエプソン株式会社

発明の名称 液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−1144(P2007−1144A)
公開日 平成19年1月11日(2007.1.11)
出願番号 特願2005−183963(P2005−183963)
出願日 平成17年6月23日(2005.6.23)
代理人 【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
発明者 津田 昭仁
要約 課題
下電極を振動板の表面全体にわたって形成した圧電体素子を形成した場合でも下電極のクラックが発生しない液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。

解決手段
ノズル形成面にノズル開口が列状に形成されてなるノズルプレートと、該ノズル開口に連通し圧力発生手段により液体を加圧する圧力発生室と、該圧力発生室となる空部を有する流路形成基板の表面に振動板を設け、該流路形成基板とは反対側の振動板表面であって該圧力発生室に対応する位置に形成されてなる下電極と、圧電体層と、上電極と、からなる圧電体素子を具備する液体噴射ヘッドであって、該振動板と、該圧力発生室を画定する該流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層に、変形が抑制された領域が形成されてなる、液体噴射ヘッドにより解決する。
特許請求の範囲
【請求項1】
ノズル形成面にノズル開口が列状に形成されてなるノズルプレートと、該ノズル開口に連通し圧力発生手段により液体を加圧する圧力発生室と、該圧力発生室となる空部を有する流路形成基板の表面に振動板を設け、該流路形成基板とは反対側の振動板表面であって該圧力発生室に対応する位置に形成されてなる下電極と、圧電体層と、上電極と、からなる圧電体素子を具備する液体噴射ヘッドであって、
該振動板と、該圧力発生室を画定する該流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層に、変形が抑制された領域が形成されてなる、液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記変形が抑制された領域は、不純物が導入されてなる請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記不純物は、前記振動板と、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層に多く存在し、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層からの距離に応じて、前記不純物の含有量が少なくなっている請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記不純物は、酸素原子(O)、窒素原子(N)、アルゴン原子(Ar)、炭素原子(C)、リン原子(P)、ホウ素原子(B)からなる群から選択された1種以上である請求項2又は3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記変形が抑制された領域は、圧電体層の結晶化度が、変形が抑制されていない領域よりも低いものである請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記変形が抑制されていない領域は、前記下電極の表面に、チタン(Ti)核の層が形成されてなる請求項5記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記変形が抑制された領域は、その変位量が、変形が抑制されない領域の3分の1以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドを具備した液体噴射装置。
【請求項9】
ノズル形成面にノズル開口が列状に形成されてなるノズルプレートを形成する工程と、該ノズル開口に連通し圧力発生手段により液体を加圧する圧力発生室を形成する 工程と、該圧力発生室となる空部を有する流路形成基板の表面に振動板を設ける工程と、該流路形成基板とは反対側の振動板表面であって該圧力発生室に対応する位置に、下電極と、圧電体層と、上電極とからなる圧電体素子を形成する工程と、を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、
該振動板と、該圧力発生室を画定する該流路形成基板の内壁との境界部分の圧電体層に、変形を抑制する領域を形成する工程を備える、液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記変形を抑制する領域を形成する工程は、該圧電体素子を形成する工程の後、該振動板と、該圧力発生室を画定する該流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体素子に対し、イオン注入を行う請求項9に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記イオン注入は、前記振動板と、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層に不純物が多く、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界からの距離に応じて、前記不純物の含有量が少なくなるように行われる請求項9に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記イオン注入は、不純物の導入量がレジストの膜厚で調節される請求項10又は11に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記イオン注入は、不純物の導入面積がレジストの形状で調節される請求項10〜12のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記イオン注入は、100KeV〜1MeV、ドーズ量1×10E19〜1×10E21個/cm2の条件で行われる請求項10〜13のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記変形を抑制する領域を形成する工程は、前記振動板と、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界上以外の前記下電極の表面に、チタン(Ti)核の層を形成し、該チタン(Ti)核の層を核として前記圧電体層を結晶成長させる請求項9記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法に関し、詳しくは、圧電体素子の駆動により下電極に加わる応力を抑制する液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電体素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドが知られている。このようなインクジェット式記録ヘッドには、圧電体素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
そして、たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体にわたって成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電体素子を形成したものが知られている。
【0004】
また、たわみ振動モードのアクチュエータに使用される圧電体素子は、例えば、共通電極である下電極と、下電極上に形成されたPZT膜(圧電体層)と、PZT膜上に形成された個別電極である上電極とで構成される。圧電体素子に駆動電圧が印加されると、圧電特性により圧電体素子が変形し、圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴が吐出される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−246065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁は圧電体素子の変位量を確保するためにそれ自身可撓性を有しない。そのため、圧電体素子が変形するたびに、振動板と、圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁との境界部分に応力がかかる。ここで、「応力」とは、物体に外力が加わる際、その物体内部に生ずる力をいう。
圧電体素子の変形が長期間繰り返されると、やがてその境界部分の振動板にクラックが発生し、クラックが進行すると、圧電体素子が破壊され、液滴をノズル開口から吐出できなくなるという問題があった。
【0006】
上記の問題を解決する手段の一つとして、フォトリソグラフィー法等により、下電極の端部が前記境界面にかからないように振動板を構成する下電極を形成するものがある。このようなタイプの振動板は、境界面が圧電体素子の不活性部になるため、境界部にそもそも応力が集中せず、振動板にクラックが生じない。しかしながら、このような下電極を具備する圧電体素子では十分満足のいく圧電特性を得ることができない。そのため、振動板を構成する下電極を圧力発生室から圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁の境界部分を越えて形成した圧電体素子であっても下電極のクラックが発生しない液体噴射ヘッド及び該液体噴射ヘッドを搭載した液体噴射装置が望まれていた。
【0007】
従って、本発明の目的は、振動板を構成する下電極を圧力発生室から圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁の境界部分を越えて形成した圧電体素子であっても下電極のクラックが発生しない液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者が鋭意検討した結果、振動板と、圧力発生室を画定する該流路形成基板の内壁との境界部分の圧電体層の変形を抑制することにより、該境界部分にかかる応力集中を防止できるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、ノズル形成面にノズル開口が列状に形成されてなるノズルプレートと、該ノズル開口に連通し圧力発生手段により液体を加圧する圧力発生室と、該圧力発生室となる空部を有する流路形成基板の表面に振動板を設け、該流路形成基板とは反対側の振動板表面であって該圧力発生室に対応する位置に形成されてなる下電極と、圧電体層と、上電極と、からなる圧電体素子を具備する液体噴射ヘッドであって、該振動板と、該圧力発生室を画定する該流路形成基板の内壁との境界部分の圧電体層に、変形が抑制された領域が形成されてなる、液体噴射ヘッドを提供するものである。
【0009】
このような構成により、上記圧電体素子は、一つの圧電体素子中に、圧電特性を示す領域と、圧電特性を示さないか、圧電特性を制限された領域を有する。そして、圧電特性を制限された領域は、駆動電圧を印加されても圧電体素子の変形が起こらないか、変位量が少ないものとなる。そのため、下電極が圧力発生室から圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁の境界部分を超えて形成された圧電体素子であっても、振動板と、圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁との境界部分の圧電体層に加わる応力を抑制することができ、その結果、振動板のクラックの発生を未然に防止することができる。
上記発明の好ましい態様は次の通りである。前記変形が抑制された領域は、不純物が導入されてなることが好ましい。このような構成により、不純物が導入された圧電体層の領域では圧電特性が制限され、圧電体素子の変形を抑制することができる。
【0010】
前記不純物は、前記振動板と、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層に多く存在し、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層からの距離に応じて、前記不純物の含有量が少なくなっていることが好ましい。このような構成により、当該境界からの距離が大きくなるほど、圧電体素子の変位量を大きくすることができる。また、圧電体素子の中で変位する領域と変位しない領域での変位量の差を緩やかにすることで、より応力集中を低減することができる。
【0011】
前記不純物は、酸素原子(O)、窒素原子(N)、アルゴン原子(Ar)、炭素原子(C)、リン原子(P)、ホウ素原子(B)からなる群から選択された1種以上であることが好ましい。
【0012】
また、前記変形が抑制された領域は、圧電体層の結晶化度が、変形が抑制されていない領域よりも低いものであることが好ましい。このような構成により、一つの圧電体素子中で、変位量の大きい領域と変位量の小さい領域を形成することができる。
【0013】
前記変形が抑制されていない領域は、前記下電極の表面に、チタン(Ti)核の層が形成されてなることが好ましい。このような構成により、チタン(Ti)核の層が形成された領域では、チタン(Ti)核の層が形成されなかった領域と比較して圧電特性が向上する。そのため、振動板と、圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁との境界の領域では圧電体層の変位量は小さく、他の領域では大きい圧電体素子を形成することができる。
【0014】
前記変形が抑制された領域は、その変位量が、変形が抑制されない領域の3分の1以下であることが好ましい。このような構成により、振動板と、圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁との境界領域では、下電極などの振動板にクラックが生じるほどの応力が発生することがない。
【0015】
また、本発明は上記の液体噴射ヘッドを具備した液体噴射装置を提供するものである。本発明の液体噴射装置は、下電極が圧力発生室から圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁の境界部分を超えて形成された圧電体素子を形成した場合でも下電極などの振動板のクラックが発生しない液体噴射ヘッドを具備してなるため、品質に優れた液体噴射装置とすることができる。
【0016】
また、本発明は、ノズル形成面にノズル開口が列状に形成されてなるノズルプレートを形成する工程と、該ノズル開口に連通し圧力発生手段により液体を加圧する圧力発生室を形成する 工程と、該圧力発生室となる空部を有する流路形成基板の表面に振動板を設ける工程と、該流路形成基板とは反対側の振動板表面であって該圧力発生室に対応する位置に、下電極と、圧電体層と、上電極とからなる圧電体素子を形成する工程と、を備える液体噴射ヘッドの製造方法であって、該振動板と、該圧力発生室を画定する該流路形成基板の内壁との境界部分の圧電体層に、変形を抑制する領域を形成する工程を備える、液体噴射ヘッドの製造方法を提供するものである。
【0017】
このような構成により、上記圧電体素子は、一つの圧電体素子中に、圧電特性を示す領域と、圧電特性を示さないか、圧電特性を制限された領域を有する。そして、圧電特性を制限された領域は、駆動電圧を印加されても圧電体素子の変形が起こらないか、変位量が少ないものとなる。そのため、下電極が圧力発生室から圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁の境界部分を超えて形成された圧電体素子であっても、振動板と、圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁との境界部分の圧電体層に加わる応力を抑制することができ、その結果、下電極などの振動板のクラックの発生を未然に防止することができる。
【0018】
上記発明の好ましい態様は以下の通りである。前記変形を抑制する領域を形成する工程は、該圧電体素子を形成する工程の後、該振動板と、該圧力発生室を画定する該流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体素子に対し、イオン注入を行うものであることが好ましい。このような構成により、一つの圧電体素子の中で、圧電特性を示す領域と、圧電特性を示さないか、圧電特性を制限された領域を形成することができる。
【0019】
前記イオン注入は、前記振動板と、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層に不純物が多く、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界からの距離に応じて、前記不純物の含有量が少なくなるように行われることが好ましい。このような構成により、当該境界からの距離が大きくなるほど、圧電体素子の変位量を大きくすることができる。また、圧電体素子の中で変位する領域と変位しない領域との境界を緩やかにすることで、より応力集中を低減することができる。
【0020】
前記イオン注入は、不純物の導入量がレジストの膜厚で調節されることが好ましい。このような構成により、圧電体素子に注入するイオンの量、即ち不純物の含有量を容易に調節することができる。
【0021】
前記イオン注入は、不純物の導入面積がレジストの形状で調節されることが好ましい。このような構成により、イオンが注入される領域を容易に設定することができる。
【0022】
前記イオン注入は、100KeV〜1MeV、ドーズ量1×10E19〜1×10E21個/cm2の条件で行われることが好ましい。
【0023】
前記変形を抑制する領域を形成する工程は、前記振動板と、前記圧力発生室を画定する前記流路形成基板の内壁との境界上以外の前記下電極の表面に、チタン(Ti)核の層を形成し、該チタン(Ti)核の層を核として前記圧電体層を結晶成長させることが好ましい。このような構成により、チタン(Ti)核の層が形成された領域では、チタン(Ti)核の層が形成されなかった領域と比較して圧電特性が向上する。そのため、振動板と、圧力発生室を画定する前流路形成基板の内壁との境界の領域では圧電体層の変位量は小さく、他の領域では大きい圧電体素子を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、実施形態に係る液体噴射ヘッドの平面図及び断面図である。図1に示すように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、複数の隔壁により区画された圧力発生室12がその長手方向に2列並設されている。また各列の圧力発生室12の長手方向外側には、連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する封止基板30のリザーバ部32と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0025】
このような圧力発生室12等が形成される流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択することが好ましい。例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度と比較的高密度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0026】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.03〜0.3mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、流路形成基板10であるシリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。
【0027】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成され、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、積層形成されて、圧電体素子300を構成している。
【0028】
ここで、圧電体素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電体素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電体素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電体素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電体素子300と当該圧電体素子300の駆動により変位が生じる振動板とを併せて圧電アクチュエータと称する。なお、本実施形態では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用する。
【0029】
本実施形態においては、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60からなる振動板と、圧力発生室12を画定する流路形成基板10の内壁10aとの境界部分の圧電体層に、変形が抑制された変形抑制領域70aが形成されている。これについては後述する。
【0030】
ここで、圧電体素子300の個別電極である上電極膜80には、絶縁膜100を介して、圧電体素子300の長手方向端部近傍から圧力発生室12の外側の領域まで引き出されるリード電極90がそれぞれ接続されている。このリード電極90は、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)等の金属材料からなり、スパッタリング等により形成される。絶縁膜100には、厚さ方向に貫通する貫通穴100aが設けられている。そして、上電極膜80の一部がこの貫通穴100a内に露出し、リード電極90が貫通穴100a内に露出した上電極膜80と電気的に接続されている。
【0031】
また、圧電体素子300の共通電極である下電極膜60は、本実施形態では、圧力発生室12の長手方向両端部近傍に対向する領域でそれぞれパターニングされており、圧力発生室12から圧力発生室12を画定する流路形成基板の内壁10aの境界部分を超えて形成され、且つ圧力発生室12の並設方向に沿って圧力発生室12の列の外側の領域まで延設されている。そして、各圧力発生室12の列に対応する領域の下電極膜60は、圧力発生室12の列の外側の領域で連続している。
【0032】
流路形成基板10の圧電体素子300側には、圧電体素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態でその空間を密封する圧電体素子保持部31を有する封止基板30が接合されている。この圧電体素子保持部31は、本実施形態では、各圧電体素子300に対向する領域、すなわち、各圧力発生室12の列に対向する領域のそれぞれに設けられた圧電体素子300の列をそれぞれ封止している。
【0033】
また、この封止基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ140の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。リザーバ部32は、本実施形態では、封止基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、弾性膜50及び絶縁体膜55を貫通して設けられた貫通孔を介して流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ140を構成している。この封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましい。
【0034】
また、この封止基板30上に、圧電体素子300を列毎に駆動する駆動IC120が実装されている。そして、駆動IC120と、各リード電極90の端部近傍とが、ボンディングワイヤからなる駆動配線130によって電気的に接続されている。
【0035】
なお、封止基板30のリザーバ部32に対応する領域には、封止膜41及び固定板42からなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成されている。この固定板42のリザーバ140に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ140の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0036】
このように構成したインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ140からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC120からの記録信号に従い、上電極膜80と下電極膜60との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0037】
ここで、先述の変形抑制領域70aについて、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法とともに説明する。図2は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を示す断面模式図である。
図2(a)に示すように、まず、流路形成基板10となるシリコン基板を酸素あるいは水蒸気を含む酸化性雰囲気中で高温処理し、酸化ケイ素(SiO2)等からなる酸化膜50を形成する。この工程には通常用いる熱酸化法のほか、CVD法を用いることもできる。
【0038】
次に、流路形成基板10の表面に形成された酸化膜50の上に、酸化ジルコニウム(ZrO2)等からなる絶縁体膜55を形成する。この絶縁体膜55は、スパッタ法又は真空蒸着法等によりZr等の層を形成したものを酸素雰囲気中で高温処理することにより得られる。
【0039】
次に、絶縁体膜55上にイリジウム(Ir)等を含む下電極60を形成する。例えば、まず、イリジウム(Ir)等を含む層を形成し、次いで白金(Pt)等を含む層を形成し、更にイリジウム(Ir)等を含む層を形成する。下電極60を構成する各層は、それぞれイリジウム(Ir)又は白金(Pt)を絶縁体膜55の表面にスパッタ法等で付着させて形成する。なお、下電極60の形成に先立ち、チタン(T)又はクロム(Cr)からなる密着層(図示せず)をスパッタ法又は真空蒸着法により形成することが好ましい。
【0040】
次に、ゾルゲル法により圧電体前駆体膜70’を形成する。まず、有機金属アルコキシド溶液からなるゾルをスピンコート等の塗布方法により下電極60上に塗布する。次いで、一定温度で一定時間乾燥させ、溶媒を蒸発させる。乾燥後、更に大気雰囲気下において所定の温度で一定時間脱脂し、金属に配位している有機配位子を熱分解させ、金属酸化物とする。この塗布、乾燥、脱脂の各工程を所定回数、例えば2回繰り返して2層からなる圧電体前駆体膜70’を積層する。これらの乾燥と脱脂処理により、溶媒中の金属アルコキシドと酢酸塩とは配位子の熱分解を経て金属、酸素、金属のネットワークを形成する。なお、この工程は、ゾルゲル法に限定されず、MOD(Metal Organic Deposition)法を用いてもよい。
【0041】
次に、圧電体前駆体膜70’の形成後、焼成して圧電体前駆体膜70’を結晶化させる。この焼成により、圧電体前駆体膜70’は、アモルファス状態から結晶構造をとるようになり、電気機械変換作用を示す圧電体層70へと変化する。
【0042】
次に、圧電体層70の表面に、電子ビーム蒸着法又はスパッタ法により上電極80を形成する。
【0043】
図2(b)に示すように、次に圧電体層70及び上電極80を、所定の形状にパターニングする。そして、上電極60上にレジスト85をスピンコートした後、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60からなる振動板と、圧力発生室12を画定する流路形成基板10の内壁10aとの境界部分の圧電体層が露出するようにレジスト85をパターニングする。残ったレジスト85をマスクとして、圧電体層80の変形を防止する領域に、イオン注入を行ない、不純物75を導入する。
【0044】
イオン注入面積は、レジストの形状で調節することができる。図3は、イオン注入を行うためのレジストパターンの一例を示す平面図である。なお、理解の容易のため、絶縁体膜100及び上電極膜80は省略して説明する。
【0045】
図3(a)に示すように、圧電体層70の変形を制限したい領域に、レジスト85の端縁から内側にかけて、切欠き85aが形成されている。このレジスト85を用いてイオン注入を行うと、図3(b)に示すように、変形制限領域70aと変形非制限領域70bが形成される。また、この場合、振動板と、圧力発生室12を画定する流路形成基板10の内壁10aとの境界(図2(c)参照)上に位置する圧電体層に不純物75が比較的多く存在し、当該境界からの距離に応じて、不純物75の含有量が比較的少なくなっている。これにより、当該境界からの距離が大きくなるほど、圧電体素子300の変位量を大きくすることができる。また、圧電体素子300の中で変位する領域と変位しない領域との変位量の差を緩やかにすることで、より応力集中を低減することができる。
【0046】
図4は、イオン注入を行うためのレジストパターンの他の例を示す断面図である。図4に示すレジスト85は、その端縁が圧電体層70の端部に向かって斜面85bを形成している。イオン注入により導入される不純物75は、レジスト85の膜厚に応じて圧電体層70に導入される量(ドーズ量)が決定する。そのため、イオン注入量を、エネルギーを一定にしたままレジスト85の膜厚で容易に調節することができる。また、上記の例と同様に、圧電体素子300の中で変位する領域と変位しない領域との境界を緩やかにすることで、より応力集中を低減することができる。
【0047】
イオン注入に用いられる不純物75としては、例えば、酸素原子(O)、窒素原子(N)、アルゴン原子(Ar)、炭素原子(C)、リン原子(P)、ホウ素原子(B)からなる群から選択された1種以上を用いることができる。前記イオン注入は、例えば、100KeV〜1MeV、ドーズ量1×10E19〜1×10E21個/cm2の条件で行うことができる。
【0048】
図2(c)に示すように、不純物75が導入された領域は、そのドーズ量に応じて圧電体層70の変形が制限された変形抑制領域70aが形成される。なお、変形抑制領域70a以外の領域は、所望の圧電特性を備えた変形非抑制領域70bとなる。そのため、変形抑制領域70aと変形非抑制領域70bとでは、圧電体層70の変位量が異なるものとなっている。本実施形態では、流路形成基板10の内壁10aとの境界及びその周辺の圧電体層80に変形抑制領域70aが形成されている。
【0049】
次に、全面に絶縁体膜100を形成した後、絶縁体膜100に貫通穴100a形成され、上電極80とリード電極90が電気的に接続される。
【0050】
次に、圧電体素子300が形成された流路形成基板10の他方の面に、異方性エッチング又は平行平板型反応性イオンエッチング等の活性気体を用いた異方性エッチングを施し、圧力室12を形成する。エッチングされずに残された部分が圧力発生室12を画定する内壁10aとなる。
【0051】
また、その後は、ノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を流路形成基板10に接合すると共に、可撓性を有する弾性膜としてのPPS膜41と、金属材料からなる押さえ基板としてのSUS膜42とが積層されたコンプライアンス基板40を、封止基板30のリザーバ部32を覆うように接合することにより、図1(b)に示すような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0052】
なお、上記実施形態はイオン注入により圧電体層の変形を抑制した例を示したが、他の実施形態として、圧電体層の結晶化度を一つの圧電体層内において変化させることにより、振動板と、圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁との境界部分の応力を低減する例を説明する。
【0053】
図5は、チタン(Ti)核(層)65を用いて圧電体層70中に変形抑制領域70aと変形非抑制領域70bを形成する例を示す工程図である。図5(a)に示すように、本実施形態では下電極膜60の表面上にチタン(Ti)核(層)65を形成する点が前述した実施形態と異なる。チタン(Ti)核(層)65は、圧電体層70の変形を抑制する領域には形成されず、圧電体層70の変形を抑制されない領域に形成される。チタン(Ti)核(層)65は、スパッタ法等により、膜厚3〜7nm、好ましくは4〜6nmとなるように形成される。そして、チタン(Ti)核(層)65の表面に圧電体前駆体膜70’を成膜する。
【0054】
図5(b)に示すように、焼成工程を経ることにより、圧電体前駆体膜70’が結晶化し、アモルファス状態から結晶構造をとるようになり、電気機械変換作用を示す圧電体層70へと変化する。このとき、チタン(Ti)核(層)65が形成された領域では、チタン結晶を核として圧電体前駆体膜70’が高度に結晶化し、緻密な柱状の結晶を形成する。結晶化は下電極膜60側から起こるため、焼成工程においては、加熱は下電極膜60側から行われることが好ましい。
【0055】
焼成後の圧電体層70には、結晶化度の高い領域と、それよりも低い領域が形成される。これが、駆動電圧を圧電体素子300に印加した際に、変形非抑制領域70bと、変形抑制領域70aとなって現れる。
【0056】
その後、図5(c)に示すように、前述した実施形態の製造工程と同様の製造工程により、所望のインクジェット式記録ヘッドが得られる。
【0057】
以上の説明では、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置を一例として挙げたが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。
【0058】
液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【0059】
液体噴射装置としては、例えば、上記に列挙した液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置を挙げることができる。当該液体噴射ヘッドは貫通穴周辺の薄膜構造の破壊が未然に防止されてなるため、品質に優れた液体噴射装置とすることができる。
【0060】
以上説明したように、本発明の液体噴射ヘッド及び液体噴射装置は、一つの圧電体素子中に、圧電特性を示す領域と、圧電特性を示さないか、圧電特性を制限された領域を有する。そして、圧電特性を制限された領域は、駆動電圧を印加されても圧電体素子の変形が起こらないか、変位量が少ないものとなる。そのため、下電極が振動板の表面全体に亘って形成された圧電体素子であっても、振動板と、圧力発生室を画定する流路形成基板の内壁との境界上に位置する圧電体層に加わる応力を抑制することができ、その結果、下電極などの振動板のクラックの発生を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施形態に係る液体噴射ヘッドの平面図及び断面図である。
【図2】本実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を示す断面模式図である。
【図3】イオン注入を行うためのレジストパターンの一例を示す平面図である。
【図4】イオン注入を行うためのレジストパターンの他の例を示す断面図である。
【図5】チタン核(層)を用いる製造方法を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0062】
10…流路形成基板、12…圧力発生室、13…連通部、14…インク供給路、20…ノズルプレート、21…ノズル開口、30…封止基板、31…圧電体素子保持部、32…リザーバ部、40…コンプライアンス基板、41…封止膜、42…固定板、43…開口部、50…弾性膜、55…絶縁体膜、60…下電極膜、65…チタン(Ti)核(層)、70…圧電体層、70a…変形抑制領域、70b…変形非抑制領域、75…不純物、80…上電極膜、レジスト…85、90…リード電極、100…絶縁膜、100a…貫通穴、120…駆動IC、130…駆動配線、140…リザーバ、300…圧電体素子





 

 


     NEWS
会社検索順位 特許の出願数の順位が発表

URL変更
平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年


 
   お問い合わせ info@patentjp.com patentjp.com   Copyright 2007-2013