米国特許情報 | 欧州特許情報 | 国際公開(PCT)情報 | Google の米国特許検索
 
     特許分類
A 農業
B 衣類
C 家具
D 医学
E スポ−ツ;娯楽
F 加工処理操作
G 机上付属具
H 装飾
I 車両
J 包装;運搬
L 化学;冶金
M 繊維;紙;印刷
N 固定構造物
O 機械工学
P 武器
Q 照明
R 測定; 光学
S 写真;映画
T 計算機;電気通信
U 核技術
V 電気素子
W 発電
X 楽器;音響


  ホーム -> 化学;冶金 -> 日本板硝子株式会社

発明の名称 光学薄膜の製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−63623(P2007−63623A)
公開日 平成19年3月15日(2007.3.15)
出願番号 特願2005−251529(P2005−251529)
出願日 平成17年8月31日(2005.8.31)
代理人 【識別番号】100128152
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊哉
発明者 國定 照房 / 荻野 悦男
要約 課題
反応性スパッタリングにおける遷移状態を長時間安定に維持できる成膜方法を提供する。

解決手段
マグネトロンスパッタリング装置において、真空チャンバー内に不活性ガスと反応性ガスをそれぞれ所望の流量で供給し、放電電力、または放電アドミッタンスの時間変動を±10%以内で行い、且つ該スパッタ電源の電圧を制御して遷移スパッタを行う。また、放電電力、または放電アドミッタンスを長時間安定化させるために、ターゲット表面の最大磁場強度を0.03テスラ以上、0.1テスラ以下とする。
特許請求の範囲
【請求項1】
真空チャンバー内に設置されたターゲットと、該ターゲットに電力を供給するためのスパッタ電源と、該真空チャンバー内に不活性ガスと反応性ガスをそれぞれ所望の流量で供給する機構と、を備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いた光学薄膜の製造方法において、
放電電力、または放電アドミッタンスの時間変動を±10%以内に制御し、且つ該スパッタ電源の電圧を制御して遷移スパッタを行うことを特徴とする光学薄膜の製造方法。
【請求項2】
真空チャンバー内に設置されたターゲットと、該ターゲットに電力を供給するためのスパッタ電源と、該真空チャンバー内に不活性ガスと反応性ガスをそれぞれ所望の流量で供給する機構と、を備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いた光学薄膜の製造方法において、
該ターゲット表面の最大磁場強度を0.03テスラ以上、0.1テスラ以下とし、且つ該スパッタ電源の電圧を制御して遷移スパッタを行うことを特徴とする光学薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスと前記反応性ガスの流量比を制御し、かつ前記ガスの流量比に応じて前記スパッタ電源の電圧値を、遷移領域内に調整することを特徴とする請求項1乃至2に記載の光学薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記真空チャンバー内の反応性ガス分圧を実時間測定する手段を備え、
前記スパッタ電源の電圧を変数とし、該反応性ガス分圧の対数をプロットした図に現れるプラトー領域において、該反応性ガス分圧が一定となるように、該スパッタ電源の電圧を制御することを特徴とする請求項1乃至2に記載の光学薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記ターゲットに、40kHz以上、350kHz以下のパルス電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至4に記載の光学薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記ターゲットが2つで1組となっており、該1組のターゲット各々に20kHz以上、100kHz以下の周期で交互に切り替わる電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至4に記載の光学薄膜の製造方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として光学技術分野で用いられる光学薄膜をスパッタリング法により形成する際に、遷移領域という特殊な操業点で膜を堆積する方法に関し、特に遷移状態を安定に制御できる光学薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学薄膜は、液晶表示素子などの表示装置、光通信用の光学部品、光ディスクなどをはじめ、建築用窓ガラス、自動車用ウインドシールドなどの各種製品に数多く利用されている。
【0003】
これらの光学薄膜を積層した光学多層膜では、高い屈折率を有する透明薄膜と低い屈折率を有する透明薄膜、時にはそれらの中間の屈折率を有する透明薄膜を組み合わせることにより、光学干渉効果を利用できる。高屈折率を有する材料としては、TiO2、Ta25、SnO2、ZnO、Nb25、ZrO2、HfO2など、低屈折率材料としては、MgF2、SiO2、Al23など、中間の屈折率材料としてはSi34、WO3、MgOなどの材料が知られており広く利用されている。
【0004】
これらの材料の薄膜を形成する方法としては、湿式成膜法または真空中での物理成膜法が利用されているが、光学薄膜では積層数が多い、あるいは膜厚の高精度な制御が必要なため、真空中での物理成膜法が適している。物理成膜法としては、蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの各種方法が適用可能であるが、表示装置用、あるいは建築用窓材などの大きな基板に均一に成膜する場合には、スパッタリング法が最も適した方法である。
【0005】
スパッタリング法で光学薄膜を形成する場合、大きく分けて2種類の方法を用いることができる。一つは、Ti,Ta、Nb、Zr、Hf、Si、Alなどの金属ターゲットを用い、スパッタリングガスに酸素や窒素等の反応性ガスを導入して誘電体膜を得る方法(反応性スパッタリング法)で、もう一つは、酸化物や窒化物などの誘電体をターゲットとして用いて、反応性ガス含有量の少ない(希ガスを主成分とする)雰囲気でスパッタすることにより誘電体膜を得る方法である。
【0006】
前者の方法では、一部スパッタ率の高い材料を除いて金属ターゲットの表面が誘電体化合物で被覆されるために、ターゲット表面のスパッタ率が低下し、成膜速度が遅くなる成膜速度が遅くなることが課題である。
【0007】
後者の方法も、ターゲットに導電性が無くRFスパッタ成膜が必要となる場合、成膜速度は一般的に遅い。但し、導電性を有するセラミックスターゲットに関しては、DCスパッタ成膜にて高い成膜速度が得られる場合がある。
【0008】
しかしながら、SiO2やAl23ターゲットに関しては導電性を付与することが技術的に極めて困難であるため、SiO2やAl23ターゲットを用いたDCスパッタ成膜は不可能である。
【0009】
一方、SiO2やAl23の成膜速度を向上させる方法として、遷移スパッタリング法が開示されている。反応性スパッタでは、金属ターゲットの表面が誘電体化合物で被覆されることによる、成膜速度の低下や、アーキングが課題であったが、遷移スパッタリング法では、ターゲット表面が誘電体化合物で被覆されない状態を維持し、かつ基板上には誘電体化合物を堆積することが可能であるため、高いスパッタ率を維持することができ、成膜速度の低下は殆ど認められない。
【0010】
しかしながら遷移スパッタが実現できる遷移領域は、反応性スパッタ領域と金属スパッタ領域(反応性ガスとターゲット材料が化学反応する割合が低く、膜として誘電体化合物の割合が少ない)の中間に存在し、放電環境によってその領域が変化する極めて不安定な状態(遷移状態)で実現されるため、この状態を安定的に長時間維持することが困難であった。そのため遷移スパッタ成膜を安定に行うために、これまでに多くの研究がなされ、種々の制御方法が提案されている。
【0011】
最も単純な装置構成で遷移スパッタが実現できる方法は、非特許文献1に開示されており、詳細については非特許文献2で考察されている。この方法は、スパッタ電源の出力を電圧制御するだけである。すなわち、電圧が一定となるように出力するのみで、特別な装置は一切必要ない。このため、装置コストの観点からは、この方法が最も優れた方法である。
【0012】
しかし、電圧で放電を制御すると、放電アドミッタンスの変化に伴い放電電流あるいは放電電力が変動することになる(放電アドミッタンスは放電インピーダンスの逆数で電圧一定の場合、放電電力は放電アドミッタンスに比例する)。したがって、成膜速度の時間変動、膜質の時間変動を抑制して、安定なスパッタリングを実現するためには、放電アドミッタンスが安定していることが必要となる。ところが、遷移状態ではスパッタ環境の微妙な変化(例えば、基板搬送、ターゲットの侵食、チャンバー内への膜堆積など)によってターゲット表面状態が変化し、放電アドミッタンスが時々刻々と変化する。このために、放電電圧制御だけでは、短期的にも長期的にも安定な成膜を行うことは困難であった。
【0013】
また、電圧制御で遷移スパッタを行う場合、設定電圧はスパッタ状態の制御(選択)に使用する変数となる。ところが、放電アドミッタンスが一定と仮定したとして、放電電圧をスパッタ状態が遷移状態になるように決めると、同時に放電電力が一義的に決定される。このため、成膜速度を調整するために、放電電力を調整することはできなくなる。すなわち、成膜速度を調整するための新たな制御項目が必要となる課題があった。
【0014】
非特許文献2に掲載されているデーターから、電圧制御による放電の場合には、反応性ガス供給速度を調整することで、放電電力を調整できることが読み取れる。しかし、放電電圧一定条件で電力を供給した状態で、反応性ガス供給速度の調整を行うと遷移状態から外れるケースが生じる。また遷移状態を維持していても膜質が変動する問題が生じる問題があることも予測される。この問題を回避するために、酸素の供給速度を変更した場合に電圧設定値を変更する手段が必要であった。
【0015】
特許文献1では、プラズマ発光モニターによる光検出が有効であるとしており、発光モニターの信号を放電電圧の設定値にフィードバックするシステムが提案されている。ところが、この方法では長時間放電した場合に、窓枠が汚染されてきて発光強度が徐々に変化する問題が生じる。またシステム構築上、高価なプラズマ発光モニターを取り付けなければならない。
【特許文献1】特開2003−342725号公報
【非特許文献1】R.マクマホン(McMahon)、外2名、ジャーナル・オブ・バキューム・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of vacuum science & technology)、1982、A20巻、3号、p.376-378
【非特許文献2】J.アフィニト(Affinito)、R.R.パーソンズ (Parsons)、ジャーナル・オブ・バキューム・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of vacuum science & technology)、1984、A2巻、3号、p. 1275-1284
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、遷移状態を長期間安定に制御できる光学薄膜の製造方法を提供し、量産性に優れた高い成膜速度で光学薄膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、真空チャンバー内に設置されたターゲットと、該ターゲットに電力を供給するためのスパッタ電源と、該真空チャンバー内に不活性ガスと反応性ガスをそれぞれ所望の流量で供給する機構と、を備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いた光学薄膜の製造方法において、放電電力、または放電アドミッタンスの時間変動を±10%以内に制御し、且つ該スパッタ電源の電圧を制御して遷移スパッタを行うことを要旨とした。このように構成すると遷移状態を長期間安定に制御できる光学薄膜の製造方法が提供でき、量産性に優れた高い成膜速度で光学薄膜を得ることができる。
【0018】
請求項2の発明は、真空チャンバー内に設置されたターゲットと、該ターゲットに電力を供給するためのスパッタ電源と、該真空チャンバー内に不活性ガスと反応性ガスをそれぞれ所望の流量で供給する機構と、を備えたマグネトロンスパッタリング装置を用いた光学薄膜の製造方法において、該ターゲット表面の最大磁場強度を0.03テスラ以上、0.1テスラ以下とし、且つ該スパッタ電源の電圧を制御して遷移スパッタを行うことを要旨とした。このように構成すると遷移状態を長期間安定に制御できる光学薄膜の製造方法が提供でき、量産性に優れた高い成膜速度で光学薄膜を得ることができる。
【0019】
尚、放電アドミッタンス安定化のために必要な磁場強度の上限を特に定めるものではないが、市販されている永久磁石の使用を想定した場合、0.1テスラ程度が実質的な上限となる。また、磁場強度を上げすぎると放電モードが変化してしまうことも知られている。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1乃至2において前記不活性ガスと前記反応性ガスの流量比を制御し、かつ前記ガスの流量比に応じて前記スパッタ電源の電圧値を、遷移領域内に調整することを要旨とした。このように構成すると遷移状態を長期間安定に制御できる光学薄膜の製造方法が提供でき、量産性に優れた高い成膜速度で光学薄膜を得ることができる。
【0021】
電圧制御モードにて電圧を一定に保って放電した状態で、酸素供給速度を増加した場合、放電電力は増加するが、単位パワー当たりの成膜速度は低下する。最悪の場合には、放電状態が遷移モードから酸化物モードに移行する。反対に酸素供給速度を減らすと、単位パワー当たりの成膜速度は増加する。最悪の場合には、放電状態が遷移モードから金属モードに移行する。このような問題があることは非特許文献1に開示されている。
【0022】
そこで、例えば電圧制御で放電する際の電圧設定値を酸素流量によって変更できるよう自動制御回路を設ける。すなわち、酸素流量を増した場合には、自動的に電圧設定値が増加し、酸素流量を減らした場合には、自動的に電圧設定値を減少せしめる回路である。酸素供給速度に対する設定電圧の傾きは、事前の検討にて決定する。つまり、酸素供給速度を一定に保ち、電圧を変数に放電電力の変化を計測する。この測定を2水準以上の酸素供給速度について実施する。この結果から、酸素流量に対して遷移状態の放電電圧をプロットし、この図の傾きを求める。この傾きを前述の制御回路に予め入力し、この傾きに応じて、酸素供給速度を変更した際に設定電圧値を変更する。
【0023】
請求項4の発明は、請求項1乃至2において前記真空チャンバー内の反応性ガス分圧を実時間測定する手段を備え、前記スパッタ電源の電圧を変数とし、該反応性ガス分圧の対数をプロットした図に現れるプラトー(plateau)領域(図8参照)において、該反応性ガス分圧が一定となるように、該スパッタ電源の電圧を制御することを要旨とした。このように構成すると遷移状態を長期間安定に制御できる光学薄膜の製造方法が提供でき、量産性に優れた高い成膜速度で光学薄膜を得ることができる。
【0024】
反応性ガス分圧を実時間測定する手段により、前述の酸素供給速度を変更した場合にスパッタ状態が変ることを効果的に抑制できる。またプラトー領域とは、酸素分圧の放電電圧への依存度が少ない領域であり、成膜速度の放電電圧依存性が少ない領域である。
【0025】
遷移領域でのスパッタリングにおける膜質の安定性、成膜速度の安定性などは、ターゲットの表面状態に多く依存しているが、この表面状態を決定する主要因がチャンバー内の酸素分圧である。すなわち、この酸素分圧を安定に制御できれば、成膜速度、膜質などが安定制御できることになる。この観点でみると、プラトー領域では、放電電圧に対する酸素分圧変動幅小さいので、放電電圧制御により最も容易に酸素分圧を制御できる領域である。
【0026】
請求項5の発明は、請求項1乃至4において前記ターゲットに、40kHz以上、350kHz以下のパルス電圧を印加することを要旨とした。このように構成すると遷移状態を長期間安定に制御できる光学薄膜の製造方法が提供でき、量産性に優れた高い成膜速度で光学薄膜を得ることができる。
【0027】
本発明の電源としては、特に限定されるものではないが、SiO2、Al23などの絶縁膜を形成する場合には、ターゲット周辺に付着する絶縁膜の帯電を防止して、アーキングを抑制する必要がある。この場合には、直流パルス電源は有効であり、絶縁膜への帯電を効果的に防止するには少なくとも40kHz以上の反転周波数が必要である。また、350kHzより高い反転周波数になるとプラズマが拡散し、成膜速度が低下するようになる。このためパルス電圧の周波数は、40kHz以上、350kHz以下が特に好ましい。
【0028】
請求項6の発明は、請求項1乃至4において前記ターゲットが2つで1組となっており、該1組のターゲット各々に20kHz以上、100kHz以下の周期で交互に切り替わる電圧を印加することを要旨とした。このように構成すると遷移状態を長期間安定に制御できる光学薄膜の製造方法が提供でき、量産性に優れた高い成膜速度で光学薄膜を得ることができる。
【0029】
本発明の電源としては、特に限定されるものではないが、SiO2、Al23などの絶縁膜を形成する場合には、ターゲット周辺に付着する絶縁膜の帯電を防止して、アーキングを抑制する必要がある。この場合には、2つで1組のターゲットに負電圧を交互に供給し、各ターゲットにおける電圧は正負が反転するような正弦波、あるいは矩形波であることが望ましい。絶縁膜への帯電を効果的に防止するには20kHz以上の反転周波数が必要である。また、互いのターゲットがアノード/カソードの関係にあるため、単一ターゲットをパルス駆動する場合よりも低い周波数でプラズマが拡散するため、100kHzより高い反転周波数になると、成膜速度が低下するようになる。このため切り替え周波数は、20kHz以上、100kHz以下が特に好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、遷移状態を長期間安定に制御できる光学薄膜の製造方法およびスパッタリング装置が提供でき、量産性に優れた高い成膜速度で光学薄膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
前述の通り、遷移スパッタを最も簡便且つ確実に実現できる方法は、非特許文献1に開示されている電圧制御方法であるが、成膜速度の時間変動、膜質の時間変動を抑制して、安定なスパッタリングを実現するためには、放電アドミッタンスの安定化が課題である。
【0032】
そこで、インラインスパッタ装置における光学薄膜の一つであるSiO2成膜工程中、顕著に放電アドミッタンスの変化を示す基板搬送に着目し、放電アドミッタンスの短期的変動について調べた。
【0033】
尚、本発明の装置構成は、インライン型スパッタ装置、カルーセル型スパッタ装置、枚葉型スパッタ装置など特に限定されるものではないが、成膜バッチ毎に基板交換のためにチャンバーを大気開放するバッチ型処理の装置では、真空中の残留ガス成分がバッチ毎に異なるために、成膜バッチ毎に放電電圧を変数とする電圧曲線を測り直す必要があり、条件決めに多大な労力を要するため、ロードロック室を備えており、成膜室が真空の状態を維持したまま、基板を交換できるスパッタ装置が好適である。
【0034】
また、以下の実施例、比較例において、膜厚の測定は接触式段差計を使用し、光学特性は分光光度計(透過率、反射率、色調)及びエリプソメータ(屈折率、消衰係数)にて測定した。
【0035】
<実施例1,2、比較例1>
スパッタ装置:インライン型
試料(基板):ソーダライムガラス
ターゲット:ホウ素(B)添加シリコン(Si)×1組(2枚)
到達真空度:4×10-4Pa以下
アルゴン(Ar)ガス流量:130SCCM
酸素(O2)ガス流量:20SCCM
ガス圧:0.4Pa
ターゲット切り替え周波数:40kHz
【0036】
上記成膜条件において放電電圧を遷移領域となる550V一定としたときの、放電電力の時間変動の様子を図1に示す(これを比較例1とする)。基板搬送を開始すると、基板トレイがターゲット上を通過する直前の放電電力は4.0kWであったのに対し、ターゲット上を通過している間は放電電力が3.4kWと15%低下し、通過直後は再度4.0kWに回復した。得られた試料の膜厚を計測したところ、基板進行方向前方と後方の膜厚が中央部よりも厚くなり、±15%の膜厚差が生じると共に、光学特性の差異も認められた。尚、このとき基板トレイの間隔は50mmであった。
【0037】
次に、同成膜条件下において、複数の基板トレイを隙間無く接続した上で基板搬送を実施した(これを実施例1とする)。基板搬送が放電空間を遮ることに起因する放電アドミッタンスの変化を効果的に抑制するためである。放電電力の時間変動の様子を図2に示す。
【0038】
最初の基板トレイがターゲット上を通過する前と、最後の基板トレイが通過した直後においては、上述したような放電電力の大幅な時間変動が認められたが、ターゲット上を通過中においては、放電電力の時間変動は2%程度であった。最初のトレイと最後のトレイに置かれた基板以外で膜厚分布を確認したところ、約±5%以内であり、光学特性も均一であった。
【0039】
更に、基板トレイの間隔を10mmとして同様の実験を行った(これを実施例2とする)。これらの結果を表1に示す。表1より、放電アドミッタンスの時間変動が10%を超えると、放電が遷移モードから移行し、膜特性に影響を与え、所望の光学特性が得られなくなることが判った。
【0040】
【表1】


【0041】
<実施例3,4、比較例2,3>
次に、放電アドミッタンスの長期的変動を確認するため、累積使用時間(侵食状態)の異なる4種類のターゲットを用意して、放電電圧と放電出力の関係を測定した。ターゲット表面磁場強度が弱いとターゲット表面状態によって放電アドミッタンスは大きく異なるため、侵食深さの異なるターゲットを使用する場合、成膜速度、膜質などが再現しないことがあるためである。尚、このとき、図3に示したターゲット表面の磁場方向において、最大磁場強度は0.015テスラであった。
【0042】
放電電圧を230〜630Vの範囲で増減させた時の、放電電力を測定したところ、図4の結果が得られた。
【0043】
これらの波形において、ピークの位置が反応性スパッタ領域と遷移領域の境界であり、ボトムの位置が遷移領域と金属スパッタ領域の境界である。酸化物モードではSiO2膜が得られるが、成膜速度は遅い。また、金属モードでは成膜速度は速いが、得られる膜は光学的な吸収が存在する亜酸化物となる。
【0044】
4測定の結果、酸化物モードと遷移モードの境界は460〜520Vの範囲で、遷移モードから金属モードへの境界は580〜640Vの範囲でばらついており、遷移領域での制御可能範囲が狭い。すなわち、長期間の使用でターゲットの侵食が進行した場合、定電圧駆動においても放電アドミッタンスの変化が生じ、スパッタ状態が別モードへ変化する可能性があるため、遷移モードでの制御性に課題があることが確認できた。
【0045】
次に、ターゲット表面の最大磁場強度が0.03テスラとなるように磁石の位置を調整し、同様の測定を実施した。結果を図5に示す。
【0046】
磁場強度を上げたため波形は全体的に低電圧側にシフトしたが、これは本質的な問題ではない。酸化物モードと遷移モードの境界は380〜400Vの範囲で、遷移モードから金属モードへの境界は530〜580Vの範囲と4測定間における測定ばらつきが改善されており、遷移領域での制御可能範囲が広くなっている。すなわち、ターゲット表面の磁場強度を0.03テスラ以上に調整したカソードでは、長期間の使用でターゲットの侵食が進行したとしても定電圧駆動において放電アドミッタンスの変化が生じにくく、成膜速度、膜質などの変化が抑制できることを見出した。
【0047】
1種類のターゲットを選定し、表1の条件下で10時間連続放電を実施し、成膜速度と膜質の変化を測定した(ターゲット表面の磁場強度を0.03テスラとしたものを実施例3、4とし、同強度を0.015テスラとしたものを比較例2、3とした)。結果を表2に示す。表2より、ターゲット表面の最大磁場強度が0.03テスラ未満では、安定した高速成膜や所望の光学膜が得られなくなることが分った。
【0048】
【表2】


【0049】
<実施例5,6,7,8>
次に、遷移領域で定電圧制御を行うにあたり、成膜速度を調整するための手段として酸素濃度を利用するため、電圧と電力の関係における酸素濃度依存性を調べた。尚、ターゲット表面上の最大磁場強度は0.03テスラ、アルゴンガスと酸素ガスの総流量を150SCCM一定とし、酸素濃度を6.7、10、13、17%と変化させた。結果を図6に示す。
【0050】
本結果は、非特許文献2に記載の内容を再現しており、反応性ガスの供給速度の増加に伴い遷移状態の放電パワーが増加している。しかしながら、単純に増加するだけでなく、酸素濃度の増加により遷移領域は高電圧側にシフトしているのが判る。そのため酸素流量の増減により、最悪の場合、酸化物モードや金属モードに切り替わるという問題がある。
【0051】
そこで、酸素濃度により放電電圧の設定値を自動的に変更する制御回路を設けて、成膜実験を行った。酸素濃度と設定電圧の関係は、図6から求めた以下の関係式を用いた。
【0052】
放電電圧(V)=4.3×酸素濃度(%)+400(V) ・・・・・・・・ (1)
【0053】
この関係式は装置固有なので、装置毎に実験を行って決定する必要があるが、今回は上式を用いた。供給ガスの酸素濃度の変更によって電圧制御値が変更される制御回路を接続した。この状態で酸素濃度を再度6.7、10、13、17%と変化させ、放電電力を計測した(これらをそれぞれ実施例5、6、7、8とする)。結果を図7に示す。図7にプロットした各測定点で成膜速度を求めたところ、単位パワー当たりのダイナミック成膜速度は7nm・m/min一定であった。すなわち、パワーに対して成膜速度が比例することが確認できた。尚、得られた膜は波長λ=632.8nmにおいて、屈折率n=1.46、消衰係数k≦1×10-6であり、光学膜として良好なSiO2膜が得られている。
【0054】
<実施例9>
同様に、遷移領域で定電圧制御を行うにあたり、成膜速度を調整するための別手段として反応性ガス分圧の実時間測定値を利用するため、電圧と酸素分圧の関係を調べた。尚、ターゲット表面上の最大磁場強度は0.03テスラ、アルゴンガスと酸素ガスの総流量を150SCCM一定とした。結果を図8に示す。
【0055】
測定の結果、400〜500V付近に酸素分圧のプラトー領域が存在することが分かった。この領域の中央部、すなわち、放電電圧を450Vに調整した成膜を行ったところ(これを実施例9とする)、単位パワー当たりのダイナミック成膜速度は、5.9nm・m/minと高速であった。尚、得られた膜は波長λ=632.8nmにおいて、屈折率n=1.46、消衰係数k≦1×10-6であり、光学膜として良好なSiO2膜が得られている。
【0056】
<実施例10,11,12,13、比較例4>
スパッタ装置:インライン型
試料(基板):ソーダライムガラス
ターゲット:ホウ素(B)添加シリコン(Si)
到達真空度:4×10-4Pa以下
アルゴン(Ar)ガス流量:90SCCM
酸素(O2)ガス流量:10SCCM
ガス圧:0.4Pa
最大磁場強度:0.03テスラ
【0057】
上記条件で、電源のパルス周波数またはターゲット切り替え周波数を変化させて成膜を行った。結果を表3、表4に示す。成膜レートの低下を招くことなく、またアーキングを発生させないように、表3よりパルス電源を使用する場合は40kHz〜350kHzを用いるのが好ましく、表4よりターゲット切り替えを実施する場合は、20kHz〜100kHzを用いるのが好ましいことがわかる。
【0058】
【表3】


【0059】
【表4】


【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】比較例1における放電電力の時間変動の様子を示す図である。
【図2】実施例1における放電電力の時間変動の様子を示す図である。
【図3】ターゲット表面の磁場方向を示す図である。
【図4】ターゲット最大磁場強度が0.015テスラ時の放電電力の電圧依存性を示す図である。
【図5】ターゲット最大磁場強度が0.03テスラ時の放電電力の電圧依存性を示す図である。
【図6】電圧と電力の関係における酸素濃度依存性を示す図である。
【図7】実施例5〜8における酸素濃度と放電電力の関係を示す図である。
【図8】請求項4の方法における酸素分圧の電圧依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
11 ターゲット
12 マグネット
13 台座
14 磁束線(矢印の向きは磁場方向)




 

 


     NEWS
会社検索順位 特許の出願数の順位が発表

URL変更
平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年


 
   お問い合わせ info@patentjp.com patentjp.com   Copyright 2007-2013