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発明の名称 調光ガラスの製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−22839(P2007−22839A)
公開日 平成19年2月1日(2007.2.1)
出願番号 特願2005−205586(P2005−205586)
出願日 平成17年7月14日(2005.7.14)
代理人 【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
発明者 藤沢 章 / 末吉 幸雄
要約 課題
CVD法により、長時間にわたって安定して酸化バナジウム膜を大きな成膜速度で形成する調光ガラスの製造方法を提供する。

解決手段
塩素を含むバナジウム化合物と水蒸気とを含む原料ガスを基体上に供給し、バナジウム化合物(例えば塩化バナジウム、オキシ塩化バナジウム)と水蒸気とを反応させ、基体上に酸化バナジウムを主成分とする薄膜1を形成するに際し、原料ガスに塩化水素を添加する。塩化水素は、バナジウム化合物と水蒸気との反応を抑制する。基体は、例えば、ガラス板7と、ガラス板上に形成した酸化錫を主成分とする薄膜2とから構成するとよい。
特許請求の範囲
【請求項1】
塩素を含むバナジウム化合物と水蒸気とを含む原料ガスを基体上に供給し、前記バナジウム化合物と前記水蒸気とを反応させ、前記基体上に、二酸化バナジウムを含み、酸化バナジウムを主成分とする薄膜を形成する調光ガラスの製造方法であって、
前記原料ガスに塩化水素を添加する調光ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記酸化バナジウムを主成分とする薄膜を、100nm/分以上の成膜速度で形成する請求項1に記載の調光ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスにおける前記バナジウム化合物の濃度を0.01mol%以上とし、前記基体の温度を400℃以上とする請求項1または2に記載の調光ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスにおいて、前記バナジウム化合物に対する前記塩化水素のモル比が0.01以上0.5以下となるように、前記塩化水素を添加する請求項1〜3のいずれか1項に記載の調光ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記バナジウム化合物と前記水蒸気とを混合する前に、前記バナジウム化合物および前記水蒸気から選ばれる少なくとも一方に前記塩化水素を添加する請求項1〜4のいずれか1項に記載の調光ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記基体が、ガラス板と前記ガラス板上に形成された酸化錫を主成分とする薄膜とを含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の調光ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記基体がフロート法におけるガラスリボンを含み、前記酸化バナジウムを主成分とする薄膜を、非酸化性雰囲気に保持したフロートバス内で形成する請求項1〜6のいずれか1項に記載の調光ガラスの製造方法。

発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物または車両の窓ガラスに適した、光線透過率、特に赤外線の透過率を調整できる調光ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化バナジウム(VO2)は、68℃で単斜晶系から正方晶系ルチル構造に相転位する。この相転移は可逆的な半導体−金属転位であり、この相転移に伴って赤外線反射率が大きく増加する。この特性を利用すると、環境温度に応じて太陽光の透過率が自動的に調整される調光ガラスを実現できる可能性がある。
【0003】
窓ガラスとしての使用を考慮すると、上記転移温度はやや高い。このため、酸化バナジウム膜に、他の金属を添加して転移温度を低下させることが検討されている。
【0004】
特開平7−331430号公報には、反応性スパッタリング法により、酸化バナジウム膜にタングステンを添加して転位温度を下げることが開示されている。この公報によると、タングステンの添加により、−81℃〜67℃の範囲内で転移温度を任意に設定することが可能となる。
【0005】
特開平8−3546号公報には、反応性スパッタリング法により、酸化バナジウム膜にモリブデンを添加して転位温度を下げることが開示されている。この公報によると、モリブデンの添加により、−38℃〜67℃の範囲内で転移温度を任意に設定することが可能となる。
【0006】
酸化バナジウム膜を形成した調光ガラスに他の機能を付加することも検討されている。特開2003−94551号公報には、スパッタリング法により、酸化バナジウム膜上に光触媒機能を有する酸化チタン膜を形成することが開示されている。酸化チタン膜は、酸化バナジウム膜よりも低い屈折率を有するため、反射防止機能も発揮する。
【0007】
特表2002−516813号公報には、スパッタリング法により、タングステンとフッ素とを添加した酸化バナジウム膜を形成することが開示されている。この公報によれば、タングステンとともにフッ素を添加することにより、酸化バナジウム膜の光学的特性は改善する。この公報には、光の反射を抑えて透過率を高めるために、酸化バナジウム膜とガラス等の基体との間に酸化チタン膜を挿入すること、さらに酸化バナジウム膜上に珪素オキシ窒化物膜を形成すること、が記載されている。
【0008】
酸化バナジウム膜の成膜方法としては、スパッタリング法ともに、CVD(Chemical Vapor Deposition)法(化学蒸着法)も知られている。例えば、Troy D. Manning et al., "Intelligent Window Coatings: Atmospheric Pressure Chemical Vapour Deposition of Vanadium Oxides", Journal of Materials Chemistry 12 (2002) pp2936-2939には、塩化バナジウムと水蒸気を原料としたCVD法による酸化バナジウム膜が開示されている。Troy. D. Manning et al., "Atmospheric Pressure Chemical Vapour Deposition of Tungsten doped Vanadium (IV) Oxide from VOCl3, Water and WCl6", Journal of Materials Chemistry 14 (2004) pp2554-2559 には、オキシ塩化バナジウムと水蒸気、さらに塩化タングステンを原料としたCVD法による酸化バナジウム膜が開示されている。
【特許文献1】特開平7−331430号公報
【特許文献2】特開平8−3546号公報
【特許文献3】特開2003−94551号公報
【特許文献4】特表2002−516813号公報
【非特許文献1】Troy D. Manning et al.,"Intelligent Window Coatings: Atmospheric Pressure Chemical Vapor Deposition of Vanadium Oxides", Journal of Materials Chemistry 12 (2002) pp2936-2939
【非特許文献2】Troy D. Manning et al., "Atmospheric Pressure Chemical Vapour Deposition of Tungsten doped Vanadium (IV) Oxide from VOCl3, Water and WCl6", Journal of Materials Chemistry 14 (2004) pp2554-2559
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
CVD法は、スパッタリング法等の物理蒸着法と比べ、膜厚を高度に均一化する点では不利であるが、高温で成膜するために薄くても結晶性の良い膜を形成できる。さらに、CVD法は、広い面積に比較的均一な厚さで、しかも短時間で膜を形成できるため、工業製品の大量生産に適している。
【0010】
CVD法においては、原料の組成等に多少依存するが、一般に、反応系の温度が高いほど成膜速度が大きくなる。これを考慮すると、CVD法において成膜速度を大きくするためには、基体の温度を高くするとともに、原料ガスにおける膜原料の濃度を高くして膜原料の供給を増加させる必要がある。
【0011】
しかし、CVD法により、塩化バナジウム、オキシ塩化バナジウムのようなバナジウム化合物と水蒸気とを反応させて酸化バナジウム膜を形成する場合に、基体の温度を高くし、膜成分の濃度を高くしても、大きい成膜速度は得られず、却って、原料ガス中の反応による生成物が原料ガスを供給する配管内に付着して配管を詰まらせるという問題が生じる。これは、塩素を含むバナジウム化合物と水蒸気との反応性が高いためである。基体に至るまでに原料ガス中で膜原料が消費されるため、膜原料の濃度を高くしても、成膜速度は大きくならない。
【0012】
そこで、本発明は、CVD法により、長時間にわたって安定して酸化バナジウム膜を大きな成膜速度で形成する調光ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、塩素を含むバナジウム化合物と水蒸気とを含む原料ガスを基体上に供給し、前記バナジウム化合物と前記水蒸気とを反応させ、前記基体上に酸化バナジウムを主成分とする薄膜を形成する調光ガラスの製造方法であって、前記原料ガスに塩化水素を添加する調光ガラスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塩化水素がバナジウム化合物と水蒸気との反応を抑制するため、CVD法により、基体上に、酸化バナジウム膜を長時間にわたって安定して、大きい成膜速度で形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1に示す調光ガラスは、ガラス板7と、ガラス板7上に形成された多層膜5とを有し、多層膜5が、酸化錫を主成分とする薄膜2と、この薄膜2上に形成された酸化バナジウムを主成分とする薄膜1と、から構成されている。
【0017】
本明細書において、主成分とは、慣用のとおり、含有率が50重量%以上を占める成分をいう。薄膜の特性は主成分によって概ね定まるので、主成分をもって薄膜の特性を判断することは妥当である。以下、記載の簡略化のために、酸化錫を主成分とする薄膜2を酸化錫膜、酸化バナジウムを主成分とする薄膜1を酸化バナジウム膜と表記することがあるが、この表記は、これら薄膜への副成分の添加を排除するものではない。
【0018】
酸化錫膜2は必須の膜ではなく、酸化バナジウム膜1を、ガラス板7の上に直接形成したり、後述する下地膜3の上に形成したりしてもよい。また、酸化錫膜2に代えて、他の膜、例えば酸化チタン膜を用いても構わない。しかし、酸化錫膜2は、二酸化バナジウムの高温での結晶構造と同じルチル構造を示すため、酸化錫膜2を下地とすると、酸化バナジウム膜1の結晶性は向上する。酸化バナジウム膜1は、酸化錫膜2の上に形成することが好ましい。
【0019】
酸化錫膜2は、図1に示すようにガラス板7上に直接形成してもよく、図2に示すようにガラス板7上に形成した下地膜3の上に形成してもよい。酸化ナトリウム等のアルカリ成分を含むガラス板、例えばソーダライムガラス板、をガラス板7として用いる場合には、アルカリバリア機能を有する下地膜3をガラス板7上に配置するとよい。アルカリバリア機能を有する下地膜3としては、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸窒化シリコンおよび酸炭化シリコンから選ばれる少なくとも1種を含む、あるいは主成分とする、膜が適している。下地膜3の好ましい膜厚は、5nm以上100nm以下である。
【0020】
酸化錫膜2の膜厚は、特に制限されないが、酸化錫膜2が厚すぎると調光ガラスが反射干渉色を呈することがあるため、100nm以下、さらに80nm以下、特に50nm以下が好ましい。酸化バナジウム膜1の結晶性を改善するという目的のみを考慮する限りにおいて、酸化錫膜2は、膜がルチル構造を示しうる範囲で薄いことが好ましく、例えば40nm以下であってもよい。酸化錫膜2がルチル構造をとりうる膜厚の範囲の下限は、成膜法等に依存する。酸化錫膜2は、一般には10nm以上とするとよいが、いわゆるCVD法による場合にはこれよりも薄い膜でもルチル構造をとりうる。CVD法により成膜する場合における酸化錫膜2の好ましい膜厚は5nm以上である。以上より、酸化錫膜2の好ましい膜厚は、5nm以上100nm以下、特に5nm以上50nm以下、である。
【0021】
従来、反射率低減の観点から用いられていた酸化チタン膜は、スパッタリング法により成膜された場合には、非晶質となるか、結晶になったとしてもアナターゼ構造を示し、熱分解法により成膜された場合には、アナターゼ構造またはアナターゼ構造とルチル構造とが混在した構造を示す。このため、酸化チタン膜は、酸化バナジウム膜の結晶性を改善するための下地としては酸化錫よりも劣る。
【0022】
これに対し、酸化錫膜2を下地とすることにより、酸化バナジウム膜1が薄くても十分な調光機能を得ることが容易になる。図示した形態では、下地膜3および/または酸化錫膜2を形成したガラス板7が、酸化バナジウム膜1を形成すべき基体となる。上述した理由により、基体は、ガラス板7と、ガラス板7上に形成された酸化錫膜2とを含むことが好ましい。
【0023】
酸化バナジウム膜1は、ルチル構造を示す酸化錫膜2の表面上に堆積すると、その結晶性は良好となる。このため、膜厚が薄くても、酸化バナジウム膜1からは良好な調光機能を得ることができる。酸化バナジウム膜1の膜厚は、10nm程度であってもよいが、十分な調光機能を得るためには20nm以上であることが好ましい。一方、酸化バナジウム膜1が厚すぎると、調光ガラスの反射色は黄色味を帯びる。このため、酸化バナジウム膜1の膜厚は、70nm以下、さらには60nm以下が好ましく、50nm未満であってもよい。以上より、酸化バナジウム膜1の好ましい膜厚は、10nm以上70nm以下であり、特に10nm以上50nm未満である。
【0024】
二酸化バナジウムが単斜晶から正方晶系ルチル構造に相転位する転位温度を68℃から低下させるために、酸化バナジウム膜1にはバナジウム以外の金属元素、例えばタングステン、を添加するとよい。本発明者の検討によると、転位温度を低減させる金属元素としては、タングステンの他に、クロム、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、インジウム等が有効であった。従って、酸化バナジウム膜1は、タングステン、クロム、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つを含有していてもよい。
【0025】
これら元素のうち、タングステンは転移温度を効果的に低減させる点で有利であり、クロム、鉄、コバルト、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、インジウムは原料が比較的安価である点で有利である。
【0026】
これら金属元素の添加量が少なすぎると転移温度を十分に低下させることができず、逆に多すぎると二酸化バナジウムの結晶構造が過度に乱れて十分な調光機能を得ることができなくなる。このため、添加する金属元素の適切な濃度は、金属元素の種類にもよるが、全金属元素の0.01〜10原子%程度である。
【0027】
酸化バナジウム膜1には、二酸化バナジウム(VO2)が含まれている必要があるが、調光機能が得られる限り、その他の価数のバナジウムの酸化物が含まれていてもよい。二酸化バナジウム含有の有無は、例えばX線回折法により判断することができる。調光ガラスが酸化バナジウム以外に調光機能を奏しうる材料を含まない場合には、膜の分析に代えて、光線透過率が室温から70℃程度の環境温度に応じて変化する調光機能を測定することにより、酸化バナジウム膜に二酸化バナジウムが存在することを確認してもよい。
【0028】
酸化バナジウム膜1は、CVD法により成膜する。CVD法、特に原料に含まれる金属化合物の熱分解を伴う熱CVD法を用いると、高温で膜が成長するため、薄くても良好な結晶性を有する膜を得やすい。酸化バナジウム膜1を熱CVD法により成膜する際には、ガラス板7を、400℃以上、特に450℃以上、に保持しておくことが好ましい。
【0029】
膜の形成方法が同じであれば、これらを一連の工程として実施でき、短時間の成膜も可能になる。このため、量産工程における生産効率を考慮すると、酸化バナジウム膜1、酸化錫膜2および下地膜3を含む多層膜5のすべてを、CVD法により形成することが好ましい。CVD法による酸化錫膜の成膜の際にも、塩化水素を添加してもよい。例えば、塩素を含む錫化合物と水蒸気と塩化水素とを含む原料ガスをガラス板7上に供給し、錫化合物と水蒸気とを反応させることにより酸化錫膜2を形成して、酸化バナジウム膜1を形成する基体を得ることとしてもよい。
【0030】
CVD法において、気体状態のバナジウム化合物と酸化剤である水蒸気とを、別の配管を経由して別々に基体に供給すると、原料ガスの混合が十分でない状態で反応が進行するため、酸化バナジウム膜に組成ムラや膜厚ムラが生じやすい。このため、配管の途中でバナジウム化合物と水蒸気とを予め混合するプレミックスを行うことが望ましい。しかし、プレミックスを行うと、塩素を含むバナジウム化合物と水蒸気とが原料ガス中で反応し、原料ガス中にバナジウムの酸塩化物や酸化物が生成する。これらの生成物が原料ガスとともに基体に供給されると膜の欠点の原因となり、配管内に付着するとやがては配管を閉塞させる。
【0031】
塩化水素は、原料ガスにおける塩素を含むバナジウム化合物と水蒸気との反応を抑制する作用を有する。この作用を十分に得るには、塩化水素を、バナジウム化合物と水蒸気とを混合する前に、バナジウム化合物および水蒸気から選ばれる少なくとも一方に、好ましくは少なくともバナジウム化合物に、塩化水素を添加するとよい。バナジウム化合物と水蒸気とが一旦混合されると反応が非常に速く進行するため、たとえ塩化水素を混合するまでの時間が短くても、バナジウムの酸塩化物や酸化物の生成を防止することは難しい。
【0032】
酸化バナジウム膜の成膜速度を大きくしようとして基体温度を高めると、基体の上方の気相の温度も高くなり、これに伴って基体の上方においてもバナジウム化合物と水蒸気との反応が進行する。また、成膜速度を大きくしようとして原料ガスにおける各成分の濃度を高めると、配管におけるバナジウム化合物と水蒸気との反応も進行しやすくなる。このため、供給する各成分が被膜の形成以外に消費され、大きな成膜速度を得ることができない。
【0033】
塩化水素の添加は、原料ガスにおけるバナジウム化合物の濃度を0.01mol%以上、さらには0.05mol%以上とし、基体の温度を400℃以上、さらには450℃以上、とする場合において、特に効果がある。
【0034】
原料ガスへの塩化水素の添加は、原料ガス中の塩素を含むバナジウム化合物と水蒸気とが基体上に到達するまでに消費されることを防止し、これら膜原料は酸化バナジウム膜の形成に効率的に利用される。塩化水素の添加は、酸化バナジウム膜の大きな成膜速度を得ることを容易とする。塩化水素を添加すると、95nm/分以上、さらには100nm/分以上、の成膜速度で酸化バナジウム膜を形成することも可能である。
【0035】
塩化水素の添加量が少ないと反応防止の効果が十分に得られない。他方、塩化水素を過度に添加すると、膜の形成に必要な基体上におけるバナジウム化合物と水蒸気との反応が抑制される。塩化水素は、原料ガスにおいて、バナジウム化合物に対する塩化水素のモル比が0.01以上0.5以下、特に0.1以上0.5以下となるように、添加することが好ましい。
【0036】
フロート法におけるガラスリボンを基体として、フロートバス内でCVD法により多層膜を順次形成する方法(以下、「オンラインCVD法」と称する)では、酸化バナジウム膜を形成する時の雰囲気が非酸化性雰囲気に保たれるため、酸化バナジウム膜の過剰酸化防止の観点から好ましい。
【0037】
オンラインCVD法で使用する装置は、図3に例示するように、熔融炉(フロート窯)11からフロートバス12内に流れ出し、スズ浴15上を帯状に移動するガラスリボン10の表面から所定距離を隔て、所定個数のコータ16(図示した形態では3つのコータ16a,16b,16c,16d)がスズフロート槽(フロートバス)内に配置されている。
【0038】
フロートバス内は溶融スズの酸化を防ぐために、1〜10%の水素を含む窒素雰囲気に保たれている。各コータ16a〜16dからは、気体である原料が供給され、ガラスリボン10上に連続して、多層膜、例えば下地膜、酸化錫膜、酸化バナジウム膜が順次形成されていく。なお、下地膜、酸化錫膜および酸化バナジウム膜を形成する際には、原料の一部である酸化剤がフロートバス内に漏れ出ないように、コータの排気量を調節するとよい。また、下地膜を2層としたり、酸化錫膜その他の膜を複数のコータから供給する原料により成膜したりするために、図示したよりも数が多いコータを配置してもよい。
【0039】
多層膜が形成されたガラスリボン10は、ローラ17により引き上げられて、徐冷炉13へと送り込まれる。なお、徐冷炉13で徐冷されたガラスリボンは、図示を省略する切断装置により、所定の大きさのガラス板へと切断される。
【0040】
以上のように、本発明では、基体がフロート法におけるガラスリボンを含むようにして、酸化バナジウム膜1を、非酸化性雰囲気に保持したフロートバス内で形成してもよい。
【0041】
酸化バナジウム膜1を形成するためのバナジウム原料としては、塩化バナジウム、オキシ塩化バナジウム等の塩素を含むバナジウム化合物が好ましい。バナジウム原料を酸化するための酸化剤としては、酸素、水蒸気、乾燥空気等が挙げられる。塩素を含むバナジウム化合物を用いる場合の酸化剤として水蒸気を用いると、バナジウム化合物の分解を促進できる。酸化バナジウム膜を形成するための原料ガスは、塩素を含むバナジウム化合物と水蒸気とを含んでいればよく、例えば水蒸気とともに他の酸化剤を併用してもよい。
【0042】
酸化バナジウム膜1に添加すべき金属元素の原料を以下に例示する。タングステン原料としては、塩化タングステン、オキシ塩化タングステン等が挙げられる。クロム原料としては、塩化クロム、アセチルアセトンクロム等が挙げられる。鉄原料としては、塩化鉄、アセチルアセトン鉄等が挙げられる。コバルト原料としては、塩化コバルト、アセチルアセトンコバルト等が挙げられる。マンガン原料としては、塩化マンガン、アセチルアセトンマンガン等が挙げられる。ニッケル原料としては、塩化ニッケル、アセチルアセトンニッケル等が挙げられる。銅原料としては、塩化銅、アセチルアセトン銅等が挙げられる。亜鉛原料としては、塩化亜鉛、アセチルアセトン亜鉛等が挙げられる。アルミニウム原料としては、塩化アルミニウム、アセチルアセトンアルミニウム等が挙げられる。インジウム原料としては、塩化インジウム、アセチルアセトンインジウム等が挙げられる。
【0043】
酸化錫膜2を形成するための錫原料としては、塩化第二スズ(四塩化スズ)、ジメチルスズジクロライド、ジブチルスズジクロライド、テトラメチルスズ、テトラブチルスズ、ジオクチルスズジクロライド、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジアセテート等が挙げられ、特に塩化第二スズが好適である。錫原料を酸化するための酸化剤としては、酸素、水蒸気、乾燥空気等を用いるとよい。
【0044】
酸化錫膜2にアンチモンを添加する場合のアンチモン原料としては、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン等を用いるとよい。
【0045】
下地膜3として好適な酸化シリコン膜を形成するためのシリコン原料としては、モノシラン、ジシラン、トリシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、1,2−ジメチルシラン、1,1,2−トリメチルジシラン、1,1,2,2−テトラメチルジシラン、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート等が挙げられる。この場合の酸化剤としては、酸素、水蒸気、乾燥空気、二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素、オゾン等が挙げられる。なお、シランを使用した場合にガラス板の表面に到達するまでにシランの反応を防止する目的で、エチレン、アセチレン、トルエン等の不飽和炭化水素ガスを併用してもかまわない。
【0046】
同じく下地膜3として好適な酸化アルミニウム膜を形成するためのアルミニウム原料としては、トリメチルアルミニウム、アルミニウムトリイソポプロポキサイド、塩化ジエチルアルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、塩化アルミニウム等が挙げられる。この場合の酸化剤としては、酸素、水蒸気、乾燥空気等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により、この発明を具体的に説明する。ただし、以下の実施例に限定するものではない。
【0048】
(実施例1)
150×150mmに切断した厚さ1mmのアルミノシリケートガラス板をメッシュベルトに乗せて加熱炉を通過させ、約660℃にまで加熱した。この加熱したガラス板をさらに搬送しながら、搬送路上方に設置したコータから、塩化第二スズ(蒸気)、水蒸気、塩化水素および窒素からなる混合ガス(原料ガス)を供給し、ガラス上に膜厚20nmの酸化錫膜を形成した。このような酸化錫層までを成膜したガラスを複数枚用意した。このガラス板を徐冷した後に、再度メッシュベルトに乗せて加熱炉を通過させ、約660℃にまで加熱した。この加熱したガラス板をさらに搬送しながら、搬送路上方に設置したコータから、塩化バナジウム(蒸気)、水蒸気、塩化タングステン(蒸気)、塩化水素および窒素からなる混合ガスを供給し、酸化錫膜上に、膜厚約40nmの酸化バナジウム膜を形成し、調光ガラスを得た。
【0049】
酸化バナジウム膜の成膜の際、塩化タングステンは、タングステンが酸化バナジウム膜における全金属元素(V+W)の0.8原子%となるように、混合した。また、混合ガスにおける塩化バナジウムの濃度は0.05mol%とした。
【0050】
塩化水素は、水蒸気との混合前の塩化バナジウムに混合して供給した。塩化バナジウムに対する塩化水素のモル比は0.05とした。コータとガラス板の間隔を10mmにし、さらに排気部の横に窒素ガスをカーテン状に供給して酸化バナジウム膜の成膜中にコータ内部に外気が混入しないようにした。
【0051】
約3時間連続で、コータから、塩化バナジウム、水蒸気、塩化タングステン、塩化水素および窒素からなる混合ガスを供給した。酸化錫膜まで形成されたガラスを時々搬送し、成膜速度と酸化バナジウム膜の特性を確認したが、酸化バナジウムの膜厚はほぼ変わらず、成膜速度の低下も見られなかった。成膜速度は120nm/分程度であった。
【0052】
約3時間の混合ガスの供給後に、混合ガスを供給した配管の内部を観察したが、付着物は見られず、閉塞箇所も見られなかった。
【0053】
実施例1により得た調光ガラスの調光機能を評価するため、分光光度計(日立製「U−4100」)にクライオスタット(オックスフォード・インストルメンツ製「オプティスタット」)を設置し、測定温度を室温(25℃)と65℃に設定した場合の透過率曲線を測定し、波長1500nmでの透過率差を求めたところ、25℃における透過率よりも65℃における透過率は小さく、その透過率差は25.2%であった。
【0054】
(比較例1)
酸化バナジウム膜を成膜するための混合ガスに塩化水素を混合しない以外は実施例1と同様にして調光ガラスを製造した。しかし、膜厚は30nmまでにしかならず、酸化バナジウム膜が成膜したガラス上に酸化物とみられる粉体が付着しているのが観察された。これは、酸化バナジウム膜の成膜速度が90nm/分程度に制限されたためである。
【0055】
この状態で、3時間連続して混合ガスを供給したところ、混合ガスを供給する配管の圧力が上昇し、混合ガスの供給ができなくなった。混合ガスの配管を外して内部を観察すると、付着物により、配管がほぼ閉塞されていた。
【0056】
実施例1の調光ガラスについて測定した分光透過率曲線を図4に示す(測定温度25℃、35℃、45℃、55℃、65℃)。温度の上昇に伴い、赤外域における透過率は大きく減少したが、可視域における透過率の変化の程度は小さかった。図4における矢印の長さは、波長1500nmにおける25℃と65℃との透過率差(25.2%)に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、窓ガラスに有用な、環境応答性を有する調光ガラスを効率的に製造する方法を提供するものとして、当該技術分野において多大な利用価値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の調光ガラスの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の調光ガラスの別の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の調光ガラスを製造するための装置の構成例を示す図である。
【図4】実施例1の調光ガラスの分光透過率曲線である。
【符号の説明】
【0059】
1 酸化バナジウム膜
2 酸化錫膜
3 下地膜
4 反射防止膜(窒化膜)
5 多層膜
7 ガラス板
10 ガラスリボン
11 熔融炉
12 フロートバス
13 徐冷炉
16 コータ
17 ローラ





 

 


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