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発明の名称 高Mn鋼材及びその製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−126715(P2007−126715A)
公開日 平成19年5月24日(2007.5.24)
出願番号 特願2005−320341(P2005−320341)
出願日 平成17年11月4日(2005.11.4)
代理人 【識別番号】100093469
【弁理士】
【氏名又は名称】杉岡 幹二
発明者 岡口 秀治
要約 課題
低温靭性と溶接性だけでなく熱膨張率、透磁率や熱伝導度などの特性にも優れた高Mn鋼材の提供。

解決手段
質量%で、C:0.01〜0.25%、Si:0.01〜0.5%、Mn:15%を超え40%以下、Cr:0.5%以上10%未満、Al:0.005〜0.10%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.001%以上0.05%未満及びO(酸素):0.003%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなり、下記の(1)式で定義されるパラメータXが3.0%以下の化学組成を有する鋼材であって、鋼材中に含まれるオーステナイト結晶粒界の厚み方向の平均切片長さが40μm以下であるとともにεマルテンサイト量が体積分率で0.1〜30%の範囲であることを特徴とする高Mn鋼材。
特許請求の範囲
【請求項1】
質量%で、C:0.01〜0.25%、Si:0.01〜0.5%、Mn:15%を超え40%以下、Cr:0.5%以上10%未満、Al:0.005〜0.10%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.001%以上0.05%未満及びO(酸素):0.003%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなり、下記の(1)式で定義されるパラメータXが3.0%以下の化学組成を有する鋼材であって、鋼材中に含まれるオーステナイト結晶粒界の厚み方向の平均切片長さが40μm以下であるとともにεマルテンサイト量が体積分率で0.1〜30%の範囲であることを特徴とする高Mn鋼材。
X(%)=30×P+50×(S+N)+300×O ・・・・・・・(1)式
ここで、P、S、N及びOは鋼材中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
【請求項2】
Feの一部に代えて、質量%で、Cu:3.0%以下、Ni:10%以下、Mo:3.0%以下、Nb:0.5%以下、V:1.0%以下、Ti:0.8%以下、B:0.003%以下、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下及びREM:0.05%以下から選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の高Mn鋼材。
【請求項3】
請求項1又は2で規定される化学組成を有する鋼片又は鋼塊を、950〜1200℃に加熱後、1000〜800℃の温度範囲における累積圧下量が30%以上であってかつ圧延仕上温度を950〜750℃とする熱間圧延を施した後、空冷することを特徴とする高Mn鋼材の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2で規定される化学組成を有する鋼片又は鋼塊を、950〜1200℃に加熱後、1000〜800℃の温度範囲における累積圧下量が30%以上であってかつ圧延仕上温度を950〜800℃とする熱間圧延を施した後、750〜600℃の温度範囲を2℃/sec以上の冷却速度にて冷却することを特徴とする高Mn鋼材の製造方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガスタンクなど、液化ガス雰囲気の低温から室温まで広範囲の温度に曝される溶接構造用鋼材に関し、高強度、低熱伝導度、低透磁率、低熱膨張率であるとともに、広い温度範囲で優れた母材靭性と溶接熱影響部靭性を有する高マンガン鋼とその製造方法に関する。特に、熱間圧延後に溶体化処理などの熱処理を必要とすることなく、室温における降伏応力が300MPa以上であるとともに液体窒素温度(−196℃)における母材及び溶接熱影響部のシャルピー吸収エネルギーが80J以上である、高Mn鋼材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス(沸点:−164℃)、液体酸素(沸点:−183℃)、液体窒素(沸点:−196℃)など、液化ガス雰囲気の低温で使用可能な材料としては、従来からJIS SUS304等のNi−Cr系オーステナイト合金やJIS 5000番系等のアルミニウム合金が使用されてきている。しかしながら、これらの材料はコストが高いことや、また降伏応力が低合金高張力鋼ほど高くないため板厚を厚くせざると得ないことに加えて、溶接施工性も高くないことに起因して、大型タンクなどの大型溶接構造物への適用については問題があり、比較的安価でかつ強度、溶接性および溶接部靭性に優れた材料が要望されている。
【0003】
そのため、高価なNiやAlを多用しない低温用材料として、Ni系オーステナイト合金において高価な元素であるNiをMnに置き換えた高Mn系オーステナイト合金が提案され、核融合炉、超伝導発電機やリニアモーターカーで使用される非磁性材料として検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、C+Nの含有量を0.20%以下に制限するととともに、Mn+20(C+N)の含有量を27%以上とすることによって、優れた低温靭性と磁性特性、被削性を備えた高Mn鋼が得られることが示されている。特許文献2では、Mnを18〜30%含有する高Mn鋼に8〜16%のNiを加えるとともに、(1050−12.5Ni)℃以上の温度で熱間圧延を仕上げることによって、溶体化処理などを施さなくても高強度と低温靭性に優れた高Mn鋼を製造する方法が開示されている。さらに、特許文献3では、10〜30%のMnと10〜25%のCrを含み、X=Ni−30C+0.5Moで表されるパラメータが5.50以上を満足し、かつ0.0005〜0.0050%のCaと0.15〜0.24%のNを含有することによって、4Kという極低温においても高強度と高靭性を有する高Mn鋼が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭60-204864号公報
【特許文献2】特開平6-264135号公報
【特許文献3】特開平9-41087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの従来の技術に係る高Mn鋼材は、Niを多量に含有させる必要があるか、又は圧延後の特殊な熱処理を必要とするものであり、低コストで厚肉材に高強度化と優れた母材靭性を具備させることができるものではなく、大型の低温タンク用鋼材として必要な要件を満たすものではなかった。加えて、大型溶接構造用材料として不可欠の溶接熱影響部の低温域における靭性を保証することもできなかった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点を解決するものであって、次の(a)〜(c)に示す要件を満たす高Mn鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
(a) 熱間圧延後に溶体化処理などの再加熱処理を施すことなく、圧延後空冷または加速冷却するだけで、室温(25℃)において300MPa以上の降伏応力と、液化天然ガス(沸点:−164℃)や液体窒素(沸点:−196℃)などの使用温度域でも十分な母材靭性を厚肉材においても確保できること、具体的にはJIS4号シャルピー吸収エネルギーにて母材で150J以上を板厚最大65mmにおいて確保できること。
【0009】
(b) 板厚最大65mmの鋼板を溶接により接合するに当たり、その溶接熱影響部において液化天然ガス(沸点:−164℃)や液体窒素(沸点:−196℃)などの使用温度域でも十分な靭性を確保できること、具体的にはJIS4号シャルピー吸収エネルギーにて70J以上のエネルギー値を確保できること。
【0010】
(c) その他、低温材料として必要な材料特性を達成できること、具体的には1.02以下の低比透磁率及び17W/m・K以下の低熱伝導率を同時に達成できること。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、液化ガス貯蔵タンクなどに使用できる低温用鋼について、鋭意検討と実験を繰り返した。
【0012】
その結果、鋼材の化学組成に関しては、高Mn鋼をベースに、C、Si、P、S、Cr、Al、N、O(酸素)などの各合金元素量を適正範囲に規定するだけでなく、X(%)=30×P+50×(S+N)+300×Oで定義されるパラメータX(ここで、P、S、N及びOは鋼材中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。)を3.0%以下に規定し、さらに、鋼材中のオーステナイト結晶の厚み方向の粒径とεマルテンサイト量の体積分率を適正な範囲に制御することによって、上記目的を達成することができることを見出した。
【0013】
すなわち、高Mn鋼材の化学組成と鋼材中のオーステナイト結晶の厚み方向の粒径とεマルテンサイト量の体積分率を適正な範囲に制御することによって、低温用鋼としての母材の強度と低温靭性値を熱間圧延ままで確保できるだけでなく、溶接熱影響部についても低温域における靭性値を確保することができるとともに、鋼材中のεマルテンサイト量の制御との相乗効果によって、熱膨張率、透磁率や熱伝導度などの特性値も所望の数値に制御することができることを見出した。
【0014】
本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。本発明の要旨とするところは、次の(1)及び(2)の高Mn鋼材及び(3)及び(4)の高Mn鋼材の製造方法である。以下、それぞれ、本発明(1)〜本発明(4)という。なお、本発明(1)〜本発明(4)を総称して、本発明ということがある。
【0015】
(1) 質量%で、C:0.01〜0.25%、Si:0.01〜0.5%、Mn:15%を超え40%以下、Cr:0.5%以上10%未満、Al:0.005〜0.10%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、N:0.001%以上0.05%未満及びO(酸素):0.003%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなり、下記の(1)式で定義されるパラメータXが3.0%以下の化学組成を有する鋼材であって、鋼材中に含まれるオーステナイト結晶粒界の厚み方向の平均切片長さが40μm以下であるとともにεマルテンサイト量が体積分率で0.1〜30%の範囲であることを特徴とする高Mn鋼材。
X(%)=30×P+50×(S+N)+300×O ・・・・・・・(1)式
ここで、P、S、N及びOは鋼材中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
【0016】
(2) Feの一部に代えて、質量%で、Cu:3.0%以下、Ni:10%以下、Mo:3.0%以下、Nb:0.5%以下、V:1.0%以下、Ti:0.8%以下、B:0.003%以下、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下及びREM:0.05%以下から選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の高Mn鋼材。
【0017】
(3) 上記(1)又は(2)で規定される化学組成を有する鋼片又は鋼塊を、950〜1200℃に加熱後、1000〜800℃の温度範囲における累積圧下量が30%以上であってかつ圧延仕上温度を950〜750℃とする熱間圧延を施した後、空冷することを特徴とする高Mn鋼材の製造方法。
【0018】
(4) 上記(1)又は(2)で規定される化学組成を有する鋼片又は鋼塊を、950〜1200℃に加熱後、1000〜800℃の温度範囲における累積圧下量が30%以上であってかつ圧延仕上温度を950〜800℃とする熱間圧延を施した後、750〜600℃の温度範囲を2℃/sec以上の冷却速度にて冷却することを特徴とする高Mn鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低温靭性と溶接性だけでなく熱膨張率、透磁率や熱伝導度などの特性にも優れた高Mn鋼材を熱間圧延ままで提供することができる。また、この高Mn鋼材は、LNGタンクスカート用等に用いられるNi系オーステナイトステンレス鋼材の代替として使用することができるものであって、Ni資源の節約に多大に貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明に係る高Mn鋼材及びその製造方法について説明する。以下、各化学成分の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。
【0021】
(A)化学組成について
C:
Cは、オーステナイトの安定化を通じて、液化ガスタンクなど低温用鋼材に要求される強度を確保するのに有効な元素である。ただし、その含有量が0.01%未満ではこのような効果が乏しく、一方、Cの含有量が0.25%を超えるとCr炭化物がオーステナイト粒界へ析出して、母材の靱性や耐食性、さらには溶接熱影響部の低温靭性が劣化するおそれがある。したがって、C含有量は0.01〜0.25%の範囲とする。好ましい範囲は、0.05〜0.18%である。
【0022】
Si:
Siは、脱酸のために有効な元素であり、また強度上昇に有効な元素である。ただし、0.01%未満では脱酸不足になる可能性があり、また0.5%を超えると延性および靱性の劣化をもたらすおそれがある。したがって、Si含有量は0.01〜0.5%の範囲とする。好ましい範囲は、0.02〜0.3%である。
【0023】
Mn:
Mnは、オーステナイトの安定化を通じて、降伏応力の増加と低温靱性の向上に有効な元素である。ただし、15%以下の含有量では低温靭性の低下が生ずるだけでなく、α’マルテンサイトなどが析出して透磁率が上昇し、非磁性が失われたり、熱伝導度が増加したりする。また、40%を超えると加工性と靱性が劣化する。したがって、Mn含有量は15%を超え40%以下の範囲とする。好ましい範囲は20〜37%であり、さらに好ましい範囲は25〜35%である。
【0024】
Cr:
Crは、オーステナイトを安定化し、耐力を向上させる元素である。他の合金元素との関係で含有量が0.5%以上でこの効果がある。ただし、10%以上ではCr炭化物が粒界上に析出しやすくなり靱性を低下させるとともに、溶体化処理等の熱処理が必要になる。したがって、Cr含有量は0.5%以上10%未満の範囲とする。好ましい範囲は、1.5〜7%である。
【0025】
Al:
Alは、鋼の脱酸と結晶粒の微細化による鋼の特性向上の作用を持つ元素である。ただし、0.005%未満では十分な効果が得られず、一方、0.10%を超えると靱性が劣化する。したがって、Al含有量は0.005〜0.10%の範囲とする。好ましい範囲は、0.01〜0.05%である。
【0026】
P及びS:
P及びSは、ともに熱間加工性を損なう不純物元素である。オーステナイト鋼においては、P及びSの両元素の含有量を同時に低減することにより、単独に低減する場合よりも大きな母材および溶接熱影響部の靭性値の向上効果が得られる。そこで、Pの含有量は0.03%以下、そして、Sの含有量は0.01%以下とする。好ましくは、Pの含有量は0.01%以下、Sの含有量は0.003%以下である。
【0027】
N:
Nは、オーステナイトの安定化と耐力向上に有効な元素である。オーステナイトの安定化元素としてはCも用いられるが、CはCr炭化物の粒界析出による靱性劣化をもたらすのに対して、Nはこのような悪影響を及ぼさないだけでなく、高Mn鋼においては降伏応力増加効果がCより大きい。また、Nは窒化物形成元素と共存することによって、鋼中に微細な窒化物を分散させるという効果を有する。これらの効果を発現させるためには、Nの含有量は0.001%以上必要である。ただし、0.05%以上となると靱性の劣化が著しくなる。よって、Nは0.001%以上0.05%未満の範囲とする。好ましい範囲は、0.001〜0.03%である。
【0028】
O(酸素):
Oは、製鋼時に不可避的に混入するが、その含有量が多くなると鋼中の内質欠陥等の原因になり、鋼の特性を低下させる。Oの含有量が0.003%を超えると、低温靭性、特に溶接熱影響部の低温靭性が著しく低下するとともに、α’マルテンサイトが生成しやすくなり、透磁率などの磁気特性も劣化しやすくなる。したがって、Oの含有量は0.003%以下とする。好ましくは、0.002%以下である。なお、Oは少ないほどよいが、製造コストを考慮すれば、通常は0.0005%程度まで脱酸すれば十分である。
【0029】
パラメータX:
前述の(1)式、すなわち、X(%)=30×P+50×(S+N)+300×Oで定義されるパラメータX(ここで、P、S、N及びOは鋼材中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。)は、母材靭性と溶接熱影響部の低温靭性を改善する観点から、特に−196℃におけるシャルピー特性を改善する観点から、その制御が必要なパラメータである。本発明における高Mn鋼材は、主にオーステナイト相からなるため、いわゆる劈開破壊を生じにくい材質ではあるが、劈開破壊を引き起こすα’マルテンサイトの生成、オーステナイト結晶粒界やオーステナイト結晶とεマルテンサイト結晶の境界の強度の低下又は酸・硫化物の生成によって、脆性破壊をもたらす場合がある。
【0030】
本発明者等は、この点について詳細に検討及び研究をした結果、上記パラメータXを3.0%以下に制御すれば、P及びSによるオーステナイト結晶粒界上のミクロ偏析による粒界強度低下、N及びOによるオーステナイト結晶とεマルテンサイト結晶の境界の強度の低下、そして、S、N及びOによる介在物の生成のいずれをも抑制できるため、上記脆性破壊の発生を抑制することに極めて有効であるとともに、溶接熱影響部組織の特性改善にも有効であることを見出した。ただし、パラメータXが3.0%を超えると、十分な破壊抵抗力が得られない。パラメータXの好ましい範囲は2.0%以下であり、より好ましい範囲は1.5%以下である。
【0031】
高Mn鋼材中に含まれるオーステナイト結晶粒界の厚み方向の平均切片長さ:
高Mn系の鋼材で低温用材料としての十分低温靭性を付与させるためには、上記のパラメータXを3.0%以下に制御した上で、さらに板厚方向のオーステナイト結晶粒を実質的に細かくすることが極めて重要である。高Mn鋼ではオーステナイト中に板状及び帯状のマルテンサイトが生成するが、これらはオーステナイト粒の大きさによってその長さが決定されることから、オーステナイト結晶の粒径を制御する必要がある。本発明では圧延ままで良好な特性を得ることを目的としていることから、特に板厚方向の結晶組織の微細化を規定したものである。
【0032】
この板厚方向の結晶組織の微細化によって、オーステナイト組織だけでなく各種マルテンサイト組織の実質的な微細化がなされるから、厚板に用いる際には、板厚方向以外の荷重に対して破壊抵抗が大幅に増加する。ここで、亀裂伝播停止特性を含む十分な低温靭性を付与させるためには、高Mn鋼材の厚み方向のオーステナイト粒径、すなわち、厚み方向のオーステナイト粒界の平均切片長さを40μm以下とする必要がある。厚み方向のオーステナイト粒界の平均切片長さは、30μm以下とするのが望ましく、20μm以下とするのがより望ましい。
【0033】
高Mn鋼材中に含まれるεマルテンサイト量:
高Mn鋼材中には、マルテンサイトとして、低合金鋼材に多く見られる体心立方晶(bcc)の結晶構造を有するα’マルテンサイトのほかに、高Mn鋼材に特徴的な六方晶(hcp)の結晶構造を有するεマルテンサイトが含まれている。鋼材中の各マルテンサイトの体積分率は次のようにX線強度を測定することによって、求めることができる。すなわち、通常のX線回折法によって試料のX線回折パターンを測定し、回折パターン上のオーステナイト(fcc)、α’マルテンサイト(bcc)及びεマルテンサイト(hcp)の回折強度比について、異方性による各回折面の強度比を補正することによって、各相の体積分率を計算することができる。
【0034】
εマルテンサイトは、鋼の破壊抵抗力に関して多少悪影響はあるものの鋼の強度面では良い影響がある。高Mn鋼材中にεマルテンサイト量を体積%にて0.1%以上含有させることで、300MPa以上の降伏応力と600MPa以上の引張強さを両立させることができる。一方、30%を超えて含有させると破壊抵抗力が低下するので好ましくない。εマルテンサイト量の含有量は、好ましくは、2〜15%である。
【0035】
このように、本発明に係る高Mn鋼材は、オーステナイト結晶粒界の厚み方向の平均切片長さとεマルテンサイト量を制御することによって、初めて圧延後の熱処理なしに低温域で使用しうる大型溶接用鋼材が得られる。
【0036】
本願発明に係る高Mn鋼材は、耐力向上のため、必要に応じて、さらにCu、Ni、Mo、Nb、V、Ti、B、Ca、Mg及びREMから選択される1種又は2種以上を含有させることができる。以下、これらの任意含有元素について説明する。
【0037】
Cu:
Cuは、オーステナイト地を強化し耐力の上昇に有効であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が3.0%を超えると加工性を劣化させるので、Cuを含有させる場合は、その含有量は3.0%以下とする。好ましい範囲は0.01〜3.0%であり、より好ましい範囲は0.2〜2.0%である。
【0038】
Ni:
Niはオーステナイトの安定化と靱性の向上に有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、10%を超えて含有させてもその効果は飽和するとともに、α’マルテンサイトが生成しやすくなって、溶接部靭性や透磁率が劣化する恐れがある。よって、Niを含有させる場合は、その含有量は10%以下とする。好ましい範囲は0.01〜5%、より好ましい範囲は、0.01〜1%である。
【0039】
Mo:
Moは、強度の上昇に効果があるだけでなく、Cr炭化物の粒界析出に起因する靱性の劣化を防止したり、鋼の強度を高めたりするのに有効であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が3.0%を超えるとその効果は飽和する。よって、Moを含有させる場合は、その含有量は3.0%以下とする。好ましい範囲は0.01〜2%である。
【0040】
Nb:
Nbは、C及びNと結合して炭窒化物を析出させ、その析出強化によって鋼の耐力を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.5%を超えると靱性が悪化する。よって、Nbを含有させる場合は、その含有量は0.5%以下とする。好ましい範囲は0.005〜0.5%であり、より好ましい範囲は0.01〜0.2%である。
【0041】
V:
Vは、C及びNと結合して炭窒化物を析出させ、その析出強化によって鋼の耐力を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が1.0%を超えると靱性が悪化する。よって、Vを含有させる場合は、その含有量は1.0%以下とする。好ましい範囲は0.01〜1.0%であり、より好ましい範囲は0.05〜0.3%である。
【0042】
Ti:
Tiは、C及びNと結合して炭窒化物を析出させ、その析出強化によって鋼の耐力を向上させるのに有効な元素であるので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.8%を超えると靱性が悪化する。よって、Tiを含有させる場合は、その含有量は0.8%以下とする。好ましい範囲は0.005〜0.3%であり、より好ましい範囲は0.008〜0.1%である。
【0043】
B:
Bは、オーステナイト粒界に偏析することにより粒界破壊を防止し耐力を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.003%を超えると靱性が悪化する。よって、Bを含有させる場合は、その含有量は0.003%以下とする。好ましい範囲は0.0005〜0.003%であり、より好ましい範囲は0.0005〜0.002%である。
【0044】
Ca:
Caは、介在物の球状化作用をもたらし、靱性を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.01%を超えると清浄度を悪化させ靱性が失われる。よって、Caを含有させる場合は、その含有量は0.01%以下とする。好ましい範囲は0.0003〜0.01%であり、より好ましい範囲は0.0003〜0.004%である。
【0045】
Mg:
Mgは、Caと同様に、介在物の球状化作用をもたらし、靱性を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.01%を超えると清浄度を悪化させ靱性が失われる。よって、Caを含有させる場合は、その含有量は0.01%以下とする。好ましい範囲は0.0002〜0.01%であり、より好ましい範囲は0.0002〜0.002%である。
【0046】
希土類元素(REM):
希土類元素(REM)は、Caと同様に、介在物の球状化作用をもたらし、靱性を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。ただし、含有量が0.05%を超えると清浄度を悪化させ靱性が失われる。よって、REMを含有させる場合は、その含有量は0.05%以下とする。好ましい範囲は0.0002〜0.05%であり、より好ましい範囲は0.0003〜0.001%である。REMを含有させる場合は、LaやCeを主成分とするミッシュメタルを用いてもよい。なお、本発明でいう希土類元素とは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、希土類元素の含有量はこれらの元素の合計含有量を指す。
【0047】
(B)製造条件について(その1)
一般に、高Mn鋼は炭素鋼や低合金鋼に比べて熱間加工性が劣るため、適正な条件で圧延を行う必要がある。適正な条件から外れると、鋼片若しくは鋼塊又は鋼板の表面に割れが生じるので、歩留の低下を招く。したがって、鋼片若しくは鋼塊の加熱条件及び圧延条件の厳密な管理が重要である。
【0048】
まず、鋼片又は鋼塊の加熱温度は、950〜1200℃とする必要がある。950℃未満では、圧延時の変形抵抗が大きく、圧延機に過大な負荷がかかる。一方、1200℃を超えて高温に加熱すると、表面の酸化ロスが大きくなるとともに、オーステナイト粒が粗大化してしまい、その後に熱間圧延しても容易に細粒化できなくなる。
【0049】
950〜1200℃に加熱した後には、1000〜800℃の温度範囲における累積圧下量が30%以上の熱間圧延を施す必要がある。これは、鋼片若しくは鋼塊の鋳造組織を破壊するとともに、鋼材中のオーステナイト粒を細粒化かつ扁平化し、適正な加熱温度と合わせて、鋼材中に含まれるオーステナイト結晶粒界の厚み方向の平均切片長さを40μm以下とするためである。
【0050】
そして、熱間圧延の圧延仕上温度は950〜750℃とする必要がある。1000〜800℃の温度範囲における累積圧下量が30%以上の熱間圧延の効果と相俟って、鋼材中に含まれるオーステナイト結晶粒界の厚み方向の平均切片長さが40μm以下の微細組織が得られるからである。圧延仕上げ温度が950℃を超えると、圧延後のオーステナイト結晶粒成長が大きくなりすぎるため、所望の微細組織が得られない。一方、圧延仕上げ温度が750℃未満では、圧延時の変形抵抗が大きく、圧延機に過大な負荷がかかる。さらに、圧延集合組織が発達し、鋼板の異方性が大きくなるので好ましくない。
【0051】
この後、空冷すると、鋼中にεマルテンサイト量が体積%にて0.1〜30%生成するので、強度と破壊抵抗力がともに優れた鋼板が得られる。この鋼板は、LNGタンクスカート材用に適した性質を有している。
【0052】
(C)製造条件について(その2)
上記の(B)の製造条件のうち、熱間圧延の圧延仕上温度を950〜800℃に変更した上で、熱間圧延を施した後の空冷に代えて、750〜600℃の温度範囲を2℃/sec以上の冷却速度にて加速冷却する。このように製造しても、鋼中にεマルテンサイト量が体積%にて0.1〜30%生成するので、強度と破壊抵抗力がともに優れた鋼板が得られる。この鋼板は、LNGタンクスカート材用に適した性質を有している。
【0053】
ここで、熱間圧延の圧延仕上げ温度の下限を空冷の場合と異なり800℃と規定するのは、約800℃以下で顕著になる析出物の生成を抑制し、低温靭性を高めるためである。
【0054】
また、750〜600℃の温度範囲を2℃/sec以上の冷却速度にて加速冷却するのは、同じく析出物の生成を抑制し、低温靭性を高めるためである。ただし、2℃/sec未満の冷却速度では、加速冷却の効果が十分ではなく、所望の組織が得られない。この加速冷却は、圧延組織が変化してしまうと加速冷却の効果が得られないので、750℃で加速冷却を開始する必要がある。また、この加速冷却の範囲の下限を600℃とするのは、少なくとも600℃まで冷却すれば所定の加速冷却の効果は得られるからである。なお、600℃以下の温度まで加速冷却を継続しても差し支えない。
【0055】
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0056】
表1に示す化学組成とパラメータXを有する鋼種A〜Pの鋼片を用い、表2に示す製造条件(加熱温度、1000〜800℃の温度範囲における累積圧下量、圧延仕上温度、冷却速度を種々に規定した。)にて板厚60mmの高Mn鋼材を作製した。そして、鋼材中に含まれるオーステナイト(γ)結晶粒界の厚み方向の平均切片長さとεマルテンサイト量を測定する(測定値を表2に示す)とともに、母材特性として、引張特性(降伏強度、引張強度)、シャルピー衝撃特性、比透磁率及び熱伝導率を測定した。得られた測定値を表3に示す。
【0057】
また、このようにして得られた高Mn鋼材について、板厚55mm、開先角度30°(V開先)の試験片加工を施した後、Root Gap:10mm、溶接入熱:29.6KJ/cm、溶接材料:DW308LP((株)神戸製鋼所製)、シールドガス:炭酸ガス、の条件下でGTAW溶接を実施した。溶接金属50%/HAZ50%のノッチ位置(fusion line:FL)でシャルピ−試験片を採取し、−196℃にて試験を実施した際の吸収エネルギー値を測定した。測定値は表3に示すとおりである。
【0058】
【表1】


【0059】
【表2】


【0060】
【表3】


表3から、本発明例に係る高Mn鋼材は、熱間圧延ままで、母材特性(強度、靭性、比透磁率及び熱伝導度)と溶接熱影響部靭性のいずれにおいても優れており、低温材料として優れていることが分かる。
【0061】
これに対して、本発明で規定する条件を満足しない比較例では、母材特性と溶接熱影響部靭性の一方又は両方において、目的とする特性が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る高Mn鋼材は、低温靭性と溶接性だけでなく熱膨張率、透磁率や熱伝導度などの特性にも優れている。また、この高Mn鋼材は熱間圧延ままで提供することができ、LNGタンクスカート用等に用いられるNi系オーステナイトステンレス鋼材の代替として使用することができるものであって、Ni資源の節約に多大に貢献するものである。




 

 


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