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発明の名称 高周波焼入れ用鋼材
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−107046(P2007−107046A)
公開日 平成19年4月26日(2007.4.26)
出願番号 特願2005−298687(P2005−298687)
出願日 平成17年10月13日(2005.10.13)
代理人 【識別番号】100093469
【弁理士】
【氏名又は名称】杉岡 幹二
発明者 根石 豊 / 鎌田 芳彦 / 松井 直樹 / 牧野 泰三
要約 課題
切削加工性に優れ、高周波焼入れによって浸炭焼入れの場合と同等以上の曲げ疲労強度を確保することができる高周波焼入れ用鋼材を提供する。

解決手段
C:0.35〜0.65%、Si≦0.50%、Mn:0.65〜2.00%、P≦0.015%、S:0.010〜0.080%、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、B:0.0005〜0.0050%、Al≦0.10%、N≦0.0150%、O≦0.0020%及びTi:3.4N〜(3.4N+0.05)%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、「C+Mn+2Mo−2Si−9Cr−2(Ti−3.4N)−6Al≧1.0」を満たし、更に、組織が、フェライト分率が15%以下でパーライトのラメラー間隔が1μm以下のフェライトとパーライトとの混合組織である高周波焼入れ用鋼材。
特許請求の範囲
【請求項1】
質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.50%以下、Mn:0.65〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.010〜0.080%、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、B:0.0005〜0.0050%、Al:0.10%以下、N:0.0150%以下、O(酸素):0.0020%以下及びTi:3.4N〜(3.4N+0.05)%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記(1)式で表されるfn1の値が1.0以上を満たし、更に、組織が、フェライト分率が15%以下でパーライトのラメラー間隔が1μm以下のフェライトとパーライトとの混合組織であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼材。
fn1=C+Mn+2Mo−2Si−9Cr−2(Ti−3.4N)−6Al・・・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号は、各元素の質量%での鋼中含有量を表す。
【請求項2】
質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.50%以下、Mn:0.65〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.010〜0.080%、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、B:0.0005〜0.0050%、Al:0.10%以下、N:0.0150%以下、O(酸素):0.0020%以下及びTi:3.4N〜(3.4N+0.05)%を含有するとともに、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、Nb:0.30%以下及びV:0.20%以下のうちの1種又は2種以上を含有し、下記(2)式で表されるfn2の値が1.0以上を満たし、更に、組織が、フェライト分率が15%以下でパーライトのラメラー間隔が1μm以下のフェライトとパーライトとの混合組織であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼材。
fn2=C+Mn+2Mo−2Si−9Cr−2(Ti−3.4N)−6Al−4V・・・・・(2)
但し、(2)式中の元素記号は、各元素の質量%での鋼中含有量を表す。
【請求項3】
Feの一部に代えて、Ca:0.01%以下を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波焼入れ用鋼材。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波焼入れ用鋼材に関する。詳しくは、切削加工性(以下、「被削性」ともいう。)に優れ、高周波焼入れによって浸炭焼入れの場合と同等以上の疲労強度、なかでも曲げ疲労強度を確保することができる高周波焼入れ用鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
アクスルシャフト、ドライブシャフト、等速ジョイント用アウターレースなどの自動車部品や建設機械用部品は、所定形状への機械加工後、所望の機械的性質を具備させるための表面硬化処理が施され、表面硬化処理としては「浸炭焼入れ処理」が施されることが多い。そして、この「浸炭焼入れ処理」を施すために、前記部品の素材として、一般に、質量%で、0.2%程度のCに加えて、Si、Mn、Ni、CrやMo等の合金元素を含む低炭素合金鋼が使用されてきた。
【0003】
しかしながら、「浸炭」は、拡散現象を利用する処理である。したがって、鋼材中に十分なCを拡散させるために、800〜1050℃程度のオーステナイト領域で、数時間から数十時間もの長時間の加熱処理を行うことが必要となる。このため、表面硬化処理として「浸炭焼入れ処理」を施す場合には、成形から熱処理までの製造工程をインライン化することが困難であるので生産能率を高めることが難しく、また、部品の製造コストも嵩んでしまう。
【0004】
なお、浸炭処理としては通常「ガス浸炭法」が採用されるが、ガス浸炭の際に被処理材である鋼材の表面に、いわゆる「粒界酸化層」が形成されるので、浸炭処理後に疲労強度や衝撃特性の低下が生じてしまう。
【0005】
上記の粒界酸化層の抑制のためには、鋼材中のSi、Mn及びCrの含有量を低減し、代わりにMoやNi等を含有させることが考えられるが、高価な合金元素を多量に含ませることになるので、鋼材コストの上昇を招く。
【0006】
更に、浸炭処理は、上述のように、800〜1050℃程度の高温領域で、数時間から数十時間の長時間加熱する処理であるため、一般に「異常粒成長」と称されるオーステナイト結晶粒の粗大化が生じる場合があり、この異常粒成長が、浸炭焼入れ後の熱処理歪みの発生や、疲労強度、更には衝撃特性の低下を招いてしまう。
【0007】
このため、浸炭焼入れ処理に代わる表面硬化処理として高周波焼入れ処理の適用が検討され、特許文献1〜6に、高周波焼入れ部品や高周波焼入れプロセスに適した鋼材が提案されている。
【0008】
特許文献1に、アクスルシャフト、ドライブシャフト、等速ジョイント用アウターレースなどの自動車の動力伝達系の部品の静的強度を確保し、且つ、衝撃曲げ特性及び耐衝撃ねじり特性に優れた「高周波焼入れ部品」、具体的には、重量%で、C:0.30〜0.60%、Si:0.50%以下、Mn:0.20〜1.50%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.015%以下、Ti:0.10%以下を含有し、更に、必要に応じて、Cr:1.0%以下、Mo:0.5%以下及びNi:1.0%以下の1種又は2種以上、及び/又は、Pb:0.20%以下、S:0.10%以下、Bi:0.20%以下、Te:0.10%以下及びCa:0.01%以下のうちの1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、高周波焼入れ処理後の表面硬さが50HRC以上で、且つ、高周波焼入れ部組織のマルテンサイト率が90%以上の均一なマルテンサイト組織であり、硬化深さ比t(有効硬化深さ)/r(部品半径又は部品厚さ)が0.2〜0.7である「高周波焼入れ部品」が開示されている。
【0009】
特許文献2に、被削性に優れ、しかも、浸炭プロセスを経て製造される例えば歯車の特性と同等以上の特性を確保できる「高周波焼入用鋼材」、具体的には、質量%で、C:0.5〜0.75%、Si:0.5〜1.8%、Mn:0.1〜0.4%、P:0.015%以下、S:0.020%以下、Al:0.019〜0.05%、O:0.0015%以下、N:0.003〜0.015%を含有し、更に、必要に応じて、Mo:0.05〜0.5%、B:0.0003〜0.005%、Ti:0.005〜0.05%、Ni:0.1〜1.0%からなる4種の元素のうちの1種以上の元素、及び/又は、V:0.05〜0.5%、Nb:0.01〜0.5%からなる2種の元素のうちの1種以上の元素を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする「高周波焼入用鋼材」が開示されている。
【0010】
特許文献3に、P含有量が高くても、疲労強度、衝撃特性及び被削性に優れた「高周波焼入用の歯車用鋼材」とその製造方法、具体的には、質量%で、C:0.5〜0.75%、Si:0.5〜1.8%、Mn:0.1〜0.4%、P:0.015超〜0.03%、S:0.020%以下、Al:0.019〜0.05%、O:0.0015%以下、N:0.015超〜0.02%を含有し、更に、必要に応じて、Mo:0.05〜0.5%、B:0.0003〜0.005%、Ti:0.005〜0.05%、Ni:0.1〜1.0%のうちから選んだ少なくとも一種、及び/又は、V:0.05〜0.5%、Nb:0.01〜0.5%のうちから選んだ少なくとも一種を含有し、残部はFe及び不可避的不純物の組成になることを特徴とする「高周波焼入用の歯車用鋼材」とその製造方法が開示されている。
【0011】
特許文献4に、自動車等用の駆動伝達部品に適用できる、静的強度及び耐疲労特性の優れた「高周波焼入部品」とその製造方法、具体的には、重量%で、C:0.40〜0.70%、Si:0.05〜0.80%、Mn:0.50〜2.00%、S:0.01〜0.03%、V:0.30〜1.00%、Al:0.010〜0.050%、N:0.0050〜0.0200%を含有し、更に、必要に応じて、Nb:0.05〜0.50%、及び/又は、Cr:0.1〜1.50%を含有し、Pが0.030%以下で、残部はFe及び不可避不純物からなり、高周波焼入れ硬化層のマルテンサイトの結晶粒度がJIS粒度番号で14番以上であることを特徴とする静的強度と耐疲労特性に優れた「高周波焼入れ部品」とその製造方法が開示されている。
【0012】
特許文献5に、高周波焼入れ性に優れると共に、高強度特性に優れた「高強度高周波焼入れ用鋼材」とその製造方法、具体的には、質量%で、C:0.35〜0.6%、Si:0.01〜1%、Mn:0.2〜2%、S:0.005〜0.15%、Cr:0.35%以下(0%を含む)、B:0.0005〜0.005%、Al:0.015〜0.05%、Ti:0.05〜0.2%を含有し、更に、必要に応じて、Mo:1%以下、Ni:2.5%以下、V:0.4%以下のうちの1種又は2種以上を含有し、N:0.007%未満(0%を含む)、P:0.025%(0%を含む)及びO:0.0025%以下(0%を含む)に各々制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、熱間圧延後の組織のマトリックス中に直径0.2μm以下のTiの析出物を5個/μm2以上を有し、フェライト結晶粒径が20μm以下であり、フェライト分率が30%以下であり、JIS G 0558で規定する脱炭深さ:DM−T0.2mm以下であることを特徴とする等の「高強度高周波焼き入れ用鋼材」とその製造方法が開示されている。
【0013】
特許文献6に、強度と靱性をともに高くし、強度と靱性とのバランスに優れた「高強度高靱性非調質棒鋼」とその製造方法、具体的には、質量%で、C:0.35〜0.50%、Si:0.1〜0.6%、Mn:0.5〜1.5%、Al:0.005〜0.02%、V:0.05〜0.50%を含み、更に、必要に応じて、Cr:0.60%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1%以下、Cu:1%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.10%以下、の1種又は2種以上を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなり、鋼組織における、フェライト分率が20〜40%、パーライトの平均ラメラー間隔が0.05〜0.20μm、結晶方位差が15°以上の大角粒界で囲まれたフェライトの平均粒径が2〜10μmであるフェライト−パーライト複相組織からなることを特徴とする「高強度高靱性非調質棒鋼」とその製造方法が開示されている。
【0014】
【特許文献1】特開平10−36937号公報
【特許文献2】特開平9−41085号公報
【特許文献3】特開平9−241798号公報
【特許文献4】特開平11−71633号公報
【特許文献5】特開2004−183065号公報
【特許文献6】特開2005−133155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の特許文献1で提案された技術は、高周波焼入れ部品の表面硬さ及び硬化深さ比並びに、表層部の高周波焼入れ部が均一なマルテンサイト組織であることを規定するだけで、高周波焼入れした表面硬化層の結晶粒径や、高周波焼入れ時に熱影響を受けなかった部分の硬さについて配慮されていない。このため、高周波焼入れ部品の衝撃特性は向上するものの、必ずしも良好な曲げ疲労強度が得られるというものではなかった。
【0016】
特許文献2で提案された技術は、Si含有量の下限を質量%で、0.5%として、鋼材の焼戻し軟化抵抗を向上させ、また、Mn含有量の上限を質量%で、0.4%として、パーライトの層状化を抑制し、セメンタイトが分断した組織を形成させて、被削性を高めようとするものである。しかしながら、SiはA3変態点を上昇させるので、高周波加熱の際にオーステナイトの単相組織が得られず、フェライトとオーステナイトの2相組織となるので焼入れしても均質なマルテンサイトが得られず、軟質なフェライトが残存し、高周波焼入れ性が低下するために疲労強度の低下を招く場合がある。また、Mnの含有量を低下させることも高周波焼入れ前の鋼材の組織中にフェライトを増加させることになって、高周波焼入れ時の加熱段階で、オーステナイト単相組織が得られず、フェライトとオーステナイトの2相組織となるので焼入れしても均質なマルテンサイトが得られず、軟質なフェライトが残存することになって、たとえ被削性は向上しても、必ずしも良好な曲げ疲労強度が得られない。
【0017】
特許文献3で提案された技術は、Si含有量の下限を質量%で、0.5%として、鋼材の焼戻し軟化抵抗を向上させ、また、Mn含有量の上限を質量%で、0.4%として、パーライトの層状化を抑制し、セメンタイトが分断した組織を形成させて、被削性を高めようとするものである。このため、上記特許文献2の場合と同様に、高周波焼入れ後に均質なマルテンサイトを得ることが困難で、部材強度としての曲げ疲労強度が低下する。また、たとえ、オーステナイト粒径を16μm以下にしても、質量%で、0.015%を超えるPを含有させる必要があるので、粒界に偏析したPによって曲げ疲労強度の低下を避けることができない。しかも、オーステナイト粒径を16μm以下にするために、質量%で、0.015%を超えるNを含有させる必要があるが、鋼材中のN含有量が増加すると、熱間圧延や熱間鍛造などの熱間加工過程で、変形能が低下し、熱間加工後に鋼材表面に割れなど欠陥の増加をきたす。
【0018】
特許文献4で提案された技術は、高周波焼入れで得られる硬化層のマルテンサイト結晶粒度を14番以上(粒径3.1μm以下)を得るために、未再結晶温度域(600〜800℃)で30%以上の大ひずみ加工を2回以上行う必要がある。このため、例えば、鍛造加工する際に材料の変形抵抗が大きくなって鍛造金型への負荷が増大し、金型寿命が低下して製造コストの増加を招く。更に、微細組織を得るために、質量%で、0.3%以上ものVを含有させる必要があって、合金コストの増加が避けられないばかりか、炭窒化物が過剰に析出するので、硬化層の靱性劣化を引き起こし、曲げ疲労強度の低下を招く。
【0019】
特許文献5で提案された技術は、高周波焼入れ時に微細組織を得るために、鋼を鋳造後A3点温度以下に冷却することなく分塊圧延する所謂「HCR(Hot Charge Rolling)」を行う必要があるため、設備投資が必要になって製造コストが嵩む。また、棒鋼・線材の圧延に際して、低温加熱圧延することを前提にしているので、鋼材の変形抵抗が大きくなって圧延ロールへの負荷が増加し、結果的にロール寿命が低下するので製造コストの増大を招く。更に、高周波焼入れによる硬化層の旧オーステナイト粒径を微細化するために、質量%で、0.05%以上ものTiを含有させて、高周波焼入れ前の段階でTiC系の析出物を多量に微細分散させる必要があるため、高周波焼入れ硬化層の靱性が低下して、必ずしも良好な曲げ疲労強度が得られない。
【0020】
特許文献6で提案されたフェライト分率が20〜40%の「高強度高靱性非調質棒鋼」を素材として高周波焼入れを行うと、フェライト残存などの不完全焼入れが生じる場合があり、必ずしも良好な曲げ疲労強度が得られない。
【0021】
そこで、本発明の目的は、切削加工性に優れ、従来の浸炭焼入れを高周波焼入れに変更して生産効率を向上させた場合でも浸炭焼入れの場合と同等以上の疲労強度、なかでも曲げ疲労強度を確保することが可能で、自動車部品や建設機械用部品の素材として好適な「高周波焼入れ部品用鋼」を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
高周波焼入れは、長時間での加熱時に表面から炭素が拡散し十分に焼入れ性を確保した状態から焼入れされる浸炭焼入れとは異なって、急速短時間で加熱された状態で焼入れされる。
【0023】
そこで、本発明者らは、高周波焼入れ部における不完全焼入れを抑制するために、先ず、合金元素との関係を種々調査した。その結果、下記(a)〜(f)の知見を得た。
【0024】
(a)通常の長時間加熱してから焼入れする場合、C、Si、Mnなど合金元素の含有量を高めれば焼入れ性が向上するが、急速短時間加熱される高周波焼入れの場合には、その含有量を高めた場合に焼入れ性の低下を招く元素がある。
【0025】
(b)SiとAlは、いずれも、含有量の増加に伴ってA3変態点を上昇させる元素である。このため、高周波焼入れのような急速短時間加熱の場合、Si及びAlの含有量が高い鋼材ではオーステナイトの単相組織が得られず、フェライトとオーステナイトの2相組織となるので、加熱後急冷する焼入れ処理を行っても、均質なマルテンサイト組織が得られない。したがって、Si及びAlの含有量は低くするのがよい。
【0026】
(c)Crは、セメンタイトを安定化する作用がある。このため、通常焼入れの場合には焼入れ性を増加させる元素の一つであるCrも、高周波焼入れの場合には、その含有量が高いと、焼入れ性の低下を招くことがある。したがって、Crの含有量も低くするのがよい。
【0027】
(d)高周波焼入れ時の不完全焼入れを防止するためには、C、Mn、Mo及びBの含有量を高めてこれらの元素の焼入れ性向上作用を活用するのがよい。
【0028】
(e)Bの焼入れ性向上効果を確保するためにはN固定のためにTiを含有させるのがよいものの、含有量が多すぎる場合には、鋼材中のC量が減少してフェライトの割合が多くなって高周波焼入れ性の低下を招く。このため、Tiの含有量を適正な範囲に調整するのがよい。
【0029】
(f)強度向上に有効なVを含有させる場合、その量が多すぎる場合には、上記のTi同様、鋼材中のC量が減少してフェライトの割合が多くなって高周波焼入れ性の低下を招く。このため、Vを含有させる場合には、その量を適正な範囲に調整するのがよい。
【0030】
そこで次に、高周波焼入れする際の不完全焼入れ組織と合金元素との関係を更に詳細に調査した。その結果、下記の知見(g)が得られた。
【0031】
(g)高周波焼入れ時の不完全焼入れを抑止するためには、Vを含まない場合には、「C+Mn+2Mo−2Si−9Cr−2(Ti−3.4N)−6Al」で表される式の値を、また、Vを含む場合には、「C+Mn+2Mo−2Si−9Cr−2(Ti−3.4N)−6Al−4V」で表される式の値を適正な範囲に調整すればよい。
【0032】
更に、本発明者らは、高周波焼入れ部における不完全焼入れを抑制するために、高周波焼入れ前の鋼材の組織との関係を種々調査した。その結果、下記(h)の重要な知見が得られた。
【0033】
(h)高周波焼入れ前の鋼材の組織をフェライト分率が15%以下でパーライトのラメラー間隔が1μm以下であるフェライトとパーライトとの混合組織(以下、「フェライト・パーライト組織」ともいう。)とすれば、高周波焼入れ性を高めることができる。
【0034】
本発明者らは、更に、高周波焼入れした場合の静的強度、耐衝撃曲げ強度及び疲労強度を向上させるために、なかでも曲げ疲労強度を向上させるために種々の調査も実施した。その結果、下記(i)及び(j)の知見が得られた。
【0035】
(i)曲げ疲労強度と静的曲げ強度との間には良い相関関係が存在する。
【0036】
(j)静的曲げ強度を向上させるためには、高周波焼入れ後に、その硬化層を均一硬質なマルテンサイト組織にして硬さを高めることに加えて、硬化層の靱性を高めることが重要である。
【0037】
一般に、硬さと靱性は相反する特性を示し、硬化層の硬さ増加や、硬化層深さの増加は、靱性の低下を招くと考えられる。また、硬さ、靱性ともに、鋼材のC含有量の影響が非常に大きい。
【0038】
そこで更に、本発明者らは、相反する靱性と硬さについて精査した。その結果、下記(k)及び(l)の知見が得られた。
【0039】
(k)高周波焼入れで形成された硬化層の旧オーステナイト結晶粒径を20μm以下に微細化することによって、硬さを低下させずに靱性を確保することが可能である。
【0040】
(l)化学組成を適正化するとともに、高周波焼入れ前の組織をパーライトのラメラー間隔が1μm以下であるフェライト・パーライト組織とした鋼材は、オーステナイト変態時に、オーステナイト生成核が増加し,高周波焼入れによって、その硬化層の旧オーステナイト結晶粒径を20μm以下に微細化することができる。
【0041】
なお、自動車部品や建設機械用部品の加工工程には、必ず所定形状への「切削加工」がある。このため、浸炭焼入れの代替として高周波焼入れを適用する場合にも被削性を考慮する必要がある。そこで、本発明者らは、介在物形態に大きく左右される被削性を高める技術についても検討した。その結果、下記(m)及び(n)の知見を得た。
【0042】
(m)鋼中のO(酸素)の含有量を低減して、被削性に影響を与えるMnSの形態を微細化することで被削性を高めることができる。
【0043】
(n)適正量のCaを含有させて低融点酸化物を形成させれば、工具寿命を大きくすることもできる。
【0044】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(3)に示す高周波焼入れ用鋼材にある。
【0045】
(1)質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.50%以下、Mn:0.65〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.010〜0.080%、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、B:0.0005〜0.0050%、Al:0.10%以下、N:0.0150%以下、O(酸素):0.0020%以下及びTi:3.4N〜(3.4N+0.05)%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記(1)式で表されるfn1の値が1.0以上を満たし、更に、組織が、フェライト分率が15%以下でパーライトのラメラー間隔が1μm以下のフェライトとパーライトとの混合組織であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼材。
fn1=C+Mn+2Mo−2Si−9Cr−2(Ti−3.4N)−6Al・・・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号は、各元素の質量%での鋼中含有量を表す。
【0046】
(2)質量%で、C:0.35〜0.65%、Si:0.50%以下、Mn:0.65〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.010〜0.080%、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.05〜0.5%、B:0.0005〜0.0050%、Al:0.10%以下、N:0.0150%以下、O(酸素):0.0020%以下及びTi:3.4N〜(3.4N+0.05)%を含有するとともに、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、Nb:0.30%以下及びV:0.20%以下のうちの1種又は2種以上を含有し、下記(2)式で表されるfn2の値が1.0以上を満たし、更に、組織が、フェライト分率が15%以下でパーライトのラメラー間隔が1μm以下のフェライトとパーライトとの混合組織であることを特徴とする高周波焼入れ用鋼材。
fn2=C+Mn+2Mo−2Si−9Cr−2(Ti−3.4N)−6Al−4V・・・・・(2)
但し、(2)式中の元素記号は、各元素の質量%での鋼中含有量を表す。
【0047】
(3)Feの一部に代えて、Ca:0.01%以下を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の高周波焼入れ用鋼材。
【0048】
以下、上記 (1)〜(3)の高周波焼入れ用鋼材に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(3)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
【発明の効果】
【0049】
本発明の高周波焼入れ用鋼材は、切削加工性に優れ、従来の浸炭焼入れを高周波焼入れに変更して生産効率を向上させた場合でも浸炭焼入れの場合と同等以上の疲労強度、なかでも曲げ疲労強度を確保することができるので、アクスルシャフト、ドライブシャフト、等速ジョイント用アウターレースなどの自動車部品や建設機械用部品の素材として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
【0051】
(A)化学組成
C:0.35〜0.65%
Cは、鋼の強度を確保する作用及び高周波焼入れ後の硬化層硬さを確保する作用を有する。しかしながら、その含有量が0.35%未満では、前記作用による所望の効果が得られない。一方、Cの含有量が0.65%を超えると、鋼の靱性が劣化する。したがって、Cの含有量を0.35〜0.65%とした。なお、前記の効果を安定して得るためには、Cの含有量は0.45〜0.55%とすることが好ましい。
【0052】
Si:0.50%以下
Siは、脱酸元素ではあるが、高周波焼入れ時のA3変態点を上昇させ、高周波焼入れ性の低下を招く。特に、その含有量が0.50%を超える場合には、脱酸効果は期待できるものの、高周波焼入れ性の低下が著しくなる。したがって、Siの含有量を0.50%以下とした。なお、良好な高周波焼入れ性の確保という点からは、Si含有量は可能な限り低減することが好ましい。
【0053】
Mn:0.65〜2.00%
Mnは、高周波焼入れ性を向上させる有効な元素であるとともに、フェライトの生成を抑制する元素でもある。しかしながら、Mnの含有量が0.65%未満の場合、前記作用による所望の効果が得られない。一方、2.00%を超えてMnを含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Mnの含有量を0.65〜2.00%とした。なお、 合金コストを低く抑えたうえで前記の効果を安定して得るためには、Mnの含有量は0.75〜1.50%に調整するのが好ましい。
【0054】
P:0.015%以下
Pは、高周波焼入れ時の硬化層の靱性を劣化させ、特に、その含有量が0.015%を超えると、硬化層の靱性低下が著しくなる。したがって、Pの含有量を、0.015%以下とした。なお、Pの含有量は、0.010%以下にするのが好ましい。
【0055】
S:0.010〜0.080%
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、被削性、なかでも切り屑処理性を高める作用を有する。しかしながら、その含有量が0.010%未満では前記の効果が得られない。一方、Sは、結晶粒界に偏析して粒界強度を劣化させ、鋼の強度低下を招き、特に、Sの含有量が0.080%を超えると、鋼の強度低下が著しくなる。したがって、Sの含有量を0.010〜0.080%とした。なお、Sの含有量は0.012〜0.06%とすることが好ましい。
【0056】
Cr:0.01〜0.5%
Crは、CやMnと同様、鋼の焼入れ性を高めて強度を向上させる作用を有し、高周波焼入れの場合に焼入れ性向上効果を確実に得るには、0.01%以上の含有量とする必要がある。しかしながら、Crの含有量が0.5%を超えると、高周波焼入れの場合には却って焼入れ性が低下する。更に、熱間加工性の劣化も生じる。したがって、Crの含有量を0.05〜0.5%とした。なお、Crの含有量は0.08〜0.2%とすることが好ましい。
【0057】
Mo:0.05〜0.5%
Moも、CやMnと同様、鋼の焼入れ性を高めて強度を向上させる作用がある。しかしながら、強度向上効果を確実に得るには、0.05%以上の含有量が必要である。一方、0.5%を超えてMoを含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Moの含有量を0.05〜0.5%とした。なお、Moの含有量は0.10〜0.3%とすることが好ましい。
【0058】
B:0.0005〜0.0050%
Bは、高周波焼入れ性を向上させる作用を有し、その効果はBの含有量が0.0005%以上で顕著である。しかしながら、0.0050%を超えてBを含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Bの含有量を0.0005〜0.0050%とした。Bの含有量は0.0010〜0.0020%とすることが好ましい。
【0059】
なお、上記した範囲の量のBを含有する場合であっても、Bが鋼中の不純物として存在するNと結合してBNを形成した場合には、高周波焼入れ性を高めることができない。したがって、Bの高周波焼入れ性向上効果を発揮させるためには、鋼中の不純物として存在するNを可能な限り低減する必要がある。このことについては後述する。
【0060】
Al:0.10%以下
Alは、Siと同様に、脱酸元素ではあるが、高周波焼入れ時のA3変態点を上昇させ、高周波焼入れ性の低下を招く。特に、その含有量が0.10%を超える場合には、前記の脱酸効果やAlが鋼中のNと結合して形成されたAlNの高周波焼入れ時の結晶粒粗大化防止作用は期待できるものの、高周波焼入れ性の低下が著しくなる。したがって、Alの含有量を0.10%以下とした。なお、良好な高周波焼入れ性の確保という点からは、Al含有量は可能な限り低減することが好ましい。
【0061】
N:0.0150%以下
Nは、B、Al、Tiなどとの親和力が大きく、鋼中のBと結合してBNを形成した場合には、高周波焼入れ性を高めることができない。特に、Nの含有量が多くなって0.0150%を超えると、AlNやTiNの高周波焼入れ時の結晶粒粗大化防止作用は期待できるものの、BN形成による高周波焼入れ性向上効果が期待できない。したがって、Nの含有量を、0.0150%以下とした。なお、鋼中の不純物としてのNの含有量は可能な限り低減することが好ましい。
【0062】
O(酸素):0.0020%以下
Oは、鋼中の元素と結合して酸化物を形成し、強度低下、なかでも疲労強度の低下を招く。特に、Oの含有量が0.0020%を超えると、形成される酸化物が多くなるとともにMnSが粗大化して、疲労強度の低下が顕著になる。したがって、不純物元素としてのOの含有量を0.0020%以下とした。なお、Oの含有量は0.0015%以下とすることが好ましい。
【0063】
Ti:3.4N〜(3.4N+0.05)%
Tiは、鋼中の不純物として存在しているNと優先的に結合することでBNの形成を抑制し、Bの高周波焼入れ性向上効果を確保するのに有効な元素である。この効果を得るためには、3.4N%以上のTiを含有させる必要がある。しかしながら、Tiの含有量が多すぎる場合には、鋼中のCと結合して炭化物を形成するため、鋼材中のC量が減少してフェライトの割合が多くなり、却って高周波焼入れ性の低下を招くし、高周波焼入れされた硬化層の靱性の低下をも招く。特に、Tiの含有量が多くなって、(3.4N+0.05)%を超えると、高周波焼入れ性及び硬化層の靱性の著しい低下をきたす。したがって、Tiの含有量を3.4N〜(3.4N+0.05)%とした。
【0064】
fn1の値:1.0以上
前記(1)式で表されるfn1の値を1.0以上とすることで、Vを含まない本発明(1)に係る鋼材を高周波焼入れする際の不完全焼入れを抑止することができる。
【0065】
上記の理由から、本発明(1)に係る高周波焼入れ用鋼材の化学組成を、上述した範囲のCからTiまでの元素を含有するとともに、残部はFe及び不純物からなり、前記(1)式で表されるfn1の値が1.0以上を満たすことと規定した。
【0066】
なお、本発明に(2)に係る高周波焼入れ用鋼材の化学組成は、上述した範囲のCからTiまでの元素を含有するとともに、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、Nb:0.30%以下及びV:0.20%以下のうちの1種又は2種以上を含有し、前記(2)式で表されるfn2の値が1.0以上を満たすものである。以下、上記CuからVまでの元素と前記(2)式で表されるfn2の値について説明する。
【0067】
Cu:0.20%以下
Cuは、鋼の強度を向上させる作用を有する。すなわち、Cuは、CやMnと同様に鋼の焼入れ性を高めて、強度を向上させる作用を有する。しかしながら、Cu含有量が0.20%を超えると、焼入れ性は向上するものの、疲労強度の低下を招く場合がある。したがって、Cuの含有量を0.20%以下とした。なお、Cuの含有量は、0.008〜0.015%とすることが好ましい。
【0068】
Ni:0.20%以下
Niは、鋼の強度を向上させる作用を有する。すなわち、Niは、CやMnと同様に鋼の焼入れ性を高めて、強度を向上させる作用を有する。しかしながら、Niの含有量が0.20%を超えると、焼入れ性は向上するものの、高周波焼入れ時に焼割れを生じる場合がある。したがって、Niの含有量を0.20%以下とした。なお、Niの含有量は、0.008〜0.015%%とすることが好ましい。
【0069】
Nb:0.30%以下
Nbは、鋼の強度を向上させる作用を有する。すなわち、Nbは、炭化物、窒化物或いは炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、鋼の強度を高める作用を有する。しかしながら、0.30%を超えてNbを含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Nbの含有量を0.30%以下とした。なお、Nbの含有量は、0.01〜0.30%とすることが好ましい。
【0070】
V:0.20%以下
Vは、鋼の強度を向上させる作用を有する。すなわち、Vは、CやMnと同様に鋼の焼入れ性を高めて、また、炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、強度を向上させる作用を有する。しかしながら、Vの含有量が0.20%を超えると、炭窒化物が過剰に析出して高周波焼入れされた硬化層の靱性劣化を引き起こして疲労寿命の低下を招くし、鋼中のCと結合して炭化物を多く形成することにもなるため、鋼材中のC量が減少してフェライトの割合が多くなって高周波焼入れ性の低下を招く。したがって、Vの含有量を0.20%以下とした。なお、Vの含有量は、0.01〜0.20%とすることが好ましい。
【0071】
なお、上記のCu、Ni、Nb及びVは、そのうちのいずれか1種のみ、又は2種以上の複合で含有することができる。
【0072】
fn2の値:1.0以上
前記(2)式で表されるfn1の値を1.0以上とすることで、Vを含む本発明(2)に係る鋼材を高周波焼入れする際の不完全焼入れを抑止することができる。
【0073】
上記の理由から、本発明(2)に係る高周波焼入れ用鋼材の化学組成を、前述した範囲のCからTiまでの元素を含有するとともに、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、Nb:0.30%以下及びV:0.20%以下のうちの1種又は2種以上を含有し、前記(2)式で表されるfn2の値が1.0以上を満たすことと規定した。
【0074】
なお、本発明に係る高周波焼入れ用鋼材の化学組成は、必要に応じて、本発明(1)又は本発明(2)のFeの一部に代えて、後述する量のCaを任意に含有させたものでもよい。以下、このことについて説明する。
【0075】
Ca:0.01%以下
Caは、脱酸元素であり、且つ、工具寿命向上に有効な、低融点酸化物を形成する。しかしながら、Caの含有量が0.01%を超えると、Caの添加歩留りが低いために、製造コストが嵩んでしまうし、却って低融点酸化物の形成が難しくなる。更に、Caを固溶するMnSが増加して粗大なMnSを形成しやすくなるため、被削性は確保できても、疲労強度の低下を招いてしまう。したがって、Caの含有量を0.01%以下とした。なお、疲労強度を低減することなく、被削性向上効果を、より安定して得るために、Caの含有量は、0.0005〜0.005%とすることが好ましい。
【0076】
上記の理由から、本発明(3)に係る高周波焼入れ用鋼材の化学組成を、本発明(1)又は本発明(2)における高周波焼入れ用鋼材のFeの一部に代えて、Ca:0.01%以下を含有することと規定した。
【0077】
(B)組織
前記(A)項で述べた化学組成を有する本発明に係る高周波焼入れ用鋼材の組織は、フェライト分率が15%以下でパーライトのラメラー間隔が1μm以下のフェライト・パーライト組織でなければならない。これは、化学組成に加えて、鋼材の組織を上記の組織とすることによって、高周波焼入れ時の不完全焼入れが抑制されて高周波焼入れで形成された硬化層が均一硬質なマルテンサイト組織になり、硬化層の硬さを高めることができ、また、ラメラー間隔が1μm以下の緻密なパーライト組織にすることで、オーステナイト変態の生成核が増加し、高周波焼入れ後の硬化層の旧オーステナイト結晶粒径が20μm以下に微細化されるので硬化層の靱性も確保することができて、良好な静的曲げ強度、したがって、良好な曲げ疲労強度を確保できるからである。
【0078】
フェライト分率が5%以下、パーライトのラメラー間隔が0.5μm以下であれば、より安定して高周波焼入れ時の不完全焼入れが抑制される。このため、前記(A)項で述べた化学組成を有する本発明に係る高周波焼入れ用鋼材の組織は、フェライト分率が5%以下でパーライトのラメラー間隔が0.5μm以下のフェライト・パーライト組織であることが好ましい。
【0079】
また、フェライト分率の下限は高周波焼入れ時の不完全焼入れを抑制する観点から小さいほどよく、全面パーライト単相組織となるフェライト分率が0が下限である。また、パーライトのラメラー間隔の下限は小さいほどよいが、加工や特殊熱処理が必要となりコストも嵩むため、その下限値は0.05μmであることが好ましい。
【0080】
なお、フェライト分率には、パーライトを構成するフェライトとセメンタイトにおけるフェライトは含まない。
【0081】
高周波焼入れ前の鋼材の組織調整方法としては、高周波焼入れが熱間圧延後に実施される場合は熱間圧延段階で、高周波焼入れが熱間鍛造後に実施されるのであれば、熱間鍛造段階で、組織調整をすればよい。なお、いずれの場合も、高周波焼入れ処理前に組織調整用の熱処理を行ってもよい。
【0082】
熱間圧延段階或いは熱間鍛造段階で鋼材の組織を調整する場合、仕上加工段階で、加工温度を900〜1200℃として5%以上の塑性変形を付与し、その後、10℃/秒以上の冷却速度で500〜600℃の温度範囲に冷却し、次いで、冷却速度0.5℃/秒以下で徐冷するか、或いは、上記10℃/秒以上の冷却速度で500〜600℃の温度範囲に冷却し、更に、500〜600℃の温度範囲で5分以上保持してから冷却すればよい。なお、上記500〜600℃の温度範囲で5分以上保持してから冷却する場合、その冷却速度は任意である。
【0083】
高周波焼入れ処理前に熱処理して鋼材の組織を調整する場合、オーステナイト単相組織になるように、例えば900℃に加熱した後、冷却速度10℃/s以上で500〜600℃の温度範囲、望ましくは500〜550℃の温度範囲に冷却し、その後、この温度域で5分以上保持してパーライト変態させた後、大気中で放冷すればよい。例えば、高周波焼入れする前の部品を、電気炉を用いて大気雰囲気中で900℃に加熱した後、550℃に加熱した塩浴炉中に5秒以内に素早く投入し、投入後、10分間等温保持してから大気中で室温まで冷却すればよい。
【0084】
上記の鋼材の組織を調整の際、オーステナイト単相領域から500〜600℃の温度範囲までの冷却速度が、パーライトのラメラー間隔に影響し、冷却速度が早いほど、ラメラー間隔を微細化できる。また、オーステナイト単相領域から冷却する温度である500〜600℃の温度域の高低により、フェライト分率が変化し、この冷却する温度が低温になるほどフェライト分率が減少する。
【0085】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【実施例】
【0086】
表1に示す化学組成を有する鋼A1〜A11及び鋼B1〜B8を真空炉溶製して150kg鋼塊を作製した。
【0087】
表1中の鋼A1〜A11は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼B1〜B8は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。なお、表1では、鋼がVを含まない場合の前記(1)式で表されるfn1の値及びVを含む場合の前記(2)式で表されるfn2の値を「fnの値」と表記した。
【0088】
【表1】


【0089】
このようにして得た鋼塊を、1200〜1300℃に加熱した後、熱間鍛造して直径30mmの丸棒とした。なお、熱間鍛造後の冷却は大気中での放冷とした。
【0090】
次いで、上記直径30mmの丸棒を、900℃で30分加熱してオーステナイト単相組織にした後、表2に示す冷却速度で冷却し、次いで表2に示す温度に制御した塩浴中に10分間保持してから空冷する熱処理を施し、高周波焼入れ前の丸棒の組織を変化させた。
【0091】
上記の熱処理を施した直径30mmの丸棒を用いて、ミクロ組織を調査した。すなわち、熱処理した丸棒の横断面での状態を観察できるように切断して樹脂に埋め込み、鏡面研磨した後、ナイタルで腐食してミクロ組織を現出させ、光学顕微鏡を用いてフェライト分率を測定し、また、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてパーライトのラメラー間隔を測定した。
【0092】
具体的には、任意に10視野撮影した倍率100〜400倍の光学顕微鏡写真を画像処理して、フェライト分率を算出した。また、パーライトのラメラー間隔は、任意に10視野撮影した倍率2000〜5000倍のSEM写真を用いて、棒状セメンタイトの間隔を測定して平均値を求め、この平均値をパーライトのラメラー間隔とした。
【0093】
前記の熱処理を施した直径30mmの丸棒を用いて旋削試験を実施し、工具摩耗量を測定して切削加工性も調査した。すなわち、熱処理後の直径30mmの各丸棒を、TiNコーティング処理が施されたP20種の超硬工具を用いて下記の条件で10分間旋削し、超硬工具の平均逃げ面摩耗量を測定し、これを工具摩耗量として切削加工性を評価した。
【0094】
・切削速度:120m/分、
・切り込み量:1.5mm、
・送り量:0.40mm/rev.、
・潤滑:湿式(水溶性潤滑油剤を使用)。
【0095】
なお、切削加工性の目標は、工具摩耗量が100μm以下である。
【0096】
更に、前記の熱処理を施した直径30mmの丸棒から、断面が10mm×10mmで長さが100mmの直方体の長手中央部の1つの面に、半径2mmの半円切欠きを設けた3点曲げ試験片を機械加工によって切り出した。次いで、上記の3点曲げ試験片の半円切り欠きを設けた面を、周波数20kHz、出力50kWの条件で3.0秒間加熱した後水冷する高周波焼入れを行って、高周波焼入れ性及び硬化層の旧オーステナイト粒径の調査を行った。
【0097】
高周波焼入れ性は、上記高周波焼入れ後の3点曲げ試験片の半円切欠き部での横断面が調査できるように樹脂に埋め込み、JIS G 2244(2003)に規定された方法でビッカース硬さ試験を行って評価した。すなわち、試験力を2.94Nとしてビッカース硬さ試験を行って硬さ分布を求め、切欠き底からビッカース硬さ(以下、「HV硬さ」という。)が500となる位置までの距離(mm)を求めた。なお、以下においては、切欠き底からHV硬さが500となる位置までの距離を「ECD」という。
【0098】
高周波焼入れ性の目標は、ECDが0.8mm以上である。
【0099】
硬化層の旧オーステナイト粒径は、上記高周波焼入れ後の3点曲げ試験片の横断面が観察できるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液で腐食して旧オーステナイト粒界を現出させ、任意に5視野撮影した倍率400倍の光学顕微鏡写真を用い、切断法によって求めた「平均切片長さ」Lを求め、「熱処理、第24巻、第6号(1984)」の334〜338ページに記載された方法に従って「1.128×L」を旧オーステナイト粒径とした。
【0100】
旧オーステナイト粒径は20μm以下が目標である。
【0101】
更に、上記条件で高周波焼入れした3点曲げ試験片を180℃で1時間焼戻しして、静的曲げ強度及び曲げ疲労強度を調査することも行った。
【0102】
静的曲げ強度試験は、支点間距離45mm、試験片切欠き部底の歪み速度0.01/秒で行い、最大到達荷重から静的曲げ強度を算出した。なお、1700MPa以上の静的曲げ強度を有することが目標である。
【0103】
曲げ疲労強度試験も、支点間距離45mmで行い、繰り返し回数1×104回での亀裂発生強度を曲げ疲労強度として評価した。なお、800MPa以上の曲げ疲労強度を有することが目標である。
【0104】
表2に、上記の各試験結果を併せて示す。
【0105】
【表2】


【0106】
表2から、本発明(1)〜(3)で規定する条件を満たす試験番号1〜11の場合、切削加工性は良好で、高周波焼入れ性に優れ、しかも、良好な曲げ疲労強度を有していることが明らかである。
【0107】
これに対して、本発明で規定する条件から外れた試験番号12〜23の曲げ疲労強度は低く、しかも、切削加工性や高周波焼入れ性に劣る場合もあることが明らかである。
【0108】
なお、別途JIS G 4053(2003)に記載されたSCr420の鋼材に925℃で1時間加熱後空冷する焼準処理を施した後、先に述べた形状の3点曲げ試験片を採取し、その3点曲げ試験片をカーボンポテンシャル0.8%の状態下で、940℃で3時間保持してから870℃に冷却して更に1時間保持した後、油焼入する条件で浸炭焼入れし、更に、180℃で1時間焼戻しして、先に述べたのと同じ条件で静的曲げ強度及び曲げ疲労強度を調査した。その結果、浸炭焼入れしたSCr420の静的曲げ強度は1690MPa,曲げ疲労強度は700MPaであった。したがって、本発明(1)〜(3)で規定する条件を満たす試験番号1〜11の曲げ疲労強度が、浸炭焼入れ材と同等以上の曲げ疲労強度を有するものであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の高周波焼入れ用鋼材は、切削加工性に優れ、従来の浸炭焼入れの場合と同等以上の疲労強度、なかでも曲げ疲労強度を確保することができるので、アクスルシャフト、ドライブシャフト、等速ジョイント用アウターレースなどの自動車部品や建設機械用部品の素材として用いることができる。




 

 


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