米国特許情報 | 欧州特許情報 | 国際公開(PCT)情報 | Google の米国特許検索
 
     特許分類
A 農業
B 衣類
C 家具
D 医学
E スポ−ツ;娯楽
F 加工処理操作
G 机上付属具
H 装飾
I 車両
J 包装;運搬
L 化学;冶金
M 繊維;紙;印刷
N 固定構造物
O 機械工学
P 武器
Q 照明
R 測定; 光学
S 写真;映画
T 計算機;電気通信
U 核技術
V 電気素子
W 発電
X 楽器;音響


  ホーム -> 化学;冶金 -> 住友金属工業株式会社

発明の名称 清浄鋼の溶製方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−16287(P2007−16287A)
公開日 平成19年1月25日(2007.1.25)
出願番号 特願2005−200275(P2005−200275)
出願日 平成17年7月8日(2005.7.8)
代理人 【識別番号】100103481
【弁理士】
【氏名又は名称】森 道雄
発明者 沼田 光裕 / 樋口 善彦 / 中村 修
要約 課題
RH真空脱ガス装置を用いた溶鋼の処理方法において、取鍋内のスラグの再酸化を抑制し、高い清浄度の鋼を溶製できる清浄鋼の溶製方法を提供する。

解決手段
二本の浸漬管および真空槽を有する真空脱ガス装置を用いて取鍋内の溶鋼を処理するに際して、取鍋内のスラグ表面にガスを吹き付けてスラグを冷却し、スラグ表面温度を溶鋼温度よりも150℃以上低下させる清浄鋼の溶製方法である。前記溶製方法において、吹き付けガスが不活性ガスまたは二酸化炭素ガスであることが好ましく、また、(吹き付けガス量/取鍋内のスラグ表面積)の値を0.5〜1.5(Nm3/m2/min)とし、スラグ表面に吹き付けるガスの噴出ノズルを4個以上とすることが好ましい。
特許請求の範囲
【請求項1】
二本の浸漬管および真空槽を有する真空脱ガス装置を用いて取鍋内の溶鋼を処理するに際して、取鍋内のスラグ表面にガスを吹き付けてスラグを冷却し、スラグ表面温度を溶鋼温度よりも150℃以上低下させることを特徴とする清浄鋼の溶製方法。
【請求項2】
前記取鍋内のスラグ表面に吹き付けるガスが不活性ガスまたは二酸化炭素ガスであることを特徴とする請求項1に記載の清浄鋼の溶製方法。
【請求項3】
前記取鍋内のスラグ表面積をA(m2)、取鍋内のスラグ表面に吹き付けるガスの流量をQ(Nm3/min)としたとき、Q/Aの値を0.5〜1.5とすることを特徴とする請求項1または2に記載の清浄鋼の溶製方法。
【請求項4】
前記取鍋内のスラグ表面に吹き付けるガスの噴出ノズルを4個以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の清浄鋼の溶製方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、清浄度に優れた鋼の溶製方法に関し、詳しくは、RH真空脱ガス装置を用いた溶鋼の処理方法において、取鍋内のスラグを冷却することによりスラグの再酸化を抑制し、溶鋼の清浄度を向上させる清浄鋼の溶製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼材に対する要求性能が高まると同時に、高級鋼の需要が増加している。この種の鋼材には、高い清浄度が要求される場合が多く、鋼の性能と需要に応えるために、より高い清浄度の鋼材をさらに一層効率よく安価に製造する製鋼技術が求められている。
【0003】
鋼材の清浄度の向上は、主として製鋼および精錬処理工程において進められてきた。清浄度の向上、すなわち溶鋼中の非金属介在物を低減する方法としては、主に下記の精錬方法が知られている。
【0004】
その第一は、鋼中の非金属介在物を除去する方法である。この除去方法には、取鍋内に不活性ガスを吹き込む方法と、RHなどの真空脱ガス装置を用いる方法とがある。前記の不活性ガスを吹き込む方法は、溶鋼の攪拌と気泡による介在物除去が、また、真空脱ガス装置を用いる方法は、強い攪拌による介在物の凝集浮上分離を行うことができる。しかし、不活性ガスを吹き込む方法の場合には、吹き込んだ不活性ガスが取鍋内の溶鋼表面に存在するスラグを巻き込むことにより、新たな非金属介在物を生じるという問題があること、および生産性を高めることが難しいことなどから、一般には、真空脱ガス装置を用いる方法が多く採用されている。
【0005】
第二は、鋼中の非金属介在物の生成を抑制する方法である。非金属介在物は、溶鋼の脱酸処理および溶鋼の再酸化により生じる。脱酸処理は、製鋼工程において不可欠の処理であるため、この処理を省略することは難しい。一方、溶鋼の再酸化は、スラグまたは大気から溶鋼中への酸素の侵入によるものであり、したがって、これを防止することが重要となる。特に、スラグにはFeOx、MnOなどの低級酸化物が含有されているので、これらによる溶鋼の再酸化を抑制することが最も重要である。
【0006】
上述のとおり、清浄度の向上のためには、非金属介在物の除去および非金属介在物の生成の抑制が重要である。このような技術思想のもとに、多数の方法が提案され、また実施されてきた。
【0007】
例えば、特許文献1には、出鋼終了直後の取鍋内スラグにスラグ脱酸に必要な量の一部の脱酸剤を添加し、脱酸処理後の溶鋼に溶鋼用脱酸剤を添加するのと同時期、またはその後に、取鍋内スラグ上に残りのスラグ用脱酸剤を添加する極低炭素鋼の製造方法が、また、特許文献2には、RHもしくはDH真空脱ガス処理が終了するまでにスラグ中の酸化鉄濃度を2重量%以下に低減させる高清浄度鋼の溶製方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、取鍋に受鋼した溶鋼上に浮遊するスラグにAl滓を散布した後炭酸カルシウムと生石灰を添加するスラグの改質工程と、スラグを改質した溶鋼を酸素上吹き真空脱ガス炉にて二次精錬する脱炭工程と、二次精錬した溶鋼を脱酸後無酸化雰囲気で連続鋳造する工程を有する高清浄度鋼の製造方法が、また、特許文献4には、出鋼後、鍋内のスラグに均一にAlを散布して、スラグ中FeO%を3%以下に改質した後、取鍋底部よりArを吹込み、不活性ガス下で脱酸を行い、脱酸処理後30分以上の鎮静時間をおく溶鋼の介在物低減方法が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献5には、脱ガス処理後に取鍋内スラグ層内にRH脱ガス装置の浸漬管を浸漬した状態で、取鍋を一方向に回転するか、または正転と逆転を繰り返すことによって取鍋内スラグを攪拌する取鍋内スラグの改質方法が、そして、特許文献6には、RH装置の真空槽に設けた上吹きランスから酸素もしくは酸化性ガス、水酸化物粉末、および溶鋼の再酸化防止用粉末を、真空槽内の鋼浴面に吹き付ける一方、真空槽内の鋼浴中には、別に酸化剤を添加する清浄度の高い極低炭素鋼の溶製方法が開示されている。
【0010】
上記に開示された技術は、RHなどの優れた真空脱ガス装置を用いて非金属介在物の除去を図りながら、新たな非金属介在物の生成原因となるスラグによる溶鋼の再酸化を抑制するという考え方に基づいている。そして、スラグによる溶鋼の再酸化を抑制するために、スラグ中の低級酸化物濃度を低減するものであり、そのためのより効果的な方法がそれぞれ示されている。スラグ中低級酸化物の低減が非金属介在物低減につながることは、例えば特許文献7にも開示されているとおりである。
【0011】
以上に述べたとおり、従来の技術は、スラグ中の低級酸化物をより低減することを目的としたものである。
【0012】
しかし、従来技術には、下記の問題が存在する。その第一は、安定した効果を得にくいという問題であり、第二は、生産性が低いという問題である。
【0013】
スラグ中の低級酸化物の濃度を低減させるスラグ改質法において、スラグによる溶鋼の再酸化を抑制するには、スラグ中の低級酸化物の濃度を数%以下、さらには、例えば特許文献8に開示されているとおり、スラグ中FeO濃度で2%以下にする必要がある。従来技術においては、スラグに還元剤などの物質を添加することにより、スラグの改質を図ってきた。この場合、スラグおよび溶鋼を強攪拌すれば、低級酸化物の濃度は充分に低減できる。しかし、スラグおよび溶鋼の攪拌がそれほど強くない出鋼後、あるいはRH処理中にこれらの処理を施しても、低級酸化物の濃度を前記の濃度にまで低下させるほど充分にスラグの改質を達成できない場合があった。
【0014】
生産性については、下記の課題を有していた。すなわち、スラグの改質を行うためにはスラグ改質剤を添加する必要があることから、改質剤の添加にともなって、精錬処理時間が増加し、これが製鋼工程における生産性低下の原因となっていた。さらに、スラグ改質剤の添加によりスラグ量が増加するため、生産性の低下のみならず、廃棄物処理費用が増大し、製鋼のトータルコストを押し上げる要因ともなっていた。
【0015】
【特許文献1】特開平7−34117号公報(特許請求の範囲および段落[0010])
【特許文献2】特開平5−51625号公報(特許請求の範囲および段落[0006]〜[0008])
【特許文献3】特開平7−41824号公報(特許請求の範囲および段落[0006])
【特許文献4】特開平5−195042号公報(特許請求の範囲および段落[0006])
【特許文献5】特開平6−179907号公報(特許請求の範囲および段落[0010])
【特許文献6】特開平5−287358号公報(特許請求の範囲、段落[0009]および[0010])
【特許文献7】特開昭60−152611号公報(特許請求の範囲、2頁左上欄7〜16行および4頁右上欄2〜6行)
【特許文献8】特開平2−277711号公報(特許請求の範囲および2頁右上欄6〜15行)
【特許文献9】特開平3−61310号公報(特許請求の範囲、2頁右下欄2〜7行および3頁左下欄16〜19行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記のとおり、従来の高清浄度鋼の溶製方法には下記の問題が残されている。すなわち、(a)スラグの改質を図っても、低級酸化物の濃度を充分に低下させることができない場合があり、安定した清浄化効果が得られない。(b)スラグ改質操作により製鋼工程における生産性が低下し、また、スラグ量の増大によりスラグの廃棄物処理コストが上昇する。
【0017】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、RH真空脱ガス装置を用いた溶鋼の処理方法において、取鍋内のスラグの再酸化を抑制し、高い清浄度の鋼を溶製することのできる清浄鋼の溶製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上述の課題を解決するために、従来の問題点を踏まえて、高清浄度鋼の溶製方法について研究開発を進め、下記の(a)〜(d)の知見を得て、本発明を完成させた。
【0019】
(a)スラグ中のFeOやMnOなどの低級酸化物が溶鋼中のAlなどにより還元されて生成する介在物の量を低減するためには、取鍋内溶鋼の上面に存在するスラグの表面温度を溶鋼温度よりも150℃以上低くする必要がある。
【0020】
(b)上記(a)において、溶鋼上面に存在するスラグの温度のみを選択的に低下させるためには、スラグとメタルの攪拌混合が最も弱いRH脱ガスプロセスにおいて、取鍋内スラグの上表面にガスを吹き付けてスラグを冷却することが有効である。
【0021】
(c)上記(b)のスラグの冷却において、取鍋内スラグの上表面に吹き付けるガスは、非酸化性ガスであることが必要なことから、不活性ガスまたは二酸化炭素ガスを用いることが好ましく、また、スラグ表面積A(m2)と吹き付けガスの流量をQ(Nm3/min)との比、Q/Aの値は0.5〜1.5の範囲とすることが好ましい。
【0022】
(d)取鍋内の溶鋼上面に存在するスラグを水平面内の位置によらず均一に冷却するためには、スラグ冷却のための吹き付けガスの噴出ノズルを4個以上設けることが好ましい。
【0023】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の(1)〜(4)に示される転炉精錬方法にある。
【0024】
(1)二本の浸漬管および真空槽を有する真空脱ガス装置を用いて取鍋内の溶鋼を処理するに際して、取鍋内スラグの上表面にガスを吹き付けてスラグを冷却し、スラグ表面温度を溶鋼温度よりも150℃以上低下させることを特徴とする清浄鋼の溶製方法(以下、「第1発明」とも記す)。
【0025】
(2)前記取鍋内のスラグ上表面に吹き付けるガスが不活性ガスまたは二酸化炭素ガスであることを特徴とする前記(1)に記載の清浄鋼の溶製方法(以下、「第2発明」とも記す)。
【0026】
(3)前記取鍋内のスラグ表面積をA(m2)、取鍋内のスラグ上表面に吹き付けるガスの流量をQ(Nm3/min)としたとき、Q/Aの値を0.5〜1.5とすることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の清浄鋼の溶製方法(以下、「第3発明」とも記す)。
【0027】
(4)前記取鍋内のスラグ上表面に吹き付けるガスの噴出ノズルを4個以上とすることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の清浄鋼の溶製方法(以下、「第4発明」とも記す)。
本発明において、「不活性ガス」とは、周期律表の18族の元素を意味し、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスなどがこれに該当する。
【0028】
また、「清浄鋼」とは、鋼中に含有される酸化物などの非金属介在物が少ない鋼を意味する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の清浄鋼の溶製方法によれば、RH真空脱ガス装置を用いて取鍋内の溶鋼を処理するに際して、取鍋内のスラグ表面にガスを吹き付けてスラグを冷却し、スラグ表面温度を溶鋼温度よりも150℃以上低下させることにより、取鍋内のスラグの再酸化を抑制し、高い清浄度の鋼を溶製することができる。したがって、本発明の方法は、製鋼工程における高い生産性を確保しながら、安定した品質の高清浄鋼を製造し、かつ、スラグの廃棄物処理費用をも削減できる製鋼方法として、清浄鋼の製造技術に大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の方法は、前記のとおり、二本の浸漬管および真空槽を有する真空脱ガス装置を用いて取鍋内の溶鋼を処理するに際して、取鍋内のスラグ表面にガスを吹き付けてスラグを冷却し、スラグ表面温度を溶鋼温度よりも150℃以上低下させることを特徴とする清浄鋼の溶製方法である。以下に本発明の方法について、さらに詳細に説明する。
【0031】
(1)発明の基礎となる技術的思想
従来の技術は、主として、スラグ中の低級酸化物を低減することを具体的な目的としていた。スラグ中の低級酸化物、例えばスラグ中のMnOによってアルミナ介在物が生成する過程は、下記(1)式により表される。
【0032】
3MnO(in slag)+2Al(in steel)=Al23(in steel)+3Mn(in steel) ・・・・(1)
上記(1)式によりアルミナ介在物が生成する反応を抑制するには、スラグ中のMnO濃度を低下させればよいというのが、従来の認識であった。しかし、上記のような反応の反応速度を低下させる方法としては、スラグ中の低級酸化物の濃度を低下させるほかに反応温度を低下させる方法もある。すなわち、スラグ温度を低下させれば、溶鋼中におけるアルミナの生成反応、つまり溶鋼の再酸化が抑制される。
【0033】
そこで、スラグ温度と溶鋼の清浄度との関係を調査した。溶鋼300トン(t)をRH脱ガス装置にて処理し、溶鋼温度とスラグ表面温度を測定した。溶鋼温度は1575〜1615℃であり、スラグ中の低級酸化物の濃度は、(T.Fe+MnO)含有率で9〜11質量%であった。溶鋼温度は、消耗型熱電対を溶鋼に浸漬することにより測定し、スラグ表面温度は、放射温度計または消耗型熱電対をスラグに接触させることにより測定した。正確には、スラグ層内の温度を測定することが望ましいが、スラグの層厚が100〜200mm程度と薄いため、正確にスラグ層内の温度を測定することは難しい。そこで、スラグ表面温度を以てスラグ温度を代表させることとした。
【0034】
また、スラグ温度は溶鋼温度に応じて変化するため、スラグ温度の低下量は、溶鋼温度とスラグ温度との差、すなわち{(溶鋼温度)−(スラグ表面温度)}により評価することとした。なお、溶鋼の再酸化の評価は、介在物個数指数=(任意の条件における介在物個数/基準条件における介在物個数)を用いた。
【0035】
図1は、溶鋼とスラグ表面との温度差と、介在物個数指数との関係を示す図である。同図において、介在物個数指数を求めるに際しての分母の値、すなわち基準条件における介在物個数は、溶鋼とスラグ表面との温度差が10℃の場合における介在物個数とした。また、介在物個数の計測は後述する方法によった。
【0036】
同図の結果によれば、溶鋼とスラグ表面との温度差が150℃未満では、清浄度は、基準条件における清浄度と同程度であることから、介在物個数指数の値はほぼ1近傍の値となり、上記温度差による差異は殆ど認められない。これに対して、溶鋼とスラグ表面との温度差が150℃以上になると、介在物個数指数が低下し、鋼の清浄度が改善されることがわかる。
【0037】
上記の結果は、スラグ温度の低下にともなって低級酸化物と溶鋼中Alとの反応による鋼中介在物の生成反応速度が低下し、溶鋼の再酸化による鋼の清浄度悪化が抑制されること、および、その充分な効果を得るには、溶鋼とスラグ表面との温度差を150℃以上とする必要があることを示している。
【0038】
反応温度が低下すると反応速度が低下することは一般によく知られているが、上記のように、スラグ温度を溶鋼に対して相対的に低下させることによって再酸化を抑制する方法は、従来、全く考慮されてこなかった。その理由は、スラグ温度を低下させると、同時に溶鋼温度も低下しやすく、そうなると、著しい操業阻害に陥るおそれが高いからである。
【0039】
しかし、本発明者らは、上述のスラグの温度低下に着目して研究開発を行った。スラグ温度を選択的に低下させるためには、下記の第1〜第4の要件を満足する必要がある。すなわち、第1の要件は、スラグと溶鋼の攪拌混合が行われないことであり、第2の要件は、スラグ自体の流動が小さいことであり、第3の要件は、スラグ直下の溶鋼の流動も小さいことであり、そして、第4の要件は、スラグ全体の反応速度を低下させるためには、スラグ全体の温度を均一に低下させる必要があること、である。
【0040】
上記第1〜第3の要件を満足させるには、スラグ−メタル間の攪拌が最も弱いRH脱ガスプロセスが最適であると判断した。また、上記第4の要件を満足させるためには、スラグ層の上表面に冷却用ガスを吹き付けるのが最も現実的で、効果も大きいと判断した。
【0041】
(2)発明の構成要件の限定理由および好ましい範囲
本発明の構成要件および数値限定の範囲を前記のとおり規定した理由、ならびに好ましい範囲について説明する。
【0042】
(2)−1 RH処理中の取鍋内スラグ表面へのガスの吹き付け
Al含有率が0.03〜0.05質量%の溶鋼300tを処理中のRH脱ガス装置の真空槽の下面にガス噴出ノズルを配置して取鍋内スラグの上表面へのガスの吹き付けを行った。
【0043】
図2は、スラグ表面へのガス吹き付けノズルの配置パターンを示す図である。図2におけるAの位置に2個のガス吹き付けノズルを配置し、Arガスを各ノズルからノズル1個当たり3Nm3/minの流量で、合計6Nm3/minをスラグの上表面に吹き付けた。なお、この試験時のスラグ表面積は約12m2であり、ノズル内径は80mm、スラグ上表面とノズル噴出孔との鉛直距離は250〜450mm、スラグ中の低級酸化物の濃度は、(T.Fe+MnO)含有率で8〜12質量%であった。また、ガスの吹き付けによる溶鋼の温度低下は認められなかった。
【0044】
上記のRH処理後、連続鋳造機によりスラブに鋳造し、そのスラブから分析用サンプルを採取し、介在物個数を光学顕微鏡により計測した。なお、介在物個数の計測は、JIS G 0555に規定された方法に準拠して、平均粒径5μm以上の介在物の個数を点算法により求めて断面1mm2当たりの個数を算出し、この値を溶鋼とスラグ表面との温度差が10℃の場合における介在物個数により除して指数化し、評価した。
【0045】
図3は、スラグ表面へのガスの吹き付けの有無と、介在物個数指数および溶鋼温度とスラグ表面温度との差との関係を示す図である。
【0046】
同図の結果から、スラグ表面にガスを吹き付けることにより、スラグ中の低級酸化物の還元反応により生成される鋼中の介在物個数を低減できることが確認できた。
【0047】
なお、スラグ表面に吹き付けるガスとしては、非酸化性ガスを使用する必要があることから、不活性ガスまたは二酸化炭素ガスを用いることが好ましい。ここで、不活性ガスとは、周期律表の18族の元素を意味し、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスなどがこれに該当する。
【0048】
(2)−2 吹き付けガスの流量
取鍋内スラグ温度を適正温度範囲、すなわち溶鋼温度よりも150℃以上低い温度範囲まで低下させるには、吹き付けガス流量の好ましい範囲が存在する。そこで、吹き付けガス流量の影響を調査した。スラグ温度の低下量は、スラグ表面積当たりの冷却用ガスの吹き付け量に依存すると推測されることから、取鍋内のスラグ表面に吹き付けるガスの流量(全ガス流量)を取鍋内のスラグ表面積で除した値と、(溶鋼温度−スラグ表面温度)の値および溶鋼の清浄度、すなわち介在物個数指数との関係を調査した。
【0049】
図4は、スラグ表面に吹き付けるガス流量Q(Nm3/min)とスラグ表面積A(m2)との比(Q/A)の値と、(溶鋼温度−スラグ表面温度)の値および介在物個数指数との関係を示す図である。なお、同図に示される試験においては、吹き付けガス流量を変更した以外は、試験方法および評価方法ともに、前記(2)−1における試験と同一条件とした。
【0050】
同図の結果によれば、Q/Aの値が0.5(Nm3/m2/min)以上において(溶鋼温度−スラグ表面温度)の値が150℃以上となって、鋼の清浄化効果が発揮され、介在物個数指数が安定して低下する。さらにQ/Aの値が増加して1.5(Nm3/m2/min)を超える範囲では、介在物個数指数が低下する場合がある反面、介在物個数指数がかえって増加する場合もあり、鋼の安定した清浄化効果が得られなくなる。したがって、Q/Aの値は、0.5〜1.5(Nm3/m2/min)の範囲とすることが好ましい。なお、Q/Aの値が1.5(Nm3/m2/min)を超える場合に鋼の清浄化効果にばらつきが生じる理由は、吹き付けガスの流量の増大にともなってスラグ温度が低下しすぎることから、スラグ下部に存在する溶鋼中を浮上してくる介在物をスラグが捕捉し吸収する能力が低下するためと推察される。
【0051】
150〜300tの溶鋼を処理する場合では、使用される取鍋の直径は約4mであることから、スラグ表面積Aは12.6m2となり、この場合の吹き付けガス流量の好ましい範囲は、6.3〜18.9Nm3/minとなる。
【0052】
RH脱ガス処理において溶鋼の吸窒抑制を図る方法として、例えば、特許文献9には、
RH精錬方法において、下降管の周囲にガスを音速以上の速度で噴射することによりガス遮断層を下降管の周囲に形成し、下降管における溶湯の窒素ピックアップを防止する方法が開示されている。しかし、同文献で開示された方法においては、ガス流量は2〜4Nm3/minの範囲であり、本発明における好ましいガス流量の範囲よりも低い。つまり、従来の吸窒抑制を主目的としたガス流量の範囲では、仮にそのガスによりスラグ表面が冷却されたとしても、ガス流量が不足し、本発明における鋼の好ましい清浄化効果を得ることは困難であることがわかる。
【0053】
(2)−3 ガス噴出用ノズル数
溶鋼の清浄化効果を高めるには、取鍋内の溶鋼上面に存在するスラグを水平面内の位置によらず均一に冷却することが好ましい。そこで、スラグ表面にガスを吹き付けるためのガス噴出用ノズルの数につき検討した。ガス噴出用ノズル数は、スラグ表面に対して噴出ガスが均一かつ広範囲に行き渡るように広範囲に多数配置されていることが好ましいが、設備保守などの観点からは、噴出ノズル数は少ないほど好ましい。
【0054】
そこで、前記図2に示したとおりのスラグ表面へのガス吹き付けノズルの配置パターンにしたがって、ガス吹き付け試験を行い、溶鋼の清浄化効果の及ぼす影響を調査した。
【0055】
前記(2)−1および(2)−2にて記載した調査試験では、同図中のAの位置に設けた2個の噴出ノズルを使用した。この配置の噴出ノズルの使用パターンを下記に示すとおりパターン1とする。さらに、同図中のBの位置に計4個の噴出ノズルを、そして、同図中のCの位置に計2個の噴出ノズルを設置した。そして、下記のとおり4種類のノズル使用パターンを規定した。
【0056】
パターン1:Aノズル2個のみを使用((2)−1および(2)−2での試験条件)
パターン2:Bノズル4個のみを使用
パターン3:AノズルおよびBノズルの合計6個を使用
パターン4:Aノズル、BノズルおよびCノズルの合計8個を使用
また、Q/Aの値は1.5(Nm3/m2/min)で一定とし、その他の試験条件および評価方法は、前記(2)−1および(2)−2での試験条件と同じとした。
【0057】
図5は、スラグ表面へのガス吹き付け用噴出ノズルの使用パターンと介在物個数指数との関係を示す図である。
【0058】
同図に示された結果から、噴出ノズル個数が増加し、かつ、広範囲に分散させて配置するほどスラグの均一冷却の効果が高まり、冷却介在物個数の低減効果が向上するとともに、介在物個数指数のバラツキも低減して安定した鋼の清浄化効果が得られることがわかる。また、同図の結果によれば、パターン1とパターン2に夜介在物個数指数の差が比較的大きいことから、少なくともパターン2で規定した噴出ノズル数以上、すなわち噴出ノズル個数4個以上において、鋼の好ましい清浄化効果を得ることができる。
【0059】
上記に述べたとおり、本発明は、従来のスラグ中低級酸化物濃度の低減という考え方とは根本的に相違する技術的思想、すなわち、RH処理における取鍋中スラグ温度の低減により鋼の清浄化を図ることができるとの思想に基づくものであり、スラグ表面にガスを吹き付けることによりスラグ表面温度を溶鋼温度に比して所定温度以上低く調整し、スラグによる溶鋼の再酸化を抑制して鋼の清浄度を向上させる方法である。また、本発明は、上記の清浄化効果をさらに高めるための吹き付けガス流量、ノズル個数などを併せて提案するものである。
【0060】
(3)一貫工程における好ましい態様
本発明を、転炉吹錬、RH真空脱ガスおよび連続鋳造を経て鋼を製造する工程に適用する場合を例にとって、その好ましい態様につき説明する。
【0061】
転炉にて脱炭処理を行った後、溶鋼を取鍋に出鋼する。このとき、鋼種に応じて出鋼時に脱酸処理を行う。転炉からのスラグ流出量が多い場合や有価金属を回収する場合、あるいは脱硫処理を行う場合には、出鋼時に、CaOなどをスラグ中に投入してもよい。
【0062】
出鋼後、取鍋をRH脱ガス装置まで移送し、RH真空脱ガス装置により脱ガス処理を開始する。取鍋スラグへのガスの吹き付けは、RH処理開始と同時に開始することが好ましいが、酸素上吹きなどによりスラグ中の中級または低級酸化物が増加した後に開始してもかまわない。
【0063】
噴出ノズルの配置は、取鍋内スラグの表面にガスが均一に吹き付けられるように、水平面内で均一に分散して配置するのが好ましい。ただし、設備保守などで制約が生じる場合は、図2のAノズル2個およびBノズル4個からガスを噴出するパターン3を使用するのが好ましく、さらには、Aノズル2個およびBノズル4個およびCノズル2個からガスを噴出するパターン4を採用するのが好ましい。
【0064】
噴出ノズルの形状は特に制約するものではなく、直管、先細管、末広がり管などいずれの形状のものであってもよい。この場合、噴出ノズル出口におけるガスの線速度は1m/s以上とすることが好ましい。噴出ガスの線速度が遅すぎると、噴出ガスによるスラグの冷却作用が低下する場合がある。
【0065】
また、噴出ノズルの出口とスラグの上表面との鉛直距離は0.5m以下とすることが好ましい。鉛直距離が長過ぎると、ガスによるスラグの冷却効果が低下する。
【0066】
以上に述べた方法により、取鍋内スラグの表面に冷却用ガスを吹き付けつつ、通常のRH脱ガス処理を行えばよい。
【実施例】
【0067】
本発明の清浄鋼の溶製方法の効果を確認するため、下記に示す鋼の溶製試験を行い、その結果を評価した。
【0068】
溶鋼約300tを転炉吹錬により粗脱炭した後、取鍋に出鋼し、取鍋をRH脱ガス装置へ移送した。RH脱ガス処理を開始すると同時に、RH真空槽の下部に配置したガス噴出用ノズルから取鍋内スラグ表面に冷却用ガスを吹き付けた。また、吹き付けは、RH処理が終了するまで実施した。ガス噴出ノズルは内径80mmの直管ノズルとし、ノズル出口からスラグ表面までの鉛直距離は約300mmとした。
【0069】
表1に、RH処理後の溶鋼成分組成、RH処理前のスラグ中低級酸化物濃度(T.Fe+MnO含有率)、RH処理時間、Q/Aの値、吹き付けガスの種類、溶鋼温度−スラグ表面温度、ノズル使用パターンおよび介在物指数をそれぞれ示す。
【0070】
【表1】


【0071】
同表において、ノズル使用パターンは、前記(2)−3にて説明したパターン1〜4を示し、また、介在物個数指数は、前記(1)にて説明したとおり、任意の条件における介在物個数を、溶鋼とスラグ表面との温度差が10℃の場合の介在物個数で除した値により表示した。
【0072】
試験番号1〜15は、本発明で規定する条件、すなわち、取鍋内のスラグ表面にガスを吹き付け、溶鋼温度とスラグ表面温度との差を150℃以上とする条件を満足する本発明例についての試験であり、試験番号16〜24は、本発明で規定する条件を満たさない比較例についての試験である。
【0073】
試験番号1〜15の本発明例は、いずれもRH処理前におけるスラグ中の低級酸化物濃度(T.Fe+MnO含有率)が試験番号16〜24の比較例におけるスラグ中の低級酸化物濃度と同程度であるにも拘わらず、介在物個数指数は0.8程度以下と低く、本発明による鋼の清浄化効果が十分に発揮されていることがわかる。
【0074】
さらに、本発明例の中でも、吹き付けガスとしてArガスまたはCO2ガスを使用し、かつ、Q/Aの値が0.5〜1.5(Nm3/m2/min)の範囲内にある試験番号3〜10では、介在物個数指数が安定して低下し、一層高い鋼の清浄化作用が認められた。また、吹き付けガスとしてN2ガスを用いた本発明例の試験番号15では、介在物個数指数は0.83であり、鋼中のN含有率が若干増加したが、比較的良好な清浄化作用が認められ、実用上充分に使用できる清浄鋼が得られた。
【0075】
そして、本発明例中で、Q/Aの値が0.5〜1.5(Nm3/m2/min)の範囲内にあり、かつ、Q/Aの値が同一である試験番号5〜9の比較から、ノズル使用パターン1に比してノズル使用パターン2〜4の場合の方が介在物個数指数がさらに低下することが確認された。この結果は、ノズル個数を4個以上とすることにより、さらに一層清浄化効果を高められることを示している。
【0076】
上記の本発明例に対して、(溶鋼温度−スラグ表面温度)の値が150℃未満であった比較例の試験番号16では、スラグによる溶鋼の再酸化を抑制することができず、介在物個数指数が上昇し、充分な鋼の清浄化効果が得られなかった。
【0077】
また、スラグ表面への冷却ガスの吹き付けを行わなかった比較例の試験番号17〜24では、溶鋼温度に比較してスラグ温度の低下が小さかったために、スラグによる溶鋼の再酸化が進行した結果、介在物個数指数は高く、清浄度の著しく劣った鋼しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の清浄鋼の溶製方法によれば、RH真空脱ガス装置を用いて取鍋内の溶鋼を処理するに際して、取鍋内のスラグ表面にガスを吹き付けてスラグを冷却し、スラグ表面温度を溶鋼温度よりも150℃以上低下させることにより、取鍋内のスラグの再酸化を抑制し、高い清浄度の鋼を溶製することができる。したがって、本発明の方法は、製鋼工程における高い生産性を確保しながらスラグの廃棄物処理コストをも低減し、高品質の清浄鋼を製造できる鋼の溶製方法として、製鋼技術分野において広範に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】溶鋼温度とスラグ表面温度との差と、介在物個数指数との関係を示す図である。
【図2】スラグ表面へのガス吹き付けノズルの配置パターンを示す図である。
【図3】スラグ表面へのガスの吹き付けの有無と、介在物個数指数および溶鋼温度とスラグ表面温度との差との関係を示す図である。
【図4】スラグ表面に吹き付けるガス流量とスラグ表面積との比と、(溶鋼温度−スラグ表面温度)および介在物個数指数との関係を示す図である。介在物個数指数との関係を示す図である。
【図5】スラグ表面へのガス吹き付けノズルの使用パターンと介在物個数指数との関係を示す図である。




 

 


     NEWS
会社検索順位 特許の出願数の順位が発表

URL変更
平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年


 
   お問い合わせ info@patentjp.com patentjp.com   Copyright 2007-2013