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高張力鋼板ならびにその製造方法 - JFEスチール株式会社
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発明の名称 高張力鋼板ならびにその製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−63668(P2007−63668A)
公開日 平成19年3月15日(2007.3.15)
出願番号 特願2006−213321(P2006−213321)
出願日 平成18年8月4日(2006.8.4)
代理人 【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
発明者 有賀 珠子 / 横田 毅 / 小林 聡雄 / 瀬戸 一洋
要約 課題
自動車用部材のようにプレス成形における断面形状が複雑な用途に適した、加工性の指標である伸びと伸びフランジ性がともに優れ、製造も従来に比べて容易な、980MPaを超える強度を有する高張力鋼板およびその製造方法を提供すること。また、そのような高張力鋼版のより設備負担の少ない製造方法を提供すること。

解決手段
高張力鋼板は、実質的にフェライト単相組織であり、平均粒径10nm未満のTi、MoおよびVを含む炭化物が分散析出するとともに、該Ti、MoおよびVを含む炭化物は、原子%で表されるTi、Mo、Vが、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす平均組成を有し、引張強度が980MPa以上である。
特許請求の範囲
【請求項1】
実質的にフェライト単相組織であり、平均粒径10nm未満のTi、MoおよびVを含む炭化物が分散析出するとともに、該Ti、MoおよびVを含む炭化物は、原子%で表されるTi、Mo、Vが、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす平均組成を有することを特徴とする、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板。
【請求項2】
質量%で、C:0.06超〜0.24%、Si≦0.3%、Mn:0.5〜2.0%、P≦0.06%、S≦0.005%、Al≦0.06%、N≦0.006%、Mo:0.05〜0.5%、Ti:0.03〜0.2%、V:0.15超〜1.2%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、C、Ti、Mo、V含有量が以下の(I)式を満足する成分組成を有することを特徴とする、請求項1に記載の高張力鋼板。
0.8≦(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}≦1.5 …(I)
(ただし、C、Ti、Mo、Vは各成分の質量%を表す)
【請求項3】
板厚2.5mm以下の薄物熱延鋼板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高張力鋼板。
【請求項4】
表面に溶融亜鉛系めっき皮膜を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高張力鋼板。
【請求項5】
質量%で、C:0.06超〜0.24%、Si≦0.3%、Mn:0.5〜2.0%、P≦0.06%、S≦0.005%、Al≦0.06%、N≦0.006%、Mo:0.05〜0.5%、Ti:0.03〜0.2%、V:0.15超〜1.2%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなるとともに、C、Ti、Mo、V含有量が以下の(I)式を満足する成分組成を有する鋼片に、仕上圧延終了温度880℃以上、巻取温度570℃以上の条件で熱間圧延を施すことを特徴とする、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
0.8≦(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}≦1.5 …(I)
(ただし、C、Ti、Mo、Vは各成分の質量%を表す)
【請求項6】
前記熱間圧延後の鋼板の表面に溶融亜鉛系めっきを施すことを特徴とする、請求項5に記載の高張力鋼板の製造方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用部材の素材に適した、高張力鋼板ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全につながる燃費向上の観点から、自動車用鋼板の高強度薄肉化が強く求められている。自動車用部材はプレス成形により得られる複雑な形状のものが多く、高強度でありながら加工性の指標である伸びと伸びフランジ性がともに優れた材料が必要である。近年、鋼板強度はますます高強度化し、980MPaを超えるものが要望されている。また、鋼板をより軽量化する観点からさらなる薄肉化が指向されており、板厚2.5mm以下の薄物に対する要望も強くなってきている。
【0003】
従来、この種の鋼板は種々提案されており、例えば特許文献1には、転位密度の高いベイニティック・フェライト組織が生成した、伸びフランジ性に優れた鋼板が提案されている。しかし、この鋼板は、転位密度の高いベイニティック・フェライト組織を含むために伸びが乏しいという欠点がある。また、ベイニティック・フェライト生成のために、ランナウトテーブル上での強冷却が不可避であり、薄物製造時にはランナウトテーブルでのストリップの走行性に問題が生じるため、板厚2.5mm以下の薄物を生産するには不向きである。
【0004】
特許文献2には、組織の大部分をポリゴナルフェライトとし、TiCを中心として析出強化および固溶強化した伸びフランジ性に優れる鋼板が提案されている。しかし、この鋼板に用いられている一般的によく知られた析出物で980MPa以上に高張力化することは困難である。すなわち、980MPa以上の高強度化を図って多量のTiを添加すると、サイズの大きい析出物が生成しやすくなり、狙いどおりの強度を得ることが難しく、特性が不安定になりやすいという欠点がある。また、Ti添加量の増大と共に、TiCを固溶させるために必要なスラブ加熱温度が増大し、通常の設備では製造が困難となりやすい。
【0005】
特許文献3には、微細なTiCおよび/またはNbCが析出したアシキュラー・フェライト組織を有した、伸びフランジ性に優れた鋼板が提案されている。しかし、この鋼板も先に述べた特許文献1で提案された鋼板同様に、アシキュラー・フェライトという転位密度の高い組織であるため十分な伸びが得られていない。
【0006】
特許文献4には、平均粒径1〜5μmのフェライトを主相とし、平均粒径50nm以下のVの炭窒化物で析出強化した熱延鋼板が提案されている。ここでV析出物を微細に析出させるには低温での巻取りが必要であるが、その結果、析出物の量を増大させることが困難であり、強化に限界がある。このため、特許文献4の技術では、前述したフェライトの細粒化と組み合わせることが高強度化のため必要である。ここで、特許文献4の技術では、フェライトを微細化するため、仕上げ圧延の際、タンデム圧延機列の最終から1段前の圧延スタンドにおいてAr点以上で圧延し、その後50℃/秒以上の平均冷却速度で「Ar点−50℃」以下の温度まで冷却した後、最終スタンドにおいて20%以下の圧下を施すことが必要であり、通常の製造ラインでは製造に困難性を伴う。また、この鋼板では、パーライト等の生成が許容されるため、伸びや伸びフランジ性が低下する懸念がある。
【0007】
また、超高張力鋼板を得る技術として、特許文献5や特許文献6に開示された技術が開発されている。この技術は、フェライト単相中にC、Ti、Moよりなる微細炭化物を分散させ、伸びと伸びフランジ性がともに優れた超高張力鋼板を得ることができる技術である。しかしながら、上記特許文献2の技術と同様に、この技術では、980MPa以上の引張強度を得るために多量のCやTiを添加すると、通常のスラブ加熱温度(1150℃〜1250℃程度)ではスラブ中に析出しているTiCなどを完全には溶解させることができない場合がある。すなわち、高強度を得るべくTiCなどを完全に溶解させるにはより高温が必要となって製造が困難となる場合があり、また可能であっても設備に大きな負担がかかる。
【特許文献1】特開平6−172924号公報
【特許文献2】特開平6−200351号公報
【特許文献3】特開平7−11382号公報
【特許文献4】特開2004−143518号公報
【特許文献5】特開2003−89848号公報
【特許文献6】特開2002−322539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は自動車用部材のようにプレス成形における断面形状が複雑な用途に適した、加工性の指標である伸びと伸びフランジ性がともに優れ、製造も従来に比べ容易な、980MPa以上の強度を有する高張力鋼板およびそのような高張力鋼板の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、そのような高張力鋼板のより設備負担の少ない製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
(1)転位密度が低い組織とし、微細析出物で強化すると、強度−伸びバランスが向上する。
(2)実質的にフェライト単相組織とし、微細析出物で強化すると、強度−伸びバランスが向上する。
(3)C、Ti、Mo、Vを添加し、さらにその添加バランスを適宜制御すると、これらが複合した炭化物が微細に析出する。
(4)複合析出物中のVの割合が低くなると、析出物が粗大化するため、伸びと伸びフランジ性がともに低下する。
(5)Vを添加した鋼は、Ti、Moのみを添加した鋼に比べて低温で炭化物が溶解し、強化に効く微細析出物が効率よく得られる。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)〜(6)を提供する。
(1)実質的にフェライト単相組織であり、平均粒径10nm未満のTi、MoおよびVを含む炭化物が分散析出するとともに、該Ti、MoおよびVを含む炭化物は、原子%で表されるTi、Mo、Vが、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす平均組成を有することを特徴とする、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板。
(2)上記(1)の高張力鋼板において、質量%で、C:0.06超〜0.24%、Si≦0.3%、Mn:0.5〜2.0%、P≦0.06%、S≦0.005%、Al≦0.06%、N≦0.006%、Mo:0.05〜0.5%、Ti:0.03〜0.2%、V:0.15超〜1.2%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるとともに、C、Ti、Mo、V含有量が以下の(I)式を満足する成分組成を有することを特徴とする高張力鋼板。
0.8≦(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}≦1.5 …(I)
(ただし、C、Ti、Mo、Vは各成分の質量%を表す)
(3)上記(1)または(2)の高張力鋼板において、該高張力鋼板が板厚2.5mm以下の薄物熱延鋼板であることを特徴とする高張力鋼板。
(4)上記(1)から(3)のいずれかの高張力鋼板において、表面に溶融亜鉛系めっき皮膜を有することを特徴とする高張力鋼板。
(5)質量%で、C:0.06超〜0.24%、Si≦0.3%、Mn:0.5〜2.0%、P≦0.06%、S≦0.005%、Al≦0.06%、N≦0.006%、Mo:0.05〜0.5%、Ti:0.03〜0.2%、V:0.15超〜1.2%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなるとともに、C、Ti、Mo、V含有量が以下の(I)式を満足する成分組成を有する鋼片に、仕上圧延終了温度880℃以上、巻取温度570℃以上の条件で熱間圧延を施すことを特徴とする、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
0.8≦(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}≦1.5 …(I)
(ただし、C、Ti、Mo、Vは各成分の質量%を表す)
(6)上記(5)の製造方法において、前記熱間圧延後の鋼板の表面に溶融亜鉛系めっきを施すことを特徴とする、高張力鋼板の製造方法。
【0011】
なお、本発明において実質的にフェライト単相組織とは、本発明の析出物以外に、微量の他の相ないしは析出物を許容することをいい、好ましくはフェライトの面積比率が95%以上である。
【0012】
また、引張強度が980MPa以上である本発明鋼板において、上記の平均粒径10nm未満のTi、MoおよびVを含む炭化物は、1μm当たり約5×10個以上、さらに高強度である場合には1μm当たり約5×10個以上が分散析出していると考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Ti、Moに加えてVを適正なバランスで添加して、Ti、MoおよびVを含む微細な炭化物を分散析出させることにより、加工性に優れた高張力鋼板が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について、金属組織、化学成分、製造方法等に分けて具体的に説明する。
【0015】
[金属組織]
本発明に係る高張力鋼板は、実質的にフェライト単相組織であり、Ti、Mo、Vを含む炭化物が析出している。
【0016】
・実質的にフェライト単相組織:
マトリックスを実質的にフェライト単相組織としたのは、伸びの向上には転位密度の低いフェライトが有効であるとともに、伸びフランジ性の向上には単相組織とすることが有効であり、特に延性に富むフェライト単相組織でその効果が顕著であるためである。ただし、マトリックスは必ずしも完全にフェライト単相組織でなくともよく、実質的にフェライト単相組織であればよい。すなわち微量の他の相ないしは析出物は許容される。好ましくは面積比率で95%以上フェライトであればよく、本発明において、実質的にフェライト単相組織とは、面積比率で95%以上フェライトであることを意味する。なお、ベイニティックフェライトやアシキュラーフェライト等の転位密度の高いフェライトは本発明におけるフェライト相には含まれず、他の相として扱う。
【0017】
・Ti、Mo、Vを含む炭化物:
Ti、Mo、Vを含む炭化物は、微細となり、析出量も確保しやすいため鋼を強化するのに有効である。従来は、析出物としてMo、Vを含まないTiCを用いることが主流であった。しかしながら、Tiは析出物形成傾向が強いため粗大化しやすく、強化に対する効果が低くなることから、必要な強化量を得るには加工性を劣化させるまでの析出物が必要となる。
【0018】
一方、上記特許文献5に開示されているように、TiにMoを加えるだけでも析出物が微細化し、ある程度の高強度化は達成できる。しかし、単にTi、Moを含む炭化物のみで980MPa以上の引張強度を得るべく、これに見合ったレベルのTiを添加すると、前述のように一般的な熱延前の加熱温度を上回る高温が要求される場合があり、高温化を図るためには例えば特殊な設備を要するためコストアップとなる。他方、TiにVだけを加えた場合は、充分な析出物微細化が得られない。
【0019】
これに対し、TiとMo、Vを含む複合炭化物は、微細に析出する上、析出物の量(数)の確保も容易であるため、加工性を劣化させずに鋼を強化することができることを、発明者らは発見した。
【0020】
これは、MoおよびV、特にMoは析出物形成傾向(炭化物形成傾向)がTiよりも弱いことから、TiとMo、Vを含む複合炭化物は強化に寄与しない粗大な析出物となることなく安定して微細に存在することができ、加工性を低下させない比較的少量の添加量で有効に鋼を強化することができるためと推定される。
【0021】
一方、VとCの組み合わせは溶解温度が非常に低く、980MPa以上という高強度を得るために比較的多量に添加しても通常の加熱温度で容易に溶解することができる。ただしV単独添加では、Vの析出率が低くなる。このため、引張強度980MPa以上の高張力を得るだけの寸法と量の析出物を析出させるには、Tiの他にMoとVとの両方を添加することが有効であるものと考えられる。
【0022】
また、従来、Ti、Mo等を含有する鋼に、多量のVを添加すると、伸びが低下する傾向にあるとされており、Vの添加は比較的低い範囲に抑えられていた。しかしながら、本発明者らが詳細に検討した結果、Vの添加量を増大させるに従いVの析出率が高くなり、すなわち添加したVが炭化物として十分に析出するようになり、炭化物を安定して微細に析出させることができるため、十分な伸びを確保した上で、高強度化を達成できることを見出した。
【0023】
炭化物が安定して微細に存在できるためには炭化物の組成が影響する。具体的には、炭化物の平均組成が原子%で表されるTi、Mo、Vが、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たすようになると析出物の粗大化を抑制する効果が高くなり、所望の微細析出物を得ることができる。したがって、本発明では、原子%で表されるTi、Mo、Vが、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす範囲でTi、Mo、Vを含む炭化物が分散析出していることを要件とする。なお、V/(Ti+Mo+V)の上限は0.7程度に限定することが望ましい。
【0024】
本発明者らが見出したところでは、微細化に最適な炭化物組成はTi:Mo:Vの原子比で概ね1:1:2である。このため、炭化物の平均組成においてTi:Mo:Vの原子比が、Ti=0.6〜1.4、Mo=0.6〜1.4、V=1.4〜2.8、ただし、Ti+Mo+V=4を満足することがさらに好ましい。
【0025】
また、この複合炭化物の平均粒径を10nm未満とすることで、析出物周囲の歪みが転位の移動の抵抗としてより効果的となり、効率よく鋼を強化できる。このため、本発明では、平均粒径10nm未満のTi、Mo、Vを含む炭化物が析出していることを要件とする。さらに好ましくは、平均粒径が5nm以下である。
【0026】
なお、強度にほとんど影響しない粗大析出物にTi、Mo、Vを含む炭化物が析出するような場合も有り得る。このような析出物を粒径の評価対象とすることは不適切であるので、粒径100nmを超える析出物は除外して、平均粒径を測定するものとする。
【0027】
引張強度(TS)が980MPa以上である本発明鋼板において、前記の平均粒径10nm未満の複合炭化物は、従来のTS780MPaクラスの鋼板より多数観察される。本発明鋼におけるこの複合炭化物は、上記特許文献6のデータを基にした概算により、1μm当たり約5×10個以上が分散析出していると考えられる。なお、TS800MPaを超える領域でのデータは上記特許文献6には開示されていないので、単純にTSの対数と微細炭化物密度の対数の間に直線関係が成り立つとしてTS980MPaの対数に外挿した。
【0028】
[化学成分]
本発明では、上記金属組織さえ満たしていれば所望の伸びおよび伸びフランジ性および980MPa以上の強度が得られ、化学成分は特に限定されないが、質量%で、C:0.06超〜0.24%、Si≦0.3%、Mn:0.5〜2.0%、P≦0.06%、S≦0.005%、Al≦0.06%、N≦0.006%、Mo:0.05〜0.5%、Ti:0.03〜0.2%、V:0.15超〜1.2%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、C、Ti、Mo、V含有量が以下の(I)式を満足する成分組成を有することが好ましい。
0.8≦(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}≦1.5 …(I)
ただし、上記(I)式中、C、Ti、Mo、Vは各成分の質量%を表す。
以下、これら各成分について説明する。なお、以下、特に説明のない限り、成分についての記載において“%”は“質量%”を表す。
【0029】
C:0.06超〜0.24%
Cは炭化物を形成し、鋼を強化するのに有効である。しかし、0.06%以下では、鋼の強化が不十分であり、0.24%を超えて添加するとスポット溶接が困難となるため、C含有量は0.06超〜0.24%が好ましい。より好ましくは、0.07%以上であり、特に1100MPa以上の引張強度を得るためには0.1%以上であることが望ましい。より望ましいC含有量範囲は、0.11〜0.2%である。
【0030】
Si:0.3%以下
Siは固溶強化に有効な元素として、従来は積極的に用いられており、高張力鋼に約0.4%以上添加されることも多いが、本発明ではSiの含有量を0.3%以下とする。これは、0.3%を超えて添加すると、フェライトからのC析出が促進されて粒界に粗大な鉄炭化物が析出しやすくなり、伸びフランジ性が低下するためである。また、本発明においては、Siを低減することによりオースナイト域での圧延荷重を低減し、薄物の製造が容易となる。すなわち0.3%を超えて添加すると、2.5mm以下の材料の圧延が不安定となり、板形状も悪くなる。これらの理由により、Si含有量は0.3%以下が好ましい。さらに好ましくは0.15%以下であり、望ましくは0.05%以下である。なお、Siを極端に低減することは、製造コストを悪化させる。そのため、製造コストを大きく上昇させない実用的な下限値は0.001%程度となる。
【0031】
Mn:0.5〜2.0%
Mnは固溶強化により鋼を強化する観点からは0.5%以上が好ましいが、2.0%を超えて添加すると偏析し、かつ硬質相が形成され、伸びフランジ性が低下する。このため、Mn含有量は0.5〜2.0%が好ましい。より好ましくは1.0〜2.0%である。
【0032】
P:0.06%以下
Pは固溶強化に有効であるが、0.06%を超えて含有すると偏析して伸びフランジ性を低下させるため、0.06%以下とすることが好ましい。なお、Pを極端に低減することは、製造コストを悪化させる。そのため、製造コストを大きく上昇させない実用的な下限値は0.001%程度となる。
【0033】
S:0.005%以下
Sは少ないほど好ましく、0.005%を超えると伸びフランジ性が低下するため、0.005%以下が好ましい。なお、Sを極端に低減することは、製造コストを悪化させる。そのため、製造コストを大きく上昇させない実用的な下限値は0.0005%程度となる。
【0034】
Al:0.06%以下
Alは脱酸剤として添加してよい。しかし、鋼中のAl量が0.06%を超えると伸びおよび伸びフランジ性が低下するため、0.06%以下が好ましい。下限は特にないが、脱酸剤としての効果を十分に得るためにはAl量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0035】
N:0.006%以下
Nは少ないほど好ましく、0.006%を超えると粗大な窒化物が増え、伸びフランジ性が低下するため、0.006%以下が好ましい。なお、Nを極端に低減することは、製造コストを悪化させる。そのため、製造コストを大きく上昇させない実用的な下限は0.0005%程度となる。
【0036】
Mo:0.05〜0.5%
Moは本発明において重要な元素であり、0.05%以上添加することでパーライト変態を抑制する効果がある。さらにTi、Vと微細な析出物(複合炭化物)を形成し、優れた伸びおよび伸びフランジ性を確保しつつ鋼を強化することができる。しかし、0.5%を超えて添加すると硬質相が形成され伸びフランジ性が低下するため、Mo含有量は0.05〜0.5%が好ましい。なお、より好ましい下限値は0.15%、より好ましい上限値は0.4%である。
【0037】
Ti:0.03〜0.2%
Tiは本発明において重要な元素である。Mo、Vと複合炭化物を形成することで、優れた伸びおよび伸びフランジ性を確保しつつ、鋼を強化することができる。しかし、0.03%未満では、鋼を強化する効果が不十分であり、0.2%を超えると伸びフランジ性が低下するとともに、熱延前のスラブ加熱温度を1300℃以上という高温にしなければ炭化物が溶解しないため、これ以上添加しても微細析出物として有効に析出させることができない。したがって、Ti含有量は0.03〜0.2%が好ましい。より好ましくは0.08〜0.2%である。
【0038】
V:0.15超〜1.2%
Vは本発明において重要な元素である。前述のように、炭化物が安定して微細に存在できるためには炭化物の組成が影響する。具体的には、炭化物の平均組成が原子%で表されるTi、Mo、Vで、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たすようになると、析出物の粗大化を抑制する効果が高くなり、所望の微細析出物を得ることができる。この点、本発明者らが詳細に検討した結果、Cを0.06%を超えて多量に添加するとともに、Vを多量に添加することでVの析出効率が上昇し、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす析出物を得られるようになることが判った。また、所望の析出物を得るためには、上述のように、炭化物の平均組成が原子%で表されるTi、Mo、Vで、V/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たすことに加えて、炭化物の平均組成においてTi:Mo:Vの原子比が、Ti=0.6〜1.4、Mo=0.6〜1.4、V=1.4〜2.8、ただしTi+Mo+V=4を満たすことが好ましい。この場合にも、上述したようにCを0.06%超えて多量に添加するとともに、Vを多量に添加することで、炭化物の平均組成においてTi:Mo:Vの原子比が、Ti=0.6〜1.4、Mo=0.6〜1.4、V=1.4〜2.8、ただしTi+Mo+V=4を満たす析出物を得られるようになることが判った。
【0039】
図1に、鋼へのVの添加量と、Vの析出率の関係を示す。ここで、Vの析出率は、添加されたVに対して析出物を実際に形成したVの比率を意味し、Vの析出効率を示す。なお、この結果は、C:0.11〜0.15%、Si:0.01%、Mn:1.35%、P:0.01%、S:0.001%、Al:0.05%、N:0.003%、Mo:0.32%、Ti:0.16%とし、V:0.1〜0.3%で変化させた鋼を素材とし、仕上圧延終了温度920℃、巻取温度620℃として熱間圧延を行って得た熱延鋼板を用いて得たものである。ここで、C量とV量は、Cと(Ti+Mo+V)の原子数比がほぼ一定(約1.0〜1.1)となるよう、(C量,V量)=(0.11%,0.1%)、(0.13%,0.2%)、(0.15%,0.3%)として変化させた。また、熱延鋼板の析出V量は抽出残渣の定量分析により測定し、
Vの析出率(%)=(析出V量(mass%)/V添加量(mass%))×100
として求めた。
【0040】
図1に示すように、V添加量が増加するに従い、Vの析出率、すなわち添加されたVの中で析出物を実際に形成するVの比率が大きくなり、V>0.15%でVの析出率>50%と、非常に良好な析出効率となる。なお、これら鋼板の鋼組織は、フェライト単相組織であることを確認した。また、このように良好な析出効率を得たときの析出物の一例を図2に示す。図2の左側は、析出物を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。また、図2の右側は、析出物中のTi、Mo、Vのエネルギー分散型X線分光装置(EDX)による計測結果を示す図である。なおこれらの析出物が炭化物を主体とすることはX線回折ピークの位置等から確認した。この結果は、C:0.15%、Si:0.01%、Mn:1.35%、P:0.01%、S:0.001%、Al:0.05%、N:0.003%、Mo:0.32%、Ti:0.16%、V:0.3%とした鋼を素材とし、仕上圧延終了温度920℃、巻取温度620℃として熱間圧延を行って製造された熱延鋼板を用いて得たものである。また、析出物の観察は、得られた熱延鋼板を酸洗後、鋼板から薄膜を作製し、TEMによって観察したものであり、析出物中のTi、Mo、Vの組成はTEMに装備されたEDXによる分析から決定した。図2の分析結果では、Ti:Mo:Vは原子比で1.2:0.9:1.9であり、したがって、V/(Ti+Mo+V)は0.48であった。
【0041】
このような実験結果を基に、発明者らがさらに検討した結果、鋼中にVを0.15%を超えて含有させて非常に良好な析出効率とすることにより、前述のように、炭化物の平均組成が原子%で表されるTi、Mo、VがV/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たすようになり、Ti、Moと微細な複合炭化物を形成し、優れた伸びや伸びフランジ性を確保しつつ鋼を強化することができることが判明した。また、鋼中にVを0.2%以上含有させることにより、炭化物の平均組成においてTi:Mo:Vの原子比がTi=0.6〜1.4、Mo=0.6〜1.4、V=1.4〜2.8、ただしTi+Mo+V=4となる条件を安定して満たすようになり、より効率よく高張力化することができることも判明した。したがって、Vの含有量は0.15%超が好ましく、0.20%以上がより好ましい。しかし、Vの含有量が1.2%を超えると中心偏析が強く現れるようになり、伸びや靭性の低下を招くため、1.2%以下が好ましい。より好ましくは0.8%以下である。したがってV含有量は0.15超〜1.2%が好ましく、0.2〜0.8%がより好ましい。一層好ましい下限値は0.3%である。なお、Vを1.2%含有させた場合でもスラブ加熱温度は1200℃程度の通常温度とすれば炭化物が完全に溶解する。
【0042】
なお、Ti、Mo、Vの好適な添加量の範囲は上記の通りであるが、目標とする炭化物の平均組成における好ましいTi:Mo:Vの原子比であるTi=0.6〜1.4、Mo=0.6〜1.4、V=1.4〜2.8、ただしTi+Mo+V=4に対応する添加量比で添加することがより好ましい。
【0043】
また、重量%を原子比に換算するには、Ti,Mo、Vをそれぞれ原子量(48,96,51)で除算して比率をとればよい。ただし鋼組成で上記比を満足しなくても、直ちに微細炭化物中の原子比が好適範囲を外れるわけではない。
【0044】
0.8≦(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}≦1.5
(ただし、式中のC、Ti、Mo、Vは各成分の質量%を表す)
本発明においてC、Ti、Mo、Vの添加バランスは非常に重要である。理論的には、鋼中のCと(Ti、Mo、V)との原子数比が1、すなわち(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}=1の場合、炭素が過不足なく複合炭化物として析出することが期待されるが、本発明者らの調査によれば、上記した所定範囲のC、Ti、Mo、V含有量とした上で、(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}を0.8〜1.5とすることにより、Ti、Mo、VがV/(Ti+Mo+V)≧0.3を満たす組成を有する多量の炭化物を、フェライト中に微細に、すなわち、平均粒径10nm未満として微細に分散析出しやすくすることができることが判明した。(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}が0.8未満では、析出物が粗大となって980MPa以上の強度が安定して得られなくなり、(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}が1.5超えでは、Cが過剰となってパーライトを生じるため成形性が低下する。より好ましい範囲は0.8〜1.3である。なお、C含有量が過剰な場合も炭化物は粗大化する傾向にある。
【0045】
その他の成分
高張力鋼板においては、他の炭化物形成元素、例えばNb、W等を添加することがある。しかし本発明の場合は炭化物中の最適なTi、Mo、Vバランスを崩す可能性があるので、これらの添加は避け、その含有量は不純物として許容される範囲とすることが好ましい。特にNbは熱間圧延荷重を増大させて薄物の製造を困難にするほか、本発明の鋼組成においてはCの粗大化を促進して強度を低下させる可能性がある。したがって、Nbは0.02%以下とすることが好ましく、0.003%以下とすることがさらに好ましい。Wも0.02%以下とすることが好ましく、0.005%以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の鋼板の化学組成における残部は鉄及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては、上記の他、Cr、Cu、Sn、Ni、Ca、Zn、Co、B、As、Sb、Pb、Se等が挙げられる。Crは1%以下の含有が許容されるが、好ましくは0.6%以下、より好ましくは0.1%以下である。他の各元素は0.1%以下の含有が許容されるが、好ましくは0.03%以下である。
【0047】
[製造方法]
本発明では、上記成分組成を有する鋼を溶製して、鋼片(インゴット、スラブ、薄スラブを含む)とし、仕上圧延終了温度880℃以上、巻取温度570℃以上の条件で熱間圧延を行う。
【0048】
本発明の鋼板の板厚、すなわち熱間圧延後の板厚は、1.4〜5.0mm程度が好適であるが、特に従来困難であった板厚2.5mm以下の薄物の製造についても、本発明の鋼板は問題なく適用できる。また、980MPa以上の引張強度を有する2.5mm以下の薄物熱延鋼板を製造するに当たって、本願は強度を担う析出物を圧延後に析出させる。このため、圧延中は鋼が軟質であり、圧延に関する設備負担を特に増大させることなく、製造することができる。
【0049】
・鋼片加熱条件
鋼スラブなどの鋼片は一旦冷却後、所定の温度(いわゆるスラブ加熱温度)に再加熱してから熱間圧延を施してもよいし、また、鋼片が前記所定の温度より低温となる前に直ちに熱間圧延を行ってもよい。さらに、鋼片が冷め切る前に前記所定の温度まで短時間の加熱を行い、熱間圧延を施してもよい。スラブ加熱温度は炭化物を再固溶させるため(あるいは析出させないため)、1150℃〜1280℃程度が好適である。なお、本発明の鋼組成の場合、類似成分の従来鋼(Ti炭化物系、Ti−Mo炭化物系)よりは低いスラブ加熱温度温で再固溶を達成できる。
【0050】
・仕上圧延終了温度:880℃以上
仕上圧延終了温度は伸びおよび伸びフランジ性の確保と圧延荷重の低減に重要である。880℃未満では表層が粗大粒となり伸びおよび伸びフランジ性が損なわれる。また、未再結晶で圧延が進行するために起こる歪みの蓄積量が増大し、圧延荷重が著しく増大することで薄物の熱間圧延が困難となる。このため仕上圧延終了温度は、880℃以上とする。なお、本発明の鋼組成の場合、類似成分の従来鋼(Ti炭化物系、Ti−Mo炭化物系)よりは低い仕上圧延終了温度で強度を確保することができる。また、このため、これらの従来鋼で困難な薄物の製造が容易である。仕上圧延終了温度の上限はとくに定める必要はない。ただし、高温で仕上げると結晶粒が粗大化するので、結晶組織の強度が低下し、微細炭化物等による強化が余分に必要となる。この観点から、圧延終了温度は1000℃以下とすることが好ましい。
【0051】
・巻取温度570℃以上
フェライト組織を得るため、また、十分な炭化物の析出を確保するため、さらにランナウトテーブル上での注水量を抑えて薄物を安定通板させるため、巻取温度は570℃以上とする。ランナウトテーブル上の鋼板の走行安定性を確保するには600℃以上が好ましい。なお、パーライトの生成を抑制するためには、巻取温度は700℃以下とするのが望ましい。所定の組成の鋼について、以上の熱延条件を満足することにより、析出した炭化物の平均組成において、V/(Ti+Mo+V)≧0.3や炭化物の平均組成においてTi:Mo:Vの原子比がTi=0.6〜1.4、Mo=0.6〜1.4、V=1.4〜2.8、ただしTi+Mo+V=4を満足させ、また平均粒径10nm未満が達成される。
【0052】
本発明の高張力鋼板には、表面に表面処理や表面被覆処理を施したものを含む。特に、本発明の鋼板は溶融亜鉛系めっき皮膜を形成し、溶融亜鉛めっき系鋼板としたものに好適に適用できる。すなわち、本発明の高張力鋼板は良好な加工性を有することから、溶融亜鉛系めっき皮膜を形成しても良好な加工性を維持できる。ここで、溶融亜鉛系めっきとは、亜鉛および亜鉛を主体とした(すなわち約80質量%以上含有する)溶融めっきであり、亜鉛のほかにAl、Crなどの合金元素を含んだものも含む。また、溶融亜鉛系めっきを施したままでも、めっき後に合金化処理を行ってもかまわない。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
表1に示す化学成分を有する鋼片を、1250℃に加熱し、通常の熱間圧延工程によって仕上げ圧延終了温度880〜930℃で、板厚3.5mmに仕上げた。この後、600℃を超える巻取温度で、冷却速度と巻取温度を変化させて、種々の組織の鋼板を製造した。なお、表1中、A値は、上記(I)式の(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}の値を示す。
【0054】
得られた鋼板を酸洗後、鋼板の板厚の1/8,1/4,3/8,1/2位置から採取して作製した薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM)によって組織観察を行うとともに、析出物のサイズを測定した。なお、組織観察は主に倍率5000〜10000倍、析出物観察は主に260000〜340000倍にて行った。析出物中のTi、Mo、Vの組成は340000倍での観察においてTEMに装備されたエネルギー分散型X線分光装置(EDX)による分析から決定し、析出物のV比率(原子比)=V/(Ti+Mo+V)(式中、Ti,Mo,Vは原子%)およびTi:Mo:Vの原子比を求めた。また、得られた鋼板の板厚方向断面について走査型電子顕微鏡(SEM)でもTEM観察を行った板厚位置について組織観察を1000倍〜5000倍で行い、TEMでの組織観察結果を確認した。
【0055】
ここで、析出物は、粒径が100nm以下のものをランダムに30個選択し、各々について粒径およびTi、Mo、Vの含有量を測定した。粒径は340000倍の観察結果をもとに円近似を用いた画像処理で求め、上記30個の算術平均を平均粒径とした。V比率およびTi:Mo:Vの値については、Ti、Mo、Vの含有量を上記30個の算術平均により求めて平均組成とし、これを元に算出した。このように粒径が100nm以下の析出物について得た平均粒径、平均組成を、Ti、MoおよびVを含む炭化物の平均粒径、平均組成とした。
【0056】
また、得られた鋼板からJIS5号引張試験片および穴広げ試験片を採取した。引張試験片は圧延垂直方向から採取した。穴広げ試験は130mm角の鋼板の中央に10mmφのポンチにより、クリアランス(片側)を板厚の12.5%として打ち抜いた穴を有する試験片を準備し、60°円錐ポンチにより打ち抜き穴のバリ側の反対方向から押し上げ、割れが鋼板を貫通した時点での穴径d(mm)を測定し、穴広げ率λを次式より算出した。
λ(%)={(d−10)/10}×100
表2に、組織、析出物平均粒径、析出物の組成(V比率)、Ti:Mo:Vの原子比、引張強度(TS)、伸び(El)、穴広げ率(λ)を記載する。
【0057】
表2に示す通り、本発明鋼のNo.1〜5はいずれもフェライト組織からなり、析出物の平均粒径は10nm未満で、析出物の組成(V比率)は0.3以上となっており、引張強度(TS)が980MPa以上で優れた伸びと伸びフランジ性を有していることが確認された。
【0058】
これに対して、比較例であるNo.6は、C量ならびにV量が少ないため、鋼の強化に必要な析出物の量が少なく、引張強度(TS)が980MPa未満となっている。No.7は、C量が多すぎ、またMo量が少ないため、パーライトが生成し、かつ析出物が粗大化しており、伸びおよび伸びフランジ性がともに低い。また、No.8は、V量が多く、析出物が粗大化しており、かつマルテンサイトが生成しているため、伸びおよび伸びフランジ性がともに低い。No.9は、Ti量、V量が少ないため、鋼の強化に必要な析出物が不足して引張強度(TS)が980MPa未満となっている。
【0059】
【表1】


【0060】
【表2】


【0061】
(実施例2)
化学成分が質量%で、C:0.150%、Si:0.02%、Mn:1.34%、P:0.010%、S:0.0008%、Al:0.043%、N:0.0032%、Mo:0.32%、Ti:0.15%、V:0.30%である鋼(A値:(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}=1.01)を溶製し鋼スラブとした。次いで、オーステナイト域(1250℃)に加熱後、熱間圧延を行い、表3に示す温度で圧延を完了した。圧延後は表3に示す巻取温度まで冷却し、該巻取温度で巻き取った。表3には板厚も同時に記載した。なお、表3に示す鋼No.10〜16は全て同一の化学成分とした。得られたコイルの幅方向中央部からサンプルを採取し、引張方向が圧延方向と垂直になるようにJIS5号引張試験片を採取し、引張試験を行った。また、同じ位置から採取したサンプルから、実施例1と同様の方法で析出物の調査を行い、鋼組織も観察した。さらに圧延後の板形状を目視で判定した。その結果も表3に併記する。なお、圧延後の板形状の評価基準は、目視でフラットな場合を○、波うちが顕著な場合を×とした。さらにまた析出物の組成(V比率)、Ti:Mo:Vの原子比を表3に併記する。
【0062】
すなわち表3は、同一化学成分の1180MPa級鋼板において、板厚と、仕上圧延終了温度および巻取温度を変化させた例を示すものである。仕上圧延終了温度880℃以上、巻取り温度570℃以上を確保している鋼No.10〜14では、板厚に関わらず、平均粒径10nm未満の析出物が生成しており、目標の引張強度(TS)と伸びが達成された。また板形状も良好であった。なお、これらの鋼板は、組織観察の結果、フェライト単相組織であることを確認した。一方、比較鋼のNo.15は仕上圧延終了温度が低かったため表層部で結晶粒が粗大化し、さらに析出物も粗大化したため、目標の強度を満たさず、伸びも低かった。板形状も波打ちが顕著であった。No.16は巻取温度が低かったため、鋼の強化に必要な析出物が不足して引張強度(TS)が目標に達せず、また波打ちが顕著であった。なお、鋼No.10〜14では析出物の個数は1μm当たり約1×10個程度であり、No.15および16では2.5〜4×10個程度と概算される。
【0063】
【表3】


【0064】
(実施例3)
表4に示す化学成分を有する鋼片に対して仕上圧延終了温度920℃以上、巻取温度620℃で熱間圧延を施し、板厚1.6mmの熱延鋼板を製造した。なお、鋼片の加熱温度は1250℃とした。これら熱延鋼板を酸洗後、亜鉛をめっき浴とする溶融亜鉛めっきを施した後、合金化処理を施し、合金化溶融亜鉛めっき鋼板とした。実施例1と同様に、得られた鋼板から作製した薄膜について、透過型電子顕微鏡(TEM)によって組織観察を行うとともに、析出物のサイズを測定し、さらに析出物中のTi、Mo、Vの組成をTEMに装備されたエネルギー分散型X線分光装置(EDX)による分析から決定した。なお、実施例1と同様に組織観察の結果はSEMにて確認した。また、これらめっき鋼板からJIS5号引張試験片および穴広げ試験片を採取し、引張試験および穴広げ試験を行った。なお、表4中のA値も表1と同様、(I)式の(C/12)/{(Ti/48)+(Mo/96)+(V/51)}の値を示す。表5に、組織、析出物平均粒径、析出物の平均組成(V比率)、Ti:Mo:Vの原子比、引張強度(TS)、伸び(El)、穴広げ率(λ)を記載する。
【0065】
表5に示すように、本発明例であるNo.17は溶融亜鉛めっきを行っても伸び、伸びフランジ性ともに良好な値を示すのに対し、比較例のNo.18は析出物が粗大化し、また析出物にVがほとんど含まれていないため、伸び、伸びフランジ性ともに低かった。
【0066】
【表4】


【0067】
【表5】


【0068】
(実施例4)
表6に示す化学成分を有する鋼片を、1250℃に加熱し、通常の熱間圧延工程によって仕上圧延終了温度880〜930℃で、板厚2.5mmに仕上げ、620℃にてコイルに巻取った。なお、表記以外の成分については、質量%でSi:0.001〜0.15%、S:0.0005〜0.005%、Al:0.01〜0.06%、N:0.0005〜0.006%の範囲内とした。得られた鋼板を酸洗後、実施例1と同様の方法で、微細炭化物および鋼板の特性(機械的特性および加工性)を調査した。調査の結果を表7に示す。
【0069】
炭素量を一定とし、A値が好適範囲を外れない範囲で、Ti、Mo、Vのいずれか1種類の含有量を変化させた、No.21〜27(V変化)、No.28〜32(Mo変化)およびNo.33〜36および30(Ti変化)を調査した結果から、Ti、Mo、Vの全てを発明範囲内とすることにより、980MPa以上の高強度および伸び・伸びフランジ性を兼ね備えた、極めて優れた鋼板を得ることができることがわかる。また、これらの条件で製造された鋼の微細炭化物の調査結果から、V比率およびTi:Mo:Vが好適な範囲にあり、その結果Ti、Mo、Vが微細に析出することで、特に加工性を劣化させずに高張力化に効果的であることが理解される。なお、V添加量については、0.20%以上とすることで(No.22)、0.20%未満の発明例(例えばNo.23)よりさらに顕著な高強度化が得られる一方、伸びや伸びフランジ性はほとんど劣化しなかった。
【0070】
また、鋼の化学成分におけるTi、Mo、Vの比をほぼ一定とし、かつ、A値をほぼ一定とした条件でC量を変化させたNo.37〜41、および、鋼の化学成分におけるTi、Mo、Vの比をほぼ一定とし、かつ、Cを一定とした条件でA値を変化させたNo.42〜46の結果から、C量やA値も好適条件を満たすことが好ましいことがわかる。
【0071】
さらに、No.47〜50からわかるように、P量やMn量により鋼板の引張強度をさらに若干調整することができる。
【0072】
これに対し、V量、Ti量あるいはC量が不足したNo.24、36および37では炭化物量不足が原因と思われる鋼板強度不足を生じる。またC量が過剰でパーライト化が進んだNo.41においても炭化物量不足が原因と思われる鋼板強度不足を生じていた。さらに、Mo量が不足あるいはTi量が過剰であるNo.32および33は炭化物が粗大化し、やはり強度が不足した。さらにまた、A値が適正値を外れた場合(No.42および46)も、炭化物不足が原因と思われる鋼板強度の不足が発生した。さらにまた、TiあるいはMoが過剰に添加されたNo.27および28においては伸びや伸びフランジ性が著しく低下した。
【0073】
【表6】


【0074】
【表7】


【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、Ti、Moに加えてVを適正なバランスで添加して、Ti、MoおよびVを含む微細な炭化物を分散析出させることにより、加工性に優れた高張力鋼板が得られる。また、本発明によれば、加工性の指標である伸びと伸びフランジ性がともに優れ、980MPa以上の高強度の高張力熱延鋼板が提供される。このような鋼板は、自動車用部材のようにプレス時の断面形状が複雑な用途に適している。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】Vの添加量と析出効率の関係を示すグラフ。
【図2】本発明で得られたTi、Mo、Vを含む微細な炭化物の一例(透過型電子顕微鏡による観察結果)。




 

 


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