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発明の名称 加工性に優れた高炭素冷延鋼板およびその製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−31762(P2007−31762A)
公開日 平成19年2月8日(2007.2.8)
出願番号 特願2005−215527(P2005−215527)
出願日 平成17年7月26日(2005.7.26)
代理人 【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
発明者 木村 英之 / 藤田 毅 / 中村 展之 / 飯塚 俊治 / 角田 浩之
要約 課題
長時間を要する多段階焼鈍を用いることなく製造できる、加工性に優れた高炭素冷延鋼板を提供する。

解決手段
所定の成分からなり、フェライト平均粒径が2.0μm以上、炭化物平均粒径が0.10μm以上2.0μm未満、粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率が50%以上である組織を有する高炭素冷延鋼板。前記高炭素冷延鋼板は、上記の組成を有する鋼を、(Ar3変態点-20℃)以上の仕上温度で熱間圧延し、次いで、120℃/秒超えの冷却速度で500℃以上650℃以下の冷却停止温度まで1次冷却し、次いで、2次冷却により500℃以上650℃以下の温度に保持した後、600℃以下の温度で巻取り、酸洗後、600℃以上Ac1変態点以下の温度で球状化焼鈍した後、30%以上の冷圧率で冷間圧延を行い、600℃以上Ac1変態点以下の温度で再結晶焼鈍することにより製造される。
特許請求の範囲
【請求項1】
質量%で、C:0.2〜0.7%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.1〜0.9%、P:0.03%以下、S:0.035%以下、Al:0.08%以下、N:0.01%以下、Cr:0.05〜0.30%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
フェライト平均粒径が2.0μm以上、炭化物平均粒径が0.10μm以上2.0μm未満、粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率が50%以上である組織を有することを特徴とする加工性に優れた高炭素冷延鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、B:0.0005〜0.0030%、Mo:0.005〜0.5%、Ti:0.005〜0.05%、Nb:0.005〜0.1%の一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の加工性に優れた高炭素冷延鋼板。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の組成を有する鋼を、
(Ar3変態点-20℃)以上の仕上温度で熱間圧延し、
次いで、120℃/秒超えの冷却速度で500℃以上650℃以下の冷却停止温度まで1次冷却し、次いで、2次冷却により500℃以上650℃以下の温度に保持した後、
600℃以下の温度で巻取り、
酸洗後、600℃以上Ac1変態点以下の温度で球状化焼鈍した後、30%以上の冷圧率で冷間圧延を行い、
600℃以上Ac1変態点以下の温度で再結晶焼鈍する
ことを特徴とする加工性に優れた高炭素冷延鋼板の製造方法。

発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れた高炭素冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工具あるいは自動車部品(ギア、ミッション)等に使用される高炭素鋼板は、打抜き、成形後、焼入れ焼戻し等の熱処理が施される。これらの部品加工を行うユーザの要求の1つとして、複雑形状に成形するための延性の指標である伸び特性と、打抜き後の成形における穴拡げ加工(バーリング)性の向上がある。これらのうち、穴拡げ加工性は、伸びフランジ性で評価されている。そのため、延性と同時に伸びフランジ性の優れた材料が望まれている。
【0003】
このような高炭素鋼板の伸びフランジ性の向上については、いくつかの技術が検討されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、冷間圧延を経たプロセスにおいて、伸びフランジ性に優れた中・高炭素鋼板を作る方法が提案されている。この技術は、C:0.1〜0.8質量%を含有する鋼からなり、金属組織が実質的にフェライト+パーライト組織であり、必要に応じて初析フェライト面積率がC(質量%)により決まる所定の値以上、パーライトラメラ間隔が0.1μm以上の熱延鋼板に、15%以上の冷間圧延を施し、次いで、3段階又は2段階の温度範囲で長時間保持する3段階又は2段階焼鈍を施すというものである。
【0004】
また、特許文献3には、Cを0.2〜0.7質量%含有する鋼を、仕上温度(Ar3変態点-20℃)以上で熱間圧延した後、冷却速度120℃/秒超かつ冷却停止温度650℃以下で冷却を行い、次いで巻取温度600℃以下で巻取、酸洗後、焼鈍温度600℃以上Ac1変態点以下で焼鈍し、冷圧率30%以上で冷間圧延を行い、焼鈍温度600℃以上Ac1変態点以下で焼鈍するというものである。金属組織については、炭化物平均粒径を0.1μm以上2.0μm未満、炭化物を含まないフェライト粒の体積率を15%以下に制御することを特徴としている。
【特許文献1】特開平11-269552号公報
【特許文献2】特開平11-269553号公報
【特許文献3】特開2003-13144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の技術では、フェライト組織が初析フェライトからなり、初析フェライトと球状化炭化物を含むフェライトでは変形量が大きく異なる。そのため、引張試験時にこれら変形量が大きく異なる粒の粒界に応力が集中し、球状化組織とフェライトの界面にボイドが発生し、破断するため、延性が劣化する。また、伸びフランジ性に関しても、打抜き加工時に打抜き端面近傍では、初析フェライトと球状化炭化物を含むフェライトでは、変形量が大きく異なるため、球状化組織と初析フェライトの界面にボイドが発生し、これがクラックに成長するため、伸びフランジ性が劣化する。
【0006】
この対策として、球状化焼鈍を強化することにより、全体として軟質化させることが考えられる。しかし、その場合は製造工程が長くなり、コストが増大するという問題がある。
【0007】
特許文献3に記載の技術では、冷却後に変態発熱を生じて温度が上昇し、初析フェライトの析出およびパーライト変態が進行し、炭化物の粗大化や不均一分散を生じ、特性の劣化を招きやすい。
【0008】
また、最近では従来にもまして、生産性の向上の観点から、加工レベルに対する要求が厳しくなっている。そのため、高炭素鋼についても、加工度の増加等により、延性および穴拡げ性に優れた材料が求められている。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑み、長時間を要する多段階焼鈍を用いることなく製造できる、加工性に優れた高炭素冷延鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、高炭素鋼板の延性および伸びフランジ性に及ぼす組成およびミクロ組織の影響について鋭意研究を進める中でなされた。そして、その過程で、鋼板の延性および伸びフランジ性に大きな影響を及ぼす因子は、組成や炭化物の形状および量のみならず、炭化物の分散状態も大きな影響を及ぼしていることを見出した。
【0011】
さらに、炭化物の形状としては炭化物平均粒径、炭化物の分散状態としては粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率を、それぞれ制御することにより、高炭素鋼板の延性および伸びフランジ性が向上することがわかった。
【0012】
さらに、本発明では、この知見に基づき、上記組織を制御するための製造方法を検討し、加工性に優れた高炭素鋼板の製造方法を確立した。
【0013】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.2〜0.7%、Si:0.10〜0.35%、Mn:0.1〜0.9%、P:0.03%以下、S:0.035%以下、Al:0.08%以下、N:0.01%以下、Cr:0.05〜0.30%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、フェライト平均粒径が2.0μm以上、炭化物平均粒径が0.10μm以上2.0μm未満、粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率が50%以上である組織を有することを特徴とする加工性に優れた高炭素冷延鋼板。
[2]前記[1]において、さらに、質量%で、B:0.0005〜0.0030%、Mo:0.005〜0.5%、Ti:0.005〜0.05%、Nb:0.005〜0.1%の一種または二種以上を含有することを特徴とする加工性に優れた高炭素冷延鋼板。
[3]前記[1]または[2]のいずれかに記載の組成を有する鋼を、(Ar3変態点-20℃)以上の仕上温度で熱間圧延し、次いで、120℃/秒超えの冷却速度で500℃以上650℃以下の冷却停止温度まで1次冷却し、次いで、2次冷却により500℃以上650℃以下の温度に保持した後、600℃以下の温度で巻取り、酸洗後、600℃以上Ac1変態点以下の温度で球状化焼鈍した後、30%以上の冷圧率で冷間圧延を行い、600℃以上Ac1変態点以下の温度で再結晶焼鈍することを特徴とする加工性に優れた高炭素冷延鋼板の製造方法。
【0014】
なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、すべて質量%である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、成分組成および製造条件の制御のみならず、フェライト粒径、炭化物粒径、および炭化物の分散状態をも制御することで、プレス成形や穴拡げ加工におけるボイドの発生を抑制し、クラックの成長を遅くすることができる。その結果、加工性に優れた高炭素冷延鋼板が提供可能となる。
【0016】
本発明の高炭素冷延鋼板を用いることにより、ギアに代表される変速機部品等の加工において加工度を高くとることができ、その結果、複雑形状の成形を少ない工程で成形でき、製造工程の省略による低コストでの製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の高炭素冷延鋼板は、下記に示す成分組成に制御し、フェライト平均粒径が2.0μm以上、炭化物平均粒径が0.10μm以上2.0μm未満、粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率が50%以上である組織を有することを特徴とし、これらは本発明において最も重要な要件である。このように成分組成と金属組織(フェライト平均粒径)、炭化物の形状(炭化物平均粒径、)および炭化物の分散状態(粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒)を規定し、全てを満足することにより、加工性に優れた高炭素冷延鋼板を得ることができる。
【0018】
そして、上記高炭素冷延鋼板は、(Ar3変態点-20℃)以上の仕上温度で熱間圧延し、次いで、120℃/秒超えの冷却速度で500℃以上650℃以下の冷却停止温度まで1次冷却し、次いで、2次冷却により500℃以上650℃以下の温度に保持した後、600℃以下の温度で巻取り、酸洗後、600℃以上Ac1変態点以下の温度で球状化焼鈍した後、30%以上の冷圧率で冷間圧延を行い、600℃以上Ac1変態点以下の温度で再結晶焼鈍することにより製造することが可能となる。このように、熱間圧延後、1次冷却、2次冷却、巻取および焼鈍までの条件をトータルで制御することにより、本発明の目的が達成される。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明における鋼の化学成分の限定理由は以下の通りである。
(1)C:0.2〜0.7%
Cは、炭素鋼において最も基本になる合金元素である。その含有量によって、焼入れ硬さおよび焼鈍状態での炭化物量が大きく変動する。C含有量が0.2%未満の鋼では、自動車用部品等に適用する上で十分な焼入れ硬さが得られない。一方、C含有量が0.7%を超えると熱間圧延後の靭性が低下して鋼帯の製造性、ハンドリングが悪くなるとともに、加工度の高い部品への適用が困難となる。したがって、適度な焼入れ硬さと加工性を兼ね備えた鋼板を提供する観点から、C含有量は0.2%以上0.7%以下とする。
(2)Si:0.10〜0.35%
Siは、焼入れ性を向上させる元素である。Siが0.10%未満では焼入れ時の硬さが不足し、一方、Siが0.35%を超えると固溶強化により、フェライトが硬化し、延性および伸びフランジ性が劣化し、成形加工時に割れ発生の原因となる。したがって、適度な焼入れ硬さと加工性を兼ね備えた鋼板を提供する観点から、Si含有量は0.10%以上0.35%以下、好ましくは0.10%以上0.30%以下とする。
(3)Mn:0.1〜0.9%
Mnは、Siと同様に焼入れ性を向上させる元素である。また、SをMnSとして固定し、スラブの熱間割れを防止する重要な元素である。Mnが0.1%未満では、これらの効果が十分に得られず、また焼入れ性は大幅に低下する。一方、Mnが0.9%を超えると固溶強化により、フェライトが硬化し、加工性の劣化を招く。したがって、適度な焼入れ硬さと加工性を兼ね備えた鋼板を提供する観点から、Mn含有量は0.1%以上0.9%以下、好ましくは0.1%以上0.8%以下とする。
(4)P:0.03%以下
Pは粒界に偏析し、延性や靭性を劣化させるため、0.03%以下、好ましくは0.02%以下とする。
(5)S:0.035%以下
Sは、MnとMnSを形成し、延性および伸びフランジ性を劣化させるため、低減しなければならない元素であり、少ない方が好ましい。しかし、S含有量が0.035%までは許容できるため、S含有量は0.035%以下、好ましくは0.030%以下とする。
(6)Al:0.08%以下
Alは過剰に添加するとAlNが多量に析出し、焼入性を低下させるため、0.08%以下とす
る。
(7)N:0.01%以下
Nは過剰に含有している場合は延性の低下をもたらすため、0.01%以下とする。
(8)Cr:0.05〜0.30%
Crは熱間圧延後の冷却中の初析フェライトの生成を抑制し、延性および伸びフランジ性を向上させ、かつ焼入れ性を向上させる重要な元素である。しかし、Cr含有量が0.05%未満では十分な効果が得られない。一方、0.30%を超えて含有しても、焼入れ性は向上するが、初析フェライト生成の抑制効果が飽和するとともに、コスト増となる。したがって、Cr含有量は0.05%以上0.30%以下とする。
【0021】
また、本発明鋼は、上記の必須添加元素で目的とする特性が得られるが、上記の必須添加元素に加えて、熱延冷却時の初析フェライト生成の抑制、焼入れ性の向上のためB、Mo、Ti、Nbを必要に応じて1種または2種以上で添加してもよい。その場合、それぞれの添加量が0.0005%未満、0.005%未満、0.005%未満、0.005%未満では添加の効果が十分に得られない。一方、B、Mo、Ti、Nbが、それぞれ0.0030%、0.5%、0.05%、0.1%を超えると、効果が飽和し、コスト増となり、さらに固溶強化、析出強化等により強度上昇が大きくなるため、加工性が劣化する。したがって、これらの元素を添加する場合は、Bは0.0005%以上0.0030%以下、Moは0.005%以上0.5%以下、Tiは0.005%以上0.05%以下、Nbは0.005%以上0.1%以下とする。
【0022】
なお、上記以外の残部はFe及び不可避不純物からなる。不可避的不純物として、例えば、Oは非金属介在物を形成し品質に悪影響を及ぼすため、0.003%以下に低減するのが望ましい。また、本発明では、本発明の作用効果を害さない微量元素として、Cu、Ni、W、V、Zr、Sn、Sbを0.1%以下の範囲で含有してもよい。
【0023】
次に、本発明の鋼板の組織について説明する。
(1)フェライト平均粒径:2.0μm以上
フェライト平均粒径(フェライト粒の平均粒径)が2.0μm未満の微細粒となると強度上昇が顕著となり、プレス加工時の負荷が増大する。また、強度の上昇にともない、延性の低下を招き、加工性が劣化する。以上の理由により、フェライト平均粒径は2.0μm以上とする。一方、フェライト平均粒径の上限は特に規定しないが、10μm超えでは、打抜き端面性状およびプレス加工後の表面性状が劣化するため、10μm以下とすることが好ましい。なお、フェライト平均粒径は、後述のように製造条件、特に熱間圧延後の1次冷却停止温度、2次冷却保持温度および巻取温度により、制御することができる。
(2)炭化物平均粒径:0.10μm以上2.0μm未満
炭化物平均粒径は、加工性一般および穴拡げ加工におけるボイドの発生に大きく影響するため、重要な要素である。炭化物が微細になるとボイドの発生は抑制できるが、炭化物平均粒径が0.10μm未満では、硬さの上昇に伴い延性が低下し、伸びフランジ性も劣化する。一方、炭化物平均粒径の増加にともない加工性一般は向上するが、2.0μm以上になると、穴拡げ加工におけるボイドの発生により伸びフランジ性が劣化する。以上より、炭化物平均粒径は0.10μm以上2.0μm未満とする。なお、炭化物平均粒径は、後述のように製造条件、特に熱間圧延後の1次冷却停止温度、2次冷却保持温度、巻取温度、そして焼鈍条件により、制御することができる。
(3)粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率が50%以上
炭化物の分散状態は、加工性一般および穴拡げ加工におけるボイドの発生に大きく影響するため、重要な要素である。粒内炭化物の体積率が10%超えであるフェライト粒、すなわち、フェライト粒内に炭化物が微細分散したフェライト粒は、引張変形および穴拡げ加工時にフェライトと炭化物の界面にボイドが発生しやすく、また、炭化物の粒子間距離が短いために、発生したボイドが連結しやすい。さらに、炭化物が微細分散することで、硬さの上昇が著しく、延性や伸びフランジ性が劣位となる。さらに、粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率を50%以上とすることで、鋼板硬さが低下し、ボイドの発生およびボイドの連結が抑制され、延性および伸びフランジ性が大幅に向上する。よって、本発明では、粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率は50%以上とする。
【0024】
ここで、上記理由からフェライト粒内には炭化物を含まないことが好ましく、粒内炭化物を含まないフェライト粒の体積率を50%以上とすることが最も好ましい形態ではある。しかし、粒内炭化物の体積率が10%以下であれば、ボイドの発生および連結を抑制する効果は十分に得られ、かつ、炭化物の分散強化による硬さの上昇もなく、延性や伸びフランジ性が良好であり、粒内炭化物を含まない場合と実質的に同じとみなすことができる。なお、炭化物の分散状態、すなわち、粒内炭化物の体積率が10%以下のフェライト粒の体積率は、製造条件、特に圧延後の1次冷却停止温度、2次冷却保持温度、巻取温度、および焼鈍温度により制御することができる。
【0025】
なお、フェライト粒内の炭化物の体積率は、鋼板試料の板厚断面を研磨し、ナイタルで腐食後、走査電子顕微鏡で2000倍で、約3000個のフェライト粒を観察し、各フェライト粒についてのフェライトと粒内炭化物の面積比を求め、それを体積率とみなすことにより求めることができる。
【0026】
次に、本発明の加工性に優れた高炭素冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の高炭素冷延鋼板は、上記化学成分範囲に調整された鋼を、(Ar3変態点-20℃)以上の仕上温度で熱間圧延し、次いで、120℃/秒超えの冷却速度で500℃以上650℃以下の冷却停止温度まで1次冷却し、次いで、2次冷却により500℃以上650℃以下の温度に保持した後、600℃以下の温度で巻取り、酸洗後、600℃以上Ac1変態点以下の温度で球状化焼鈍し、30%以上の冷圧率で冷間圧延を行い、600℃以上Ac1変態点以下の温度で再結晶焼鈍することにより得られる。これについて以下に詳細に説明する。
(1)仕上げ温度:(Ar3変態点-20℃)以上
鋼を熱間圧延する際の仕上温度が(Ar3変態点-20℃)未満では、一部でフェライト変態が進行するため、初析フェライト粒が増加し、初析フェライトと球状化炭化物を含むフェライトの界面にボイドが発生しやすく、延性および伸びフランジ性が劣化する。以上の理由により、(Ar3変態点-20℃)以上の仕上温度で仕上圧延することとする。これにより、組織の均一化を図ることができ、延性や伸びフランジ性の劣化を抑制できる。仕上温度の上限は特に規定しないが、1000℃を超えるような高温の場合、スケール性欠陥が発生し易くなるため、1000℃以下が好ましい。なお、Ar3変態点(℃)は次の式(1)で算出することができる。
【0028】
Ar3=930.21-394.75C+54.99Si-14.40Mn+5.77Cr (1)
ここで、式中の元素記号はそれぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
【0029】
なお、圧延負荷の観点からは、仕上温度は高いほうがよく、700℃以上とすることが好ましく、750℃以上とすることがさらに好ましい。
(2)1次冷却速度:120℃/秒超え
熱間圧延後の1次冷却方法が徐冷であると、オーステナイトの過冷度が小さく初析フェライトが多く生成する。冷却速度が120℃/秒以下の場合、初析フェライトの生成が顕著となり、初析フェライトと球状化炭化物を含むフェライトの界面にボイドが発生しやすく、延性および伸びフランジ性が劣化する。また、パーライトのコロニーおよびラメラー間隔が増大し、球状化焼鈍時間の長時間化を招き、コストが増大する。従って、熱間圧延後の冷却の冷却速度は120℃/秒超とする。なお、冷却速度の上限は特に制限しないが、例えば、現状の設備上の能力からは700℃/秒である。
【0030】
ここで、冷却速度とは仕上圧延後の冷却開始から冷却停止までの平均冷却速度である。また、仕上圧延後、0.1秒を超え1.0秒未満の時間内で冷却を開始することは、変態後のフェライト結晶粒やパーライト等の析出物をより微細化し、加工性をより一層向上する上で好ましい。
(3)1次冷却停止温度:500℃以上650℃以下
熱間圧延後の1次冷却停止温度が650℃超えの場合、その後の冷却中にフェライトが生成しやすく、また、パーライトのコロニーおよびラメラ間隔が増大し、球状化焼鈍後に未球状炭化物が残存しやすい。この未球状炭化物は冷間圧延時に砕かれ、次に行われる再結晶焼鈍時のフェライトの再結晶を抑制し、微細粒となる。また、未球状炭化物の多くは粒内炭化物となる傾向にある。そして、このような細粒効果および炭化物の微細分散効果による強度上昇にともない、延性の低下を招き、加工性が劣化する。したがって、熱間圧延後の1次冷却停止温度は650℃以下とする。一方、1次冷却停止温度が500℃未満では、鋼板の形状が劣化し、また、等軸フェライト粒が得られず、加工性が劣化することがある。よって、1次冷却停止温度は500℃以上とする。
(4)2次冷却保持温度:500℃以上650℃以下
高炭素鋼板の場合、1次冷却停止温度後に、初析フェライト変態、パーライト変態、ベ
イナイト変態に伴い、鋼板温度が上昇することがあり、1次冷却停止温度が650℃以下であっても、1次冷却終了から、巻取までに温度が上昇した場合、フェライトが生成する
とともに、パーライトのラメラ間隔が粗大化する。そのため、球状化焼鈍後の未球状炭化物により、加工性が劣化する。また、1次冷却終了から、巻取までに温度が500℃未満になると、鋼板の形状が劣化し、また、等軸フェライト粒が得られず、加工性が劣化することがある。これらの理由から、2次冷却により、1次冷却終了から巻取までの温度を制御することは重要であり、1次冷却終了から巻取まで500℃以上650℃以下の温度で保持することとする。このように500℃以上650℃以下の温度で保持することにより、加工性の劣化を防止することができる。なお、この場合の2次冷却はラミナー冷却等により行うことができる。
(5)巻取温度:600℃以下
巻取温度が高いほど、パーライトのラメラ間隔が大きくなる。そのため、巻取温度が600℃超えでは、未球状炭化物が残存しやすく、これにより加工性が劣化することがある。したがって、巻取温度は600℃以下とする。なお、巻取温度の下限は特に規定しないが、低温になるほど鋼板の形状が劣化するため、200℃以上とすることが好ましい。
(6)酸洗:実施
巻取後の熱延鋼板は、冷間圧延を行う前にスケール除去のため、酸洗を施す。酸洗は常法にしたがって行えばよい。
(7)球状化焼鈍の焼鈍温度:600℃以上Ac1変態点以下
熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延を行うが、その前に炭化物を球状化するために焼鈍を行う。球状化焼鈍の温度が600℃未満の場合、炭化物の球状化が不十分となり、焼鈍の効果が得られない。一方、焼鈍温度がAc1変態点を超える場合、一部がオーステナイト化し、冷却中に再度パーライトを生成するため、球状化組織が得られない。以上の理由により、球状化焼鈍の温度は600℃以上Ac1変態点以下とする。なお、優れた加工性を得るには、焼鈍温度を680℃以上とすることが好ましい。また、Ac1変態点(℃)は次の式(2)で算出することができる。
【0031】
Ac1=754.83-32.25C+23.32Si-17.76Mn+17.13Cr (2)
ここで、式中の元素記号はそれぞれの元素の含有量(質量%)を表す。
(8)冷間圧延の圧下率:30%以上
冷間圧延を行うことにより、焼鈍時のフェライトの再結晶を助長し、フェライト粒が等軸となり、加工性が向上する。しかし、冷間圧延の圧下率が30%未満では上記効果が得られないばかりか、再結晶焼鈍後に未再結晶部が残存し、かえって加工性を劣化させる。よって、冷間圧延の圧下率は30%以上とする。なお、圧下率の上限は特に制約はないが、圧延負荷の問題から80%以下とすることが好ましい。
(9)再結晶焼鈍の焼鈍温度:600℃以上Ac1変態点以下
冷間圧延後、再結晶および炭化物の球状化促進のために焼鈍を行う。焼鈍温度が600℃未満の場合、再結晶が不十分となり、未再結晶部が残存するため、加工性が劣化する。また、炭化物の球状化が不十分あるいは炭化物平均粒径が0.1μm未満となり、加工性が劣化する。一方、焼鈍温度がAc1変態点を超える場合、一部がオーステナイト化し、冷却中に再度パーライトを生成するため、やはり加工性が劣化する。また、焼鈍温度を680℃以上とすることにより、炭化物の球状化率が高くなるため、高い伸び特性が得られる。また、より一層優れた加工性が得られる。以上の点から、より優れた加工性を得る場合には、焼鈍温度を680℃以上とすることが好ましい。また、Ac1変態点(℃)は上記式(2)で算出することができる。
【0032】
なお、本発明の高炭素鋼の成分調整には、転炉あるいは電気炉のどちらでも使用可能である。このように成分調整された高炭素鋼を、造塊−分塊圧延または連続鋳造により鋼素材である鋼スラブとする。この鋼スラブについて熱間圧延を行うが、その際、スラブ加熱温度は、スケール発生による表面状態の劣化を避けるため1300℃以下とすることが好ましい。
【0033】
なお、熱間圧延時に粗圧延を省略して仕上圧延を行ってもよく、連続鋳造スラブをそのまま又は温度低下を抑制する目的で保熱しつつ圧延する直送圧延を行ってもよい。また、仕上温度確保のため、熱間圧延中にバーヒータ等の加熱手段により圧延材の加熱を行ってもよい。なお、球状化促進あるいは硬度低減のため、巻取後にコイルを徐冷カバー等の手段で保温してもよい。
【0034】
再結晶焼鈍の後、必要に応じて調質圧延を行う。この調質圧延については焼入れ性には影響を及ぼさないことから、その条件に対して特に制限はない。
【0035】
このようにして得られた高炭素冷延鋼板が、優れた加工性を有する理由は次のように考えられる。延性および伸びフランジ性には、鋼板および打抜き端面の部分の内部組織が大きく影響する。特に、粒内炭化物の体積率が10%超えのフェライト粒が多い(粒内炭化物が分散した組織)場合、炭化物の粒子間距離が小さいため、発生したボイドの連結が速く、クラックの進展が速いことが確認されている。一方、粒内炭化物の体積率が10%以内のフェライト粒を50%以上とすることでクラックの進展が遅延することが確認されている。
【0036】
このように、製造条件の制御のみならず、炭化物平均粒径、および炭化物の分散状態を制御することにより、ボイドの連結、および成長を抑制することができる。
【実施例1】
【0037】
表1に示す化学成分を有する鋼の連続鋳造スラブを1250℃に加熱し、表2に示す条件にて熱間圧延、冷間圧延、および焼鈍を行い、板厚3.0mmの冷延鋼板を製造した。ここで、鋼板No.1〜6は製造条件が本発明範囲内の本発明例であり、鋼板No.7〜15は製造条件が本発明範囲から外れる比較例、鋼板No.16、17は鋼成分が本発明範囲から外れる比較例である。
【0038】
【表1】


【0039】
【表2】


【0040】
次に、上記により得られた冷延鋼板からサンプルを採取し、フェライト平均粒径、炭化物平均粒径ならびに分散状態を測定し、性能評価のため、硬度、伸び(JIS5号C方向)、および伸びフランジ性を測定した。それぞれの測定方法、および条件については以下の通りである。
<フェライト平均粒径>
サンプルの板厚断面での光顕組織から、JIS G 0552に記載の切断法により行った。
<炭化物平均粒径>
サンプルの板厚断面を研磨・腐食後、走査型電子顕微鏡にてミクロ組織を撮影し、50μm×50μmの範囲で炭化物粒径の測定を行った。
<炭化物の分散状態(粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率)>
サンプルの板厚断面を研磨・腐食後、走査型電子顕微鏡にて約2000倍で、約3000個のフェライト粒を観察し、各フェライト粒について、フェライトの面積と粒内炭化物の面積比により求めた。
<硬度>
試料の切断面をバフ研磨仕上げ後、板厚中央部にて荷重500gfの条件下でヴィッカース硬さ(Hv)を測定した。
<伸び(JIS5号C方向)>
圧延方向に対して90°の方向にJIS5号試験片を切り出した後、クロスヘッド10mm/min、標点間距離l0=50mmの条件下で引張試験を行い、試験後の標点間距離lを測定して、次式で定義される伸び量:Elを求めた。
【0041】
El=100×(l-l0)/l0
<伸びフランジ性>
サンプルを、ポンチ径d0=10mm、ダイス径10.46mm(クリアランス20%)の打抜き工具を用いて打抜き後、穴拡げ試験を実施した。穴拡げ試験は、円筒平底ポンチ(50mmφ、5R)にて押し上げる方法で行い、穴縁に板厚貫通クラックが発生した時点での穴径d1を測定して、次式で定義される穴拡げ率:λ(%)を求めた。
【0042】
λ=100×(d1-d0)/d0
以上の測定により得られた結果を表3に示す。なお、伸びフランジ性は穴拡げ率λで評価した。
【0043】
【表3】


【0044】
表3において、鋼板No.1〜6は製造条件が本発明範囲であり、フェライトの平均粒径が2.0μm以上、炭化物平均粒径が0.10μm以上2.0μm未満、粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率が50%以上の発明例である。
【0045】
一方、鋼板No.7〜15は製造条件が本発明範囲を外れた比較例、鋼板No.16、17は鋼成分が本発明から外れる比較例であり、鋼板No.9、11、14はフェライト平均粒径が2.0μm未満であり、鋼板No.7は炭化物平均粒径が下限0.10μm未満、鋼板No.8〜10、12〜17は粒内炭化物の体積率が10%以下であるフェライト粒の体積率が50%未満であり、いずれも本発明の範囲外である。
【0046】
表3より、本発明例1〜6は、比較例7〜15に比べて、それぞれ同じ鋼種において、延性(El)、穴拡げ率(λ)ともに向上しており、優れた加工性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の冷延鋼板は、自動車部品以外にも、延性(El)、優れた加工性(伸び及び伸びフランジ性)が要求される用途に対しても好適である。




 

 


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