米国特許情報 | 欧州特許情報 | 国際公開(PCT)情報 | Google の米国特許検索
 
     特許分類
A 農業
B 衣類
C 家具
D 医学
E スポ−ツ;娯楽
F 加工処理操作
G 机上付属具
H 装飾
I 車両
J 包装;運搬
L 化学;冶金
M 繊維;紙;印刷
N 固定構造物
O 機械工学
P 武器
Q 照明
R 測定; 光学
S 写真;映画
T 計算機;電気通信
U 核技術
V 電気素子
W 発電
X 楽器;音響


  ホーム -> 化学;冶金 -> JFEスチール株式会社

発明の名称 耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材ならびにその製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−9324(P2007−9324A)
公開日 平成19年1月18日(2007.1.18)
出願番号 特願2006−145407(P2006−145407)
出願日 平成18年5月25日(2006.5.25)
代理人 【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
発明者 長尾彰英 / 大井健次 / 林 謙次
要約 課題
引張強度が600MPa以上の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材ならびにその製造方法を提供。

解決手段
質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、P:0.03%以下、S:0.03%以下を含有し、かつMo、Nb、V、Tiの一種または二種以上を含有し、必要に応じて、Cu、Ni、Cr、W、B、Ca、REM、Mgの一種または二種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物で、Mo、Nb、V、Tiの一種または二種以上を含有する平均粒子径20nm以下の析出物を5個/250000nm以上鋼中に含み、ミクロ組織が、残留オーステナイトを0.5〜5%の体積分率で含む。
特許請求の範囲
【請求項1】
質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、P:0.03%以下、S:0.03%以下を含有し、かつMo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%から選ばれる一種または二種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物で、Mo、Nb、V、Tiから選ばれる元素の一種または二種以上を含有する平均粒子径20nm以下の析出物を5個/250000nm以上鋼中に含むことを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
【請求項2】
更に、鋼組成が、質量%で、Cu:2%以下、Ni:4%以下、Cr:2%以下、W:2%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
【請求項3】
更に、鋼組成が、質量%で、B:0.003%以下、Ca:0.01%以下、REM:0.02%以下、Mg:0.01%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
【請求項4】
質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、P:0.03%以下、0.0004%≦S≦0.0025%、0.0010%≦Ca≦0.0030%、0.0008%≦O≦0.0030%およびMo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%から選ばれる一種または二種以上を含有し、かつ下記式で求められるACRが0.2≦ACR<1.0を満足し残部がFeおよび不可避的不純物で、Mo、Nb、V、Tiから選ばれる元素の一種または二種以上を含有する平均粒子径20nm以下の析出物を5個/250000nm以上鋼中に含むことを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/1.25/S
ただし、Ca、O、Sは各成分の含有量(mass%)
【請求項5】
更に、鋼組成が、質量%で、Cu:2%以下、Ni:4%以下、Cr:2%以下、W:2%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする、請求項4に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
【請求項6】
更に、鋼組成が、質量%で、B:0.003%以下、REM:0.02%以下、Mg:0.01%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする、請求項4または5に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
【請求項7】
ミクロ組織が、残留オーステナイトを0.5〜5%の体積分率で含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一つに記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れか一つに記載の成分組成を有する鋼をAr変態点以上の温度から500℃以下の温度まで焼入れた後、焼戻し開始温度から所定の焼戻し温度までの鋼材中心部の平均昇温速度を1℃/s以上として焼戻すことを特徴とする、耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材の製造方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材ならびにその製造方法に関し、特に引張強度が600MPa以上の耐遅れ破壊特性に優れる高張力鋼材として好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建設産業機械・タンク・ペンストック・ラインパイプ等の鋼材使用分野では、構造物の大型化を背景として、使用する鋼材の高強度化が指向されると共に、鋼材使用環境の苛酷化が進んでいる。
【0003】
しかし、このような鋼材の高強度化および使用環境の苛酷化は、一般的に鋼材の水素脆性感受性を高めることが知られており、例えば高力ボルトの分野ではJIS B 1186にてF11T級ボルト(引張強さ1100〜1300N/mm)についてはなるべく使用しないとの記載がなされている等、高強度鋼材の使用は限定的である。
【0004】
このため、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5等で、成分の適正化、粒界強化、結晶粒の微細化、水素トラップサイトの活用、組織形態制御、炭化物の微細分散化等の様々な技術を利用する、耐水素脆性特性に優れた鋼板の製造方法が提案されてきた。
【特許文献1】特開平3−243745号公報
【特許文献2】特開2003−73737号公報
【特許文献3】特開2003−239041号公報
【特許文献4】特開2003−253376号公報
【特許文献5】特開2003−321743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜5等に記載されている方法によっても、強度レベルが高くなると厳しい腐食環境下で使用される場合に要求される耐遅れ破壊特性を得ることは困難であり、特に強度が900MPa以上の高いレベルで、より耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材ならびにその製造方法が求められていた。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、強度が600MPa以上、特に900MPa以上で、従来の鋼材より耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材ならびにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
遅れ破壊は、室温で鋼中を拡散可能ないわゆる拡散性水素が応力集中部に集積し、その量が材料の限界値に到達すると発生するとされており、そのため、耐遅れ破壊特性を向上させる一つの指針として応力集中部に集積する拡散性水素の量を減少させることが挙げられる。
【0008】
本発明者らは、鋼材の耐遅れ破壊特性を向上させるために鋭意研究を重ねた結果、特に合金炭化物等の析出物形成元素であるMo、Nb、V、Tiの添加量と焼戻し処理時における鋼材の板厚方向中心部の昇温速度を規定することによって、析出物の微細分散化および残留オーステナイトの適正量の確保を達成し、これらの析出物や残留オーステナイトによる拡散性水素のトラップ量の増大を通じて、応力集中部に集積する拡散性水素量が減少し、従来材よりも耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材を得ることが可能となることを見出した。
【0009】
さらに、S、Ca、Oの添加量を適切な範囲にすることでCaSとMnSの複合介在物を水素のトラップサイトとして積極的に利用可能で、耐遅れ破壊特性がより向上することを見出した。
【0010】
本発明は得られた知見に基づき、更に検討を加えてなされたものであって、すなわち、本発明は、
1.質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、P:0.03%以下、S:0.03%以下を含有し、かつMo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%から選ばれる一種または二種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物で、Mo、Nb、V、Tiから選ばれる元素の一種または二種以上を含有する平均粒子径20nm以下の析出物を5個/250000nm以上鋼中に含むことを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
2.更に、鋼組成が、質量%で、Cu:2%以下、Ni:4%以下、Cr:2%以下、W:2%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする、1に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
3.更に、鋼組成が、質量%で、B:0.003%以下、Ca:0.01%以下、REM:0.02%以下、Mg:0.01%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする、1または2に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
4.質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.5〜2.0%、Al:0.005〜0.1%、N:0.0005〜0.008%、P:0.03%以下、0.0004%≦S≦0.0025%、0.0010%≦Ca≦0.0030%、0.0008%≦O≦0.0030%およびMo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%から選ばれる一種または二種以上を含有し、かつ下記式で求められるACRが0.2≦ACR<1.0を満足し残部がFeおよび不可避的不純物で、Mo、Nb、V、Tiから選ばれる元素の一種または二種以上を含有する平均粒子径20nm以下の析出物を5個/250000nm以上鋼中に含むことを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/1.25/S
但し、Ca、O、Sは各成分の含有量(mass%)
5.更に、鋼組成が、質量%で、Cu:2%以下、Ni:4%以下、Cr:2%以下、W:2%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする、4に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
6.更に、鋼組成が、質量%で、B:0.003%以下、REM:0.02%以下、Mg:0.01%以下の一種または二種以上を含有することを特徴とする、4または5に記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
7.ミクロ組織が、残留オーステナイトを0.5〜5%の体積分率で含むことを特徴とする1乃至6の何れか一つに記載の耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材。
8.1乃至6の何れか一つに記載の成分組成を有する鋼をAr変態点以上の温度から500℃以下の温度まで焼入れた後、焼戻し開始温度から所定の焼戻し温度までの平均昇温速度を1℃/s以上として焼戻すことを特徴とする、耐遅れ破壊特性に優れた高張力鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引張強度が600MPa以上、特に900MPa以上の、耐遅れ破壊特性に極めて優れた高張力鋼材の製造が可能となり、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[成分組成]
本発明における成分の限定理由について述べる。化学成分組成を示す%は、何れも質量%である。
【0013】
C:0.02〜0.25%
Cは、強度を確保するために含有するが、0.02%未満ではその効果が不十分であり、一方、0.25%を超えると母材および溶接熱影響部の靭性が劣化するとともに、溶接性が著しく劣化する。従って、C含有量を0.02〜0.25%に限定する。
【0014】
Si:0.01〜0.8%
Siは、製鋼段階の脱酸材および強度向上元素として含有するが、0.01%未満ではその効果が不十分であり、一方、0.8%を超えると粒界が脆化し、遅れ破壊の発生を促進する。従って、Si含有量を0.01〜0.8%に限定する。
【0015】
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、強度を確保するために含有するが、0.5%未満ではその効果が不十分であり、一方、2.0%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するとともに、溶接性が著しく劣化する。従って、Mn含有量を0.5〜2.0%に限定する。
【0016】
Al:0.005〜0.1%
Alは、脱酸材として添加されると同時に、結晶粒径の微細化にも効果があるが、0.005%未満の場合にはその効果が十分でなく、一方、0.1%を超えて含有すると、鋼板の表面疵が発生し易くなる。従って、Al含有量を0.005〜0.1%に限定する。
【0017】
N:0.0005〜0.008%
Nは、Tiなどと窒化物を形成することによって組織を微細化し、母材ならびに溶接熱影響部の靭性を向上させる効果を有するために添加する。0.0005%未満の添加では組織の微細化効果が充分にもたらされず、一方、0.008%を超える添加は固溶N量が増加するために母材および溶接熱影響部の靭性を損なう。従って、N含有量を0.0005〜0.008%に限定する。
【0018】
P:0.03%以下、S:0.03%以下
P、Sは、いずれも不純物元素であり、0.03%を超えると健全な母材および溶接継手を得ることができなくなる。従って、P、S含有量をそれぞれ0.03%以下に限定するが、Sについては介在物を水素のトラップサイトとして利用できるので0.0004≦S≦0.0025とするのが好ましい。0.0004%未満では介在物の適度な分散量を確保できず、水素のトラップサイトが少なくなり介在物としての耐遅れ破壊への効果が出ない。0.0025%を超えると介在物の量が多くなりすぎて延性破壊の強度が低下し、靭性が劣化する恐れがある。
【0019】
0.0008%≦O≦0.0030%
介在物を水素のトラップサイトとして利用できるので0.0008%≦O≦0.0030%とするのが好ましい。0.0008%未満では介在物の適度な分散量を確保できず、水素のトラップサイトが少なくなり介在物としての耐遅れ破壊への効果が出ない。0.0030%を超えると介在物の量が多くなりすぎて延性破壊の強度が低下し、靭性が劣化する恐れがある。
【0020】
Mo、Nb、V、Tiの一種または二種以上
Mo、Nb、V、Tiは、1種または二種以上含有していれば、拡散性水素をトラップし、耐遅れ破壊特性を向上させる効果を有するため、Mo:0.01〜1%、Nb:0.001〜0.1%、V:0.001〜0.5%、Ti:0.001〜0.1%の一種以上を含有する。
【0021】
Mo:0.01〜1%
Moは、焼入れ性および強度を向上する作用を有すると同時に、炭化物を形成することによって、拡散性水素をトラップし、耐遅れ破壊特性を向上させる。0.01%未満の添加ではその効果は充分ではなく、一方、1%を超える添加は経済性が劣る。
【0022】
従って、Moを添加する場合には、その含有量を0.01〜1%に限定する。特にMoは焼戻し軟化抵抗を大きくする作用を有し、強度を900MPa以上確保するために0.2%以上添加することが好ましい。
【0023】
Nb:0.001〜0.1%
Nbは、マイクロアロイング元素として強度を向上させると同時に、炭化物や窒化物、炭窒化物を形成することによって、拡散性水素をトラップし、耐遅れ破壊 特性を向上させる。0.001%未満の添加ではその効果は充分ではなく、一方、0.1%を越える添加は溶接熱影響部の靭性を劣化させる。従って、Nbを添加する場合には、その含有量を0.001〜0.1%に限定する。
【0024】
V:0.001〜0.5%
Vは、マイクロアロイング元素として強度を向上させると同時に、炭化物や窒化物、炭窒
化物を形成することによって、拡散性水素をトラップし、耐遅れ破壊特性を向上させる。0.001%未満の添加ではその効果は充分ではなく、一方、0.5%を超える添加は溶接熱影響部の靭性を劣化させる。従って、Vを添加する場合には、その含有量を0.001〜0.5%以下に限定する。
【0025】
Ti:0.001〜0.1%
Tiは、圧延加熱時あるいは溶接時にTiNを生成し、オーステナイト粒の成長を抑制し、母材ならびに溶接熱影響部の靭性を向上させると同時に、炭化物や窒化物、炭窒化物を形成することによって、拡散性水素をトラップし、耐遅れ破壊特性を向上させる。
【0026】
また、MoやNbと複合析出物を形成することによって、拡散性水素をトラップし、耐遅れ破壊特性を向上させる効果も有する。0.001%未満の添加ではその効果は充分ではなく、一方、0.1%を超える添加は溶接熱影響部の靭性を劣化させる。従って、Tiを添加する場合には、その含有量を0.001〜0.1%に限定する。
【0027】
本発明では、所望する特性に応じて更に以下の成分を含有することができる。
Cu:2%以下
Cuは、固溶強化および析出強化により強度を向上する作用を有している。しかしながら、Cu含有量が2%を超えると、鋼片加熱時や溶接時に熱間での割れを生じやすくする。従って、Cuを添加する場合には、その含有量を2%以下に限定する。
【0028】
Ni:4%以下
Niは、靭性および焼入れ性を向上する作用を有している。しかしながら、Ni含有量が4%を超えると、経済性が劣る。従って、Niを添加する場合には、その含有量を4%以下に限定する。
【0029】
Cr:2%以下
Crは、強度および靭性を向上する作用を有しており、また高温強度特性に優れる。従って、高強度化する場合に積極的に添加し、特に引張強度900MPa以上の特性を得るために0.3%以上添加することが好ましい。しかしながら、Cr含有量が2%を超えると、溶接性が劣化する。従って、Crを添加する場合には、その含有量を2%以下に限定する。
【0030】
W:2%以下
Wは、強度を向上する作用を有している。しかしながら、2%を超えると、溶接性が劣化する。従って、Wを添加する場合は、その含有量を2%以下に限定する。
【0031】
B:0.003%以下
Bは、焼入れ性を向上する作用を有している。しかしながら、0.003%を超えると、靭性を劣化させる。従って、Bを添加する場合には、その含有量を0.003%以下に限定する。
【0032】
Ca:0.01%以下
Caは、硫化物系介在物の形態制御に不可欠な元素である。しかしながら、0.01%を超える添加は、清浄度の低下を招く。従って、Caを添加する場合には、その含有量を0.01%以下に限定する。
【0033】
好ましくは、介在物を水素のトラップサイトとして利用できるので0.0010%≦Ca≦0.0030%とする。0.0010%未満では介在物の適度な分散量を確保できず、水素のトラップサイトが少なくなり介在物としての耐遅れ破壊への効果が出ない。
【0034】
0.0030%を超えると介在物の量が多くなりすぎて延性破壊の強度が低下し、靭性が劣化する恐れがある。
【0035】
但し、0.0010%≦Ca≦0.0030%とする場合は、鋼中O量を0.0008%≦O≦0.0030%とし、下記式で求められるACRを0.2≦ACR<1.0とする。
ACR=(Ca−(0.18+130×Ca)×O)/1.25/S
式において、Ca、O、Sは鋼中含有量(mass%)
ACRは、Ca系介在物の晶出度を表す指数であり、CaS、MnSの複合介在物を積極的に水素のトラップサイトとして利用して耐遅れ破壊特性を向上させるために0.2≦ACR<1.0とする。ACRが該範囲を満足するるようにCa、O、Sを含有させることによりCaS、MnSがそれぞれ主体となって晶出することを防止し、微細な複合介在物として分散させることができる。
【0036】
この結果、これらの複合介在物とマトリックスの界面に水素がトラップされ、一部の介在物の界面への集積を抑制することが可能となる。さらに急速加熱焼戻し過程においてこれらの複合介在物の表面に合金炭化物が析出することによって、より多くの水素がトラップされる。ACRが0.2未満の場合は、介在物の主体がMnSとなり圧延によって介在物が伸長し、遅れ破壊の起点になりやすく、耐遅れ破壊特性が劣る場合がある。
【0037】
ACRが1.0以上の場合は、介在物の主体がCaSとなって粗大になりやすく、当該粗大なCaSが、遅れ破壊の起点となって耐遅れ破壊特性が劣る場合がある。
さらに、好ましいACRは、0.4≦ACR≦0.8の範囲である。
【0038】
尚、従来は、MnSが圧延によって伸長し、その部分に水素が集積することで、割れが発生しやすいため、ACR≧1.0を満足するようにCaを添加し、Sを固定してMnSの形態制御を行っている。
【0039】
REM:0.02%以下
REMは、鋼中でREM(O、S)として硫化物を生成することによって結晶粒界の固溶S量を低減して耐SR割れ特性を改善する。しかしながら、0.02%を超える添加は、沈殿晶帯にREM硫化物が著しく集積し、材質の劣化を招く。従って、REMを添加する場合には、その添加量を0.02%以下に限定する。
【0040】
Mg:0.01%以下
Mgは、溶銑脱硫材として使用する場合がある。しかしながら、0.01%を超える添加は、清浄度の低下を招く。従って、Mgを添加する場合には、その添加量を0.01%以下に限定する。
【0041】
[ミクロ組織]
本発明における析出物の析出形態の限定理由について述べる。本発明では、Mo、Nb、V、Tiから選ばれる元素の一種または二種以上を含有する平均粒子径20nm以下、好ましくは15nm以下の析出物を、5個/250000nm以上の割合、好ましくは10個/250000nm以上を鋼中に含む。
【0042】
析出物の観察は、例えば、薄膜または抽出レプリカのサンプルを用いて、透過型電子顕微鏡にて行う。粒子径は、画像解析による円相当径にて評価し、平均粒子径は、例えば、500nm四方の視野中で観察される析出物を対象として、任意の5視野以上の単純平均値とする。
【0043】
Mo、Nb、V、Tiから選ばれる元素の一種または二種以上を含有する析出物は、大きさによらず拡散性水素をトラップする効果を有するが、平均粒子径が20nmより大きくなると格子整合性が低くなり、拡散性水素をトラップする力が弱くなるため、耐遅れ破壊特性の向上効果が小さくなる。そこで平均粒子径を20nm以下、好ましくは15nm以下とする。
【0044】
また、Mo、Nb、V、Tiから選ばれる元素の一種または二種以上を含有する析出物の密度が5個/250000nm未満となると、これらの析出物によりトラップされる拡散性水素の量が少なくなり、耐遅れ破壊特性の向上効果が小さくなる。そこで、5個/250000nm以上の割合、好ましくは10個/250000nm以上の割合で鋼中に含むとする。
【0045】
本発明は、残留オーステナイトを0.5〜5%の体積分率で含むミクロ組織とするのが好ましい。残留オーステナイトは、水素の固溶度が高いため水素トラップサイトとして機能し、耐遅れ破壊特性を向上させるが、0.5%未満ではその効果が明確でなく、5%を超えると強度が低下するため、0.5〜5%、更に、好ましくは2〜4%とする。
【0046】
残留オーステナイト量の測定は、例えば、X線回折によるオーステナイト格子定数のピークの定量化によって測定する。次に、本発明鋼の製造に好ましい製造条件について述べる。
[製造条件]
本発明は、鋼板、形鋼および棒鋼など種々の形状の鋼材に適用可能であり、製造条件における温度規定は鋼材中心部でのものとし、鋼板は板厚中心、形鋼は本発明に係る特性を付与する部位の板厚中心、棒鋼では径方向の中心とする。但し、中心部近傍はほぼ同様の温度履歴となるので、中心そのものに限定するものではない。
【0047】
焼入れ
母材強度および母材靭性を確保するため、Ar変態点以上の温度から500℃以下の温度まで焼入れを行う。焼入れは0.5℃/s以上、好ましくは1℃/s以上の速度で冷却する。
【0048】
本規定は、オーステナイトからマルテンサイトもしくはベイナイトへの変態を完了させて母材を強化するために行った。
【0049】
本発明ではAr変態点(℃)を求める式は特に規定しないが、例えばAr=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Moとする。式において各元素は鋼中含有量(mass%)とする。
【0050】
焼戻し条件
焼戻し時、焼戻し開始温度から所定の焼戻し温度までの平均昇温速度を1℃/s以上、好ましくは2℃/s以上にする。再加熱焼入れなどにより一旦室温まで冷却した場合においても焼戻し時の平均昇温速度を1℃/s以上、好ましくは2℃/s以上にする。
【0051】
焼戻し時に生じる合金炭化物、合金窒化物、合金炭窒化物等の析出物の生成・成長挙動には焼戻し時の昇温速度が影響を及ぼし、平均昇温速度を1℃/s以上、好ましくは2℃/s以上とした場合、析出物の微細分散化が達成される。
【0052】
1℃/s未満では炭化物や炭窒化物が析出する前に粒界やラス界面にCが拡散するので、粗大な炭化物や炭窒化物しか得ることができず、水素のトラップサイトとなる炭化物や炭窒化物を微細分散させる効果が得られない。
【0053】
更に、焼戻し時に、600℃以上での昇温速度が10℃/s以上となる温度領域を持たせると、分散析出したセメンタイトのFeが合金元素に置き換わって微細な合金炭化物の析出を促進させて好ましい。
【0054】
また、引張強度900MPa以上に高強度化する場合は、焼戻し温度を450〜550℃の範囲にすることが高強度で高靭性というバランスのよい特性を得るのに好ましい。
【0055】
また、焼戻し時の昇温過程は、所定の平均昇温速度が得られれば良く、直線的な温度履歴を取っても、途中温度で滞留するような温度履歴を取っても良く、特に規定しない。
【0056】
焼戻し温度における保持時間は、生産性や析出物の粗大化に起因する耐遅れ破壊特性の劣化を防止すべく、60s以下とすることが望ましい。
【0057】
焼戻し後の冷却速度については、冷却中における析出物の粗大化を防止すべく、焼戻し温度〜200℃までの平均冷却速度を0.05℃/s以上とすることが望ましい。
【0058】
以上の条件によって、上述の析出物による拡散性水素のトラップ量が増加するため、応力集中部に集積する拡散性水素量が減少し、従来の鋼材よりも耐遅れ破壊特性が向上する。
【0059】
本発明においてはAr変態点以上から焼入れが可能なように鋼片を製造すれば良く、溶鋼から鋳片を製造する方法や、鋳片を圧延して鋼片を製造する方法は特に規定しない。転炉法・電気炉法等で溶製された鋼や、連続鋳造・造塊法等で製造されたスラブが利用できる。
【0060】
鋳片を圧延して鋼片を製造する際、Ar変態点以下に冷却することなく、そのまま熱間圧延を開始しても、一度冷却した鋳片をAc変態点以上に再加熱した後に熱間圧延を開始しても良い。
【0061】
Ar変態点以上で圧延を終了すれば、その他の圧延条件に関して特に規定するものではない。Ar変態点以上の温度の圧延であれば、再結晶域で圧延を行っても未再結晶域で圧延を行って良い。
【0062】
本発明は、Ar変態点以上のオーステナイト単相組織の状態から焼入れを開始すれば、
熱間圧延後に直接焼入れを行っても、熱間圧延材を再加熱後に焼入れを行っても良い。
【0063】
焼戻し時の加熱方式は、所要の昇温速度が達成されれば、誘導加熱、通電加熱、赤外線輻射加熱、雰囲気加熱等のいずれの方式でも良い。
【実施例】
【0064】
本発明の有効性を実施例によって説明する。表1に示す化学成分の鋼A〜Uを溶製してスラブに鋳造し、加熱炉で加熱後、圧延を行い鋼板とした。圧延後、引続き直接焼入れし、次いで、ソレノイド型誘導加熱装置を用いて焼戻し処理を行った。
【0065】
また、板厚中心部の平均昇温速度は、鋼板の通板速度によって管理した。なお、焼戻し温度にて保持する場合には、鋼板を往復させて加熱することによって、±5℃の範囲内で
保持を行った。
【0066】
また、加熱後の冷却は空冷とした。焼戻し温度や焼入れ温度などの板厚中心部における温度は、放射温度計による表面の逐次における温度測定結果から、伝熱計算によって求めた。
【0067】
表2に鋼板製造条件、析出物の平均粒子径、析出物の密度、残留オーステナイトの体積分率を、表3に得られた鋼板の降伏強度、引張強度、破面遷移温度(vTrs)、限界拡散性水素量を示す。
【0068】
析出物の大きさおよび密度は、透過型電子顕微鏡を用いて、抽出レプリカにより抽出した析出物を写真撮影し、500nm四方の視野中で観察される析出物を対象として、任意の5視野の平均を求めた。なお、粒子径は、画像解析による円相当径にて評価した。
【0069】
残留オーステナイトの体積分率は、X線回折によりオーステナイト格子定数のピークを定量化することによって測定した。
【0070】
また、降伏強度および引張強度は、全厚引張試験片により測定し、靭性は、板厚中心部より採取した試験片を用いたシャルピー衝撃試験によって得られるvTrsで評価した。
【0071】
更に、限界拡散性水素量は、引張強さの90%の定荷重負荷下において100h以内に遅れ破壊を生じない上限の拡散性水素量と定義し、試験片は環状ノッチ付き丸棒引張試験片を用い、拡散性水素量はガスクロマトグラフ法により測定した。
【0072】
限界拡散性水素量の目標は、引張強度1200MP以上の鋼種に関しては、0.2mass ppm以上とし、引張強度1200MP未満の鋼種に関しては、0.3mass ppm以上とした。
【0073】
【表1】


【0074】
【表2】


【0075】
【表3】


【0076】
表3から明らかなように、本発明法により製造した鋼板No.1〜39(本発明例)は、化学成分、製造方法、析出物の析出形態または残留オーステナイトの体積分率が本発明の範囲であり、良好な限界拡散性水素量を得ることができた。さらにACRが本発明範囲の鋼板No.33〜39(本発明例)は、より良好な限界拡散性水素量を得ることができた。
【0077】
これに対して、比較鋼板No.17〜32(比較例)は、限界拡散性水素量が上記目標範囲を外れている。以下、これらの比較例を個別に説明する。
【0078】
成分が本発明範囲から外れている鋼板No.17〜20は、析出物の密度及び残留オーステナイトの体積分率のいずれもが本発明範囲から外れており、限界拡散性水素量が目標値に達していない。
【0079】
直接焼入れ開始温度が本発明範囲から外れている鋼板No.21は、析出物の密度及び残留オーステナイトの体積分率のいずれもが本発明範囲から外れており、限界拡散性水素量が目標値に達していない。
【0080】
直接焼入れ停止温度が本発明範囲から外れている鋼板No.22は、析出物の密度及び残留オーステナイトの体積分率のいずれもが本発明範囲から外れており、限界拡散性水素量が目標値に達していない。
【0081】
焼戻し開始温度から所定の焼戻し温度までの鋼材中心部の平均昇温速度が本発明範囲から外れている鋼板No.23〜32は、析出物の平均粒子径、析出物の密度、残留オーステナイトの体積分率の内、いずれか二つの数値が本発明範囲から外れており、限界拡散性水素量が目標値に達していない。




 

 


     NEWS
会社検索順位 特許の出願数の順位が発表

URL変更
平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年


 
   お問い合わせ info@patentjp.com patentjp.com   Copyright 2007-2013