発明の名称 |
耐熱性合成樹脂製品 |
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発行国 |
日本国特許庁(JP) |
公報種別 |
公開特許公報(A) |
公開番号 |
特開2007−99309(P2007−99309A) |
公開日 |
平成19年4月19日(2007.4.19) |
出願番号 |
特願2005−288654(P2005−288654) |
出願日 |
平成17年9月30日(2005.9.30) |
代理人 |
【識別番号】100072051 【弁理士】 【氏名又は名称】杉村 興作
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発明者 |
清水 一彦 / 山崎 浩久 / 古塩 秀一 |
要約 |
課題 結晶化度が高く耐熱性に優れた合成樹脂製品を提供する。
解決手段 本発明製品は、合成樹脂製品の形状を形作る壁部10の結晶化度Csが当該壁部10の厚みT方向中心位置Pcに比べ、該中心より離間した外表面側位置Pa、及び内表面側位置Pbの方が大きくなっている耐熱性を有する合成樹脂製品であって、前記壁部の外表面から厚み方向中心位置に向かって10μmの深さに位置する外表面側位置Pa及び前記壁部の内表面から厚み方向中心位置に向かって10μmの深さに位置する内表面側位置Pbにそれぞれ励起波長532nmのレーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出した各ピーク値Rc(a), Rc(b)の半値幅Wa,Wbがそれぞれ、当該壁部10の厚み中心位置Pcにレーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出したピーク値RH(c)の半値幅Wcの75〜95%である。また、半値幅Waが半値幅Wb以下であると共に半値幅Waが半値幅Wbの85%以上である。 |
特許請求の範囲
【請求項1】 合成樹脂製品の形状を形作る壁部の結晶化度が当該壁部の厚み方向中心位置に比べ、該中心より離間した外表面側位置、及び内表面側位置の方が大きくなっている耐熱性を有する合成樹脂製品であって、 前記壁部の外表面から厚み方向中心位置に向かって10μmの深さに位置する外表面側位置及び前記壁部の内表面から厚み方向中心位置に向かって10μmの深さに位置する内表面側位置にそれぞれ励起波長532nmのレーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出した各ピーク値の半値幅がそれぞれ、前記壁部の厚み方向中心位置に前記レーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出したピーク値の半値幅の75〜95%であることを特徴とする耐熱性を有する合成樹脂製品。 【請求項2】 請求項1において、前記外表面側位置における前記ピーク値の半値幅が、前記内表面側位置における前記ピーク値の半値幅以下であることを特徴とする耐熱性を有する合成樹脂製品。 【請求項3】 請求項1又は2において、前記外表面側位置における前記ピーク値の半値幅が、前記内表面側位置における前記ピーク値の半値幅の85%以上であることを特徴とする耐熱性を有する合成樹脂製品。
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発明の詳細な説明
【技術分野】 【0001】 本発明は、耐熱性を有する合成樹脂製品に関するものである。 【背景技術】 【0002】 結晶化度を高めた耐熱性を持たせた従来の合成樹脂製品には、例えば、その形状を形作る壁部の結晶化度が当該壁部の厚み方向中心からその外表面及び内表面に向かって上昇するように構成した容器がある(例えば、特許文献1参照。) 【特許文献1】特開2002-172681号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 これに対し、レトルト殺菌する合成樹脂製容器は、例えば摂氏120度の環境下で30分間保持された場合に相当する加熱殺菌処理が必要となり、容器の物性によっては、熱による容積収縮が問題となる。 【0004】 また、上記従来容器にあっても、求められる用途に応じて前記加熱殺菌処理の条件が過酷になった場合、容器の耐熱性を高める必要があり、依然、改善の余地がある。 【0005】 本発明の解決しようとする課題は、耐熱性に優れた合成樹脂製品を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明である耐熱性合成樹脂製品は、例えばエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂から成形され、合成樹脂製品の形状を形作る壁部の結晶化度が当該壁部の厚み方向中心位置に比べ、該中心より離間した外表面側位置、及び内表面側位置の方が大きくなっている耐熱性を有する合成樹脂製品であって、前記壁部の外表面から厚み方向中心位置に向かって10μmの深さに位置する外表面側位置及び前記壁部の内表面から厚み方向中心位置に向かって10μmの深さに位置する内表面側位置にそれぞれ励起波長532nmのレーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出した各ピーク値の半値幅がそれぞれ、前記壁部の厚み方向中心位置に前記レーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出したピーク値の半値幅の75〜95%であることを特徴とするものである。 【0007】 本発明製品は、前記外表面側位置における前記ピーク値の半値幅が、前記内表面側位置における前記ピーク値の半値幅以下であることを特徴とすることが好ましい。 【0008】 また、本発明製品は、前記外表面側位置における前記ピーク値の半値幅が、前記内表面側位置における前記ピーク値の半値幅の85%以上であることが好ましい。 【発明の効果】 【0009】 本発明製品は、当該製品の壁部における外表面から厚み方向中心位置に向かって10μmの深さに位置する外表面側位置及び前記壁部の内表面から厚み方向中心位置に向かって10μmの深さに位置する内表面側位置にそれぞれ励起波長532nmのレーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出した各ピーク値の半値幅が、前記壁部の厚み方向中心位置に前記レーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出したピーク値の半値幅の75〜95%であるから、長時間高温状態に置かれても、従来に比べて容積収縮率の小さい耐熱性に優れた合成樹脂製品を提供することができる。 【0010】 また、本発明製品において、前記外表面側位置における前記ピーク値の半値幅が、前記内表面側位置における前記ピーク値の半値幅以下であれば、より耐熱性の高い合成樹脂製品を提供することができる。 【0011】 更に、本発明製品において、前記外表面側位置における前記ピーク値の半値幅が、前記内表面側位置における前記ピーク値の半値幅の85%以上であれば、より一層耐熱性の高い合成樹脂製品を提供することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 以下、図面を参照して、本発明の一形態を説明する。 【0013】 図1は、本発明製品の一形態であるボトル1を示す縦断面図であり、図2は、図1の領域Aを示す拡大断面図である。 【0014】 図1に示すボトル1は、PET樹脂を二軸延伸ブロー成形してなる、所謂、PETボトルであり、口部、肩部、胴部及び底部を備えている。図2に示す符号10は、PETボトル1の形状を形作る壁部である。この壁部10は、PETボトル1の外観形状を形作る外表面10aと、内容物が接する充填空間を形成する内表面10bとの間の結晶化度を異ならせたPET樹脂で構成した単層構造である。 【0015】 更に、図2において、符号Pcは、壁部10の厚さTにおける厚み方向の中心位置であり、外表面10aと内表面10bから等距離に位置している。また、符号Paは、壁部10の外表面10aから前記中心位置Pcに向かって10μmの深さに位置する外表面側位置であり、その深さをtaと表す。同様に、符号Pbは、壁部10の内表面10bから前記中心位置Pcに向かって10μmの深さに位置する内表面側位置であり、その深さをtbと表す。また、本形態では、外表面側位置Paと内表面側位置Pbとの間を壁部10の中間壁とする。 【0016】 かかるボトル1は、壁部10の結晶化度が厚みT方向中心位置Pcより外表面側位置Pa及び内表面側位置Pbの方を高くしたものであり、レーザーラマン分光法によりボトル1に励起波長532nmのレーザー光を照射して外表面側位置Pa、内表面側位置Pb及び中心位置Pcの3点を分析した場合の特性を以下に示す。 【0017】 レーザーラマン分光法は、対象物にレーザー光を照射し、その散乱光(ラマン散乱光)を検出することにより、当該対象物を破壊することなく、その結晶構造や分子配向等を分析することができる分光法である。 【0018】 PETボトル1にレーザー光を照射すると、例えば、図3のPEAK1に示す如く、このレーザー光に対するラマン散乱光のピーク値RHがV1=1730(cm-1:ラマンシフト(波数))付近で検出され、このピーク値RHがカルボニル基に起因するピークとなる。従って、本形態におけるピーク値RHの半値幅Wとは、図3に示す如く、V1=1730(cm-1)付近でのピーク値RHに対する中間値Rcの幅となる。 【0019】 即ち、本発明に係るボトル1は、外表面側位置Paにレーザー光を照射し、当該レーザー光のラマン散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出したピーク値RH(a)の半値幅Waと、内表面側位置Pbに前記レーザー光を照射し、当該レーザー光の散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出したピーク値RH(b)の半値幅Wbとがそれぞれ、中心位置Pcに前記レーザー光を照射し、当該レーザー光のラマン散乱光として波数1730(cm-1)付近で検出したピーク値RH(c)の半値幅Wcの75〜95%となる特性を示す。 【0020】 かかる構成によれば、長時間高温状態に置かれても、従来に比べて容積収縮率の小さい耐熱性に優れたPETボトルを提供することができる。 【0021】 また、ボトル1は、外表面側位置Paにおけるピーク値RH(a)の半値幅Waが、内表面側位置Pbにおけるピーク値RH(b)の半値幅Wb以下となる特性を示す。かかる構成によれば、より耐熱性の高いPETボトルとなる。 【0022】 更に、ボトル1は、外表面側位置Paにおけるピーク値RH(a)の半値幅Waが、内表面側位置Pbにおけるピーク値RH(b)の半値幅Wbに対して85%以上の比率となる特性を示す。かかる構成によれば、より一層耐熱性の高いPETボトルとなる。 【0023】 また、本形態に係るPETボトル1は、例えば、以下に示す二段ブロー成形方法により成形される。 【0024】 具体例としては、先ず、PET樹脂からなるプリフォームにおける容器胴部に対応する部分を延伸成形可能な温度に加熱する(プリフォーム加熱工程)。このときのプリフォームの加熱はヒータ等で行う。 【0025】 次に、この加熱したプリフォームを金型内でブロー成形する(1次ブロー成形工程)。 【0026】 そして、この1次ブロー成形工程で成形された1次ブロー成形品を金型から取り出し、加熱処理する(加熱処理工程)。この時、1次ブロー成形品は熱収縮し、加熱処理品の外径が2次ブロー成形用金型の内径と同程度か若干小さくなるように制御することが好ましい。 【0027】 1次ブロー成形品を加熱処理した後は更に、摂氏210度以上の金型内で再びブロー成形する(2次ブロー成形工程)。 【実施例】 【0028】 以下、本発明の耐熱性容器の各実施例を示す。 【0029】 実施例1〜3はそれぞれ、本発明に係る耐熱性容器であり、二段ブロー成形方法により成形され、二次ブロー金型の温度をそれぞれ、210℃、220℃、230℃としたものである。表1におけるカッコ書の数値は、各実施例の中央位置Pcにおけるピーク値RH(c)の半値幅Wcを100として比較した場合の外表面側位置及び内表面側位置における半値幅の比率である。 【0030】 これに対し、比較例1,2はそれぞれ、従来の耐熱性容器であり、二段ブロー成形方法により成形され、二次ブロー金型の温度をそれぞれ、140℃、170℃としたものである。なお、表1中のカッコ書の数値は、各実施例の中央位置Pcにおけるピーク値RH(c)の半値幅Wcを100として比較した場合の外表面側位置Pa及び内表面側位置Pbにおける半値幅Wa,Wbの比率である。 【0031】 上記実施例1〜3及び比較例1,2の測定点はそれぞれ、ボトル胴部の壁部における外表面側位置Pa、内表面側位置Pb及び中心位置Pcの3点であり、各データは、以下の測定機種及び測定条件により得られたものである。 【0032】 (1)測定機種: NRS-3200型レーザーラマン分光光度計(日本分光株式会社製) (2)測定条件: 試料室 ミクロ対物×20 励起波長 532nm 回折格子 2400L/mm スリット幅 50μm 【0033】 表1は、上記各測定点において、ラマン散乱光としてV1=1730(cm-1)付近で検出したピーク値RHの半値幅Wを示すデータである。 【0034】 【表1】
【0035】 また、半値幅Wと密度ρ、及び結晶化度Csには密接な関係があり、密度ρの逆数と半値幅Wとの間には正比例状の相関関係があり、結晶化度Csと密度ρとの間には下式が成り立つ。なお、下式において、ρ(100)は100%結晶の密度であり、ρ(0)は0%結晶の密度であり、ρは密度勾配管法(JIS K 7112 D法に準拠)により測定した対象サンプルの密度である。 Cs=ρ(100)×(ρ-ρ(0) )×100/{ρ×(ρ(100)-ρ(0))} 上記関係より、半値幅Wが小さくなると結晶化度が大きくなることが示される。 【0036】 また、実施例1〜3、及び比較例1,2の容器をレトルト殺菌条件に該当する、摂氏120度熱水中に30分浸漬し加熱処理を行った際、実施例1〜3では、外観上で変形がほとんど見られず、容積収縮率が1%以下となっており、十分な耐熱性を備えていることが確認された。尚、比較例1,2においては胴部横断面がいびつに変形するものがあった。従って、上記データを参照すれば、長時間高温状態に置かれても、従来に比べて容積収縮率の小さい耐熱性に優れた合成樹脂製品を提供することができることが明らかである。 【産業上の利用可能性】 【0037】 本発明製品は、ボトルやレトルト容器(パウチ容器)以外にも、広口容器等の自立容器や樹脂トレー等、耐熱性が要求される合成樹脂製品に適用できる。 【図面の簡単な説明】 【0038】 【図1】本発明製品の一形態であるボトル1を示す縦断面図である。 【図2】図1の領域Aを示す拡大断面図である。 【図3】レーザーラマン分光法によりPET樹脂を分析したときに検出されるラマン散乱光のピークを例示する特性図である。 【符号の説明】 【0039】 1 PETボトル 10 壁部 10a 壁部外表面 10b 壁部内表面
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