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発明の名称 クローラ式作業車両
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−191064(P2007−191064A)
公開日 平成19年8月2日(2007.8.2)
出願番号 特願2006−11755(P2006−11755)
出願日 平成18年1月19日(2006.1.19)
代理人 【識別番号】100090893
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 敏
発明者 北山 浩三 / 辻田 正文
要約 課題
後輪駆動の小型ホイール式トラクタの構造を可能な限り利用し、優れた旋回フィーリングを有する小型のクローラ式トラクタを提供する。

解決手段
両端に従動アイドラ85を回転可能に支持するクローラフレーム81と車軸(リアアクスル)89に装着された駆動スプロケット60を有し、かつ従動アイドラ85と駆動スプロケット60との間にクローラベルト95が巻装されるクローラ式走行装置80を上部車体90の下部に備え、ステアリングハンドル9の下部にステアリング軸101を介して継設されたステアリングカム機構104と旋回用HSTポンプ72のトラニオンアーム106とを連結するロッド107の中途部に緩衝装置113を設けるものである。加えて、緩衝装置113が圧縮バネ114を備え、プランジャー部(圧縮バネケース)113b内にストッパカラー115を設ける。
特許請求の範囲
【請求項1】
両端に従動アイドラを回転可能に支持するクローラフレームとリアアクスルに装着された駆動スプロケットを有し、かつ前記従動アイドラと前記駆動スプロケットとの間にクローラベルトが巻装されるクローラ式走行装置を上部車体の下部に備えたクローラ式作業車両において、
ステアリングハンドルの下部にステアリング軸を介して継設されたステアリングカム機構と旋回用HSTポンプのトラニオンアームとを連結するロッドの中途部に緩衝装置を設けることを特徴とするクローラ式作業車両。
【請求項2】
前記緩衝装置が圧縮バネを備えることを特徴とする請求項1に記載のクローラ式作業車両。
【請求項3】
前記緩衝装置の前記圧縮バネケース内にストッパカラーを設けることを特徴とする請求項1に記載のクローラ式作業車両。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラ式トラクタに関するものであり、特に、ホイール式トラクタとの共用部分を利用して簡便に製造しうるクローラ式トラクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来の小型ホイール式トラクタ(作業車両)の斜視図である。このトラクタは、後輪駆動4輪車であり、一般に、このようなホイール式トラクタは、油圧によって駆動される耕運用アタッチメント、畦整形用アタッチメント、土壌消毒用アタッチメント、栽培床作成用アタッチメント、種芋植え付け用アタッチメント、マルチ作業用アタッチメントなどの作業機が取付けられることが一般的である。しかしながら、ホイール式トラクタは接地圧が高いため、軟弱地や不整地での走行性が十分でない場合があり、特に小型トラクタの場合には、小型ゆえに牽引力が十分でない場合がある。このような場合、ホイール式トラクタをクローラ式トラクタに改良できれば、接地圧を低減できるため軟弱地や不整地での走行性を向上させることができ、同時に牽引力を増強させることができる。
【0003】
このような技術として、例えばホイール式トラクタの操舵機構部を共用して、新たなクローラ式トラクタに改良するものがある(特許文献1)。この特許文献1は、クローラ式とホイール式での旋回機構の相違、すなわちホイール式のトラクタをクローラ式に改造した場合に、旋回内側の左右いずれかのブレーキペダルを踏み込んで片側のブレーキ装置を作動させ、片側の駆動スプロケットを制動して旋回内側のクローラを減速して車体を旋回させたのでは旋回操作性が良好ではない点に鑑みてなされたものであり、円形のステアリングハンドルの回転操作によってクローラ式トラクタの車体を旋回できるようにするとともに、ホイール式トラクタに備えられている操舵機構部を利用して部品を共用化することによりコストダウンを図ることを目的としたものである。
【0004】
また、ホイール式作業車両は、多少バランスが悪い場合でもホイールが接地していれば走行可能であるのに対して、クローラ式作業車両ではクローラの前端部が浮き上がり、牽引力が不足する場合がある。また、クローラ式トラクタは、主として湿田用に使用されるため、地上高を高く設定する必要がある。このような、トラクタの前後バランス及び地上高を簡単かつ安価な構成にて調整する技術も既に開示されている(特許文献2)。
【0005】
特許文献2には、駆動スプロケットと従動アイドラとの間にクローラを卷装した左右クローラ式走行装置を備えたトラクタであって、前記駆動スプロケットと従動アイドラとを支持するクローラフレームを、車両フレームに対して前後方向、およびまたは上下方向に取り付け位置を調整可能に形成したクローラ式トラクタが開示されている。この特許公報2に開示されるクローラ式トラクタは、トラクタ部分が中型または大型のものを対象としていると推定され、駆動スプロケットと従動アイドラとを支持するクローラフレームが取り付けられる車両フレームの先端部が、クローラ式走行装置の先端部より更に前部でトラクタ下部に取り付けられている。
【0006】
一方、特に中型、大型のトラクタにおいて、小型クローラ式トラクタの駆動系を簡潔なものとし、かつ旋回性を改良する技術も開発されている(特許文献3)。例えば、特許文献3には、機体を前後進させる前後進切換え機構より後方の駆動系に機体を旋回させる油圧変速旋回機構(旋回用HST機構)を連結させた前輪駆動のクローラ式トラクタであって、旋回用HST機構を可変容量ポンプと定容量モータとに分割し、遊星ギヤ式デフ機構の入力軸に定容量モータを連結させた小型クローラ式トラクタが開示されている。このトラクタは、走行変速機構の副変速後の出力で上記可変容量ポンプと連結され、車速と操向モータの回転を比例させることで、旋回半径を一定にさせ、ホイール式トラクタと同様の操作フィーリングを確保することができる、という。
【0007】
また、ミッション構造を改善して、軽量・シンプル・低コストで、全長が短くても前後バランスおよび取り扱い性のよい作業機構成を備えたクローラ式トラクタとして、ミッションケースとアクスルケースとを一体的に構成し、左右一対のクローラ走行装置の間に横架される前後連結フレームによってミッションケースを支持し、この連結フレームの前方にアクスルケースを配置した前輪駆動のクローラ式トラクタも開示されている(特許文献4)。
【0008】
【特許文献1】特開2000−159143号公報
【特許文献2】特開2002−145134号公報
【特許文献3】特開2004−17841号公報
【特許文献4】特開2004−66913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のようにクローラ式トラクタは、接地圧が低いため、湿田での作業に適し、作業機の牽引力を増強させることができるが、特許文献1に示すように、単にホイール式トラクタの駆動輪を駆動スプロケットとして使用したのでは、湿田での作業に適する地上高を確保することができない場合がある。特に、クローラ式トラクタは、左右、上下バランスの調整がより強く求められるため、このような制御がより簡便に調整できれば便利である。この場合、特許文献2のように、クローラフレームに取り付け孔を開穿し、車両フレームにこの取り付け孔に対応する被取り付け孔を開穿し、これらによって前後、上下方向にずらして固定するする方法では、固定箇所が多くて操作が煩雑である。また、クローラ式トラクタは、左右クローラ式走行装置がホイールと比較して重いため総重量も重くなりやすく、軽量化の必要性がより強く望まれる。
【0010】
加えて、小型クローラ式トラクタであっても、中型や大型のクローラ式トラクタと同様に、優れた操作フィーリングを確保することが好ましい。しかしながら、旋回フィーリングを改善するために使用される、機体を旋回させる操向用の油圧変速機構、機体を前後進させるリバーサ機構、旋回用油圧変速機構の可変容量ポンプなどを、単に小型クローラ式トラクタに転用することは構造上、困難である。特に、特許文献3や特許文献4に記載のクローラ式トラクタは、フロントアクスルケースをエンジン前方下部にトランスミッションと分離して別体的に設けた前輪駆動方式であり、後輪駆動系とはその構造が異なる。従って、小型後輪駆動のホイール式トラクタの基本構造を利用し、低コストで後輪駆動の小型クローラ式トラクタを製造することは容易でない。
【0011】
そこで本発明の第1の目的は、後輪駆動の小型ホイール式トラクタの構造を可能な限り利用して製造できる、小型クローラ式トラクタを提供するものである。
また、従来のクローラ式トラクタでは、旋回用HST機構において急なハンドル操向での車両旋回開始時に、旋回用HSTポンプの吐出圧が可動斜板に比例して上昇せず、ある可動斜板角度に達したところで急上昇するために、車両が急激な旋回となり、操作し辛いという問題があった。
従って本発明の第2の目的は、優れた旋回フィーリングを有する小型クローラ式トラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため請求項1に記載の発明は、両端に従動アイドラを回転可能に支持するクローラフレームとリアアクスルに装着された駆動スプロケットを有し、かつ前記従動アイドラと前記駆動スプロケットとの間にクローラベルトが巻装されるクローラ式走行装置を上部車体の下部に備えたクローラ式作業車両において、ステアリングハンドルの下部にステアリング軸を介して継設されたステアリングカム機構と旋回用HSTポンプのトラニオンアームとを連結するロッドの中途部に緩衝装置を設けることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のクローラ式作業車両において、前記緩衝装置が圧縮バネを備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のクローラ式作業車両において、前記緩衝装置の前記圧縮バネケース内にストッパカラーを設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、両端に従動アイドラを回転可能に支持するクローラフレームとリアアクスルに装着された駆動スプロケットを有し、かつ従動アイドラと駆動スプロケットとの間にクローラベルトが巻装されるクローラ式走行装置を上部車体の下部に備えたクローラ式作業車両において、ステアリングハンドルの下部にステアリング軸を介して継設されたステアリングカム機構と旋回用HSTポンプのトラニオンアームとを連結するロッドの中途部に緩衝装置を設けるので、車両の旋回開始時の急なハンドル操向によりロッドに発生する大きな荷重を吸収し、急旋回を緩和することができる。従って、優れた旋回フィーリングを有する小型のクローラ式トラクタを提供することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、緩衝装置が圧縮バネを備えるので、車両の旋回開始時の急なハンドル操向によりロッドに発生する大きな荷重を圧縮バネで吸収し、急旋回を緩和することができる。従って、優れた旋回フィーリングを有する小型のクローラ式トラクタを提供することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、緩衝装置の圧縮バネケース内にストッパカラーを設けるので、圧縮バネのたわみを防止することができる。従って、優れた旋回フィーリングを有する小型のクローラ式トラクタを提供することができる。
【0018】
また、本発明によれば、小型のホイール式トラクタに備えられている共用部分を利用しているので、安価に小型のクローラ式トラクタを製造することができる。しかも、ホイール式トラクタと比較して農作業機を牽引する力が大きく、軟弱地や不整地での走行性にも優れる小型のクローラ式トラクタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。
図1は本発明の一実施例に係る小型クローラ式トラクタの側面図、図2は同トラクタにおけるクローラ式走行装置の斜視図、図3は同トラクタの断面平面図、図4は同トラクタにおける駆動部の断面側面図、図5はミッションケース内の差動機構付近を拡大した断面平面図である。
【0020】
まず、クローラ式トラクタ1の概略構成について説明する。図1に示すように、車両1前方には図示しないエンジン3を覆うボンネット2と、このボンネット2の後ろには車両1の操縦を行うためのキャビン4または不図示のロプスフレームが配設される。キャビン4の前方には車両1の操行を司るステアリングハンドル9が配設され、後方には運転席8が、この運転席8の左右には、車両1の走行や作業機6の上げ下げ等を操作するための主変速レバー、副変速レバー及びPTO操作レバーなどの図示しない各種レバーが配設されている。そして、万が一、車両1が横転したときに運転者を守るための、4本の安全フレームを含むキャビン4が運転席8全体を覆うように形成されている。そして、運転席8への昇降用のステップ10がキャビン4の下方に設けられている。また、上部車体90の後方には作業に応じて取り外し可能な作業機6が取付けられており、この作業機6によりプラウや、ロータリーなどの作業を行うものである。さらに、上部車体90の下部には車両1の走行を行う左右一対のクローラ式走行装置80が配設されている。
【0021】
クローラ式走行装置80は、図2に示すとおり、進行方向に延設された左右2本のクローラフレーム81L,81Rと、このクローラフレーム81L,81R間を連結する2本のサイドフレーム82,83と、からなり、クローラフレーム81L,81Rの前後端には、それぞれ従動アイドラ85が回転自在に支持され、この2つの従動アイドラ85間には、4つのイコライザ転輪86が回転自在に支持されている。そして、2つの従動アイドラ85と、4つのイコライザ転輪86と、リアアクスルケース88より軸支された駆動スプロケット60とが、この駆動スプロケット60を頂点とし、2つの従動アイドラ85を結ぶ直線を底辺とする、略三角形状にクローラベルト95を巻回してなるクローラ式走行装置80が形成されている。なお、このクローラ式走行装置80の全長は、上部車体90の長さの50〜55%である。
【0022】
前部のサイドフレーム82からは、上方へ向けてさらに2本の支持部材87が配設されており、この支持部材87を、後述するクラッチハウジング5の側面にボルト締めすることにより、上部車体90と、クローラ式走行装置80とを連結している。また、クローラフレーム81L,81Rの後部には、左右駆動スプロケット60L,60Rが接続される左右車軸(リアアクスル)89L,89Rを軸支させるための左右リアアクスルケース88L,88Rがクローラフレーム81L,81R上に左右リアアクスルケースステー99L,99Rと一体で形成されている。
【0023】
以下、本発明のクローラ式トラクタ1の走行系統について説明する。エンジン3からの動力は、図3に示すように、クラッチハウジング5を介してミッションケース23内の主副変速装置39で変速された後、左右の差動機構50L,50Rに入力される。そして、差動機構50L、50Rより延出された左右車軸89L,89R介して左右駆動スプロケット60L,60Rによりクローラ式走行装置80を駆動させる。また、後述する車両1を旋回させるための、旋回用の油圧変速機構(HST)ポンプ72がミッションケース23の側方に、旋回用HSTモータ73が差動機構50Lの上方にそれぞれ設けられる。また、差動機構50L,50Rは左右入れ替えも可能である。
【0024】
そして、可変容量型である旋回用HSTポンプ72内の可動斜板は、副変速アームを介してステアリングハンドル9に連係され、後述するステアリングハンドル9の操向量に応じて旋回用HSTポンプ72からの吐出量が調節され、この吐出量に応じて旋回用HSTモータ73の出力回転数と回転方向とが制御される。そして、旋回用HSTモータ73の出力と副変速装置39からの出力とが、後述する差動機構50内で合成され、車軸89L,89Rを介して駆動スプロケット60L,60Rを回転駆動させる。
【0025】
本発明のクローラ式トラクタ1では、上記のように旋回用HSTポンプ72及び旋回用HSTモータ73を配備するが、通常、ミッションケース23の下部に配置される旋回用HSTポンプ72を、本発明においてはミッションケース23と並列配置させることで、高い最低地上高を確保することができる。また、旋回用HSTポンプ72と旋回用HSTモータ73とが別体であるため、旋回用HSTモータ73をミッションケース23の上方に配置することにより、旋回用HSTモータ73を修理する場合にも、ミッションケース23内に貯留されるオイルが旋回用HSTモータ73から流出することなく、旋回用HSTモータ73のメンテナンスや交換など取り外しが容易になり、作業効率が向上する。更に、旋回用HSTモータ73がミッションケース23の上部、特に後述する差動機構50の上部に配置させたことにより、旋回用HSTモータ73から遺漏するオイルを直接差動機構50に流下させることができる。
【0026】
続いて、ミッションケース23内の動力伝達の構成を説明する。図4に示すように、エンジン3の出力軸31は、クラッチハウジング5を介して、前後進切換機構7へと入力される。この前後進切換機構7は、車両1の前進時には、出力軸31と前進ギア32とが噛合い、一方、車両1の後進時には、出力軸31と後進ギア34とが後進用カウンタ軸35のカウンタギア36を介して噛合うことにより車両1の前後進を行わせる。
【0027】
そして、前後進切換機構7から主軸37を介して、さらに車両1後部の主副変速装置39へと動力が伝達される。主軸37と、この主軸37の上方に位置する主変速軸41とは、異なる歯数を有する4つの主変速ギア42を介して連結されている(主変速4段の場合)。主変速ギア42は常に主軸37上のギア66と噛合し、共に回転している。一方、主変速ギア42は、主変速軸41上に遊嵌されており、主変速ギア42の回転により主変速軸41が回転することはないが、図示しない主変速レバーによって、4つの主変速ギア42の何れかを、選択的に主変速軸41上に固定することにより、主変速軸41は、主変速軸41上に固定された主変速ギア42の歯数に応じた回転駆動を行なう。
【0028】
このようにして回転駆動する主変速軸41は、主変速軸41後方に位置し、主変速軸41上に固設された2つのギア62から、副変速ギア46を介して、副変速軸45へと伝達される。副変速軸45上には、異なる歯数を有する2つの副変速ギア46(副変速2段の場合)が摺動自在に形成されており、図示しない副変速レバーによって、これら2つのギア46が、副変速軸45上を前後に摺動して、選択的に前記主変速軸41上の何れかのギア62と噛合することにより、副変速後の動力を得るものである。そして、副変速後の動力は、副変速軸45後端に位置するベベルギア47を介して回転方向を前後方向から左右方向へと変え、後述するミッションケース23後方に位置する差動機構50L,50Rへと入力されることとなる。
【0029】
エンジン3の出力の一部は、前後進切換え機構7から、PTO変速ギア48を介してPTOカウンタ軸49に連結され、車両1後部のPTO出力軸91に伝えられるようになっている。また、旋回用HSTポンプ72を駆動するための動力は、副変速軸45上に固設されたカウンタギア64を介して、副変速後の動力を複数のカウンタ軸61へと伝達され、最後にベルト駆動により、旋回用HSTポンプ72の入力軸63へと伝達される。特に、旋回用HSTポンプ72を駆動するための動力を、カウンタ軸61よりチェーン65などを介して旋回用HSTポンプ72に入力することにより、旋回用HSTポンプ72を任意の位置に配置させることが可能となる。よって、従来ではミッションケース23下部に配置することが多かった旋回用HSTポンプ72を、ミッションケース23の側面に配置することにより、車両1の最低地上高を高くすることができる。
【0030】
次に、車両1の旋回をおこなうための差動機構50の構成について説明する。図5に示すように、副変速軸45の後端に固設されたベベルギア47と、ピニオン軸22の中央部分に固設されたベベルギア21とを介して、前後方向の副変速後の動力を、左右方向へと回転方向を変え、後述する左右の差動機構50L,50Rへと伝達する。ピニオン軸22の左右両端に固設されたギア25L,25Rは、このギア25L,25Rと噛合するギア27L,27Rを介して、左右の入力軸20L,20Rを駆動する。この入力軸20L,20Rは、差動機構50である遊星ギア機構50のサンギア51L,51Rを回転駆動する。この遊星ギア機構50により旋回のための差動回転が出力される。
【0031】
さらに遊星ギア機構50について詳述する。遊星ギア機構50L,50Rは、入力軸20L,20Rに固設されたサンギア51L,51Rと、サンギア51L,51Rの周りを自公転自在に設けられたプラネタリアギア53L,53Rと、このプラネタリアギア53L,53Rを軸支するとともに入力軸20L,20Rと車軸89L,89Rとに回転自在に遊嵌されたキャリア55L,55Rとからなる。そして、キャリア55L,55Rの外周には、さらにキャリアギア56L,56Rが形成されている。
【0032】
この遊星ギア機構50L,50Rの構成により、車両1の直進時、即ち、左右の駆動スプロケット60L、60Rの回転が等しい回転数となるときは、キャリア55L,55Rは回転せず、遊星ギア機構50L,50Rの各ギアは、その場で各軸上を自転回転して駆動スプロケット60L,60Rを回転させる。その結果、左右の駆動スプロケット60L,60Rはそれぞれ同回転数かつ同回転方向で回転し、車両1を直進させる。一方、車両1の旋回時、即ち、左右の駆動スプロケット60L,60Rの回転が異なる回転数となるときは、キャリア55L,55Rを、後述する旋回用HSTモータ73により回転駆動させて、遊星ギア機構50L,50Rのプラネタリアギア53L,53Rを、サンギア51L,51R周囲において公転させる。
【0033】
そして、サンギア51L,51Rの回転に加え、キャリア55L,55Rの回転により、サンギア51L,51Rと、キャリア55L,55Rとの間に位置するプラネタリアギア53L,53Rがサンギア51L,51R周りを公転し始める。このとき、サンギア51L,51Rの回転と、キャリア55L,55Rの回転とが等しい方向である場合には、これらサンギア51L,51Rの回転と、キャリア55L,55Rの回転との回転和がプラネタリアギア53L,53Rの自公転を介して、車軸ギア58L,58Rを回転させる。
【0034】
一方、サンギア51L,51Rの回転と、キャリア55L,55Rの回転とが異なる方向である場合、これら、サンギア51L,51Rの回転と、キャリア55L,55Rの回転との回転差が、プラネタリアギア53L,53Rの自公転を介して、車軸ギア58L,58Rを回転させる。
【0035】
ここで、キャリア55L,55Rの回転は、旋回用HSTモータ73により回転駆動されるが、旋回用HSTモータ73は、上述のとおりステアリングハンドル9の操向に伴い回転駆動され、旋回用HSTモータ73の回転は、この旋回用HSTモータ73の出力ギア35に噛合う左右2つの逆転ギア52L,52Rを介して左右の逆転軸43L,43Rをそれぞれ逆回転させる。そして、これら逆転軸43L,43Rはそれぞれ、逆転軸43L,43Rの一端に固設された差動ギア44L,44Rと、キャリアギア56L,56Rとを介して左右のキャリア55L,55Rを逆回転させる。このようにして、旋回用HSTモータ73の回転に伴い、遊星ギア機構50の左右のキャリア55L,55Rはそれぞれ逆回転し、その結果、一方の遊星ギア機構50は回転が足され、他方の遊星ギア機構50は回転が差し引かれるため、左右の駆動スプロケット60L,60Rはそれぞれ異なる回転数で回転し、車両1を旋回させる。
【0036】
このように、前部のエンジン3から、ミッションケース23内の主副変速装置39を介して後部へと伝達される直進用の出力と、ステアリングハンドル9の操向により回転駆動する旋回用HSTモータ73の出力とが、差動機構(左右遊星ギア機構50L,50R)50内で合成されることにより、左右のクローラ走行装置80の駆動スプロケット60L,60Rを差動回転させ、左方向若しくは右方向へと車両1を旋回させる構成である。
【0037】
また、ピニオン軸22の片端には複数のブレーキ板29がピニオン軸22上に形成されており、運転者の操作により図示しないブレーキペダルが操作されると、ブレーキアーム28が連動して回動し、このブレーキアーム28の回動に伴い、ピニオン軸22にブレーキ作用を発生させるとともに車両1を減速させるものである。
【0038】
特に、ブレーキ板29は、ピニオン軸22の右端に位置しており、ブレーキ板や、ブレーキアームなどを収容する図示しないブレーキケースを右側の遊星ギア機構50Rを収容する右リアアクスルケース80Rと一体とすることが可能である。また、旋回用HSTモータ73が、左リアアクスルケース88L上に位置しているため、右リアアスクルケース88Rに配置されたブレーキ機構と、左リアアクスルケース88Lに配置された旋回用HSTモータ73とにより車両1の重量バランスを保つことが可能である。
【0039】
さらには、ブレーキ機構と、旋回用HSTモータ73とを左右に分けて配置することにより、ブレーキ機構を構成する不図示のリンク関係と、旋回用HST機構を構成する不図示の油圧配管類とを左右のリアアクスルケース88L,88R内に分けて配置することが可能であり、車両1のメンテナンス性が向上する効果がある。
【0040】
次に、本願発明の特徴であるステアリングハンドル9と旋回用HSTポンプ72とを連結するロッドについて詳述する。上述のように、HST旋回用ポンプ72には可動斜板が配置され、その傾斜角を変動させるとポンプ吐出量が変動する。この可動斜板は、HST旋回用ポンプ72のトラニオンアームと連動しており、このトラニオンアームの円弧運動に対応して可動斜板の傾斜角が変動する。従って、ステアリングハンドル9の回転駆動力がトラニオンアームの円弧運動に変換して出力され、ステアリングハンドル9の回転量に対応して可動斜板の傾斜角が変化される。
【0041】
図6は、ステアリングハンドル9と旋回用HSTポンプ72との連結を示す側面図である。ステアリング構造は、ステアリングハンドル9からステアリングコラム100内を通してステアリング軸101が延設され、ステアリング軸101の下端において、ユニバーサルジョイント102やベベルギヤなどによってステアリング入力軸103に連結している。
【0042】
ステアリングハンドル9の回転駆動は、ステアリング軸101を介して運転キャビン4下部に配設されたステアリングカム機構104に入力され、この回転動力は、ステアリングカム機構104内においてステアリングアーム105などの出力軸の前後運動に変換される。ステアリングアーム105は、HST旋回用ポンプ72のトラニオンアーム106とロッド107によって連結され、ステアリングアーム105の前後運動が、ロッド107を介してトラニオンアーム106の円弧運動としてHST旋回用ポンプ72に入力され、可動斜板の傾斜角を変動させる。
【0043】
図7に示すようにステアリングカム機構104では、ステアリング入力軸103に左旋回用偏芯カム108、連結部材109、ステアリングアーム105および右旋回用偏芯カム110がそれぞれ貫通しており、連結部材109の上部には、左旋回用コロ111が固設され、このコロ111は左旋回用偏芯カム108と接触している。また、ステアリングアーム105の端末下部には右旋回用コロ112が固設され、このコロ112は右旋回用偏芯カム110と接触している。なお、連結部材109は、左旋回用偏芯カム110とステアリングアーム105に固設されている。
【0044】
ステアリングハンドル9が右回転すると、その回転によってステアリング入力軸103が右回転し、ステアリングカム機構104の右旋回用偏芯カム110が右回転する。この右旋回用偏芯カム110はステアリングアーム105の末端に固設される右旋回用コロ112と接触し、右旋回用偏芯カム110の回転によって右旋回用コロ112を介してステアリングアーム105を、ステアリング入力軸103を中心として機体前方に移動させる。一方、ステアリングハンドル9が左回転した場合、その回転によってステアリング入力軸103が左回転し、ステアリングカム機構104の左旋回用偏芯カム108が左回転する。この左旋回用偏芯カム108は左旋回用コロ111と接触しており、ステアリング入力軸103を中心として左旋回用コロ111を回転させ、同時にこのコロ111に固設される連結部材109を回転させる。この連結部材109はステアリングアーム105と連結しており、連結部材109の回転に対応してステアリングアーム105を機体後方に移動させる。
【0045】
ステアリングアーム105とHST旋回用ポンプ72のトラニオンアーム106とはロッド107によって連結され、ステアリングアーム105の前後方向の移動運動に対応してトラニオンアーム106が円弧運動を行う。この円弧運動に対応してHST旋回用ポンプ72の可動斜板の傾斜角が変動される。
【0046】
ステアリングカム機構104の出力アームであるステアリングアーム105とトラニオンアーム106とがロッド107で連結されるためには、ステアリングカム機構104とHST旋回用ポンプ72とが前後に配置されることが必要である。本発明の操向用油圧変速機構は、HST旋回用ポンプ72とHST旋回用モータ73とを分離して配設することができるため、HST旋回用ポンプ72をトランスミッション23の側部に配置して、最低地上高を高く維持することができる。HST旋回用ポンプ72をトランスミッション23の側部に、その前方にステアリングカム機構104を配置すれば、HST旋回用ポンプ72のトラニオンアーム106とステアリングカム機構104のステアリングアーム105とをロッド107で連結することができる。
【0047】
従って、HST旋回用ポンプ72をトランスミッション23の右側部に配置する場合には、ステアリングカム機構104を運転キャビン4の右ステップ下に、HST旋回用ポンプ72をトランスミッション23の左側部に配置する場合には、ステアリングカム機構104を運転キャビン4の左ステップ下に配置すればよい。この際、HST旋回用ポンプ72は、ステアリングハンドル9の回転を出力するステアリングアーム105の前後運動とHST旋回用ポンプ72のトラニオンアーム106の円弧運動とが連動するように配置する。
【0048】
このように配置されたステアリングアーム105とトラニオンアーム106とを連結するロッド107の中途部に緩衝装置113が設けられる。図8は図6の緩衝装置113を拡大した模式図である。この緩衝装置113は、シリンジ型の構造を有しており、ロッド107の前部107aの後端にその前端が固設されるバレル部113aと、このバレル部113aに内設しロッド107の後部107b前端を覆うように設けられたプランジャー部(圧縮バネケース)113bとから構成される。
【0049】
また、プランジャー部113bのロッド107bの外周には、機体前後方向に伸縮される圧縮バネ114が備えられる。さらに、プランジャー部113b前端と圧縮バネ114前端との間にはストッパカラー115が設けられる。なお、この圧縮バネ114は荷重の設定を可能としており、この設定荷重以上の荷重が外部から加えられることで、圧縮バネ114が伸縮する構造となっている。
【0050】
ここで、機体を旋回させる際、ステアリングハンドル9を勢いよく回し始めたとき、例えば左旋回の場合、ステアリング入力軸103からステアリングアーム105を介してロッド107にかかる機体後方への大きな荷重が、予め設定された圧縮バネ114の荷重を超えていると、圧縮バネ114の伸長に伴いロッド107bがバレル部113a内において、機体前方に収縮することで、トラニオンアーム106の円弧運動を機体前方に戻すことにより連動する可動斜板の角度が戻される結果、HST旋回用ポンプ72の吐出圧に急激なピーク圧が生じることがない。従って、旋回開始時に機体が急旋回することなく、滑らかな旋回フィーリングが可能となる。
【0051】
また、上記同様にステアリングハンドル9を勢いよく回し始め、機体を右旋回させる場合においては、ロッド107にかかる機体前方への大きな荷重が、予め設定された圧縮バネ114の荷重を超えていると、圧縮バネ114の収縮に伴いロッド後部107bがバレル部113a内において、機体後方に伸長することで、トラニオンアーム106の円弧運動を機体後方に戻すことにより連動する可動斜板の角度が戻される結果、HST旋回用ポンプ72の吐出圧に急激なピーク圧を生じることがない。従って、旋回開始時に機体が急旋回することなく、滑らかな旋回フィーリングが可能となる。
【0052】
なお、圧縮バネ114の設定荷重は、その目的が機体旋回開始時におけるHST旋回用ポンプ72の吐出圧のピーク圧排除であるため、低いことが望ましいが、設定荷重が低すぎると通常の旋回時に圧縮バネ114がたわむので、その張力が弱くなり、ステアリングハンドル9の操向とHST旋回用ポンプ72の吐出圧とが比例せず、ステアリング操作に違和感が生じる。また、圃場条件によってもロッド107の軸力が異なるため、これら条件により圧縮バネ114の設定荷重を適宜設定する。
【0053】
次に、プランジャー部113b前端と圧縮バネ114前端との間にストッパカラー115を設けることにより、圧縮バネ114のたわみをなくすことができる。この圧縮バネ114のたわみの程度は、設けるストッパカラー115のサイズにより調整可能としている。これにより、機体旋回時のロッド107の軸力をトラニオンアーム106に確実に伝達させ、可動斜板を所定の角度まで倒すことで、HST旋回用ポンプ72の最大吐出圧を引き出せるので、旋回能力の維持が可能となる。従って、ストッパカラー115により、圧縮バネ114がたわみすぎて、ロッド107の軸力が小さくなり、可動斜板を所定の角度まで倒せずHST旋回用ポンプ72の有する最大吐出圧を得られないことによる旋回能力の減少を抑止することができる。
【0054】
以上詳述したように、この例のクローラ式トラクタ1は、両端に従動アイドラ85を回転可能に支持するクローラフレーム81と車軸(リアアクスル)89に装着された駆動スプロケット60を有し、かつ従動アイドラ85と駆動スプロケット60との間にクローラベルト95が巻装されるクローラ式走行装置80を上部車体90の下部に備え、ステアリングハンドル9の下部にステアリング軸101を介して継設されたステアリングカム機構104と旋回用HSTポンプ72のトラニオンアーム106とを連結するロッド107の中途部に緩衝装置113を設けるものである。加えて、緩衝装置113が圧縮バネ114を備え、プランジャー部(圧縮バネケース)113b内にストッパカラー115を設ける。
【0055】
なお、圧縮バネ114のたわみの調整は、ストッパカラー115を設けることに限定されるものではなく、プランジャー部113b前端と圧縮バネ114前端との間にスプリングなどを設けてもよい。
【0056】
上述の例では、クローラ式作業車両の一例としてトラクタ(農作業機)について説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、農作業機としてコンバインなど、また、建設作業機として、バックホー,ブルトーザなど、クローラを備えたあらゆる作業機に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一例として、小型クローラ式トラクタを示す側面図である。
【図2】図1に示すトラクタにおけるクローラ式走行装置付近の斜視図である。
【図3】図1に示すトラクタにおける断面平面図である。
【図4】図1に示すトラクタにおける駆動部の断面側面図である。
【図5】図1に示すトラクタにおけるミッションケース内の差動機構付近を拡大した断面平面図である。
【図6】ステアリングハンドルと旋回用HSTポンプとの連結を示す側面図である。
【図7】ステアリングカム機構を示す斜視図である。
【図8】図6の緩衝装置を拡大した模式図である。
【図9】従来の小型ホイール式トラクタを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
9 ステアリングハンドル
72 旋回用HSTポンプ
100 ステアリングコラム
101 ステアリング軸
102 ユニバーサルジョイント
103 ステアリング入力軸
104 ステアリングカム機構
105 ステアリングアーム
106 トラニオンアーム
107 ロッド
107a ロッド前部
107b ロッド後部
108 左旋回用偏芯カム
109 連結部材
110 右旋回用偏芯カム
111 左旋回用コロ
112 右旋回用コロ
113 緩衝装置
113a バレル部
113b プランジャー部(圧縮バネケース)
114 圧縮バネ
115 ストッパカラー




 

 


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