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発明の名称 車両用ディスクブレーキ制御装置
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−216944(P2007−216944A)
公開日 平成19年8月30日(2007.8.30)
出願番号 特願2006−297866(P2006−297866)
出願日 平成18年11月1日(2006.11.1)
代理人 【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
発明者 松浦 正裕 / 田口 健康 / 岸本 正志
要約 課題
ブレーキディスクが熱倒れ状態から復帰した後において発生するブレーキパッドの「引き摺り」を解消できるディスクブレーキ制御装置を提供すること。

解決手段
本装置は、ブレーキディスク温度が値T1を超えたとき「熱倒れ状態が発生した」と判定し、熱倒れ状態にあるブレーキディスクDの温度が値T2(<値T1)を下回ったとき「熱倒れ状態から復帰した(熱倒れ復帰状態)」と判定する。「熱倒れ復帰状態」と判定された後の所定のタイミングにて、所定の短時間だけ、運転者によるブレーキペダル操作とは独立して全てのホイールシリンダに微小液圧を付与する。これにより、上記微小液圧が開放された後において、ブレーキディスクDに対するインナーパッドPin及びアウターパッドPoutの位置が正常位置に戻されて、「熱倒れ復帰状態」において発生するインナーパッドPinの「引き摺り」が解消される。
特許請求の範囲
【請求項1】
車両の車輪と一体で回転するブレーキディスク(D)と、
前記ブレーキディスク(D)の摺動面に押し付け可能に配置されたブレーキパッド(Pin,Pout)と、
前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付けるアクチュエータ(C,W,Pis)と、
を備えたディスクブレーキ装置に適用される車両用ディスクブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキディスク(D)の温度上昇によりその摺動面が傾く状態である熱倒れ状態が発生しているか否かを判定する熱倒れ状態判定手段(51,410)と、
前記熱倒れ状態にあった前記ブレーキディスク(D)が同熱倒れ状態から復帰したか否かを判定する熱倒れ状態復帰判定手段(51,425)と、
前記ブレーキディスク(D)が前記熱倒れ状態から復帰したと判定された後、前記アクチュエータ(C,W,Pis)を制御して前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付ける押し付け手段(51、図6のルーチン)と、
を備えた車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記押し付け手段(51、図6のルーチン)は、
前記車両が、前記ブレーキパッド(Pin,Pout)の前記ブレーキディスク(D)への前記押し付けにより発生する制動力を前記車両の乗員が感知し難い所定の走行状態になった場合にのみ、前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付けるように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記押し付け手段(51、図6のルーチン)は、
前記車両にエンジンブレーキが発生したか否かを判定するエンジンブレーキ判定手段(51,615)を備え、
前記車両に前記エンジンブレーキが発生したと判定された場合に前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付けるように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記押し付け手段(51、図6のルーチン)は、
前記エンジンブレーキによる制動力を調整するエンジンブレーキ調整手段(51,635)を備え、
前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付けている間、前記ブレーキパッド(Pin,Pout)の前記ブレーキディスク(D)への前記押し付けにより発生する制動力分だけ前記エンジンブレーキによる制動力を小さくするように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項2乃至請求項4の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記押し付け手段(51、図6のルーチン)は、
前記車両が加速状態になったか否かを判定する加速状態判定手段(51,620)を備え、
前記車両が加速状態になったと判定された場合に前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付けるように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記押し付け手段(51、図6のルーチン)は、
前記車両のエンジンの駆動力を調整するエンジン駆動力調整手段(51,645)を備え、
前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付けている間、前記ブレーキパッド(Pin,Pout)の前記ブレーキディスク(D)への前記押し付けにより発生する制動力分だけ前記エンジンの駆動力を大きくするように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項7】
請求項2乃至請求項6の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記押し付け手段(51、図6のルーチン)は、
前記車両が悪路を走行している状態にあるか否かを判定する悪路走行状態判定手段(51,625)を備え、
前記車両が悪路を走行している状態にあると判定された場合に前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付けるように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記ディスクブレーキ装置は、前記ブレーキディスクの温度(T)を取得する温度取得手段(44、図7のルーチン)を備え、
前記熱倒れ状態判定手段(51,410)は、
前記取得されたブレーキディスクの温度(T)が第1所定温度(T1)を超えたとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、
前記熱倒れ状態復帰判定手段(51,425)は、
前記取得されたブレーキディスクの温度(T)が前記第1所定温度(T1)よりも低い第2所定温度(T2)を下回ったとき前記ブレーキディスク(D)が前記熱倒れ状態から復帰したと判定するように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記温度取得手段(44、図7のルーチン)は、
前記車両の運転者のブレーキ操作による前記ディスクブレーキ装置の作動により発生する前記車両の車体減速度(G)から得られる前記ブレーキディスクへの蓄熱速度(Tup)と、前記車両の車体速度(Vso)から得られる前記ブレーキディスクからの放熱速度(Tdown)とに基づいて前記ブレーキディスクの温度(T)を計算により推定していく(図7のルーチン)ように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項10】
請求項1乃至請求項7の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記車両の車体減速度(G)を取得する車体減速度取得手段を備え、
前記熱倒れ状態判定手段(51,1005,1205)は、
前記車体減速度(G)と第1所定減速度(G1)との比較に基づいて前記熱倒れ状態が発生したか否かを判定し、
前記熱倒れ状態復帰判定手段(51,1010,1210)は、
前記車体減速度(G)と前記第1所定減速度(G1)よりも減速度合いの小さい第2所定減速度(G2)との比較に基づいて前記ブレーキディスク(D)が前記熱倒れ状態から復帰したか否かを判定するように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項11】
請求項10に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記熱倒れ状態判定手段(51,1005)は、
前記車体減速度(G)が前記第1所定減速度(G1)よりも減速度合いが大きい状態が第1所定時間(L1)だけ継続したとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、
前記熱倒れ状態復帰判定手段(51,1010)は、
前記車体減速度(G)が前記第2所定減速度(G2)よりも減速度合いが小さい状態が第2所定時間(L2)だけ継続したとき前記ブレーキディスク(D)が前記熱倒れ状態から復帰したと判定するように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項12】
請求項10に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記熱倒れ状態判定手段(51,1205)は、
前記車体減速度(G)の前記第1所定減速度(G1)からの減速度合いがより大きい方向への偏差の積算値である第1時間面積(Slean)が第1所定値(S1)を超えたとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、
前記熱倒れ状態復帰判定手段(51,1210)は、
前記車体減速度(G)の前記第2所定減速度(G2)からの減速度合いがより小さい方向への偏差の積算値である第2時間面積(Sret)が第2所定値(S2)を超えたとき前記ブレーキディスク(D)が前記熱倒れ状態から復帰したと判定するように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記熱倒れ状態判定手段(51,1205)は、
前記車体減速度(G)が減速度合いがより大きい方向へ変化しながら前記第1所定減速度(G1)を通過した時点から前記第1時間面積(Slean)を積算開始するとともに同積算開始時点から第3所定時間(L3)が経過するまでに前記第1時間面積(Slean)が前記第1所定値(S1)を超えたとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、
前記熱倒れ状態復帰判定手段(51,1210)は、
前記車体減速度(G)が減速度合いがより小さい方向へ変化しながら前記第2所定減速度(G2)を通過した時点から前記第2時間面積(Sret)を積算開始するとともに同積算開始時点から第4所定時間(L4)が経過するまでに前記第2時間面積(Sret)が前記第2所定値(S2)を超えたとき前記ブレーキディスク(D)が前記熱倒れ状態から復帰したと判定するように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記ディスクブレーキ装置の前記アクチュエータ(C,W,Pis)は、制動液圧により駆動されるように構成されていて、
前記押し付け手段(51、図6のルーチン)は、
前記車両の全ての車輪について、前記アクチュエータ(C,W,Pis)に同一の制動液圧を付与して前記ブレーキパッド(Pin,Pout)を前記ブレーキディスク(D)へ押し付けるように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14の何れか一項に記載の車両用ディスクブレーキ制御装置において、
前記押し付け手段(51、図6のルーチン)は、
前記車両が旋回状態にあるか否かを判定する旋回状態判定手段を備え、
前記車両が旋回状態にあると判定される場合、前記ブレーキパッド(Pin,Pout)の前記ブレーキディスク(D)への前記押し付けを行わないように構成された車両用ディスクブレーキ制御装置。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に適用される車両用ディスクブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の車輪と一体で回転するブレーキディスクと、ブレーキディスクの摺動面に押し付け可能に配置されたブレーキパッドと、ブレーキパッドをブレーキディスクへ押し付けるアクチュエータとを備えたディスクブレーキ装置が広く知られている。
【0003】
図14、及び図15は、制動液圧を利用した所謂可動キャリパ型のディスクブレーキ装置の主要断面図である。この可動キャリパ型のディスクブレーキ装置では、可動キャリパCは、車体側に固定された図示しないマウンティングに対してブレーキディスクDの軸方向(紙面横方向)に沿ってのみ相対移動可動に配置されている。
【0004】
この可動キャリパC内に配設されたホイールシリンダW(図15を参照)内に制動液圧が付与されると、ホイールシリンダW内にてピストンシールSにより液密的に摺動可能に配置されたピストンPisがブレーキディスクDの車体内側摺動面に向けて(紙面左方向に)駆動される。
【0005】
この結果、ピストンPisのブレーキディスクD側の頂面に一体的に配置されたインナーパッド(車体内側のパッド)PinがブレーキディスクDの車体内側摺動面に押し付けられる。同時に、可動キャリパCはその反力を受けてピストンPisと反対方向に(紙面右方向に)駆動される。この結果、可動キャリパCと一体に配置されたアウターパッド(車体外側のパッド)PoutがブレーキディスクDの車体外側摺動面に押し付けられる。
【0006】
即ち、ホイールシリンダW内に制動液圧が付与されると、インナーパッドPinとアウターパッドPoutとがそれぞれブレーキディスクDの対応する摺動面に向けて互いに反対方向に押し付けられる。この結果、ブレーキディスクDが制動液圧に応じた力をもってインナーパッドPinとアウターパッドPoutとに挟まれることで同制動液圧に応じた制動力が車輪に発生するようになっている。
【0007】
図14(a)は、正常な状態(且つ、ホイールシリンダW内に付与されていた制動液圧が開放された状態)における、インナーパッドPin、アウターパッドPout(即ち、可動キャリパC)、及びブレーキディスクDの間の正常な位置関係を示している。
【0008】
図14(a)に示すように、この正常状態では、インナーパッドPinとブレーキディスクDの車体内側摺動面との間、並びに、アウターパッドPoutとブレーキディスクDの車体外側摺動面との間にはそれぞれ隙間が形成され得る。特に、インナーパッドPinとブレーキディスクDの車体内側摺動面との間には隙間が形成され得る。これは、以下の理由に基づく。
【0009】
即ち、ホイールシリンダW内への制動液圧の付与によりインナーピストンPinがブレーキディスクDの車体内側摺動面に向けて(紙面左方向へ)移動すると、その移動に伴ってピストンシールSは、ブレーキディスクDの車体内側摺動面に向けて(紙面左方向へ)弾性変形した形状に維持される。この状態で、制動液圧が開放されると、ピストンシールSは上記弾性変形に基づく復元力により元の形状に戻ろうとする。
【0010】
このピストンシールSの復元力を受けてインナーピストンPinは、ブレーキディスクDの車体内側摺動面から離れる方向へ(紙面右方向へ)比較的大きく移動し得、この結果、インナーパッドPinとブレーキディスクDの車体内側摺動面との間には隙間が形成され得る。
【0011】
以上のように、図14(a)に示した正常状態では、パッドとブレーキディスクDの摺動面とが接触した状態で車輪(従って、ブレーキディスクD)が回転する現象(以下、「引き摺り」と称呼する。)が発生し難い。従って、インナーパッドPin、アウターパッドPout、及びブレーキディスクDの摺動面の磨耗が発生し難く、且つ、フェードが発生し難い。
【0012】
ところで、係るディスクブレーキ装置では、頻繁なブレーキ操作等によりブレーキディスクの温度が上昇し得る。ブレーキディスクの温度が過度に上昇すると、例えば、下記特許文献1に記載されているように、その摺動面が傾く(倒れる)現象(本出願では、「熱倒れ」と称呼する。)が発生し得る。
【0013】
図14(b)は、係る熱倒れによりブレーキディスクDの摺動面が車体外側に傾いた状態(熱倒れ状態)(且つ、制動液圧が開放されている状態)における、インナーパッドPin、アウターパッドPout(即ち、可動キャリパC)、及びブレーキディスクDの間の位置関係を示している。図14(b)に示したように、この熱倒れ状態では、インナーパッドPin、及びアウターパッドPoutのそれぞれの端部において、局所的な「引き摺り」が発生し易い。
【特許文献1】特開2004−36657号公報
【0014】
一方、ブレーキ操作が行われない状態で車両が走行すると、ブレーキディスクは走行風の影響等により冷却されてブレーキディスクの温度は低下する。この結果、熱倒れ状態にあったブレーキディスクは同熱倒れ状態から復帰し得る(即ち、ブレーキディスクは正常な状態(形状)に復帰し得る)。
【0015】
図14(c)(及び、図14(c)の要部拡大図である図15)は、上述した図14(b)に示した状態からブレーキ操作が行われずに車両が走行することでブレーキディスクDが熱倒れ状態から復帰した状態(熱倒れ復帰状態)(且つ、制動液圧が開放されている状態)における、インナーパッドPin、アウターパッドPout(即ち、可動キャリパC)、及びブレーキディスクDの間の位置関係を示している。
【0016】
図14(c)(及び、図15)に示したように、この熱倒れ復帰状態では、アウターパッドPoutとブレーキディスクDの車体外側摺動面との間には隙間が形成され得る。これは、ブレーキディスクDの温度の低下に伴って、車体外側へ傾いていたブレーキディスクDの摺動面の位置が正常な位置へ復帰していき、ブレーキディスクDの車体外側摺動面がアウターパッドPoutから離れていくことに起因する。換言すれば、アウターパッドPoutの「引き摺り」は発生し難い。
【0017】
一方、この熱倒れ復帰状態では、インナーパッドPoutの「引き摺り」が発生する。これは、ブレーキディスクDの温度の低下に伴って、ブレーキディスクDの車体内側摺動面がインナーパッドPinを(紙面右方向に)押しながら(即ち、上記車体内側摺動面とインナーパッドPinとが接触を維持しながら)、車体外側へ傾いていたブレーキディスクDの摺動面の位置が正常な位置へ復帰していくこと、並びに、上述した「ピストンシールSの復元力によるインナーピストンPinの(紙面右方向への)移動作用」が発生し得ないことに起因する。これにより、インナーパッドPin、及びブレーキディスクDの車体内側摺動面の磨耗が発生し易く、且つ、インナーパッドPinにおいてフェードが発生し易い。
【0018】
以上のように、熱倒れ復帰状態では、ブレーキディスクに対するブレーキパッドの位置が上記正常状態と異なることに起因して、ブレーキパッドの「引き摺り」が発生するという問題が発生する。
【発明の開示】
【0019】
本発明は係る問題に対処するためになされたものであって、その目的は、ディスクブレーキ装置に適用される車両用ディスクブレーキ制御装置であって、ブレーキディスクが熱倒れ状態から復帰した後において、ブレーキパッドの「引き摺り」を解消して、ブレーキパッド及びブレーキディスクの磨耗、並びに、ブレーキパッドのフェードを抑制し得るものを提供することにある。
【0020】
本発明に係る車両用ディスクブレーキ制御装置は、ブレーキディスクと、ブレーキパッドと、前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けるアクチュエータとを備えたディスクブレーキ装置に適用される。
【0021】
ディスクブレーキ装置としては、例えば、所謂可動キャリパ型、所謂対向ピストン型(固定キャリパ型)が挙げられる。また、ブレーキパッドを駆動するアクチュエータとしては、制動液圧を利用したもの(キャリパ内に形成されたホイールシリンダと、ホイールシリンダ内にて制動液圧により駆動されるブレーキパッドと一体のピストン)、モータを利用したもの(モータと、モータにより駆動されるブレーキパッドと一体の部材)等が挙げられる。
【0022】
本発明に係る車両用ディスクブレーキ制御装置は、前記熱倒れ状態が発生しているか否かを判定する熱倒れ状態判定手段と、前記熱倒れ状態にあった前記ブレーキディスクが同熱倒れ状態から復帰したか否かを判定する熱倒れ状態復帰判定手段と、前記ブレーキディスクが前記熱倒れ状態から復帰したと判定された後、前記アクチュエータを制御して(運転者によるブレーキ操作とは独立して)前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付ける押し付け手段とを備えている。
【0023】
これによれば、上記熱倒れ復帰状態(即ち、ブレーキディスクが正常な形状に復帰した状態)と判定されると、ブレーキパッドがブレーキディスクへ押し付けられる。従って、(ブレーキパッドのブレーキディスクへの押し付けが終了した後において)ブレーキディスクに対するブレーキパッドの位置が正常な状態に自然に戻される。この結果、ブレーキパッドの「引き摺り」が解消されて、ブレーキパッド及びブレーキディスクの磨耗、並びに、ブレーキパッドのフェードが抑制され得る。
【0024】
なお、上記押し付け手段によるブレーキパッドのブレーキディスクへの押し付け力は、ブレーキパッドを移動させてブレーキディスクの摺動面に同ブレーキパッドを接触させ得る力であってなるべく小さい力であることが好ましい。これにより、ブレーキパッドのブレーキディスクへの押し付けにより発生する制動力(以下、「パッド位置補正用制動力」と称呼する。)が必要最小限となり、この結果、車両の乗員がパッド位置補正用制動力から受ける違和感を小さくすることができる。
【0025】
この場合、前記押し付け手段は、前記車両が、前記パッド位置補正用制動力を前記車両の乗員が感知し難い所定の走行状態になった場合にのみ、前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けるように構成されることが好適である。これによると、車両の乗員がパッド位置補正用制動力から受ける違和感をより小さくすることができる。
【0026】
なお、「車両が、前記パッド位置補正用制動力を前記車両の乗員が感知し難い所定の走行状態になった場合」としては、例えば、車両挙動が変化する場合、車両の加速度、或いは減速度が変化する場合等が挙げられる。
【0027】
より具体的には、例えば、前記押し付け手段は、前記車両にエンジンブレーキが発生したか否かを判定するエンジンブレーキ判定手段を備え、前記車両に前記エンジンブレーキが発生したと判定された場合に前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けるように構成されると好ましい。
【0028】
この場合、前記押し付け手段は、前記エンジンブレーキによる制動力を調整するエンジンブレーキ調整手段を備え、前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けている間、前記パッド位置補正用制動力分だけ前記エンジンブレーキによる制動力を小さくするように構成されることが好適である。
【0029】
これにより、ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けている間、車両に働く制動力の総和をエンジンブレーキによる制動力が単独で作用している場合と同じとすることができる。従って、車両の乗員がパッド位置補正用制動力から受ける違和感を更に一層小さくすることができる。
【0030】
或いは、前記押し付け手段は、前記車両が加速状態になったか否かを判定する加速状態判定手段を備え、前記車両が加速状態になったと判定された場合に前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けるように構成されると好ましい。
【0031】
この場合、前記押し付け手段は、前記車両のエンジンの駆動力を調整するエンジン駆動力調整手段を備え、前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けている間、前記パッド位置補正用制動力分だけ前記エンジンの駆動力を大きくするように構成されることが好適である。
【0032】
これにより、ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けている間、車両に働く実質的な駆動力の大きさをエンジンの駆動力が単独で作用している場合と同じとすることができる。従って、これによっても、車両の乗員がパッド位置補正用制動力から受ける違和感を更に一層小さくすることができる。
【0033】
また、前記押し付け手段は、前記車両が悪路を走行している状態にあるか否かを判定する悪路走行状態判定手段を備え、前記車両が悪路を走行している状態にあると判定された場合に前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けるように構成されてもよい。
【0034】
車両が悪路を走行している場合、車両の加速度、或いは減速度が時々刻々と変化し得る。従って、この場合も、車両の乗員はパッド位置補正用制動力を感知し難くなる。即ち、上記構成によっても、車両の乗員がパッド位置補正用制動力から受ける違和感を更に一層小さくすることができる。
【0035】
上記本発明に係る車両用ディスクブレーキ制御装置においては、前記ディスクブレーキ装置は、前記ブレーキディスクの温度を取得する温度取得手段を備え、前記熱倒れ状態判定手段は、前記取得されたブレーキディスクの温度が第1所定温度を超えたとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、前記熱倒れ状態復帰判定手段は、前記取得されたブレーキディスクの温度が前記第1所定温度よりも低い第2所定温度を下回ったとき前記ブレーキディスクが前記熱倒れ状態から復帰したと判定するように構成されることが好適である。
【0036】
これによれば、ブレーキディスクの温度の取得結果に基づいて、熱倒れ状態の検出、及び熱倒れ状態からの復帰の検出を適切に行うことができる。なお、「熱倒れ状態が発生したとの判定」における「熱倒れ状態」とは、例えば、ブレーキディスクの摺動面の傾き角度が第1所定角度以上となる状態をいう。また、「熱倒れ状態から復帰したとの判定」における「熱倒れ状態からの復帰」とは、例えば、ブレーキディスクの摺動面の傾き角度が前記第1所定角度よりも小さい第2所定角度以下となる状態をいう。
【0037】
前記温度取得手段は、例えば、ブレーキディスクの温度を物理的に直接検出する温度センサを含んで構成される。或いは、前記温度取得手段は、前記車両の運転者のブレーキ操作による前記ディスクブレーキ装置の作動により発生する前記車両の車体減速度から得られる前記ブレーキディスクへの蓄熱速度(温度上昇勾配)と、前記車両の車体速度から得られる前記ブレーキディスクからの放熱速度(温度加工勾配)とに基づいて前記ブレーキディスクの温度を計算により(微小時間の経過毎に)逐次推定していくように構成される。この場合、比較的高価な温度センサを省略できるから、装置全体のコストを安価とすることができる。
【0038】
また、上記本発明に係る車両用ディスクブレーキ制御装置においては、前記ディスクブレーキ装置は、前記車両の車体減速度を取得する車体減速度取得手段を備え、前記熱倒れ状態判定手段は、前記車体減速度と第1所定減速度との比較に基づいて前記熱倒れ状態が発生したか否かを判定し、前記熱倒れ状態復帰判定手段は、前記車体減速度と前記第1所定減速度よりも減速度合いの小さい第2所定減速度との比較に基づいて前記ブレーキディスクが前記熱倒れ状態から復帰したか否かを判定するように構成されることが好適である。この場合、例えば、前記車体減速度が前記第1所定減速度よりも減速度合いが大きい値になったとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、前記車体減速度が前記第2所定減速度よりも減速度合いが小さい値になったとき前記ブレーキディスクが前記熱倒れ状態から復帰したと判定するように構成され得る。
【0039】
車両走行中のディスクブレーキ装置の作動時においては、車両の減速度合いが大きいほど、ブレーキパッドのブレーキディスクへの押し付け力の程度、従って、ブレーキディスクの温度上昇の程度が大きくなる傾向がある。即ち、車体減速度は、ブレーキディスクの温度上昇の程度を比較的正確に表すパラメータとなり得る。
【0040】
上記構成は係る知見に基づく。これによれば、ブレーキディスクの温度を取得(検出、推定)することなく、熱倒れ状態の検出、及び熱倒れ状態からの復帰の検出を適切に行うことができる。
【0041】
この場合、前記熱倒れ状態判定手段は、前記車体減速度が前記第1所定減速度よりも減速度合いが大きい状態が第1所定時間だけ継続したとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、前記熱倒れ状態復帰判定手段は、前記車体減速度が前記第2所定減速度よりも減速度合いが小さい状態が第2所定時間だけ継続したとき前記ブレーキディスクが前記熱倒れ状態から復帰したと判定するように構成されることが好適である。
【0042】
これによれば、前記車体減速度取得手段が受け得るノイズ等の影響による車体減速度の取得値の一時的な乱れに起因して、熱倒れ状態の検出、及び熱倒れ状態からの復帰の検出に係わる誤判定がなされる事態が抑制され得る。
【0043】
或いは、前記熱倒れ状態判定手段は、前記車体減速度の前記第1所定減速度からの減速度合いがより大きい方向への偏差の積算値である第1時間面積が第1所定値を超えたとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、前記熱倒れ状態復帰判定手段は、前記車体減速度の前記第2所定減速度からの減速度合いがより小さい方向への偏差の積算値である第2時間面積が第2所定値を超えたとき前記ブレーキディスクが前記熱倒れ状態から復帰したと判定するように構成されることが好適である。
【0044】
この場合、より好ましくは、前記車体減速度が減速度合いがより大きい方向へ変化しながら前記第1所定減速度を通過した時点から前記第1時間面積が(ゼロから)積算開始され、同積算開始時点から第3所定時間が経過するまでに前記第1時間面積が前記第1所定値を超えたとき前記熱倒れ状態が発生したと判定し、前記車体減速度が減速度合いがより小さい方向へ変化しながら前記第2所定減速度を通過した時点から前記第2時間面積が(ゼロから)積算開始されるとともに同積算開始時点から第4所定時間が経過するまでに前記第2時間面積が前記第2所定値を超えたとき前記ブレーキディスクが前記熱倒れ状態から復帰したと判定される。
【0045】
これによっても、上記と同様、ノイズ等の影響による車体減速度の取得値の一時的な乱れに起因して、熱倒れ状態の検出、及び熱倒れ状態からの復帰の検出に係わる誤判定がなされる事態が抑制され得る。
【0046】
上記本発明に係る車両用ディスクブレーキ制御装置においては、前記ディスクブレーキ装置の前記アクチュエータは、制動液圧により駆動されるように構成されていて、前記押し付け手段は、前記車両の全ての車輪について、前記アクチュエータに同一の制動液圧を付与して前記ブレーキパッドを前記ブレーキディスクへ押し付けるように構成されることが好適である。これによると、制動液圧の制御のために行われる電磁弁等の制御を簡易とすることができる。
【0047】
また、上記本発明に係る車両用ディスクブレーキ制御装置においては、前記押し付け手段は、前記車両が旋回状態にあるか否かを判定する旋回状態判定手段を備え、前記車両が旋回状態にあると判定される場合、前記ブレーキパッドの前記ブレーキディスクへの前記押し付けを行わないように構成されると好適である。
【0048】
旋回状態では、制動力の付与により車両挙動が不安定になる傾向が強い。上記構成によれば、旋回状態における上記パッド位置補正用制動力の付与が禁止されるから、旋回状態における上記パッド位置補正用制動力の付与により車両挙動が不安定になる事態の発生が防止され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明に係る車両用ディスクブレーキ制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係るディスクブレーキ制御装置を含んだ車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、前2輪が駆動輪である前輪駆動方式の車両である。
【0050】
この運動制御装置10は、駆動力を発生するとともに同駆動力を駆動輪FL,FRにそれぞれ伝達する駆動力伝達機構部20と、車輪**のディスクブレーキ装置(のホイールシリンダ)に制動液圧を供給するためのブレーキ液圧制御装置30と、各種センサ等から構成されるセンサ部40と、電子制御装置50とを含んで構成されている。なお、「**」は、何れの車輪に関するものかを示すための「fl」,「fr」等の包括表記である。
【0051】
車輪**のディスクブレーキ装置は、上述した図14、及び図15に示した可動キャリパ型のディスクブレーキ装置と同じ構成を備えている。従って、ここでは、それらの構成・作動についての詳細な説明を省略する。
【0052】
駆動力伝達機構部20は、駆動力を発生するエンジン21と、同エンジン21の吸気管21a内に配置されるとともに吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁THの開度TAを制御するDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ22と、エンジン21の図示しない吸気ポート近傍に燃料を噴射するインジェクタを含む燃料噴射装置23と、エンジン21の出力軸に入力軸が接続された自動変速機(AT)24と、AT24の出力軸から伝達される駆動力を適宜配分し同配分された駆動力を前輪FL,FRにそれぞれ伝達するディファレンシャル25を含んで構成されている。
【0053】
ブレーキ液圧制御装置30は、その概略構成を表す図2に示すように、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、車輪**に配置されたホイールシリンダW**に供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なRRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36と、還流ブレーキ液供給部37とを含んで構成されている。
【0054】
ブレーキ液圧発生部32は、ブレーキペダルBPの作動により応動するバキュームブースタVBと、バキュームブースタVBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。
【0055】
これらマスタシリンダMC及びバキュームブースタVBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びバキュームブースタVB(ブレーキ液圧発生手段)は、ブレーキペダルBPの操作力に応じた第1マスタシリンダ液圧及び第2マスタシリンダ液圧をそれぞれ発生するようになっている。
【0056】
マスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部との間には、常開リニア電磁弁PC1が介装されている。同様に、マスタシリンダMCの第2ポートと、FRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部との間には、常開リニア電磁弁PC2が介装されている。係る常開リニア電磁弁PC1,PC2の詳細については後述する。
【0057】
RRブレーキ液圧調整部33は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUrrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDrrとから構成されている。増圧弁PUrr、及び減圧弁PDrrを制御することでホイールシリンダWrr内のブレーキ液圧(ホイールシリンダ液圧Pwrr)が増圧・保持・減圧され得るようになっている。
【0058】
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,FRブレーキ液圧調整部35、RLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUfr及び減圧弁PDfr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されている。
【0059】
還流ブレーキ液供給部37は、直流モータMTと、同モータMTにより同時に駆動される2つの液圧ポンプ(例えば、ギヤポンプ)HP1,HP2を含んでいる。液圧ポンプHP1は、減圧弁PDrr,PDflから還流されてきたリザーバRS1内のブレーキ液を汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV8を介してRRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部に供給するようになっている。
【0060】
同様に、液圧ポンプHP2は、減圧弁PDfr,PDrlから還流されてきたリザーバRS2内のブレーキ液を汲み上げ、同汲み上げたブレーキ液をチェック弁CV11を介してFRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部に供給するようになっている。
【0061】
次に、常開リニア電磁弁PC1について説明する。常開リニア電磁弁PC1の弁体には、図示しないコイルスプリングからの付勢力に基づく開方向の力が常時作用しているとともに、RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の圧力から第1マスタシリンダ液圧Pmを減じることで得られる差圧(以下、単に「実差圧」と云うこともある。)に基づく開方向の力と、常開リニア電磁弁PC1への通電電流に応じて比例的に増加する吸引力に基づく閉方向の力が作用するようになっている。
【0062】
この結果、上記吸引力に相当する差圧(以下、「指令差圧ΔPd」と称呼する。)が通電電流に応じて比例的に増加するように決定される。そして、常開リニア電磁弁PC1は、指令差圧ΔPdが上記実差圧よりも大きいときに閉弁してマスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部との連通を遮断する。
【0063】
一方、常開リニア電磁弁PC1は、指令差圧ΔPdが実差圧よりも小さいとき開弁してマスタシリンダMCの第1ポートと、RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部とを連通する。この結果、(液圧ポンプHP1から供給されている)RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部のブレーキ液が常開リニア電磁弁PC1を介してマスタシリンダMCの第1ポート側に流れることで実差圧が指令差圧ΔPdに一致するように調整され得るようになっている。なお、マスタシリンダMCの第1ポート側へ流入したブレーキ液はリザーバRS1へと還流される。
【0064】
換言すれば、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁PC1への通電電流に応じて上記実差圧(の許容最大値)が制御され得るようになっている。このとき、RRブレーキ液圧調整部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の圧力は、第1マスタシリンダ液圧Pmに実差圧(=指令差圧ΔPd)を加えた値(Pm+ΔPd)となる。
【0065】
他方、常開リニア電磁弁PC1を非励磁状態にすると(即ち、通電電流を「0」に設定すると)、常開リニア電磁弁PC1はコイルスプリングの付勢力により開状態を維持するようになっている。このとき、実差圧が「0」になって、RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の圧力が第1マスタシリンダ液圧Pmと等しくなる。
【0066】
常開リニア電磁弁PC2も、その構成・作動について常開リニア電磁弁PC1のものと同様である。従って、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)が駆動されている場合、常開リニア電磁弁PC2への通電電流に応じて、FRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の圧力は、第2マスタシリンダ液圧Pmに指令差圧ΔPdを加えた値(Pm+ΔPd)となる。他方、常開リニア電磁弁PC2を非励磁状態にすると、FRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の圧力が第2マスタシリンダ液圧Pmと等しくなる。
【0067】
加えて、常開リニア電磁弁PC1には、ブレーキ液の、マスタシリンダMCの第1ポートから、RRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV5が並列に配設されている。これにより、常開リニア電磁弁PC1への通電電流に応じて実差圧が制御されている間においても、ブレーキペダルBPが操作されることで第1マスタシリンダ液圧PmがRRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の圧力よりも高い圧力になったとき、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、第1マスタシリンダ液圧Pm)そのものがホイールシリンダWrr,Wflに供給され得るようになっている。また、常開リニア電磁弁PC2にも、上記チェック弁CV5と同様の機能を達成し得るチェック弁CV6が並列に配設されている。
【0068】
以上、説明した構成により、ブレーキ液圧制御装置30は、右後輪RRと左前輪FLとに係わる系統と、左後輪RLと右前輪FRとに係わる系統の2系統の液圧回路から構成されている。ブレーキ液圧制御装置30は、全ての電磁弁が非励磁状態(通電電流=0)にあるときブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧(即ち、マスタシリンダ液圧Pm)をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。
【0069】
他方、この状態において、モータMT(従って、液圧ポンプHP1,HP2)を駆動するとともに、常開リニア電磁弁PC1,PC2をそれぞれ励磁(通電電流≠0)すると、マスタシリンダ液圧Pmよりも通電電流に応じて決定される指令差圧ΔPdだけ高いブレーキ液圧をホイールシリンダW**にそれぞれ供給できるようになっている。
【0070】
加えて、ブレーキ液圧制御装置30は、増圧弁PU**、及び減圧弁PD**を制御することでホイールシリンダ液圧Pw**を個別に調整できるようになっている。即ち、ブレーキ液圧制御装置30は、運転者によるブレーキペダルBPの操作とは独立して、各車輪に付与される制動力を車輪毎に個別に調整できるようになっている。
【0071】
以上の構成により、ブレーキ液圧制御装置30は、後述するように、電子制御装置50からの指示により、運転者によるブレーキペダルBPの操作がなされていない間において、上記パッド位置補正用制動力を付与できるようになっている。
【0072】
再び図1を参照すると、センサ部40は、車輪**の車輪速度に応じた周波数を有する信号をそれぞれ出力する電磁ピックアップ式の車輪速度センサ41**と、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出し、アクセルペダルAPの操作量Accpを示す信号を出力するアクセル開度センサ42と、運転者によるブレーキペダルBPの操作力を検出し、ブレーキペダル踏力Fpを示す信号を出力するブレーキペダル踏力センサ43と、車輪**のブレーキディスクD**の温度を代表する右前輪FRのブレーキディスクDfrの温度を検出し、ブレーキディスク温度Tを示す信号を出力する温度センサ44とを備えている。
【0073】
電子制御装置50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース55は、前記センサ等41〜44と接続され、センサ等41〜44からの信号をCPU51に供給するとともに、同CPU51の指示に応じてブレーキ液圧制御装置30の各電磁弁及びモータMT、スロットル弁アクチュエータ22、及び燃料噴射装置23に駆動信号を送出するようになっている。
【0074】
これにより、スロットル弁アクチュエータ22は、原則的に、スロットル弁THの開度TAがアクセルペダルAPの操作量Accpに応じた開度になるように同スロットル弁THを駆動するとともに、燃料噴射装置23は、筒内(シリンダ内)に吸入された空気量である筒内吸入空気量に対して所定の目標空燃比(例えば、理論空燃比)を得るために必要な量の燃料を噴射するようになっている。
【0075】
(パッド位置補正用制動力の付与の概要)
次に、上記構成を有する本発明の実施形態に係るディスクブレーキ制御装置を含んだ運動制御装置(以下、「本装置」と云うこともある。)による上記「パッド位置補正用制動力」の付与の概要について説明する。
【0076】
上述したように、本装置により制御される図14、及び図15に示した可動キャリパ型のディスクブレーキ装置では、頻繁なブレーキ操作等によりブレーキディスクDの温度が過度に上昇すると、その摺動面が傾く(倒れる)現象(即ち、上記「熱倒れ」)が発生し得る。一方、その後、走行風の影響等によりブレーキディスクDの温度が低下すると、ブレーキディスクDは熱倒れ状態から復帰し得る(即ち、ブレーキディスクDは正常な状態(形状)に復帰し得る)。
【0077】
ブレーキディスクDの摺動面の傾き角度は、ブレーキディスクDの温度が高いほど大きい。ブレーキディスクDの摺動面の傾き角度が第1所定角度となるブレーキディスクDの温度をT1、ブレーキディスクDの摺動面の傾き角度が上記第1所定角度よりも小さい第2所定角度となるブレーキディスクDの温度をT2(<T1)とすると、本装置では、温度センサ44から得られるブレーキディスク温度Tが値T1を超えたとき「熱倒れ状態が発生した」と判定される。一方、熱倒れ状態にあるブレーキディスクDの温度Tが値T2を下回ったとき「熱倒れ状態から復帰した(熱倒れ復帰状態)」と判定される。
【0078】
図3(a)は、「熱倒れ復帰状態」と判定されている場合(且つ、ブレーキ液圧が開放されている状態)における、インナーパッドPin、アウターパッドPout(即ち、可動キャリパC)、及びブレーキディスクDの間の位置関係を示している。上述した図14(c)に示した場合と同様、図3(a)に示した「熱倒れ復帰状態」では、アウターパッドPoutとブレーキディスクDの車体外側摺動面との間には隙間が形成され得、アウターパッドPoutの「引き摺り」は発生し難い。一方、インナーパッドPoutについては「引き摺り」が発生し易い。
【0079】
そこで、本装置は、「熱倒れ復帰状態」におけるインナーパッドPinの「引き摺り」を解消するため、上述したように「熱倒れ状態から復帰した」と判定した後における所定のタイミングで、ブレーキ液圧制御装置30を制御して全ての車輪のホイールシリンダW**に同一の微小液圧を所定時間(例えば、約1秒)だけ付与する。
【0080】
なお、係る所定のタイミングについては、後述するフローチャートを参照しながら説明する。また、上記微小液圧は、ブレーキパッド(インナーパッドPin及びアウターパッドPout)を移動させてブレーキディスクDの摺動面に接触させ得る液圧であってなるべく小さい液圧に設定されている。
【0081】
これにより、図3(b)に示すように、ピストンPis(即ち、インナーパッドPin)と可動キャリパC(即ち、アウターパッドPout)とが上記微小液圧に応じた力によりブレーキディスクDに向けてそれぞれ移動する。この結果、インナーパッドPin及びアウターパッドPoutは、既に正常な形状に復帰しているブレーキディスクDの車体内側摺動面及び車体外側摺動面を上記微小液圧に応じた力をもってそれぞれ押圧する。即ち、上記微小液圧に応じた上記パッド位置補正用制動力が全ての車輪に発生する。
【0082】
図3(c)は、係る上記パッド位置補正用制動力が開放された後(即ち、上記微小液圧が開放された後)における、インナーパッドPin、アウターパッドPout(即ち、可動キャリパC)、及びブレーキディスクDの間の位置関係を示している。図3(c)に示すように、この場合におけるブレーキディスクDに対するインナーパッドPin及びアウターパッドPoutの位置は、上述した図14(a)に示した「正常状態」と同じとなる。
【0083】
即ち、インナーパッドPinとブレーキディスクDの車体内側摺動面との間、並びに、アウターパッドPoutとブレーキディスクDの車体外側摺動面との間にはそれぞれ隙間が形成され得る。この結果、上述した「熱倒れ復帰状態」におけるインナーパッドPinの「引き摺り」が解消される。
【0084】
以上、説明したように、本装置は、「熱倒れ復帰状態」と判定された後の所定のタイミングにおいて、所定時間(例えば、約1秒)だけ、運転者によるブレーキペダル操作とは独立して、全てのホイールシリンダW**に上記微小液圧を付与することで「熱倒れ復帰状態」におけるインナーパッドPinの「引き摺り」を解消する。以上が、パッド位置補正用制動力の付与の概要である。
【0085】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本装置の実際の作動について、電子制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図4、及び図6を参照しながら説明する。以下、フラグLEANは、その値が「1」のとき「熱倒れ状態」にあることを示しその値が「0」のとき「熱倒れ状態」にないことを示す。フラグRETは、その値が「1」のとき「熱倒れ復帰状態」にあることを示しその値が「0」のとき「熱倒れ復帰状態」にないことを示す。
【0086】
CPU51は、図4に示した熱倒れ判定を行うルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ400から処理を開始し、ステップ405に進んで、フラグLEANの値が「1」であるか否かを判定する。
【0087】
いま、図5の時刻t1以前に示すように、温度センサ44から得られるブレーキディスク温度Tが値T2より低く、フラグLEANの値、及びフラグRETの値は共に初期値「0」になっているものとして説明を続ける。
【0088】
この場合、CPU51はステップ405にて「No」と判定してステップ410に進み、ブレーキディスク温度Tが値T1を超えたか否かをモニタする。現時点では、ブレーキディスク温度Tは値T1よりも低い。従って、CPU51はステップ410にて「No」と判定してステップ495に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理は、ブレーキディスク温度Tが値T1を超えるまで繰り返し実行される。
【0089】
次に、運転者による頻繁なブレーキ操作等により、図5の時刻t1に示すように、ブレーキディスク温度Tが上昇しながら値T1を超えた場合(即ち、「熱倒れ状態」にある場合)について説明する。この場合、CPU51はステップ410に進んだとき「Yes」と判定してステップ415に進み、フラグLEANの値を「0」から「1」に変更し、続くステップ420にてフラグRETの値を「0」に設定する。
【0090】
これにより、フラグLEANの値が「1」になっているから、CPU51はステップ405に進んだとき「Yes」と判定してステップ425に進むようになり、ステップ425にてブレーキディスク温度Tが値T2を下回ったか否かをモニタする。現時点は、ブレーキディスク温度Tが値T1を超えた直後であるから、ブレーキディスク温度Tは値T2よりも高い。
【0091】
従って、CPU51はステップ425にて「No」と判定してステップ495に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。このような処理は、ブレーキディスク温度Tが値T2を下回るまで繰り返し実行される。
【0092】
次に、走行風の影響等により、図5の時刻t2に示すように、ブレーキディスク温度Tが減少しながら値T2を下回った場合(即ち、「熱倒れ復帰状態」にある場合)について説明する。この場合、CPU51はステップ425に進んだとき「Yes」と判定してステップ430に進み、フラグRETの値を「0」から「1」に変更し、続くステップ435にてフラグLEANの値を「1」から「0」に変更する。
【0093】
これにより、フラグLEANの値が「0」になっているから、CPU51はステップ405に進んだとき再び「No」と判定してステップ410に進み、ステップ410にてブレーキディスク温度Tが値T1を超えたか否かを再びモニタするようになる。
【0094】
このように、このルーチンの繰り返し実行により、ブレーキディスク温度Tが上昇しながら値T1を超える毎に、フラグLEAN=1、フラグRET=0に設定され(熱倒れ状態)、ブレーキディスク温度Tが減少しながら値T2を下回る毎に、フラグLEAN=0、フラグRET=1に設定される(熱倒れ復帰状態)。
【0095】
また、CPU51は、図6に示したパッド押し付け処理を行うルーチンを所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで、ブレーキペダル踏力センサ43から得られるブレーキペダル踏力Fp=0(即ち、ブレーキペダル非操作状態)であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0096】
いま、運転者によりブレーキペダルBPが操作されておらず(Fp=0)、且つ、「熱倒れ復帰状態(LEAN=0,RET=1)」にある(即ち、インナーパッドPinの「引き摺り」が発生している)ものとすると、CPU51はステップ605に進んだとき「Yes」と判定してステップ610に進み、フラグRETの値が「1」であるか否かを判定し、「No」と判定する場合、ステップ695に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0097】
上記仮定により、現時点は、フラグRET=1となっているから、CPU51はステップ610にて「Yes」と判定してステップ615に進み、「エンジンブレーキ発生状態」にあるか否かを判定する。「エンジンブレーキ発生状態」にあることは、本例では、「アクセル開度センサ42から得られるアクセルペダル操作量Accpの値が「0」以外から「0」に変更されたこと」で検出される。
【0098】
CPU51はステップ615にて「No」と判定する場合、ステップ620に進み、「加速状態」にあるか否かを判定する。「加速状態」にあることは、本例では、「アクセル開度センサ42から得られるアクセルペダル操作量Accpの変化速度dAccp/dtの値が正の所定値以上となったこと」で検出される。
【0099】
CPU51はステップ620にて「No」と判定する場合、ステップ625に進み、「悪路走行状態」にあるか否かを判定する。「悪路走行状態」にあることは、本例では、「所定期間内において、車輪速度センサ41から得られる車輪速度Vwの変化速度dVw/dtの値が正の所定値以上となる回数が所定回数以上となったこと」で検出される。
【0100】
CPU51はステップ625にて「No」と判定する場合、ステップ695に直ちに進んだ本ルーチンを一旦終了する。このように、この場合、即ち、ブレーキペダル非操作状態、且つ、「熱倒れ復帰状態」であるが「エンジンブレーキ発生状態」、「加速状態」、「悪路走行状態」の何れでもない場合、上記パッド位置補正用制動力の付与(即ち、パッド押し付け処理)が実行されない。
【0101】
次に、ブレーキペダル非操作状態、且つ、「熱倒れ復帰状態(RET=1)」であって、「エンジンブレーキ発生状態」が検出された場合について説明する。この場合、CPU51はステップ615に進んだとき「Yes」と判定してステップ630に進み、所定時間の間だけ全ての車輪のホイールシリンダW**に上記微小液圧が付与されるように、ブレーキ液圧制御装置30の電磁弁(具体的には、常開リニア電磁弁PC1,PC2)、モータMT等に対して制御指示を行う。
【0102】
加えて、CPU51はステップ635に進んで、上記微小液圧が付与されている上記所定時間の間、上記微小液圧の付与により発生する制動力(即ち、上記パッド位置補正用制動力)分だけ車輪に伝達される「エンジン21のエンジンブレーキによる制動力」を小さくするように、AT24等に対して制御指示を行う。車輪に伝達される「エンジンブレーキによる制動力」をAT24を利用して調整する手法については周知であるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0103】
そして、CPU51はステップ655に進んで、フラグRETの値を「1」から「0」に変更した後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、フラグRET=0となるから、CPU51はステップ610に進んだとき「No」と判定してステップ695に直ちに進むようになる。
【0104】
上述したステップ630における制御指示により、全ての車輪のホイールシリンダW**に対して、所定時間の間だけ上記微小液圧が付与される(即ち、パッド位置補正用制動力が付与される)。従って、上記所定時間が経過して上記パッド位置補正用制動力が開放されると、ブレーキディスクDに対するインナーパッドPin及びアウターパッドPoutの位置は、上述した図3(c)に示したように正常となり、この結果、上述した「熱倒れ復帰状態」におけるインナーパッドPinの「引き摺り」が解消される。
【0105】
加えて、上述したステップ635における制御指示により、上記所定時間の間、車両に働く制動力の総和をエンジン21のエンジンブレーキによる制動力が単独で作用している場合と同じとすることができる。従って、車両の乗員がパッド位置補正用制動力から受ける違和感を小さくすることができる。
【0106】
次に、ブレーキペダル非操作状態、且つ、「熱倒れ復帰状態(RET=1)」であって、「加速状態」が検出された場合について説明する。この場合、CPU51はステップ620に進んだとき「Yes」と判定してステップ640に進み、上述したステップ630と同じ制御指示をブレーキ液圧制御装置30の電磁弁(具体的には、常開リニア電磁弁PC1,PC2)、モータMT等に対して行う。
【0107】
加えて、CPU51はステップ645に進んで、上記微小液圧が付与されている上記所定時間の間、上記微小液圧の付与により発生する制動力(即ち、上記パッド位置補正用制動力)分だけエンジン21の駆動力を大きくするように、エンジン21に対して制御指示を行う。この場合、具体的には、上記所定時間の間、上記パッド位置補正用制動力に対応する分だけ噴射燃料量が増大される。
【0108】
そして、CPU51はステップ655に進んで、フラグRETの値を「1」から「0」に変更した後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0109】
これにより、上述した「エンジンブレーキ発生状態」が検出された場合と同様、全ての車輪のホイールシリンダW**に対して、所定時間の間だけ上記微小液圧が付与され、これにより、上述した「熱倒れ復帰状態」におけるインナーパッドPinの「引き摺り」が解消される。
【0110】
加えて、上述したステップ645における制御指示により、上記所定時間の間、車両に働く実質的な駆動力の大きさをエンジン21の駆動力が単独で作用している場合と同じとすることができる。従って、車両の乗員がパッド位置補正用制動力から受ける違和感を小さくすることができる。
【0111】
次に、ブレーキペダル非操作状態、且つ、「熱倒れ復帰状態(RET=1)」であって、「悪路走行状態」が検出された場合について説明する。この場合、CPU51はステップ625に進んだとき「Yes」と判定してステップ650に進み、上述したステップ630と同じ制御指示をブレーキ液圧制御装置30の電磁弁(具体的には、常開リニア電磁弁PC1,PC2)、モータMT等に対して行う。
【0112】
そして、CPU51はステップ655に進んで、フラグRETの値を「1」から「0」に変更した後、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0113】
これにより、上述した「エンジンブレーキ発生状態」が検出された場合と同様、全ての車輪のホイールシリンダW**に対して、所定時間の間だけ上記微小液圧が付与され、これにより、上述した「熱倒れ復帰状態」におけるインナーパッドPinの「引き摺り」が解消される。
【0114】
このように、ブレーキペダル非操作状態(Fp=0)、且つ、「熱倒れ復帰状態(RET=1)」である場合であって、且つ、「エンジンブレーキ発生状態」、「加速状態」、「悪路走行状態」の何れかが検出されている場合(前記所定の走行状態に対応)にのみ、上記微小液圧の付与が実行される。
【0115】
ここで、「エンジンブレーキ発生状態」、「加速状態」、「悪路走行状態」は何れも、車両の加速度、或いは減速度が変化する場合であり、上述した「パッド位置補正用制動力を車両の乗員が感知し難い場合」に対応している。従って、車両の乗員がパッド位置補正用制動力から受ける違和感を小さくすることができる。
【0116】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係るディスクブレーキ制御装置によれば、「熱倒れ状態から復帰した」と判定された後の所定のタイミングにおいて、所定時間(例えば、約1秒)だけ、運転者によるブレーキペダル操作とは独立して、全てのホイールシリンダW**に上記微小液圧を付与する。
【0117】
これにより、上記微小液圧が開放された後において、ブレーキディスクDに対するインナーパッドPin及びアウターパッドPoutの位置が正常位置に戻されて、「熱倒れ復帰状態」において発生するインナーパッドPinの「引き摺り」が解消される。この結果、インナーパッドPin及びブレーキディスクDの磨耗、並びに、インナーパッドPinのフェードが抑制され得る。
【0118】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、車輪**のブレーキディスクD**の温度を代表して右前輪FR(1輪)のブレーキディスクDfrの温度が、熱倒れ判定(図4のルーチン)に使用されるブレーキディスク温度Tとして使用されているが、2以上の車輪のブレーキディスクD**の温度に基づいて得られる温度が、熱倒れ判定(図4のルーチン)に使用されるブレーキディスク温度Tとして使用されてもよい。
【0119】
この場合、熱倒れ判定(図4のルーチン)に使用されるブレーキディスク温度Tとして、例えば、前2輪のブレーキディスクDf*の温度の平均値、後2輪のブレーキディスクDr*の温度の平均値、車体右側2輪のブレーキディスクD*rの温度の平均値、車体左側2輪のブレーキディスクD*lの温度の平均値、全輪(4輪)のブレーキディスクD**の温度の平均値等が使用され得る。これらの場合、ブレーキディスクの温度が使用される全ての車輪についてブレーキディスクの温度を検出する温度センサがそれぞれ必要となる。
【0120】
また、上記実施形態においては、全てのホイールシリンダW**に同一の上記微小液圧を付与するように構成されているが、前2輪に付与する微小液圧と後2輪に付与する微小液圧の配分を周知の前後制動力配分と同じとしてもよい。
【0121】
また、上記実施形態においては、車両が旋回状態にあると判定される場合、上記微小液圧の付与を行わないように構成してもよい。これにより、旋回状態における上記微小液圧の付与(従って、上記パッド位置補正用制動力の付与)により車両挙動が不安定になる事態の発生が防止される。「旋回状態」の判定は、車両のヨーレイトセンサ、ステアリング角度センサ、ナビゲーションシステム等からの情報等に基づく周知の手法によって行われ得る。
【0122】
また、上記実施形態においては、「熱倒れ復帰状態(RET=1)」が判定される毎に上記微小液圧の付与が1回のみなされるように構成されているが(ステップ655、ステップ610を参照)、「熱倒れ復帰状態(RET=1)」が判定された後、「熱倒れ状態(LEAN=1)」が判定されるまでの間において、「エンジンブレーキ発生状態」、「加速状態」、「悪路走行状態」の何れかが検出される毎に毎回、上記微小液圧の付与が実行されるように構成してもよい。この場合、図6のステップ655が省略される。
【0123】
また、上記実施形態においては、「熱倒れ復帰状態(RET=1)」が判定され、且つ、「エンジンブレーキ発生状態」、「加速状態」、「悪路走行状態」の何れかが検出されている場合(前記所定の走行状態に対応)にのみ上記微小液圧の付与が実行されるように構成されているが、「熱倒れ復帰状態(RET=1)」が判定された後、直ちに、上記微小液圧の付与が実行されるように構成してもよい。
【0124】
また、上記実施形態においては、ディスクブレーキ装置として制動液圧を利用した所謂可動キャリパ型のディスクブレーキ装置が使用されているが、制動液圧を利用した所謂対向ピストン型(固定キャリパ型)のディスクブレーキ装置が使用されてもよい。
【0125】
また、上記実施形態においては、ディスクブレーキ装置として制動液圧を利用したディスクブレーキ装置が使用されているが、モータの駆動力によりブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける形式のディスクブレーキ装置が使用されてもよい。
【0126】
また、上記実施形態においては、熱倒れ判定(図4のルーチン)に使用されるブレーキディスク温度Tとして、温度センサ44により検出されるブレーキディスクDの温度が使用されているが、ブレーキディスク温度Tとして、ブレーキディスクDの温度の推定値が使用されてもよい。
【0127】
この場合、具体的には、図7にフローチャートにより示したブレーキディスク温度の推定ルーチンが所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行されることでブレーキディスク温度Tが推定され得る。
【0128】
即ち、CPU51はステップ700からステップ705に進むと、現時点での車体減速度Gと、図8に示した車体減速度GとブレーキディスクDの温度上昇勾配(ブレーキディスクDへの蓄熱速度)Tupとの関係を規定するテーブルと、に基づいてブレーキディスクDの温度上昇勾配Tupを求める。なお、車体減速度Gは、例えば、車輪速度センサ41**から得られる車輪速度Vw**に基づいて計算される車体速度Vsoを時間微分することで得られる。
【0129】
続いて、CPU51はステップ710に進み、現時点での車体速度Vsoと、図9に示した車体速度VsoとブレーキディスクDの温度下降勾配(ブレーキディスクDからの放熱速度)Tdownとの関係を規定するテーブルと、に基づいてブレーキディスクDの温度下降勾配Tdownを求める。なお、図8、及び図9に示したテーブルは、所定の実験・シミュレーション等を通して取得されたデータに基づいて予め作製され得る。
【0130】
次いで、CPU51はステップ715に進んで、上記求めた温度上昇勾配Tup及び温度下降勾配Tdownと、ステップ715内に記載の式とに基づいて上記実行間隔時間Δtの間におけるブレーキディスクDの温度上昇量dTを求める。
【0131】
次に、CPU51はステップ720に進み、ブレーキディスク温度前回値Tbに上記求めた温度上昇量dTを加えることでブレーキディスク温度Tを更新する。ここで、Tbとしては、前回の本ルーチン実行時において次のステップ725にて更新されている最新値が使用される。
【0132】
そして、CPU51はステップ725に進んで、ブレーキディスク温度前回値Tbを、ステップ720にて更新したブレーキディスク温度Tに更新した後、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0133】
このように、本ルーチンの繰り返し実行により、運転者のブレーキ操作により発生する車体減速度Gから得られるブレーキディスクDへの蓄熱速度Tupと、車体速度Vsoから得られるブレーキディスクDからの放熱速度Tdownとに基づいてブレーキディスク温度Tが逐次更新・推定されていく。
【0134】
なお、図7に示したルーチンによりブレーキディスク温度Tが推定される場合、ブレーキディスク温度Tの初期値(イグニッションON時における値)としては、例えば、イグニッションON時における外気温、エンジンの吸気温度等が使用され得る。また、車両の放置時間(イグニッションOFFの継続時間)が所定時間以上の場合、ブレーキディスク温度Tの初期値として、イグニッションON時におけるエンジンの冷却水温が使用されてもよい。
【0135】
また、上記車体減速度Gを利用して、ブレーキディスクDの温度Tを用いることなく、熱倒れ状態(LEAN=1、RET=0)の判定、及び熱倒れ復帰状態(LEAN=0、RET=1)の判定を行うこともできる。この場合、具体的には、図4に示したルーチンに代えて、図10にフローチャートにより示した熱倒れ判定ルーチンが所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行される。
【0136】
なお、図10のルーチンにおいて、図4のルーチンのステップと同じステップについては図4のステップ番号と同じステップ番号が付されている(後述の図12も同様)。以下、車体減速度Gは、加速方向において正の値を取り、減速方向において負の値を取るものとする。
【0137】
図10のルーチンは、図4のステップ410をステップ1005に、図4のステップ425をステップ1010に置き換えた点においてのみ、図4のルーチンと異なる。ステップ1005では、車体減速度Gが第1所定減速度G1(<0、減速方向の値)よりも小さい状態(減速度合いが大きい状態)が第1所定時間L1だけ継続した場合に「Yes」と判定される。従って、図11のタイムチャートに示した例では、時刻t12にて、フラグLEAN=1、フラグRET=0に設定されて「熱倒れ状態」が判定される。
【0138】
ステップ1010では、車体減速度Gが第1所定減速度G1よりも大きい(減速度合いが小さい)第2所定減速度G2(<0、減速方向の値)よりも大きい状態(減速度合いが小さい状態)が第2所定時間L2だけ継続した場合に「Yes」と判定される。従って、図11のタイムチャートに示した例では、時刻t14にて、フラグLEAN=0、フラグRET=1に設定されて「熱倒れ復帰状態」が判定される。
【0139】
このように、図10のルーチンの繰り返し実行により、「G<G1」が第1所定時間L1だけ継続する毎に、「熱倒れ状態」が判定され、「G>G2」が第2所定時間L2だけ継続する毎に、「熱倒れ復帰状態」が判定される。
【0140】
また、図4に示したルーチンに代えて、図12にフローチャートにより示した熱倒れ判定ルーチンが所定時間(実行間隔時間Δt。例えば、6msec)の経過毎に繰り返し実行されてもよい。
【0141】
図12のルーチンは、図4のステップ410をステップ1205に、図4のステップ425をステップ1210に置き換えた点においてのみ、図4のルーチンと異なる。ステップ1205では、第1時間面積Sleanが第1所定値S1(>0)を超えた場合に「Yes」と判定される。
【0142】
ここで、図13のタイムチャートに示したように、第1時間面積Sleanは、車体減速度Gが減少しながら第1所定減速度G1を下回った時点(図13では、時刻t21)から、下記(1)式に従ってゼロから積算・更新されていく値である。
【0143】
Slean=Σ(G1−G) ・・・(1)
【0144】
従って、図13に示した例では、上記(1)式にて更新されていく第1時間面積Sleanが第1所定値S1を超える時刻t22にて、フラグLEAN=1、フラグRET=0に設定されて「熱倒れ状態」が判定される。
【0145】
ステップ1210では、第2時間面積Sretが第2所定値S2(>0)を超えた場合に「Yes」と判定される。ここで、図13に示したように、第2時間面積Sretは、車体減速度Gが増大しながら第2所定減速度G2を超えた時点(図13では、時刻t24)から、下記(2)式に従ってゼロから積算・更新されていく値である。
【0146】
Sret=Σ(G−G2) ・・・(2)
【0147】
従って、図13に示した例では、上記(2)式にて更新されていく第2時間面積Sretが第2所定値S2を超える時刻t25にて、フラグLEAN=0、フラグRET=1に設定されて「熱倒れ復帰状態」が判定される。
【0148】
このように、図12のルーチンの繰り返し実行により、「Slean>S1」が成立する毎に「熱倒れ状態」が判定され、「Sret>S2」が成立する毎に「熱倒れ復帰状態」が判定される。
【0149】
なお、第1時間面積Sleanの積算開始時点(図13では、時刻t21)から第3所定時間L3が経過するまで(図13では、時刻t23になるまで)に「Slean>S1」が成立した場合にのみ「熱倒れ状態」が判定され、第2時間面積Sretの積算開始時点(図13では、時刻t24)から第4所定時間L4が経過するまで(図13では、時刻t26になるまで)に「Sret>S2」が成立した場合にのみ「熱倒れ復帰状態」が判定されるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】本発明の実施形態に係るディスクブレーキ制御装置を含んだ車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図3】可動キャリパ型のディスクブレーキ装置における、(a)熱倒れ復帰状態、(b)微小液圧が付与された状態、(c)正常状態での、インナーパッド、アウターパッド(即ち、可動キャリパ)、及びブレーキディスクの間の位置関係を示した図である。
【図4】図1に示したCPUが実行する熱倒れ判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図5】ブレーキディスク温度、及びフラグの値の変化の一例を示したタイムチャートである。
【図6】図1に示したCPUが実行するパッド押し付け処理を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態の変形例に係るディスクブレーキ制御装置のCPUが実行するブレーキディスク温度を推定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図8】本発明の実施形態の変形例に係るディスクブレーキ制御装置のCPUが参照する、車体減速度とブレーキディスクの温度上昇勾配との関係を規定するテーブルを示したグラフである。
【図9】本発明の実施形態の変形例に係るディスクブレーキ制御装置のCPUが参照する、車体速度とブレーキディスクの温度下降勾配との関係を規定するテーブルを示したグラフである。
【図10】本発明の実施形態の他の変形例に係るディスクブレーキ制御装置のCPUが実行する熱倒れ判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図11】図10に示したルーチンを用いた熱倒れ判定方法を説明するためのタイムチャートである。
【図12】本発明の実施形態の他の変形例に係るディスクブレーキ制御装置のCPUが実行する熱倒れ判定を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図13】図12に示したルーチンを用いた熱倒れ判定方法を説明するためのタイムチャートである。
【図14】可動キャリパ型のディスクブレーキ装置における、(a)正常状態、(b)熱倒れ状態、(c)熱倒れ復帰状態での、インナーパッド、アウターパッド(即ち、可動キャリパ)、及びブレーキディスクの間の位置関係を示した図である。
【図15】図14(c)におけるブレーキパッド付近の拡大図である。
【符号の説明】
【0151】
10…車両の運動制御装置、30…ブレーキ液圧制御装置、41**…車輪速度センサ、42…アクセル開度センサ、43…ブレーキペダル踏力センサ、44…温度センサ、50…電気式制御装置、51…CPU




 

 


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