米国特許情報 | 欧州特許情報 | 国際公開(PCT)情報 | Google の米国特許検索
 
     特許分類
A 農業
B 衣類
C 家具
D 医学
E スポ−ツ;娯楽
F 加工処理操作
G 机上付属具
H 装飾
I 車両
J 包装;運搬
L 化学;冶金
M 繊維;紙;印刷
N 固定構造物
O 機械工学
P 武器
Q 照明
R 測定; 光学
S 写真;映画
T 計算機;電気通信
U 核技術
V 電気素子
W 発電
X 楽器;音響


  ホーム -> 車両 -> トヨタ自動車株式会社

発明の名称 サスペンション特性演算方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−8373(P2007−8373A)
公開日 平成19年1月18日(2007.1.18)
出願番号 特願2005−193754(P2005−193754)
出願日 平成17年7月1日(2005.7.1)
代理人 【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
発明者 山本 泰
要約 課題
ロールとピッチとの相関関係を考慮したサスペンションの設計指標を提供することを課題とする。

解決手段
サスペンション特性演算方法であって、前輪側のジオメトリ比例係数とタイヤ横力の二乗との積による前輪側の上下力と後輪側のジオメトリ比例係数とタイヤ横力の二乗との積による後輪側の上下力との和としてサスペンションのジオメトリによるピッチモーメントを演算する第1工程(S1)と、減衰力比例係数とロールレートとの積としてサスペンションの減衰力によるピッチモーメントを演算する第2工程(S2)と、この演算した2つのピッチモーメントの和とピッチモーメントに対するピッチ角のゲイン及びピッチ角の位相遅れとの積としてピッチ角を演算する第3工程(S3)と、この演算したピッチ角からピッチ角とロール角との位相差を演算する第4工程(S4,S5)とを含むことを特徴とする。
特許請求の範囲
【請求項1】
サスペンションのジオメトリによるピッチモーメントを、前輪側のジオメトリから決まるジオメトリ比例係数とロール角の基本振動に基づいて設定される前輪側のタイヤ横力の二乗との積による前輪側に発生する上下力と後輪側のジオメトリから決まるジオメトリ比例係数とロール角の基本振動に基づいて設定される後輪側のタイヤ横力の二乗との積による後輪側に発生する上下力との和として演算する第1工程と、
サスペンションの減衰力によるピッチモーメントを、前後輪のサスペンションの減衰力特性の差により決まる減衰力比例係数とロールレートとの積として演算する第2工程と、
ピッチ角を、前記第1工程で演算したサスペンションのジオメトリによるピッチモーメントと前記第2工程で演算したサスペンションの減衰力によるピッチモーメントとの和とピッチモーメントに対するピッチ角のゲイン及びピッチ角の位相遅れとの積として演算する第3工程と、
前記第3工程で演算したピッチ角からピッチ角とロール角との位相差を演算する第4工程と
を含むことを特徴とするサスペンション特性演算方法。
【請求項2】
前記タイヤ横力を演算する場合、タイヤ横力に対するロール角の遅れ時間に基づいて演算することを特徴とする請求項1に記載するサスペンション特性演算方法。
【請求項3】
前記ジオメトリ比例係数は、ロールセンタの高さが高いほど大きな値に設定されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載するサスペンション特性演算方法。
【請求項4】
前記減衰力比例係数は、前後輪のサスペンションの減衰力特性の差が大きいほど大きな値に設定されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載するサスペンション特性演算方法。
【請求項5】
前記ピッチ角とロール角との位相差は、前記第3工程で演算したピッチ角のフーリエ展開の二次成分の係数により求められることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載するサスペンション特性演算方法。
【請求項6】
前記前後輪のサスペンションの減衰力特性は、前輪の伸圧差と後輪の伸圧差との差であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載するサスペンション特性演算方法。
【請求項7】
前記ロール角の基本振動は、運転者の操舵入力により生じる車両のロール運動におけるロール角の振動であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載するサスペンション特性演算方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール感を向上させるサスペンション特性演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンションを設計する場合、操縦安定性を向上させるために様々な設計指標が提案されている。操縦安定性は、操舵時に発生するロールなどの車体の動きが大きく影響する。車体の動きのフィーリング評価(官能評価)としては、ロール感を評価している。ロール感に影響するものとして、操舵時に発生するロールとピッチが重要となることが判っている。そこで、操縦安定性を向上させるために、ロールを考慮した設計指標やピッチを考慮した設計指標によってサスペンションが設計されている。
【0003】
また、車両には、操縦安定性を向上させるために、動的にサスペンションを制御するアクティブサスペンションを搭載したものがある。アクティブサスペンションでは、サスペンションのストロークなどから車両の挙動を検出し、目標のロール特性やピッチ特性になるようにアブソーバの油圧を制御する(特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平5−45442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のサスペンションの設計では、ロールを考慮した設計指標とピッチを考慮した設計指標とが別々に検討され、ロールとピッチとの相関関係が考慮されていなかった。そのため、十分な操縦安定性が得られない場合があった。また、アクティブサスペンションの場合も、ロールとピッチとの相関関係を考慮して制御を行っていないので、十分な操縦安定性が得られない場合があった。
【0005】
そこで、本発明は、ロールとピッチとの相関関係を考慮したサスペンションの設計指標を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るサスペンション特性演算方法は、サスペンションのジオメトリによるピッチモーメントを、前輪側のジオメトリから決まるジオメトリ比例係数とロール角の基本振動に基づいて設定される前輪側のタイヤ横力の二乗との積による前輪側に発生する上下力と後輪側のジオメトリから決まるジオメトリ比例係数とロール角の基本振動に基づいて設定される後輪側のタイヤ横力の二乗との積による後輪側に発生する上下力との和として演算する第1工程と、サスペンションの減衰力によるピッチモーメントを、前後輪のサスペンションの減衰力特性の差により決まる減衰力比例係数とロールレートとの積として演算する第2工程と、ピッチ角を、第1工程で演算したサスペンションのジオメトリによるピッチモーメントと第2工程で演算したサスペンションの減衰力によるピッチモーメントとの和とピッチモーメントに対するピッチ角のゲイン及びピッチ角の位相遅れとの積として演算する第3工程と、第3工程で演算したピッチ角からピッチ角とロール角との位相差を演算する第4工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
このサスペンション特性演算方法は、ロールとピッチとの発生タイミングを同期させることによって操舵時のロール感(ひいては、操縦安定性)を向上させることができることに着目し、ロールとピッチとの発生タイミングの条件を求める。そのために、サスペンション特性演算方法では、操舵時にピッチが発生する主要因であるサスペンションのジオメトリ(特に、ロールセンタのジオメトリ)に起因する旋回時の上下力が前輪側と後輪側で異なることによって発生するピッチモーメントとサスペンションの減衰力(特に、アブソーバの減衰力)の伸圧差に起因する旋回時の上下力が前輪側と後輪側で異なることによって発生するピッチモーメントをそれぞれ求め、2つのピッチモーメントからピッチ角を求め、そのピッチ角からピッチ角とロール角との位相差を求める。具体的には、第1工程により、前輪側のジオメトリから決まるジオメトリ比例係数とロール角の基本振動に基づいて設定される前輪側のタイヤ横力の二乗との乗算値(前輪側に発生する上下力)と後輪側のジオメトリから決まるジオメトリ比例係数とロール角の基本振動に基づいて設定される後輪側のタイヤ横力の二乗との乗算値(後輪側に発生する上下力)とを加算し、サスペンションのジオメトリによるピッチモーメントを求める。また、第2工程により、前後輪のサスペンションの減衰力特性の差により決まる減衰力比例係数とロールレートとを乗算し、サスペンションの減衰力によるピッチモーメントを求める。そして、第3工程により、サスペンションのジオメトリによるピッチモーメントとサスペンションの減衰力によるピッチモーメントとの加算値(ピッチモーメント)にピッチモーメントに対するピッチ角のゲインと位相遅れとを乗算し、ピッチ角を求める。さらに、第4工程により、求めたピッチ角からピッチ角とロール角との位相差を表す条件式(サスペンション設計に必要なジオメトリ特性、減衰力特性、ロール動特性、ピッチ動特性などを含む式)を求める。この位相差を表す条件式を用いて、ロールとピッチの発生タイミングを同期させるために、位相差を0にするようにサスペンションを設計する(ジオメトリ特性、減衰力特性、ロール動特性、ピッチ動特性などを設計する)。このように、サスペンション特性演算方法では、ロールとピッチとの相関関係を考慮した条件を求めることができ、この条件からロール感(操縦安定性)を向上させるサスペンションを設計することができる。
【0008】
本発明の上記サスペンション特性演算方法では、タイヤ横力を演算する場合、タイヤ横力に対するロール角の遅れ時間に基づいて演算するように構成してもよい。
【0009】
このサスペンション特性演算方法の第1工程では、ロール角の基本振動に対して操舵時に発生するタイヤ横力に対するロール角の遅れ時間を考慮してタイヤ横力を求める。これによって、サスペンションのジオメトリによるピッチモーメントを高精度に求めることができる。
【0010】
本発明の上記サスペンション特性演算方法では、ジオメトリ比例係数は、ロールセンタの高さが高いほど大きな値に設定される。
【0011】
このサスペンション特性演算方法の第1工程では、ジオメトリの比例係数がロールセンタの高さが高いほど大きい値に設定される。したがって、ロールセンタが高いほど、サスペンションのジオメトリによるピッチモーメントが大きくなる。
【0012】
本発明の上記サスペンション特性演算方法では、減衰力比例係数は、前後輪のサスペンションの減衰力特性の差が大きいほど大きな値に設定される。
【0013】
このサスペンション特性演算方法の第2工程では、減衰力比例係数が前後輪のサスペンションの減衰力特性の差が大きいほど大きい値に設定される。したがって、前後輪のサスペンションの減衰力特性の差が大きいほど、サスペンションの減衰力によるピッチモーメントが大きくなる。
【0014】
本発明の上記サスペンション特性演算方法では、ピッチ角とロール角との位相差は、第3工程で演算したピッチ角のフーリエ展開の二次成分の係数により求められる構成としてもよい。
【0015】
このサスペンション特性演算方法の第4工程では、操舵時のピッチの基本周波数はロールの2倍であることから、第3工程で求めたピッチ角をフーリエ変換し、そのフーリエ展開の二次成分の係数からピッチ角とロール角との位相差を求める。このように、ピッチに最も影響を与えるフーリエ展開の二次成分だけによって位相差を求めることにより、条件を簡単な式で表すことができる。
【0016】
本発明の上記サスペンション特性演算方法では、前後輪のサスペンションの減衰力特性は、前輪の伸圧差と後輪の伸圧差との差としてもよい。
【0017】
このサスペンション特性演算方法では、前後輪のサスペンションの減衰力特性が前輪の伸圧差と後輪の伸圧差との差であるので、ピッチ角とロール角との位相差が0になるように前輪の伸圧差と後輪の伸圧差との差を適切に設定することにより、ロールとピッチとの発生タイミングを同期させることができる。
【0018】
本発明の上記サスペンション特性演算方法では、ロール角の基本振動は、運転者の操舵入力により生じる車両のロール運動におけるロール角の振動である。
【0019】
このサスペンション特性演算方法では、ロール角の基本振動が運転者の操舵入力により生じる車両のロール運動におけるロール角の振動であるので、運転者の操舵入力により発生する車両のロール運動とピッチ運動の周期を適切な関係にでき、ロールとピッチとの相関関係を考慮した条件を高精度に求めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ロールとピッチとの相関関係を考慮したサスペンションの設計指標を提供することができ、この設計指標に従ってサスペンションを設計することによりロール感(操縦安定性)を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係るサスペンション特性演算方法の実施の形態を説明する。
【0022】
本実施の形態では、まず、ロールとピッチとのタイミングについて説明し、その後に、ロールとピッチとの発生タイミングを同期させるためのサスペンション設計について説明する。本実施の形態に係るサスペンション設計では、アクティブサスペンションを搭載しないノーマルのサスペンションに適用した場合について説明する。
【0023】
図1〜図4を参照、ロールとピッチとのタイミングについて説明する。図1は、ロール感の官能評価が高い車両のロール角とピッチ角とのリサージュ波形を示す図であり、(a)が評価の高い車両の一例であり、(b)が評価の高い車両の他例である。図2は、ロール感の官能評価が低い車両のロール角とピッチ角とのリサージュ波形を示す図であり、(a)が評価の低い車両の一例であり、(b)が評価の低い高い車両の他例である。図3は、ロール感の官能評価が高い車両のロール角の時間変化とピッチ角の時間変化を示す図である。図4は、ロール感の官能評価が低い車両のロール角の時間変化とピッチ角の時間変化を示す図である。
【0024】
サスペンションを設計する場合、操舵時の操縦安定性が重要であり、操縦安定性には操舵時に発生するロールやピッチなどの車体の動きが大きな影響を及ぼす。車体の動きのフィーリング評価(官能評価)には、ロール感が用いられる。操縦安定性評価を専門とするテストドライバのロール感の官能評価を分析した結果、ロール感は視覚から感じている部分が大きく、ロールとピッチとの関係が重要であることが判った。
【0025】
そこで、サスペンションの特性が異なる複数台の車両を用いて、ロールとピッチとの関係に注目した評価を行った。この評価では、各車両において同一の操舵パターンでそれぞれ操舵し、ロールやピッチといった車体の動きを測定するとともに車両の乗員がロール感などの官能評価を行った。図1、図2には、横軸をロール角、縦軸をピッチ角としたリサージュ波形を示している。図1には、官能評価が高かった2台の車両のリサージュ波形の例を示しており、リサージュ波形のヒステリシスが小さいことが判る。図1に示す車両の場合、官能評価から、視線の乱れが小さく、ロール感が良いという結果が得られた。図2には、官能評価が低かった2台の車両のリサージュ波形の例を示しており、リサージュ波形のヒステリシスが大きいことが判る。
【0026】
このリサージュ波形におけるヒステリシスはロール角とピッチ角との時間差を意味しており、ヒステリシスが小さいほどロール感が良くなることが明らかになった。図3には、官能評価が高かった車両におけるロール角の時間変化RA1とピッチ角の時間変化PA1との関係の一例を示しており、ロール角とピッチ角との時間差(位相差)が小さいことが判る。図4には、官能評価が低かった車両におけるロール角の時間変化RA2とピッチ角の時間変化PA2との関係の一例を示しており、ロール角とピッチ角との時間差(位相差)が大きいことが判る。以上の評価から、操舵時にはロール角とピッチ角との時間差が小さいほどロール感が良くなり、操縦安定性を向上させるためにはロールとピッチとの発生タイミングを同期させることが最も望ましいことが判った。
【0027】
図5〜図10を参照して、本実施の形態に係るサスペンション設計について説明する。図5は、ロールセンタ、瞬間中心、タイヤ横力、上下力の説明図である。図6は、ピッチモーメントとピッチ角との関係を示す図である。図7は、ピッチ角の時間変化とピッチモーメントの時間変化との関係を示す図である。図8は、ロール角の時間変化とタイヤ横力の時間変化との関係を示す図である。図9は、サスペンションのジオメトリに起因するピッチモーメントの説明図である。(a)が前輪側のタイヤ横力と上下力を示し、(b)が後輪側のタイヤ横力と上下力を示し、(c)が前後の上下力とピッチモーメントを示す。図10は、サスペンションの減衰力に起因するピッチモーメントの説明図である。(a)が前輪側の減衰力と上下力を示し、(b)が後輪側の減衰力と上下力を示し、(c)が前後の上下力とピッチモーメントを示す。
【0028】
このサスペンション設計では、ロールとピッチとの発生メカニズムの条件式を導出し、この条件式によりロールとピッチとの発生タイミングを同期させるようにサスペンションを設計する。本実施の形態では、サスペンション設計を行うために、サスペンション設計用プログラムをパーソナルコンピュータなどのコンピュータ上で実行することによって第1ピッチモーメント演算処理、第2ピッチモーメント演算処理、ピッチ角演算処理、フーリエ変換処理、時間差演算処理、サスペンション設計処理を行い、サスペンションを設計する。
【0029】
第1ピッチモーメント演算処理について説明する。操舵時にピッチが発生する主要因として2つあり、その1つがロールセンタジオメトリ(サスペンションジオメトリ)に起因する旋回時の上下力が前後で異なる時にピッチモーメントとなってピッチが発生するものである。図5に示すように(左旋回している場合の一例)、旋回時には、瞬間中心MCL,MCRを中心にして左右輪ではタイヤ横力RFL,RFRが発生する。瞬間中心MCL,MCRはサスペンションの上アームUAと下アームLAの延長線の交点であり、ロールセンタRCは左輪の瞬間中心MCLと左輪のタイヤの接地中心とを結ぶ線と右輪の瞬間中心MCRと右輪のタイヤの接地中心とを結ぶ線との交点である。
【0030】
このように、タイヤ横力RFL,RFRは瞬間中心MCL,MCRを中心にして作用するので、その分力として左右輪には上下力VFL,VFRも発生する。瞬間中心MCL,MCRは、旋回中、時々刻々とその位置が変化するので、左右輪で異なる位置となる。そのため、左右輪でタイヤ横力RFL,RFRが異なるとともに、上下力VFL,VFRも異なる。その結果、図9(a)(b)に示すように(左旋回している場合の一例)、前輪側と後輪側において、左輪の上下力VFLと右輪の上下力VFRとの差により上下力FVF1,RVF1が作用する。図9(c)に示すように、この前輪側の上下力FVF1と後輪側の上下力RVF1との差により、車両にはジオメトリ分のピッチモーメントJPMが作用する。図9の例では、前輪側の上下力FVF1が下方向に作用し、後輪側の上下力RVF1が上方向に作用しているので、前輪側が沈み、後輪側が浮き上がるようなピッチモーメントJPMが作用している。
【0031】
このジオメトリに起因するピッチモーメントを具体的に数式で表現する。前後輪の各上下力FVF1,RVF1は、タイヤ横力の二乗に比例するものとして近似できる。したがって、操舵周波数をω(ロール角の基本周波数に相当)とし、ロール角をsinωt比例とし、タイヤ横力をsinω(t−τφ*)比例とすると、ジオメトリ分のピッチモーメントは式(1)で表すことができる。式(1)では前項が前輪側の上下力FVF1であり、後項が後輪側の上下力RVF1である。第1ピッチモーメント演算処理では、式(1)を導出する。
【0032】
【数1】


【0033】
は、前輪のロールセンタジオメトリによって決まる前輪のジオメトリ分のピッチモーメントの比例係数である。Gは、後輪のロールセンタジオメトリによって決まる後輪のジオメトリ分のピッチモーメントの比例係数である。ジオメトリ分のピッチモーメントの比例係数は、ロールセンタジオメトリ、ロール剛性配分、重量配分などの関数で表され、ロールセンタの高さが高いほど大きな値に設定される。図8に示すように、τφfは前輪のタイヤ横力RFに対するロール角RAの遅れ時間[s]であり、τφrは後輪のタイヤ横力RFに対するロール角RAの遅れ時間[s]である。この遅れ時間は、ロール慣性モーメント、ロール剛性、ロール減衰などの関数で表されるが、τφf、τφrを式(2)、式(3)の簡易式から求めてもよいしあるいは実測により求めてもよい。
【0034】
【数2】


【0035】
φは、ロール減衰係数[N/(rad/s)]である。Kφは、ロール剛性[Nm/rad]である。Iγは、ヨー慣性モーメント[kgm]である。mは、車両重量[kg]である。Lは、後輪と車両重心との間隔[m]である。Lは、前輪と車両重心との間隔[m]である。Vは、車速「m/s」である。
【0036】
第2ピッチモーメント演算処理について説明する。操舵時にピッチが発生する主要因のもう1つがアブソーバ減衰力(サスペンション減衰力)の伸圧差に起因する旋回時の上下力が前後で異なる時にピッチモーメントとなってピッチが発生するものである。旋回時には、左右輪でアブソーバの減衰力DFL,DFRが異なる。図10(a)(b)に示す例の場合(左旋回している場合の一例)、(a)図の前輪では、左輪のアブソーバが伸長して減衰力DFLが下方向に作用し、右輪のアブソーバが圧縮して減衰力DFRが上方向に作用し、(b)図の後輪では、左輪のアブソーバが伸長して減衰力DFLが下方向に作用し、右輪のアブソーバが圧縮して減衰力DFRが上方向に作用している。前輪側と後輪側において、左輪の減衰力DFLと右輪の減衰力DFRとの差により上下力FVF2,RVF2が作用する。図10(c)に示すように、この前輪側の上下力FVF2と後輪側の上下力RVF2との差により、車両には減衰力分のピッチモーメントDPMが作用する。図10の例では、前輪側の上下力FVF2が下方向に大きく作用し、後輪側の上下力RVF2が下方向に小さく作用しているので、前輪側が沈み、後輪側が浮き上がるようなピッチモーメントDPMが作用している。
【0037】
この減衰力伸圧差に起因するピッチモーメントを具体的に数式で表現する。前後輪の各上下力FVF2,RVF2は、ロールレートに比例する。ロールレートは、ロール角sinωtを微分することにより、ωcosωtと表される。そこで、減衰力分のピッチモーメントは、式(4)で表すことができる。第2ピッチモーメント演算処理では、式(4)を導出する。
【0038】
【数3】


【0039】
abは、減衰力分ピッチモーメントの比例係数である。減衰力分ピッチモーメントの比例係数は、アブソーバの減衰力伸圧差の前後差、トレッド、ロール角の大きさなどの関数で表され、前後輪における左右輪のアブソーバの減衰力伸圧差の差が大きいほど大きな値が設定される。
【0040】
ピッチ角演算処理について説明する。ジオメトリ分のピッチモーメントと減衰力分のピッチモーメントとを合わせたピッチモーメントに対して、動的な減衰力や慣性力を考慮してピッチ角に変換する。ピッチ角は、式(1)と式(4)との和にピッチ応答(ゲインGθ、位相τθ)を乗算することにより、式(5)で表すことができる。ピッチ角演算処理では、式(5)を導出する。
【0041】
【数4】


【0042】
θは、ピッチモーメントに対するピッチ角の大きさ(ゲイン)であり、図6に示すように、ピッチモーメントとピッチ角との関係を示す直線の傾きである。このゲインGθは、ピッチ慣性モーメント、ピッチ剛性、ピッチ減衰などの関数で表すことができる。ゲインGθは、式(6)の簡易式や式(7)の厳密な式から求めてもよいしあるいは実測により求めてもよい。τθは、図7に示すように、ピッチモーメントPMに対するピッチ角PAの遅れ時間である。この遅れ時間τθは、ピッチ慣性モーメント、ピッチ剛性、ピッチ減衰などの関数で表すことができる。遅れ時間τθは、式(8)の簡易式や式(9)の厳密な式から求めてもよいしあるいは実測により求めてもよい。
【0043】
【数5】


【0044】
θは、ピッチ剛性[Nm/rad]である。Cθは、ピッチ減衰係数[N/(rad/s)]である。Iθは、ピッチ慣性モーメント[kgm]である。
【0045】
フーリエ変換処理について説明する。式(5)で表されるピッチ角は二乗や絶対値の非線形項を含んでいて取り扱い難いので、ロールとピッチとの時間差を表す式が複雑化する。そこで、操舵時のピッチの基本周波数がロールの基本周波数ωの二倍であることから、式(5)をフーリエ変換し、フーリエ展開においてピッチ角に最も影響の大きい2ω成分のフーリエ係数を利用する。このフーリエ係数の二次成分は、式(10)で表される。フーリエ変換処理では、式(5)で表されるピッチ角をフーリエ変換し、フーリエ係数の二次成分(ピッチ角)である式(10)を導出する。
【0046】
【数6】


【0047】
式(10)は、二乗や絶対値の非線形成分を含まない簡易な式となっている。この式(10)で表されるピッチ角を利用することによって、ロールとピッチとの時間差も簡易な式で表すことができる。
【0048】
時間差演算処理について説明する。式(11)に示すように式(10)の余弦係数をAとし、式(12)に示すように式(10)の正弦係数をBとすると、ピッチ角を式(13)で表すことができる。また、式(13)のαとA,Bとの関係を示す式(14)から、αを式(15)で表すことができる。一方、ロール角を式(16)で表すことができる。
【0049】
【数7】


【0050】
ロール角がピークとなる時刻tφは、式(16)で示すロール角を微分すると式(17)となるので、dφ=0(ピーク)となるのは式(18)となる。一方、ピッチ角がピークとなる時刻tθは、式(13)で示すピッチ角を微分すると式(19)となるので、dθ=0(ピーク)となるのは式(20)となる。
【0051】
【数8】


【0052】
したがって、ロール角とピッチ角とのピーク同士の時間差tφ−tθは、式(21)で表すことができる。(2n−m)は任意の整数であり、ロール角とピッチ角との隣り合ったピーク同士についての時間差なので、式(22)と見なすことができる。式(22)から、式(21)が式(23)となる。また、式(23)のαに式(15)を代入し、Aに式(11)を代入するとともにBに式(12)を代入すると、ロール角とピッチ角とのピーク同士の時間差tφ−tθは式(24)で表すことができる。時間差演算処理では、式(24)を導出する。
【0053】
【数9】


【0054】
式(24)は、ロールとピッチとの相関関係を考慮したロールとピッチとの発生メカニズムの理論式である。式(24)において、時間差が0となるのは(つまり、ロールとピークとの発生タイミングが同期するのは)、tan−1[]がπ/2となるときであり、tan−1の分母が0になるときである。
【0055】
サスペンション設計処理について説明する。式(24)で表される時間差tφ−tθが0となるときのサスペンションの諸元を設計する。例えば、ジオメトリ特性(G、G)、ロール動特性(τφf、τφr)、ピッチ動特性(τθ)を固定とし、減衰力特性(Mab)で時間差tφ−tθを0とする場合について説明する。式(24)を時間差0の条件でMabについて解くと、式(25)となる。減衰力分ピッチモーメントの比例係数Mabは、実際の減衰力特性(アブソーバの左右輪の減衰力伸圧差の前後差)との間で式(26)に示す関係に近似できる。したがって、ロール角とピッチ角との時間差を0とする減衰力特性は、式(27)となり、この式(27)がロールとピッチとを同期させるための条件(設計指標)となる。サスペンション設計処理では、この式(27)を導出し、式(27)に既知のG、G、τφf、τφr、τθなどを代入し、減衰力特性(減衰力伸圧差の前後差)を求める。そして、この減衰力伸圧差の前後差から、アブソーバの減衰力を設定する。
【0056】
【数10】


【0057】
Tは、トレッドである。Lは、ホイールベースである。RRは、ロールレートである。RGは、車両に作用する横加速度である。例えば、減衰力伸圧差の前後差が大きい場合、Mabが大きくなり、前後の伸圧差が大きくなるようにアブソーバの減衰力を設計する。
【0058】
サスペンション設計としては、減衰力特性以外にも設定することができ、以下にその例を示す。ロール動特性、ピッチ動特性、減衰力特性を固定とし、ジオメトリ特性で時間差tφ−tθを0とする場合には、式(24)を時間差0の条件でGやGについて解き、ロールセンタの高さを設定する。ジオメトリ特性、ピッチ動特性、減衰力特性を固定とし、ロール動特性で時間差tφ−tθを0とする場合には、式(24)を時間差0の条件でτφfやτφrについて解き、サスペンションのばねやスタビライザの剛性を設定する。ジオメトリ特性、ロール動特性、減衰力特性を固定とし、ピッチ動特性で時間差tφ−tθを0とする場合には、式(24)を時間差0の条件でτθについて解き、サスペンションのばねやスタビライザの剛性を設定する。
【0059】
最後に、本実施の形態に係るサスペンション設計の流れを図11のフローチャートに沿って説明する。図11は、本実施の形態に係るサスペンションの設計の流れを示すフローチャートである。
【0060】
まず、ジオメトリ分ピッチモーメントの比例係数G,G及びタイヤ横力に対するロール角の遅れ時間τφf,τφrを用いてロールセンタジオメトリに起因する旋回時のピッチモーメントを演算し、式(1)を導出する(S1)。また、減衰力分ピッチモーメントの比例係数Mabを用いてサスペンション減衰力伸圧差に起因する旋回時のピッチモーメントを演算し、式(4)を導出する(S2)。そして、この2つのピッチモーメントとピッチモーメントに対するピッチ角のゲインGθ及びピッチモーメントに対するピッチ角の遅れ時間τθを用いてピッチ角を演算し、式(5)を導出する(S3)。
【0061】
式(5)で表されるピッチ角をフーリエ変換し、そのフーリエ係数の2ω成分を抽出し、式(10)を導出する(S4)。フーリエ係数の2ω成分からなるピッチ角を用いて、ピッチ角とロール角との時間差を演算し、式(24)を導出する(S5)。
【0062】
式(24)のピッチ角とロール角との時間差を0とする場合のサスペンション特性(減衰力特性、ジオメトリ特性、ロール動特性、ピッチ動特性など)を設計する(S6)。
【0063】
このサスペンション設計によれば、操舵時のロールとピッチとの相関関係を考慮した発生メカニズムの理論式を導出することにより、ロールとピッチとの発生タイミングを同期させるための条件(設計指標)を明らかにすることができる。この条件に基づいてサスペンションを設計することにより、ロール感が良くなり、操縦安定性を向上させることができる。
【0064】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0065】
例えば、本実施の形態ではノーマルのサスペンションの車両に適用したが、アクティブサスペンションを搭載した車両に適用してもよい。
【0066】
また、本実施の形態ではタイヤ横力をタイヤ横力に対するロール角の遅れ時間に基づいて求める構成としたが、他の手法によって求めてもよい。
【0067】
また、本実施の形態では式(5)で表されるピッチ角のフーリエ展開の二次成分の係数をピッチ角として取り扱う構成としたが、二次成分以外の係数も用いてピッチ角としてもよいし、あるいは、式(5)で表されるピッチ角をフーリエ変換せずに、そのまま用いてもよい。
【0068】
また、本実施の形態ではサスペンションの減衰力特性を減衰力伸圧差の前後差としたが、サスペンションの減衰力特性を他の要素で表してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】ロール感の官能評価が高い車両のロール角とピッチ角とのリサージュ波形を示す図であり、(a)が評価の高い車両の一例であり、(b)が評価の高い車両の他例である。
【図2】ロール感の官能評価が低い車両のロール角とピッチ角とのリサージュ波形を示す図であり、(a)が評価の低い車両の一例であり、(b)が評価の低い車両の他例である。
【図3】ロール感の官能評価が高い車両のロール角の時間変化とピッチ角の時間変化を示す図である。
【図4】ロール感の官能評価が低い車両のロール角の時間変化とピッチ角の時間変化を示す図である。
【図5】ロールセンタ、瞬間中心、タイヤ横力、上下力の説明図である。
【図6】ピッチモーメントとピッチ角との関係を示す図である。
【図7】ピッチ角の時間変化とピッチモーメントの時間変化との関係を示す図である。
【図8】ロール角の時間変化とタイヤ横力の時間変化との関係を示す図である。
【図9】サスペンションのジオメトリに起因するピッチモーメントの説明図である。(a)が前輪側のタイヤ横力と上下力を示し、(b)が後輪側のタイヤ横力と上下力を示し、(c)が前後の上下力とピッチモーメントを示す。
【図10】サスペンションの減衰力に起因するピッチモーメントの説明図である。(a)が前輪側の減衰力と上下力を示し、(b)が後輪側の減衰力と上下力を示し、(c)が前後の上下力とピッチモーメントを示す。
【図11】本実施の形態に係るサスペンションの設計の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
UA…上アーム、LA…下アーム、MCL、MCR…瞬間中心、RC…ロールセンタ、RFL,RFR…タイヤ横力、VFL,VFR…上下力、FVF1,RVF1…ジオメトリによる上下力、JPM…ジオメトリ分のピッチモーメント、DFL,DFR…アブソーバの減衰力、FVF2,RVF2…減衰力伸圧差による上下力、DPM…減衰力分のピッチモーメント




 

 


     NEWS
会社検索順位 特許の出願数の順位が発表

URL変更
平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年


 
   お問い合わせ info@patentjp.com patentjp.com   Copyright 2007-2013