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発明の名称 潤滑剤の除去方法及び希土類焼結磁石の製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−56315(P2007−56315A)
公開日 平成19年3月8日(2007.3.8)
出願番号 特願2005−243127(P2005−243127)
出願日 平成17年8月24日(2005.8.24)
代理人 【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
発明者 岩崎 信 / 大野 国士
要約 課題
成形体から効率よく潤滑剤を除去し、かつ焼結後の変形及びクラックの発生が抑制することのできる潤滑剤の除去方法及び希土類焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。

解決手段
本発明の潤滑剤の除去方法は、有機物を構成要素とする潤滑剤と所定組成を有する合金粉末とを含む組成物を磁場中で加圧成形して成形体を得る工程と、成形体を、水素(H2)を含む雰囲気ガスの下で、成形体の水素量を維持又は減少しつつ加熱処理することにより潤滑剤を除去する工程と、を含むことを特徴とする。本発明において、合金粉末が、原料合金に対して水素吸蔵を施して得られるものとすることができる。水素を吸蔵することにより粉砕(水素粉砕)されて合金粉末を得ることができるが、このような水素粉砕された合金粉末に対して本発明を適用することができる。
特許請求の範囲
【請求項1】
有機物を構成要素とする潤滑剤と所定組成を有する合金粉末とを含む組成物を磁場中で加圧成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を、水素(H2)を含む雰囲気ガスの下で、前記成形体の水素量を維持又は減少しつつ加熱処理することにより前記潤滑剤を除去する工程と、
を含むことを特徴とする潤滑剤の除去方法。
【請求項2】
前記合金粉末が、原料合金に対して水素吸蔵を施して得られるものであることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤の除去方法。
【請求項3】
前記合金粉末が、前記水素吸蔵後にさらに水素放出処理を施して得られるものであることを特徴とする請求項2に記載の潤滑剤の除去方法。
【請求項4】
前記加熱処理は、100〜550℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑剤の除去方法。
【請求項5】
前記雰囲気ガスは、不活性ガスを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑剤の除去方法。
【請求項6】
所定組成の原料合金に水素を吸蔵させた後に所定温度に加熱して水素を排出させる水素処理工程と、
前記水素処理工程で得られた合金粉末を、有機物を構成要素とする潤滑剤が添加された状態でさらに微細に粉砕する微粉砕工程と、
前記微粉砕工程で得られた粉砕粉末を磁場中成形する工程と、
前記磁場中成形で得られた成形体を、水素(H2)を含む雰囲気ガスの下で、前記所定温度以上の温度に加熱保持して前記潤滑剤を除去する工程と、
前記潤滑剤が除去された前記成形体を焼結する工程と、
を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類焼結磁石の製造方法に関し、特に磁場中成形時の成形性、配向性を確保するために添加される潤滑剤を効率よく除去することのできる潤滑剤の除去方法及び希土類焼結磁石の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類元素(R)、Fe又はFe及びCoを必須とする少なくとも1種以上の遷移金属元素(T)及びホウ素(B)を主成分とするR−T−B系焼結磁石は、所定粒度を有する合金粉末を磁場中成形した後に、焼結して製造される。磁気特性の高いR−T−B系焼結磁石を得るために、磁場中成形により得られる成形体の配向性を向上することが求められる。また、磁場中成形に供される合金粉末は、例えばジェットミルによって平均粒径2〜6μm程度まで微粉砕して得られるが、このときの粉砕性が高いことが求められる。これらの要望に応えるために、従来、微粉砕の前にオレイン酸アミド等の有機物を構成要素とする潤滑剤を添加することが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。添加された潤滑剤は、真空あるいは不活性ガス雰囲気中において、100〜500℃で成形体を加熱することにより除去する(以下、潤滑剤除去処理と称す)ことが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、真空あるいは不活性ガス雰囲気中の加熱処理を行っても、潤滑剤を十分に除去することができないか、除去するための加熱処理を長時間行わなければならない。潤滑剤が成形体に多量に残留していると、焼結時に希土類元素と反応して希土類炭化物を形成することにより、磁気特性を低下させる。あるいは、成形体の収縮率が不均一になり、成形体、ひいては焼結体に変形が生ずることがある。このような問題を解決するためには、水素を含む雰囲気にて潤滑剤除去処理を行うことが有効である(例えば、特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−240329号公報
【特許文献2】特開平8−111308号公報
【特許文献3】特開2003−313602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、水素を含む雰囲気にて潤滑剤除去処理を行ったところ、希土類焼結磁石にクラックが発生することを経験した。そこで本発明は、成形体から効率よく潤滑剤を除去し、かつ焼結後の変形及びクラックの発生を抑制することのできる潤滑剤の除去方法及び希土類焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は希土類焼結磁石に発生するクラックの原因を究明するべく種々の実験を行ったところ、潤滑剤除去処理時に成形体(R−T−B系合金)が水素を吸蔵することによる膨張がクラック発生の原因であることが判明した。より具体的には、後述する実施例の欄で示すように、水素を含む雰囲気で潤滑剤除去処理を行うと、R214B相の格子体積が膨張している。そこで、本発明は、水素を含む雰囲気における潤滑剤除去処理において、潤滑剤除去処理の対象である成形体が水素を吸蔵しない条件を採用することを提案する。ここで、水素の吸蔵量は温度に依存し、低温ほど多くなる。一般的な傾向として、成形体は不可避的に又は意図的に水素が吸蔵されており、この成形体は低温度領域で水素を吸蔵し、高温度領域では水素を排出する。潤滑剤除去処理時における水素の吸蔵又は排出の境界は、潤滑剤除去処理に供される成形体に吸蔵されている水素量に依存する。すなわち、潤滑剤除去処理に供される成形体の水素吸蔵量が、潤滑剤除去処理を行う条件における水素吸蔵量以上の量であれば、潤滑剤除去処理時に新たに水素を吸蔵することがないため格子は膨張せずクラックが発生しない。以上の知見に基づく本発明の潤滑剤の除去方法は、有機物を構成要素とする潤滑剤と所定組成を有する合金粉末とを含む組成物を磁場中で加圧成形して成形体を得る工程と、成形体を、水素(H2)を含む雰囲気ガスの下で、成形体の水素量を維持又は減少しつつ加熱処理することにより潤滑剤を除去する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明において、合金粉末が、原料合金に対して水素吸蔵を施して得られるものとすることができる。水素を吸蔵することにより粉砕(水素粉砕)されて合金粉末を得ることができるが、このような水素粉砕された合金粉末に対して本発明を適用することができる。水素粉砕された合金粉末は、所定量の水素を含んでおり、この水素が最終的に得たい特性を得るための弊害となる場合がある。その場合には、水素吸蔵後に水素排出処理を施すことが行われており、その場合も本発明を適用することができる。水素吸蔵のままの状態では合金粉末が多量の水素を含んでいるため、潤滑剤除去処理の過程で水素を吸蔵する例はほとんどない。これに対して水素排出処理を行った場合には、水素量が低減されているために、潤滑剤除去処理において水素を吸蔵して水素量が増加する場合がある。この水素量増加を本発明は回避するのである。
【0008】
本発明において、潤滑剤除去処理における加熱処理は、100〜550℃の温度範囲で行われることが好ましく、加熱処理を行う雰囲気ガスは、不活性ガスを含むことが好ましい。
【0009】
本発明は、希土類焼結磁石に適用することが好ましく、したがって所定組成の原料合金に水素を吸蔵させた後に所定温度に加熱して水素を排出させる水素処理工程と、水素処理工程で得られた合金粉末を、有機物を構成要素とする潤滑剤が添加された状態でさらに微細に粉砕する微粉砕工程と、微粉砕工程で得られた粉砕粉末を磁場中成形する工程と、磁場中成形で得られた成形体を、水素(H2)を含む雰囲気ガスの下で、所定温度以上の温度に加熱保持して潤滑剤を除去する工程と、潤滑剤が除去された成形体を焼結する工程と、を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、水素を含む雰囲気ガスの下で潤滑剤除去処理を行う場合でも、希土類焼結磁石等の焼結体のクラック発生を抑制することができる。しかも本発明によれば、水素を含む雰囲気ガスの下で潤滑剤除去処理を行うので、効率よく潤滑剤を除去することができるとともに、焼結体の変形を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施の形態を希土類焼結磁石の製造方法を例にして詳細に説明する。
希土類焼結磁石は、通常、原料合金作製、原料合金の粉砕、粉砕された粉末の磁場中成形、成形体の焼結という基本的な工程を経て作製される。以下、本発明の特徴部分である潤滑剤除去処理工程を含め、工程順にその製造方法を説明する。
【0012】
原料合金は、真空又は不活性ガス、好ましくはAr雰囲気中でストリップキャスト法、その他公知の溶解法により作製することができる。ストリップキャスト法は、原料金属をArガス雰囲気などの非酸化性雰囲気中で溶解して得た溶湯を回転するロールの表面に噴出させる。ロールで急冷された溶湯は、薄板または薄片(鱗片)状に急冷凝固される。この急冷凝固された合金は、結晶粒径が1〜50μmの均質な組織を有している。原料合金は、ストリップキャスト法に限らず、高周波誘導溶解等の溶解法によって得ることができる。
【0013】
原料合金は粉砕工程に供される。粉砕工程には、粗粉砕工程と微粉砕工程とがある。まず、原料合金を、粒径数百μm程度になるまで粗粉砕する。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行なうことが好ましい。粗粉砕に先立って、原料合金に水素を吸蔵させた後に排出させることにより粉砕を行なうことが効果的である。この水素粉砕を粗粉砕と位置付けて、機械的な粗粉砕を省略することもできる。この場合、例えばストリップキャスト法で得られた原料合金は、数mm〜数十mmのサイズに切断された状態で水素粉砕に供される。
【0014】
原料合金には水素が不純物として不可避的に含まれる。したがって、粗粉砕として機械的な粉砕手法を採用したとしても粗粉砕粉末には10〜30ppm程度の水素が含まれる。一方、粗粉砕として水素粉砕を適用すると、粗粉砕粉末には3500〜5000ppm程度の水素が含まれる。粉砕だけを目的とする場合水素吸蔵のみを行えば足りる。しかし、このように大量に水素を吸蔵した状態の粗粉砕粉末は、Nd−Fe−B系合金の磁気特性を悪化させる酸素との親和力が大きい状態となっているため、従来、水素吸蔵の後に、水素排出を行っていた。ただし、後の微粉砕における粉砕性を考慮すると粗粉砕粉末に水素が含まれていることが好ましいため、水素排出を行ったとしても、1000〜2000ppm程度の水素を残存させることが好ましい。また、この程度の水素量であれば、後の潤滑剤除去処理工程、あるいは焼結工程で希土類焼結磁石にとって問題のない程度まで低減することができる。
【0015】
以後の微粉砕工程、磁場中成形工程においてR−T−B系合金の水素量は基本的に増加することはない。前述したように、水素を含む雰囲気で潤滑剤除去処理工程を行う本発明において、潤滑剤除去処理の対象である成形体の水素量が少なければ、水素を吸蔵することにより希土類焼結磁石にクラックが発生する。したがって、この粗粉砕工程後の粗粉砕粉末の状態の水素量をある程度確保しておくことが本発明にとって好ましい。粗粉砕として水素粉砕を適用する場合には、水素排出を行わないという選択肢がある。また、水素排出を行う場合でも、排出量を制限するという選択肢がある。一方、粗粉砕として機械的な粉砕を適用する場合には、水素を含む雰囲気で粉砕を行う、あるいは水素を含む雰囲気に粗粉砕粉末を晒す等により水素量を増加させることができる。具体的な水素量は、潤滑剤除去処理工程における温度によって適宜変動させることになる。
【0016】
粗粉砕工程後、微粉砕工程に移る。微粉砕には主にジェットミルが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉末を、平均粒径2.5〜6μm、好ましくは3〜5μmとする。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉末を加速し、粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。
微粉砕前後又はその両方にて、有機物を構成要素とする潤滑剤を0.01〜0.5wt%程度添加することにより、次の磁場中成形時に配向性の高い微粉を得ることができる。また、微粉砕前に潤滑剤を添加した場合には、微粉砕工程において所望の粒径の微粉末を効率よく製造することができる。この潤滑剤としては、脂肪酸又は脂肪酸の誘導体、例えばステアリン酸系やオレイン酸系であるステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等を用いることができる。
【0017】
以上のようにして得られた微粉末は磁場中成形に供される。この磁場中成形は、800〜1360kA/m(10〜17kOe)の磁場中で、50〜200MPa(0.5〜2ton/cm2)前後の圧力で行なえばよい。また、印加する磁場は、静磁場に限らずパルス状の磁場を用いることができる。さらに、印加する磁場の方向は、加圧方向と平行な方向、加圧方向と直交する方向のいずれであってもよい。
【0018】
以上で得られた成形体は、前述した潤滑剤を含んでいる。この潤滑剤は、前述したように、希土類元素であるNdと反応するために、R−Fe−B系焼結磁石として希土類元素の量が不足することにより磁気特性の劣化を招く。また、潤滑剤を多く含んでいると焼結時の収縮が焼結体中で不均一となり焼結後に変形するおそれがある。
そこで、本発明では、水素(H2)を含む雰囲気ガスの下で潤滑剤の除去のための潤滑剤除去処理を行う。水素を含む雰囲気ガスの下で潤滑剤除去処理を成形体に施すと、真空下又は不活性ガス雰囲気下における潤滑剤除去処理に比べて成形体に残留する炭素の量を迅速に低減することができる。
【0019】
本発明は、潤滑剤除去のための加熱処理である潤滑剤除去処理を、水素を含む雰囲気ガス下で行うが、その分圧P(H2)が低くなると潤滑剤除去の効果が小さくなる。逆に、水素分圧P(H2)が高くなりすぎると、成形体の水素量によっては、潤滑剤除去の温度が高くなければ、成形体が水素を吸蔵してしまう。したがって、P(H2)は3〜100kPaの範囲とすることが好ましい。さらに好ましいP(H2)は10〜95kPaであり、より好ましいP(H2)は25〜90kPaである。
この雰囲気ガスは、水素(H2)のほかに不活性ガスを含むことが好ましい。この不活性ガスは、H2のキャリアガスとして機能する。不活性ガスとしては、Arガス、N2ガスを用いることができる。
【0020】
潤滑剤除去処理のための加熱処理は、100〜550℃の温度範囲に保持することが好ましい。100℃未満では潤滑剤除去の効果を十分得ることができないためであり、一方、550℃を超えると効果が飽和するためである。ここで、100〜550℃の温度範囲に保持する、とは当該温度範囲の一定温度に成形体を保持する場合に限らず、所定時間だけ当該温度範囲のいずれかの温度に成形体が加熱されていればよい。したがって、100〜550℃にかけて連続的に昇温する形態、100〜500℃の範囲において段階的に温度を上昇させる形態等、種々の形態を包含する。好ましい加熱処理の温度は、150〜450℃、さらに好ましい加熱処理の温度は200〜400℃である。
【0021】
ここで、潤滑剤除去処理における加熱温度で注意を要するのは、成形体(又は成形体を構成する微粉砕粉末)に含まれる水素の量を考慮して加熱温度を定める必要があるということである。潤滑剤除去処理工程において成形体が水素を吸蔵すると希土類焼結磁石にクラックが発生するおそれがあるからである。成形体が水素を吸蔵するか否かは、当該雰囲気の温度、水素分圧が影響を及ぼす。すなわち、当該条件における水素量吸蔵量未満の量しか成形体が水素を含んでいない場合には、成形体は水素を吸蔵する。逆に、当該条件における水素吸蔵量を超える量の水素を成形体が含んでいる場合には、成形体は水素を吸蔵しない。したがって、成形体が含む水素量を把握しておき、潤滑除去処理の条件における水素吸蔵量が、成形体が含む水素量未満となる温度で潤滑剤除去処理を行うべきである。
なお、クラックは、成形体の段階でその外観を目視することにより観察されるものがあるが、成形体の段階では外観から観察できない場合がある。この場合、焼結を経ることにより焼結体の表面にクラックを観察できることがある。
【0022】
加熱処理の保持時間が短いと潤滑剤除去の効果が不十分であり、一方保持時間が長すぎても潤滑剤除去の効果が飽和してしまう。したがって、加熱処理の保持時間は、0.5〜10時間とすることが好ましく、さらには1〜3時間とすることが好ましい。
【0023】
以上の潤滑剤除去処理が施された成形体は、焼結に供される。焼結は、真空又は不活性ガス雰囲気中、好ましくは真空中で行われる。焼結条件は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1100℃の温度で1〜10時間程度保持すれば緻密な焼結体を得ることができる。
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力を制御する重要な工程である。時効処理を2段に分けて行なう場合には、750〜950℃、500〜700℃での所定時間の保持が有効である。また、500〜700℃の熱処理で保磁力が大きく増加するため、時効処理を1段で行なう場合には500〜700℃の時効処理を施すとよい。
【0024】
本発明を適用した希土類焼結磁石の製造方法において、潤滑剤除去処理を焼結と独立して行うことができる。また、本発明において、潤滑剤除去処理を焼結の昇温過程で行うこともできる。後者の形態を図1に示す。図1に示すように、潤滑剤除去のために焼結の昇温過程の所定の温度域(100〜500℃)で焼結炉内の雰囲気を、H2を含む雰囲気ガスとすればよい。所定時間経過した後に、焼結炉から雰囲気ガスを排出し、かつ焼結炉内を減圧して所定の真空度にする。この真空度を維持しながら焼結温度まで昇温し、かつ所定時間保持する。なお、図1は潤滑剤除去を一定の温度に保持する例を示しているが、前述したように、図2に示すように連続的に昇温してもよいし、図3に示すように段階的に昇温してもよい。
【0025】
図4は、製造過程における水素量の変遷を示す図である。図4において、本発明Iは水
素吸蔵後に水素排出を行わない形態を示し、本発明IIは水素吸蔵後に水素排出を行う形態
を示している。また図4において、比較例は水素吸蔵後に水素排出を行う形態を示している。本発明IIと比較例は水素排出後の水素量が相違しており、本発明IIに比べて比較例は
水素をより多く排出しており水素排出後の水素量が少ない。
図4において、本発明Iは水素吸蔵後の水素量が潤滑剤除去前まで維持される。前述し
たように、水素を含む雰囲気ガス中で潤滑剤除去処理を行うが、成形体(微粉砕粉末)の水素量が高いため、潤滑剤除去処理の過程で水素を排出する。
図4において、本発明IIは水素吸蔵後に水素排出を行うため、水素量が所定量まで低減
される。本発明IIは、水素排出後の水素量によって2つの形態に区分することができる。
1つは潤滑剤除去処理工程で水素量が低減する形態(本発明II−a)である。他の1つは
、潤滑剤除去処理工程で水素量が維持される形態(本発明II−b)である。いずれの形態
であっても、その後に水素を含む雰囲気ガス中で潤滑剤除去処理を行っても水素を吸蔵しないため、水素排出後の水素量が焼結前まで維持される。
図4において、比較例は水素吸蔵後に水素排出を行う。このときの水素量は、前述したように、本発明(I、II)よりも低い。この水素量は微粉砕、磁場中成形の過程では維持
されるが、潤滑剤除去工程において成形体(微粉砕粉末)が水素を吸蔵するために、水素量が増加する。そのために、成形体にクラックが発生する。
【0026】
本発明はR−T−B(Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCo)で示されるR−T−B系焼結磁石について適用することが好ましい。
R−T−B系焼結磁石は、希土類元素(R)を25〜37wt%含有する。ここで、RはYを含む概念を有しており、したがってY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの1種又は2種以上から選択される。Rの量が25wt%未満であると、R−T−B系焼結磁石の主相となるR214B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが37wt%を超えると主相であるR214B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。またRが酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なRリッチ相が減少し、保磁力の低下を招く。したがって、Rの量は25〜37wt%とする。好ましいRの量は28〜35wt%である。
【0027】
また、本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、ホウ素(B)を0.5〜4.5wt%含有する。Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。一方で、Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、Bの上限を4.5wt%とする。好ましいBの量は0.5〜1.5wt%、さらに好ましいBの量は0.8〜1.2wt%である。
本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、Coを5.0wt%以下(0を含まず)、好ましくは0.1〜3.0wt%含有することができる。CoはFeと同様の相を形成するが、キュリー温度の向上、粒界相の耐食性向上などに効果がある。
【0028】
本発明が適用されるR−T−B系焼結磁石は、他の元素の含有を許容する。例えば、Al、Cu、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge等の元素を適宜含有させることができる。一方で、酸素、窒素、炭素等の不純物元素を極力低減することが好ましい。特に磁気特性を害する酸素は、その量を8000ppm以下、さらには5000ppm以下とすることが好ましい。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。
【0029】
以上、R−T−B系焼結磁石について説明したが、本発明は他の希土類焼結磁石、さらには磁石以外の他の焼結体に適用することができることは、当業者であれば、以上の説明あるいは以下の実施例の説明から明らかである。
【実施例1】
【0030】
ストリップキャスト法により30wt%Nd−2wt%Dy−0.2wt%Al−0.5wt%Co−0.1wt%Cu−1wt%B−bal.Feの組成を有する合金を作製した。得られたストリップキャスト合金に室温で水素を吸蔵させた後に200℃又は600℃の温度で水素排出する水素処理による粗粉砕粉末を得た。なお、水素吸蔵後に水素排出を行わない粗粉砕粉末も用意した。以上の粗粉砕粉末をジェットミルにより微粉砕を行って平均粒径4.5μmの微粉砕粉末を得た。なお、ジェットミルによる微粉砕を行う際に、オレイン酸アミドを0.1wt%添加した。
【0031】
得られた微粉砕粉末を印加磁場:1200kA/m、成形圧力:100MPaの条件で磁場中成形して、70×10×50mmの寸法の成形体を得た。なお、この成形体の配向方向(磁場印加方向)は、70mmの方向である。以上の成形体を、180mm×180mm×180mmのサイズのトレーに18個載置した状態で潤滑剤除去処理を行った。なお、成形体は、10mm×50mmの面が底面になるようにトレーに載置された。
【0032】
潤滑剤除去処理の条件は、120℃、280℃、320℃で及び500℃の各温度で1時間、水素を含む雰囲気ガス中に保持するというものである。この雰囲気ガスは水素(H2)とArの混合ガスで、水素の分圧P(H2)が50kPa、アルゴンの分圧P(Ar)が50kPaである。
潤滑剤除去処理を行った成形体について、水素量、炭素量を測定するとともにXRD(X Ray Diffraction)によりR2Fe14B相の格子体積を測定した。その結果を表1〜表3、図5〜図7に示した。
【0033】
表1及び図5に示すように、水素吸蔵をした状態(潤滑剤除去前)の成形体の水素量は4200ppm程度であるが、水素排出を200℃で行うことにより成形体の水素量は3400ppm程度に低減され、さらに水素排出を600℃で行うことにより成形体の水素量は1600ppm程度に低減される。このように、水素排出の温度が高いほど、成形体が含有することのできる水素量が少なくなる。このことは、潤滑剤除去温度が高くなれば成形体に含まれる水素量が少なくなることを示唆している。ただし、この示唆は、表1及び図5から明らかなように、水素排出を行っていない場合に当てはまるものの、水素排出を600℃で行っている場合には、120℃での潤滑剤除去により水素量が相当増加している。これは、600℃で水素排出を行った成形体の1600ppmという水素量は、P(H2):50kPa及びP(Ar):50kPaの雰囲気ガス、120℃の条件下における水素吸蔵量よりも低いためと解される。200℃で水素排出を行っている場合は、水素排出後の成形体の水素量が、P(H2):50kPa及びP(Ar):50kPaの雰囲気ガス、120℃の条件下における水素吸蔵量とほぼ同等である。
【0034】
図5より、成形体の水素量が3500ppm以上であれば、潤滑剤除去処理の温度を問わず、成形体の水素量が増加することはないといえる。
【0035】
【表1】


【0036】
次に、表2及び図6のR2Fe14B相の格子体積についてみると、表1及び図5の水素量の挙動と同様の傾向を示していることがわかる。水素排出を600℃で行った場合には、潤滑剤除去処理を120℃で行うことにより格子体積が増大することがわかる。この格子体積の増大が、希土類焼結磁石のクラック発生の原因とみなすことができる。
また、図5及び図6より、水素排出を行わない場合には、潤滑剤除去温度を規制しなくても、潤滑剤除去処理過程における水素吸蔵によるクラック発生のおそれはない。
【0037】
水素排出を行った場合には、水素排出後の水素量を考慮して水素排出の温度を定める必要がある。具体的には、図5に示すような潤滑剤除去温度−水素量曲線を予め求めておき、水素量が増大しない条件、換言すれば水素量が維持又は減少する条件で潤滑剤除去処理を行えばよい。例えば、200℃で水素排出を行った場合には、120℃以上のいずれの温度で潤滑剤除去処理を行っても水素量の増大を回避することができる。しかし、200℃を超える温度で水素排出を行った場合には、120℃での潤滑剤除去処理では水素量が増大して、クラック発生の可能性が大きくなる。相対的には、水素排出の温度が高ければ潤滑剤除去処理の温度を高くしなければならず、水素排出の温度が低ければ潤滑剤除去処理の温度を低くすることができる。図5からすれば、600℃で水素排出を行った場合でも、潤滑剤除去処理を400℃以上で行えば水素量の増大を防ぐことができる。最大公約数的には、水素排出の温度で潤滑剤除去処理を行えば、潤滑剤除去の過程で水素を吸蔵することはない。
【0038】
【表2】


【0039】
次に、表3及び図7に示すように、潤滑剤除去温度が高くなるほど成形体の炭素量が低減され、潤滑剤が除去されていることがわかる。ただし、潤滑剤除去温度が500℃と高くなると成形体の炭素量低減効果が小さくなる。これは、炭素が希土類と反応して除去されない形態となるためと考えられる。炭素量が多いと磁気特性に悪影響を及ぼすとともに、焼結時の変形のおそれが大きくなる。したがって、潤滑剤除去の効果の観点から、潤滑剤除去温度は500℃以下にすることが好ましい。
【0040】
【表3】


【0041】
また潤滑剤除去後の成形体を焼結及び時効処理を行って焼結体を得た。焼結は真空中で1030℃で4時間保持する条件とし、時効処理はAr雰囲気中で900℃で1時間保持後、530℃で1時間保持する2段時効処理とした。得られた焼結体のクラック発生状況と変形量の測定を行った。その結果を表4及び表5に示す。なお、クラックは目視により確認した。変形量は、得られた焼結体の40mmの幅における中間部のふくらみ値を図8に示すように測定し、18ケの焼結体の中の最大値を変形量とした。ただし、クラックの発生した焼結体については変形量の測定を行っていない(表5に測定不能と表示)。
【0042】
表4に示すように、水素排出を行わないで得られた焼結体及び水素排出を200℃で行った得られた焼結体は、クラックの発生が確認されなかった。これに対して、600℃で水素排出を行って得られた焼結体は、潤滑剤除去温度が120℃及び280℃の場合に、全ての焼結体にクラックが発生した。しかし、潤滑剤除去温度が320℃ではクラック発生頻度が低くなり、潤滑剤除去温度が500℃の場合にはクラックは発生しなかった。
以上の結果と表1及び図5を参酌すると、水素量が増加する条件で潤滑剤除去処理を行うと、焼結後にクラックが発生する可能性が増大することがわかる。
【0043】
【表4】


【0044】
表5に示すように、潤滑剤除去処理を行うことにより、焼結体の変形を抑制できることがわかる。ただし、成形体における炭素量の高い500℃の潤滑剤除去では、それ以下の温度における潤滑剤除去処理よりも変形量が大きくなった。これは、成形体に残留する炭素量に比例しており、成形体に残留する炭素が焼結体の変形の原因と推察される。
【0045】
【表5】


【0046】
得られた焼結体のいくつかについて磁気特性を測定した。その結果を表6に示すが、潤滑剤除去処理を行うことにより、保磁力(HcJ)を向上できることが確認された。
【0047】
【表6】


【実施例2】
【0048】
水素排出を300℃で行った以外は実施例1と同様にして磁場中成形まで行って成形体を得た。得られた成形体に対して、表7に示す水素及びArからなる雰囲気ガス中にて400℃で1時間潤滑剤除去処理を行った。潤滑剤除去処理後の水素量、炭素量を測定した。その結果を表7に示した。
【0049】
潤滑剤除去処理後の成形体に、実施例1と同様にして焼結、時効処理を施して焼結体を得た。得られた焼結体について、実施例1と同様にクラック発生状況と変形量の測定を行うとともに、磁気特性も測定した。その結果を表7に併せて示す。
【0050】
【表7】


【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】焼結の昇温過程に本発明の潤滑剤除去処理を行う一形態を示す図である。
【図2】焼結の昇温過程に本発明の潤滑剤除去処理を行う他の形態を示す図である。
【図3】焼結の昇温過程に本発明の潤滑剤除去処理を行う他の形態を示す図である。
【図4】製造過程における水素量の変遷を示す図である。
【図5】潤滑剤除去温度と水素量の関係を示すグラフである。
【図6】潤滑剤除去温度と格子体積の関係を示すグラフである。
【図7】潤滑剤除去温度と炭素量の関係を示すグラフである。
【図8】変形量の測定方法を示す図である。




 

 


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