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発明の名称 ガスシールドアーク溶接方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−118069(P2007−118069A)
公開日 平成19年5月17日(2007.5.17)
出願番号 特願2005−317438(P2005−317438)
出願日 平成17年10月31日(2005.10.31)
代理人 【識別番号】100099531
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 英一
発明者 片岡 時彦 / 池田 倫正
要約 課題
ガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、アークの安定性およびスパッタ発生量の低減はいうまでもなく、優れたビード形状を得ることが可能な、鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いた溶接方法を提供する。

解決手段
直流電流をピーク電流とベース電流との2水準に設定したパルスを溶接用電源から出力し、ピーク電流を250〜380Aの範囲内とし、F=〔I−(E/2)〕/Hで算出されるF値を1.0〜2.0の範囲内とし、かつ希土類元素を0.015〜0.100質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを用いて正極性でガスシールドアーク溶接を行なう。
特許請求の範囲
【請求項1】
直流電流をピーク電流とベース電流との2水準に設定したパルスを溶接用電源から出力し、前記ピーク電流を250〜380Aの範囲内とし、下記の(1)式で算出されるF値を1.0〜2.0の範囲内とし、かつ希土類元素を0.015〜0.100質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを用いて正極性でガスシールドアーク溶接を行なうことを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
F=〔I−(E/2)〕/H ・・・ (1)
I:溶接電流(A)
E:溶接電圧(V)
H:パルス周波数(Hz)
【請求項2】
前記ガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、CO2 を50体積%以上含有するシールドガスを用いることを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接方法。
【請求項3】
前記鋼素線が前記希土類元素に加えて、Ca:0.0008質量%以下およびO:0.0080質量%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のガスシールドアーク溶接方法。

発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスシールドアーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールドガスとしてAr−(5〜25体積%)CO2 ガスを用いるガスシールドアーク溶接(いわゆるMAG溶接)は、ビード形状に優れ、スパッタの発生が少ないことから、高品質な溶接が要求される分野で広く使用されている。しかしながらArの価格はCO2 の5倍と高価であるから、実際の溶接施工は、安価なCO2 を主成分(すなわち40体積%以上)とするシールドガスを用いる溶接方法(いわゆる炭酸ガスシールドアーク溶接)が採用される。
【0003】
一般に、シールドガスのCO2 濃度に関わらず、ガスシールドアーク溶接で使用される消耗電極(すなわち溶接ワイヤ)は、ソリッドワイヤとフラックスコアードワイヤに大別される。
ソリッドワイヤは、鋼素線からなる溶接ワイヤであり、素材となる鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布したものもある。このソリッドワイヤは、ガスシールドアーク溶接によって優れた強度と靭性を持つ溶接金属が得られるので、主に突合せ溶接に使用される。一方、フラックスコアードワイヤ(以下、FCワイヤという)は、鋼製の外殻の内側に溶接用フラックスを充填した溶接ワイヤであり、優れたビード形状が得られるので、主に隅肉溶接に使用される。
【0004】
FCワイヤがビード形状に優れる理由は、溶接ワイヤの先端から鋼板の溶融メタルに移行する溶滴が細かいので、溶融メタルの表面揺動が小さく抑えられ、かつ溶接用フラックスに多量に含まれるスラグ形成剤によって生成したスラグがビードを覆うからである。
ソリッドワイヤでは、溶接ワイヤの先端から粗大な液滴が懸垂してアーク力によって揺れ動くので、鋼板との短絡,再アークによってスパッタが多量に発生するという問題がある。
【0005】
そこで、ソリッドワイヤをガスシールドアーク溶接で使用する場合に生じる粗大な溶滴の不規則な移行を防止し、アークを安定化するために、種々の技術が検討されている。
たとえば特許文献1には、溶接ワイヤにKを添加することによって、スパッタの発生を抑制する技術が開示されている。しかし、この技術では鋼板との短絡や再アークを十分に抑制できないので、スパッタを抑制する効果には限界がある。
【0006】
特許文献2,3には、溶接電流の1パルスで1溶滴を移行させることによって、スパッタの発生を抑制する技術が開示されている。この技術は、MAG溶接に適用すれば多大な効果が得られる。その理由は、MAG溶接では1溶滴の形成に要する時間が1〜2ms程度であり、かつ溶滴の移行が安定しているからである。ところが炭酸ガスシールドアーク溶接では、溶滴がMAG溶接の10〜20倍になり、かつ溶滴の挙動が不安定であるから、1パルスで1溶滴を移行させることは困難である。その結果、特許文献2,3に開示された技術を炭酸ガスシールドアーク溶接に適用すると、1パルスで移行できなかった溶滴が短絡を発生させ、スパッタの発生量が増大する。
【0007】
また特許文献4には、少数のパルス群を周期的に繰り返して液滴を移行させる技術が開示されている。しかしながら炭酸ガスシールドアーク溶接にこの技術を適用すると、特許文献2,3と同様に、移行できなかった溶滴が短絡を発生させ、スパッタの発生量が増大する。
一般に正極性(すなわち溶接ワイヤをマイナス極)では、鋼板の発熱量が少なく、溶け込みが浅くなるので、オーバーラップに起因する溶接欠陥が発生しやすく、ビード形状も安定しない。したがって溶接技術者は、溶接ワイヤを正極性で使用することは考慮せず、逆極性(すなわち溶接ワイヤをプラス極)で使用する。したがって上記の特許文献1〜4に開示された技術は、逆極性のガスシールドアーク溶接に適用するために検討された技術である。
【0008】
これに対して本発明者らは、希土類元素(以下、REMという)を添加した溶接ワイヤを正極性で使用することによって、250A以上の大電流で微細な溶滴の移行(いわゆるスプレー移行)を可能とする技術を既に開発している(特許文献5参照)。しかしながらこの技術では、溶接電流が250A未満の場合に粗大な溶滴が形成され、短絡や再アークに起因するスパッタが発生するという問題が依然として残されている。
【特許文献1】特開平6-218574号公報
【特許文献2】特開平7-47473 号公報
【特許文献3】特開平7-290241号公報
【特許文献4】特開平1-254385号公報
【特許文献5】特開2004-188428 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような問題を解消し、ガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、低電流溶接においてもアークの安定性およびスパッタ発生量の低減はいうまでもなく、優れたビード形状を得ることが可能な、鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いた溶接方法を提供することを目的とする。
なお、ここで鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤとは、溶接用フラックスを内装せず、素材となる鋼素線を主体とするワイヤ(いわゆるソリッドワイヤ)を指す。また本発明は、鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布したガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤにも支障なく適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、溶接用フラックスを内装していないソリッドワイヤと呼ばれるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接用鋼ワイヤという)を用いたガスシールドアーク溶接について、アークを安定させることによってスパッタの発生量を低減させ、ビード形状を改善する観点から鋭意検討した。従来は主にC,Si,Mn,P,Sの添加量が主要な検討課題であったが、本発明者らは視点を変えて、溶接用鋼ワイヤの素材となる鋼素線の組成と電源からのパルスの出力条件との関係について詳細に検討し、以下に述べる知見を得た。
【0011】
溶接用電源から供給される直流の溶接電流をパルス化し、極性を正極性とし、かつ鋼素線にREMを添加した溶接用鋼ワイヤを使用することによって、安価なCO2 を主体とするシールドガスを使用しても安定した1パルス1溶滴移行を得ることができる。このような炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう場合は、シールドガスの残部は、Ar,He,H2 およびO2 のうちの1種以上のガスを混合するのが好ましい。なお、100体積%CO2 のシールドガスを用いても何ら問題はない。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、直流電流をピーク電流とベース電流との2水準に設定したパルスを溶接用電源から出力し、ピーク電流を250〜380Aの範囲内とし、下記の(1)式で算出されるF値を1.0〜2.0の範囲内とし、かつ希土類元素を0.015〜0.100質量%含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤを用いて正極性でガスシールドアーク溶接を行なうガスシールドアーク溶接方法である。
【0013】
F=〔I−(E/2)〕/H ・・・ (1)
I:溶接電流(A)
E:溶接電圧(V)
H:パルス周波数(Hz)
本発明のガスシールドアーク溶接方法においては、ガスシールドアーク溶接を行なうにあたって、CO2 を50体積%以上含有するシールドガスを用いることが好ましい。
【0014】
さらに、使用する溶接用鋼ワイヤの記鋼素線が希土類元素に加えて、Ca:0.0008質量%以下およびO:0.0080質量%以下のうちの1種または2種を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低電流のガスシールドアーク溶接においてアークの安定性およびスパッタ発生量の低減を達成し、優れたビード形状を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では1溶滴の形成から移行に至る間に1パルス分の溶接電流を供給し、ピーク電流を抑制することによって溶滴の挙動を安定化させるとともに、スプレー移行に必要な電流値より高いピーク電流を用いて、溶滴を安定して移行させる。
従来から知られている逆極性の炭酸ガスシールドアーク溶接では、溶滴の形成に要する時間はMAG溶接の10〜20倍の長時間となり、粗大な溶滴が形成される。その結果、溶接用電源から供給される直流の溶接電流をパルス化しても、ベース電流が供給される期間中に短絡が生じて、スパッタが多量に発生する。
【0017】
そこで本発明では、極性を正極性とし、溶接用鋼ワイヤの鋼素線にREMを添加し、かつ直流の溶接電流をパルス化することによって、ガスシールドアーク溶接における溶滴の1パルス1溶滴移行を可能にする。なお本発明は、溶接の施工コストを削減するために炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際にも適用できる。
本発明では極性を正極性とし鋼素線にREMを添加した溶接用鋼ワイヤを使用するので、アークが溶接用鋼ワイヤの先端に集中し、溶滴を包むように円錐状のアークプラズマが形成される。この円錐状のアークプラズマによって溶滴の微細移行が可能になる。しかし、アークが溶滴に集中するので、供給される電流が大きくなると、溶滴の挙動が不安定となる。
【0018】
溶接電流をパルス化して供給するにあたって、パルスのピーク電流が380Aを超えると、溶滴が不安定になり、スパッタの発生量が増加する。一方、溶滴の1パルス1溶滴移行を可能にするためには、ピーク電流を250A以上とする必要がある。したがって、パルス化して供給される溶接電流のピーク電流は250〜380Aの範囲内とする。
パルス化された溶接電流の周波数は、溶接用鋼ワイヤの溶融速度(すなわち溶接電流)が上昇すれば増加し、溶接電圧が低下すれば減少する。そこで周波数を表わす指標として下記の(1)式で算出されるF値を導入する。
【0019】
F=〔I−(E/2)〕/H ・・・ (1)
I:溶接電流(A)
E:溶接電圧(V)
H:パルス周波数(Hz)
なお、(1)式においてIおよびEは1分間の平均値である。
【0020】
F値が2.0を超えると、1パルスで1溶滴のみならず、1パルスで2溶滴の移行も混在するので、溶滴の移行が安定せず、スパッタの発生量が増加する。一方、F値が1.0未満では、1パルスで1溶滴のみならず、2パルスで1溶滴の移行も混在するので、溶滴の移行が安定せず、スパッタの発生量が増加する。したがって、パルス化して供給される溶接電流のF値は1.0〜2.0の範囲内とする。
【0021】
本発明で使用する溶接用鋼ワイヤは、ソリッドワイヤとFCワイヤに大別される溶接ワイヤのうち、ソリッドワイヤを対象とする。次に、本発明の溶接用鋼ワイヤの鋼素線の成分を限定した理由について説明する。
REM:0.015〜0.100質量%
REMは、正極性のガスシールドアーク溶接における溶滴のスプレー移行を可能にするために不可欠の元素である。REM含有量が0.015質量%未満では、この効果が得られない。一方、REMを0.100質量%を超えて添加すると溶接用鋼ワイヤの製造工程で割れが生じたり、溶接金属の靭性低下を招く。したがって、REMは0.015〜0.100質量%の範囲を満足する必要がある。なお好ましくは0.025〜0.050質量%である。
【0022】
ここでREMとは、周期表の3族に属する元素の総称である。本発明では、原子番号57〜71の元素を使用するのが好ましく、特にCe,Laが好適である。Ce,Laを鋼素線に添加する場合は、CeまたはLaを単独で添加しても良いし、CeおよびLaを併用しても良い。なお、CeおよびLaをともに添加する場合は、あらかじめCe:40〜90質量%,La:10〜60質量%の範囲内で混合して得られた混合物を使用するのが好ましい。
本発明は、溶接の施工コストを削減するためにCO2 を50体積%以上含有するシールドガスを用いることが好ましい。つまり、本発明はCO2 を50体積%以上含有するシールドガスを用いるガスシールドアーク溶接(すなわち炭酸ガスシールドアーク溶接)にも支障なく適用できる。
【0023】
上記のREM添加と正極性を組み合わせることで溶滴のスプレー移行が可能となる。よって正極性で溶接を行なう必要がある。正極性で溶接を行なうと、アークが安定し、スパッタの発生を著しく抑制できる。
本発明で使用する溶接用鋼ワイヤの鋼素線は、上記のREMに加えて、鋼素線がCa,Oを含有することが好ましい。
【0024】
Ca:0.0008質量%以下
Caは、製鋼および鋳造時に不純物として溶鋼に混入したり、あるいは伸線加工時に不純物として鋼素線に混入する。正極性のガスシールドアーク溶接では、Ca含有量が0.0008質量%を超えると、高電流溶接におけるREM添加によるアークの安定化効果が損なわれる。したがって、Caは0.0008質量%以下とするのが好ましい。
【0025】
O:0.0080質量%以下
Oは、正極性のガスシールドアーク溶接において溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴を微細化する作用がある。しかし、O含有量が0.0080質量%を超えると、正極性の高電流溶接におけるアークの安定化というREM添加の効果が損なわれ、1パルス1溶滴移行を維持することが困難になる。したがって、Oは0.0080質量%以下とするのが好ましい。ただし、O含有量が0.0010質量%未満では、O添加の効果は充分に得られない。よって、 0.0010〜0.0080質量%が好ましく、さらに0.0010〜0.0050質量%が一層好ましい。
【0026】
なお本発明は、基本的成分としてC,Si,Mn,P,Sを下記の通り含有する鋼素線からなる溶接用鋼ワイヤに適用するのが好ましい。
C:0.20質量%以下
Cは、溶接金属の強度を確保するのに必要な元素であり、溶融メタルの粘性を低下させて流動性を向上させる効果がある。しかしC含有量が0.20質量%を超えると、正極性の溶接において溶滴および溶融メタルの挙動が不安定となるのみならず、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cは0.20質量%以下とするのが好ましい。一方、C含有量を過剰に減少させると溶接金属の強度を確保できない。そのため、0.003〜0.20質量%とするのが一層好ましい。より好ましくは0.01〜0.10質量%である。
【0027】
Si:0.05〜2.5質量%
Siは、脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。ガスシールドアーク溶接では、Si含有量が0.05質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。さらに正極性のガスシールドアーク溶接におけるアークの広がりを抑え、溶滴を微細化し挙動を安定化する作用も有する。一方、2.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、Siは0.05〜2.5質量%の範囲内とするのが好ましい。ただしSi含有量が0.65質量%を超えると、小粒のスパッタが増加する傾向が現われるので、0.05〜0.65質量%の範囲内が一層好ましい。
【0028】
Mn:0.25〜3.5質量%
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有し、溶融メタルの脱酸のためには不可欠な元素である。Mn含有量が0.25質量%未満では、溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生する。一方、3.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Mnは0.25〜3.5質量%の範囲内とするのが好ましい。なお、溶融メタルの脱酸を促進し、ブローホールを防止するためには、0.45質量%以上が望ましい。そのため、0.45〜3.5質量%とするのが一層好ましい。
【0029】
P:0.05質量%以下
Pは、鋼の融点を低下させるとともに、電気抵抗率を向上させ、溶融効率を向上させる元素である。さらに正極性のガスシールドアーク溶接において、溶滴を微細化し、アークを安定化する作用も有する。しかしP含有量が0.05質量%を超えると、正極性のガスシールドアーク溶接において溶融メタルの粘性が著しく低下し、アークが不安定となり、小粒のスパッタが増加する。また、溶接金属の高温割れを生じる危険性が増大する。したがって、Pは0.05質量%以下とするのが好ましい。なお、より好ましくは0.03質量%以下である。一方、 鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でPを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から0.002質量%以上が望ましい。そのため、0.002〜0.03質量%とするのが一層好ましい。
【0030】
S:0.02質量%以下
Sは、溶融メタルの粘性を低下させ、溶接用鋼ワイヤの先端に懸垂した溶滴の離脱を促進し、正極性のガスシールドアーク溶接においてアークを安定化する。またSは、正極性のガスシールドアーク溶接においてアークを広げ、溶融メタルの粘性を低下させてビードを平滑にする効果も有する。しかしS含有量が0.02質量%を超えると、小粒のスパッタが増加するとともに、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Sは0.02質量%以下とするのが好ましい。一方、 鋼素線の鋼材を溶製する製鋼段階でSを低減するためには長時間を要するので、生産性向上の観点から 0.002質量%以上が望ましい。そのため、0.002〜0.02質量%とするのが一層好ましい。
【0031】
さらに本発明では、上記した組成に加えて、鋼素線がTi,Zr,Alを含有することが好ましい。
Ti:0.02〜0.30質量%,Zr:0.02〜0.30質量%およびAl:0.02〜0.50質量%のうちの1種または2種以上
Ti,Zr,Alは、いずれも強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度を増加する元素である。さらに溶融メタルの脱酸によって粘性の低下を抑制してビード形状を安定化(すなわちハンピングビードを抑制)する効果がある。このような効果を有する故に 350A以上の高電流溶接において有効な元素であり、必要に応じて添加する。Tiが0.02質量%未満,Zrが0.02質量%未満,Alが0.02質量%未満では、この効果は得られない。一方、 Tiが0.30質量%を超える場合,Zrが0.30質量%を超える場合,Alが0.50質量%を超える場合は、溶滴が粗大化して大粒のスパッタが多量に発生する。したがって、Ti,Zr,Alを含有する場合は、Ti:0.02〜0.30質量%,Zr:0.02〜0.30質量%,Al:0.02〜0.50質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
【0032】
さらに必要に応じて下記の元素を添加しても、本発明の効果を減じるものではない。
Cr:0.02〜3.0質量%,Ni:0.05〜3.0質量%,Mo:0.05〜1.5質量%,B:0.0005〜0.015質量%
Cr,Ni,Mo,Bは、いずれも溶接金属の強度を増加し、耐候性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Cr,Ni,Mo,Bを含有する場合は、Cr:0.02〜3.0質量%,Ni:0.05〜3.0質量%,Mo:0.05〜1.5質量%,B:0.0005〜0.015質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
【0033】
Nb:0.005〜0.05質量%,V:0.005〜0.05質量%
Nb,Vは、いずれも溶接金属の強度,靭性を向上し、アークの安定性を向上させる元素である。これらの元素の含有量が微少である場合は、このような効果は得られない。一方、過剰に添加すると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Nb,Vを含有する場合は、Nb:0.005〜0.05質量%,V:0.005〜0.05質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
【0034】
上記した鋼素線の成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。たとえばNは、鋼材を溶製する段階や鋼素線を製造する段階で不可避的に混入する代表的な不可避的不純物であるが、溶滴の移行形態を微細にする効果があり、0.001〜0.020質量%の範囲内に調整するのが好ましい。0.008質量%未満に低減するのが一層好ましい。
次に、本発明の溶接用鋼ワイヤの製造方法について説明する。
【0035】
転炉または電気炉等を用いて、上記した組成を有する溶鋼を溶製する。この溶鋼の溶製方法は、特定の技術に限定せず、従来から知られている技術を使用する。次いで、得られた溶鋼を、連続鋳造法や造塊法等によって鋼材(たとえばビレット等)を製造する。この鋼材を加熱した後、熱間圧延を施し、さらに乾式の冷間圧延(すなわち伸線)を施して鋼素線を製造する。熱間圧延や冷間圧延の操業条件は、特定の条件に限定せず、所望の寸法形状の鋼素線を製造する条件であれば良い。
【0036】
さらに鋼素線は、焼鈍−酸洗−銅めっき−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を必要に応じて順次施して、所定の製品すなわち溶接用鋼ワイヤとなる。なお本発明では、必ずしも鋼素線に銅めっきを施す必要はなく、鋼素線の表面に潤滑剤を塗布した溶接用鋼ワイヤであっても何ら支障なく使用できる。
鋼素線の表面に潤滑剤を安定して付着させ、給電の安定性を向上するために、鋼素線の平坦度(=実表面積/理論表面積)を1.0005以上1.0100未満とするのが好ましい。鋼素線の平坦度は、伸線加工で使用するダイスの管理を厳格に行なうことによって、1.0005以上1.0100未満の範囲に維持することは可能である。
【0037】
鋼素線の表面に銅めっきを施す場合は、厚さ0.6μm以上の銅めっきを施すことによって、溶接用鋼ワイヤの給電不良に起因するアークの不安定化を防止できる。なお、銅めっきの厚さを0.8μm以上とすると、給電不良防止の効果が顕著に発揮されるので一層好ましい。このようにして銅めっきを厚目付とすることによって、給電チップの損耗も低減できるという効果も得られる。しかし、鋼素線に含まれるCuと銅めっきのCuが、溶接用鋼ワイヤの質量に対して合計3.0質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、Cuは3.0質量%以下とするのが好ましい。
【0038】
溶接用鋼ワイヤの送給性を向上するために、溶接用鋼ワイヤの表面(すなわち鋼素線の表面あるいは銅めっきの表面)に潤滑油を塗布しても良い。潤滑油の塗布量は、溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.35〜1.70gの範囲内が好ましい。
なお、溶接用鋼ワイヤを製造する工程で、溶接用鋼ワイヤの表面に種々の不純物が付着する。特に固体の不純物の付着量を、溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.01g以下に抑制すると、給電の安定性が一層向上する。
【実施例】
【0039】
製鋼段階で成分を調整し、連続鋳造によって製造されたビレットを熱間圧延して、直径5.5〜7.0mmの線材とした。次いで冷間圧延(すなわち伸線)によって直径2.0〜2.8mmとした。これらの線材を露点10℃以下の窒素雰囲気(O2 200体積%以下,CO2 0.1体積%以下)で焼鈍し、酸洗を施して脱スケールを行なった後、必要に応じてCuめっきを施し、さらに冷間で伸線加工を施して、直径0.8〜1.6mmの鋼素線を製造した。さらに鋼素線に潤滑剤を塗布(溶接用鋼ワイヤ10kgあたり0.4〜0.8g)することによって、十分な送給性を確保できるように調整した。得られた鋼素線の成分は、表1に示す通りである。なお、REM は、質量比Ce:La:Y=6:3:1のミッシュメタルである。
【0040】
【表1】


このようにして製造した溶接用鋼ワイヤを用いて、板厚3.2mmのSPHC鋼板にビードオン溶接を行ない、アークの安定性を調査した。アークの安定性はスパッタの発生量で評価し、スパッタの発生量(総量)が0.4g/min以下を良(○),0.4g/min超え0.6g/min以下を可(△),0.6g/min超えを不可(×)とした。その結果を表2に示す。なお、ビードオン溶接は、溶接速度を120cm/min,突出し長さ15mmとし、その他の条件は表2に示す通りである。
【0041】
【表2】


表2から明らかなように、発明例ではアークの安定性の評価が良または可(スパッタの発生量(総量)は0.13〜0.59g/min)であったのに対して、比較例ではアークの安定性の評価が不可(スパッタの発生量(総量)は1.31〜3.81g/min)であった。





 

 


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