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高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性および耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - 三菱マテリアル株式会社
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発明の名称 高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性および耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−136580(P2007−136580A)
公開日 平成19年6月7日(2007.6.7)
出願番号 特願2005−331401(P2005−331401)
出願日 平成17年11月16日(2005.11.16)
代理人 【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
発明者 西田 真 / 功刀 斉 / 石井 剛
要約 課題
高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性および耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。

解決手段
表面被覆切削工具の硬質被覆層を、(A)下部層として、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2種以上で構成され、かつ0.5〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層と、(B)上部層として、3〜15μmの平均層厚を有し、かつ、(a)層厚方向にそって、Al最高含有点とCr最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記両点間でAlおよびCr含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、(b)上記Al最高含有点及びCr最高含有点における特定な組成式を満足し、(c)さらに、隣り合う上記Al最高含有点とCr最高含有点の間隔が、0.1〜0.5μmであることを満足するAlとCrとYの複合酸化物層からなる上部層、で構成する。
特許請求の範囲
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金基体または炭窒化チタン基サーメット基体の表面に、
(A)下部層として、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2種以上で構成され、かつ0.5〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(B)上部層として、3〜15μmの平均層厚を有し、かつ、
(a)化学蒸着形成され、層厚方向にそって、Al最高含有点とCr最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Cr最高含有点、前記Cr最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびCr含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
(b)上記Al最高含有点におけるAlとCrとYの相互含有割合を示す組成式:[Al1−(A+B)Cr](ただし、原子比で、Aは0.02〜0.15、Bは0.01〜0.10を示す)、
上記Cr最高含有点におけるCrとAlとYの相互含有割合を示す組成式:[Cr1−(C+D)Al](ただし、原子比で、Cは0.02〜0.15、Dは0.01〜0.10を示す)、
を満足し、
(c)さらに、隣り合う上記Al最高含有点とCr最高含有点の間隔が、0.1〜0.5μmであること、
以上(a)〜(c)を満足するAlとCrとYの複合酸化物層からなる上部層、
上記の下部層と上部層で構成された硬質被覆層を化学蒸着形成してなる、高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性および耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
この発明は、硬質被覆層がすぐれた高温硬さと耐熱性に加えて、すぐれた高温強度を有し、したがって特に各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高い発熱を伴なう高速条件に加えて、高い機械的衝撃が負荷される高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層にチッピング(微少欠け)の発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、被覆工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットからなる基体(以下、これらを総称して工具基体と云う)の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ0.5〜15μmの全体平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、3〜15μmの平均層厚を有し、かつAlとCrの相互含有割合を示す組成式:(Al1−MCr)(ただし、原子比で、Mは0.35〜0.65を示す)を満足し、かつ酸化アルミニウム(以下、Alで示す)と酸化クロム(以下、Crで示す)の固溶体組織を有するAlとCrの複合酸化物[以下、(Al−Cr)で示す]層、
上記の下部層と上部層で構成された硬質被覆層を化学蒸着形成してなる、被覆工具が知られている。
また、上記の従来被覆工具の硬質被覆層を構成する上部層である(Al−Cr)層が、Alによる高温硬さおよび耐熱性と、Crによる高温強度を具備することから、かかる被覆工具を各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
【0003】
さらに、上記の従来被覆工具が、例えば図1に概略縦断面図で示される通り、中央部にステンレス鋼製の反応ガス吹き出し管が立設され、前記反応ガス吹き出し管には、図2(a)に概略斜視図で、同(b)に概略平面図で例示される黒鉛製の工具基体支持パレットが串刺し積層嵌着され、かつこれらがステンレス鋼製のカバーを介してヒーターで加熱される構造を有する化学蒸着装置を用い、工具基体を前記工具基体支持パレットの底面に形成された多数の反応ガス通過穴位置に図示される通りに載置した状態で前記化学蒸着装置に装入し、ヒータで装置内を、例えば850〜1050℃の範囲内の所定の温度に加熱した後、まず、硬質被覆層の下部層として、例えば表3に示される形成条件でTi化合物層を形成し、ついで、反応ガスとして、容量%で(以下、反応ガスの%は容量%を示す)、
AlCl: 0.77〜1.43 %、
CrCl: 0.77〜1.43 %、
CO: 5〜6 %、
HCl: 2〜3 %、
:残り、
からなる組成を有する反応ガスを用い、この反応ガスを予め真空排気された装置内に前記反応ガス吹き出し管を通して導入し、装置内の反応ガス圧力を、6〜30kPaの範囲内の所定の圧力に所定時間保持することにより(Al−Cr)層からなる同上部層を形成することにより製造されることも知られている。
【0004】
また、一般に、上記の従来被覆工具の硬質被覆層の下部層を構成するTi化合物層や(Al−Cr)層が粒状結晶組織を有し、さらに、前記Ti化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとして有機炭窒化物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている。
【特許文献1】特開昭54−153758号公報
【特許文献2】特開平6−8010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は高速化の傾向を強め、かつ高切り込みや高送りなどの重切削条件での切削加工を余儀なくされる傾向にあるが、上記の従来被覆工具においては、これを高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削加工を高速で行なうのに用いた場合には、特に硬質被覆層の上部層を構成する層厚方向に沿って一定の組成を有する(Al−Cr)2O3層の高温硬さおよび耐熱性不足、さらに高温強度不足が原因で、摩耗進行が速くなるばかりでなく、チッピング(微小割れ)も発生し易く、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性および耐チッピング性を発揮する被覆工具を開発すべく、上記の従来被覆工具を構成する硬質被覆層に着目し、研究を行った結果、
(a)上記の化学蒸着装置を用いて形成された従来被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成する(Al−Cr)層は、層厚全体に亘って実質的に均一な組成および固溶体組織を有し、したがって均質な高温硬さと耐熱性、さらに高温強度を有するが、例えば図3に反応ガス組成自動制御システムが概略チャート図で示される通り、前記(Al−Cr)層に、AlとCrの合量に占める割合で、1〜10原子%のYを含有させた状態で、これに層厚方向にそってAl最高含有点とCr最高含有点とを所定間隔をおいて交互に繰り返し形成させる目的で、反応ガス組成および流量中央制御装置に、前記Al最高含有点およびCr最高含有点に対応した反応ガス組成、並びに前記両点間のAlおよびCrの連続変化に対応した反応ガス組成、さらに前記両点間の間隔を、過去の実績データに基づいてインプットし、この反応ガス組成および流量中央制御装置からの制御信号にしたがって、原料ガスボンベからのAlClガス、CrClガス、YClガス、Hガス、COガス、およびHClガスの流量をそれぞれの原料ガス流量自動制御装置にて制御しながら、化学蒸着装置の反応ガス吹き出し管に導入すると、層厚方向にそって、Al最高含有点とCr最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Cr最高含有点、前記Cr最高含有点から前記Al最低含有点へAlおよびCr含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造、およびAlとCrの固溶体素地中にAlとCrとYの複合酸化物相が分散分布した組織を有するAlとCrとYの複合酸化物[以下、(Al,Cr,Y)複合酸化物で示す]層からなる上部層が形成されるようになること。
【0007】
(b)上記(a)の繰り返し連続変化成分濃度分布構造の(Al,Cr,Y)複合酸化物層において、
上記Al最高含有点におけるAlとCrとYの相互含有割合を示す組成式:[Al1−(A+B)Cr](ただし、原子比で、Aは0.02〜0.15、Bは0.01〜0.10を示す)、
上記Cr最高含有点におけるCrとAlとYの相互含有割合を示す組成式:[Cr1−(C+D)Al](ただし、原子比で、Cは0.02〜0.15、Dは0.01〜0.10を示す)、
を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とCr最高含有点の厚さ方向の間隔を0.1〜0.5μmとすると、
上記Al最高含有点部分では、上記の従来(Al−Cr)層に比してAlの含有割合が相対的に高く、Crのそれはきわめて低いものとなるので、これのもつ高温硬さおよび耐熱性に比して一段とすぐれた高温硬さおよび耐熱性を具備する反面、一方高温強度は低いものとなり、また、上記Cr最高含有点部分では、前記Al最高含有点部分に比してAl含有量が低く、相対的にCr含有量の高いものとなるので、一段と高い高温強度を具備する反面、高温硬さおよび耐熱性の低いものとなるが、これらAl最高含有点とCr最高含有点の間隔をきわめて小さくしたことから、層全体の特性として一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を保持した状態で、一段とすぐれた高温強度を具備するようになり、さらにYを含有させることにより、AlとCrとYの複合酸化物が分散分布した組織を形成することによって層自体の高温強度が一層向上するようになり、したがって、硬質被覆層の上部層がかかる構成の(Al,Cr,Y)複合酸化物層からなる被覆工具は、特に各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高速で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性および耐チッピング性を発揮するようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
【0008】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(A)下部層として、いずれも化学蒸着形成された、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2種以上で構成され、かつ0.5〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(B)上部層として、3〜15μmの平均層厚を有し、かつ、
(a)化学蒸着形成され、層厚方向にそって、Al最高含有点とCr最高含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Cr最高含有点、前記Cr最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびCr含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
(b)上記Al最高含有点におけるAlとCrとYの相互含有割合を示す組成式:[Al1−(A+B)Cr](ただし、原子比で、Aは0.02〜0.15、Bは0.01〜0.10を示す)、
上記Cr最高含有点におけるCrとAlとYの相互含有割合を示す組成式:[Cr1−(C+D)Al](ただし、原子比で、Cは0.02〜0.15、Dは0.01〜0.10を示す)、
を満足し、
(c)さらに、隣り合う上記Al最高含有点とCr最高含有点の間隔が、0.1〜0.5μmであること、
以上(a)〜(c)を満足する(Al,Cr,Y)複合酸化物層からなる上部層、
上記の下部層と上部層で構成された硬質被覆層を化学蒸着形成してなる、高速重切削条件で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性および耐チッピング性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
【0009】
つぎに、この発明の被覆超硬工具において、これを構成する硬質被覆層の構成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(A)Ti化合物層(下部層)
Ti化合物層は、基本的には(Al,Cr,Y)複合酸化物層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、工具基体と(Al,Cr,Y)複合酸化物層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性を向上させる作用を有するが、その平均層厚が0.5μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、切削時の発生熱によって偏摩耗の原因となる熱塑性変形を起し易くなることから、その平均層厚を0.5〜15μmと定めた。
【0010】
(B)(Al,Cr,Y)複合酸化物層(上部層)
(a)Al最高含有点の組成
上記した通り(Al,Cr,Y)複合酸化物層におけるAl成分は高温硬さおよび耐熱性(高温特性)、Cr成分は高温強度を向上させ、さらにY成分は一段と高温強度を向上させる作用があり、したがってAl最高含有点では、Al成分の含有割合を高くして高温硬さおよび耐熱性を一段と向上させ、高熱発生を伴う高速切削に適合したものにしているが、AlとCrとY成分の相互含有割合を示す組成式:[Al1−(A+B)Cr]で、A値が原子比で(以下同じ)0.15を越えたり、同B値が0.10を越えたりすると、相対的にAlの含有割合が低くなることから、層自体の高温硬さおよび耐熱性の低下は避けられず、これが摩耗促進の原因となり、一方、A値が0.02未満であったり、B値が0.01未満であったりすると、すぐれた高温強度を有するCr最高含有点が隣接して存在しても層自体の高温強度の低下は避けられず、この結果チッピングなどが発生し易くなることから、Al最高含有点の組成式:[Al1−(A+B)Cr]におけるA値を0.02〜0.15、同B値を0.01〜0.10と定めた。
【0011】
(b)Cr最高含有点の組成
上記の通りAl最高含有点は高温特性(高温硬さおよび耐熱性)のすぐれたものであるが、反面高温強度の劣るものであるため、このAl最高含有点の高温強度不足を補う目的で、Crの含有割合を高くし、さらに高温強度向上効果の著しいYを含有させることによってすぐれた高温強度を有するようになるCr最高含有点を厚さ方向に交互に介在させるものであり、しかしAlとCrとY成分の相互含有割合を示す組成式:[Cr1−(C+D)Al]で、Alの割合を示すC値がCrとYの合量に占める割合(原子比)で0.02未満では、所定の高温特性を確保することができず、この結果すぐれた高温特性を有するAl最高含有点が隣接して存在しても層自体の高温特性の低下が避けられなくなり、これが摩耗促進の原因となり、一方同C値が0.15を越えると、相対的にCrの割合が低くなり過ぎて、層自体の高温強度の低下は避けられず、この結果チッピングなどが発生し易くなることから、C値を0.02〜0.15と定めたものであり、同Yの割合を示すD値が0.10を越えると、層自体の高温特性の低下は避けられず、これが摩耗促進の原因となり、一方、D値が0.01未満では、所望の高温強度向上効果が得られないことから、Cr最高含有点の組成式:[Cr1−(C+D)Al]におけるC値を0.02〜0.15、同D値を0.01〜0.10と定めた。
【0012】
(c)Al最高含有点とCr最高含有点間の間隔
その間隔が0.1μm未満ではそれぞれの点を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果層に所望のすぐれた高温硬さおよび耐熱性、さらに高温強度を確保することができなくなり、またその間隔が0.5μmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちAl最高含有点であれば高温強度不足、Cr最高含有点であれば高温硬さおよび耐熱性不足が層内に局部的に現れ、これが原因でチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進されるようになることから、その間隔を0.1〜0.5μmと定めた。
【0013】
(d)平均層厚
その平均層厚が3μm未満では、所望の耐摩耗性を長期に亘って確保することができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を3〜15μmと定めた。
【発明の効果】
【0014】
この発明の被覆工具は、硬質被覆層の上部層が層厚方向にすぐれた高温硬さと耐熱性を有するAl最高含有点と高温強度のすぐれたCr最高含有点とが交互に所定間隔をおいて繰り返し存在し、かつ前記両点間でAlおよびCr含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、これによって前記硬質被覆層が下部層であるTi化合物層の具備するすぐれた層間密着性および高温強度と相俟って、すぐれた高温硬さと耐熱性、さらに一段とすぐれた高温強度を有するようになるので、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高速で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性および耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0016】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TiN粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A1〜A10を形成した。
【0017】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比で、TiC/TiN=50/50)粉末、MoC粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体B1〜B6を形成した。
【0018】
つぎに、上記の工具基体A1〜A10およびB1〜B6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した後、図1に示される化学蒸着装置内に、第2図に示される工具基体支持パレットの位置決め穴に載置した状態で装入し、まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される通常の条件にて、表7に示される組み合わせおよび目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、ついで、同じく装置内の雰囲気温度をヒーターにて加熱して1020℃とした後、図3に示される反応ガス組成自動制御システムの反応ガス組成および流量中央制御装置に過去の実績にデータにしたがって、表4,5に示されるAl最高含有点のAlとCrとYの相互含有割合を示す目標組成式、およびCr最高含有点のCrとAlとYの相互含有割合を示す目標組成と反応ガス組成の関係、前記Al最高含有点とCr最高含有点間のAlとCr含有量の連続変化に対応する反応ガス組成、さらに同じく表7に示される前記両点間の目標間隔および硬質被覆層の上部層としての目標層厚をインプットし、この反応ガス組成および流量中央制御装置からの信号にしたがって作動するコントロールバルブ内蔵の原料ガス流量自動制御装置を通して、原料ガスであるHガス、COガス、およびHClガス(なお、同じく原料ガスであるAlClガス、CrCl、およびYClガスは、それぞれAlClガス発生器、CrClガス発生器、およびYClガス発生器で金属Al、金属Cr、および金属YとHClガスをそれぞれ反応させることにより形成される)を、それぞれのガス流量を制御しながら、図1の化学蒸着装置の反応ガス吹き出し管から装置内に導入し(装置内の反応雰囲気圧力は常に10kPaに保持される)、もって前記工具基体の表面に、層厚方向に沿って表4,5に示される上記目標組成式のAl最高含有点とCr最高含有点とが交互に同じく表7に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Cr最高含有点、前記Cr最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびCr含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表7に示される目標層厚の(Al,Cr,Y)複合酸化物層を硬質被覆層の上部層として蒸着することにより、本発明被覆工具である本発明表面被覆スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
【0019】
また、比較の目的で、これら工具基体A1〜A10およびB1〜B6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した後、同じくそれぞれ図1,2に示される通常の化学蒸着装置に装入し、硬質被覆層の上部層形成に際して、反応ガス吹き出し管から導入される反応ガスを、それぞれ表6に示されるAlとCrの相互含有割合を示す目標組成式に対応した組成の反応ガスとする以外は同一の条件で、前記工具基体A1〜A10およびB1〜B6のそれぞれの表面に、同じく表8に示されるび目標層厚を有し、かつ層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Al−Cr)2O3層を硬質被覆層の上部層として蒸着することにより、従来被覆工具としての従来表面被覆スローアウエイチップ(以下、従来被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
【0020】
つぎに、上記本発明被覆チップ1〜16および従来被覆チップ1〜16について、これを工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SCM415の丸棒、
切削速度: 500 m/min.、
切り込み: 5 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度および切り込みは250m/min.および2mm)、
被削材:JIS・S20Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 450 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.55 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Bという)での炭素鋼の乾式断続高速高送り切削加工試験(通常の切削速度および送りは200m/min.および0.3mm/rev.)、さらに、
被削材:JIS・FC150の丸棒、
切削速度: 600 m/min.、
切り込み: 5.0 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 5 分、
の条件(切削条件Cという)での鋳鉄の乾式連続高速高切り込み切削加工試験(通常の切削速度および切り込みは250m/min.および2.0mm)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表9に示した。
【0021】
【表1】


【0022】
【表2】


【0023】
【表3】


【0024】
【表4】


【0025】
【表5】


【0026】
【表6】


【0027】
【表7】


【0028】
【表8】


【0029】
【表9】


【0030】
この結果得られた本発明被覆チップ1〜16および従来被覆チップ1〜16を構成する硬質被覆層の上部層について、厚さ方向に沿ってAl、Cr、およびYの含有量をオージェ分光分析装置を用いて測定し、この測定結果から各測定点におけるAl、Cr、およびYの含有量を算出したところ、本発明被覆チップ1〜16の上部層では、Al最高含有点と、Cr最高含有点とがそれぞれ実質的に目標組成式を満足する組成および目標間隔と実質的に同じ間隔で交互に繰り返し存在し、かつAl最高含有点からCr最高含有点、前記Cr最高含有点からAl最高含有点へAlとCrの含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有することが確認され、一方前記従来被覆チップ1〜16の硬質被覆層の上部層では、実質的に目標組成式を満足する組成を示したが、厚さ方向に沿って組成変化が見られなかった。
また、硬質被覆層の下部層を構成するTi化合物層の組成についても同様に測定したところ、いずれも目標組成と実質的に同じ組成を示し、さらに、硬質被覆層を構成する上部層および下部層の平均層厚も目標層厚と実質的に同じ値を示した。
【0031】
表7〜9に示される結果から、硬質被覆層の上部層が層厚方向に、相対的にすぐれた高温硬さと耐熱性を有するAl最高含有点と相対的にすぐれた高温強度を有するCr最高含有点とが交互に所定間隔をおいて繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Cr最高含有点、前記Cr最高含有点から前記Al最高含有点へAlおよびCr含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有する本発明被覆チップ1〜16は、いずれも各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高速で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮し、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、硬質被覆層の上部層が、層厚方向に沿って実質的に組成変化のない(Al−Cr)層からなる従来被覆チップ1〜16においては、特に前記硬質被覆層の上部層が、前記本発明被覆チップ1〜16の上部層の具備する高温硬さおよび耐熱性、さらに高温強度に比して相対的に劣るものであるために、チッピングが発生し易く、かつ摩耗進行の速いものであるために、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
【0032】
上述のように、この発明の被覆工具は、通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高速で、かつ高い機械的衝撃を伴う高切り込みや高送りなどの重切削条件で行なった場合にも、すぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】被覆工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いた化学蒸着装置を示す概略縦断面図である。
【図2】化学蒸着装置の構造部材である工具基体支持パレットを示し、(a)が概略斜視図、(b)が概略平面図である。
【図3】この発明の被覆工具を構成する硬質被覆層の上部層の形成に用いられる反応ガス組成自動制御システムである。




 

 


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