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発明の名称 高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−105806(P2007−105806A)
公開日 平成19年4月26日(2007.4.26)
出願番号 特願2005−296420(P2005−296420)
出願日 平成17年10月11日(2005.10.11)
代理人 【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
発明者 中村 惠滋 / 長田 晃 / 本間 尚志
要約 課題
高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具を提供する。

解決手段
表面被覆サーメット製切削工具の硬質被覆層の一部をCr含有改質Ti系炭化物層およびCr含有改質Ti系炭窒化物層で構成し、かつ、これらの層が、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有する結晶粒の結晶面の法線の表面研磨面の法線に対する傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて作成された構成原子共有格子点分布グラフにおいて、いずれもΣ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す。
特許請求の範囲
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、化学蒸着形成された硬質被覆層を、工具基体側から順に、
(a)0.1〜1μmの平均層厚を有する窒化チタン層からなる基体密着層、
(b)2〜15μmの平均層厚を有し、かつTiの一部をTiとの合量に占める割合で1〜10原子%のCrで置換含有してなるCr含有改質Ti系炭窒化物層からなる下側高温強化層、
(c)2〜10μmの平均層厚を有し、かつTiの一部をTiとの合量に占める割合で1〜10原子%のCrで置換含有してなるCr含有改質Ti系炭化物層からなる上側高温強化層、
(d)0.1〜1μmの平均層厚を有する、炭酸化チタン層および炭窒酸化チタン層のうちのいずれか1層、または両層からなる層間密着層、
(e)1〜15μmの平均層厚および化学蒸着した状態でα型結晶構造を有する酸化アルミニウム層からなる高温硬質層、
以上(a)〜(e)で構成すると共に、上記上側高温強化層および下側高温強化層を、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTiとCrと炭素(上側高温強化層の場合)、またはTiとCrと炭素と窒素(下側高温強化層の場合)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、いずれもΣ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すCr含有改質Ti系炭化物層およびCr含有改質Ti系炭窒化物層、
で構成したことを特徴とする高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に鋼や鋳鉄などの高速重切削加工で、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具(以下、被覆サーメット工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層として、いずれも化学蒸着形成された、炭化チタン(以下、TiCで示す)層、窒化チタン(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)層、炭酸化チタン(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化チタン(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(b)上部層として、1〜15μmの平均層厚、および化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層(以下、α型Al23層で示す)、
以上(a)および(b)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆サーメット工具が知られており、この被覆サーメット工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
【特許文献1】特開平6−31503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削効率の向上を目的として、切削速度を高速化し、かつ切り込みや送りなどを大きくする高速重切削条件での切削加工が行われる傾向にあるが、上記の従来被覆サーメット工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを切削条件の厳しい高速重切削加工、すなわち切刃部にきわめて高い機械的負荷が加わる高速重切削加工に用いた場合、これを構成する硬質被覆層は下部層のTi化合物層による高温強度、同上部層の高温硬質層として知られるα型Al23層による高温硬さおよび耐熱性を具備するものの、前記Ti化合物層による高温強度が不十分であるために、前記の機械的高負荷に対して満足に対応することができず、この結果硬質被覆層にはチッピング(微小欠け)が発生し易くなることから、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の被覆サーメット工具の硬質被覆層の耐チッピング性向上をはかるべく、これの下部層であるTi化合物層のうちで高温強化層として知られるTiC層およびTiCN層、すなわちTi化合物層のうちで相対的に高い高温硬さと高温強度を有し、かつ前記TiCN層について示せば、図1(a)に模式図で示される通り、格子点にTi、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造[なお、図1(b)は(011)面で切断した状態を示す]を有するTiCN層、および前記TiCN層の結晶構造における格子点の窒素が炭素で置換されたNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiC層に着目し、研究を行った結果、
(a)従来被覆サーメット工具の硬質被覆層の下部層を構成するTiCN層(以下、従来TiCN層と云う)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:2〜10%、CHCN:1〜5%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:15〜25kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、これら通常条件において、上記の反応ガスにCrClを0.02〜1容量%の割合で添加し、これ以外は同一の条件で層の蒸着形成を行なうと、この結果形成された層[以下、Cr含有改質Ti系炭窒化物層と云い、改質(Ti,Cr)CN層で示す]は、CrをTiとの合量に占める割合で1〜10原子%の割合で含有し、上記の従来TiCN層と同じNaCl型面心立方晶の結晶構造(上記図1参照)、すなわち、Ti原子の一部がCr原子で置換されたNaCl型面心立方晶の結晶構造をもつものとなると共に、置換含有したCrの作用で高温強度が一段と向上したものになるので、切刃部にきわめて高い機械的負荷が加わる高速重切削加工でも、前記硬質被覆層の耐チッピング性向上に寄与すること。
【0005】
(b)同じく従来被覆サーメット工具の硬質被覆層の下部層を構成するTiC層(以下、従来TiC層と云う)は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:2〜10%、CH:2〜10%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1000℃、
反応雰囲気圧力:20〜40kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、これら通常条件において、同じく上記の反応ガスにCrClを0.02〜1容量%の割合で添加し、これ以外は同一の条件で層の蒸着形成を行なうと、この結果形成された層[以下、Cr含有改質Ti系炭化物層と云い、改質(Ti,Cr)C層で示す]は、同じくCrをTiとの合量に占める割合で1〜10原子%の割合で含有し、上記の従来TiC層と同じNaCl型面心立方晶の結晶構造(上記図1参照)、すなわち、Ti原子の一部がCr原子で置換されたNaCl型面心立方晶の結晶構造をもつものとなり、かつ、置換含有したCrの作用で高温強度が一段と向上したものになるので、切刃部にきわめて高い機械的負荷が加わる高速重切削加工でも、前記硬質被覆層の耐チッピング性向上に寄与すること。
【0006】
(c)上記の従来TiCN層および従来TiC層と、上記の改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層について、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図2(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点に、従来TiCN層であればTiと炭素と窒素からなる構成原子、また従来TiC層であればTiと炭素からなる構成原子、さらに改質(Ti,Cr)CN層であればTiとCrと炭素と窒素からなる構成原子、また改質(Ti,Cr)C層であればTiとCrと炭素からなる構成原子、がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現し、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合、前記改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層は、図3,4に例示される通り、いずれもΣ3に最高ピークが存在し、かつ、Σ3の分布割合が60%以上のきわめて高い構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、前記従来TiCN層および従来TiC層は、図5,6に例示される通り、Σ3の分布割合が30%以下の相対的に低い構成原子共有格子点分布グラフを示し、しかも前記改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層のΣ3の分布割合は、層中のCr含有割合によって変化し、かつ前記Cr含有割合は上記の反応ガス中のCrClの配合割合を調整することにより所定の割合に調整できること。
【0007】
(d)上記の改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)Cの形成に際して、層中のCr含有割合を、上記の通りTiとの合量に占める割合で1〜10原子%とすることによって、構成原子共有格子点分布グラフでのΣ3の分布割合が60%以上のきわめて高いものとなり、この結果層は上記従来TiCN層および従来TiC層と比べて、一段と高温強度の向上したものとなるのであり、したがって、層中のCr含有割合が前記の範囲から低い方に外れても、あるいは高い方に外れても、構成原子共有格子点分布グラフでのΣ3の分布割合が60%未満になってしまい、所望の高温強度向上効果が得られなくなること。
【0008】
(e)上記の改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層は、上記の通りTiCN自体およびTiC自体が具備する高温硬さと高温強度に加えて、上記従来TiCN層および従来TiC層に比して一段と高い高温強度を有するので、前記改質(Ti,Cr)CN層を硬質被覆層の下側高温強化層、前記改質(Ti,Cr)C層を同上側高温強化層として蒸着形成してなる被覆サーメット工具は、同上部層である高温硬質層のα型Al23層が具備するすぐれた高温硬さおよび耐熱性と相俟って、特にきわめて高い負荷のかかる高速重切削加工でも、前記硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すようになること。
以上(a)〜(e)に示される研究結果を得たのである。
【0009】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成された工具基体の表面に、化学蒸着形成された硬質被覆層を、工具基体側から順に、
(a)0.1〜1μmの平均層厚を有するTiN層からなる基体密着層、
(b)2〜15μmの平均層厚を有し、かつTiの一部をTiとの合量に占める割合で1〜10原子%のCrで置換含有してなる改質(Ti,Cr)CN層からなるからなる下側高温強化層、
(c)2〜10μmの平均層厚を有し、かつTiの一部をTiとの合量に占める割合で1〜10原子%のCrで置換含有してなる改質(Ti,Cr)C層からなる上側高温強化層、
(d)0.1〜1μmの平均層厚を有する、TiCO層およびTiCNO層のうちのいずれか1層、または両層からなる層間密着層、
(e)1〜15μmの平均層厚を有するα型Al23層からなる高温硬質層、
以上(a)〜(e)で構成すると共に、上記下側高温強化層および上側高温強化層を、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTiとCrと炭素と窒素(下側高温強化層の場合)、またはTiとCrと炭素(上側高温強化層の場合)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、いずれもΣ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層、
で構成してなる、高速重切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
【0010】
つぎに、この発明の被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層について、上記の通りに数値限定した理由を以下に説明する。
(a)TiN層(基体密着層)
TiN層は、工具基体および下側高温強化層である改質(Ti,Cr)CN層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その平均層厚が0.1μm未満では、所望の密着性を確保することができず、一方前記密着性は1μmの平均層厚で十分であることから、その平均層厚を0.1〜1μmと定めた。
【0011】
(b)改質(Ti,Cr)CN層(下側高温強化層)
上記の改質(Ti,Cr)CN層は、上記の通り、従来TiCN層に比して一段と高温強度の向上したものになっており、この特性は、反応ガスにCrClを0.01〜1容量%の割合で添加して、蒸着形成される層中のCr含有割合をTiとの合量に占める割合で1〜10原子%とし、この結果として構成原子共有格子点分布グラフにおけるΣ3の分布割合が60%以上となることにより得られるものであり、したがって、Σ3の分布割合が60%未満では、高速重切削加工で、硬質被覆層にチッピングが発生しない、すぐれた高温強度向上効果を確保することができないことになることから、Σ3の分布割合を60%以上と定めた。
このように前記改質(Ti,Cr)CN層は、上記の通りTiCN自体のもつ高温硬さと高温強度に加えて、さらに一段とすぐれた高温強度を有するが、その平均層厚が2μm未満では所望のすぐれた高温強度向上効果を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚を2〜15μmと定めた。
【0012】
(c)改質(Ti,Cr)C層(上側高温強化層)
上記の改質(Ti,Cr)C層は、上記の改質(Ti,Cr)CN層に比して、高温強度の点では及ばないが、相対的に高い高温硬さを有するので、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するほか、上記の通り、従来TiC層に比してすぐれた高温強度を有するので、高速重切削加工で、硬質被覆層の耐チッピング性向上にも寄与するが、これらの特性は、前記改質(Ti,Cr)CN層と同じく、上記の構成原子共有格子点分布グラフにおけるΣ3の分布割合が、層中のCr含有割合をTiとの合量に占める割合で1〜10原子%に調整して、60%以上となるようにすることによって可能となり、したがって、Σ3の分布割合が60%未満では、高速重切削加工で、硬質被覆層にチッピングが発生しない、すぐれた高温強度向上効果を確保することができないことから、Σ3の分布割合を60%以上と定めた。
このように前記改質(Ti,Cr)C層は、TiC自体のもつ高温硬さに加えて、さらに従来TiC層に比して一段とすぐれた高温強度を有するようになるが、その平均層厚が2μm未満では所望のすぐれた高温硬さおよび高温強度を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜10μmと定めた。
【0013】
(d)TiCO層およびTiCNO層(層間密着層)
TiCO層およびTiCNO層は、上側高温強化層である改質TiC層および高温硬質層であるα型Al23層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その平均層厚が0.1μm未満では、所望の密着性を確保することができず、一方前記のすぐれた密着性は1μmの平均層厚で十分確保できることから、その平均層厚を0.1〜1μmと定めた。
【0014】
(e)α型Al23層(高温硬質層)
α型Al23層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を長期に亘って発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
【0015】
なお、切削工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、必要に応じて蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよく、これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由からである。
【発明の効果】
【0016】
この発明被覆サーメット工具は、機械的負荷がきわめて高い鋼や鋳鉄などの高速重切削加工でも、硬質被覆層の下部層が、従来TiCN層および従来TiC層に比して、一段とすぐれた高温強度を有する改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層で構成されているので、硬質被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
つぎに、この発明の被覆サーメット工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0018】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG150612に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
【0019】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG150612のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
【0020】
つぎに、これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、まず、硬質被覆層の基体密着層として、表3に示される条件で、表8に示される目標平均層厚のTiN層を形成し、ついで、表4,5に示される条件で、下側高温強化層および上側高温強化層として、改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層を、表8に示される組み合わせおよび目標平均層厚で形成し、さらに、層間密着層として、同じく表3に示される条件で、TiCO層およびTiCNO層のいずれか、または両方を同じく表8に示される組み合わせおよび目標平均層厚で形成した状態で、同じく高温硬質層として、表3に示される条件で、表6に示される目標平均層厚のα型Al23層を形成することにより本発明被覆サーメット工具1〜12をそれぞれ製造した。
【0021】
また、比較の目的で、表9に示される通り、硬質被覆層の下側高温強化層および上側高温強化層として、上記の改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層に代って、表6,7に示される条件で、従来TiCN層および従来TiC層を形成する以外は、同一の条件で従来被覆サーメット工具1〜12をそれぞれ製造した。
【0022】
ついで、上記の本発明被覆サーメット工具と従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成する改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層、さらに従来TiCN層および従来TiC層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記構成原子共有格子点分布グラフは、上記の改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層、さらに従来TiCN層および従来TiC層の表面をそれぞれ研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を求めることにより作成した。
【0023】
この結果得られた各種の改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層、さらに従来TiCN層および従来TiC層の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体(Nは2〜28の範囲内のすべての偶数)に占めるΣ3の分布割合をそれぞれ表10にそれぞれ示した。
【0024】
上記の各種の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、表10にそれぞれ示される通り、本発明被覆サーメット工具1〜12の改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層は、いずれもΣ3の占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、従来被覆サーメット工具1〜12の従来TiCN層および従来TiC層は、いずれもΣ3の分布割合が30%以下の構成原子共有格子点分布グラフを示すものであった。
なお、図3,4は、本発明被覆サーメット工具2の改質(Ti,Cr)CN層(図3)および改質(Ti,Cr)C層(図4)の構成原子共有格子点分布グラフ、図5,6は、従来被覆サーメット工具4の従来TiCN層の(図5)および従来TiC層(図6)構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ示すものである。
【0025】
さらに、上記の本発明被覆サーメット工具1〜12および従来被覆サーメット工具1〜12について、これの硬質被覆層の構成層を電子線マイクロアナライザー(EPMA)およびオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、前者および後者とも目標組成と実質的に同じ組成を有することが確認され、また、これらの被覆サーメット工具の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
【0026】
つぎに、上記の各種の被覆サーメット工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆サーメット工具1〜12および従来被覆サーメット工具1〜12について、
被削材:JIS・S10Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:8mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件A)での炭素鋼の乾式断続高速高切り込み切削試験(通常の切削速度および切り込みは200m/minおよび3mm)、
被削材:JIS・SCM440の丸棒、
切削速度:350m/min、
切り込み:3mm、
送り:0.7mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件B)での合金鋼の乾式連続高速高送り切削試験(通常の切削速度および送りは200m/minおよび0.3mm/rev)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:8mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:8分、
の条件(切削条件C)での鋳鉄の湿式連続高速高切り込み切削試験(通常の切削速度および切り込みは230m/minおよび4mm)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表10に示した。
【0027】
【表1】


【0028】
【表2】


【0029】
【表3】


【0030】
【表4】


【0031】
【表5】


【0032】
【表6】


【0033】
【表7】


【0034】
【表8】


【0035】
【表9】


【0036】
【表10】


【0037】
表8〜10に示される結果から、本発明被覆サーメット工具1〜12は、いずれも硬質被覆層の下側高温強化層および上側高温強化層が、Σ3の分布割合が60%以上の構成原子共有格子点分布グラフを示す改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層で構成され、機械的負荷がきわめて高い鋼や鋳鉄の高速重切削でも、前記改質(Ti,Cr)CN層および改質(Ti,Cr)C層が一段とすぐれた高温強度を有し、すぐれた耐チッピング性を発揮することから、硬質被覆層のチッピング発生が著しく抑制され、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、硬質被覆層の下側高温強化層および上側高温強化層が、Σ3の分布割合が30%以下の構成原子共有格子点分布グラフを示す従来TiCN層および従来TiC層で構成された従来被覆サーメット工具1〜12においては、いずれも高速重切削では硬質被覆層の高温強度不足が原因で、硬質被覆層にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
【0038】
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、特に高い高温強度が要求される高速重切削加工でも硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】硬質被覆層の下側高温強化層を構成する改質(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層が有するNaCl型面心立方晶の結晶構造(上側高温強化層の改質(Ti,Cr)C層および従来TiC層は前記改質(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層のN原子がC原子に置換したもので同じ結晶構造を有する)を示す模式図である。
【図2】硬質被覆層の下側高温強化層および上側高温強化層が有するNaCl型面心立方晶の結晶構造における結晶粒の(001)面および(011)面の傾斜角の測定態様を示す概略説明図である。
【図3】本発明被覆サーメット工具2の硬質被覆層の下側高温強化層を構成する改質(Ti,Cr)CN層の構成原子共有格子点分布グラフである。
【図4】本発明被覆サーメット工具2の硬質被覆層の上側高温強化層を構成する改質(Ti,Cr)C層の構成原子共有格子点分布グラフである。
【図5】従来被覆サーメット工具4の硬質被覆層の下側高温強化層を構成する従来TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフである。
【図6】従来被覆サーメット工具4の硬質被覆層の上側高温強化層を構成する従来TiC層の構成原子共有格子点分布グラフである。




 

 


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