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発明の名称 難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬切削工具
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−54907(P2007−54907A)
公開日 平成19年3月8日(2007.3.8)
出願番号 特願2005−241974(P2005−241974)
出願日 平成17年8月24日(2005.8.24)
代理人 【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
発明者 対馬 文雄 / 石井 剛 / 功刀 斉
要約 課題
難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬切削工具を提供する。

解決手段
超硬合金またはサーメットで構成された基体の表面に、下部層は、0.5〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、上部層は、上部内周層と上部外周層とからなり、上部内周層は、組成式:(Al1−XCr(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.35を示す)を満足し、かつ、1〜10μmの平均層厚を有するAlとCrの複合酸化物層、上部外周層は、0.5〜1.2μmの平均層厚を有する薄層Aと、0.2〜0.5μmの平均層厚を有する薄層Bとを交互に積層した交互多重積層からなり、上記薄層Aは、バナジウム窒化物(VN)層、上記薄層Bは、特定の組成式:(Al1−Crを満足するAlとCrの複合酸化物層、からなる硬質被覆層を化学蒸着により形成してなる。
特許請求の範囲
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された基体の表面に、硬質被覆層を形成してなる表面被覆超硬切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、基体の表面を被覆する下部層と、該下部層の表面を被覆する上部層からなり、
(b)上記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2種以上で構成され、かつ0.5〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなり、
(c)上記下部層の表面を被覆する上部層は、上部内周層と、該上部内周層を被覆する上部外周層とからなり、
(d)上記上部内周層は、

組成式:(Al1−XCr(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.35を示す)を満足し、かつ、1〜10μmの平均層厚を有するAlとCrの複合酸化物層からなり、

(e)上記上部内周層を被覆する上部外周層は、0.5〜1.2μmの平均層厚を有する薄層Aと、0.2〜0.5μmの平均層厚を有する薄層Bとを交互に積層して形成された、3〜5μmの合計平均層厚を有する交互多重積層からなり、
(f)上記薄層Aは、バナジウム窒化物(VN)層からなり、
(g)上記薄層Bは、

組成式:(Al1−XCr(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.35を示す)を満足するAlとCrの複合酸化物層からなり、
前記硬質被覆層を、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された基体の表面に化学蒸着により形成してなる、難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬切削工具。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
この発明は、硬質被覆層がすぐれた高温硬さ・耐熱性・高温強度を備えるとともに、すぐれた潤滑性を示し、したがって、ステンレス鋼、高マンガン鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材を、高速切削の条件下で切削加工を行なった場合にも、被削材と切削工具との間の摩擦力が低減され、硬質被覆層の過熱が防止されることによって、切削時に切粉が切刃部に溶着することなく、すぐれた耐チッピング性を発揮する、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された基体の表面に、化学蒸着により硬質被覆層を形成してなる表面被覆超硬切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被覆超硬工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットからなる基体(以下、これらを総称して超硬基体と云う)の表面に、
(a)いずれも化学蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなり、かつ0.5〜15μmの全体平均層厚を有するTi化合物層からなる下部層、
(b)3〜15μmの平均層厚を有し、AlとCrの相互含有割合を示す組成式:(Al1−XCr)(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.35を示す)を満足し、かつ化学蒸着形成した状態で、酸化アルミニウム(以下、Alで示す)と酸化クロム(以下、Crで示す)の固溶体組織を有するAlとCrの複合酸化物[以下、(Al,Cr)で示す]層からなる上部層、
上記の下部層と上部層で構成された硬質被覆層を形成してなる、被覆超硬工具が知られている。
【0003】
また、上記の従来被覆超硬工具の硬質被覆層を構成する上部層である(Al,Cr)層が、Alによる高温硬さおよび耐熱性と、Crによる高温強度を具備することから、かかる被覆超硬工具を各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
【0004】
さらに、上記の従来被覆超硬工具が、例えば図1に概略縦断面図で示される通り、中央部にステンレス鋼製の反応ガス吹き出し管が立設され、前記反応ガス吹き出し管には、図2(a)に概略斜視図で、同(b)に概略平面図で例示される黒鉛製の超硬基体支持パレットが串刺し積層嵌着され、かつこれらがステンレス鋼製のカバーを介してヒーターで加熱される構造を有する化学蒸着装置を用い、超硬基体を前記超硬基体支持パレットの底面に形成された多数の反応ガス通過穴位置に図示される通りに載置した状態で前記化学蒸着装置に装入し、ヒータで装置内を、例えば850〜1050℃の範囲内の所定の温度に加熱した後、まず、硬質被覆層の下部層として、例えば表3に示される形成条件でTi化合物層を形成し、ついで、
(a)反応ガス組成:容量%で(以下、反応ガスの%は容量%を示す)、
AlCl:1.43〜2.09 %、
CrCl:0.11〜0.77 %、
CO: 5〜6 %、
HCl: 2〜3 %、
2 : 残り、
(b)反応雰囲気温度:800〜1050 ℃、
(c)反応雰囲気圧力: 5〜25 kPa、
の条件で、上記の(Al,Cr)層からなる上部層を形成することにより製造されることも知られている。
【0005】
また、一般に、上記の従来被覆超硬工具の硬質被覆層を構成するTi化合物層や(Al,Cr)層が粒状結晶組織を有し、さらに、前記Ti化合物層を構成するTiCN層を、層自身の強度向上を目的として、通常の化学蒸着装置にて、反応ガスとしてCHCNなどの有機炭窒化物を含む混合ガスを使用し、700〜950℃の中温温度域で化学蒸着することにより形成して縦長成長結晶組織をもつようにすることも知られている。
【特許文献1】特開昭54−153758号公報
【特許文献2】特開平6−8010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】

近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は、通常の切削条件に加えて、より高速条件下での切削加工が要求される傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、各種の鋼や鋳鉄を通常条件下で切削加工した場合に特段の問題は生じないが、これを難削材の高速条件下での切削加工に用いた場合には、高速切削加工により高い発熱が生じ、硬質被覆層の上部層を構成する(Al,Cr)層の潤滑性不足のために硬質被覆層が過熱され、切粉が切刃部に溶着し易くなり、これが原因でチッピング(微少欠け)が発生し、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆超硬工具を開発すべく、上記従来の被覆超硬工具を構成する硬質被覆層に着目し、研究を行った結果、

(1)下部層がTi化合物層、上部層が(Al,Cr)層からなる上記従来の硬質被覆層上に、
(a)反応ガス組成(容量%):
VCl: 3.0〜4.5 %、
: 25〜27 %、
2 : 残り、
(b)反応雰囲気温度:800〜1050 ℃、
(c)反応雰囲気圧力: 5〜30 kPa、
の条件で化学蒸着を行うと、従来の硬質被覆層上に、0.5〜1.2μmの平均層厚を有するバナジウム窒化物(VN)層が蒸着形成されること。
(2)従来の硬質被覆層(下部層がTi化合物層、上部層が(Al,Cr)層)上に、上記バナジウム窒化物(VN)層が蒸着形成された被覆超硬工具を、難削材の高速切削加工条件下での切削加工に供すると、硬質被覆層上のバナジウム窒化物(VN)層は、高速切削加工時に発生する高熱により、バナジウム酸化物(VO、VおよびVO)を一部生成するが、この生成したバナジウム酸化物は潤滑性にすぐれるため、切削時の発熱で被削材およびその切粉が高温加熱された状態でも、切刃部(すくい面および逃げ面と、これら両面が交わる切刃稜線部)と被削材および切粉との間には常にすぐれた表面滑り性・潤滑性が確保され、前記被削材および切粉の切刃部表面に対する粘着性および反応性が著しく低減され、切刃部への切粉の溶着等が防止されるようになること。
(3)従来の硬質被覆層(下部層がTi化合物層、上部層が(Al,Cr)層)上に蒸着形成されたバナジウム窒化物(VN)層は、難削材の高速切削加工時の高熱によって表面滑り性・潤滑性にすぐれたバナジウム酸化物を生成するが、この酸化物自体は高温硬さ、耐熱性、高温強度に特に優れるわけではない。しかし、0.5〜1.2μmの平均層厚を有するバナジウム窒化物(VN)層からなる薄層(以下、「薄層A」という)と、0.2〜0.5μmの平均層厚を有する(Al,Cr)層(従来の硬質被覆層の上部層に相当する層)からなる薄層(以下、「薄層B」という)とを交互に積層して構成した3〜5μmの合計平均層厚を有する交互多重積層は、薄層Bの有するすぐれた高温硬さ、耐熱性、高温強度を損なうことなく、薄層Aの有する潤滑作用をも具備するようになることから、前記交互多重積層は、難削材の高速切削加工において、所定のすぐれた高温硬さ、耐熱性、高温強度を備えると同時に、しかも、すぐれた潤滑効果をもたらし、切刃部への切粉の溶着等によるチッピングの発生を防止することができること。
以上(1)〜(3)に示される研究結果を得たのである。

この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、基体の表面に、硬質被覆層を形成してなる被覆超硬工具(表面被覆超硬切削工具)において、
(a)前記硬質被覆層は、基体の表面を被覆する下部層と、該下部層の表面を被覆する上部層からなり、
(b)上記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2種以上で構成され、かつ0.5〜15μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなり、
(c)上記下部層の表面を被覆する上部層は、上部内周層と、該上部内周層を被覆する上部外周層とからなり、
(d)上記上部内周層は、

組成式:(Al1−XCr(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.35を示す)を満足し、かつ、1〜10μmの平均層厚を有するAlとCrの複合酸化物((Al,Cr))層からなり、

(e)上記上部内周層を被覆する上部外周層は、0.5〜1.2μmの平均層厚を有する薄層Aと、0.2〜0.5μmの平均層厚を有する薄層Bとを交互に積層して形成された、3〜5μmの合計平均層厚を有する交互多重積層からなり、
(f)上記薄層Aは、バナジウム窒化物(VN)層からなり、
(g)上記薄層Bは、

組成式:(Al1−XCr(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.35を示す)を満足するAlとCrの複合酸化物層からなり、

前記硬質被覆層を、炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された基体の表面に化学蒸着により形成してなる、難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆超硬工具(表面被覆超硬切削工具)に特徴を有するものである。
【0008】
つぎに、この発明の被覆超硬工具において、これを構成する硬質被覆層の構成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(1)下部層(Ti化合物層)
Ti化合物層は、基本的には上部層の上部内周層を構成する(Al,Cr)層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層の高温強度向上に寄与するほか、基体と上記上部内周層((Al,Cr)層)のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の超硬基体に対する密着性を向上させる作用を有するが、その合計平均層厚が0.5μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が15μmを越えると、切削時の発生熱によって偏摩耗の原因となる熱塑性変形を起し易くなることから、その合計平均層厚を0.5〜15μmと定めた。

(2)上部内周層((Al,Cr)層)
上記した通り上部内周層を構成する(Al,Cr)層(従来硬質被覆層における上部層に相当)におけるAl成分は高温硬さおよび耐熱性、同Cr成分は高温強度を向上させるが、AlとCr成分の相互含有割合を示す組成式:(Al1−XCr)で、X値が原子比で(以下同じ)0.35を越えると、相対的にAlの含有割合が低くなることから、層自体の高温硬さおよび耐熱性の低下は避けられず、これが摩耗促進の原因となり、一方、X値が0.05未満になると、層自体の高温強度の低下は避けられず、この結果チッピングなどが発生し易くなることから、X値を0.05〜0.35と定めた。
【0009】
また、その平均層厚が1μm未満では、所望の耐摩耗性を長期に亘って確保することができず、一方その平均層厚が10μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜10μmと定めた。

(3)上部外周層(薄層Aと薄層Bとからなる交互多重積層)

(Al,Cr)層からなる上部内周層は、高温硬さ、耐熱性、高温強度にすぐれるものの、潤滑性不足のために難削材の高速切削における耐チッピング性については十分ではないことから、上部内周層上に、バナジウム窒化物(VN)層からなる薄層Aと(Al,Cr)層からなる薄層Bとの交互多重積層を設けることにより、上部内周層の特性を特段低下させることなく、その表面滑り性・潤滑性不足を改善することができる。

つまり、薄層Aを構成するバナジウム窒化物(VN)層は、難削材の高速切削加工時の高い発熱により、バナジウム酸化物を一部生成し、この生成したバナジウム酸化物のすぐれた表面滑り性・潤滑性により、切刃部と被削材および切粉との間の溶着等が防がれるが、薄層Aと薄層Bの交互多重積層(上部外周層)が、所定の表面滑り性・潤滑性を有し、切刃部への切粉の溶着等によるチッピングの発生を防止するためには、潤滑作用をもたらす薄層Aは、少なくとも0.5μmの厚さが必要とされ、これ未満の厚さでは難削材の高速切削加工において必要とされる潤滑作用を発揮することができず、また、その厚みは1.2μm以下であれば、上部外周層の高温硬さ、耐熱性、高温強度の低下を招くことなく十分な潤滑作用をもたらすことができることから、薄層Aの平均層厚を0.5〜1.2μmに定めた。

また、薄層Aは、高速切削加工時にバナジウム酸化物を生成するによって潤滑作用をもたらすが、薄層A或いはバナジウム酸化物の高温硬さ、耐熱性、高温強度は、(Al,Cr)層と比べるといずれも十分なものではないことから、上部外周層が、従来の硬質被覆層と同程度の高温硬さ、耐熱性、高温強度を維持するためには、少なくとも0.2〜0.5μmの平均層厚を有する(Al,Cr)層からなる薄層Bを、薄層Aと交互に積層して交互積層構造の多重層として構成し、上部外周層の高温硬さ、耐熱性、高温強度を補完することが必要である。交互に積層する薄層Bの平均層厚が0.2μm未満の場合には、上部外周層に最小限必要とされる高温硬さ、耐熱性、高温強度を維持することができず、一方、交互積層する薄層Bの平均層厚が0.5μmを超えるような場合には、難削材の高速切削加工において十分に満足できる程度の表面滑り性・潤滑性を上部外周層に付与することはできないことから、交互積層する薄層Bの平均層厚を0.2〜0.5μmに定めた。

そして、薄層Aと薄層Bを、それぞれ前記所定平均層厚の薄層として交互に積層することにより、上記薄層Aと薄層Bの交互多重積層からなる上部外周層は、すぐれた表面滑り性・潤滑性を有し、かつ、所定の高温硬さ、耐熱性、高温強度を具備したあたかも一つの層であるかのように機能する。ただ、上部外周層(交互多重積層)の合計平均層厚が3μm未満では、自身のもつすぐれた潤滑性および所定の高温硬さ、耐熱性、高温強度を硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その合計平均層厚が5μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その合計平均層厚を3〜5μmと定めた。
【発明の効果】
【0010】

この発明の被覆超硬工具は、硬質被覆層を、超硬基体を覆う下部層、該下部層を覆う上部内周層、該上部内周層を覆う上部外周層で構成し、かつ、該上部外周層を薄層A(VN層)と薄層B((Al,Cr)層)との交互多重積層として構成することにより、硬質被覆層の下部層(Ti化合物層)および上部内周層((Al,Cr)層)の具備する高温硬さ、耐熱性、高温強度の各特性を何ら損なうことなくこれを維持したままで、硬質被覆層がさらにすぐれた表面滑り性・潤滑性をも保持しているので、各種の鋼や鋳鉄などの通常条件の切削加工に用いることができるばかりか、特に、ステンレス鋼、高マンガン鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材の高速切削加工においても、被削材と切削工具との間の摩擦力が低減され、硬質被覆層の過熱が防止され、切刃部への切粉の溶着が防止され、また、下部層であるTi化合物層の具備するすぐれた層間密着性および高温強度と相俟って、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0012】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 2 粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の基体A1〜A10(以下、超硬基体A1〜A10という)を形成した。
【0013】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比で、TiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN系サーメット製の基体B1〜B6(以下、超硬基体B1〜B6という)を形成した。
【0014】
上記の超硬基体A1〜A10およびB1〜B6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した後、図1に示される化学蒸着装置内に、第2図に示される超硬基体支持パレットの位置決め穴に載置した状態で装入し、まず、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される通常の条件にて、表6に示される組み合わせおよび目標平均層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した。

つぎに、表4に示される条件で、かつ同じく表6に示される目標平均層厚の(Al,Cr)層を硬質被覆層の上部内周層として蒸着形成した。
その後、表5に示される条件で、かつ同じく表6に示される目標平均層厚のバナジウム窒化物(VN)層を、硬質被覆層の上部外周層の薄層Aとして蒸着形成し、ついで、表4に示される条件で、かつ同じく表6に示される目標平均層厚の(Al,Cr)層を、硬質被覆層の上部外周層の薄層Bとして蒸着形成した。薄層Aと薄層Bの蒸着形成は、上部外周層の目標合計平均層厚に達するまで、交互に繰り返し行い、本発明表面被覆超硬切削工具である本発明表面被覆超硬スローアウエイインサート(以下、本発明被覆超硬インサートと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
【0015】
また、比較の目的で、これら超硬基体A1〜A10およびB1〜B6を、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した後、同じくそれぞれ図1,2に示される通常の化学蒸着装置に装入し、表7に示されるTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した(なお、表7に示される従来被覆超硬工具1〜16の下部層(Ti化合物層)は、本発明被覆超硬工具1〜16のそれぞれと同じにしてあるので、下部層の具体的な形成条件、目標平均層厚は、表3、表6に示されているとおりである)。

次に、表4に示される条件で、かつ同じく表7に示される目標平均層厚の(Al,Cr)層を硬質被覆層の上部層として下部層(Ti化合物層)の表面に蒸着形成し、従来表面被覆超硬切削工具としての従来表面被覆超硬スローアウエイインサート(以下、従来被覆超硬インサートと云う)1〜16をそれぞれ製造した。

つぎに、上記の各種の被覆超硬チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆超硬チップ1〜16および従来被覆超硬チップ1〜16について、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度: 380 m/min.、
切り込み: 1.3 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 30 分、
の条件(切削条件Aという)でのステンレス鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)、
被削材:JIS・SCMnH11の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 400 m/min.、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 25 分、
の条件(切削条件Bという)での高マンガン鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は180m/min.)、
被削材:JIS・SCr420Hの丸棒、
切削速度: 450 m/min.、
切り込み: 1.7 mm、
送り: 0.2 mm/rev.、
切削時間: 30 分、
の条件(切削条件Cという)での軟鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表8に示した。
【0016】
【表1】


【0017】
【表2】


【0018】
【表3】


【0019】
【表4】


【0020】
【表5】


【0021】
【表6】


【0022】
【表7】


【0023】
【表8】


【0024】
この結果得られた本発明被覆超硬インサート1〜16および従来被覆超硬インサート1〜16の硬質被覆層を構成する各層について、その組成を、オージェ分光分析装置を用いて測定したところ、いずれのTi化合物層、(Al,Cr)層も目標組成と実質的に同じ組成を示し、各層の層厚も目標平均層厚と実質的に同じ値を示した。さらに、本発明被覆超硬インサート1〜16の硬質被覆層の上部外周層の薄層Aを構成するバナジウム窒化物(VN)層についても、目標平均層厚と実質的に同じ値を示すバナジウム窒化物(VN)層が形成されていることが確認された。
【0025】
表8に示される結果から、硬質被覆層の上部層が、上部内周層((Al,Cr)層)と、薄層A(バナジウム窒化物(VN)層)及び薄層B((Al,Cr)層)の交互多重積層からなる上部外周層とで構成されている本発明被覆超硬インサート1〜16は、いずれもステンレス鋼、高マンガン鋼や軟鋼などの難削材の切削加工を、高速切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層がすぐれた表面滑り性・潤滑性を呈し、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、硬質被覆層の上部層が、(Al,Cr)層のみからなる従来被覆超硬インサート1〜16においては、特に前記上部層の潤滑性不足が原因して、チッピングが発生し易く、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
【0026】
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、通常の条件での切削加工は勿論のこと、特にステンレス鋼、高マンガン鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材を、高速切削の条件下で切削加工を行なった場合にも、すぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すものであるから、切削装置のFA化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】被覆超硬工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いた化学蒸着装置を示す概略縦断面図である。
【図2】化学蒸着装置の構造部材である超硬基体支持パレットを示し、(a)が概略斜視図、(b)が概略平面図である。




 

 


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