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難削材の高速切削で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - 三菱マテリアル神戸ツールズ株式会社
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発明の名称 難削材の高速切削で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−21651(P2007−21651A)
公開日 平成19年2月1日(2007.2.1)
出願番号 特願2005−207377(P2005−207377)
出願日 平成17年7月15日(2005.7.15)
代理人 【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
発明者 佐藤 和則 / 田中 裕介
要約 課題
難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具を提供する。

解決手段
超硬基体の表面に、(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、層厚方向にそって、Al最高含有点と最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から最低含有点、前記Al最低含有点から最高含有点へAl及びTi含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、さらに、Al最高含有点及び最低含有点が、特定の組成式を満足する(Ti,Al,B)N層からなる下部層、(b)0.1〜1.5μmの平均層厚を有するCrN層からなる密着接合層、(c)1〜5μmの平均層厚を有し、かつCrの素地に、前記Crとの合量に占める割合で0.1〜5原子%の金属Crが分散分布した組織を有するCr分散Cr層からなる上部層で構成された硬質被覆層を形成してなる。
特許請求の範囲
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された超硬基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、層厚方向にそって、Al最高含有点とAl最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
さらに、上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-(X+Y)TiX)N(ただし、原子比で、Xは0.10〜0.35、Yは0.01〜0.1を示す)、
上記Al最低含有点が、組成式:(Al1-(E+F)Ti)N(ただし、原子比で、Eは0.40〜0.65、Fは0.01〜0.1を示す)、
を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とAl最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmであるAlとTiとB(ボロン)の複合窒化物層からなる下部層、
(b)0.1〜1.5μmの平均層厚を有する窒化クロム層からなる密着接合層、
(c)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ酸化クロムの素地に、前記酸化クロムとの合量に占める割合で、0.1〜5原子%の金属クロムが分散分布した組織を有する金属クロム分散酸化クロム層からなる上部層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる、難削材の高速切削で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
この発明は、特にステンレス鋼や高マンガン鋼、さらに軟鋼などの難削材の切削を高い発熱を伴なう高速切削条件で行った場合にも、すぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具(以下、被覆超硬工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、被覆超硬工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるスローアウエイチップ、前記被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに前記被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、また前記スローアウエイチップを着脱自在に取り付けて前記ソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うスローアウエイエンドミル工具などが知られている。
【0003】
また、被覆超硬工具として、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された超硬基体の表面に、
1〜15μmの平均層厚を有し、かつ、層厚方向にそって、Al最高含有点とAl最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
さらに、上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-(X+Y)TiX)N(ただし、原子比で、Xは0.10〜0.35、Yは0.01〜0.1を示す)、
上記Al最低含有点が、組成式:(Al1-(E+F)Ti)N(ただし、原子比で、Eは0.40〜0.65、Fは0.01〜0.1を示す)、
を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とAl最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmであるAlとTiとB(ボロン)の複合窒化物層[以下、(Al,Ti,B)Nで示す]層、からなる硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆超硬工具が知られており、かつ前記被覆超硬工具の硬質被覆層である(Al,Ti,B)N層が、成分濃度分布変化構造のAlによってすぐれた高温硬さと耐熱性、同Tiによってすぐれた高温強度を具備し、さらにB成分含有による一段の高温硬さ向上と相俟って、これを各種の一般鋼や普通鋳鉄などの連続切削や断続切削を通常の条件で行うのに用いた場合は勿論のこと、これを高速切削加工条件で行うのに用いた場合にもすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
【0004】
さらに、上記の従来被覆超硬工具は、例えば図2(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造のアークイオンプレーティング装置(図2ではAIP装置で示す)、すなわち装置中央部に超硬基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に相対的にAl含有量の高い(Ti含有量の低い)Al−Ti−B合金、他方側に相対的にTi含有量の高い(Al含有量の低い)Al−Ti−B合金をカソード電極(蒸発源)として対向配置したアークイオンプレーティング装置を用い、この装置の前記回転テーブル上に、これの中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に複数の超硬基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される硬質被覆層の層厚均一化を図る目的で超硬基体自体も自転させながら、前記の両側のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記超硬基体の表面に(Al,Ti,B)N層を形成することにより製造されるものであり、この結果形成された(Al,Ti,B)N層において、回転テーブル上にリング状に配置された前記超硬基体が上記の一方側の相対的にAl含有量の高い(Ti含有量の低い)Al−Ti−B合金のカソード電極(蒸発源)に最も接近した時点で層中にAl最高含有点が形成され、また前記超硬基体が上記の他方側の相対的にTi含有量の高い(Al含有量の低い)Al−Ti−B合金のカソード電極に最も接近した時点で層中にAl最低含有点が形成され、上記回転テーブルの回転によって層中には層厚方向にそって前記Al最高含有点とAl最低含有点が所定間隔をもって交互に繰り返し現れると共に、前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造が形成されるものである。
【特許文献1】特開2004−130496号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の切削加工装置のFA化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、被覆超硬工具には被削材の材種になるべく影響を受けない汎用性、すなわち、できるだけ多くの材種の被削材の切削加工が可能な被覆超硬工具が求められる傾向にあるが、上記の従来被覆超硬工具においては、これを低合金鋼や炭素鋼などの一般鋼や、ダクタイル鋳鉄やねずみ鋳鉄などの普通鋳鉄の高速切削加工に用いた場合には問題はないが、特に切粉の粘性が高く、かつ工具表面に溶着し易いステンレス鋼や高マンガン鋼、さらに軟鋼などの難削材の切削加工を高速で行った場合には、切削時の高い発熱によって難削材からなる被削材およびその切粉は高温に加熱されて粘性度が一段と増大し、これに伴なって硬質被覆層表面に対する粘着性および反応性が一段と増すようになり、この結果切刃部におけるチッピング(微少欠け)の発生が急激に増加し、これが原因で比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆超硬工具を開発すべく、上記の従来被覆超硬工具に着目し、研究を行った結果、
(a)上記従来被覆超硬工具の硬質被覆層である(Al,Ti,B)N層を1〜5μmの平均層厚で下部層として形成し、これの上に上部層として酸化クロム(以下、Crで示す)層を同じく1〜5μmの平均層厚で形成すると、前記Cr層は熱的安定性にすぐれ、特に高速切削時に発生する高熱で高温加熱された状態でも上記の難削材との反応性および親和性がきわめて低く、かつ著しく低い粘着性を保持することから、前記下部層である(Al,Ti,B)N層を十分に保護し、この結果((Al,Ti,B)N層のもつすぐれた特性が長期に亘って十分に発揮されるようになること。
【0007】
(b)しかし、上記のCr層は、相対的に高温強度の低いものであるために、これをそのまま硬質被覆層の上部層として用いると、Cr層自体にチッピングが発生し易いが、これに前記Crとの合量に占める割合で、0.1〜5原子%の金属クロム(Cr)を分散分布させてCr分散Cr層とすると、前記Crの作用で高温強度が向上し、チッピング発生が著しく抑制されるようになること。
【0008】
(c)さらに、上部層であるCr分散Cr層と下部層である(Al,Ti,B)N層との密着性は十分でなく、特に難削材の断続切削を高速で行った場合に剥離現象が発生し易いが、前記Cr分散Cr層と(Al,Ti,B)N層との間に窒化クロム(以下、CrNで示す)層を0.1〜1.5μmの平均層厚で介在させると、前記CrN層は前記Cr分散Cr層および(Al,Ti,B)N層のいずれとも強固に密着することから、前記(Al,Ti,B)N層が超硬基体表面に対してすぐれた密着性を有することと相俟って、前記Cr分散Cr層と(Al,Ti,B)N層との間にCrN層を介在させてなる硬質被覆層は、上記難削材の高熱発生を伴なう高速切削でも、層間剥離の発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
【0009】
(d)上記(c)の硬質被覆層は、例えば図1(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造のアークイオンプレーティング装置(以下、AIP装置と略記する)とスパッタリング装置(以下、SP装置と略記する)が共存の蒸着装置、すなわち装置中央部に超硬基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に前記AIP装置のカソード電極(蒸発源)として金属Cr、他方側に前記SP装置のカソード電極(蒸発源)としてCr分散Cr焼結体(例えば原料粉末としてCr粉末とCr粉末を用い、これら原料粉末を所定の割合に配合し、混合し、圧粉体にプレス成形し、これを焼結することにより成形された焼結体)を対向配置し、さらに前記回転テーブルに沿って、かつ前記金属CrおよびCr分散Cr焼結体のそれぞれから90度離れた位置の一方側に相対的にAl含有量の高い(Ti含有量の低い)Al−Ti−B合金、他方側に相対的にTi含有量の高い(Al含有量の低い)Al−Ti−B合金をカソード電極(蒸発源)として対向配置した蒸着装置を用い、この装置の前記回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部に沿って複数の超硬基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される硬質被覆層の層厚均一化を図る目的で超硬基体自体も自転させながら、基本的に、まず前記対向配置した両Al−Ti−B合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にそれぞれアーク放電を発生させて、前記超硬基体の表面に下部層として(Ti,Al,B)N層を1〜5μmの平均層厚で蒸着し、ついで、前記両Al−Ti−B合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間のアーク放電を停止し、装置内雰囲気を窒素雰囲気に保持したままで、前記AIP装置のカソード電極(蒸発源)である金属Crとアノード電極との間にアーク放電を発生させて、密着接合層としてCrN層を0.1〜1.5μmの平均層厚で蒸着した後、前記蒸着装置内の雰囲気を酸素雰囲気とすると共に、前記SP装置のカソード電極(蒸発源)として配置したCr分散Cr焼結体のスパッタリングを行って前記CrN層に重ねて上部層として1〜5μmの平均層厚でCr分散Cr層を蒸着することにより形成することができること。
【0010】
(e)上記の下部層、密着接合層、および上部層で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆超硬工具は、特に粘性および粘着性の高いステンレス鋼や高マンガン鋼、さらに軟鋼などの難削材の高熱発生を伴なう高速切削でも、下部層である(Al,Ti,B)N層がすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度を有し、前記高温硬さはB成分の共存含有によって一段と向上したものになり、かつ密着接合層としてのCrN層によって強固に密着したCr分散Cr層によって、前記難削材との間にきわめて低い粘着性および反応性が確保されることから、層間剥離の発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
以上(a)〜(e)に示される研究結果を得たのである。
【0011】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、
(a)1〜5μmの平均層厚を有し、かつ、層厚方向にそって、Al最高含有点とAl最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAlおよびTi含有量がそれぞれ連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
さらに、上記Al最高含有点が、組成式:(Al1-(X+Y)TiX)N(ただし、原子比で、Xは0.10〜0.35、Yは0.01〜0.1を示す)、
上記Al最低含有点が、組成式:(Al1-(E+F)Ti)N(ただし、原子比で、Eは0.40〜0.65、Fは0.01〜0.1を示す)、
を満足し、かつ隣り合う上記Al最高含有点とAl最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである(Al,Ti,B)N層からなる下部層、
(b)0.1〜1.5μmの平均層厚を有するCrN層からなる密着接合層、
(c)1〜5μmの平均層厚を有し、かつCrの素地に、前記Crとの合量に占める割合で、0.1〜5原子%のCrが分散分布した組織を有するCr分散Cr層からなる上部層、
以上(a)〜(c)で構成された硬質被覆層を形成してなる、難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
【0012】
つぎに、この発明の被覆超硬工具の硬質被覆層の構成層に関し、上記の通りに数値限定した理由を説明する。
(A)下部層
(a)Al最高含有点の組成
(Al,Ti,B)N層のAl成分は、高温硬さおよび耐熱性を向上させ、同Ti成分は高温強度を向上させ、さらに同B成分は一段と高温硬さを向上させる作用があり、したがって相対的にAl成分の含有割合が高いAl最高含有点では一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を具備し、高熱発生を伴う高速切削で、すぐれた耐摩耗性を発揮するようになるが、Tiの割合を示すX値がAlとBの合量に占める割合(原子比)で0.10未満になると、相対的にAlの割合が多くなり過ぎて、相対的に高い高温強度を有するAl最低含有点が隣接して存在しても層自体の強度低下は避けられず、この結果チッピングなどが発生し易くなり、一方Ti成分の割合を示すX値が同0.35を越えると、相対的にAlの割合が少なくなり過ぎて、所望のすぐれた高温硬さおよび耐熱性を確保することができなくなり、またB成分の割合を示すY値がAlとTiの合量に占める割合(原子比)で0.01未満では所望の高温硬さ向上効果が得られず、さらに同Y値が0.10を超えると、高温強度が急激に低下するようになることから、X値を0.10〜0.35、Y値を0.01〜0.10とそれぞれ定めた。
【0013】
(b)Al最低含有点の組成
上記の通りAl最高含有点は高温硬さおよび耐熱性のすぐれたものであるが、反面高温強度の劣るものであるため、このAl最高含有点の高温強度不足を補う目的で、Ti含有割合が相対的に高く、これによって相対的に高い高温強度を有するようになるAl最低含有点を厚さ方向に交互に介在させるものであり、したがってTiの割合(E値)がAlとBとの合量に占める割合(原子比)で0.40未満では、所望のすぐれた高温強度を確保することができず、一方その割合(E値)が同じく0.65を越えると、相対的にTiの割合が多くなり過ぎて、Al最低含有点に所定の所望の高温硬さおよび耐熱性を具備せしめることができなくなることから、その割合を0.40〜0.65と定めたものであり、またB成分の割合を示すF値は上記のAl最高含有点におけると同じ理由で0.01〜0.10と定めた。。
【0014】
(c)Al最高含有点とAl最低含有点間の間隔
その間隔が0.01μm未満ではそれぞれの点を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果それぞれの層に所望の高温硬さと耐熱性、および高温強度を確保することができなくなり、またその間隔が0.1μmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちAl最高含有点であれば高温強度不足、Al最低含有点であれば高温硬さおよび耐熱性不足が層内に局部的に現れ、これが原因で切刃にチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進されるようになることから、その間隔を0.01〜0.1μmと定めた。
【0015】
(d)平均層厚
その平均層厚が1μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が5μmを越えると、切刃にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
【0016】
(B)密着接合層の平均層厚
その平均層厚が0.1μm未満では、上部層と下部層の間に強固な接合強度を確保することができず、一方その平均層厚が1.5μmを越えると、硬質被覆層の強度が密着接合層部分で急激に低下するようになり、これがチッピング発生の原因となることから、その平均層厚を0.1〜1.5μmと定めた。
【0017】
(C)上部層の平均層厚および分散Crの含有割合
上部層を構成するCr分散Cr層は、上記の通り難削材に対する粘着性および反応性がきわめて低く、これは高速切削で前記難削材が高温加熱された状態でも変わることなく維持されることから、下部層である(Al,Ti,B)N層を前記高温加熱された難削材から保護し、これのチッピング発生を抑制する作用を発揮するが、その平均層厚が1μm未満では、前記作用に所望の効果が得られず、一方その平均層厚が5μmを越えて厚くなり過ぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜5μmと定めた。
また、上記Cr分散Cr層におけるCrには、上記の通り自身の高温強度を向上させ、もって高速切削におけるチッピングの発生を著しく抑制する作用があるが、その割合が素地のCrとの合量に占める割合で0.1原子%未満では所望の高温強度向上効果を確保することができず、一方その割合が5原子%を越えると、被削材である上記難削材との間にきわめて低い粘着性および反応性を確保することができなくなり、特にその切粉との間にチッピング発生の原因となる粘着現象が現れるようになることから、その割合を0.1〜5原子%と定めた。
【発明の効果】
【0018】
この発明の被覆超硬工具は、硬質被覆層を構成する下部層の(Al,Ti,B)N層がすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度を有し、かつ同密着接合層としてのCrN層によって強固に密着接合した上部層としてのCr分散Cr層によって、被削材との間にきわめて低い粘着性および反応性が確保されることから、特に粘性および粘着性の高いステンレス鋼や高マンガン鋼、さらに軟鋼などの難削材の高熱発生を伴なう高速切削加工でも、切刃部にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例1】
【0020】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPa の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6Paの真空中、温度:1400℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体A−1〜A−10を形成した。
【0021】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比で、TiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2kPaの窒素雰囲気中、温度:1500℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.03のホーニング加工を施してISO規格・CNMG120408のチップ形状をもったTiCN系超硬製の超硬基体B−1〜B−6を形成した。
【0022】
さらに、硬質被覆層の上部層形成用カソード電極(蒸発源)として、原料粉末として、平均粒径:0.8μmのCr粉末および同1.1μmのCr粉末を用意し、これら原料粉末を所定の配合組成に配合し、ボールミルで72時間湿式混合し、乾燥した後、100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を6PaのAr雰囲気中、1300〜1400℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で焼結することにより、Crを所定の割合で分散含有したCr分散Cr焼結体を調製した。
【0023】
(a)ついで、上記の超硬基体A−1〜A−10およびB−1〜B−6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図1に示される蒸着装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、一方側のAIP装置のカソード電極(蒸発源)として密着接合層形成用金属Cr、他方側のSP装置のカソード電極(蒸発源)として上部層形成用Cr分散Cr焼結体を対向配置し、さらに前記回転テーブルに沿って、かつ前記金属CrおよびCr分散Cr焼結体のそれぞれから90度離れた位置の一方側にAIP装置のカソード電極(蒸発源)として下部層のAl最高含有点形成用Al−Ti−B合金、他方側に同じく下部層のAl最低含有点形成用Al−Ti−B合金を対向配置し、
(b)まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加して、カソード電極の前記金属Crとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面をCrボンバート洗浄し、
(c)ついで,装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加して、それぞれのカソード電極(前記Al最高含有点形成用Al−Ti−B合金およびAl最低含有点形成用Al−Ti−B合金)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体の表面に、層厚方向に沿って表3,4に示される目標組成のAl最高含有点とAl最低含有点とが交互に同じく表3,4に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表3,4に示される目標層厚を有する(Al,Ti,B)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)上記の下部層形成用両Al−Ti−B合金のカソード電極とアノード電極との間のアーク放電を停止し、装置内の雰囲気を同じ4Paの窒素雰囲気に保持すると共に、超硬基体への直流バイアス電圧(−100V)も同じくしたままで、カソード電極の前記金属Crとアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって同じく表3,4に示される目標層厚のCrN層を硬質被覆層の密着接合層として蒸着形成し、
(e)上記金属Crとアノード電極とのアーク放電を停止し、前記蒸着装置内の雰囲気を0.5PaのAr雰囲気とすると共に、前記SP装置のカソード電極(蒸発源)として配置したCr分散Cr焼結体に、スパッタ出力:3kWの条件でスパッタリングを開始し、同じく表3,4に示される目標層厚のCr分散Cr層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
【0024】
また、比較の目的で、
(a)上記の超硬基体A1〜A10およびB1〜B6のそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、図2に示されるアークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上に外周部にそって装着し、一方側のカソード電極(蒸発源)として、種々の成分組成をもったAl最低含有点形成用Al−Ti−B合金、他方側のカソード電極(蒸発源)として、種々の成分組成をもったAl最高含有点形成用Al−Ti−B合金を前記回転テーブルを挟んで対向配置し、またボンバート洗浄用金属Tiも装着し、
(b)まず、装置内を排気して0.5Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加して、カソード電極の前記金属Tiとアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面をTiボンバート洗浄し、
(c)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加して、それぞれのカソード電極(前記Al最低含有点形成用Al−Ti−B合金およびAl最高含有点形成用Al−Ti−B合金)とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体の表面に、層厚方向に沿って表5,6に示される目標組成のAl最低含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表5,6に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表5,6に示される目標層厚の上記本発明被覆チップの下部層に相当する(Al,Ti,B)N層を硬質被覆層として蒸着することにより、従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、従来被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
【0025】
つぎに、上記の各種の被覆チップを、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆チップ1〜16および従来被覆チップ1〜16について、
被削材:JIS・SUS316の丸棒、
切削速度:350m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件A)でのステンレス鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は180m/min.)、
被削材:JIS・S15Cの長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:280m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.35mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件B)での軟鋼の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)、
被削材:JIS・SCMnH1の丸棒、
切削速度:250m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件C)での高マンガン鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表7に示した。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】


【0028】
【表3】


【0029】
【表4】


【0030】
【表5】


【0031】
【表6】


【0032】
【表7】


【実施例2】
【0033】
原料粉末として、平均粒径:5.5μmを有する中粗粒WC粉末、同0.8μmの微粒WC粉末、同1.3μmのTaC粉末、同1.2μmのNbC粉末、同1.2μmのZrC粉末、同2.3μmのCr32粉末、同1.5μmのVC粉末、同1.0μmの(Ti,W)C[質量比で、TiC/WC=50/50]粉末、および同1.8μmのCo粉末を用意し、これら原料粉末をそれぞれ表8に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の各種の圧粉体にプレス成形し、これらの圧粉体を、6Paの真空雰囲気中、7℃/分の昇温速度で1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に昇温し、この温度に1時間保持後、炉冷の条件で焼結して、直径が8mm、13mm、および26mmの3種の超硬基体形成用丸棒焼結体を形成し、さらに前記の3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、表7に示される組合せで、切刃部の直径×長さがそれぞれ6mm×13mm、10mm×22mm、および20mm×45mmの寸法、並びにいずれもねじれ角30度の4枚刃スクエア形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8をそれぞれ製造した。
【0034】
ついで、これらの超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示される蒸着装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表9に示される目標組成のAl最低含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表9に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表9に示される目標層厚の(Al,Ti,B)N層からなる下部層と、同じく表9に示される目標層厚のCrN層からなる密着接合層およびCr分散Cr層からなる上部層で構成された硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製エンドミル(以下、本発明被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0035】
また、比較の目的で、上記の超硬基体(エンドミル)C−1〜C−8の表面をアセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表10に示される目標組成のAl最低含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表10に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表10に示される目標層厚の上記本発明被覆エンドミルの下部層に相当する(Al,Ti,B)N層を硬質被覆層として蒸着することにより、従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬製エンドミル(以下、従来被覆エンドミルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0036】
つぎに、上記本発明被覆エンドミル1〜8および従来被覆エンドミル1〜8のうち、本発明被覆エンドミル1〜3および従来被覆エンドミル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S15Cの板材、
切削速度:70m/min.、
溝深さ(切り込み):3mm、
テーブル送り:150mm/分、
の条件での軟鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は40m/min.)、本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS316の板材、
切削速度:80m/min.、
溝深さ(切り込み):5mm、
テーブル送り:160mm/分、
の条件でのステンレス鋼の湿式(水溶性切削油使用)高速溝切削加工試験(通常の切削速度は40m/min.)、本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCMnH1の板材、
切削速度:60m/min.、
溝深さ(切り込み):8mm、
テーブル送り:120mm/分、
の条件での高マンガン鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は35m/min.)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表9,10にそれぞれ示した。
【0037】
【表8】


【0038】
【表9】


【0039】
【表10】


【実施例3】
【0040】
上記の実施例2で製造した直径が8mm(超硬基体C−1〜C−3形成用)、13mm(超硬基体C−4〜C−6形成用)、および26mm(超硬基体C−7、C−8形成用)の3種の丸棒焼結体を用い、この3種の丸棒焼結体から、研削加工にて、溝形成部の直径×長さがそれぞれ4mm×13mm(超硬基体D−1〜D−3)、8mm×22mm(超硬基体D−4〜D−6)、および16mm×45mm(超硬基体D−7、D−8)の寸法、並びにいずれもねじれ角30度の2枚刃形状をもったWC基超硬合金製の超硬基体(ドリル)D−1〜D−8をそれぞれ製造した。
【0041】
ついで、これらの超硬基体(ドリル)D−1〜D−8の切刃に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図1に示される蒸着装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表11に示される目標組成のAl最低含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表11に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表11に示される目標層厚の(Al,Ti,B)N層からなる下部層と、同じく表11に示される目標層厚のCrN層からなる密着接合層およびCr分散Cr層からなる上部層で構成された硬質被覆層を蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製ドリル(以下、本発明被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0042】
また、比較の目的で、上記の超硬基体(ドリル)D−1〜D−8の表面に、ホーニングを施し、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じく図2に示されるアークイオンプレーティング装置に装入し、上記実施例1と同一の条件で、層厚方向に沿って表12に示される目標組成のAl最低含有点とAl最高含有点とが交互に同じく表12に示される目標間隔で繰り返し存在し、かつ前記Al最高含有点から前記Al最低含有点、前記Al最低含有点から前記Al最高含有点へAl(Ti)含有量が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、かつ同じく表12に示される目標層厚の上記本発明被覆ドリルの下部層に相当する(Al,Ti,B)N層を硬質被覆層として蒸着形成することにより、従来被覆超硬工具としての従来表面被覆超硬製ドリル(以下、従来被覆ドリルと云う)1〜8をそれぞれ製造した。
【0043】
つぎに、上記本発明被覆ドリル1〜8および従来被覆ドリル1〜8のうち、本発明被覆ドリル1〜3および従来被覆ドリル1〜3については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS316の板材、
切削速度:150m/min.、
送り:0.15mm/rev、
穴深さ:8mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は80m/min.)、本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SCMnH1の板材、
切削速度:100m/min.、
送り:0.2mm/rev、
穴深さ:16mm、
の条件での高マンガン鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は60 m/min.)、本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材−平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S15Cの板材、
切削速度:50m/min.、
送り:0.25mm/rev、
穴深さ:32mm、
の条件での軟鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)、をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表11,12にそれぞれ示した。
【0044】
【表11】


【0045】
【表12】


【0046】
この結果得られた本発明被覆超硬工具としての本発明被覆チップ1〜16、本発明被覆エンドミル1〜8、および本発明被覆ドリル1〜8の硬質被覆層を構成する(Al,Ti,B)N層(下部層)およびCr分散Cr層(上部層)の組成、並びに従来被覆超硬工具としての従来被覆チップ1〜16、従来被覆エンドミル1〜8、および従来被覆ドリル1〜8の(Al,Ti,B)N層からなる硬質被覆層の組成を、透過型電子顕微鏡を用いてのエネルギー分散X線分析法により測定したところ、それぞれ目標組成と実質的に同じ組成を示した。
【0047】
また、上記の硬質被覆層の構成層の平均層厚を走査型電子顕微鏡を用いて断面測定したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均値(5ヶ所の平均値)を示した。
【0048】
表3〜12に示される結果から、本発明被覆超硬工具は、いずれも特に粘性および粘着性の高いステンレス鋼や高マンガン鋼、さらに軟鋼などの難削材の高熱発生を伴なう高速切削でも、硬質被覆層の下部層である(Al,Ti,B)N層がすぐれた高温硬さと耐熱性、さらにすぐれた高温強度を有し、かつ密着接合層としてのCrN層によって強固に密着したCr分散Cr層によって、前記被削材との間にきわめて低い粘着性および反応性が確保されることから、切刃部にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、硬質被覆層が(Al,Ti,B)N層のみで構成された従来被覆超硬工具においては、いずれも高熱発生を伴なう高速切削では被削材(難削材)と前記硬質被覆層との粘着性および反応性が一段と高くなり、これが原因で切刃部にチッピングが発生するようになり、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
【0049】
上述のように、この発明の被覆超硬工具は、特に各種の一般鋼や普通鋳鉄などの高速切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高い発熱を伴なう上記の難削材の高速切削加工でもすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を示すものであるから、切削加工装置のFA化、さらに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明被覆超硬工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いた蒸着装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。
【図2】従来被覆超硬工具を構成する硬質被覆層を形成するのに用いたアークイオンプレーティング装置を示し、(a)は概略平面図、(b)は概略正面図である。




 

 


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