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発明の名称 水素透過膜および水素透過膜の製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−44593(P2007−44593A)
公開日 平成19年2月22日(2007.2.22)
出願番号 特願2005−229813(P2005−229813)
出願日 平成17年8月8日(2005.8.8)
代理人 【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
発明者 青山 智 / 井口 哲 / 増井 孝年
要約 課題
水素透過膜における性能低下を抑制する。

解決手段
水素を選択的に透過させる水素透過膜を製造する際には、まず、5族金属を含有する金属ベース層を用意する(ステップS100)。そして、金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)を含有する金属被覆層を前記多層構造の表面に形成する(ステップS110、S120)。その後、金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造における間隙を狭小化あるいは閉塞させて(ステップS130)、水素透過膜を完成する。
特許請求の範囲
【請求項1】
水素を選択的に透過させる水素透過膜の製造方法であって、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)を含有する金属被覆層を前記多層構造の表面に形成する第2工程と、
(c)前記金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造における間隙を狭小化あるいは閉塞させる第3工程と
を備える水素透過膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、パラジウム(Pd)に加えて、酸化物、窒化物あるいは炭化物を形成し得る第2の成分を備え、
前記第3工程は、前記第2の成分を酸化、窒化あるいは炭化させる工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2の成分は、クロム(Cr),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe),銅(Cu),モリブデン(Mo),ジルコニウム(Zr)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を酸化させる工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2の成分は、クロム(Cr),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を窒化させる工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項5】
請求項2記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2の成分は、ケイ素(Si)およびチタン(Ti)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を炭化させる工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項6】
請求項2ないし5いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、その全体にPdを含有すると共に、前記金属被覆層の表面を含む限られた領域のみが前記第2の成分をさらに備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項7】
請求項2ないし6いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(d)前記第3工程の前または後に、前記金属被覆層上にパラジウム層を形成する第4工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項8】
水素を選択的に透過させる水素透過膜の製造方法であって、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、酸化物、窒化物あるいは炭化物を形成し得る第2の成分をパラジウム(Pd)に加えて備える金属被覆層を、前記多層構造の表面に形成する第2工程と
を備える水素透過膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、パラジウム(Pd)に加えて、前記水素透過膜の使用温度における固溶限界を超える量の第2の成分を含有する第1の化合物から成り、
前記第3の工程は、前記第1の化合物よりも前記第2の成分の含有割合が高い第2の化合物を、前記間隙に析出させる熱処理を行なう工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(d)前記第3工程と共に、あるいは前記第3の工程の後に、析出した前記第2の化合物中の前記第2の元素を酸化、窒化あるいは炭化させる第4工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(e)前記第3工程の後に、前記金属被覆層上にパラジウム層を形成する第5工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項12】
水素を選択的に透過させる水素透過膜の製造方法であって、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)に加えて、前記水素透過膜の使用温度における固溶限界を超える量の第2の成分を含有する金属被覆層を、前記多層構造の表面に形成する第2工程と
を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、前記金属被覆層上に、所定の成膜材料を用いて成膜を行なって、前記金属被覆層を被覆する目詰め被覆層を成膜する工程であり、
前記水素透過膜の製造方法は、さらに、
(d)前記金属被覆層上に成膜した前記目詰め被覆層を除去する第4工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項14】
請求項13記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(e)前記第4工程の前または後に、前記目詰め被覆層を構成する前記成膜材料を、酸化、窒化あるいは炭化させる第5工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項15】
請求項13記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程で用いる成膜材料は、酸化物を形成し得る材料であり、
前記第4工程は、酸素プラズマあるいはオゾンプラズマを用いたドライエッチングにより前記目詰め被覆層を除去する工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項16】
請求項14記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第4工程は、前記成膜材料から生じる酸化物、窒化物あるいは炭化物からなる研磨粒子を用いた物理研磨により前記目詰め被覆層を除去する工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項17】
請求項13記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、前記水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて、前記目詰め被覆層を形成する工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項18】
請求項17記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記成膜材料は、酸化物、窒化物あるいは炭化物である
水素透過膜の製造方法。
【請求項19】
請求項17または18記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第4工程は、前記第3工程で用いる成膜材料からなる研磨粒子を用いた物理研磨により前記表層を除去する
水素透過膜の製造方法。
【請求項20】
請求項13ないし19いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(f)前記第3工程の後、前記第4工程に先立って、前記元素から成る前記目詰め被覆層を有する金属被覆層に対して、前記水素透過膜を構成する金属の融点よりも低い温度での熱処理を行なう第6工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項21】
請求項1記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、前記金属被覆層の表面において、前記金属被覆層表面に存在する結晶粒界を含む限られた領域のみを被覆する結晶粒界被覆部を形成する工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項22】
請求項21記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(d)前記結晶粒界被覆部を構成する前記成膜材料を、酸化、窒化あるいは炭化させる第4の工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項23】
請求項22記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記結晶粒界被覆部は、クロム(Cr),ケイ素(Si),アルミニウム(Al)から選択される元素を成膜材料として形成され、
前記第4の工程は、前記成膜材料を酸化させる工程である
水素透過膜の製造方法。
【請求項24】
請求項21記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、前記水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて前記結晶粒界被覆部を形成する
水素透過膜の製造方法。
【請求項25】
請求項24記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記成膜材料は、酸化物、窒化物あるいは炭化物である
水素透過膜の製造方法。
【請求項26】
請求項25記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記結晶粒界被覆部は、酸化クロム、酸化ケイ素、酸化アルミニウムから選択される酸化物を成膜材料として形成される
水素透過膜の製造方法。
【請求項27】
請求項21ないし26いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、
前記第3工程は、
(c−1)成膜すべき面積として、前記金属被覆層の表面に存在する結晶粒界近傍領域の面積を測定または推定する成膜面積取得工程と、
(c−2)測定または推定した前記面積と、前記結晶粒界被覆部を形成するために用いる成膜材料の原子半径あるいは格子定数とに基づいて、成膜に用いるべき成膜材料の量を設定する成膜材料量設定工程と、
(c−3)前記成膜材料量設定工程で設定した量の前記成膜材料を用いて、前記金属被覆層上に成膜を行なう成膜工程と
を備える水素透過膜の製造方法。
【請求項28】
請求項21ないし27いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(e)前記第3工程に先立って、前記金属被覆層の表面における結晶粒を大型化させる第5工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項29】
請求項21ないし27いずれか記載の水素透過膜の製造方法であって、さらに、
(f)前記第3工程に先立って、前記金属被覆層の表面における結晶粒界を凹面化させる第6工程を備える
水素透過膜の製造方法。
【請求項30】
水素を選択的に透過させる水素透過膜であって、
請求項1ないし29いずれか記載の方法により製造された水素透過膜。
【請求項31】
水素を選択的に透過させる水素透過膜であって、
5族金属を含有する金属ベース層と、
前記水素透過膜の少なくとも一方の表面に設けられると共に、パラジウム(Pd)を備える金属被覆層と、
を含む複数の層を積層して形成され、
前記金属被覆層は、該金属被覆層が備える結晶粒界に、酸化物、窒化物または炭化物となり得る元素、または、酸化物、窒化物あるいは炭化物を備える
水素透過膜。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素を選択的に透過させる水素透過膜および水素透過膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素含有ガスから水素を抽出するために、従来、パラジウム(Pd)から成る水素透過性金属を含む水素透過膜が用いられてきた。このような水素透過膜として、水素透過性能の高い金属(例えば、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、バナジウム(V))から成る金属層の表面に、Pdを含有する金属層を設け、多層構造とすることによって性能向上を図った水素透過膜が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−276866号公報
【特許文献2】特開平7−185277号公報
【特許文献3】特開平5−85869号公報
【特許文献4】特開平6−101083号公報
【特許文献5】特開平11−50226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記多層構造を有する水素透過膜は、所定の高温条件下で使用すると、水素透過性能が次第に低下するという問題があった。このような問題は、例えば、水素透過膜の表面に設けたPd層を介して水素透過膜内部に酸素が入りこみ、水素透過膜内部の上記水素透過性能の高い金属から成る層を構成する金属が酸化されることにより起こると考えられる。あるいは、このような問題は、上記水素透過性能の高い金属から成る層を構成する金属や、この金属の酸化物が、上記Pdを含有する金属層内を拡散して、Pdを含有する金属層の表面に到達することにより起こると考えられる。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、水素透過膜における性能低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の水素透過膜の製造方法は、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)を含有する金属被覆層を前記多層構造の表面に形成する第2工程と、
(c)前記金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造における間隙を狭小化あるいは閉塞させる第3工程と
を備えることを要旨とする。
【0007】
以上のように構成された本発明の第1の水素透過膜の製造方法によれば、金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造における間隙が狭小化されるため、水素透過膜内部への結晶構造上の間隙を介した酸素の侵入を抑制すると共に、金属被覆層よりも下側の層を構成する金属や、その酸化物の金属被覆層表面への到達を抑制することができる。したがって、酸素の侵入や下側の層を構成する金属等の表面への到達に起因する水素透過膜の性能低下を抑えることができる。
【0008】
本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、パラジウム(Pd)に加えて、酸化物、窒化物あるいは炭化物を形成し得る第2の成分を備え、
前記第3工程は、前記第2の成分を酸化、窒化あるいは炭化させる工程であることとしても良い。
【0009】
このような構成とすれば、第2の成分を酸化、窒化あるいは炭化させる際には、このような反応は、主として結晶粒界を含む結晶構造上の間隙の近傍で進行すると共に、このような反応によって第2の成分を含む結晶粒が膨張するため、上記結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。
【0010】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第2の成分は、クロム(Cr),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe),銅(Cu),モリブデン(Mo),ジルコニウム(Zr)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を酸化させる工程であることとしても良い。
【0011】
この場合には、酸化処理によって上記第2の成分を酸化させることで、金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。特に、上記元素は、酸化による膨張の程度が比較的大きいため、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞を効率良く行なうことができる。
【0012】
また、本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第2の成分は、クロム(Cr),アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を窒化させる工程であることとしても良い。
【0013】
この場合には、窒化処理によって上記第2の成分を窒化させることで、金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。特に、上記元素は、窒化による膨張の程度が比較的大きいため、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞を効率良く行なうことができる。
【0014】
あるいは、本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第2の成分は、ケイ素(Si)およびチタン(Ti)から選択される元素であり、
前記第3工程は、前記第2の成分を炭化させる工程であることとしても良い。
【0015】
この場合には、炭化処理によって上記第2の成分を炭化させることで、金属被覆層において、結晶粒界を含む結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。特に、上記元素は、炭化による膨張の程度が比較的大きいため、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞を効率良く行なうことができる。
【0016】
本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、その全体にPdを含有すると共に、前記金属被覆層の表面を含む限られた領域のみが前記第2の成分をさらに備えることとしても良い。
【0017】
このような構成とすれば、金属被覆層の表面を含む限られた領域において、結晶粒界を含む結晶構造上の間隙が狭小化あるいは閉塞されることで、酸素の侵入や下側の層を構成する金属等の表面への到達に起因する水素透過膜の性能低下を抑えることができる。また、第2の成分が備えられる領域が限られているため、第2の成分を金属被覆層に加えることに起因する水素透過性能の低下を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、さらに、
(d)前記第3工程の前または後に、前記金属被覆層上にパラジウム層を形成する第4工程を備えることとしても良い。
【0019】
このような構成とすれば、パラジウム層を形成することにより、水素透過膜の表面における水素分子の解離反応あるいは水素分子への結合反応を促進する活性を確保することができ、水素透過膜の水素透過性能を向上させることができる。
【0020】
本発明の第2の水素透過膜の製造方法は、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、酸化物、窒化物あるいは炭化物を形成し得る第2の成分をパラジウム(Pd)に加えて備える金属被覆層を、前記多層構造の表面に形成する第2工程と
を備えることを要旨とする。
【0021】
以上のように構成された本発明の第2の水素透過膜の製造方法によれば、さらなる酸化、窒化あるいは炭化の処理を行なって、結晶構造上の間隙の近傍において第2の成分を酸化、窒化あるいは炭化させることによって、第2の成分を含む結晶粒を膨張させて、金属被覆層における結晶粒界を含む結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。また、水素透過膜の使用環境が、第2の成分について酸化反応、窒化反応あるいは炭化反応の進行し得る環境であれば、水素透過膜の使用中に、上記結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞を進行させることができる。
【0022】
本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第2工程で形成する前記金属被覆層は、パラジウム(Pd)に加えて、前記水素透過膜の使用温度における固溶限界を超える量の第2の成分を含有する第1の化合物から成り、
前記第3の工程は、前記第1の化合物よりも前記第2の成分の含有割合が高い第2の化合物を、前記間隙に析出させる熱処理を行なう工程であることとしても良い。
【0023】
このような構成とすれば、熱処理によって、金属被覆層における結晶構造上の間隙に第2の化合物が析出するため、この第2の化合物により、上記間隙を狭小化・閉塞させることができる。
【0024】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、さらに、
(d)前記第3工程と共に、あるいは前記第3の工程の後に、析出した前記第2の化合物中の前記第2の元素を酸化、窒化あるいは炭化させる第4工程を備えることとしても良い。
【0025】
このような構成とすれば、第2の元素を酸化、窒化あるいは炭化させることで、結晶構造上の間隙に析出している第2の化合物が膨張するため、上記間隙を狭小化・閉塞させる効果を高めることができる。
【0026】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、さらに、
(e)前記第3工程の後に、前記金属被覆層上にパラジウム層を形成する第5工程を備えることとしても良い。
【0027】
このような構成とすれば、パラジウム層を形成することにより、水素透過膜の表面における水素分子の解離反応あるいは水素分子への結合反応を促進する活性を確保することができ、水素透過膜の水素透過性能を向上させることができる。
【0028】
本発明の第3の水素透過膜の製造方法は、
(a)5族金属を含有する金属ベース層を用意する第1工程と、
(b)前記金属ベース層の一方または双方の表面上に、所定の金属層を順次成膜して多層構造を形成する際に、パラジウム(Pd)に加えて、前記水素透過膜の使用温度における固溶限界を超える量の第2の成分を含有する金属被覆層を、前記多層構造の表面に形成する第2工程と
を備えることを要旨とする。
【0029】
以上のように構成された本発明の第3の水素透過膜の製造方法によれば、さらなる熱処理を行なって、第2の成分を含有する化合物を結晶構造上の間隙に析出させることにより、上記間隙を狭小化・閉塞させることができる。
【0030】
本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第3工程は、前記金属被覆層上に、所定の成膜材料を用いて成膜を行なって、前記金属被覆層を被覆する目詰め被覆層を成膜する工程であり、
前記水素透過膜の製造方法は、さらに、
(d)前記金属被覆層上に成膜した前記目詰め被覆層を除去する第4工程を備えることとしても良い。
【0031】
このような構成とすれば、金属被覆層上に目詰め被覆層を成膜することによって、金属被覆層表面における結晶構造上の間隙内に成膜材料を入りこませて、上記間隙を狭小化・閉塞させることができる。さらに、目詰め被覆層を除去することにより、水素透過膜の表面における水素分子の解離反応あるいは水素分子への結合反応を促進する活性を確保することができる。
【0032】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、さらに、
(e)前記第4工程の前または後に、前記目詰め被覆層を構成する前記成膜材料を、酸化、窒化あるいは炭化させる第5工程を備えることとしても良い。
【0033】
このような構成とすれば、酸化、窒化あるいは炭化によって、結晶構造上の間隙内に入りこんだ成膜材料が膨張するため、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させる効果を高めることができる。
【0034】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第3工程で用いる成膜材料は、酸化物を形成し得る材料であり、
前記第4工程は、酸素プラズマあるいはオゾンプラズマを用いたドライエッチングにより前記目詰め被覆層を除去する工程であることとしても良い。
【0035】
このような構成とすれば、目詰め被覆層の除去と、結晶構造上の間隙内に入りこんだ成膜材料の酸化とを、同時に行なうことができる。
【0036】
あるいは、本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第4工程は、前記成膜材料から生じる酸化物、窒化物あるいは炭化物からなる研磨粒子を用いた物理研磨により前記目詰め被覆層を除去する工程であることとしても良い。
【0037】
このような構成とすれば、目詰め被覆層除去のために用いた研磨粒子が水素透過膜上に残留した場合であっても、残留した研磨粒子に起因する水素透過性能の低下を抑制することができる。
【0038】
本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第3工程は、前記水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて、前記目詰め被覆層を形成する工程であることとしても良い。
【0039】
このような構成とすれば、形成した目詰め被覆層を安定して存在可能とするために、さらなる処理を要することがない。
【0040】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、前記成膜材料は、酸化物、窒化物あるいは炭化物であることとしても良い。これらを成膜材料として用いるならば、水素透過膜において成膜材料が拡散してしまうことがなく、上記成膜材料を結晶構造上の間隙内に安定して存在させることが可能になる。
【0041】
また、このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第4工程は、前記第3工程で用いる成膜材料からなる研磨粒子を用いた物理研磨により前記表層を除去することとしても良い。
【0042】
このような構成とすれば、目詰め被覆層除去のために用いた研磨粒子が水素透過膜上に残留した場合であっても、残留した研磨粒子に起因する水素透過性能の低下を抑制することができる。
【0043】
上記した本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、さらに、
(f)前記第3工程の後、前記第4工程に先立って、前記元素から成る前記目詰め被覆層を有する金属被覆層に対して、前記水素透過膜を構成する金属の融点よりも低い温度での熱処理を行なう第6工程を備えることとしても良い。
【0044】
このような構成とすれば、結晶構造上の間隙内に入りこんだ成膜材料が、熱処理に伴って、上記間隙のさらに内部へと移動する。そのため、第4の工程で目詰め被覆層を除去した後に、より充分な量の目詰め材料を上記間隙内に残留させることができる。
【0045】
本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第3工程は、前記金属被覆層の表面において、前記金属被覆層表面に存在する結晶粒界を含む限られた領域のみを被覆する結晶粒界被覆部を形成する工程であることとしても良い。
【0046】
このような構成とすれば、金属被覆層表面における結晶構造上の間隙を結晶粒界被覆部によって被覆することによって、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。
【0047】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、さらに、
(d)前記結晶粒界被覆部を構成する前記成膜材料を、酸化、窒化あるいは炭化させる第4の工程を備えることとしても良い。
【0048】
このような構成とすれば、結晶粒界被覆部を構成する成膜材料が水素透過膜において拡散してしまうことがなく、結晶構造上の間隙上において上記成膜材料を安定して存在させることが可能になる。
【0049】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記結晶粒界被覆部は、クロム(Cr),ケイ素(Si),アルミニウム(Al)から選択される元素を成膜材料として形成され、
前記第4の工程は、前記成膜材料を酸化させる工程であることとしても良い。
【0050】
このような構成とすれば、水素透過膜の使用中に、水素透過膜内への酸素の侵入や、水素透過膜内部での酸化反応の進行を抑制することができる。
【0051】
また、上記した本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第3工程は、前記水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて前記結晶粒界被覆部を形成することとしても良い。
【0052】
このような構成とすれば、形成した結晶粒界被覆部を安定して存在可能とするために、さらなる処理を要することがない。
【0053】
また、本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、前記成膜材料は、酸化物、窒化物あるいは炭化物であることとしても良い。
【0054】
このような構成とすれば、結晶粒界被覆部を構成する成膜材料を安定化させるために、酸化、窒化、あるいは炭化といった処理を、別途行なう必要がない。
【0055】
このような本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記結晶粒界被覆部は、酸化クロム、酸化ケイ素、酸化アルミニウムから選択される酸化物を成膜材料として形成されることとしても良い。
【0056】
このような構成とすれば、水素透過膜の使用中に、水素透過膜内への酸素の侵入や、水素透過膜内部での酸化反応の進行を抑制することができる。
【0057】
本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、
前記第3工程は、
(c−1)成膜すべき面積として、前記金属被覆層の表面に存在する結晶粒界近傍領域の面積を測定または推定する成膜面積取得工程と、
(c−2)測定または推定した前記面積と、前記結晶粒界被覆部を形成するために用いる成膜材料の原子半径あるいは格子定数とに基づいて、成膜に用いるべき成膜材料の量を設定する成膜材料量設定工程と、
(c−3)前記成膜材料量設定工程で設定した量の前記成膜材料を用いて、前記金属被覆層上に成膜を行なう成膜工程と
を備えることとしても良い。
【0058】
このような構成とすれば、用いる成膜材料の量を設定して成膜を行なうことにより、金属被覆層表面に存在する結晶粒界を含む限られた領域のみを被覆する結晶粒界被覆部を容易に形成することができる。
【0059】
また、本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、さらに、
(e)前記第3工程に先立って、前記金属被覆層の表面における結晶粒を大型化させる第5工程を備えることとしても良い。
【0060】
このような構成とすれば、結晶粒界被覆部を形成するために用いる成膜材料の量を削減することができる。また、結晶粒界被覆部を形成するための成膜時間を短縮することができる。
【0061】
あるいは、本発明の第1の水素透過膜の製造方法において、さらに、
(f)前記第3工程に先立って、前記金属被覆層の表面における結晶粒界を凹面化させる第6工程を備えることとしても良い。
【0062】
このような構成とすれば、金属被覆層の表面に存在する結晶構造上の間隙がさらに活性化するため、結晶粒界被覆部の成膜が、より容易になる。また、金属被覆層の表面に存在する結晶粒界近傍領域の面積を測定する場合には、測定の精度を向上させることができる。
【0063】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、本発明の水素透過膜の製造方法により製造した水素透過膜や、水素透過膜を用いた水素抽出装置あるいは燃料電池などの形態で、実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.水素透過膜の構成:
B.第1実施例の水素透過膜の製造方法:
C.第1実施例の変形例:
D.第2実施例:
E.第3実施例:
F.第3実施例の変形例:
G.第4実施例:
H.第4実施例の変形例:
I.効果の確認:
J.水素透過膜を用いた装置:
K.変形例:
【0065】
A.水素透過膜の構成:
図1は、第1実施例である水素透過膜10の構成の概略を表わす断面模式図である。水素透過膜10は、金属ベース層12と、金属ベース層の両面上に形成される中間層14と、各々の中間層14上に形成される金属被覆層16と、から成る5層構造を有している。
【0066】
金属ベース層12は、バナジウム(V)、あるいはVを主要な構成成分として50%を越える割合で含むバナジウム合金など、Vを含む金属によって形成されており、優れた水素透過性を示す金属層である。
【0067】
金属被覆層16は、Pdを主要な構成成分として50%を越える割合で含むパラジウム(Pd)合金など、Pdを含む金属によって形成されている。より具体的には、本実施例では、Pdとクロム(Cr)との合金によって形成されている。この金属被覆層16は、水素透過膜の表面における水素分子の解離反応あるいは水素分子への結合反応を促進する活性を有する触媒層として機能する層である。なお、本実施例の金属被覆層16は、この金属被覆層16が備える結晶粒界において所定の酸化物を備えることを特徴としているが、金属被覆層16の詳しい構成については後に説明する。
【0068】
中間層14は、金属ベース層12および金属被覆層16とは異なる組成の水素透過性金属から成る層であって、金属ベース層12と金属被覆層16との間の金属拡散を防止するために設けられる層である。本実施例では、タンタル(Ta)によって中間層14を形成している。
【0069】
B.第1実施例の水素透過膜の製造方法:
図2は、水素透過膜10の製造方法を表わす工程図である。水素透過膜10を製造する際には、まず、金属ベース層12となるVを含有する金属層を用意する(ステップS100)。ステップS100で用意する金属層は、例えば、Vを主要な構成成分とする金属塊に対して圧延と焼鈍の工程を繰り返すことにより作製することができ、このような工程により、極めて緻密な結晶質から成る金属層を得ることができる。なお、このステップS100では、用意した金属層の表面をアルカリ溶液でエッチングして、表面に形成された酸化膜等の不純物の除去を行なっている。
【0070】
ステップS100の次には、用意した金属ベース層12の両面のそれぞれに、Taから成る中間層14を形成する(ステップS110)。中間層14は、例えば、PVD法やCVD法あるいは無電解メッキや電解メッキ等のメッキ処理によって形成することができる。
【0071】
中間層14を形成すると、次に、それぞれの中間層14上に、Crを含有するPd合金から成るPd合金層を設けて(ステップS120)、5層構造を有する積層体を形成する。Pd合金層は、例えば、PVD法やCVD法あるいは無電解メッキや電解メッキ等のメッキ処理によって形成することができ、結晶構造を有する金属層として形成される。
【0072】
Pd合金層を形成した後に、このPd合金層を設けた上記積層体に対して酸化処理を施すと(ステップS130)、Pd合金層が金属被覆層16となって、水素透過膜10が完成される。ここで、酸化処理とは、例えば、酸化雰囲気下での熱処理とすることができる。すなわち、上記積層体を、高温酸化雰囲気下に晒せばよく、これにより、Pd合金層に含まれるCrが酸化される。酸化処理を行なう際の温度は、上記積層体を構成する金属の融点未満の温度であればよく、温度を高めることで酸化反応を活発化できるが、酸化処理の際に積層体内で進行する金属拡散が許容できる程度となるように設定することが望ましい。そのため、酸化処理の条件は、例えば、空気中、400〜500℃にて2〜10時間程度行なえば良い。なお、ステップS130における酸化処理としては、上記酸化雰囲気下での熱処理の他に、陽極酸化、オゾン熱処理、酸素プラズマ処理によることとしても良い。
【0073】
Pd合金層は、既述したように結晶構造を有しているため、Pd合金層を構成する結晶粒間には結晶粒界が形成されている。この結晶粒界は、結晶構造を構成する結晶格子が不連続となる部位であり、結晶構造内に存在する微細な間隙であるといえる。ステップS130において酸化処理を行なうと、Pd合金層では、Pd合金層に含まれるCrのうち、酸素の供給を受け易いCrから次第に酸化される。具体的には、Pd合金層における表面近傍に存在するCrに加えて、Pd合金層内に形成される結晶粒界表面の近傍に存在するCrが酸化されて酸化クロム(Cr23)を形成する。このようにCrが酸化する際には、Pd合金層を構成する結晶内に酸素原子が入りこむため、上記酸化が進行する領域において結晶構造が膨張する。このようにCrが酸化クロムとなって、全体として膨張することにより、Pd合金層内に形成される結晶粒界を含む結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞される。
【0074】
なお、水素透過膜10を製造する際には、用途に基づいて要求される水素透過性能や強度に応じて、各層の厚みを設定すればよい。例えば、金属ベース層は、10〜100μmとすることができる。金属被覆層16は、0.1〜1.0μmとすることができる。金属被覆層16は、既述したように触媒層として機能する層であるため、金属ベース層12に比べて薄くすることができる。また、中間層14は、金属ベース層12と金属被覆層16との間の金属拡散を防止するためにはより厚く形成することが望ましいが、両者の間に介在していれば金属拡散を防止する所定の効果が得られるため、金属被覆層16よりもさらに薄く形成しても良い。そのため、例えば、0.01〜10μm程度の厚みとすることができる。
【0075】
以上のように構成された本実施例の水素透過膜10によれば、水素透過膜10の表面に設けられた金属被覆層16において、金属被覆層16に含まれるCrを酸化させることによって、結晶粒界を含む結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞される。したがって、水素透過膜10の表面から水素透過膜10の内部への、結晶構造上の間隙を介した酸素の入り込みを抑制できる。これによって、金属被覆層16の下層を構成する金属(以下、下層金属と呼ぶ)の酸化を抑制することができる。具体的には、金属ベース層12を構成するVや中間層14を構成するTaが酸化されることに起因する水素透過性能の低下を抑制することができる。
【0076】
また、本実施例によれば、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることにより、下層金属、特に金属ベース層12を構成するVが、金属被覆層16の結晶構造上の間隙を介して金属被覆層16の表面に到達することを抑制できる。水素透過膜では、下層金属は、主として、金属被覆層16における結晶粒界を含む結晶構造上の間隙を介して、金属被覆層16の表面に到達する。そして、下層金属が金属被覆層16の表面に到達して金属被覆層16の表面が覆われると、この覆われた領域において、水素分子の解離反応あるいは水素分子への結合反応を促進する活性が阻害されて、水素透過性能が低下する。本実施例では、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞してVの移動を抑制することにより、上記性能低下を抑えることができる。
【0077】
なお、水素透過膜10内に酸素が侵入して下層金属が酸化されることによる不都合とは、単に、V等が酸化されて水素透過性能が低下するだけでなく、Vが酸化されて、Vよりも融点の低い酸化バナジウム(V25)が形成されることよっても引き起こされる。すなわち、融点が低い物質ほど移動しやすいという性質を有しているため、金属ベース層12を構成するVが酸化されると、生じた酸化バナジウムは、Vよりもさらに容易に、結晶構造上の間隙を主たる経路として水素透過膜表面へと移動し、水素透過膜表面を覆うようになる。本実施例では、酸化処理によって金属被覆層16の結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞を行なっているため、金属ベース層12を構成するVの酸化の進行を抑制し、低融点な化合物である酸化バナジウムの生成を抑制することができる。また、たとえ酸化バナジウムが生じたとしても、移動の経路となる結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞しているため、酸化バナジウムの水素透過膜表面への移動を抑えることができる。
【0078】
また、本実施例では、狭小化・閉塞された結晶構造上の間隙において酸化クロムが形成されているが、このような結晶構造上の間隙内を、下層側から移動してきた酸化バナジウムが通過する際には、酸化クロムと酸化バナジウムとが反応する。そして、このような反応によって、酸化クロムと酸化バナジウムの複合酸化物(3MgO/V25)が形成される。この複合酸化物は、Vや酸化バナジウムよりも高融点であり、水素透過膜内の移動が、より起こりにくい化合物である。したがって、下側層からVや酸化バナジウムが移動してきたとしても、金属被覆層16の結晶構造上の間隙内で上記複合酸化物が形成されることにより、Vやバナジウム化合物の水素透過膜表面へのさらなる移動を抑制することができる。
【0079】
C.第1実施例の変形例:
(C−1)第1の変形例:
第1実施例では、金属被覆層16となるPd合金層全体がCrを備えているが、Pdを備える金属被覆層16の一部のみが層状にCrを備えることとしても良い。例えば、金属被覆層16において表面(水素透過膜10の表面)を含む限られた領域だけがCrを備えることとしても良い。このような金属被覆層を備える水素透過膜に対して第1実施例と同様に酸化処理を行なえば、上記表面を含む領域では、Crが酸化されることによって、結晶粒界を含む結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞される。
【0080】
このような構成とすれば、金属被覆層の表面近傍では結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞されるため、第1実施例と同様に、水素透過膜内部への酸素の侵入を抑制すると共に、下層金属の酸化を抑えることができる。また、下層金属、特に金属ベース層12を構成する金属や、その酸化物の水素透過膜表面への到達を抑制することができる。さらに、金属被覆層の限られた領域だけにCrを含有させることにより、金属被覆層16にCrを含有させることに起因する水素透過性能の低下を抑制することができる。
【0081】
(C−2)第2の変形例:
第1実施例の水素透過膜10において、Pd合金層中のCrを酸化させて、結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞された金属被覆層16とした後に、さらに、金属被覆層16上に、純度の高いPdから成るPd層を形成しても良い。ステップS130の酸化処理を行なうと、金属被覆層16の表面においても酸化クロムが形成されるため、表面に形成された酸化クロムに起因して水素透過膜表面の触媒活性が低下する可能性があるが、さらにPd層を設けることにより、水素透過膜表面の触媒活性を確保して性能低下を防止することができる。このPd層は、水素透過膜表面において触媒活性を確保できればよいため、金属被覆層16よりもさらに薄く形成することができる。
【0082】
あるいは、ステップS120においてPd合金層を形成した後に、ステップS130の酸化処理に先だって、Pd合金層上にPd層を形成しても良い。Pd層を形成した後に酸化処理を施すと、Pd層を介して(Pd層が備える結晶粒界を含む結晶構造上の間隙を介して)Pd合金層に侵入した酸素によって、Pd合金層が含有するCrが酸化される。この場合にも、同様に、金属被覆層における結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞されることによる効果と、Pd層によって水素透過膜表面の触媒活性が確保されることによる効果とを得ることができる。
【0083】
(C−3)第3の変形例:
第1実施例において、ステップS130の酸化処理を省略することも可能である。すなわち、ステップS120でPd合金層を設けて5層構造を有する積層体を形成した後に、酸化処理を施すことなく積層体を水素透過膜としての使用に供しても良い。この場合には、水素透過膜として使用する過程においてPd合金層が備えるCrが酸化され、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞が進行することによって、同様の効果が得られる。
【0084】
(C−4)第4の変形例:
上記第1実施例では、酸化物形成のために金属被覆層16に添加してPd合金を形成させる第2成分としてCrを用いたが、他種の元素を第2成分として用いることもできる。金属被覆層16に添加する第2成分は、例えば、Cr,アルミニウム(Al),ケイ素(Si),チタン(Ti),鉄(Fe),銅(Cu),モリブデン(Mo),ジルコニウム(Zr),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)から選択される元素を用いることができる。特に、Cr,Al,Siが好ましい。これらの元素は、酸化される速度は比較的遅いが、一旦酸化されるとさらなる酸化は進行しにくいという性質を有しているためである。すなわち、これらの元素を酸化させて結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞を確保するためには、水素透過膜の使用温度よりも高い温度で充分に酸化処理を施すことが望ましいが、一旦酸化処理を施しておけば、さらなる酸化は進行しにくくなる。したがって、使用中における被覆層内へのさらなる酸素の侵入が抑えられ、金属ベース層12の酸化を抑える効果をより高めることができる。また、第2の成分として、Cr,Mg,Caから選択される元素を用いるならば、水素透過膜内で高融点である複合酸化物を形成させることができるため、既述したように、VやV酸化物の膜表面への移動を抑制する効果を高めることができる。なお、金属被覆層16に添加する第2成分の量は、酸化物が形成されて結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞されることによる効果の程度と、Pdに第2成分が添加されて合金化されることによる水素透過性能の低下の程度とを考慮して、適宜設定すればよい。
【0085】
(C−5)第5の変形例:
金属被覆層16における結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させるために、Crなどの第2成分を加えた金属被覆層16に対して酸化処理を施す構成に代えて、所定の第2成分を加えた金属被覆層16に対して、窒化処理あるいは炭化処理を施すこととしても良い。窒化物あるいは炭化物を形成する際にも、酸化物が形成される場合と同様に結晶構造が膨張して、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。
【0086】
窒化物形成のためにPd合金層中に添加する第2成分は、例えば、Cr,Al,Si,Ti,Feから選択される元素とすることができる。この場合、ステップS130の酸化処理に代わる窒化処理としては、例えば、窒素雰囲気下での熱処理や、窒素プラズマ処理を行なえば良い。あるいは、特別に窒化処理を施すことなく積層体を水素透過膜としての使用に供し、水素透過膜として使用する過程において、上記元素を窒化させても良い。
【0087】
また、炭化物形成のためにPd合金層に添加する第2成分は、例えば、SiおよびTiから選択される元素とすることができる。この場合、ステップS130の酸化処理に代わる炭化処理としては、例えば、炭素を含むガス(例えば炭化水素ガス)雰囲気での熱処理や、炭素プラズマ処理を行なえば良い。あるいは、特別に炭化処理を施すことなく積層体を水素透過膜としての使用に供し、水素透過膜として使用する過程において、上記元素を炭化させても良い。
【0088】
このように、酸化処理に代えて窒化処理あるいは炭化処理を行なう場合にも、金属被覆層の表面のみが、上記窒化物あるいは炭化物を形成するための第2成分を備えることとしたり、金属被覆層表面上にさらにPd層を設けるなど、同様の変形を行なうことができる。
【0089】
D.第2実施例:
第2実施例の水素透過膜は、図1に示す第1実施例の水素透過膜10と同様に、VあるいはV合金から成る金属ベース層12と、Taから成る中間層14と、Crを含有するPd合金から成る金属被覆層16と、を備える5層構造を有している。第2実施例の水素透過膜は、金属被覆層16に係る製造方法が、第1実施例とは異なっている。
【0090】
図3は、第2実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。第2実施例の水素透過膜を製造する際には、第1実施例のステップS100およびS110と同様に、金属ベース層12を用意すると共に(ステップS200)、その上に中間層14を形成する(ステップS210)。その後、中間層14上に、ステップS120と同様に、Crを含有するPd合金層を成膜し(ステップS220)、5層構造を有する積層体を形成する。ただし、第2実施例のステップS220で形成するPd合金層は、特に、水素透過膜の使用温度における固溶限を超える割合のCrを含有することを特徴としている。固溶限とは、Pdとは異なる金属であるCrがPd合金から析出する最小平衡濃度である。すなわち、固溶限よりもCr濃度が低いときには、CrはPd合金中に固溶状体で存在することになり、固溶限よりもCr濃度が高いと、Crは所定の化合物の状態で析出する。ただし、PVDやCVDによってPd合金層を成膜するときには、Cr濃度が固溶限を超える場合であっても、平衡状態に関わらず、PdとCrとが均一に存在するPd合金層を形成することができる。したがって、ステップS220で形成するPd合金層は、PdとCrとが均一に混合された状態、すなわち過飽和固溶体となっている。
【0091】
次に、上記積層体を熱処理することによって、Pd合金層内でCr化合物を析出させる(ステップS225)。過飽和固溶体であるPd合金層を加熱処理すると、過剰に固溶していたCrが、Pdを含有する所定のCr化合物として析出する。このような析出は、主として、結晶粒界を含む結晶構造上の間隙において進行するため、上記熱処理によって、Pd合金層では、結晶粒界などの結晶構造上の間隙に、Cr化合物が析出する。すなわち、析出したCr化合物によって、Pd合金層における結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞される。析出するCr化合物の組成は、Pd合金層におけるCr濃度および温度に応じた平衡状態によって定まるものであり、熱処理前のPd合金よりもCr濃度が高いCr化合物となる。ステップS225の熱処理では、水素透過膜の使用温度以上の温度に積層体を昇温させて、水素透過膜の使用温度と同等の温度に維持することで、水素透過膜の使用温度における平衡状態に対応する析出状態とすることができる。
【0092】
次に、上記Pd合金層にPd化合物を析出させた積層体に対して、ステップS130と同様の酸化処理を施すと(ステップS230)、Pd合金層が金属被覆層16となって、水素透過膜が完成される。この酸化処理によって、Pd合金層中のCrが酸化される。既述したように、酸化は主として結晶粒界などの結晶構造上の間隙で進行するため、結晶構造上の間隙に析出したCr化合物中のCrが主として酸化される。このように酸化されることで、析出したCr化合物が膨張し、結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞される度合いが高まる。
【0093】
以上のように構成された第2実施例の水素透過膜によれば、金属被覆層16において、析出したCr化合物によって結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞されているため、水素透過膜内部への結晶構造上の間隙を介した酸素の侵入を抑制すると共に、下層金属やその酸化物の金属被覆層表面への到達を抑制することができる。したがって、酸素の侵入や下層金属の表面への到達に起因する水素透過膜の性能低下を抑えることができる。特に、第2実施例では、Cr化合物の析出のための熱処理に加えて、さらに酸化処理を行なって、析出させたCr化合物を膨張させているため、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることによる効果をさらに高めることができる。
【0094】
なお、第2実施例では、ステップS225の熱処理の工程の後にステップS230の酸化処理を行なっているが、これらを同時に行なっても良い。すなわち、酸化雰囲気下で熱処理を行なうことによって、結晶構造上の間隙へのCr化合物の析出と、析出したCr化合物中のCrの酸化とを、同時に行なわせても良い。
【0095】
また、第1実施例の第2の変形例と同様に、熱処理及び酸化処理の後に、あるいは熱処理及び酸化処理の工程に先立って、金属被覆層16(Pd合金層)の上に、さらにPd層を形成し、水素透過膜の表面における触媒活性を確保しても良い。
【0096】
また、第1実施例の第3の変形例と同様に酸化処理を省略して、水素透過膜の使用中に、析出したCr化合物中のCrを酸化させて、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞を進行させても良い。あるいは、酸化処理の省略に加えてさらに、ステップS225における熱処理を省略することも可能である。この場合には、水素透過膜の使用中に、水素透過膜の昇温に伴って結晶構造上の間隙にCr化合物が次第に析出すると共に、析出したCr化合物中のCrが酸化するため、第2実施例と同様の効果が得られる。
【0097】
さらに、結晶構造上の間隙に化合物を析出させて金属被覆層を形成するために固溶限を超える濃度でPdに添加する第2成分としては、第1実施例の第4の変形例と同様の種々の元素を選択することができる。
【0098】
あるいは、金属被覆層を形成するために固溶限を超える濃度でPd合金層に添加する第2成分として、第1実施例の第5の変形例と同様の元素を選択してもよい。この場合には、ステップS230の酸化処理に代えて窒化処理あるいは炭化処理を行なえばよい。窒化処理あるいは炭化処理を行なう場合にも、酸化処理を行なう場合と同様に、所定の化合物が析出した結晶構造上の間隙を、さらに狭小化させる同様の効果が得られる。あるいは、上記窒化処理や炭化処理を省略して、水素透過膜の使用中に、析出した化合物中の第2成分の窒化や炭化を進行させることとしても良い。
【0099】
なお、上記Pd合金層に添加する第2成分は、酸化、窒化、炭化といった反応を起こさない元素であっても良い。熱処理によって化合物として結晶構造上の間隙に析出させたときに、水素透過膜の使用環境で安定に存在することができればよい。すなわち、結晶構造上の間隙に析出された化合物がそのままで、あるいは酸化等の処理を施したときに、水素透過膜内に拡散することなく、水素透過性能を妨げる反応を起こし難いならば、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることによる同様の効果を得ることができる。
【0100】
E.第3実施例:
第3実施例の水素透過膜は、図1に示す第1実施例の水素透過膜と同様に、VあるいはV合金から成る金属ベース層12と、Taから成る中間層14と、Pdに加えてさらにCrを含有する金属被覆層16と、を備える5層構造を有している。第3実施例の水素透過膜は、金属被覆層16に係る製造方法が、第1実施例とは異なっている。
【0101】
図4は、第3実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。第3実施例の水素透過膜を製造する際には、第1実施例のステップS100およびS110と同様に、金属ベース層12を用意すると共に(ステップS300)、その上に中間層14を形成する(ステップS310)。その後、中間層14上に、Pd層を成膜し(ステップS320)、5層構造を有する積層体を形成する。このPd層は、Pd単体から成る層、あるいは、Pdを主成分とするPd合金からなる層である。
【0102】
次に、上記Pd層上に、Crからなる目詰め被覆層を成膜する(ステップS323)。この目詰め被覆層は、Pd層を覆うことができる厚みを有していれば良く、例えばPVDあるいはCVDによって形成することができる。PVDやCVDのように、成膜材料を原子の状態で成膜基板上に供給する方法によって目詰め被覆層を成膜することにより、Pd層表面における結晶粒界を含む結晶構造上の間隙内へと、目詰め被覆層を構成する金属(以下、目詰め用金属と呼ぶ)を入りこませることができる。すなわち、結晶構造上の間隙を、目詰め用金属、すなわちCrによって狭小化・閉塞させることができる。
【0103】
目詰め被覆層を形成すると、次に、上記目詰め被覆層を形成した積層体を熱処理する(ステップS326)。熱処理とは、目詰め用金属を、積層体表面から上記結晶粒界などの間隙内へと移動させるための処理である。このように、目詰め用金属を移動させる目的のためには、積層体を構成する金属の融点以下でなるべく高い温度で熱処理する必要があるが、熱処理の際に積層体内で進行する金属拡散が許容範囲に抑えられるように、熱処理の温度を設定することが望ましい。そのため、熱処理は、例えば、400〜500℃で1〜2時間程度行なえば良い。
【0104】
その後、上記熱処理を施した積層体を、さらに酸化処理する(ステップS330)。この酸化処理は、ステップS130と同様の処理である。酸化処理を施すことで、目詰め用金属であるCrが酸化されて酸化クロムとなる。このように酸化されることにより、結晶構造上の間隙内に入りこんでいたCrの結晶構造が膨張する。
【0105】
酸化処理を行なうと、さらに、積層体の表層の除去、すなわち目詰め被覆層の除去を行なって(ステップS240)、水素透過膜を完成する。表層の除去は、例えば、アルゴンイオンエッチング、物理研磨、化学エッチングにより行なうことができる。このような表層除去を行なって、目詰め被覆層を除去することで、積層体は、表面にPd層から成る金属被覆層16を備える水素透過膜となる。第3実施例の水素透過膜が備える金属被覆層16は、その表面を含む表面近傍の領域において、結晶構造上の間隙が、酸化クロムによって狭小化・閉塞された状態となっている。
【0106】
以上のように構成された第3実施例の水素透過膜によれば、金属被覆層16において、酸化クロムによって結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞されているため、水素透過膜内部への結晶構造上の間隙を介した酸素の侵入を抑制すると共に、下層金属やその酸化物の金属被覆層表面への到達を抑制することができる。したがって、酸素の侵入や下層金属の表面への到達に起因する水素透過膜の性能低下を抑えることができる。特に、第3実施例では、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させるために目詰め被覆層を設けた後で熱処理を行なうため、目詰め用金属が結晶構造上の間隙へと入りこむ作用を高めることができる。これによって、より多くの目詰め用金属を結晶構造上の間隙内に入りこませ、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させる効果を高めることができる。また、結晶構造上の間隙のより内部にまで目詰め金属を入りこませることにより、その後に目詰め被覆層の除去を行なっても、目詰めされた部分が削り取られて効果が低減されることがない。なお、ステップS323で目詰め被覆層を形成することによって、結晶構造上の間隙内に充分に目詰め金属を入りこませることができる場合には、熱処理を省略しても良い。また、本実施例では、結晶構造上の間隙内へとCrを入りこませた後に、このCrを酸化させて膨張させているため、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させる効果をさらに高めることができる。また、ステップS340において目詰め被覆層を除去することで、水素透過膜の表面における水素分子の解離反応あるいは水素分子への結合反応を促進する触媒活性を確保することができる。
【0107】
F.第3実施例の変形例:
(F−1)第1の変形例:
第3実施例において、熱処理、酸化処理あるいは表層除去の工程の順序に関しては、種々の変形が可能である。
【0108】
例えば、熱処理と酸化処理とを同時に行なってもよい。すなわち、酸化雰囲気下において熱処理を行なって、結晶構造上の間隙内へのCrの移動を促進しつつ、Crを酸化させても良い。また、ステップS330の酸化処理を、ステップS340の表層除去の後に行なっても良い。あるいは、酸化処理と表層除去とを同時に行なっても良い。例えば、酸素プラズマ処理(あるいはオゾンプラズマ処理)によって、目詰め被覆層の除去と、結晶構造上の間隙内に入りこんだCrの酸化とを同時に行なうことができる。
【0109】
また、ステップS330の酸化処理を省略することも可能である。すなわち、ステップS326の熱処理を行なった後に、ステップS340の表層除去を行ない、酸化処理を施すことなく積層体を水素透過膜としての使用に供しても良い。この場合には、製造した水素透過膜を使用する過程において、金属被覆層16内に入りこんだ目詰め用金属が次第に酸化され、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞がさらに進行する。
【0110】
なお、表層除去を物理研磨によって行なう場合には、研磨に用いる研磨粒子として、表層除去の後に水素透過膜上に残留したとしても、水素透過膜の使用条件下において安定に存在することができる物質から成る粒子を用いることが望ましい。すなわち、水素透過膜上に残留したとしても、水素透過膜の性能に影響を与えない物質からなる粒子を用いることが望ましい。例えば、酸化物から成る粒子のように、金属拡散を起こして水素透過性能低下を引き起こすおそれがない粒子を用いればよい。具体的には、結晶構造上の間隙を埋める酸化物から成る粒子、本実施例では酸化クロムから成る粒子を、研磨粒子として用いればよい。
【0111】
(F−2)第2の変形例:
また、目詰め被覆層を構成する成膜材料としては、Cr以外に、第1実施例の第4の変形例と同様の種々の元素を選択することができる。酸化物となったときに、水素透過膜の使用条件下において安定して存在することができればよい。この場合にも、ステップS330の酸化処理を行なうことで、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞をさらに進行させることができる。なお、水素透過膜の使用条件下で安定であるとは、水素透過性能を阻害しない反応の進行は許容される。例えば、第3実施例で目詰め金属としてCrを用いて、結晶構造上の間隙を酸化クロムで狭小化・閉塞する場合には、酸化クロムは、金属ベース層12から移動してきたVや酸化バナジウムと反応して、酸化クロムと酸化バナジウムの複合酸化物(3MgO/V25)を生じる。この複合酸化物は、既述したように、Vよりも融点が高く、より拡散しにくい物質であって、Vや酸化バナジウムの膜表面への移動を妨げるため、このような複合酸化物が形成されることは望ましい。
【0112】
(F−3)第3の変形例:
あるいは、目詰め被覆層を構成する成膜材料として、第1実施例の第5の変形例と同様の元素を選択して、ステップS330の酸化処理に代えて窒化処理あるいは炭化処理を行なうこととしても良い。このような構成としても、酸化処理を行なう場合と同様に、結晶構造上の間隙内に上記成膜材料を目詰め材料として入りこませた後に、窒化処理あるいは炭化処理によって上記目詰め材料を膨張させて、結晶構造上の間隙の狭小化・閉塞をさらに進行させることができる。あるいは、窒化処理や炭化処理を省略して、水素透過膜の使用中に、目詰め材料の窒化や炭化を進行させても良い。
【0113】
(F−4)第4の変形例:
第3実施例では、Pd層上に目詰め被覆層を形成した後に、酸化処理を施すことで、目詰め用金属から、より安定な酸化物を生成している。これに対して、水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて、目詰め被覆層を形成しても良い。例えば、酸化クロム等の酸化物や、第1実施例の第5の変形例で例示した元素の窒化物あるいは炭化物を、目詰め被覆層の成膜材料とすることができる。この場合には、酸化処理、窒化処理あるいは炭化処理を、別途行なう必要がない。また、この場合には、ステップS340の表層除去として物理研磨を行なう場合には、研磨粒子として、成膜材料と同じ材料から成る粒子を用いればよい。
【0114】
G.第4実施例:
図5は、第4実施例の水素透過膜の概略構成を表わす断面模式図である。第4実施例の水素透過膜は、第1実施例の水素透過膜と同様に、VあるいはV合金から成る金属ベース層12と、Taから成る中間層14と、を備えている。また、金属被覆層16に代えて、Pdを含有する層である金属被覆層416を備えると共に、さらに、金属被覆層416上に、酸化クロムから成る粒界被覆部418を備えている。この粒界被覆部418は、金属被覆層416の表面に存在する結晶構造上の間隙を覆うように形成されている。
【0115】
図6は、第4実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。第4実施例の水素透過膜を製造する際には、第1実施例のステップS100およびS110と同様に、金属ベース層12を用意すると共に(ステップS400)、その上に中間層14を形成する(ステップS410)。その後、中間層14上に金属被覆層416を成膜し(ステップS420)、5層構造を有する積層体を形成する。この金属被覆層416は、Pd単体から成る層、あるいは、Pdを主成分とするPd合金からなる層である。
【0116】
次に、上記金属被覆層416上に、粒界被覆部418を形成する(ステップS425)。この粒界被覆部418は、Crを成膜材料として形成され、既述したように、金属被覆層416の表面の結晶構造上の間隙(主として結晶粒界)を覆うように形成される。この粒界被覆部418の詳しい製造方法は、後に説明する。
【0117】
ステップS425において粒界被覆部418を形成すると、粒界被覆部418を形成した積層体に対して、ステップS130と同様の酸化処理を施し(ステップS430)、水素透過膜を完成する。酸化処理を施すことによって、粒界被覆部418を構成するCrが酸化される。これにより、粒界被覆部418は、水素透過膜の使用条件下においても安定に存在する酸化クロムから成る粒界被覆部418となる。
【0118】
図7は、ステップS425において粒界被覆部418を形成する方法を表わす工程図である。粒界被覆部418を形成するには、まず、粒界被覆部418を設けるべき面積として、金属被覆層416表面に存在する結晶粒界近傍領域の面積を求める(ステップS500)。すなわち、結晶構造上の間隙は主として結晶粒界であるといえるので、ここでは、金属被覆層416表面に存在する結晶構造上の間隙の周辺領域の面積として、結晶粒界近傍領域の面積を求める。金属被覆層416の表面に存在する結晶粒界は、線状に観察されるものであるが、ステップS500では、線状の結晶粒界に所定の幅をもたせて結晶粒界近傍領域として、粒界被覆部418を設けるべき領域としている。結晶粒界近傍領域の面積は、実測によって求めても良いし、推定によって求めても良い。結晶粒界近傍領域の面積を実測によって求めるには、例えば、金属被覆層416の表面を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、得られた像を用いて結晶粒界近傍領域の面積を求めればよい。また、結晶粒界近傍領域の面積を推定によって求めるには、予め、成膜条件と結晶粒界近傍領域との関係を調べておけばよい。金属結晶の大きさは、成膜時に成膜材料に供給するエネルギによって定まる。この供給エネルギの量は、具体的には、成膜時の基板温度や、成膜材料が基板に衝突する際の投入エネルギなどの成膜条件によって定まる。そこで、所定の成膜条件のもとで成膜した金属被覆層について予め結晶粒界近傍領域面積を測定し、成膜条件と結晶粒界近傍領域面積との関係を調べておけば、その後は、実測しなくても、採用した成膜条件に基づいて結晶粒界近傍領域の面積を推定することができる。
【0119】
ステップS500で結晶粒界近傍領域の面積を求めると、次に、粒界被覆部418を形成するために要する成膜材料量を設定する(ステップS510)。ステップS510で設定する成膜材料量は、上記結晶粒界近傍領域の面積と、成膜材料であるCrの原子半径とに基づいて、上記結晶粒界近傍領域の面積を、所定の厚みで覆うために必要な成膜材料の量(重量)として算出される。ここで、形成すべき粒界被覆部418の厚みは、1nmを超える厚みであって、20nm未満とすることが望ましく、例えば、5nm程度とすればよい。1nm以下にすると、粒界被覆部418によって結晶粒界を覆う効果が不十分となる可能性があり、20nm以上にすると、粒界被覆部418によって覆われる面積が広くなり過ぎることによって水素透過膜の性能が低下する可能性があるためである。
【0120】
その後、ステップ510で設定した量の成膜材料を用いて、金属被覆層416上にCr層を形成することで(ステップS520)、粒界被覆部418が形成される。ここで、ステップS520における成膜は、例えばPVDやCVDによって行なうことができるが、このように活性化された(エネルギ状態の高い)成膜材料を基板上に供給して成膜する場合には、供給された成膜材料は、基板上の、より活性化された部位に優先的に積もるという性質を有している。成膜の基板となる金属被覆層416表面では、結晶粒界などの結晶構造上の間隙が、より活性化された部位であるといえる。そのため、ステップS510で設定した量のCrを、金属被覆層416の表面に供給すると、Crは、結晶構造上の間隙の近傍に優先的に付き、結晶粒界近傍領域を覆う粒界被覆部418が形成される。このように、本実施例では、成膜材料量を適切な値に制御することによって、結晶粒界近傍領域に限定的に粒界被覆部418を形成させている。
【0121】
なお、ステップS510で設定された量の成膜材料を成膜に用いる方法としては、例えば、成膜時に成膜量を実測する方法が挙げられる。成膜量を実測するには、周知の水晶振動子を用いることによって、成膜した膜厚をモニタし、単位面積当たりの成膜された重量を測定すればよい。あるいは、所定の成膜条件で成膜したときに、成膜に用いた成膜材料の量が、上記算出された成膜材料量となるための成膜時間を予め求めておき、上記成膜条件の下で、上記算出された時間だけ成膜を行なうこととしても良い。
【0122】
以上のように構成された第4実施例の水素透過膜によれば、金属被覆層416上で、粒界被覆部418によって結晶構造上の間隙が狭小化・閉塞されているため、水素透過膜内部への結晶構造上の間隙を介した酸素の侵入を抑制すると共に、Vなどの下層金属や、その酸化物の金属被覆層表面への到達を抑制することができる。したがって、酸素の侵入や下層金属の表面への到達に起因する水素透過膜の性能低下を抑えることができる。また、第4実施例では、金属被覆層416の表面において、結晶構造上の間隙を含む限定された領域を覆う粒界被覆部418を形成しているため、他の領域において水素透過性能のための触媒活性を確保することができる。したがって、粒界被覆部418を設けることに起因する水素透過性能の低下を抑制することができる。さらに、本実施例では、表面の活性が高い部位に優先的に成膜される性質を利用して粒界被覆部418を形成しているため、成膜材料量を調節するだけで、効率良く簡便に、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることができる。
【0123】
H.第4実施例の変形例:
(H−1)第1の変形例:
ステップS420で金属被覆層416を形成した後に、金属被覆層416における金属結晶粒を大型化させる処理を施しても良い。金属結晶粒の大型化は、金属被覆層416に対するエネルギ供給、例えば金属被覆層416の加熱を行なって、金属結晶粒を成長させることにより実行可能である。ここで、結晶粒の成長のための加熱は、金属被覆層416に対して局所的に行なうことが望ましい。局所的に加熱すれば、加熱による金属拡散の進行を抑制することができる。金属被覆層416を局所的に加熱するには、例えば、金属被覆層416に対してパルスレーザ照射を行なえば良い。
【0124】
このように、粒界被覆部418の形成に先立って金属被覆層416を構成する金属結晶粒を大型化させることで、粒界被覆部418を形成するために用いる成膜材料の量を削減することができる。また、粒界被覆部418を形成するための成膜時間を短縮することができる。
【0125】
(H−2)第2の変形例:
ステップS420で金属被覆層416を形成した後に、金属被覆層416表面における結晶粒界を凹面化させる処理、すなわち、結晶粒界をより深くする処理を施しても良い。凹面化処理によって金属被覆層416の表面における結晶粒界を凹面化する様子を、図8に模式的に示す。結晶粒界の凹面化は、例えば、金属被覆層416表面に対して酸化処理と還元処理とを繰り返し行なうことにより実行できる。酸化処理と還元処理とを繰り返すことによって金属結晶が膨張と収縮を繰り返すことで、金属被覆層416の表面では金属結晶に隙間が生じて結晶粒界が凹面化する。あるいは、金属被覆層416表面に対してプラズマエッチングや化学エッチングを行なうことにより、結晶粒界を凹面化させても良い。
【0126】
このような凹面化処理を行なえば、ステップS500において結晶粒界近傍領域の面積を実測する場合に結晶粒界が観察し易くなるため、測定の精度を向上させることができる。また、上記凹面化処理によって金属被覆層416表面の結晶粒界がさらに活性化するため、ステップS425における粒界被覆部418の成膜が、より容易になる。
【0127】
(H−3)第3の変形例:
第4実施例では、ステップS425において、粒界被覆部418を金属被覆層416上に直接成膜しているが、異なる構成としても良い。例えば、SEMで観察した金属被覆層416表面における結晶粒界のパターン通りに、Crを成膜材料とする粒界被覆部を別途作製し、これを金属被覆層416上に固着させても良い。この場合には、ポリイミドなどの所定の基材上に、上記パターン通りにCrを成膜材料として印刷を行ない、印刷したCr層を金属被覆層416上に転写した後に、基板を剥離すればよい。
【0128】
(H−4)第4の変形例:
また、ステップS425で粒界被覆部418を形成するための成膜材料としては、Cr以外に、第1実施例の第4の変形例と同様の種々の元素を選択することができる。酸化物となったときに、水素透過膜の使用条件下において安定して存在することができればよい。
【0129】
(H−5)第5の変形例:
あるいは、ステップS425で粒界被覆部418を形成するための成膜材料として、第1実施例の第5の変形例と同様の元素を選択してもよい。この場合には、ステップS430の酸化処理に代えて窒化処理あるいは炭化処理を行なえば良く、あるいは、水素透過膜の使用中に、上記成膜材料の窒化や炭化を進行させれば良い。このような構成としても、酸化処理を行なう場合と同様に、金属被覆層416表面の結晶粒界近傍領域に、安定な窒化物あるいは炭化物から成る粒界被覆部418を形成することで、結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させる同様の効果が得られる。
【0130】
(H−6)第6の変形例:
第4実施例では、金属被覆層416上に粒界被覆部418を一旦形成した後に、この粒界被覆部418を構成する金属を酸化させている。これに対して、水素透過膜の使用条件下において安定して存在可能な成膜材料を用いて、金属被覆層416上に粒界被覆部418を形成しても良い。例えば、酸化クロム等の酸化物や、第1実施例の第5の変形例で例示した元素の窒化物あるいは炭化物を成膜材料として、金属被覆層416上に粒界被覆部418を形成することができる。この場合には、酸化処理、窒化処理あるいは炭化処理を、別途行なう必要がない。また、この場合には、ステップS510において、結晶粒界近傍領域の面積と、成膜材料の格子定数とに基づいて、結晶粒界近傍領域の面積を所定の厚みで覆うために必要な成膜材料の量を算出すればよい。
【0131】
(H−7)第7の変形例:
第4実施例では、金属被覆層416上に粒界被覆部418を形成しているが、粒界被覆部418と同様の構造を、粒界被覆部418に加えて、あるいは粒界被覆部418に代えて、金属被覆層416の下側層の上に設けることとしても良い。水素透過膜内における酸素や構成金属あるいは酸化物の移動は、主として結晶構造上の間隙を介して行なわれるため、水素透過膜を構成するいずれかの層の表面において、第4実施例と同様の粒界被覆部を設けることで、上記移動を抑制することができる。
【0132】
例えば、金属ベース層12上に、粒界被覆部418と同様の構造を設けることができる。この場合には、ステップS400で金属ベース層12を形成した後に、中間層14の形成に先立って、第4実施例と同様の粒界被覆部を、金属ベース層12上に形成すればよい。このような構成とすれば、水素透過膜の内部に酸素が入りこんだ場合に、金属ベース層12内に酸素が侵入することによる金属ベース層12の構成金属の酸化を抑制することができる。
【0133】
同様に、ステップS410で中間層14を形成した後に、金属被覆層416の形成に先立って、第4実施例と同様の粒界被覆部を、中間層14上に形成しても良い。この場合には、水素透過膜の内部に酸素が入りこんだ場合に、中間層14を介した金属ベース層12への酸素の到達を抑制し、金属ベース層12を構成する金属の酸化を抑えることができる。また、金属ベース層12を構成する金属や、金属ベース層12を構成する金属の酸化物が、中間層14を介して水素透過膜の表面へと到達することによる、水素透過膜の性能低下を抑制することができる。
【0134】
I.効果の確認:
第4実施例の水素透過膜を作製して、粒界被覆部418が下層金属の表面への移動を抑制する効果を確認した結果を以下に示す。ここでは、第4実施例に対応する実験例1および2の水素透過膜と、比較例の水素透過膜とを作製した。用いた実験例1,2および比較例の水素透過膜の具体的な構成を以下に示す。ここで、比較例の水素透過膜は、粒界被覆部418を有しない点で、実験例1,2の水素透過膜とは異なっている。
【0135】
実験例1;金属ベース層12(厚さ100μmのV層)、中間層14(厚さ0.1μmのTa層)、金属被覆層416(厚さ1μmのPd層)、粒界被覆部418(厚さ5nmのCr層):
実験例2;金属ベース層12(厚さ100μmのV層)、中間層14(厚さ0.1μmのTa層)、金属被覆層416(厚さ1μmのPd層)、粒界被覆部418(厚さ5nmのAl層):
比較例;金属ベース層(厚さ100μmのV層)、中間層(厚さ0.1μmのTa層)、金属被覆層(厚さ1μmのPd層):
【0136】
なお、実験例1,2の水素透過膜については、上記した厚みの粒界被覆部418を形成した後に、空気中、400℃にて6.5時間の条件で、酸化処理を行なった。図9は、実験例1の表面を観察したSEM像を示す説明図である。図9(A)は、ステップS420で形成した金属被覆層416の表面の様子を表わす。金属被覆層416の表面において、結晶粒界のうち、特に3以上の金属結晶が接する接点に相当する部分が、金属被覆層416に形成された微細な孔として、図9(A)において黒い点状に観察される。また、図9(B)は、金属被覆層416上にCrから成る粒界被覆部418を形成して、さらに酸化処理を施した後の表面の様子を表わす。図9(B)では、酸化クロムと考えられる白い微小な粒子が金属被覆層416表面に存在して、上記黒い点状の孔が覆われる様子が観察される。
【0137】
上記実験例1,2および比較例の水素透過膜を用いて粒界被覆部418の効果を調べるために、各水素透過膜を、通常の水素透過膜の使用条件よりも厳しい条件(より酸化しやすい条件)下に晒して、比較を行なった。具体的には、各水素透過膜を、空気中、600℃にて6.5時間処理した。処理後の各水素透過膜の表面のSEM像を、図10に示す。
【0138】
図10(A)、(B)、(C)は、それぞれ、実験例1、2あるいは比較例の水素透過膜の表面の様子を表わす。図10(A)、(B)に示すように、実験例1,2の水素透過膜では、金属被覆層416表面においてわずかに(金属被覆層416表面全体の面積の約5%で)、下層金属であるVあるいは酸化バナジウムが下層から噴出して表面を覆う様子が観察された。これに対して、図10(C)に示すように、比較例の水素透過膜では、金属被覆層表面のより広い範囲で(金属被覆層126表面全体の面積の約60%で)、下層金属であるVあるいは酸化バナジウムが下層から噴出して表面を覆う様子が観察された。このように、粒界被覆部418を設けることにより、金属被覆層における下層金属の噴出を、極めて効果的に抑制可能となることが示された。
【0139】
J.水素透過膜を用いた装置:
(J−1).水素抽出装置:
図11は、第1ないし第4実施例のいずれかの水素透過膜(以下、水素透過膜10と表わす)を利用した水素抽出装置20の構成を表わす断面模式図である。水素抽出装置20は、複数の水素透過膜10を積層した構造を有しており、図11では、水素透過膜10の積層に関わる構成についてのみ示している。水素抽出装置20では、積層される各水素透過膜10間に、水素透過膜10の外周部と接合する支持部22が配設されており、支持部22によって各水素透過膜10間に所定の空間が形成されている。支持部22は、水素透過膜10との接合が可能であって充分な剛性を有していればよい。例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により形成することで、金属層である水素透過膜10と容易に接合可能となる。
【0140】
各水素透過膜10間に形成される上記所定の空間は、水素含有ガス路24とパージガス路26とを交互に形成する。各々の水素含有ガス路24に対しては、図示しない水素含有ガス供給部より、水素抽出の対象となる水素含有ガスが供給される。また、各々のパージガス路26に対しては、図示しないパージガス供給部から、水素濃度が充分に低いパージガスが供給される。水素含有ガス路24に供給されたガス中の水素は、水素濃度差に従ってパージガス路26側へと水素透過膜10を透過することによって、水素含有ガスから抽出される。
【0141】
このような水素抽出装置20によれば、水素透過膜の下層金属が酸化されたり、下層金属が表面に移動することに起因する性能低下が抑制されるため、水素抽出装置20全体の水素抽出性能の低下を防ぐことができる。
【0142】
(J−2).燃料電池:
図12は、水素透過膜10を利用した燃料電池の構成の一例を表わす断面模式図である。図12、単セル30を表わしているが、燃料電池は、この単セル30を複数積層することによって形成される。
【0143】
単セル30は、水素透過膜10と、水素透過膜10の一方の面上に形成された電解質層32と、電解質層32上に形成されたカソード電極34と、から成るMEA(Membrane Electrode Assembly)31を備えている。また、単セル30は、MEA31をさらに両側から挟持する2つのガスセパレータ36,37を備えている。水素透過膜10と、これに隣接するガスセパレータ36との間には、水素を含有する燃料ガスが通過する単セル内燃料ガス流路38が形成されている。また、カソード電極34と、これに隣接するガスセパレータ37との間には、酸素を含有する酸化ガスが通過する単セル内酸化ガス流路39が形成されている。
【0144】
電解質層32は、プロトン伝導性を有する固体電解質、例えば、BaCeO3、SrCeO3系のセラミックスプロトン伝導体から成る層である。この電解質層32は、PVDやCVD等の手法により、水素透過膜10上に上記固体酸化物を生成させることによって形成することができる。このように、電解質層32を緻密な金属膜である水素透過膜10上に成膜することにより、電解質層32を薄膜化し、電解質層32の膜抵抗をより低減することが可能となる。これにより、従来の固体電解質型燃料電池の運転温度よりも低い温度である約200〜600℃程度で発電を行なうことが可能となる。
【0145】
カソード電極34は、電気化学反応を促進する触媒活性を有する層であり、例えば、貴金属であるPtから成る多孔質なPt層により構成すればよい。また、単セル30において、カソード電極34とガスセパレータ37との間、あるいは水素透過膜10とガスセパレータ36との間に、導電性およびガス透過性を有する集電部をさらに設けても良い。
【0146】
ガスセパレータ36,37は、カーボンや金属などの導電性材料で形成されたガス不透過な部材である。ガスセパレータ36,37の表面には、単セル内燃料ガス流路38あるいは単セル内酸化ガス流路39を形成するための所定の凹凸形状が形成されている。
【0147】
このような燃料電池によれば、水素透過膜の下層金属が酸化されたり、下層金属が表面に移動することに起因する性能低下が抑制されるため、燃料電池全体の性能低下を防ぐことができる。
【0148】
なお、図12に示す燃料電池が備える水素透過膜では、図1に示した水素透過膜10とは異なり、電解質層32と接する面には、金属被覆層および中間層を設けない構成とすることも可能である。
【0149】
K.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0150】
K1.変形例1:
水素透過膜を構成する各層を、第1ないし第4実施例とは異なる金属により形成しても良い。例えば、実施例では金属ベース層12をVやVを主要な構成成分とする金属により形成しているが、他種の5族金属を含有する金属(単体を含む)により形成しても良い。
【0151】
また、実施例では中間層14をTaによって形成しているが、金属ベース層12と金属被覆層16との間の金属拡散を抑制可能であれば、異なる水素透過性金属により中間層14を形成しても良い。中間層14を構成する金属としては、特に、金属ベース層12および金属被覆層16よりも融点が高い金属(以下、高融点金属と呼ぶ)により形成することが好ましい。融点が高い金属は、一般に金属拡散し難いという性質を有しているため、高融点金属で中間層14を構成することにより、金属拡散防止の効果を高めることができる。例えば、Taの他、同じ5族金属であるニオブ(Nb)は、充分な水素透過性能を有すると共に高融点金属であるため好ましい。また、中間層14は、これらTaやNbの単体から成る金属層とする他、高融点金属であるTaやNbを主金属として含有する合金により形成しても良い。
【0152】
K2.変形例2:
第1ないし第4実施例では、金属ベース層12と金属被覆層との間に中間層14を設けているが、中間層14を設けないこととしても良い。すなわち、V等の5族金属あるいはその合金から成る金属ベース層12上に、Pdを含有する金属被覆層を直接形成することとしても良い。このような場合にも、金属被覆層における結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させることによって、実施例と同様の効果が得られる。
【0153】
K3.変形例3:
既述した第1ないし第4実施例の水素透過膜では、水素透過膜を、水素透過性を有する金属薄膜の自立膜としたが、ガス透過性を有する多孔質基材上に水素透過性金属を担持させることにより水素透過膜を形成してもよい。すなわち、金属被覆層、中間層、金属ベース層、中間層、金属被覆層の順で積層された金属層を、薄板状の多孔質体の上に順次形成し、水素透過膜としてもよい。このように多孔質基材上に担持された水素透過膜は、例えば、図11に示した水素抽出装置において、実施例の水素透過膜10に代えて用いることができる。例えば、第1実施例を上記構成に適用する場合には、多孔質体上に水素透過膜を成膜した後に全体を酸化処理して、金属被覆層における結晶構造上の間隙を狭小化・閉塞させればよい。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】第1実施例の水素透過膜の概略構成を表わす断面模式図である。
【図2】第1実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。
【図3】第2実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。
【図4】第3実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。
【図5】第4実施例の水素透過膜の概略構成を表わす断面模式図である。
【図6】第4実施例の水素透過膜の製造方法を表わす工程図である。
【図7】粒界被覆部を形成する方法を表わす工程図である。
【図8】凹面化処理の様子を表わす模式図である。
【図9】実験例1の表面を観察したSEM像を示す説明図である。
【図10】粒界被覆部の効果を調べた結果を示す説明図である。
【図11】水素抽出装置の構成を表わす断面模式図である。
【図12】燃料電池の構成の一例を表わす断面模式図である。
【符号の説明】
【0155】
10…水素透過膜
12…金属ベース層
14…中間層
16,416…金属被覆層
20…水素抽出装置
22…支持部
24…水素含有ガス路
26…パージガス路
30…単セル
31…MEA
32…電解質層
34…カソード電極
36,37…ガスセパレータ
38…単セル内燃料ガス流路
39…単セル内酸化ガス流路
418…粒界被覆部




 

 


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