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発明の名称 経爪無侵襲血中物質測定装置及び爪甲蒸散装置
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−175487(P2007−175487A)
公開日 平成19年7月12日(2007.7.12)
出願番号 特願2006−320734(P2006−320734)
出願日 平成18年11月28日(2006.11.28)
代理人 【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
発明者 荒井 恒憲 / 川瀬 悠樹 / 岡 泰延 / 伊藤 成史
要約 課題
光学窓として爪を用いて血中物質を光学的に計測する装置及び方法の提供。

解決手段
爪を光学的窓として利用しかつ爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去して血中被測定物質を光学的に測定するための装置であって、被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を被験体の爪に照射する照射手段、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段、及び前記検出手段で得られる信号を処理して被測定物質濃度に変換する処理手投を含む装置。
特許請求の範囲
【請求項1】
爪を光学的窓として利用しかつ爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去して血中被測定物質を光学的に測定するための装置であって、被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を被験体の爪に照射する照射手段、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段、及び前記検出手段で得られる信号を処理して被測定物質濃度に変換する処理手段を含む装置。
【請求項2】
照射手段及び検出手段がプローブ中に含まれ、照射手段から爪を通して被験体内に照射され被験体内で拡散反射した光を爪を通して検出手段で検出する請求項1記載の装置。
【請求項3】
被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を爪に照射する照射手段が爪床部毛細血管に光を照射する請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を爪に照射する照射手段が近赤外光を照射する照射手段である請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
照射する光の波長域が1〜2.5μmである請求項4記載の装置。
【請求項6】
血糖値測定装置である請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
血中尿素、クレアチニン、BUN、又はCP(クレアチニンホスフォキナーゼ)測定装置である請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
さらに、爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光及び爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光を用いて爪中の水分含量及びケラチン含量をモニタするモニタ手段を含み、該モニタ手段により爪甲の光学的特性を補正し得える請求項1〜7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
モニタ手段が、爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光として1〜3μmの波長の光、爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光として1〜2.5μmの波長の光を用いる請求項8記載の装置。
【請求項10】
さらに、指先端部を固定把持する手段を含み、該固定把持手段が照射手段及び検出手段を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
さらに、爪を光学的窓として利用しかつ爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去して、爪床部において血中被測定物質を光学的に測定するために爪甲をコヒーレント光源から発生する光の照射により蒸散させて爪甲を部分的に除去するための装置であって、コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段並びに爪甲の蒸散深度をモニタするための爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を有する蒸散深度モニタ手段を含む爪甲蒸散装置を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
コヒーレント光源が紫外レーザ光又はOPOである請求項11記載の装置。
【請求項13】
紫外レーザ光がArFレーザ光である請求項12記載の装置。
【請求項14】
レーザのパルスエネルギー密度が10mJ/cm2・pulse以上である請求項11〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
爪甲の蒸散の深度のモニタの際、蒸散光照射時に発生する蛍光の波長領域において、同時に生成するプルーム発光強度が爪甲及び/又は真皮から発生する蛍光の蛍光強度以下になるようなフルエンスで照射する請求項11〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
さらに、指先端部を固定把持する手段を含み、該固定把持手段がレーザ光照射手段及び蒸散深度モニタ手段の光検出手段を含む請求項11〜15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
爪を光学的窓として利用しかつ爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去して、爪床部において血中被測定物質を光学的に測定するために爪甲をコヒーレント光源から発生する光の照射により蒸散させて爪甲を部分的に除去するための装置であって、コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段並びに爪甲の蒸散深度をモニタするための爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を有する蒸散深度モニタ手段を含む爪甲蒸散装置。
【請求項18】
経爪で皮膚疾患治療用及び/又は全身疾患治療用の医薬組成物を投与するためのオリフィスを爪甲に形成するために爪甲をコヒーレント光源から発生する光の照射により蒸散させて爪甲を部分的に除去する装置であって、コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段並びに爪甲の蒸散深度をモニタするための爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を有する蒸散深度モニタ手段を含む爪甲蒸散装置。
【請求項19】
コヒーレント光源が紫外レーザ光又はOPOである請求項17又は18記載の装置。
【請求項20】
紫外レーザ光がArFレーザ光である請求項19記載の爪甲蒸散装置。
【請求項21】
レーザのパルスエネルギー密度が10mJ/cm2・pulse以上である請求項17〜20のいずれか1項に記載の爪甲蒸散装置。
【請求項22】
爪甲の蒸散の深度のモニタの際、蒸散光照射時に発生する蛍光の波長領域において、同時に生成するプルーム発光強度が爪甲及び/又は真皮から発生する蛍光の蛍光強度以下になるようなフルエンスで照射する請求項17〜21のいずれか1項に記載の爪甲蒸散装置。
【請求項23】
さらに、指先端部を固定把持する手段を含み、該固定把持手段がレーザ光照射手段及び蒸散深度モニタ手段の光検出手段を含む請求項17〜22のいずれか1項に記載の爪甲蒸散装置。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を用いて爪を光学的窓として利用し、血中の物質を光学的に分析する装置に関する。また、本発明は、経爪で皮膚疾患治療用、その他全身疾患治療用の医薬組成物を投与するためのオリフィスを爪甲に形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外光を用いて皮膚を通して照射した近赤外光の透過、散乱光を測定し、血糖値を測定する方法が開発されている(特許文献1〜8を参照)。光を用いた血糖値計測は、患者に対して低侵襲かつ連続的に測定できるという利点を有している。しかしながら、実用的な100mg/dl±10mgというグルコースの測定精度に対し、近年の皮膚を測定部位とした近赤外光による血糖値計測の検討では、グルコース光吸収が小さいため±25〜50mg/dlの精度にとどまっており(非特許文献1参照)、特に50mg/dl付近の低濃度においては精度が低く、低血糖症の予防には適用することは困難であった。さらに、皮膚中の脂肪組織、タンパク質等の外乱要素の影響も大きく測定精度を上げるのは困難であった。
【0003】
一方、爪白癬等の皮膚疾患の治療のため、また、爪を薬物送達デバイスとして使用し、爪オリフィスを介して医薬組成物を全身的に送達するために爪甲に穴を開ける技術が開発されている(特許文献9〜11を参照)。しかしながら、爪床を傷つけずに爪甲をできるだけ除去する精度のよい装置は開発されていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平10-325794号公報
【特許文献2】特開平11-137538号公報
【特許文献3】特開2000-131322号公報
【特許文献4】特開2003-245265号公報
【特許文献5】特開2004-257835号公報
【特許文献6】特開2004-321325号公報
【特許文献7】特開平11-216131号公報
【特許文献8】特開平10-33512号公報
【特許文献9】特表2005-517471号公報
【特許文献10】米国特許第5,947,956号公報
【特許文献11】米国特許第4,180,058号公報
【非特許文献1】K.Maruo, Applied Spectroscopy, vol.57m no.10, pp.1236-44, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光学窓として爪を用いて血中物質を光学的に計測する装置及び方法の提供を目的とする。さらに、本発明は光学窓として爪を用いて血中物質を光学的に計測するに際して、爪甲にレーザ光等のコヒーレント光源から発生する光を照射することにより爪甲を蒸散させる方法及び装置の提供を目的とする。また、本発明は経爪で皮膚疾患治療用、その他全身疾患治療用の医薬組成物を投与するためのオリフィスをあけるための、爪甲にレーザ光等のコヒーレント光源から発生する光を照射することにより爪甲を蒸散させる方法及び装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、爪床の毛細血管の密度が高いことに鑑み、爪甲を光学窓として利用することにより、爪を通して血中物質を測定できることを見出した。本発明者は特にグルコース等の近赤外部に吸収を有する物質を近赤外線を用いて測定することにより、被測定物質を測定し得ることを見出した。
【0007】
さらに、本発明者は、爪甲において、光学測定に影響する爪甲の水分やケラチンの含量をモニタリングし、該モニタリングの結果に応じ、光学測定値を補正することにより、精度良く血中物質の濃度を測定し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
さらに、本発明者は、光学的測定に影響する爪甲の影響を除去する方法について鋭意検討を行い、爪甲にレーザ光等のコヒーレント光源から発生する光を照射して蒸散させることを見出した。さらに、コヒーレント光源から発生する光の照射条件について仔細に検討し、爪床部の毛細血管中の血中物質を正確に測定し得るように爪甲を蒸散させる照射条件を見出し、コヒーレント光源から発生する光による爪甲の蒸散方法及び蒸散装置並びにコヒーレント光源から発生する光を照射して爪甲を蒸散させて、爪床部の毛細血管中の血中物質を正確に測定し得る装置及び方法を完成させるに至った。
【0009】
また、本発明者は、上記コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射して蒸散させてオリフィスを形成し、経爪で皮膚疾患治療用、その他全身疾患治療用の医薬組成物を投与する装置及び方法を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
[1] 爪を光学的窓として利用しかつ爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去して血中被測定物質を光学的に測定するための装置であって、被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を被験体の爪に照射する照射手段、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段、及び前記検出手段で得られる信号を処理して被測定物質濃度に変換する処理手段を含む装置。
[2] 照射手段及び検出手段がプローブ中に含まれ、照射手段から爪を通して被験体内に照射され被験体内で拡散反射した光を爪を通して検出手段で検出する[1]の装置。
[3] 被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を爪に照射する照射手段が爪床部毛細血管に光を照射する[1]又は[2]の装置。
[4] 被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を爪に照射する照射手段が近赤外光を照射する照射手段である[1]〜[3]のいずれかの装置。
[5] 照射する光の波長域が1〜2.5μmである[4]の装置。
[6] 血糖値測定装置である[1]〜[5]のいずれかの装置。
[7] 血中尿素、クレアチニン、BUN、又はCP(クレアチニンホスフォキナーゼ)測定装置である[1]〜[5]のいずれかの装置。
[8] さらに、爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光及び爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光を用いて爪中の水分含量及びケラチン含量をモニタするモニタ手段を含み、該モニタ手段により爪甲の光学的特性を補正し得える[1]〜[7]のいずれかの装置。
[9] モニタ手段が、爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光として1〜3μmの波長の光、爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光として1〜2.5μmの波長の光を用いる[8]の装置。
[10] さらに、指先端部を固定把持する手段を含み、該固定把持手段が照射手段及び検出手段を含む[1]〜[9]のいずれかの装置。
[11] さらに、爪を光学的窓として利用しかつ爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去して、爪床部において血中被測定物質を光学的に測定するために爪甲をコヒーレント光源から発生する光の照射により蒸散させて爪甲を部分的に除去するための装置であって、コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段並びに爪甲の蒸散深度をモニタするための爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を有する蒸散深度モニタ手段を含む爪甲蒸散装置を含む、[1]〜[10]のいずれかの装置。
[12] コヒーレント光源が紫外レーザ光又はOPOである[11]の装置。
[13] 紫外レーザ光がArFレーザ光である[12]の装置。
[14] レーザのパルスエネルギー密度が10mJ/cm2・pulse以上である[11]〜[13]のいずれかの装置。
[15] 爪甲の蒸散の深度のモニタの際、蒸散光照射時に発生する蛍光の波長領域において、同時に生成するプルーム発光強度が爪甲及び/又は真皮から発生する蛍光の蛍光強度以下になるようなフルエンスで照射する[11]〜[14]のいずれかの装置。
[16] さらに、指先端部を固定把持する手段を含み、該固定把持手段がレーザ光照射手段及び蒸散深度モニタ手段の光検出手段を含む[11]〜[15]のいずれかの装置。
[17] 爪を光学的窓として利用しかつ爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去して、爪床部において血中被測定物質を光学的に測定するために爪甲をコヒーレント光源から発生する光の照射により蒸散させて爪甲を部分的に除去するための装置であって、コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段並びに爪甲の蒸散深度をモニタするための爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を有する蒸散深度モニタ手段を含む爪甲蒸散装置。
[18] 経爪で皮膚疾患治療用及び/又は全身疾患治療用の医薬組成物を投与するためのオリフィスを爪甲に形成するために爪甲をコヒーレント光源から発生する光の照射により蒸散させて爪甲を部分的に除去する装置であって、コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段並びに爪甲の蒸散深度
をモニタするための爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を有する蒸散深度モニタ手段を含む爪甲蒸散装置。
[19] コヒーレント光源が紫外レーザ光又はOPOである[17]又は[18]の装置。
[20] 紫外レーザ光がArFレーザ光である[19]の爪甲蒸散装置。
[21] レーザのパルスエネルギー密度が10mJ/cm2・pulse以上である[17]〜[20]のいずれかの爪甲蒸散装置。
[22] 爪甲の蒸散の深度のモニタの際、蒸散光照射時に発生する蛍光の波長領域において、同時に生成するプルーム発光強度が爪甲及び/又は真皮から発生する蛍光の蛍光強度以下になるようなフルエンスで照射する[17]〜[21]のいずれかの爪甲蒸散装置。
[23] さらに、指先端部を固定把持する手段を含み、該固定把持手段がレーザ光照射手段及び蒸散深度モニタ手段の光検出手段を含む[17]〜[22]のいずれかの爪甲蒸散装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の装置は、爪を光学的窓として用いて被験体の血中の被測定物質を測定することができる。特に爪下の爪床は毛細血管の密度が多いので、爪床部を測定ターゲットとすることにより、被測定物質の光学的特性に関する情報が多く得られ、より精度良い測定が可能になる。爪を通して爪床部の毛細血管中の血中物質を光学的に測定する場合、爪に含まれるケラチン及び水分の光学的特性により血中物質の測定に影響を受ける。本発明の爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光及び爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光を用いて爪中の水分含量及びケラチン含量をモニタするモニタ手段を含む装置を用いることにより、爪に含まれるケラチン及び水分の影響を演算により除去し、精度良く血中物質濃度を測定することができる。さらに、本発明のコヒーレント光源から発生する光により爪甲を蒸散させる装置を用いることにより、爪甲の光学的特性の影響を除去することができ、精度良く血中物質濃度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は爪に特定波長の近赤外光を照射し、血中物質による特定波長の近赤外光の吸収を、爪を通して測定することにより、血中物質を測定する。
【0013】
本発明において、爪を光学的窓として利用するが、光学的窓として利用するとは、爪を通して血中の被測定物質を測定するための光を照射すること、又は爪を通して血中の被測定物質を測定するための光を被験体内に照射し、かつ生体内で吸収・散乱し爪から再び被検体外に出て行く光を爪を通して検出することをいう。さらに、本発明においては、爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去して血中物質の濃度を正確に測定する。爪甲の光学的特性に基づく測定値の変動を補正又は除去するとは、爪甲を通して得られる光学的測定値から、爪甲に含まれる水やケラチンによる光の吸収、散乱及び反射により変動する値を除去するように補正すること、又は爪甲を部分的に除去し、爪甲を通して得られる光学的測定値に爪甲に含まれる水やケラチンによる光の吸収、散乱及び反射による測定値の変動が血中測定物質を正確に測定できるように、含まれないようにすることをいう。
【0014】
爪から照射した光は、被験体内に進入し血中の被測定物質により吸収散乱される。本発明においては、被験体内で吸収散乱され再び爪から被験体外に出て行く拡散反射光を測定する。本発明は血中の被測定物質を測定対象とするため、特に爪甲の下部の爪床をターゲットとして被測定物質を検出する。すなわち、爪床部には、毛細血管が高密度で存在しており、単位体積あたりの血液量が多い。図1(Wolfram-gabel R. et al., J.Hand Surgery, vol.20B, No.4, pp488-492, 1995、Thibodeau G.A., カラーで学ぶ解剖生理学, 医学書院, pp73, 1999)に爪甲及び爪床を含む爪部分の構造を示し、図2(Hasegawa K. , J.Hand Surgery, vol.26A, No.2, pp.283-290, 2001)に爪床部の毛細血管の様子を示す。爪下の毛細血管面積比率は約44%であり、上腕の3%や掌の7%(Pasyk K.A., Plastic and Reconstructive Surgery, vol.83, no.6, pp.939-947)に比べて顕著に大きい。従って、爪床部をターゲットとして光を照射し爪床部の毛細血管中に存在する被測定物質による光の吸収を測定することにより、血中の被測定物質を正確に測定することができる。爪床部をターゲットとする場合、爪床部は爪表面から深さ約0.2〜1mmの位置にあるため、照射する光もこの深さをターゲットとすればよい。また、爪下の光を照射する部分の血液量を増加させるために、指を圧迫して測定してもよい。
【0015】
本発明において測定する血中の被測定物質は限定されず特定の波長の光を吸収し得る物質ならば本発明の測定対象となり得る。例えば、グルコース、尿素、クレアチニン、BUN(尿素窒素)、CP(クレアチニンホスフォキナーゼ)等が挙げられる。被測定物質の光吸収スペクトルを測定することにより、それぞれの物質に適した波長を決定することができる。図3−1、図3−2及び図3−3にそれぞれグルコース、尿素(Mark A. et al., Small Anal. Chem. 2004, 76, 5405-5413)及びクレアチニン(Fujii T. et al., Applied Spectroscopy, vol.51, No.11, 1682-1686, 1997、Fridolin I. Et al., Medical and Biological Engineering and Computing, Vol.41, 263-270, 2003)の吸収スペクトルを示す。該図から適宜用いる波長を選択することができる。この際、爪中あるいは被験体生体中の水やタンパク質等の外乱要素により光が吸収散乱され測定に影響を受けるので、これらの外乱要素に吸収されにくい波長の光を用いることが好ましい。従って、水やヘモグロビン等のタンパク質の吸収が小さく、生体を透過する能力が高い近赤外光を用いるのが好ましい。ここで、近赤外光とは、0.76〜0.83μm程度を下限とし、2.5μmを上限とする波長の光をいう。この点では、近赤外光波長域に吸収スペクトルのピークを有するグルコース及び尿素の測定が特に適している。
【0016】
近赤外光を用いる場合、その波長は長波長域が好ましく、好ましくは1〜2.5μm、さらに好ましくは2〜2.3μmである。
【0017】
なお、被測定物質が吸収を有しない波長域の光による測定値をベースとして減じて、値を補正すればよい。また、測定の際、1点の波長の光を用いて測定してもよいし、複数の波長の光を用いて複数点で測定してもよい。さらに、一定の波長域において、吸収スペクトルを測定し、該吸収スペクトルから、被測定物質のピーク値とベース値を得て値を補正してもよい。また、該吸収スペクトルから、重回帰分析や主成分分析、PLS法などの回帰分析を用いてもよい。
【0018】
本発明は、測定の際に同時に水やタンパク質による吸収散乱を測定し、補正することにより正確に測定する装置及び方法を包含する。特に、爪を通して光学的測定を行う場合、爪中の水分やケラチンによる光の吸収散乱の影響を受け得る。爪中特に爪甲中には水分及びケラチンが存在しており、これらの物質が測定に影響する。すなわち、爪を通して測定できる光は、測定しようとする血中物質由来の光吸収を反映しているばかりでなく、爪甲中の構成成分であるケラチン及び水由来の光吸収をも反映しており、後者の光吸収は測定値に対してノイズとして影響する。
【0019】
従って、爪甲中のケラチン及び水の含量をモニタリングし、該モニタリングに基づいて測定値を補正する必要がある。
【0020】
爪甲中の水及びケラチンの含量は、それぞれ水及びケラチンに吸収を有する波長の光を用いて測定することができる。ケラチン及び含水ケラチンの吸収スペクトルを図4(松崎貴,毛髪の最新科学,フレグランスジャーナル社,pp.98改変)に示す。爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光として1〜3μmの波長の光が挙げられ、爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光として1〜2.5μmの光が挙げられる。この際、水及びケラチンが吸収を有しない波長域の光による測定値をベースとして減じて値を補正すればよい。このような波長の光は図4の吸収スペクトルを参考に適宜選択することができる。また、測定の際、1点の波長の光を用いて測定してもよいし、複数の波長の光を用いて複数点で測定してもよい。さらに、一定の波長域において、吸収スペクトルを測定し、該吸収スペクトルから、被測定物質のピーク値とベース値を得て値を補正してもよい。また、該吸収スペクトルから、重回帰分析や主成分分析、PLS法などの回帰分析を用いてもよい。
【0021】
本発明のモニタ手段の一構成例を図5に示す。図5に示すように、該モニタ手段は水吸収、ケラチン吸収、ベースの吸収に対応した3波長の光を用い、光ファイバーで光を爪まで誘導し、光を照射し、該光の透過光又は反射光を光検出装置4により検出する。この際、光照射手段及び光検出手段はプローブ6中に含ませればよい。また、演算装置5で爪甲に含まれるケラチンや水による爪甲の光学的特性を考慮して測定値を補正することにより精度の高い測定ができる。
【0022】
爪甲中の水及びケラチンの含量は、血中の被測定物質を測定する際に、同時に測定してもよいし、血中の被測定物質を測定する前に予め測定しておいてもよい。
【0023】
最終的に、得られる吸光度は、血中被測定物質由来の吸光度、爪甲中のケラチン由来吸光度及び水の吸光度を反映したものであるので、爪甲中のケラチン由来吸光度及び水の吸光度分を減じて補正すればよい。このとき、爪甲中のケラチン含量は個人により差があり、また爪甲中の水分含量も個人によりまた周囲の湿度等により変動するので、ケラチン含量及び水含量による補正は、血中被測定物質の測定を行う都度行うのが好ましい。
【0024】
また、本発明の光学的測定において爪を光学窓として利用するが、測定の際、爪に種々の処理を加えることにより、爪に起因する外乱要素を除去することができる。
【0025】
例えば、爪甲表面をサンドペーパー等を用いて研磨することにより、爪甲表面の凹凸による光学特性への影響を除去することができる。研磨は、例えばRa(算術平均値)で表した表面粗さが、0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下になるように研磨すればよい。爪甲を研磨する場合、光を照射する面積だけ研磨すればよく、例えば、プローブの接触面積を処理すればよい。さらに、爪甲内部の光学特性の補正として、爪甲中にグリセリン等の屈折率整合用薬剤を染み込ませることにより、爪甲による光の散乱を少なくすることができる。
【0026】
また、爪甲を部分的に薄くする、爪甲に孔を開けることにより爪床を露出させ直接爪床に測定用光を照射することができ、爪甲の水分やケラチンによる影響を受けることなく血中被測定物質を測定することが可能になる。
【0027】
爪甲を部分的に薄くしたり、爪甲に孔を開け爪床を露出させる方法として、例えば、爪甲をレーザ光等のコヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射することにより、爪甲を蒸散させる方法がある。コヒーレント光源から発生する光としては、ArFレーザ、XeClレーザ、XeFレーザ等の紫外パルスレーザ及びOPO(オプティカルパラメトリックオッシレーター;Optical Parametric Oscillator)が挙げられる。照射はコヒーレント光源から発生する光をレンズ等の光学系を伝達させ爪甲部表面で所望のパルス照射エネルギー密度で照射すればよい。この際、コヒーレント光源から発生する光は石英ファイバー等の光伝達ファイバーで光源から光学系に伝達させてもよい。
【0028】
爪甲に照射するコヒーレント光源から発生する光のパルスエネルギー密度は、10mJ/cm2以上が好ましい。
【0029】
蒸散させる爪甲の面積は限定されないが、部分的に蒸散させた爪甲を通して血中物質を測定する際に、蒸散した爪甲部に血中物質測定用プローブを挿入する場合があるので、該プローブを挿入できる程度の面積を蒸散させる。蒸散させる爪甲の穴部の形状も限定されず、矩形、円形等の形状に蒸散させればよい。図6に爪甲を蒸散させて穴部11を形成させた爪甲9の図を示す。図に示すように穴部11の爪甲は薄くなっており、該穴部を通して光学的に爪床部10の毛細血管中の血中物質を測定する場合、爪甲の影響を受けることなく、正確に測定することができる。図7に、爪甲に蒸散により開けた穴部より爪床部の毛細血管中の血中物質を測定する光計測法の一例を示す。図7に示すように、蒸散により爪甲9に形成した穴部11にプローブ6を挿入し、爪床部10からの拡散反射光を受光する。爪とプローブ6の間の反射を抑えるため、爪とプローブの間に屈折率整合用媒体12を介在させて測定を行うことが好ましい。屈折率整合用媒体としては、グリセリン等が挙げられる。
【0030】
本発明の装置は、経爪で皮膚疾患治療用及び/又は全身疾患治療用の医薬組成物を投与するためのオリフィスを爪甲に形成するための装置として用いることもできる。医薬組成物を投与するために爪にオリフィスを形成させる対象動物は、ヒト等の爪を有する総ての動物を含む。皮膚疾患は限定されず、爪の皮膚疾患、爪以外の皮膚の皮膚疾患等あらゆる皮膚疾患が挙げられる。爪の皮膚疾患としては、例えば爪の水虫、爪白癬等が挙げられる。また、全身疾患も限定されず、疾患として知られているあらゆる疾患が含まれる。また、皮膚疾患治療用及び全身疾患治療用の医薬組成物には、ワクチン等疾患の予防に用い得る薬物も含まれる。本発明の装置で爪にオリフィスを形成させ、該オリフィスに医薬組成物を投与した場合、医薬組成物は爪部だけではなく、爪床部に存在する毛細血管を通って全身に送達され得るので、全身疾患治療にも効果がある。
【0031】
経爪で皮膚疾患治療用及び/又は全身疾患治療用の医薬組成物を投与するためのオリフィスを爪甲に形成する場合、オリフィスは、爪甲の80〜100%、好ましくは90〜99%を貫くことが好ましく、オリフィスの直径は、好ましくは、1μm〜1mm、さらに好ましくは50μm〜200μm、最も好ましくは50μm〜100μmである。オリフィスは、好ましくは、円柱形又は円錐形である。典型的には、約500個のオリフィス、たとえば約50〜約400、たとえば100〜300個のオリフィスが爪に形成される。
【0032】
本発明の医薬組成物は、少なくとも1つの活性成分を含む。本発明の目的のために、活性成分は、医薬又は治療効果を生み出すすべての物質を意味する。活性成分としては、光増感物質(photosensitizer)、抗真菌剤、アンドロゲン、エストロゲン、非ステロイド性抗炎症剤、抗高血圧剤、鎮痛剤、抗うつ剤、抗生物質、抗癌剤、麻酔剤、制吐剤、抗感染剤、避妊剤、抗糖尿病剤、ステロイド、抗アレルギー剤、抗片頭痛剤、禁煙用剤、及び抗肥満剤が挙げられ得るが、これらに限定されるわけではない。
【0033】
上記医薬組成物は、生理学的に許容され得る製剤上の添加物、例えば希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、酸化防止剤、等張化剤、賦形剤及び担体のうち1種又は複数を含むことができる。適切な担体には、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液、及び緩衝生理食塩水が含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに当該分野において周知であるアミノ酸、糖類、界面活性剤等の安定化剤、表面への吸着防止剤を含んでいてもよい。上記医薬組成物の形態は、液体、固体、ゲル、エマルジョン、ペースト等いずれの形態であってもよい。投与する活性成分の量は、疾患の種類、投与する活性成分の種類、並びにオリフィスの大きさ及び数に応じて適宜決定することができる。
【0034】
また、医薬組成物をオリフィスに投与した後、オリフィス中の医薬組成物がオリフィスから外に除去されず、又は細菌、ごみ等がオリフィス内に混入しないように、オリフィスを樹脂製フィルム、マニキュア液等で覆ってもよい。
【0035】
爪甲の蒸散深度、すなわち穴の深さの程度は、コヒーレント光源から発生する光を照射した際に爪甲部及び爪下の真皮から発生する蛍光をモニタすることにより、測定することができる。この際、蒸散に用いたコヒーレント光源を蛍光モニタ用の光源に用いることが好ましい。すなわち、蒸散深度が浅い場合は、爪甲に多く含まれるケラチン等の物質から発生する蛍光が多く、蒸散深度が深くなり爪甲が薄くなるにつれ、爪甲の物質由来の蛍光が小さくなり、真皮に多く含まれるコラーゲン等の物質から発生する蛍光が多くなる。爪甲由来の蛍光のピーク付近の波長と真皮由来の蛍光のピーク付近の波長を計測して爪甲由来の蛍光と真皮由来の蛍光を分別測定することができる。例えば、ArFレーザを蛍光モニタ用の光源に用いて、爪甲のケラチン由来の蛍光と真皮のコラーゲン由来の蛍光を比較した場合、両物質の蛍光の波長スペクトルは近似しており、300〜350nm付近で蛍光を測定することができるが、真皮由来の蛍光強度の方が2倍強大きい。従って、爪甲の蒸散深度が深くなり爪甲が薄くなるに連れ、蛍光強度が大きくなるので、蛍光強度の変化を測定することにより、爪甲の蒸散深度をモニタすることができる。爪甲の蒸散深度をモニタするために蛍光を測定するには、蛍光受光部を備えた蛍光プローブを用いればよい。該プローブは蒸散用のコヒーレント光源から発生する光を照射する手段を含んでいてもよい。
【0036】
コヒーレント光源から発生する光を照射して爪甲を蒸散させる場合、蒸散によりプルームと呼ばれる粒子群が放出され、該プルームからの発光も起こるので、爪甲蒸散深度のモニタに影響を与え得る。プルーム発光の影響を避けるためには、プルームの放出を少なくすればよく、そのためには、蛍光をモニタする際、爪甲に照射するコヒーレント光源から発生する光のパルスエネルギー密度を一定値以下にすればよい。
【0037】
また、薄くする方法は蒸散に限らず、例えば単に研磨して薄くするだけでもよい。
【0038】
本発明の、爪を光学的窓として利用して血中被測定物質を光学的に測定するための装置は、被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を被験体の爪に照射する照射手段、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段、及び前記検出手段で得られる信号を処理して被測定物質濃度に変換する処理手段を含む。
【0039】
図10に本発明の爪を光学的窓として利用して爪床部の血中被測定物質を光学的に測定するための装置の概要を示す。図10の装置を用いる場合は、蒸散させて穴部を有する爪を測定しているが、蒸散させずに測定することもできる。
【0040】
照射手段は、少なくとも光源26(発光手段)及び光を爪部まで誘導する手段、例えば光伝達ファイバやレンズ等の集光光学系13を有する。光を爪部まで誘導する手段の先端部には光照射手段が設けられ、該光照射手段から爪部に向かって光が照射される。光源26は、必要な波長の光を発することができる発光装置であり、例えばタングステンランプ等の白色光源、発光ダイオード、半導体レーザ等のレーザ発生装置を用いることができる。この際、分光器を用いて所望の波長の光を分光してもよい。例えば、照射光として近赤外光を用いる場合は、IR分光装置等を用いればよい。光を爪部まで誘導する手段としては、光ファイバー(石英ファイバー)が挙げられる。該光ファイバーは、一端で発光装置と連結しており、もう一端から光を爪部に照射する。光を爪部に照射する部分は爪に接触していてもよいし、爪から離れていてもよい。また、照射手段は適宜、分光のためのフィルターや集光のためのレンズを含んでいてもよい。
【0041】
検出手段は、少なくとも光を検出する光検出装置4及び被験体から出てきた光を検出装置まで誘導する手段を有する。光を検出する光検出装置4は、光センサー機能を有している装置ならば限定されないが、例えばフォトダイオード、フーリエ変換赤外分光装置(FTIR)等を用いることができる。光を検出装置まで誘導する手段としては、光ファイバー(石英ファイバー)が挙げられる。該光ファイバーは、一端で光検出装置と連結しており、もう一端で被験体からの光を受光する。また、光検出装置4の手前に分光装置15を設けてもよい。
【0042】
上記の発生した光を爪部に向かって照射する光照射手段と反射・散乱した光を受光する光受光手段は、一緒にプローブ6を構成してもよい。
【0043】
爪部から照射した光が被験体内を透過する光を検出する場合、検出手段の光を受光する部分は、好ましくは光照射手段の光を照射する部分と向かい合って、被験体の指の反対側に位置する。また、爪部から照射した光が被験体内で反射されて再度爪から出てくる光を検出する場合、検出手段は照射手段と同じ向きに位置する。
【0044】
検出手段で得られる信号を処理して被測定物質濃度に変換する処理手段は、検出手段が検出した光の強度や波長データから、被測定物質の濃度を算出する演算装置5を含む。該演算装置は光検出手段からの信号を記録するメモリ、光検出手段からの信号を処理する中央演算処理装置(CPU)、中央演算処理装置における演算処理に必要な後記の検量線あるいはキャリブレーション式を含む条件やパラメータを記憶し、かつ演算結果を記憶するハードディスク等の記憶装置を含んでいる。演算装置はデータ表示部を有していてもよく、データ表示部はデータを表示するモニタやプリンタを含んでいる。
【0045】
また、本発明の装置は、爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光及び爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光を用いて爪中の水分含量及びケラチン含量をモニタするモニタ手段を含んでいてもよい。
【0046】
爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光及び爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光を用いて爪中の水分含量及びケラチン含量をモニタするモニタ手段は、ケラチン及び水をモニタするために用いる波長の光を照射する照射手段及び爪甲部で拡散反射した光を検出する検出手段を含む。照射手段は、少なくとも発光手段及び光を爪部まで誘導する手段を有し、検出手段は、少なくとも光を検出する検出装置及び被験体から出てきた光を検出装置まで誘導する手段を有する。発光手段、光を誘導する手段及び検出装置は上記と同様である。
【0047】
被測定物質の濃度の算出は検量線あるいはキャリブレーション式を用いて行われる。検量線あるいはキャリブレーション式は予め個人あるいは複数の被験者の様々な状態における吸光スペクトルを解析して得られる。解析方法は、例えば、重回帰分析や主成分分析、PLS法などの回帰分析が挙げられる。
【0048】
さらに、本発明の装置は、爪甲をレーザ光照射により蒸散させて爪甲を部分的に除去するためのコヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段を含んでいてもよく、さらに、爪甲の蒸散深度をモニタするための爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を含んでいてもよい。また、これら2つの手段を含む爪甲に穴部を形成するための蒸散装置自体も本発明に包含される。図8に該蒸散装置の一例を示す。蒸散装置は、図8に示すように、コヒーレント光源17と光源からの光を爪甲に集束する集光光学系13と、爪甲及び真皮から発生する蛍光を受光するための受光手段14、受光した光を分光する分光装置15、分光装置で分光された光を検出するための光検出装置4、及び光源の光照射と光検出装置の光検出のタイミングを制御する制御装置16からなる。上記の発生した光を爪部に向かって照射する光照射手段と反射・散乱した光を受光する光受光手段は、一緒にプローブを構成してもよい。
【0049】
図9に該蒸散装置の具体的な一態様を示す。図9に示す態様では、コヒーレント光源としてエキシマレーザ23、分光装置及び光検出装置として回折格子型分光器とCCD光検出器の一体型であるCCD分光器24、制御装置としてパルスジェネレータ25を使用している。図10に、爪床部血中物質測定装置の一例を示す。図10に示すように爪床部血中物質測定装置は光源26と光源26からの光を集束する集光光学系13と、光を爪に照射しかつ爪床を透過あるいは拡散反射した光を受光するためのプローブ6、受光した光を分光する分光装置15、分光装置で分光された光を検出するための光検出装置4、光検出装置で得られた信号をもとにグルコース濃度を演算する演算装置5とからなる。
【0050】
さらに本発明の装置は手指を固定するための固定把持手段を備えていてもよい。該把持手段は、図10に示すような固定台7の形態であってもよいし、手指を差し込むリング形状であってもよい。該固定把持手段に照射手段及び検出手段並びに/又は蒸散のためのコヒーレント光源からの光を照射する手段及び蒸散深度をモニタするための蛍光検出手段が含まれていてもよい。
【0051】
本発明の爪を通して血中物質を測定するための装置及び蒸散装置は別体であってもよく、この場合、最初に蒸散装置で爪甲に穴を開け、次いで測定装置で爪床部の血中物質を測定する。また、爪を通して血中物質を測定するための装置及び蒸散装置は一体であってもよい。この場合は、1つの装置に、測定用光源、爪甲蒸散用光源、測定のための手段、蒸散深度モニタ手段等が含まれている。
【0052】
さらに、本発明は上記の爪を光学的窓として利用して血中被測定物質を光学的に測定するための装置であって、被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を被験体の爪に照射する照射手段、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段、及び前記検出手段で得られる信号を処理して被測定物質濃度に変換する処理手投を含む装置を制御する方法を包含する。該方法は、爪を光学的窓として利用して血中被測定物質を光学的に測定するための装置を制御手段が制御する方法であって、被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を被験体の爪に照射する照射手段を制御して光を照射する工程と、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段を制御して被験体内を拡散反射又は透過した光を検出する工程と、検出された信号を処理して被測定物質濃度に変換する工程とを備えた測定装置の制御方法である。ここで、照射手段の制御は、発光装置から照射される光の波長や強度を制御することを含み、検出手段の制御は、吸収スペクトルを得るように検出装置を制御すること、あるいは特定の波長の光のみを検出するように検出装置を制御することを含む。
【0053】
また、本発明は、爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光及び爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光を用いて爪中の水分含量及びケラチン含量をモニタするモニタ手段を制御する方法を包含する。該方法は、爪中の水由来の吸収を測定するための波長域の光及び爪中のケラチン由来の吸収を測定するための波長域の光を照射する工程と、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段を制御して被験体内を拡散反射又は透過した光を検出する工程と、検出された信号の処理手段を制御して爪甲中の水分含量及びケラチン含量をモニタする工程を含む。さらに爪を光学的窓として利用して血中被測定物質を光学的に測定するための装置であって、被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を被験体の爪に照射する照射手段、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段、及び前記検出手段で得られる信号を処理して被測定物質濃度に変換する処理手投を含む装置の制御方法と組合せて、両装置を制御して血中物質の測定値から爪甲の光学的特性に応じた値を補正して正確な血中物質濃度を得る工程を含む。
【0054】
さらに、本発明は、爪を光学的窓として利用して、爪床部において血中被測定物質を光学的に測定するために爪甲をコヒーレント光源から発生する光の照射により蒸散させて爪甲を部分的に除去するための装置であって、コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段並びに爪甲の蒸散深度をモニタするための爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を有する蒸散深度モニタ手段を含む爪甲蒸散装置を制御する方法を包含する。該方法は、コヒーレント光源から発生する光を爪甲に照射する照射手段を制御して爪甲にコヒーレント光源から発生する光を適切な照射条件で照射する工程と、爪甲及び真皮から発生する蛍光を検出する光検出手段を制御して爪甲の蒸散深度をモニタする工程とを含む。さらに爪を光学的窓として利用して血中被測定物質を光学的に測定するための装置であって、被測定物質由来の吸収を測定するための波長域の光を被験体の爪に照射する照射手段、被験体内で拡散反射又は透過した光を検出する検出手段、及び前記検出手段で得られる信号を処理して被測定物質濃度に変換する処理手投を含む装置の制御方法と組合せて、両装置を制御して正確な血中物質濃度を得る工程を含む。
【実施例】
【0055】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕爪床部血糖値計測系の感度見積もり
(1)爪下毛細血管密度の算出
爪床部の毛細血管の高密度性の証明と爪床部組織中におけるグルコース濃度の定量のため、文献の爪床部毛細血管画像をAdobe Photoshopによって画像処理することで画像中の毛細血管の閉める面積を算出した。
【0057】
図2の爪下画像(Hasegawa K., J. Hand surgery, vol.26A, no.2, pp283-90, 2001)から毛細血管をトレースし、血管とその他の面積を算出した。3箇所について行い平均をとった。爪下毛細血管面積比率は、44%であった。他の文献(Pasyk K.A., Plastic and reconstructive surgery, vol.83, no.6, pp.939-947,1989)によると毛細血管密度は上腕3%、掌7%程度であるから、爪床の毛細血管密度は極めて大きい。
【0058】
(2)グルコース計測波長の選択
近赤外領域のグルコース光吸収の局在を把握するため、フーリエ変換赤外分光光度計FTIR-620(日本分光、東京)の透過光計測を行い、グルコース光吸収の存在する波長とその吸光度について検討した。
【0059】
濃度1g/dl, 5g/dlのグルコース水溶液に対し、溶液厚さd=0.75mmとし、透過光計測を行った。同厚さにおける水の吸光度を差し引くことでグルコース由来の吸光度を算出した。図11にグルコース由来の吸収スペクトルを示す。また、表1に各グルコース由来の光吸収ピークを示す。
【0060】
【表1】


【0061】
波長2.136μmと2.273μmのピークを比較すると、2.136μmの方がその波長での水の吸光度に対するグルコース吸光度比が他方に比べて3倍ほど高いことが分かる。これにより2.136μmの方が精度のよいグルコース定量ができると予測される。
【0062】
(3)皮膚散乱を模擬したラテックスビーズ溶液濃度の調製
爪床部毛細血管における拡散反射光計測によるグルコース計測を模擬したモデル実験を行うためのモデルを作成するため、皮膚の散乱特性を模擬したラテックスビーズ溶液の濃度を決定した。
【0063】
皮膚の等価散乱係数及び非等方散乱パラメータを文献より調べ、Mie散乱計算ソフト(Oregon Medical Laser Center:http://omlc.ogi.edu/calc/mie_calc.html)を用いて直径1.5μmラテックスビーズ水溶液について皮膚の等価散乱係数にほぼ一致する濃度を決定した。
【0064】
皮膚の光学特性(Troy T. L., J. Biomedical Optics, 6(2), pp.167-76, 2001)は以下の通りであった。
皮膚の散乱係数文献値(2.1μm付近) μs’=10±2.3 cm-1
皮膚の非等方散乱パラメータ g=0.85
Mie散乱理論によるラテックスビーズ溶液濃度を以下のように決定した。
各パラメータ
ラテックス(ポリスチレン)の屈折率 np = 1.525 (λ=2.5μm)(Larena.A, Spectroscopy letters, vol.25, no.4, pp.447-461, 1992)
ラテックス密度1.055 g/cm3
水の屈折率 nw = 1.30 (λ=2.0μm) (Hale G., Appl. Opt., vol.12, no.3, pp.555-563)
【0065】
計算の結果、直径1.53μm粒子密度0.0055 個/(μm)3、ラテックスビーズ溶液濃度1.1%時のμs’= 11.0 cm-1, g = 0.78を皮膚散乱模擬モデルとした。図12にφ1.53μmラテックスビーズ、波長2.1μmのMie散乱パターンを示す。また、図13に水中φ1.53μmラテックスビーズ、波長2.1μmのP(θ)を示す。
参考のため、以下にMie散乱計算結果を示す。
【0066】
<Input Parameters>
The diameter is 1.53 microns
The wavelength is 2.1 microns
The real index of refraction is 1.53
The imag index of refraction is 0
The number of angles is 91
The density of scatterers is 0.0055 per cubic micron.
<Calculated Coefficients>
The size parameter (x) is 2.98
The extinction efficiency (Qext) is 0.501
The scattering efficiency (Qsca) is 0.501
The absorption efficiency (Qabs) is -1.11e-16
The backscatter efficiency (Qback) is 0.0408
The geometric cross section is 1.84μm2
The total extinction coefficient is 5.06 mm-1(50.6 cm-1)
The scattering coefficient is 5.06 mm-1(50.6 cm-1)
The reduced scattering coefficient is 1.10308 mm-1 (11.0308 cm-1)
The absorption coefficient is -1.12e-15mm-1 (-1.12e-14cm-1)
The anisotropy is 0.782
【0067】
(4) 顕微FTIRによるグルコース反射計測
爪床部におけるグルコース計測の実現の可能性と必要な計測系の精度を見積もるため、FTIRによる溶液モデルの拡散反射光計測を行った。
【0068】
図14に示すように皮膚散乱を模擬した1.1%ラテックスビーズ溶液に対し、顕微FTIRによって反射光計測を行った。サンプルを純水にしたものを同様に計測し、鏡面反射率とした。ラテックスビーズ溶液の反射率から鏡面反射率を差し引き拡散反射率とした。各測定におけるバックグラウンドはアルミ全反射板においてとった。
【0069】
図15に皮膚散乱模擬ラテックスビーズ溶液拡散反射率を示す。図14に示すように近赤外領域において溶液モデルの拡散反射光はほぼ0%となっている。皮膚の光学特性値を用いたモンテカルロシミュレーションでは全拡散反射率は1.2%という結果になった。集光効率0.26を考えてもオーダー的には一致している。また、1.935μm付近にわずかに水の吸収に一致したピークが見られる。以上から拡散反射光は拾えているものの、計測に使用した顕微FTIRでは皮膚散乱を模擬したラテックスビーズ溶液の拡散反射光量をグルコース信号検出に十分なS/Nで測定することができなかったと予測される。
【0070】
次に、計測系としてどのくらいの感度が必要なのかを見積もるため、拡散反射光を増やすため強光散乱体としてアルミナを用いて計測を行った。
【0071】
50%Al2O3、グルコース濃度50g/dlとした水溶液モデルに対し顕微FTIRによって反射光計測を行った。ラテックスビーズ溶液と同様の方法で拡散反射率を算出した。図16に50%アルミナ溶液の拡散反射率を示す。
【0072】
吸光度になおし引くことでグルコース由来吸光度を求めた。図17にグルコース由来吸光度を示す。透過で求めたグルコース吸光スペクトルとピーク位置が一致した。その時のS/Nは波長2.1μm、ピーク値で2.3であった。
【0073】
(5) 爪下毛細血管におけるグルコース計測へ向けたS/N向上の検討
以上の実施例の結果を元に爪下毛細血管におけるグルコース計測について検討した。
まず、実際の爪下毛細血管における拡散反射光中のグルコース光吸収信号比率を推算した。最も簡単な場合として、組織中の光吸収体を水とグルコースに限定した場合、組織中での光路に関わらず、水とグルコースの吸光度の比はグルコースの濃度のみに依存する。そこで、水と皮膚散乱模擬ラテックスビーズ溶液及びアルミナ溶液の拡散反射光における水の吸光度(ピーク:1.935μm、ベースライン:2.24μm、1.83μm)から皮膚散乱模擬ラテックスビーズ溶液におけるグルコース測定時のS/Nを見積もった。図18に各溶液モデルの水の吸光度比較の結果を示す。
【0074】


【0075】
そしてこれは50g/dLに対しての結果であるので目標とする正常血糖値100mg/dLにおいては


【0076】
さらに実施例1より爪下毛細血管面積比率は0.44なので
5.8×10-4×0.44=2.6×10-4
となり、100mg/dLをS/N=1で計測するには3.8×103のS/N比の改善が必要になることが判明した。
【0077】
次に、S/N比を目指し、現在のFTIR計測系について検討を行った。ノイズとなっているのはFTIR自体のノイズが主因である。S/N比の改善にはシグナルを増やす、ノイズを低減するという2つのアプローチが考えられるのでそれぞれについて検討した。
【0078】
シグナルを増やすためには大きく分けて、集光効率を高めることと入射光量を増やすことが考えられる。まずは集光効率について検討した。
【0079】
図14に示すようにFTIRの集光系はカセグレイン鏡によってなされている。その視野角は16.4 - 35.7degに限定されている。
【0080】
モンテカルロシミュレーション(Oregon Medical Laser Center、http://omlc.ogi.edu/software/mc/index.html)によって拡散反射光の角度依存性をシミュレーションし、FTIRの集光効率を算出した結果を図19に示す。図19から全角度積分値に対する視野角分の積分値の比を取ると集光効率は0.26であった。すなわち集光効率では3.8倍のシグナル増加が可能であることが示された。
【0081】
次に入射光量について検討した。FTIR光源は1300℃のセラミック光源で黒体放射スペクトルは図20のようになっている。試料室に入ってくる光の総出力をサーモパイルで測定したところ74mWであった。各波長における相対値から2.1μmの出力を算出すると1.5×10-2 mW(波長幅約0.4nm)であった。これを仮に3000Kのタングステンハロゲンランプにすると放射率を同じとした場合8.1倍になる。
【0082】
さらに、検出器について検討した。
【0083】
現在使用しているMCT検出器の最大感度波長は10μm付近であり、2μm付近において比検出能力D*は3×108程度であるが、2.5μm付近に最大感度波長を持つPbS素子などは2μm付近で3×1011のD*を持つ。単純に考えると検出器を近赤外用にすれば1000倍程度のS/Nの向上が見込まれる。図21に各光検出素子の検出能力の比較を示した(浜松ホトニクス社ホームページより)。
【0084】
以上をまとめると最大で3.08×104のS/Nの改善が見込まれ、グルコース濃度にして±12.3mg/dLの精度まで計測できると予測される。
【0085】
〔実施例2〕 爪甲のケラチン、水による外乱の検討
(1)サンプル処理
ヒト(4個体)から採取した爪甲の背側、腹側の両面をサンドペーパーで研磨し、7つの試料を作成した。
各試料を湿度14%(LiCl飽和水溶液)、48%(MgCl飽和水溶液)、67%(NaBr飽和水溶液)、77%(NaCl飽和水溶液)、85%(KCl飽和水溶液)、96%(純水)の湿度が異なる6種類の環境下にそれぞれ20時間放置することで試料の含水量を変化させた。試料の重量を計測することで、外挿した湿度0%の重量からの増加分を含水量とした。
【0086】
(2)赤外透過率測定
赤外分光装置は日本分光製FTIR‐620を用いた。付属顕微鏡システムIRT-30の光学系を用いて試料の赤外透過率を測定した。7つの試料を元に得られたスペクトルをLambert-Beerの式により減衰係数スペクトルに変換した。図22は湿度14%に放置した各試料の減衰係数スペクトルである。同湿度での含水率は2%程度であるので図22のスペクトルはほぼ爪甲中ケラチンのスペクトルと考えてよい。いくつかのピークはケラチンの吸収ピークであり、ベースラインは散乱の影響により変化すると考えられる。各スペクトルを比較すると個人間においてベースラインの差が大きくケラチン繊維の散乱に個人差が存在すると考えられる。この個人差はたとえばプローブを通した光計測時には集光効率に個人差が生じると思われる。
【0087】
図23は各湿度環境下に放置した各試料の減衰係数スペクトルの一例である。湿度に依存して1.935μmの水の吸収ピークが増大している。それに伴いグルコース計測波長である2.1μm付近においても減衰係数が増大している。厚さ0.4mmの爪甲を通したグルコース計測を模擬し、ノイズに換算すると1%当り101mg/dlになると見積もられた。
【0088】
〔実施例3〕爪甲外乱補正の検討
(1) 研磨による散乱の減少
図24に爪研磨の有無による減衰係数変化を示す。いくつかのピークはケラチンの吸収と水の吸収(波長1.9μm付近)によるものである。ベースラインは主に散乱の影響によって上下する。研磨後のほうが減衰係数が小さい。同じサンプルを用いており、各ピークの様子は同じことから吸収には差は生じていない。ベースラインが下がっていることは研磨したことで爪表面における散乱が減少したと考えられる。
【0089】
(2)ケラチン、水の含量モニタによる補正
図23の爪甲の減衰スペクトルにおいて、吸収ピークのうち水の吸収の極小域である2.177μmの吸収ピークの値からケラチンの単位光路長あたりの含有量を推定できる。グルコース測定波長域におけるケラチンの吸収スペクトル、実際の測定時の光路長と合わせれば爪甲中ケラチンの光吸収を見積もることが可能である。
【0090】
2.235μmの減衰係数を基準値とし、ケラチンの吸収ピーク2.177μmの吸収値Pkと水の吸収ピーク1.935μmの値PWの比、PW /Pkの値を縦軸に、その時の含水率(重量法計測)を横軸にとり、プロットした(図25)。その結果、線形の傾向を示し、R2=0.9644、SEP=1.68%(含水率)となり、よい相関を示した。
【0091】
上記結果から爪の含水率を推定することが可能であり、グルコース測定波長域における水の吸収スペクトル、実際の測定時の光路長と合わせれば爪甲中水の光吸収を見積もることが可能である。厚さ0.4mmの爪甲を通したグルコース計測を模擬し、上記結果より爪甲中水の光吸収を補正したとき、その標準偏差は±85.4mg/dlとなる。爪甲を削り薄くするなどの工夫により目標とする±10mg/dlを達成する可能性は十分にある。
【0092】
〔実施例4〕爪甲を通して血中物質を測定するための爪甲の蒸散
(1) 爪甲蒸散における最適な照射条件の検討
(1-1)パルスエネルギー密度と蒸散深度の関係
爪甲蒸散用のコヒーレント光源として、波長193nm、パルス幅15nsのArFレーザ C3470(浜松ホトニクス、静岡)を用いた。パルスエネルギー密度を50〜1250mJ/cm2・pulseの範囲で変化させ、2Hzで爪甲に照射した。爪甲サンプルは20代男性4人(A:3サンプル、B-D:1サンプル)の計6サンプル使用した。
【0093】
一般的に、蒸散深度に関しては、以下の式で与えられることが知られている。


μa:吸収係数[mm-1]
Fo :照射フルエンス[mJ/cm2]
Fth:蒸散閾値[mJ/cm2]
【0094】
結果を図26に示した。横軸にパルスエネルギー密度の対数表示、縦軸に蒸散深度をとり、上式の形になるように近似曲線を描いたところ、y=0.154Ln(x)-0.652という関係が得られた。これらの相関係数は0.9であり、高い相関関係があることが確認された。また、標準誤差は約±0.03μmであり、レーザを用いることにより、精度の高い爪甲蒸散が可能であることが示唆された。
【0095】
(1-2) 蒸散部位の表面観察
(1-1)により蒸散した爪甲の蒸散部位の表面を観察した。
図27及び図28に表面の画像を示す。
85mJ/cm2で照射した際、蒸散部位に凸凹が観察された。
226mJ/cm2以上で照射した際、蒸散部位が平らになっていることが観察された。このことは、適切なパルスエネルギー密度を選択することにより、蒸散面を平坦に蒸散出来ることを示している。
【0096】
光を用いた計測を行うため、蒸散後の蒸散部位は平らであることが望ましい。このことから、爪甲の蒸散には、少なくとも85mJ以上のフルエンスで照射することが適していることが示唆された。
【0097】
(2) 蛍光計測による蒸散制御に関する検討
(2-1) プルーム発光と蛍光の分離
蒸散中には蒸散によってプルームと呼ばれる粒子群が個体から大量に放出される。蒸散中にはこのプルームからの発光も起こり、蛍光計測の妨げになる。よってまずはこのプルーム発光と蛍光を分離するため、照射エネルギー密度に対する爪の発光スペクトルを計測した。
【0098】
図29に蒸散中蛍光スペクトル計測システムの概略を示した。ArFエキシマレーザ29から出射した光(波長193nm)をSiO2レンズ28(シグマ光機、東京)により爪サンプル27上に集光し、蛍光36をBaF2レンズ(応用光研工業、東京)35及びUVグレードファイバ34により導光し、冷却CCD分光器 BTC-112E (B&W TEK、USA)32で計測した。パルス発光を観測するためパルスディレイジェネレータDG535 (Stanford Research System, USA)31によりエキシマレーザ29とCooled CCD分光器32の間に遅延を設けてトリガをかけた。また、インピーダンスマッチングのために10dBのアテニュエータ30を設置した。
【0099】
図30に各照射エネルギー密度に対する発光スペクトルを示した。300nm〜350nm付近の発光は爪タンパクによる蛍光であり、386nmの光は励起光中の放電による光の散乱光、400nmより長波長側に見られるいくつかの発光ピークはプルームによる発光である。照射エネルギー密度が大きいほどプルームの発光強度は大きくなり、一つの発光ピーク620nmの強度をプルーム発光強度の指標とするとプルームの発光強度は300mJ/(cm-2・pulse)を越えた付近から急激に増大することが分かる。これによりプルーム発光の影響の少ない蛍光計測を行うためには300mJ/(cm-2・pulse)以下の照射エネルギー密度で行う必要があることが示唆される。図31にプルーム発光量(620nm)の励起光強度依存性を示す。図32に226mJ/(cm-2・pulse)における表面状態、表2に各照射エネルギー密度と蒸散深度の関係を示す。これを見ると表面状態も300mJ/(cm-2・pulse)においても平坦であり、経爪甲的グルコース計測時のプローブの圧着も良好であることが示唆された。また、蒸散深さに関しては、爪床部直前まで爪甲を蒸散するのに約1800発の照射が必要であることが示唆された。これは、数分の処理時間に相当する。
【0100】
【表2】


【0101】
(2-2) 爪甲と真皮の蛍光スペクトル比較
爪甲と爪床真皮における蛍光の差異を見出すため、爪甲及び真皮のモデルとして豚の真皮の蛍光スペクトルを計測した。
【0102】
図29に示した計測システムを用いて照射エネルギー密度を257mJ/(cm-2・pulse)とし、爪、及び豚真皮の蛍光スペクトルを計測した。
【0103】
図33に各蛍光スペクトルを示す。爪甲と豚真皮の蛍光スペクトルにおいて波長的な違いは少ないものの、蛍光の強度は豚真皮の方が2倍強大きい。蒸散中において300〜350nmの蛍光強度を観測することで爪甲と真皮の境界が分かることが示唆される。
【0104】
〔実施例5〕 経爪甲的グルコース測定
図34に示すように2.1μm光37をアルミ平面ミラー38でサンプル上に照射し、その反射光を金コーティング楕円ミラー(山田光学工業、埼玉)39で集光し、MCT検出器KMPC12-2-J1(Kolmar Technorogies社、USA)46で検出した。赤外放射によるノイズ除去のため、透過波長域0.32-2.6μmのBK7光学基盤(シグマ光機、東京)44を設置し、検出光をオプティカルチョッパー(NF回路ブロック社、神奈川)43により周波数573Hzでチョッピングし、ロックインアンプLI5630(NF回路ブロック社、神奈川)49で増幅しオシロスコープDL708E(横河電機、東京)50に出力した。
【0105】
溶液サンプル42は散乱体として20%イントラリピッド水溶液イントラリポス20%(大塚製薬、東京)を用い、カバーガラス41にはさんだ爪40を上に乗せた。サンプルの爪は23歳女性薬指爪(9mm×6mm)を紙やすりP1000(JIS規格B6010)で両面を研磨し、厚さを調整した。溶液を水としたときの反射光量を爪由来の拡散反射光とし、20%イントラリピッド水溶液の時の拡散反射光から差し引くことで溶液由来の拡散反射光量を算出した。また、10g/dLグルコースを含む20%イントラリピッド溶液からの拡散反射光を計測することでグルコース由来吸光量を求めた。
【0106】
337μm(未処理、薬指爪)のときに比べ、109μm(研磨薄化)の時の溶液由来拡散反射光量は0.44μW増加した。図35に爪厚み109μm時のグルコースの有無による拡散反射光量の差を示す。10g/dLグルコースを含む時には20%イントラリピッド溶液由来拡散反射光量は減少し、グルコース由来の吸光が爪を通して検出されている。
【0107】
爪甲を薄くすることで検出できる爪甲下の拡散反射光量が増え、グルコースが計測できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】爪甲及び爪床の構造を示す図である。
【図2】爪下毛細血管の顕微鏡写真を示す図である。
【図3−1】グルコースの吸収スペクトルを示す図である。
【図3−2】尿素の吸収スペクトルを示す図である。
【図3−3】クレアチニンの吸収スペクトルを示す図である。
【図4】ケラチン及び含水ケラチンの吸収スペクトルを示す図である。
【図5】3波長の光源を用いた爪含水率測定装置を示す図である。
【図6】爪甲の蒸散により穴部が形成された爪甲を示す図である。
【図7】爪甲の蒸散により形成された穴部を利用した血中物質測定法の一例を示す図である。
【図8】爪甲に穴を形成するための蒸散装置の一例を示す図である。
【図9】爪甲蒸散装置の具体例を示す図である。
【図10】爪床部血中物質測定装置の一例を示す図である。
【図11】グルコースの吸収スペクトルを示す図である。
【図12】ラテックスビーズのMie散乱パターンを示す図である。
【図13】ラテックスビーズのP(θ)を示す図である。
【図14】顕微FTIRによる溶液モデルの反射光測定系を示す図である。
【図15】皮膚散乱模擬ラテックスビーズ溶液拡散反射率を示す図である。
【図16】50%アルミナ溶液の拡散反射率を示す図である。
【図17】50%アルミナ、50g/dlグルコース溶液中のグルコース由来吸光スペクトルを示す図である。
【図18】皮膚散乱模擬溶液及びアルミナ溶液の水の吸光度の比較を示す図である。
【図19】皮膚散乱模擬液における拡散反射光角度依存性を示す図である。
【図20】各光源温度における黒体放射スペクトルを示す図である。
【図21】各光検出素子の検出能力の比較を示す図である。
【図22】湿度14%に放置した各爪試料の減衰係数スペクトルを示す図である。
【図23】爪の含水率と減衰係数スペクトルの関係を示す図である。
【図24】爪研磨の有無による減衰係数変化を示す図である。
【図25】爪の含水率とPW /Pk値の関係を示す図である。
【図26】爪甲の蒸散における照射フルエンスと蒸散深度の関係を示す図である。
【図27】爪甲の蒸散における各フルエンス照射時における爪の蒸散部表面画像(拡大顕微鏡)を示す図である。
【図28】爪甲の蒸散における各フルエンス照射時における爪の蒸散部表面画像(電子顕微鏡画像)を示す図である。
【図29】蒸散中蛍光スペクトル計測システムの概略を示す図である。
【図30】各照射エネルギー密度における爪の発光スペクトル(10回平均)を示す図である。
【図31】プルーム発光量(620nm)の励起光強度依存性を示す図である。
【図32】226mJ/cm-2・pulse照射後の蒸散爪甲の表面を示す図である。
【図33】豚真皮と爪の蛍光スペクトル比較(257mJ/cm2/pluse, 10回平均)を示す図である。
【図34】爪甲下グルコース溶液拡散反射光計測システムの概要を示す図である。
【図35】グルコースの有無による20%イントラリピッド溶液由来拡散反射光出力(n=5)を示す図である。
【符号の説明】
【0109】
1 ベース波長用光源
2 ケラチン吸収波長用光源
3 水吸収波長用光源
4 光検出装置
5 演算装置
6 プローブ
7 固定台
8 指
9 爪甲
10 爪床
11 穴部
12 屈折率整合用媒体
13 集光光学系
14 受光手段
15 分光装置
16 制御装置
17 コヒーレント光源
18 爪
19 フッ化バリウムレンズ
20 合成石英レンズ
21 スリット
22 プローブ
23 エキシマレーザ
24 CCD分光器
25 パルスディレイジェネレータ
26 光源
27 サンプル
28 SiO2レンズ
29 エキシマレーザ ArF 193nm (2Hz)
30 アテニュエータ(1kΩ、10dB)
31 パルスディレイジェネレータ
32 冷却CCD分光器
33 スリット(5×5mm)
34 UVグレードファイバ
35 BaF2レンズ
36 蛍光
37 2.1μm光
38 アルミ平面ミラー
39 金コーティング楕円ミラー
40 爪
41 カバーガラス
42 20%イントラリピッド水溶液
43 オプティカルチョッパー
44 BK7光学基盤
45 アパーチャー
46 MCT検出器
47 バイアス回路
48 アンプ
49 ロックインアンプ
50 オシロスコープ




 

 


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