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フロー定量化装置及びフロー定量化方法 - 株式会社東芝
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発明の名称 フロー定量化装置及びフロー定量化方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−90115(P2007−90115A)
公開日 平成19年4月12日(2007.4.12)
出願番号 特願2007−5541(P2007−5541)
出願日 平成19年1月15日(2007.1.15)
代理人 【識別番号】100078765
【弁理士】
【氏名又は名称】波多野 久
発明者 木村 徳典
要約 課題
演算量が少なくて済み、かつ、フロー(組織血流)の実際の挙動をより正確に反映させた高精度なフロー値を求めることができるフロー定量化装置及びフロー定量化方法を提供する。

解決手段
フロー定量化装置は、被検体の血流が組織に拡散する状態を表すモデルに当該被検体の撮像領域の組織の代表的なパラメータを適用して複数の既知のフローのそれぞれに対応する単位ボクセル内のトレーサー量を複数個求める手段と、前記複数の既知フローと前記複数のトレーサー量との関係をノンリニアな式で近似する手段と、前記ノンリニアな式に基づく対応関係を記憶テーブル又は変換式として記憶する手段とを備えたものである。
特許請求の範囲
【請求項1】
被検体の血流が組織に拡散する状態を表すモデルに当該被検体の撮像領域の組織の代表的なパラメータを適用して複数の既知のフローのそれぞれに対応する単位ボクセル内のトレーサー量を複数個求める手段と、
前記複数の既知フローと前記複数のトレーサー量との関係をノンリニアな式で近似する手段と、
前記ノンリニアな式に基づく対応関係を記憶テーブル又は変換式として記憶する手段とを備えたことを特徴とするフロー定量化装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフロー定量化装置において、前記モデルは、前記被検体の撮像領域における血流が組織に拡散するときの血流の内外に少なくとも2つのコンパートメントを設定して当該血流の組織への拡散状態の時間変化を考慮したツー・コンパートメント・モデルであるフロー定量化装置。
【請求項3】
被検体の血流が組織に拡散する状態を表すモデルに当該被検体の撮像領域の組織の代表的なパラメータを適用して複数の既知のフローのそれぞれに対応する単位ボクセル内のトレーサー量を複数個求め、
前記複数の既知フローと前記複数のトレーサー量との関係をノンリニアな式で近似し、
前記ノンリニアな式に基づく対応関係を記憶テーブル又は変換式として記憶することを特徴とするフロー定量化方法。
【請求項4】
請求項3に記載のフロー定量化方法において、前記モデルは、前記被検体の撮像領域における血流が組織に拡散するときの血流の内外に少なくとも2つのコンパートメントを設定して当該血流の組織への拡散状態の時間変化を考慮したツー・コンパートメント・モデルを用いるフロー定量化方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に造影剤を投与することなく、パフュージョン(perfusion:組織血流)又は血管の画像を提供することができるASL(Arterial Spin Labeling)法に基づくイメージングを用いて、フローを簡便な手法で定量化することができるフロー定量化装置及びフロー定量化方法に関する。
【0002】
なお、本発明で説明するASL法とは、広義の意味でのスピンラベリング法の全体を指すこととする。
【背景技術】
【0003】
磁気共鳴イメージングは、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波信号で磁気的に励起し、この励起に伴って発生するFID(自由誘導減衰)信号やエコー信号から画像を得る手法である。
【0004】
この磁気共鳴イメージングの一つのカテゴリーとして、組織のパフュージョンを評価するスピンラベリング(spin labeling)法、すなわちASL法が知られている。このASL法は、被検体に造影剤を投与することなく、つまり非侵襲の状態で、被検体の血管像やmicro circulation(灌流)を反映させたパフュージョン(組織血流)像などを提供する手法であり、近年、これに関する研究が盛んに行われている。とくに、頭部の脳血流(CBF)を中心に臨床応用も進んでおり、血流量の定量化も可能になりつつある。
【0005】
ASL法は、「continuous ASL(CASL)法」と、「pulsed ASL(PASL)法」(dynamic ASL(DASL)法とも呼ばれる)とに大別される。CASL法は、大きな連続的なadiabatic RFを印加する手法であり、血管内のスピン状態をある時点でラベル(磁化)して、このラベルされた血液のボーラスがイメージングスラブ(観測面)に達した後の信号変化をイメージングする。一方、PASL法はパルス状のadiabatic RFを印加する手法であって、血管内の磁化を常に変化させ、磁化された血流を持続的に受けている組織をイメージングすることでその組織のパフュージョンを評価する。このPASL法は、臨床用のMRI装置でも比較的簡単に実施することができる。
このASLイメージングでは、一般に、コントロールモード及びラベル(タグ)モードの2画像が生成される。タグモードとコントロールモード夫々において得られた画像データは、それら画像間の画素毎の差分演算に処せられる。この結果、イメージングスラブに流入する血液の情報、すなわち灌流を表すASL画像が得られる。
【0006】
このようなASLイメージングにより、フロー(組織血流)を定量化しようとする試みが知られている。その一例を説明する。
【0007】
フローfは、一般的には、Bloch方程式と呼ばれる方程式から導出される(例えば、“MRM 35:540-546(1996)、C.Scwarzwauer et al”参照)。フローfが在る場合の縦緩和のBloch方程式は
[数1]
dM/dt=(M−M)T1+f・(M−M/λ) ……(a)
で表される。ここで、
λ:水の脳血液分配係数(=0.9〜1)
M:組織画像値
:動脈血の縦磁化密度
:飽和時の組織画像値(プロトン密度画像)
T1:組織T1値
である。また、
1/T1app=1/T1+f/λ ……(b)
である。ここで、T1appは見かけのT1である。
【0008】
そこで、タグモード及びコントロールモード夫々にて画像を得て、フローfを算出する。すなわち、M及びT1をピクセル毎に計測して、血液のT1(=T1:添え字aはarteryを意味する)が組織のT1と同じであると仮定して解くと、フローfは
[数2]
f∝λ・ΔS/{2・TI・M・exp(−TI/Tapp)}
……(c)
ただし、ΔS:ASL画像値(=Scont−Stag
TI:反転時間
で表されることが報告されている。
【0009】
しかし、上述した(c)式に拠るフローFを算出するには、現実問題として、M及びT1をピクセル毎に計測する必要があり、計測の手間とデータ数が多くなるばかりか、演算量が膨大で、演算時間も長くなる。
【0010】
さらに、撮影の時間差がある多数枚の画像データを用いるので、体動に因るミスレジストレーションなどが生じ、この点からも誤差混入に因る計測精度の劣化が指摘されている。
【0011】
このように、従来のフロー(組織血流)の定量化法を実際の臨床に応用するには種々の不具合があるため、これらを解決した現実的な対応が可能な定量化法が要望されていた。とくに、一般の急性期梗塞などの患者に適用する場合、フローを短時間にかつ簡便に定量化できる必要がある。
【0012】
かかる状況に鑑みて、ASLイメージングに拠るイメージングスラブからの収集データの量を必要最小限に止めることができ、その収集データからリニアなスケーリングを行うことにより、イメージングスラブのフロー(組織血流)を簡単に定量化する手法が特開平11−375237号公報(特許文献1)で提案されている。
【特許文献1】特開平11−375237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述した公報に記載のフロー定量化は、Bloch方程式が基礎としていた“single-compartment model”(シングル・コンパートメント・モデル)をそのまま引き継いだ手法であった。この“single-compartment model”は、「ASLにおけるトレーサーである水は完全な拡散性を有するという仮定に基づいている。すなわち、「組織に運ばれてきた動脈血流中の水のスピンは、速やかに組織内に移行して組織のT1値に変化する」前提条件に基づいている。
【0014】
しかし、実際には、上流の動脈血流をラベリングしてからデータ収集開始までの時間(TI時間(実際は1〜2sec程度))の間に、そのような条件が完全に満たされることはない。それは、毛細血管床に留まっている水スピンが毛細血管外に比べて多いからである。このため、上述したフローの定量化値には、“single-compartment model”に拠る前提条件が完全に満たされないことに因る計測誤差が含まれ易いことから、より高精度なフロー化の手法が望まれていた。
【0015】
一方、文献“Jinyuan Z,David AW, Peter CM:Two-compartment model for perfusion quantification using Arterial Spin Labeling, Proc. Intl. Soc. Magn. Reson. Med., 2000;8, 166”にみられるように、“single-compartment model”よりも正確なモデルの検討も進んでいる。このようにモデルが複雑化するにつれて、フローの定量化に必要なパラメータの数も増加し、演算がますます複雑になっている。
【0016】
一方で、実験的にはASLの信号強度(ASL signal)と血流量はほぼ線形の相関があることは動物実験などでは報告されている。
【0017】
本発明は、上述した従来のASL法に拠るフローの定量化法に鑑みてなされたもので、演算量が少なくて済み、かつ、フロー(組織血流)の実際の挙動をより正確に反映させた高精度なフロー値を求めることができるフロー定量化装置及びフロー定量化方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
最初に、本発明における用語を明確化しておく。
【0019】
「フロー」は、イメージングスラブを脳に置いて求めることが多く、正式には“CBF:cerebral blood flow”のことを指すが、頭部以外の臓器にも適用可能な量であるので、組織血流(regional blood flow)の量の意味に用いられ、一般化してフローf[ml/100cc/min]と呼ばれる。また、「フローの定量化」とは、画素毎にフローの定量化情報(血流量など)を求めることであり、血流量の画像をフロー画像として提示する態様もこれに含まれる。
【0020】
本発明によれば、造影剤を用いないで、非侵襲的に、ASL法に基づき得た、原則として1枚のASL画像にリニアなスケーリング又は高次式基づく変換を施すことで、フロー(組織血流)の定量化情報を得ることができる。このスケーリングに用いるスケール値(スケーリング値)又は変換に用いる値は事前に算出しておくか、その都度、レファレンスファントムの画像値から算出される。
【0021】
以下、本発明に係る簡便且つ高精度なフロー定量化を実現するために、本発明者が行ったシミュレーション及び実験の結果を説明する。このシミュレーション及び実験は、ASLイメージングにおける局所脳血流量の定量化の根拠を提示するものである。
【0022】
[I]シミュレーション
[A]シミュレーションの目的
このシミュレーションでは、臨床応用可能な簡便かつ定量的ASLイメージングの実現を目的として、ASLでの水をトレーサーとしたモデルに比較的近いとされるtwo-compartment modelを用いて、パルス法によるASL(PASL)イメージの信号強度と血流量や他のパラメータとの関係などについて、Cold Xenon-CT(Xe−CT)やPositron Emission CT(PET)など他のモダリティにおけるモデルとも比較しながら、シミュレーションによる理論的検討を行う。また、このシミュレーションでは、実験的にも、頭部ボランティアにてXe−CT画像とPASL法により得られた画像(PASL画像)との相関をとることにより、単一のTI時間で得られたASL信号とCBFとの関係から、単純にスケーリングするという本発明者の着想の妥当性について検討した。
【0023】
[B]シミュレーションの方法
(B1)モデル
このシミュレーションに用いたtwo-compartment modelを図1に、このモデルで採用したパラメータの定義を以下に示す。
/Q:血管内/血管外、各コンパートメント内のトレーサーの量、
:単位ボクセル内トレーサーの総量(Q=Q+Q)、
/V:血管内/外、各コンパートメントの体積(V+V=1とする。)、
:動脈血中のトレーサー濃度(モデルへの入力関数)、
f:単位あたりの血流量、
PS:Permeability Surface Area Product of Water(トレーサーが単位ボクセル内で単位時間に血管の内側から外側へ漏れる量で[ml/100cc/min]で表される。)、
T1/T1:血管内/血管外各コンパートメントでのT1緩和時間、
λ:トレーサーの血液組織分配係数(M0i:血管内の水の定常状態での縦磁化密度、M0e:血管外の水の定常状態での縦磁化密度、とするλ=M0e/M0i)、
t:ラベリング後の時間(=TI)、
とする。
【0024】
各コンパートメントにおいて微小時間dt間で残存するトレーサーの量dQ及びdQはトレーサーが微小時間dt間でコンパートメントへ入った分と出た分との差となるというFickの原理に基づき記述すると、コンパートメント各々についてのトレーサーの量の時間的変化は、
[数3]
dQi/dt = fCa-(f/Vi)Qi+(PS/(λVe))Qe-(PS/Vi)Qi-(1/T1i)Qi ……(1)
dQe/dt = (λPS/Vi)Qi-(PS/Ve)Qe-(1/T1e)Qe ……(2)
と表せる。これをQ、Qについて解くと、Q=Q+Qがトレーサー信号強度に比例する単位ボクセル内の総トレーサー量となる。
【0025】
ASLイメージングではトレーサーとして水を用いているが、水は拡散性トレーサーとはいえず、血管から組織へ移行する度合いを表すPSが有限であり、そのため単位ボクセル内で血管内・血管外の2つのコンパートメントに分ける。ASLはPETにおける水トレーサー、H15Oを用いた場合と類似している。しかし、PETの水トレーサーでは緩和時間が2分程度と長く、2つのコンパートメント内で一様とみなせるのに対して、ASLイメージングではトレーサーの緩和時間が秒単位と短く、かつ血管内外で異なることがPETに比べてモデルを複雑にしている。
【0026】
また、single-compartment modelで解析されているXe−CTで用いられるcold xenonは、数分の測定時間のオーダーでは拡散性トレーサーとみなしてよいとされ、さらに緩和もない。Xe−CTやPETでは呼気からの吸入や経静脈的にトレーサーを注入するため、入力関数C(t)は、組織での応答関数には肺の影響が入る。これに対し、ASLでは、動脈に対するC(t)は、RF波により脳内の動脈へ直接に与えられる。Xe−CT、PET、及びASLにおける血流からみた組織モデルは、いずれの場合も、図1に示したtwo-compartment modelにおけるパラメータのうちλの差を無視すれば、T1、T1、T1及びPSの違いとして表現できる。
【0027】
(B2)条件
対象は、脳組織の血流量として、灰白質(GM)と白質(WM)の代表的なパラメータを設定した。但し、いずれもトレーサーが関心組織へ到達する遅れ時間は無視し(即ちτ=0)、C(t)はT1=T1=∞、PS=∞における平衡状態でのトレーサー濃度との相対濃度で与え、PETやXe−CTでのC(t)は、実際とは大きく異なるが、組織でのQ(t)をASLと比較するために動脈にトレーサーを直接、ステップ関数状に入力したものとし、またASL画像の単位ボクセル内の信号強度(ASL signal)は、トレーサー濃度、すなわち単位ボクセル内のトレーサー量に比例するものとした。
【0028】
具体的には、V=0.03(CBV=3%)、f=80[ml/100cc/min](GMのとき)、f=20[ml/100cc/min](WMのとき)は共通とし、入力関数は一般化して、
A:ラベリング効果を表す係数、
T1:ラベル部の動脈血のT1緩和時間、
τ:動脈入力関数計測部分から関心組織に到達するまでの遅れ時間(transmit delay time)、
tec:ラベリング時間幅(tag duration time)
のとき、
[数4]
Ca(t)=A*exp[-t/T1a] (τd<=t<Ttec+τdのとき)
Ca(t)=0 (上記以外のとき)
……(3)
と仮定した(図2(a)参照)。この仮定に基づき、Xe−CT、PET、及びPASLのそれぞれに対して、パラメータを以下のように与えた。
【0029】
(a)Xe−CTのとき
A=1、T1=T1=T1=∞、PS=∞、λ=1、τ=0、Ttec=∞とする。
この場合、(1)式及び(2)式より
[数5]
dQt/dt=f(Ca-Cv)=f(Ca-Ct/λ) ……(4)
ただし、Cv=Qi/Vi
と簡略化される。
【0030】
(b)水(H15O)のPETのとき
A=1,T1=T1=T1=120sec,PS=130[ml/100cc/min],λ=1,τ=0,Ttec=∞とする。
【0031】
(c)PASLのとき
A=1,T1=T1=1.2sec,T1=0.7/0.9(WM/GM)sec,PS=130[ml/100cc/min],τ=0,λ=0.82/0.98(WM/GM)[16],τ=0,Ttec=∞とする。
【0032】
[C]シミュレーションの内容
(1)式及び(2)式の微分方程式を解いて、下記の検討を行った。
【0033】
(C1)各モダリティにおけるトレーサーの時間的変化:
PASL、水トレーサーのPET、Xe−CTの3種類の方法における血管内外のコンパートメント及び全体のトレーサー量についての時間的変化を調べた。
【0034】
(C2)トレーサー信号強度(ASL signal)と血流量fとの関係:
血流量f以外のパラメータを一定とした場合、トレーサー信号強度は真の血流量fにどの程度相関するかということについて、血管透過性を表すPSをパラメータとして、single-compartment model(PS=∞に相当)とtwo-compartment modelの各々について比較した。なお、single-compartment modelは、two-compartment modelにおいてPS=∞に設定したモデルに対応する。
【0035】
(C3)パラメータの変動に因るトレーサー信号強度の変化:
脳組織に対して、測定毎には計測しないモデルパラメータを一定と仮定することに因る誤差はどの程度であるのかということについて調べた。GMの条件を基準に、PSをパラメータとして、トレーサー信号強度と血管外でのT1緩和時間T1e、血流量を表すVi、及びトレーサーの血液組織分配係数λとの関係について、さらに図3に示すように、血管信号を低減するために用いられるタグIRパルス(Tag−IR)の印加からラベリング時間幅Ttec後にタグ部にプリサチュレーションパルス(Presat(Tag End Cut(TEC)と称す)の有無による遅れ時間τd及びパラメータTてcと、トレーサー信号強度との関係についても調べた。
【0036】
(C4)リニアスケーリング法によるCBF定量化:
two-compartment modelに基づき、GM、WMのパラメータを与えて求めたトレーサー信号強度(Qt)を理論値として、この理論値と同一のトレーサー信号強度を与えるCBFを、single-compartment model、及びリニアスケーリング法(linear scaling method)について算出した。
【0037】
リニアスケーリング法ではWM及びGMの理論値の2点を直線近似して、以下の(5)式のkを求め、CBFは(6)式により算出した。
[数6]
ASL signal=k*CBF ……(5)
CBF=K*(ASL signal)、但しK=1/k ……(6)
【0038】
[D]PASL及びXe−CTの実測データをリニアスケーリング法によるCBF定量化
(D1)測定対象は、Xe−CT及びPASLとも同一スライスで同一日にイメージングした正常ボランティア9名
【0039】
(D2)ASLイメージングには、(株)東芝製の1.5T MRI装置を用いた。PASL法によるイメージングは、具体的には、ASTAR法を使用した。このASTAR法は、例えば文献「木村徳典:Modified STAR using asymmetric inversion slabs(ASTAR)法による非侵襲血流イメージング、日磁医誌 2001;20(8),374-385」に見られるように、EPISTAR法(文献「Edelman RR et al.,:Qualitative mapping of cerebral blood flow and functional localization with echo-planar MR imaging and signal targeting with alternating radio frequency,Radiology 1994;192:513-520」参照)を変形して構成された手法である。つまり、コントロール部とタグ部を空間的に非対称に配置することにより、MT効果をキャンセルしつつ、頭頂側から流入する不要な静脈内の血管信号を低減できるようにしたASL法である。
【0040】
また、イメージングは、頭部用送受信QDコイルにて受信ゲインを固定するとともに、2D Fast Gradient Echo(FFE)法(TR/TE/FA=9ms/3.6ms/15deg,TI=1400ms,FOV=25.6cm,スライス厚=10mm,シングルスライス)、タグ厚=10cm,slice-tag gap=1cm,Ttec=800msという撮像条件にて行った。このシーケンスの概要を図3(a)に、各スラブの撮影位置を図3(b)にそれぞれ示す。得られるASL画像のASL信号は、タグ画像とコントロール画像の信号差の絶対値、すなわち流入血流の信号強度とした。
【0041】
(D3)Xe−CT:CTは短時間吸入法(wash-in/wash-outプロトコル)を用いて、30%Xenonガスを3分吸入、1分ごとに8分間、計9スキャン測定した画像を使用した。
【0042】
(D4)解析:前頭葉皮質、前頭葉白質、視床、後頭葉皮質、後頭葉白質、及び半球の左右対称にROIを同一位置及び大きさで設定し、平均値を測定した。
【0043】
Xe-CT CBFとASL信号の相関から、シミュレーションと同様に(0、0)を通る直線近似の(5)式を計算して比例定数kを求める。この後、K=1/kとしてASL信号を(6)式によりスケーリングして、CBF値に換算した。なお、相関係数の算出には前頭葉白質、後頭葉皮質、視床を用いた(被検者数N=9、ROI数n=54(9x3x2))。さらに、各組織単位でのXe-CT CBF及びASL CBFの平均値及びSDをそれぞれ計算し、その平均値及びSDの各々においてXe-CT CBF及びASL CBFを相互に比較した。またXe-CT CBF画像とASL CBF画像による同一スケーリングでの表示を行った。なお、Xe-CT画像は、ASL CBF画像と同じ解像度で表示されるようにスムージングフィルタを使用した。
【0044】
[E]結果
(E1)各モダリティでのトレーサー信号強度(ASL signal)の時間的変化を図3に示す。
【0045】
(a)Xe-CTの場合:トレーサーが拡散性で緩和がない場合(PS>>f, T1=T1=∞)の場合
この場合には、トレーサー信号強度(ASL signal)は時間の経過に従って指数関数的に増加し、3分程度で平衡に達するが、図4(a)に示すように、時間が短い範囲(10sec以下)ではほぼ時間に対して線形の関係にあると、みなすことができる。血管内外のトレーサー量の比は常に血管内外の体積比と同じである。つまり、Q/Q=V/Vの関係が成り立つ。
【0046】
(b)水(H15O)のPETの場合:トレーサーが水で緩和が小さい場合(PS≒f,T1=T1>>t)の場合
図4(b)に示すように、トレーサーの注入直後にあっては、血管内トレーサー量は血管外のそれに比べて小さいが、時間経過とともに増加して2sec程度で同一になり、平衡時には血管内外でのトレーサー濃度が同じになり、血管内外の体積比に近づく(Q/Q→V/V)。このため、PETの測定時間のオーダー(分)では血管内外は平衡に達しているとみなすことができる。
【0047】
(c)PASLの場合:トレーサーが水であり、緩和が大きい場合(PS≒f,T1=1.2s,T1=0.9s)の場合
この場合の測定結果を、図4(c)に示す。MRIのASLではPETの水に比べて緩和がひと桁以上大きいこと、及び、PASLではトレーサー信号強度はt=1sec付近にピークを有する特性を示すため、測定時間は2sec以下にせざるを得ないが、トレーサーの濃度はその時刻では未だ平衡に達しておらず、トレーサー量の割合は血管内に比べて血管外の方が小さい(Q/Q>V/V)。
【0048】
(d)PASLでPS=∞、且つ、他の条件はc)と同一とした場合
この条件は、PS=∞、すなわちトレーサーがボクセル内に均一に拡散するとしたsingle-compartment modelに相当し、短時間でも血管外成分がほとんどを占めることになる。図4(d)に示すように、トータルのトレーサー信号強度は実際に近いPSを用いた場合に比べて多少大きくなる。
【0049】
(E2)トレーサー信号強度と血流量fの関係
血流量fに対するトレーサー信号強度(ASL signal)の変化について、図5にt=1.4sでのPSをパラメータとした曲線を示す。
【0050】
PS>>fの場合、single-compartmentに近似できるため、ラベル後の測定時間tを固定(PASLでの例でt=1〜2sec)すると、トレーサー信号強度はフローfに比例する。これに対し、two-compartment modelを用いたPASLの場合、トレーサー信号強度はPSが小さいほど高いフローで小さくなる。この結果、図5に示すように、上に凸の特性になる。しかしながら、トレーサー信号強度ASL信号とフローfは脳血流の0〜100[ml/100cc/min]の範囲ではほぼ比例関係にあるとみなすことができる。但し、これはGMのT1の条件でみたものであり、WMでのASL信号はT1が短い分、これより若干小さくなる。
【0051】
(E3)ASLにおけるトレーサーの信号強度と他のパラメータ関係
(a)トレーサー信号強度と血管外T1緩和時間T1の関係
図6(a)に示すように、PSが大きいほど、すなわち血管外への透過率が大きいほど、血管内のトレーサー成分Q(t)より血管外のトレーサー成分Q(t)の割合が増加するため、T1の変動に対するトレーサー信号強度(ASL signal)の変化率は大きくなるが、脳組織(PS=130[ml/100cc/min])では、例えばt=1.4sの場合GMのT1をWMのT1と同一と仮定したとしてもトレーサー信号強度は約5%低下するだけであるが、PS=∞としたsingle-compartment modelでは17%も変化してしまう。
【0052】
(b)トレーサー信号強度の血管床体積Vとの関係
図6(b)に示すように、ASLのPS=130[ml/100cc/min]において、トレーサー信号強度(ASL signal)は、V<0.02では多少小さくなるものの、V>0.03ではあまり変化しない。人体の脳で採り得るとされるV=0.02〜0.05の範囲においてトレーサー信号強度は20%程度の変化である。
【0053】
一般に、PS>>fの場合、血管内外での緩和が同一ならば全体の信号に占めるVの寄与は単純にV分だけであり、かつ時間的にも一定(Q(t)/Q(t)=V/V)である。つまり、単位体積あたりの全体の総和ではVが変化しても一定である。しかし、水PETやASLのようにPSがfと同程度だと時間的に変化し、定常状態では体積比に近づく(Q(t)/Q(t)>V/V:tが短いとき、Q(t)/Q(t)→V/V:t→∞のとき)。
【0054】
トレーサー注入後の時間が短いほど、かつPSがfに比べ小さいほどトレーサーが血管内に残存する割合は大きい。よって、全体に占める血管容積であるV内の信号の寄与が大きくなる。図4(c)に示すように、ASLでの測定時刻1〜2secではV=0.03程度であっても、全体の半分以上がV内からの信号である。
【0055】
(c)トレーサー信号強度とトレーサーの血液組織分配係数λとの関係
図6(c)に示すように、PSが大きいほど血管外の信号成分Qが相対的に大きくなるので、トレーサーの血液組織分配係数λの変動によるトレーサー信号強度(ASL signal)の変動も大きくなる。λ=1とした場合のトレーサー信号強度は正しいλでのトレーサー信号強度の(Q+Q/Q+λQ)倍になる。水のλはGMで0.98、WMで0.82とすると、λ=1とした場合、GMではほとんど問題とならず、WMではt=1.4sでトレーサー信号強度の誤差は6%、過大評価され、CBF換算で1.2[ml/100cc/min]程度である。
【0056】
(d)Tag End Cut(TEC)のパラメータとトレーサー信号強度の関係
Tag End Cut(TEC)を用いた場合と用いない場合に対する、トレーサー信号強度(ASL signal)のGMにおける時間的変化を図7(a)に示し、一方、t=1.4secにおけるGMとWM双方での遅れ時間τとの関係を図7(b)に示す。
【0057】
測定時刻をt>Ttec+τに設定すれば、TECを印加する場合は、それを印加しない場合に比べ、トレーサー信号強度は低下するが、遅れ時間τの変動による影響は軽減される。緩和は遅れ時間τの影響は受けず、ラベル直後(t=0)から始まるため、緩和による信号減衰の方が勝るためである。TECの時間パラメータについて、t>Tec+τを満たすようにTtecはVを満たすだけの動脈血をラベルするに十分な時間幅で、かつ、τがその測定系で最大の時間に対してtを設定すればいいことになる。TECを印加しない場合であっても、t=2.5sec前後にTECを印加した場合のトレーサー信号強度とほぼ同一になる条件がある。しかし、TECを印加すれば、印加しない場合に比べて、測定時刻を短縮できるというTECの利点がある。また、遅れ時間τを無視できない場合でも、t<τの範囲では、組織部分では無信号である。しかしながら、この場合も実際には、ラベルされた血液が動脈内を通過し続けており、これにより高信号化に伴う血管アーチファクトが生じ易い。TECを印加することにより、このような事態を抑制することができる。
【0058】
(e)リニアスケーリング法と各モデルに対するCBF値との比較
CBF値と各モデルに対するトレーサー信号強度(ASL signal)との関係を図8に示す。WM及びGMの各々に対してtwo-compartment modelに基づいて算出したトレーサー信号強度を理論値とし、各方法で理論値と同一のトレーサー信号強度を与えるCBF値の算出結果を図9(a)の表1に示す。
【0059】
Single-compartment modelではCBF値はPS以外の正しいパラメータを与えてもWMで44%大きく、GMで6%小さくなり、特にWMでの誤差が大きい。これはPS=∞としたことに因る血管外成分の過大評価による影響である。linear scaling methodの場合、比例係数はk=5.543*10−5、K=1/k=18041となり、算出されたCBF値は理論値に比べWMで6%大きい程度であり、GMで0.4%小さい程度と十分なレベルである。
【0060】
(E4)実測データによるリニアスケーリング法の評価
図10に示すように、トレーサー信号強度(ASL signal)とXe-CT CBFは良好に相関した。
[数7]
ASL signal=2.43*(Xe-CT CBF)+42.39、
相関係数r=0.803(P<0.001)、n=54)
であった。
【0061】
また原点(0、0)を通る近似直線では
[数8]
ASL signal=3.33・(Xe-CT CBF)、
r=0.768(P<0.001)
と算出された。従って、K=1/k=0.3と算出され、この係数をかけてトレーサー信号強度(ASL signal)から換算したASL CBFとXe-CT CBFの関係のグラフは図11に示すようになった。これに対応するCBF値は図9(b)の表2に示す。また、図示しないが、Xe-CT CBFとASL CBF各画像の例によれば、各組織に関して両画像とも特に視床での標準偏差が大きくなったが、SD/MEANの比では各組織とも20%程度のばらつきであった。
さらに、図示しないが、Tag End Cutのtag時間幅Ttecをパラメータとして得たPASL画像によれば、Ttecの短縮に伴い、下肢側から流入する血液信号が中大脳動脈、小脳および視床で顕著に低減していることが確認された。
【0062】
[F]考察
[F1]single-compartment modelとtwo-compartment modelの違い
single-compartment modelは、トレーサー到達後にボクセル内が瞬時に平衡するモデル、すなわちtwo-compartment modelで血管透過性を表すPSが∞でかつ緩和も一定としたモデルに相当する。ところで、two-compartment modelに基づく実際の装置で得られるトレーサー信号強度(ASL signal)は、フローfが大きくない範囲では、G:送受信系のゲインなど測定装置系に依存した比例係数とし、既出のパラメータを用いて(5)式のkは一般的に、
[数9]
k=GAM0i*function(T1i,T1e,λ,Vi,PS,t,τd) ……(7)
と表わすことができる。近似的には、single-compartment modelの場合、
[数10]
k=0 (t<τdのとき)
k=GAM0i/λ(t-τd)exp[-t/T1e] (τd<t<τd+Ttecのとき)
k=GAM0i/λTtecexp[-t/T1e] (τd+Ttec<tのとき)
……(8)
と表わすことができる。
【0063】
ここでGAM0i/λ=1とすると、シミュレーションと同一スケールになる。本発明者のシミュレーションにおける図4のPSをパラメータとしたトレーサー信号強度(ASL signal)対フローfの特性では、PASLでの人体脳におけるパラメータの条件では幸いにも、血管内外総量のトレーサー信号強度はトレーサーのPSの変化に対し、さほど大きく影響されない。これにより、PASL法を用いた場合、少なくとも人体脳ではPS>>fのsingle-compartment modelと仮定しても大きな誤差は生まないことになる。
【0064】
しかし、本発明者が行った、実際により近いtwo-compartment modelに基づく検討で明らかになったことは、図5に示したようにPASLでの人体脳におけるパラメータの条件の場合、single-compartment modelを用いても計測する必要があるとされているT1やλの違いの影響は、血管外成分の寄与が小さいために比較的小さく、またtwo-compartment modelで影響される血管床容積CBVの寄与も3%以上では小さい。このため、それらのパラメータを一定値としても大きな誤差は生じないから、測定の必要性は少ない。逆に、それらのパラメータを計測してsingle-compartment modelに基づいてT1緩和を補正した場合、過大な補正になり、測定の意味は無いということである。
【0065】
またラベリングに連続RF波を使用するASL(CASL)では入力関数である(3)式のC(t)でtをτに置き換えたものに相当し(図2(b)の入力関数の波形を参照)、別途実施したシミュレーションでは血管内成分の比Q/Qは定常状態で60%程度になり、T1、V、及びλのパラメータの変動によるトレーサー信号強度の変化もPASLの場合と同程度であった。
【0066】
PASL及びCASLともトレーサー信号強度以外のパラメータを測定してもsingle-compartment modelでは過大な補正になることは同じであり、測定するならばtwo-compartment modelを用いるべきである。なお、いずれのモデルにおいても各コンパートメント内がトレーサー到達後、瞬時に一様に均一になるという仮定があるが、トレーサー信号強度が血管内外のトレーサー量を決めるPSにロバストであることから、その影響は小さいと考えられる。
【0067】
[F2]トレーサー信号強度から血流量fへの比例換算の可能性
two-compartment modelに基づいたシミュレーションにより、測定時刻tを固定したトレーサー信号強度(ASL signal)は血流量fとほぼ比例関係とみなすことができ、かつ、T1、V、λ、及びPSなど異なり得るパラメータの影響は人体脳において取りうる範囲ではロバストであることが明らかになった。
【0068】
また、実測データにおいてもシミュレーションでみたように、PASL法のトレーサー信号強度と定量測定法として定着しているXe-CT CBFデータとの間に良好な相関が認められ、ほぼ比例関係にあることが確認された。このため、何らかの方法により一旦、トレーサー信号強度(ASL signal)からCBF値に換算するための比例係数”K”が求められればCBF値に換算可能であることが判明した。
【0069】
kを表す(7)式の係数Gは測定系依存のパラメータで装置及び撮影条件を変えない限り有効であるので、頻回に測定する必要はなく、送受信系の感度などは変化しても現状の装置系の条件での脳組織または静止ファントムでの信号強度を測定しておけば補正可能であると考えられる。
【0070】
今回用いた被検者のコントロール画像の全体の平均値の変動(SD/MEAN)は6%程度である。また、同一スライスレベルを用いたこともあり、送受信系のゲインの影響Gはほぼ無視できていると考えられた。しかし、コイル感度が異なる場合であっても、ゲインGの影響を低減させる方法がある。それは、測定対象の血液でもよいが一般に測定困難なので、血液のプロトン密度とほぼ同一とみなせる正常白質がほぼ定常状態になっているとみなせる十分長く取ったTIによるコントロール画像で縦磁化密度M0iに比例した信号強度S(=G*M0i)を測定し、その比の相対信号強度:ASL signal/Sを用いれば送受信形のゲインGやM0iがキャンセルされより普遍的な係数になる。
【0071】
また必要ならば、トレーサー信号強度から血流量fに換算するのに単純なスケーリングでなくてもよい。例えば、血流量とトレーサー信号強度との関係をテーブル化しておき、このテーブルを用いて、トレーサー信号強度から血流量fをサーチすれば、たとえ非線形であっても定量化可能である。
【0072】
また、ラベルされた血液の経路となる血管内信号を無視できる場合、遅れ時間τの延長に因ってTECを用いない場合はトレーサー信号強度の低下、TECを用いた場合でもトレーサー信号強度の僅かな増大をもたらすが、もしスライス面内で一定なら同一のスケーリング値で換算できる。遅れ時間τについては、白質は灰白質に比べ0.5sec程度延長することは報告されているが、τによる誤差はPASL法ならTag End CutによりTI−Ttec>τに設定すれば軽減されると考えられる。なお実験では遅れ時間τを極力短縮するために、単一スライスを用い、且つ、タグスラブとイメージングスラブのギャップを1cmと狭くしているので、TI−Ttec=1.4−0.8=0.6secとなり、GMとWMのτの差はほぼ無視できると考えられる。
【0073】
次に静脈信号の影響であるが、組織における血液のmean transit timeをMTTとすると、t>MTTではラベルされた水が静脈に到達する割合が増大する結果、ボクセル内の静脈信号の寄与も生じうる。しかし、人体脳ではMTT=2〜5secとされ、さらに血液信号もexp[−t/T1]倍に小さくなるため、t<2secというPASLの条件では問題にならないと考えられる。直接にイメージングスラブ内に入り込む血管信号の影響は、頭部では頭側からの血流はほぼ静脈成分とみなせるのでEPISTAR法やFAIR法を用いずに、足側からの血流のみをラベルするASTAR法などを用いるか、ラベリング後の遅延時間を与えるTag End Cutを用い且つパラメータを適切に設定することなどで軽減される。
【0074】
以上のように、two-compartment modelという、より高精度なモデルを用いたシミュレーションが提供され、このシミュレーションの中で、a)トレーサー量(トレーサー濃度)Qtは、フロー以外のパラメータ(T1e,lambda,Vi(CBV),PS)に対してロバストであること(すなわち、Qt≒function(f)が成り立つこと)、b)TIを用いるだけでも、脳血流のオーダー(<100[ml/100cc/min])の範囲では、ほぼリニアに近似できること(すなわち、Qt≒K・f,K:比例係数が成り立つこと)、c)さらに、2次式で近似すれば、近似の精度がより向上すること(すなわち、Qt=a・f+b・fが好ましいこと)などが判明した。
【0075】
[II]実験
本発明者は、ASL法においてトレーサー濃度からフローfへの簡便な換算法を探るために、別の実験も行った。
【0076】
Two-compartment modelを用い、そのモデルの血管外各コンパートメントにおけるT1緩和時間T1eに対して、灰白質(GM)と白質(WM)それぞれについて、正しいパラメータを入れた場合(#1)のトレーサー濃度Qtを基準として、そのトレーサー濃度Qtを与える各種の態様(#2〜7:モデルとT1eの与え方の違い、及び、スケーリングによる線形変換の場合)についてフローfを算出した(図12参照)。
【0077】
ここで、正しいパラメータとは、WMの場合
[数11]
CBF=20、PS=130、Vi=0.03、T1e=0.7s、lambda=1
であり、GMの場合、
CBF=80、PS=130、Vi=0.03、T1e=0.9s、lambda=1
である。
【0078】
この算出結果を用いて、原点(0,0)、WM、GMのフローfとトレーサー濃度Qtとの理論値(3点)を線形及び2次式で近似した変換式を図13、14に夫々示す。図13はPASL法を示し、一方、図14はCASL法を示す。
【0079】
この結果から、WMの理論値は線形(y=kx)の近似の場合、多少、誤差があるが、2次式(y=ax+bx)の近似にすると、その誤差は小さくなっている。つまり、前述したように、フローfが高い値になるほど、トレーサー濃度Qtはフローfに対する比例関係は崩れ、上に凸の形状を示す曲線になることが分かっている。したがって、このような高い値のフローfの場合には、2次式など高次式による換算の方がtwo-compartment modelに、より良好に近似することが判明した。
【0080】
上述したシミュレーション及び実験から得られた知見に基づいて、本発明は以下のように構成された。
【0081】
さらに、本発明に係るフロー定量化装置によれば、被検体の血流が組織に拡散する状態を表すモデルに当該被検体の撮像領域の組織の代表的なパラメータを適用して複数の既知のフローのそれぞれに対応する単位ボクセル内のトレーサー量を複数個求める手段と、前記複数の既知フローと前記複数のトレーサー量との関係をノンリニアな式で近似する手段と、前記ノンリニアな式に基づく対応関係を記憶テーブル又は変換式として記憶する手段とを備える。
【0082】
好適には、前記モデルは、前記被検体の撮像領域における血流が組織に拡散するときの血流の内外に少なくとも2つのコンパートメントを設定して当該血流の組織への拡散状態の時間変化を考慮したツー・コンパートメント・モデルである。
【0083】
さらに、本発明に係るフロー定量化方法によれば、被検体の血流が組織に拡散する状態を表すモデルに当該被検体の撮像領域の組織の代表的なパラメータを適用して複数の既知のフローのそれぞれに対応する単位ボクセル内のトレーサー量を複数個求め、前記複数の既知フローと前記複数のトレーサー量との関係をノンリニアな式で近似し、前記ノンリニアな式に基づく対応関係を記憶テーブル又は変換式として記憶することを特徴とする。
【0084】
好適には、前記モデルは、前記被検体の撮像領域における血流が組織に拡散するときの血流の内外に少なくとも2つのコンパートメントを設定して当該血流の組織への拡散状態の時間変化を考慮したツー・コンパートメント・モデルである。
【0085】
本発明のその他の態様に係る具体的な構成及び特徴は、以下に記す発明の実施形態及び添付図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0086】
本発明に係るフロー定量化装置及びフロー定量化方法によれば、ASLイメージングにより得られた画像データに基づく量を、予め保管してあるトレーサー濃度とフローとの対応情報に照らして線形及び非線形のスケーリングにより組織血流から成るフローを精度良く、且つ、より少ない測定データ数と演算量で簡便に定量化することができる。
【0087】
特に、血流の組織への拡散状態の時間変化を考慮してtow-compartment modelを用いて濃度とフローの対応情報(例えば変換式又はテーブル)を生成し、保管してあるので、より高精度で且つ簡単な演算でフローの定量化を行うことができる。また、多項式などによる非線形近似によるスケーリングも行えるので、フローの高精度な定量化を行うことができる。
【0088】
このため、従来の収集データや演算量が膨大な、実際には殆ど使用困難な手法に比べて、一般の急性期梗塞の患者などに対して、とくに有効性を発揮する。このフロー定量化を画像表示することで、画像値を使った臨床的に意味のある比較が可能になり、患者毎に又は同一患者の時間経過毎にフロー値の変化を追跡するといった診断法も提供できる。
【0089】
また、当然に、造影剤が不要であるから非侵襲性を維持でき、X被曝も無いといった点でも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0090】
本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0091】
本発明の実施形態に用いられるMRI装置を、図15〜図22を参照して説明する。
【0092】
このMRI装置は、本発明に係るASLイメージングによるフロー定量化装置を兼ねるもので、ASLイメージングを行って、そのイメージング結果を用いたフロー定量化を行う機能と一体に備えた例を示す。別の形態としては、かかるフロー定量化の機能を専用的に備えたフロー定量化装置を備えて、本発明に係るフロー定量化を実施するようにしてもよい。
【0093】
本実施形態に係る、フロー定量化装置を兼ねたMRI装置は、トレーサー濃度Qtからフローfへの変換を、予め格納した記憶テーブルを用いて行うことに特徴を有する。
【0094】
最初に、MRI装置の概略構成から説明する。
【0095】
このMRI装置は、被検体Pを載せる寝台部と、静磁場を発生させる静磁場発生部と、静磁場に位置情報を付加するための傾斜磁場発生部と、高周波信号を送受信する送受信部と、システム全体のコントロール及び画像再構成を担う制御・演算部とを備えている。
【0096】
静磁場発生部は、例えば超電導方式の磁石1と、この磁石1に電流を供給する静磁場電源2とを備え、被検体Pが遊挿される円筒状の開口部(診断用空間)の軸方向(Z軸方向)に静磁場Hを発生させる。なお、この磁石部にはシムコイル14が設けられている。このシムコイル14には、後述するコントローラの制御下で、シムコイル電源15から静磁場均一化のための電流が供給される。寝台部は、被検体Pを載せた天板を磁石1の開口部に退避可能に挿入できる。
【0097】
傾斜磁場発生部は、磁石1に組み込まれた傾斜磁場コイルユニット3を備える。この傾斜磁場コイルユニット3は、互いに直交するX、Y、Z軸方向の傾斜磁場を発生させるための3組(種類)のx,y,zコイル3x〜3zを備える。傾斜磁場部はさらに、x,y,zコイル3x〜3zに電流を供給する傾斜磁場電源4を備える。この傾斜磁場電源4は、後述するシーケンサ5の制御のもと、x,y,zコイル3x〜3zに傾斜磁場を発生させるためのパルス電流を供給する。
【0098】
傾斜磁場電源4からx,y,zコイル3x〜3zに供給されるパルス電流を制御することにより、物理軸としての3軸であるX,Y,Z方向の傾斜磁場を合成して、論理軸としてのスライス方向傾斜磁場Gs、位相エンコード方向傾斜磁場Ge、および読出し方向(周波数エンコード方向)傾斜磁場Grの各方向を任意に設定・変更することができる。スライス方向、位相エンコード方向、および読出し方向の各傾斜磁場は静磁場Hに重畳される。
【0099】
送受信部は、磁石1内の撮影空間にて被検体Pの近傍に配設されるRFコイル7と、このコイル7に接続された送信器8T及び受信器8Rとを備える。この送信器8T及び受信器8Rは、後述するシーケンサ5の制御のもとで、磁気共鳴(MR)現象を起こさせるためのラーモア周波数のRF電流パルスをRFコイル7に供給する一方、RFコイル7が受信した高周波のMR信号を受信し、各種の信号処理を施して、対応するデジタル信号を形成するようになっている。
【0100】
さらに、制御・演算部は、シーケンサ(シーケンスコントローラとも呼ばれる)5、ホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、および入力器13を備える。この内、ホスト計算機6は、記憶したソフトウエア手順により、オペレータが指令した情報を受け付け、この情報に基づくスキャンシーケンス情報をシーケンサ5に指令するとともに、シーケンサ5をはじめとして、演算ユニット10、記憶ユニット11、および表示器12を含む装置全体の動作を統括する機能を有する。
【0101】
シーケンサ5は、CPUおよびメモリを備えており、ホスト計算機6から送られてきたパルスシーケンス情報を記憶し、この情報にしたがって傾斜磁場電源4、送信器8T、受信器8Rの一連の動作を制御する。また、シーケンサ5は、受信器8RからのMR信号のデジタルデータを一旦入力して、再構成処理を行う演算ユニット10にそのデータを転送する。
【0102】
ここで、パルスシーケンス情報とは、一連のパルスシーケンスにしたがって傾斜磁場電源4、送信器8Rおよび受信器8Tを動作させるために必要な全ての情報であり、例えばx,y,zコイル3x〜3zに印加するパルス電流の強度、印加時間、印加タイミングなどに関する情報を含む。
【0103】
本実施形態のASLイメージング法は、例えば、ASTAR法、STAR法(signal targetting with alternating radio frequency)、EPISTAR(echo planar MR imaging and signal targeting with alternating radio frequency)法、FAIR(flow-sensitive alternation inversion recovery)法など、任意の手法を使用できる。また、それらの手法で採用可能なパルスシーケンスは、縦磁化の大きさを強調した高速イメージング用であればどのようなパルスシーケンスであってもよい。例えば、高速FE法、高速SE法、EPI(Echo Planar Imaging)法、FASE(高速Asymmetric SE)法、ハイブリッドEPI法などである。
【0104】
演算ユニット10は、入力する生データの読込み、画像のフーリエ空間(k空間または周波数空間とも呼ばれる)への生データの配置、データのアベレージング処理、タグモードおよびコントロールモードのデータ相互間の差分、データのしきい値処理、複素数データの絶対値化処理、生データを実空間データに再構成する再構成処理(例えば2次元または3次元のフーリエ変換処理)を適宜な順番で行うようになっている。なお、3次元撮像が行われた場合、演算ユニット10は、3次元画像データから2次元画像データを生成するためにMIP(最大値投影)処理なども実施できるようになっている。
【0105】
記憶ユニット11は、生データ及び再構成画像データのみならず、演算処理が施された画像データを保管することができる。表示器12は画像を表示する。また、術者は入力器13を介して所望のスキャン条件、スキャンシーケンス、画像処理法などの必要情報をホスト計算機6に入力できるようになっている。
【0106】
次に、このフロー定量化装置の動作例を説明する。
【0107】
図16に、本実施形態に係るASLイメージングにおけるフロー定量化の処理例を示す。この処理は、フロー定量化の機能を有している、ホスト計算機6又は演算ユニット10で実行される。
【0108】
この処理例の場合、トレーサー量Qtをフローfに変換する変換式又はテーブルが最初に作成される。すなわち、測定対象モデル(two-compartment model)の平均値パラメータP1,P2,…,Pm(例えば、T1a,T1i,T1e,lambda,Vi,PS,t(固定値)など)に基づき、その測定対象モデルに従いトレーサー濃度Qdとフローfとの関係をテーブル化する(ステップS1、S2)。これにより、f=Table(Qt)の規定するテーブルが準備される。このテーブルにおいて、フローfとトレーサー量Qtはリニアスケーリング(すなわち、f=K・Qt;Kは比例係数)又は多項式による近似で規定される。なお、固定値tはユーザインターフェースなどの装置からダイナミックに入力される量である。
【0109】
これを詳述すると、two-compartment modelによる表現を含む一般的表現として、
Qt:単位ボクセル当たりのトレーサー量(トレーサー濃度)、
f:フロー、
P1,…,Pn:フローに関与する他のパラメータ
としたとき、あるモデルに対して
[数12]
Qt=function(P1,…,Pn,f) ……(9)
の関係にあるとする。次いで、P1,…,Pnのうち、影響を与えるk個の支配的なパラメータに対する式
[数13]
Qt=function(P1,…,Pk,f) k≦n ……(10)
に修正される。
【0110】
仮に、k=0ならば、フローのみの式Qt=function(f)となる。
【0111】
次いで、「Qt vs.f」の関係を表すテーブル(又は変換式)が以下の手順で作成される。この作成はホスト計算機6又は演算ユニット10の演算機能により、フロー定量化の前の適宜なタイミングで、オペレータとの間でインターラクティブに実行される。
【0112】
1):最初のステップでは、代表的な組織のパラメータに基づき、two-compartment modelによるシミュレーションを行ってフローfを得て、トレーサー量Qtを求める。
【0113】
フローfをf1、f2、…、fkとすると、トレーサー量QtはQt(f1)、Qt(f2)、…、Qt(fk)が求められる。なお、Qt(f1)、Qt(f2)、…、Qt(fk)はシミュレーションでは無く、実測データから求めてもよい。
【0114】
2):次のステップでは、「Qt vs.f」の関係を線形式又は高次式で近似する。高次式として、多項式を用いる場合、原点、Qt(f1)、Qt(f2)、…を通る多項式は、
[数14]
Qt=a1・f+a2・f(m−1)+ … +am・f ……(11)
で近似される。そこで、例えば、m=1の場合、原点及び1個の点を通る直線(リニアスケーリング)で図17(a)に示すようになり、m=2の場合、原点及び2個の点を通る曲線近似(2次曲線近似)になり、さらに、m=kの場合、原点及びk個の点を通る曲線近似で図17(b)に示すようになる。
【0115】
3):次のステップでは、「Qt vs.f」の関係からリサンプリングなどによりテーブルが作成される。具体的には、リサンプリングして離散的なテーブルが図18に示す如く作成される。この場合、パラメータP1〜Pkのそれぞれ毎に作成される。
【0116】
また、two-compartment modelをフローfについて
[数15]
f=function(P1,P2,…,Pm,Qt) ……(12)
を解析的に解いてテーブルを作成してもよい。この場合、解は連続関数になるが、解析的に解けない場合、数値的に解いてもよい。さらに、解析的にも数値的にも解けない場合、上述したリサンプリングによる方法を用いるのが良い。
【0117】
なお、テーブルの代わりに、変換式を記憶するようにしてもよく、その場合には、上記3)のステップで近似させた直線を表す1次式又は曲線を表す高次式を記憶させ、フロー定量化の都度、かかる変換式が呼び出される。
【0118】
なお、トレーサー量Qtを算出するときにフローf以外のパラメータがP1,P2,…,Pmがある場合には、P1〜Pmのそれぞれ毎に「Qt vs.f」のテーブルを作成しておく必要がある。また、フローが組織によりP1,P2,…,Pkに依存する場合、あるパラメータではあるフローを、別のパラメータでは別のフローに対応させたテーブルが作成される。テーブルは離散的であることが要求されるが、関数で与えられるならば、連続的な値が求まる。
【0119】
図19は脳の例を示し、タグパルスを印加後の時間TIを1個のみの有意なパラメータ(k=1)にとったものである(P1=TI)。例えば、脳におけるWM及びGMの場合、別々のパラメータの組み合わせで2点が形成され(m=2)、これらの点を、原点を含めて、1次式又は2次式でフィッティングする。このフィッティングした直線又は2次曲線はサンプリングされて、サンプリングされた値を用いてテーブルが作成される。
【0120】
以上のように何れかの手法により、ASLイメージング前に、「Qt vs.f」の関係を表す離散的なテーブルが作成される。このテーブルは例えば記憶ユニット11のメモリに格納され、演算ユニット10又はホスト計算機6による定量化の処理時に呼び出されて用いられる。
【0121】
次に、オペレータからの指示に呼応して、ASLイメージングが好適にはASTAR法により実行される。このための実行指令は、シーケンサ5から傾斜磁場電源4、受信器8R、及び送信器8Tに、ASTAR法のパルスシーケンスに基づく制御情報が順次送られることでなされる。このASTAR法はPASL法及びCASL法の何れによって実行できる。
【0122】
ここで、ASTAR法の概要を図20に基づいて説明する。
【0123】
図20に、PASL法に基づくASTAR法により空間的に設定されるスラブ(又はスライス)の位置関係を示す。同図において、横軸を被検体の体軸方向zにとり、縦軸をイメージングスラブ(Imaging slab)のz軸方向の中心からの変調周波数オフセット量にとる。斜めの2本の破線はIR(反転回復)傾斜磁場強度を示す。
【0124】
このASTAR法(PASL法に拠る)では、図20に示す如く、撮像領域として選択的に設定されるイメージングスラブに対し、タグ用IR(インバージョン)パルスの印加によるタグスラブ(Tagging slabまたはTag-IR slab)とコントロール用IRパルスの印加によるコントロールスラブ(Controlling slabまたはControl-IR slab)とが選択的に設定される。
【0125】
そして、タグスラブに選択的に印加するタグ用IRパルスを含んだパルス列とイメージングスラブに選択的に印加するイメージング用パルス列とから成る第1のパルスシーケンスを用いたスキャン(タグ(ラベル)スキャン)と、コントロールスラブに選択的に印加するコントロール用IRパルスを含んだパルス列とイメージングスラブに選択的に印加するイメージング用パルス列とから成る第2のパルスシーケンスを用いたスキャン(コントロールスキャン)が適宜な順番で時系列的に実施される。タグスキャンを行う撮像モードをタグモードと呼び、コントロールスキャンを行う撮像モードをコントロールモードと呼ぶことにする。
【0126】
このタグスキャンおよびコントロールスキャンを実行するに際し、タグ用IRパルスとコントロール用IRパルスのイメージングスラブの中心からのオフセット周波数は同じ値にした状態で、各イメージングパルスによるスラブの厚さと位置オフセットを同じ倍率で変えることを特徴の1つとする。これにより、タグスラブおよびコントロールスラブとイメージングスラブとの間の距離を調整でき、これにより、両IRパルスの印加に伴ってイメージングスラブに生じるMT効果を同一にまたは殆ど同一にし、かつ、一方向からの血流のみをイメージングする手法である。
【0127】
このASTAR法を実施して例えば被検体の頭部を撮像する場合、動脈は下肢側から頭頂部側に流れているので、タグ用IRスラブはイメージングスラブよりも下肢側(下側)に設定され、一方、コントロール用IRスラブはイメージングスラブよりも頭頂部側(上部)側に設定される。このASTAR法では、コントロール用IRスラブを、静脈を含む頭頂部に掛からないように設定することを必須の特徴とする。つまり、頭頂部から外れた位置にコントロール用IRスラブが設定される。
【0128】
ASL法において、通常、除外したいのは、静脈系から検出される信号である。「除外」と言っても、結局のところ、反転(TI)時間内に静脈からの信号がイメージングスラブに入りこまなければよい。静脈は動脈に比べて、比較的低速であるため、タグ用IRパルスを頭部から位置的に完全に外して印加する必要は無く、静脈の流速、ギャップ(空隙)の距離、および反転時間などの条件に応じて、適度なマージンだけイメージングスラブから離して設定できる。
【0129】
図21には、上述したASTATR法(PASL法に基づく)を実施するためのパルスシーケンスの詳細な一例を示す。この例は、IRパルスを用いた高速FE法のシーケンスを元にしたパルス列で構成されている。
【0130】
上述したASTAR法が実行されて、コントロールモード及びスキャンモードによるエコーデータから、頭部などの所望部位のコントロール画像Scont(x,y)とタグ画像Stag(x,y)が演算ユニット10により再構成される(ステップS3,S4)。
【0131】
次いで、演算ユニット10により、再構成されたコントロール画像Scont(x,y)とタグ画像Stag(x,y)を用いてASL画像ASL(x,y)が、
[数16]
ASL(x,y)=Scont(x,y)−Stag(x,y) ……(13)
の引き算により画素毎に演算される(ステップS5)。
【0132】
次いで、演算ユニット10により、実際に測定されるASL画像ASL(x,y)とコントロール画像値Scontとの比を
[数17]
ASLR(x,y)=ASL(x,y)/Scont ……(14)
に基づき画素毎に求めて、正規化されたASLR(ASL signal to control signal ratio)画像ASLR(x,y)が得られる(ステップS6)。ここで、Scontは、コントロール画像上のWM又は血液の画像値を表す。この画像値Scontは、プロトン密度を反映するとみなせる回復時間Trepが十分に長くない場合(すなわち、2秒よりも短い場合)、それよりも長いTrepで別に撮像した画像から採用される。
【0133】
なお、この画像値Scontは以下のような理由で用いられる。いま、送受信ゲインなどの装置に依存するパラメータをG、ラベリング方法(インバージョン角度など)やT2緩和などに依存する係数をAとすると、
[数18]
トレーサ信号強度ASL signal=G・A・Qt・M ……(15)
で表される。仮に、画像値Scontが、T1緩和が十分に飽和したとみなせるほどの十分に長いTIで計測されているとすれば、
[数19]
cont=G・A・M ……(16)
になるから、
ASLR=(G・A・Qt・M)/(G・A・M
=Qt ……(17)
になり、G、A、及びMの影響が共にキャンセルされ、単純に、テーブルを参照すれば済むことになる。
【0134】
脳の場合、血液のMを測定する必要があるが、血液を測定することは困難であるので、その代わりに白質部の信号強度を代用してもよい。また、被検者毎にシングルスライスならば1箇所、画像値Scontを求めておけばよいし、マルチスライスならばコイル感度が異なるので、画像値Scontをスライス毎に求めておけばよい。
【0135】
なお、上述した実施形態の構成において、MRI装置のホスト計算機6、演算ユニット10、記憶ユニット11、表示器12、及び入力器13は、本発明に係るフロー定量化装置Aとしても機能する構成要素である。
【0136】
(その他の実施形態…その1)
上述した実施形態にあっては、一度、何等かの方法でトレーサー流量Qtとフローfの対応関係を示すテーブルを求めておく手法であったが、その他の実施形態としては、フローfとトレーサー流量Qtの関数関係に基づき直接、変換するようにしてもよい。
【0137】
具体的には、上述したテーブルを用いたフロー定量化の中で、代表的な組織のパラメータを元にtwo-compartment modelに基づくシミュレーションで求めた「Qt vs.f」の関係を縦軸と横軸を入れ変えて、フローfを縦軸とする上記(12)式に変換する。すなわち、「Qt vs.f」の関係をf(Qt1)、f(Qt2)、…を通るフローfの曲線(=多項式):
[数20]
f=b1・Qt+b2・Qt(m−1)+ … +bm・Qt ……(18)
でフィッティングすればよく、このように直接変換方式を採ることで、(11)式をfについて解く必要は無くなる。
【0138】
図22(a),(b)は、上述のように「Qt vs.f」の関係を縦軸と横軸を入れ変えてフィッティングし、トレーサー流量Qtからフローfを求める手順を例示する。同図(a)は、直線近似(リニアスケーリング)によるフロー定量化を示すもので、前述した図17(a)に対応する。また同図(b)は、多項式近似によるフロー定量化を示すもので、前述した図17(b)に対応する。
【0139】
このように近似させた直線又は曲線は、前述と同様に、リサンプリングして離散的なテーブルとして作成される(図18参照)。例えば、フローfは1[ml/100cc/min]の刻みで作成される。また、このテーブルは、パラメータのP1〜Pkのそれぞれ毎に作成するようにしてもよい。
【0140】
なお、テーブルの代わりに、変換式を記憶するようにしてもよく、その場合には、近似させた直線を表す1次式又は曲線を表す高次式を記憶させ、フロー定量化の都度、かかる変換式が呼び出される。
【0141】
なお、トレーサー量Qtを算出するときにフローf以外のパラメータがP1,P2,…,Pmがある場合には、P1〜Pmのそれぞれ毎に「Qt vs.f」のテーブルを作成しておく必要がある。また、フローが組織によりP1,P2,…,Pkに依存する場合、あるパラメータではあるフローを、別のパラメータでは別のフローに対応させたテーブルが作成される。テーブルは離散的であることが要求されるが、関数で与えられるならば、連続的な値が求まる。
【0142】
(その他の実施形態…その2)
前述した実施形態では、とくに、レファレンスデータを用いて受信ゲインの違いによる影響を補正するようにしてもよい。この補正の一例は以下のように実行される。
【0143】
予め、静止レファレンスファントムref1(図23参照)に対する、コントロールモードにおける受信ゲインで補正後の画像値Scont/cor(ref1)が統計的に演算され、記憶ユニット11に格納される(図23のステップS21)。レファレンスファントムref1は、T1が血液に近い値(静磁場が1.5Tの場合、1200〜1500msec)のファントムである。この演算は、演算ユニット10又はホスト計算機6を使って行なうことができるが、本MRI装置とは別の機器で演算したデータをホスト計算機6が入力器13を介して受け取り、これを記憶ユニット11に格納してもよい。
【0144】
なお、受信ゲインGを算出するためには、静止レファレンスファントムref1に代えて、頭部組織そのものを用いることもできる。
【0145】
そして、被検体の頭部の近傍に静止レファレンスファントムref1を置いた状態でASLイメージング、すなわちコントロールスキャン及びタグスキャンが適宜な順序で1回ずつ実行される。このコントロールスキャン及びタグスキャンは、シーケンサ5の制御の基に傾斜磁場電源4、送信器8T、及び受信器8Rを動作させて実行される。RFコイル7で受信され、かつ受信器8Rで処理されたエコーデータは、演算ユニット10にて再構成され、各モードでの画像値に生成される。
【0146】
したがって、各被検体に対するフロー定量化又は同一被検体に対するフロー定量化の度に(すなわち測定の度に)、コントロールスキャン及びタグスキャンが被検体とレファレンスファントムref1と対して同時に実行され、各モードのデータ測定及び収集が行なわれる。
【0147】
この内、コントロールスキャンにより発生したエコー信号から画像測定値Scont/measured(ref1)が生成される(ステップS22)。
【0148】
さらに、上述のコントロール画像Scont/measured(x,y)及びタグ画像Stag/measured(x,y)から、その頭部のgray matterにレファレンスref2(ROI)を置いたときの、レファレンスref2に対するコントロールスキャン及びタグスキャン各々の画像測定値Scont/measured(ref2)及びStag/measured(ref2)が夫々生成される(ステップS23、S24)。
【0149】
ここで、ステップS21〜S24は上述した処理順に限定されることなく、適宜な順で処理してよい。
【0150】
次いで、前述したステップS21及びS22で記憶又は生成しているデータから、受信ゲインG1が
[数21]
G1=Scont/cor(ref1)/Scont/measured(ref1)
……(19)
により補正演算される(ステップS25)。つまり、測定毎に、補正された受信ゲインGが求められる。
【0151】
なお、正常な灰白質や白質の画像値Scont/corの個人差は小さいので、既知の画像値Scont/corが有るならば、その値を用いて、測定毎に受信ゲインGを補正演算するようにしてもよい。これにより、静止レファレンスファントムref1を用いた事前の測定を省略することができる。さらに、各回の測定に際し、受信ゲインGそれ自体が既知である場合、ステップS21〜S22の一連の測定及び演算を省略し、その既知のゲイン値を後述する処理で直接用いるようにしてもよい。
【0152】
次いで、補正された受信ゲインでスケール値(比例係数)K1corを演算するための処理工程に入る。最初に、前述したステップS23及びS24における生成データから、レファレンスref2に対するASL画像値ΔSmeasured(ref2)が
[数22]
ΔSmeasured(ref2)
=Scont/measured(ref2)−Stag/measured(ref2)
……(20)
により差分演算される(ステップS26)。
【0153】
さらに、ステップS26で補正された受信ゲインGを用いてレファレンスref2に対する画像値ΔScor(ref2)が、
[数23]
ΔScor(ref2)
=ΔSmeasured(ref2)×(1/G1) ……(21)
により演算される(ステップS27)。
【0154】
このようにして求めた画像値ΔScor(ref2)を用いて多項式近似の関数が適宜に補正され、受信ゲインの違いに因る影響が排除されたフロー定量化がなされる。
【0155】
以上説明した種々の実施形態によるフロー定量化によれば、従来のsingle-compartment modelに基づくスケーリングでは不足していた高精度なフロー定量化を行うことができる。
【0156】
これは、本発明者が行ったシミュレーション及び実験から導出された知見に基づく構成に拠るものである。とくに、血流が組織に拡散するモデルとして、two-compartment modelを用い、このtwo-compartment modelに代表的な組織のパラメータを適用して数段階の値のフローfに対するトレーサー濃度Qtを求めることに基礎を置いている。そして、トレーサー濃度Qtからフローfへの換算式又はテーブルを求めて可能しておく。さらに、ASTAR法などに基づくASLイメージングで求めたASL画像:ASL(x,y)は、ASLR画像:ASLR(x,y)に正規化し、このASLR画像からトレーサー流量Qt(x,y)を求め、このトレーサー流量Qt(x,y)は、上述した換算式又はテーブルを利用又は参照する簡単なスケーリング操作に付され、フローfが画素毎に定量化される。これにより、例えば頭部のフローfの2次元分布情報が表示される。
【0157】
このようにtwo-compartment modelをベースモデルとしていること、直線近似に拠るリニアスケーリングのみならず、2次以上の高次の多項式を用いた曲線近似がなされることによって、より高精度なフローの定量化がなされる。
【0158】
この定量化において、two-compartment modelを用いながらも、このモデルに必要なパラメータを測定しないものの、測定したのとほぼ同等の精度でフロー定量化を行うことができる。また、この定量化の過程において、従来のsingle-compartment modelに比べて、組織毎にパラメータT1を測定しなくても済むので、定量性が向上する。さらに、測定データを単一条件における信号強度であり、この強度に基づくトレーサー濃度Qtでテーブル参照するだけの操作であるから、簡便に血流量などのフローfを定量化することができる。
【0159】
なお、上述した多項式による曲線近似(ノンリニアなスケーリング)は、single-compartment modelに基づくスケーリングにも適用可能なものである。従来は、single-compartment modelに基づくリニアスケーリングしか知られておらず、このsingle-compartment modelに拠る、より簡便なスケーリングの精度をノンリニアなスケーリングでカバーすることは大きな利点である。このsingle-compartment modelに拠るスケーリングによれば、T1値を測定しなくても済むという利点もある。
【0160】
また、上述した実施形態にあっては、撮像部位が頭部である場合を例示したが、撮像部位は腎臓、肝臓、筋血流など、種々の部位に適用することもできる。
【0161】
なお、本発明は、代表的に例示した上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者であれば、特許請求の範囲の記載内容に基づき、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の態様に変形、変更することができ、それらも本発明の権利範囲に属するものである。
【0162】
本発明に係るフロー定量化装置及びフロー定量化方法によれば、ASLイメージングにより得られた画像データに基づく量を、予め保管してあるトレーサー濃度とフローとの対応情報に照らして線形及び非線形のスケーリングにより組織血流から成るフローを精度良く、且つ、より少ない測定データ数と演算量で簡便に定量化することができる。
【0163】
特に、血流の組織への拡散状態の時間変化を考慮してtow-compartment modelを用いて濃度とフローの対応情報(例えば変換式又はテーブル)を生成し、保管してあるので、より高精度で且つ簡単な演算でフローの定量化を行うことができる。また、多項式などによる非線形近似によるスケーリングも行えるので、フローの高精度な定量化を行うことができる。
【0164】
このため、従来の収集データや演算量が膨大な、実際には殆ど使用困難な手法に比べて、一般の急性期梗塞の患者などに対して、とくに有効性を発揮する。このフロー定量化を画像表示することで、画像値を使った臨床的に意味のある比較が可能になり、患者毎に又は同一患者の時間経過毎にフロー値の変化を追跡するといった診断法も提供できる。
【0165】
また、当然に、造影剤が不要であるから非侵襲性を維持でき、X被曝も無いといった点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】MRI装置に用いられる本発明のフロー定量化装置の原理を説明するために記載したツー・コンパートメント・モデル(two-compartment model)の説明図。
【図2】本発明で実施できるPASL法及びCASL法それぞれにおける入力関数の波形を示す図。
【図3】本発明で好適に採用可能なASTAR法のパルスシーケンス及び印加パルスのスラブ位置を説明する図。
【図4】本発明者が行ったシミュレーションの結果を示すグラフ。
【図5】本発明者が行ったシミュレーションの結果を示すグラフ。
【図6】本発明者が行ったシミュレーションの結果を示すグラフ。
【図7】本発明者が行ったシミュレーションの結果を示すグラフ。
【図8】本発明者が行ったシミュレーションの結果を示すグラフ。
【図9】本発明者が行ったシミュレーションの結果を示す表の図。
【図10】本発明者が行ったシミュレーションの結果を示すグラフ。
【図11】本発明者が行ったシミュレーションの結果を示すグラフ。
【図12】本発明者が行った実験の結果を示す表の図。
【図13】本発明者が行った実験の結果を示すグラフ。
【図14】本発明者が行った実験の結果を示すグラフ。
【図15】本発明の実施形態に係るMRI装置の一例を示すブロック図。
【図16】実施形態に係るASLイメージングにおけるテーブル換算によるフロー定量化の概要を例示するフローチャート。
【図17】リニアスケーリング及び多項式近似によるスケーリングを用いたフロー算出の概要を説明する図。
【図18】フロー定量化のための記憶テーブルを説明する図。
【図19】一例として説明する、タグパルスの印加からイメージングまでの時間TIをパラメータとした多項式近似の曲線を示すグラフ。
【図20】実施形態におけるASLイメージングでASTAR法をより詳細に説明する図。
【図21】ASTAR法に係るパルスシーケンスを例示する図。
【図22】リニアスケーリング及び多項式近似によるスケーリングを用いたフロー算出の概要を説明する図。
【図23】他の実施形態に係るリファレンスデータを用いたスケーリングの補正を説明するフローチャート。
【符号の説明】
【0167】
1 磁石(撮像手段)
2 静磁場電源
3 傾斜磁場コイルユニット(撮像手段)
4 傾斜磁場電源(撮像手段)
5 シーケンサ(撮像手段)
6 ホスト計算機(撮像手段/フロー定量化手段/保管手段)
7 RFコイル(撮像手段)
8T 送信器(撮像手段)
8R 受信器(撮像手段)
10 演算ユニット(撮像手段/フロー定量化手段/保管手段)
11 記憶ユニット(フロー定量化手段/保管手段)
12 表示器(フロー定量化手段)
13 入力器(フロー定量化手段)




 

 


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