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発明の名称 バチルス・チューリンゲンシスを含む動物の腸内感染症予防・治療用の飼料添加剤
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2007−244372(P2007−244372A)
公開日 平成19年9月27日(2007.9.27)
出願番号 特願2006−286102(P2006−286102)
出願日 平成18年10月20日(2006.10.20)
代理人 【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
発明者 望月 正己
要約 課題
動物の腸内感染症の予防・治療作用を有する細菌を含む飼料添加剤及びこれを含む飼料を用いて動物の腸内感染症を予防・治療する方法を提供する。

解決手段
バチルス・チューリンゲンシスを含む飼料添加剤を飼料に添加して動物に投与する。
特許請求の範囲
【請求項1】
バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)を含む、動物の腸内感染症予防・治療用の飼料添加剤。
【請求項2】
前記バチルス・チューリンゲンシスが、胆汁酸耐性であることを特徴とする、請求項1に記載の飼料添加剤。
【請求項3】
前記バチルス・チューリンゲンシスが、さらに細菌自己誘発因子不活性化能を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の飼料添加剤。
【請求項4】
バチルス・チューリンゲンシスが、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis subsp. thuringiensis) BGSC 4A3株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・クルスターキ(Bacillus thuringiensis subsp. kurstaki) BGSC 4D1株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・アイザワイ(Bacillus thuringiensis subsp. aizawai) BGSC 4J4株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・イスラエレンシス(Bacillus thuringiensis subsp. israelensis) BGSC 4Q7株、若しくはこれらの変異株を含む、請求項1〜3の何れか一項に記載の飼料添加剤。
【請求項5】
グラム陰性細菌に属する病原菌による腸内感染症予防・治療用の請求項1〜4の何れか一項に記載の飼料添加剤。
【請求項6】
前記グラム陰性細菌に属する病原菌が、病原性大腸菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌及びカンピロバクター(Campylobacter)属細菌のうち少なくとも一種である請求項5に記載の飼料添加剤。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の飼料添加剤を含む動物の腸内感染症予防・治療用の飼料。
【請求項8】
動物が、鶏、アヒル、ウズラ及びシチメンチョウから選ばれる家禽、又は豚、牛、羊及び兎から選ばれる家畜であることを特徴とする、請求項7に記載の飼料。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の飼料を動物に投与する工程を含む、動物の腸内感染症の予防・治療方法。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)を含む動物の腸内感染症予防・治療用の飼料添加剤及び該細菌を用いて動物の腸内感染症を予防・治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、畜産業、ペット産業などの領域において、動物の成長を促進する方法としてプロバイオティクス細菌の利用が拡大している。プロバイオティクスは、生きたまま宿主の腸に到達し、腸内フローラのバランスを改善するため、動物の消化活動を補助したり、腸内の有毒細菌の増殖を抑制したりするのに役立つ。
細菌をプロバイオティクスとして利用するためには、胃液などに耐性を有し、生きたまま腸に到達し、腸内で増殖する能力を有することなどが要求される。
【0003】
例えば、胆汁酸耐性であるバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・クラウジ(Bacillus clausii)を動物の体重増加の促進、各種酵素産生による消化補助、及び病原体増殖制御を目的として動物用飼料強化剤として用いることが報告されている(特許文献1)。また、胆汁酸耐性であるバチルス属細菌(特許文献2、3、非特許文献1)、ラクトバチルス属細菌(特許文献4)などが知られている。
【0004】
恒温動物の体表や体内は、厳しい自然環境に比べて細菌の増殖に好ましい環境であり、ヒトを始めとする動物の腸管内にはさまざまなフローラが形成され、共生・拮抗の諸現象がみられる。腸内細菌フローラはさまざまな原因で変動し、時にフローラのバランスが崩れて異常フローラが形成される。
腸内感染症を引き起こす病原菌は、動物の腸内に定着するために異常フローラのニッチを常に求めている。通常は、病原菌が腸内に侵入した場合であっても、宿主の生体防御機構により排除されたり、他の細菌により増殖が抑制されたりする。その一方で、例えば、ピロリ菌や緑膿菌のように一定の菌数にまで増殖し、動物腸内に定着し宿主に慢性疾患を引き起こす細菌も存在する。このような細菌は、細菌の腸内への付着、侵入、初期増殖の過程で宿主の生態防御機構に感知されることなく、十分に菌密度が高まってから、種々の病原性因子を一挙に生産して組織を破壊する。これを実現するしくみが細菌自身が産生する自己誘発因子を介した情報伝達機構(cell-to-cell signaling)、すなわち細菌自己誘発機構(菌体密度感知機構)である。この機構はビブリオ属細菌(Vibrio fischeri)の培養において、細菌の増殖に応じて蛍光物質が産生されるという現象の発見から見出されたものであり(非特許文献2)、その後、緑膿菌(Pseudomonas)をはじめとする多くの病原細菌において本機構が発見され、病原因子の発現がコントロールされている事実が明らかとなっている。また、シュードモナス属以外にも、バークホリデリア属(Burkholderia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、ビブリオ属(Vibrio)、セラチア属(Serratia)、サルモネラ属(Salmonella)など、臨床上重要な多くの細菌が自己誘発機構を有していることが報告されている(非特許文献3)。
【0005】
このような細菌自己誘発機構のシグナル伝達を担うのが細菌自己誘発因子であり、グラム陰性細菌の細菌自己誘発因子としては、アシルホモセリンラクトンが広範囲に保存されている。細菌自己誘発因子は、細菌の外膜を自由に通過できる分子であり、環境中の細菌密度が低い場合には自己誘発因子濃度が低く、生物活性を示さない。ところが、細菌の増殖が進み環境中の細菌密度が高まるに従って細菌内外の自己誘発因子濃度も高まり、これ
がある一定の閾値に達したとき、各種病原因子などのターゲット遺伝子の発現を促進する。
【0006】
病原菌の細菌自己誘発機構により起こる腸内感染症を予防・治療する方法として、従来は抗生物質の投与が行われてきたが、この方法においては、薬剤耐性菌の出現などが問題となっている。このため、抗生物質により病原菌の菌体自体を死滅させるのではなく、細菌自己誘発因子を不活性化することにより、病原性因子の生産を抑制し、腸内感染症の発生を防止又は減少する方法が報告されている(特許文献5)。この方法は、細菌自己誘発因子を不活性化するために、細菌自己誘発因子不活性化タンパク質を動物に投与するか、又は動物の細胞に細菌自己誘発因子不活性化タンパク質をコードする核酸配列を導入し、該核酸配列を発現させるものである。しかしながら、細菌自己誘発因子不活性化タンパク質を動物に投与する方法は、該タンパク質が胃を通過する過程で消化分解されてしまい、腸管に到達しないという問題があった。また、該タンパク質をコードする核酸配列を動物の細胞に導入・発現させる方法は、畜産業やペット産業においてすでに飼育している動物の疾病を予防・治療することができないといった問題があった。
【0007】
また、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)が、植物病原菌であるエルベニア・カルトボーラ(Erwinia carotovora)の菌体密度感知機構に依存した(quorum-sensing dependent)病原性を抑制することが報告されている(非特許文献4)。具体的には、バチルス・チューリンゲンシスが、菌体密度感知シグナル因子(アシルホモセリンラクトン(AHL))を分解する酵素であるAHL−ラクトナーゼを産生し、AHLの蓄積を抑制することが報告されている。このようなバチルス・チューリンゲンシスは、安全な微生物殺虫剤として広く農業生産の場に受け入れられているが、プロバイオティクスとして動物に投与した場合の効果や影響は一切知られていなかった。すなわち、これまでバチルス・チューリンゲンシスを飼料に添加し、動物の腸内感染症の予防・治療に利用することについては、全く検討されていなかった。このような技術背景において、動物の飼料添加剤に用いることができる新たな細菌種が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特表2005−507670号公報
【特許文献2】特開平5−268944号公報
【特許文献3】国際公開第96/024659号パンフレット
【特許文献4】特表2004−523241号公報
【特許文献5】特表2003−504028号公報
【非特許文献1】Hyronimus, B. et al., 「インターナショナル ジャーナル オブ フード マイクロバイオロジー(international Journal of Food Microbiology)」2000年,第61巻,p.193−197
【非特許文献2】Kaplan,H. et al., 「ザ ジャーナル オブ バクテリオロジー (Journal of Bacteriology)」1985年,第163巻,p.1210−1214
【非特許文献3】Tateda,K., 「ザ ラング パースペクティブス(The Lung Perspectives)」2005年,第13巻,p.261−265
【非特許文献4】Yi-Hu Dong et al., 「アプライド アンド インバイロメンタル マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)」2004年,第70巻,p.954−960
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、近年有用性が認められてきているプロバイオティクスを用いることにより、ヒトを除く動物(以下、単に動物という。)の腸内感染症を予防・治療するのに有用な手段を提供することを課題とする。そこで、本発明は、動物に利用できるプロバイオティクスのうち新たな細菌種を含有する飼料添加剤及びこれを利用して動物の腸内感染症を予防
・治療する方法を提供することを課題とする。また、胆汁酸耐性である細菌を含有する飼料添加剤及びこれを利用して腸内感染症を引き起こす病原菌の細菌自己誘発因子を不活性化させることにより、動物の腸内感染症を予防・治療する手段を提供することを課題とする。そこで、本発明は、さらに細菌自己誘発因子を不活性化する能力を有する細菌を含有する飼料添加剤及びこれを利用して動物の腸内感染症を予防・治療する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、バチルス・チューリンゲンシスがプロバイオティクスとして優れた特性を有することを発見し、バチルス・チューリンゲンシスの細菌の胞子を動物に投与することにより、細菌胞子は胃を生きたまま通過し、胆汁酸で死滅することなく腸内で発芽・増殖し、腸内フローラのバランスを改善し、宿主にさまざまな好ましい作用を及ぼすことを見出した。特に、バチルス・チューリンゲンシスの細菌の胞子が動物の腸内において細菌自己誘発因子を不活性化する能力を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1) バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)を含む、動物の腸内感染症予防・治療用の飼料添加剤。
(2) 前記バチルス・チューリンゲンシスが、胆汁酸耐性であることを特徴とする、(1)に記載の動物の腸内感染症予防・治療用の飼料添加剤。
(3) 前記バチルス・チューリンゲンシスが、さらに細菌自己誘発因子不活性化能を有することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の動物の腸内感染症予防・治療用の飼料添加剤。
(4) バチルス・チューリンゲンシスが、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis subsp. thuringiensis) BGSC 4A3株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・クルスターキ(Bacillus thuringiensis subsp. kurstaki) BGSC 4D1株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・アイザワイ(Bacillus thuringiensis subsp. aizawai) BGSC 4J4株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・イスラエレンシス(Bacillus thuringiensis subsp. israelensis) BGSC 4Q7株、若しくはこれらの変異株を含む、(1)〜(3)の何れか一に記載の飼料添加剤。
(5) グラム陰性細菌に属する病原菌の感染症予防・治療用の(1)〜(4)の何れか一に記載の飼料添加剤。
(6) 前記グラム陰性細菌に属する病原菌が、病原性大腸菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌及びカンピロバクター(Campylobacter)属細菌のうち少なくとも一種である(5)に記載の飼料添加剤。
(7) (1)〜(6)の何れか一に記載の飼料添加剤を含む動物の腸内感染症予防・治療用の飼料。
(8) 動物が、鶏、アヒル、ウズラ及びシチメンチョウから選ばれる家禽、又は豚、牛、羊及び兎から選ばれる家畜であることを特徴とする、(7)に記載の飼料。
(9) (7)又は(8)に記載の飼料を動物に投与する工程を含む、動物の腸内感染症の予防・治療方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の飼料添加剤を含む飼料を動物に投与することにより、バチルス・チューリンゲンシスが病原菌の増殖を抑制し、さらに細菌自己誘発因子を不活性化し、その結果として病原菌による病原因子の産出を抑制し、腸内感染症を予防・治療する。また、動物の腸内でバチルス・チューリンゲンシスが増殖することにより、腸内フローラのバランスを改善し、動物の体重増加を促進する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の飼料添加剤は、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)を含有することを特徴とする。
バチルス・チューリンゲンシスとは、バージーズ・マニュアル・オブ・デターミネイティブ・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology)第9版(1994)において「バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)」に分類される細菌である。
【0014】
本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシスの亜種は、特に制限されない。例えば、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis subsp. thuringiensis)、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・クルスターキ(Bacillus thuringiensis subsp. kurstaki)、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・アイザワイ(Bacillus thuringiensis subsp. aizawai)、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・イスラエレンシス(Bacillus thuringiensis subsp. israelensis)などを好ましく用いることができる。この中では、例えば、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・チューリンゲンシス BGSC 4A3株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・クルスターキ BGSC 4D1株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・アイザワイ
BGSC 4J4株、バチルス・チューリンゲンシス・サブスピーシーズ・イスラエレンシス BGSC 4Q7株などを好ましく用いることができる。BGSC 4A3、BGSC 4D1、BGSC 4J4、BGSC 4Q7はBacillus Genetic Stock Center(BGSC)(The Department of Biochemist)に登録されている菌株である。
【0015】
また、本発明の飼料添加剤には、BGSC 4A3、BGSC 4D1、BGSC 4J4、BGSC 4Q7の変異株を用いることができる。変異株としては、上記各菌株が自然変異したものや各菌株を化学的変異剤や紫外線等で変異処理することにより得たものを用いることができる。本発明においては、このような変異株から、上記各菌株と同じ胆汁酸耐性、細菌自己誘発因子不活性化能、殺菌活性、通性嫌気性、耐酸性の少なくとも一つを有する変異株を用いることが好ましい。これらの菌学的性質については、後述する。さらに上記以外の菌学的性質も上記各菌株と同様である変異株を用いることも好ましい。
また、上記各菌株と同じ腸内感染症の予防・治療効果を示す上記各菌株の変異株を用いることも好ましい。
【0016】
本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシスは、胆汁酸耐性であることが好ましい。
「胆汁酸耐性である」とは、高濃度の胆汁酸を含有する培地において、発芽・増殖する能力を有する胞子を形成することをいう。
胆汁酸とは、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の胆汁中に広く見出される4環構造のステロイドをいい、コール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、リトコール酸及びウルソデオキシコール酸が含まれる。通常、動物の体内では、胆汁酸は、胆汁中でグリシンやタウリンとアミド結合した抱合型として存在し、ナトリウム塩となっている。本明細書において単に「胆汁酸」という場合は、上記胆汁酸及びこれらの塩並びにこれらの抱合体を含む。
【0017】
高濃度の胆汁酸を含有する培地とは、例えば、新鮮胆汁を10倍に濃縮・乾固した胆汁末(Oxgall、Difco製)を含む培地であって、胆汁末の濃度が、0.3質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であるものが挙げられる。また、「発芽・増殖する能力を有する」とは、上記のような高濃度の胆汁酸を含有する培地に胞子を接種し、胆汁酸濃度以外の条件をバチルス・チューリンゲンシスの培養に好
適な条件にした場合に、細菌が発芽し、増殖分裂を再開し、コロニーが形成されることをいう。
【0018】
胆汁酸耐性であるバチルス・チューリンゲンシスは、例えば、以下のようにして得ることができる。バチルス・チューリンゲンシスを含む分離源を胞子形成に適した条件で培養し、胞子を形成させる。得られた胞子を、上記高濃度の胆汁酸添加培地に接種し、培養を行った後、形成したコロニーを分離する。このコロニーの中から、バチルス・チューリンゲンシスの菌学的性質を有するものを選抜する。
【0019】
本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシスは、細菌自己誘発因子不活性化能を有するものを用いることが好ましい。「細菌自己誘発因子」とは、細菌自己誘発機構の細胞間伝達を担うシグナル分子であって、細菌が増殖したときに特定の物質を生産する遺伝子の発現を促進するシグナル分子をいう。細菌自己誘発因子としては、例えば、N-butanoyl-L-homoserine lactone (BHL)、N-(3-hydroxybutanoyl)-L-homoserine lactone (HBHL)、N-(3-oxobutanoyl)-L-homoserine lactone (OBHL)、N-hexanoyl-L-homoserine
lactone (HHL)、N-(3-oxohexanoyl)-L-homoserine lactone (OHHL)、N-octanoyl-L-homoserine lactone (OHL)、N-(3-oxooctanoyl)-L-homoserine lactone(OOHL)、N-(3-oxodecanoyl)-L-homoserine lactone (ODHL)、N-(3-oxododecanoyl)-L-homoserine lactone (OdDHL)が挙げられる。「細菌自己誘発因子不活性化能を有する」とは、例えば細菌自己誘発因子の分解酵素を産生する能力を有することをいう。「酵素を産生する」とは、菌体を培養した場合、培地中に酵素活性が検出できる程度に、産生することをいう。
また、「細菌自己誘発因子不活性化能を有する」とは、細菌自己誘発因子により誘導される病原性因子などの特定の物質が、産生されることを抑制することをいう。
【0020】
バチルス・チューリンゲンシスの細菌自己誘発因子不活性能は、例えば以下の方法で確認することができる。検体であるバチルス・チューリンゲンシスを細菌自己誘発因子を含む培養液で培養し、この培養液を細菌自己誘発機構を有する細菌を接種した培地に添加し、一定時間培養した場合に、細菌自己誘発機構を有する細菌が細菌自己誘発因子の影響により特定物質を生産するか否かを適当なマーカーを用いて確認する。特定物質が検出された場合には、細菌自己誘発因子が不活性化されていないことが分かり、一方で特定物質が検出されない場合には、細菌自己誘発因子が不活性化され細菌自己誘発機構が誘導されていないことが分かる。細菌自己誘発機構を有する細菌として、例えば、細菌自己誘発因子が一定濃度に達すると色素物質を生産する細菌種を用いることができる。例えば、検体であるバチルス・チューリンゲンシスをOHHLを含む培養液で一定時間培養した後、培養液を細菌自己誘発機構により紫色の色素(ビオラセイン、violacein)を合成するクロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)の細菌自己誘発因子生合成遺伝子欠損株が生育する培地に添加して、ビオラセインの誘導の有無を試験する方法が挙げられる(McClean,K. et al, 「マイクロバイオロジー(Microbiology)」1997年, 第143巻, p.3703−3711)。
【0021】
本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシスは、さらに嫌気的条件下で増殖できる通性嫌気性であることが好ましい。嫌気的条件とは、例えば、動物の腸内に含まれる気体中の酸素濃度以下の条件を意味する。実験室的には、例えば、20℃で測定した酸化還元電位が通常−10mV以下、好ましくは−50mV以下である条件をいう。酸化還元電位は、通常用いられる市販の酸化還元電位計で測定することができる。動物の消化管は、微好気的条件又は嫌気的条件であるため、このような細菌を用いることにより、腸管内の環境下でも十分に細菌が増殖する。
【0022】
本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシスは、さらに耐酸性であることが好ましい。このような細菌を用いることにより、胃内部においても細菌が死滅するこ
となく、腸まで到達する。「耐酸性である」とは、細菌を動物に投与した場合に、胃内部の条件下(食物を摂取した状態で通常pH3.5〜6)でも死滅せず、腸に達した場合に増殖可能な程度の菌数を維持していることをいう。バチルス・チューリンゲンシスの胞子は通常耐酸性であるため、胞子を用いる場合は、特に問題とならない。
バチルス・チューリンゲンシスが、動物に摂取させた場合に、細菌が胃内部で死滅することなく腸まで到達していることは、例えば、動物の排泄物中の菌体の濃度を測定することによって確認することができる。
【0023】
本発明の飼料添加剤におけるバチルス・チューリンゲンシスの菌体の濃度は、飼料に添加・混合するのに適した濃度であればよく、配合する食品、飼料の種類、与える対象の種類や体重、投与目的などに応じて最適な濃度を決定することができる。通常は、飼料添加剤全量に対して、1×103〜1×1011CFU/g(コロニー形成単位)、好ましくは1×104〜1×1010CFU/g、さらに好ましくは1×105〜1×109CFU/gとすることができる。
【0024】
本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシスを培養する方法は特に制限されず、細菌の性質に応じた適当な条件下で定法により行うことができる。例えば、培養温度は15〜45℃で培養することができるが、好ましくは20〜42℃、さらに好ましくは25℃〜38℃で培養するのがよい。また、培養方法は、静置培養、往復動式振とう培養、回転動式振とう培養、ジャーファーメンター培養などによる液体培養法や固体培養法を用いることができる。
【0025】
培養に用いる培地成分も特に制限されず、炭素源としてグルコース、ガラクトース、ラクトース、アラビノース、マンノース、シュークロース、デンプン、デンプン加水分解物、糖蜜などの糖類、クエン酸などの有機酸類、グリセリンなどのアルコール類を、窒素源としてアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類や硝酸塩類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第1鉄などの無機塩類、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等を用いることができる。
【0026】
本発明の飼料添加剤は、菌体の培養後、得られた培養物をそのまま飼料添加剤とすることもできるし、得られた培養物から、菌体を含む一部を分離して、適宜任意成分と混合して飼料添加剤とすることもできる。例えば、固体培地を用いて菌体の培養を行う場合には、菌体を培地と共に粉砕して、適宜任意成分を加えて飼料添加剤とすることもできる。液体培地を用いて菌体の培養を行う場合には、培地を遠心分離することにより菌体を分離するなどした後、菌体を含む画分を飼料添加剤とすることもできる。
【0027】
また、上記のようにして回収した培養物の粉砕物や菌体は、保存性の観点から乾燥粉末としておくことが好ましい。乾燥は、飼料添加剤の水分含有量が20質量%以下となるように行うことが好ましい。
乾燥方法は、特に制限されず、自然乾燥、通風乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥などが挙げられるが、この中でも噴霧乾燥及び通風乾燥が好ましく用いられる。乾燥する際には、スキムミルク、グルタミン酸ナトリウム及び糖類などの保護剤を用いることができる。糖類を用いる場合は、グルコースやトレハロースを用いることができる。さらに、乾燥後は、得られた乾燥物に、脱酸素剤、脱水剤を加えて、ガスバリアー性のアルミ袋に入れて密封し、室温から低温で貯蔵することが好ましい。これにより、細菌を長期間生きたまま保存することが可能となる。
また、バチルス・チューリンゲンシスの菌体や培養物に製剤化のための担体や増量剤などの任意の物質をさらに加えて、飼料添加剤に加工することも可能である。
【0028】
本発明の飼料添加剤においては、バチルス・チューリンゲンシスの菌体は、耐酸性に優れる胞子の状態であることが好ましい。また、保存安定性の面からも胞子であることが好ましい。胞子の状態では熱、乾燥に強いため、飼料添加剤に加工する際に十分に乾燥させることができ、保存安定性が向上する。細菌に胞子を形成させるためには、培養の周期において、培地の組成、培地のpH、培養温度、培養湿度、培養する際の酸素濃度などの培養条件を、その胞子形成条件に適合させるように調整することができる。このような方法として、例えば、Schaeffer,P., J.Millet, J.P.Aubert, 「プロシーディング オブ ザ
ナショナル アカデミー オブ サイエンス(Proceedings of the National Academy of Sciences)」米国,1965年,第54巻,p.704−711に記載されている方法が挙げられる。
【0029】
本発明の飼料添加剤は、動物の腸内感染症を予防・治療するために用いることができる。このような腸内感染症を引き起こす病原菌は、通常、腸内細菌科に属する。本発明の飼料添加剤はこの中でも、グラム陰性細菌に属する細菌により引き起こされる腸内感染症に好ましく用いることができる。具体的には、病原性大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ属(Salmonella)、カンピロバクター属(Campylobacter)に属する細菌に対して好ましく用いることができる。病原性大腸菌としては、例えば、エンテロトキシンを産生する大腸菌(毒素原性大腸菌、enterotoxigenic E. coli(ETEC))、浮腫病菌やO157などのベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌(Verotoxin-producing E. coli(VTEC)、enterohemorrhagic E. coli)などが挙げられる。サルモネラ属に属する細菌としては、S.
pullorum、S. gallinarum、S. typhisuis、S. typhimurium、S. enteritidis、S. choleraesuis、S. derby、S. dublinなどが挙げられる。カンピロバクター属に属する細菌としては、C. jejuni、C. coli、C. fetus、C. fetus intestinalisなどが挙げられる。
【0030】
本発明の飼料添加剤は、通常用いられる飼料に添加、混合して、動物に摂取させることができる。飼料の種類や成分は、バチルス・チューリンゲンシスが死滅しない限りにおいて特に制限されず、通常、家畜の飼料やペットフード、動物用サプリメントなど、動物用の飼料として用いられているものを用いることができる。
【0031】
飼料への飼料添加剤の混合は、飼料添加剤をそのまま混合することができるが、粉末状、固形状の飼料添加剤を添加、混合する場合は、飼料への混合を容易にするために液状又はゲル状の形態にして使用することもできる。この場合は、水、大豆油、菜種油、コーン油などの植物油、液体動物油、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物を液体担体として用いることができる。また、飼料中における菌体濃度の均一性を保つために、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カゼインナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、タマリンド種子多糖類などの水溶性多糖類を配合することも好ましい。また、雑菌の繁殖を防ぐために有機酸を配合し、液体生菌剤を酸性にすることもできる。
【0032】
また、本発明の飼料添加剤を他の飼料成分に添加し、混合することにより動物の腸内感染症の予防・治療のための飼料を製造することができる。この場合、飼料添加剤の含有量は、与える動物の種類、体重、年齢、性別、使用目的、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができ、特に制限されないが、例えば、通常は飼料に対して、菌体濃度が1×104〜1×109CFU/gとなるように添加することが好ましい。
【0033】
本発明の飼料を摂取させる動物の種類は、特に制限されず、例えば、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類などが挙げられる。この中でも特に、鶏、アヒル、ウズラ及びシチメンチョウから選ばれる家禽及び豚、牛、羊及び兎から選ばれる家畜に対して好ましく用いることができる。動物に摂取させる飼料の量は、動物の種類、体重、年齢、性別、使用目的、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができる。また、動物の腸内感染
症を予防・治療する方法としては、本発明の飼料添加剤を飼料成分に配合して得た本発明の飼料を動物に摂取させればよく、この投与方法や動物の飼育方法も通常動物の飼育に用いられている方法で行うことができる。
【実施例】
【0034】
(1)胆汁酸耐性及び嫌気性の試験
脱イオン水1,000mlに普通寒天培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)を35g加え、オートクレーブで滅菌した。滅菌後45℃まで冷却してから、胆汁末(Oxgall、Difco製)をセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(孔径0.45μm、アドバンテック東洋(株)製)で濾過滅菌してから加え、胆汁末濃度が0.3質量%、1質量%及び3質量%である、胆汁末添加普通寒天平板培地を作製した。
バチルス・チューリンゲンシスに属する、BGSC 4A3、BGSC 4D1、BGSC 4J4、及びBGSC 4Q7をそれぞれ、胆汁末無添加普通寒天平板培地(脱イオン水1,000ml、「ニッスイ」35g)に接種し37℃で一夜培養した。培養後、平板培地に形成されたコロニーから、菌体を分離し、滅菌済みディスポループを用いて上記で作製した胆汁末添加平板培地に接種した。37℃で2日間培養し、コロニー形成の有無を確認した。
【0035】
また、BGSC 4A3、BGSC 4D1、BGSC 4J4、及びBGSC 4Q7の嫌気条件下での増殖能を確認する目的で、上記で作製した胆汁末無添加平板培地に各菌株を接種し、アネロパックケンキ(三菱ガス化学株式会社製)を用いて、嫌気条件下37℃で2日間培養し、コロニー形成の有無を確認した。
【0036】
一方、比較例としてバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans) ATCC8038株、バチルス・コアギュランス NBRC12583株、バチルス・コアギュランス DSM2312株、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis) NBRC3009株、バチルス・サブチルス NBRC3025株、バチルス・サブチルス NBRC3108株、バチルス・サブチルス NBRC3336株、バチルス・クラウジ(Bacillus clausii) DSM2512株、バチルス・クラウジ DSM2515株、バチルス・クラウジ DSM2525株、及びバチルス・クラウジ DSM8716株をそれぞれ、同様に胆汁末添加培地に接種し、37℃で2日間培養した。また、嫌気条件下での増殖試験も同様に行った。
なお、ATCC8038はAmerican Type Culture Collection (ATCC)に、NBRC12583、NBRC3009、NBRC3025、NBRC3108、及びNBRC3336は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の生物遺伝資源部門(NBRC)に、DSM2312、DSM2512、DSM2515、DSM2525、及びDSM8716はDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)にそれぞれ登録されている株である。
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】


【0038】
実施例1、2、3及び4のバチルス・チューリンゲンシスは、胆汁末濃度が0.3質量%、1質量%及び3質量%である普通寒天平板培地の全てにおいてコロニーを形成し、嫌気条件下でも増殖できることが確認された。
一方、比較例1、2及び3のバチルス・コアギュランスは、嫌気条件下では増殖できることが確認されたが、胆汁末濃度が0.3質量%の普通寒天培地平板に僅かにコロニーを形成するに止まり、胆汁末濃度が1質量%及び3質量%では全くコロニーを形成できず、実施例のバチルス・チューリンゲンシスに比べ胆汁酸耐性に劣ることが示された。また、比較例4、5、6及び7のバチルス・サブチルスは、胆汁酸には耐性を示したが嫌気条件下では増殖できなかった。さらに、比較例8、9、10及び11のバチルス・クラウジDSM2512、DSM2515、DSM2525、DSM8716は、胆汁酸には耐性を示したが嫌気条件下では増殖できなかった。
【0039】
(2)細菌自己誘発因子不活性化能の試験
細菌自己誘発因子産生遺伝子を破壊したクロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)CV026株を用いて細菌自己誘発機構の誘導の有無を確認する試験を行った(McClean,K. et al., Microbiology, 143, 3703-3711 (1997))。CV026株は、細菌自己誘発因子であるN−ヘキサノイル−L−ホモセリンラクトン(HHL)の生合成遺伝子が破壊された菌株であり、外部からHHLなどのアシルホモセリンラクトン(AHL)を添加しなければ、細菌自己誘発機構を発現しないため、紫色の色素(ビオラセイン、violacein)を合成しない。AHLとしては、HHL以外にN−(3−オキソヘキサノイル)−L−ホモセリンラクトン(OHHL)を添加しても細菌自己誘発機構を発現させることができる。本試験の具体的な方法は、以下の通りである。
【0040】
クロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobacterium violaceum)CV026株をLuria−Bertani(LB)培地に接種し、28℃で一夜振とう培養した。次いで、オートクレーブで滅菌後45℃まで冷却した半流動LB寒天培地(0.3%)5mlに、上記で得たCV026の培養液を50μl、濾過滅菌したカナマイシンの2%水溶液を50μl加え、この半流動LB寒天培地5mlを、あらかじめ直径9cmのシャーレに用意しておいたLB寒天培地に重層した。寒天を固化させた後に、このLB寒天培地にコルクポーラーを用いて直径6mmの穴をあけた。
なお、CV026はNCTC13278としてNational Collection of Type Cultures (NCTC)に登録されている株である。
【0041】
LB培地10mlに500μMのOHHL(Sigma製)を0.5ml加え、28℃で4時間置いたものをポジティブコントロールとした。また、何も加えないLB培地を同様に処理したものをネガティブコントロールとした。それぞれのコントロールを50μlずつ、上記で作製したCV026を含むLB培地の穴に添加し、28℃で24時間培養した。その結果、OHHLを添加したポジティブコントロールを添加したものでは、培地の穴の周りにビオラセインの誘導が確認され、OHHLを添加しないネガティブコントロールを添加したものでは、ビオラセインの誘導は確認されなかった。これより、CV026は、OHHLの存在下で培養すると、細菌自己誘発機構を発現しビオラセインを誘導する一方で、OHHLの非存在下で培養しても、細菌自己誘発機構が発現せず、ビオラセインを誘導しないことが確認された。
【0042】
次に、バチルス属細菌のOHHL不活性化能を調べるために、以下の手順でバチルス属細菌とOHHLを反応させた。
バチルス・チューリンゲンシスBGSC 4A3、BGSC 4D1、BGSC 4J4、BGSC 4Q7(実施例1〜4)、及び表2に示すバチルス・コアギュランス(比較例1〜3)、バチルス・サブチルス(比較例4〜7)、バチルス・クラウジ(比較例8〜11)をそれぞれLB培地に接種し、37℃で一夜振とう培養した。次いで、吸光度(660nm)を1.0に調整した培養液10mlに、OHHLを0.5ml加え、28℃で4時間反応を行った。それぞれの反応液を50μlずつ、上記で作製したCV026を含むLB培地の穴に添加し、28℃で24時間培養した。培養後、それぞれの培地の穴の周りのビオラセインの誘導の有無を観察した。
結果を表2に示す。
【0043】
【表2】


【0044】
実施例1、2、3及び4のバチルス・チューリンゲンシスの全ての株において、ビオラセインの誘導が認められなかった。一方、比較例1、2及び3のバチルス・コアギュランス、比較例4、5、6及び7のバチルス・サブチルス、比較例8、9、10及び11のバチルス・クラウジの全ての株においては、ビオラセインの誘導が認められた。この結果から、実施例1〜4のバチルス・チューリンゲンシスは、OHHLの分解酵素を産生することによりOHHLを不活性化し、CV026の細菌自己誘発機構の発現を抑制した一方で、比較例のバチルス属細菌は、OHHLを不活性化しなかったと考えられる。
【0045】
(3)飼料添加剤の製造
下記組成の胞子形成培地を用いて、BGSC 4A3、BGSC 4D1、BGSC 4J4及びBGSC 4Q7をそれぞれ37℃で72時間液体培養した(「プロシーディング オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンス(Proceedings of the National Academy of Sciences)」米国,1965年,第54巻,p.704−711)。得られた培養液を遠心分離し、菌体を集めた。得られた菌体を凍結乾燥した後に粉砕し、胞子密度が5×108CFU/gになるように乳糖を加え、飼料添加剤を製造し、それぞれ製造例1〜4とした。胞子密度は、製造した飼料添加剤を適当な濃度まで滅菌水で希釈し、70℃で30分間加熱することにより栄養細胞のみを死滅させてから普通寒天培地に接種し、形成されたコロニー数を計数することにより測定した。
【0046】
(胞子形成培地成分)
nutrient broth(Difco製) 8.0 g
KCl 1.0 g
MgSO4・7H2O 0.25 g
MnCl2・4H2O 0.002g
pHを7.0に調整し、全量 1,000ml
上記成分をオートクレーブ滅菌した後、滅菌済みCaCl2溶液及びFeSO4溶液をそれぞれ5×10-4 M及び 1×10-6 Mになるように添加した。
【0047】
一方、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans) NBRC12583株及びバチルス・サブチルス(Bacillus subtilis) NBRC3009株を用いて上記と同様にして飼料添加剤を製造し、それぞれ比較製造例1及び2とした。
【0048】
(4)鶏のヒナに対するサルモネラ攻撃試験
鶏のヒナの飼料(SDブロイラー前期用、日本配合飼料(株)製、抗菌性物質無添加飼料)全質量に対して、製造例1〜4の飼料添加剤を0.2質量%となるように混合した飼料を、それぞれ実施例5〜8とした。ブロイラー種鶏(銘柄:チャンキー)由来の種卵より孵化した鶏のヒナ12羽を一群として、各群に実施例5〜8の飼料を12日間与えた。一方、比較製造例1及び2の飼料添加剤を0.2質量%となるように混合した飼料を、比較例12及び13とした。飼料添加剤の代わりに乳糖を0.2質量%混合した飼料を対照例として、同様に与えた。7日齢で一羽当たり1.2×107CFUのSalmonella enteritidis (SE)を経口投与し、12日齢で盲腸内容物と、総排泄腔を綿棒で拭うことにより糞を採取した。SEは、群馬県の養鶏業者の農場で死亡した鶏の盲腸内容物より分離した菌株を用いた。
【0049】
盲腸内容物のSE生菌数を以下の方法により測定し、感染指数及び防御指数を算出した。
盲腸内容物1gを滅菌リン酸緩衝生理食塩水を加えて10倍に希釈し、十分混合して試料原液とした。ついで、試料原液を滅菌生理食塩水を用いて10倍で段階希釈し、段階希釈液とした。試料原液及び段階希釈液をそれぞれSS寒天平板培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)及びブリリアントグリーン寒天平板培地(Difco Laboratories製)に0.1mlずつ塗沫し37℃で24時間培養し、各平板培地に生育した典型的なSEのコロニー数を測定した。さらに、このコロニーより釣菌してリジン脱炭酸試験用SIM寒天培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)及びTSI寒天培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)に接種して37℃で24時間培養して性状の確認を行った。
この中からSEと認められたコロニー数に希釈液の希釈倍率を乗じて盲腸内容物1g当たりのSE生菌数を算出した。この結果を元に、以下のようにして感染指数及び防御指数を算出した。感染指数とは、病原菌の感染率の高さを示す値であり、防御指数とは、バチ
ルス属細菌を含まない飼料を投与した場合と比較した場合のそれぞれの飼料が病原菌の感染を防御する能力を示す値である。
感染指数:各個体の盲腸内SE生菌数の対数の平均値(log CFU/gの平均値)
防御指数:対照群の感染指数/各試験群の感染指数
【0050】
総排泄腔より採取した糞に関しては、以下の方法により個体別に定性培養を行うことによりSEの性状を観察した。すなわち、綿棒に付着した糞を10mlの滅菌リン酸緩衝生理食塩水に懸濁し、試料原液とした後、これをSS寒天培地及びブリリアントグリーン寒天平板培地に0.1mlずつ塗沫し、37℃で24時間培養して各個体についてSEのコロニーが検出されるか否か確認した。
【0051】
さらに、上記で採取した各群の盲腸内容物中のホモセリンラクトンの有無を調べた。
まず始めに、ホモセリンラクトンの濃度と細菌自己誘発機構の誘導の関係を調べるために、以下の試験を行った。
Chromobacterium violaceum CV026株をLB培地に接種し、28℃で一夜振とう培養した。次いで、オートクレーブ滅菌後45℃まで冷却した半流動LB寒天培地(0.3%)5mlに、上記で得たCV026の培養液を50μl、濾過滅菌したカナマイシンの2%水溶液を50μl加え、この半流動LB寒天培地5mlを、予め直径9cmのシャーレに用意しておいたLB寒天培地に重層した。寒天を固化させた後に、500μM、50μM、5μMのOHHL(Sigma製)をそれぞれ50μlずつCV026株を重層したLB培地の表面に滴下し、30分間乾燥させた後、28℃で24時間培養した。その結果、500μM、50μMのOHHLを滴下した培地では、滴下した周辺にビオラセインの誘導が認められたが、5μMのOHHLを滴下した培地では、滴下した周辺にビオラセインの誘導が認められなかった。
【0052】
次に、上記で得た盲腸内容物の滅菌リン酸緩衝生理食塩水原液を、4℃、20,000×gで30分間遠心分離し、得られた上清に2倍量のジクロロメタン(試薬特級、和光純薬工業(株)製)を加え、1時間振とうすることにより抽出を行った。抽出は2回行った。有機層を集め、無水硫酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬工業(株)製)で水分を除き、エバポレートして溶媒を除去した後、50μlの滅菌水を加えた。このようにして得た各群の50μlの盲腸内容物溶液をそれぞれCV026を重層したLB培地の表面に滴下し、30分間乾燥させた後、28℃で24時間培養した。培養後、上記溶液を滴下した周辺におけるビオラセインの誘導の有無を観察した。
【0053】
また、飼育期間中の糞中における添加バチルス・チューリンゲンシスの菌体濃度を測定し、それぞれの平均濃度を算出した。
結果を表3に示す。
【0054】
【表3】


【0055】
実施例5〜8のバチルス・チューリンゲンシスを含む飼料を投与した鶏のヒナは、盲腸内容物のSEの菌体濃度が極めて低く、サルモネラ菌の感染指数は極めて低かった。また、部検した鶏の内臓を肉眼的に検査したところ、盲腸に出血病変はほとんど見られなかった。防御指数を見て分かるように、感染指数は対照例に比して約1/4〜1/10であった。
比較例12及び13の細菌を含む飼料を投与したヒナは、対照例と比較するとわずかにSEの増殖が抑制されているのみであった。また、部検した鶏の内臓を肉眼的に検査したところ、盲腸出血病変が高率に認められた。また、実施例5〜8の飼料添加剤を与えた鶏ヒナの糞からは、9.9×106 CFU/g(グラム生鶏糞)以上の添加菌が検出され、比較例に比して明らかに生菌数が増加していた。
【0056】
これより、本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシス細菌の胞子を含有する動物用飼料添加剤は、胃や腸の消化管内で死滅することなく、腸内でコロニーを形成し、SEの増殖を抑制すること、細菌自己誘発因子の発現を抑制することが示された。すなわち、本発明のバチルス・チューリンゲンシス細菌の胞子を飼料に添加することによりSEによる腸内感染症を予防・治療する効果があることが分かる。
【0057】
(5)豚に対する大腸菌攻撃試験
養豚用飼料(プレミアシリーズ、昭和産業(株)製)全質量に対し、製造例1及び3の飼料添加剤を0.5質量%となるように混合した飼料を、それぞれ実施例9及び10とし、35日齢の豚30頭を一群として19日間給餌した。同様に、比較製造例1の飼料添加剤を0.5質量%混合した飼料を比較例14とし、豚に給餌した。また、飼料添加剤の代わりに乳糖を0.5質量%混合した飼料を対照例とし、豚に給餌した。40日齢で1頭当たり1.8×105CFUの浮腫病菌(Escherichia coli)を経口的に感染させた。浮腫病菌は、北九州の養豚場で浮腫病を発病して死亡した豚の腸内容物より分離した菌株を用いた。54日齢まで飼育し、各群の豚の死亡率を算出した。
【0058】
また、小腸内容物のE. coliの生菌数を以下の方法で測定した。小腸内容物1gを滅菌リン酸緩衝生理食塩水を加えて10倍に希釈し、十分混合して試料原液とした。次いで、
試料原液を滅菌生理食塩水を用いて10倍で段階希釈した。試料原液及び段階希釈液をそれぞれDHL寒天平板培地(顆粒)「ニッスイ」(日水製薬(株)製)に0.1mlずつ塗沫し、37℃で24時間培養し、各平板培地に生育した典型的なE. coliのコロニー数を測定した。E. coliと認められたコロニー数に希釈液の希釈倍率を乗じて小腸内容物1g当たりのE. coliの生菌数を求め、感染指数を以下の方法により算出した。
感染指数:各個体の小腸内E. coli生菌数の対数の平均値(log CFU/gの平均値)
【0059】
さらに、小腸内容物中のホモセリンラクトンの有無を調べるために、(4)と同様の方法でCV026株を用いてビオラセインの誘導の有無を観察した。
結果を表4に示す。
【0060】
【表4】


【0061】
対照群では、死亡率が60%、比較例14の試験群では死亡率が43%であり、死亡した豚では、眼瞼浮腫と斜頚などの浮腫病の病相が観察された。死亡しなかった豚も元気消失、皮毛粗剛を呈した。実施例9及び10のバチルス・チューリンゲンシスを含む飼料添加剤を与えた豚の死亡率は10%以下であった。
また、実施例9及び10の豚の小腸内容物ではE. coliの増殖が抑制されていた。さらに、細菌自己誘発因子の誘導も抑制されていた。これより、本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシス細菌の胞子を含有する飼料添加剤は、豚に投与することにより、浮腫病感染を予防・治療することが分かった。
【0062】
(6)子牛に対するサルモネラ菌攻撃試験
生後1週齢の雄子牛(ホルスタイン種)8頭を一群として飼育した。子牛用混合飼料(ミラクルメイト、(株)科学飼料研究所製)に製造例1及び3の飼料添加剤をそれぞれ2.0質量%添加したものを実施例11及び12とし、比較製造例1の飼料添加剤を2.0質量%添加したものを比較例15とした。また、飼料添加剤に代えて同量の乳糖を添加したものを対照例とした。これらの子牛用混合飼料を4週齢まで給餌した。2週齢で1頭当たり8.9×105のSalmonella typhimurium(ST)を全頭に経口投与した。STは北九州の酪農家の農場で下痢を発症した牛の新鮮便より分離した菌株を用いた。4週齢まで飼育し、各群の子牛の死亡率を算出した。
【0063】
また、小腸内容物を採取し、STの生菌数を以下の方法で測定した。小腸内容物1gを滅菌リン酸緩衝生理食塩水を加えて10倍に希釈し、十分混合して試料原液とした。次いで、試料原液を滅菌生理食塩水を用いて10倍で段階希釈した。試料原液及び段階希釈液
をそれぞれSS寒天平板培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)及びブリリアントグリーン寒天平板培地(Difco Laboratories製)に0.1mlずつ塗沫し37℃で24時間培養し、各平板培地に生育した典型的なSTのコロニー数を測定した。さらに、コロニーより釣菌してリジン脱炭酸試験用SIM寒天培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)及びTSI寒天培地「ニッスイ」(日水製薬(株)製)に接種して37℃で24時間培養して性状の確認を行った。次いで、コロニー数に希釈液の希釈倍率を乗じて、小腸内容物1g辺りのST生菌数を算出した。
【0064】
さらに、小腸内容物中のホモセリンラクトンの有無を調べるために、(4)と同様の方法でCV026株を用いてビオラセインの誘導の有無を観察した。
結果を表5に示す。
【0065】
【表5】


【0066】
対照群では、死亡率が50%、比較例15の試験区では死亡率が50%であり、死亡した子牛は黄褐色泥状便、粘血便から脱水、哺乳起立不能といった病相が観察された。死亡しなかった子牛も下痢が認められた。実施例11及び12の飼料添加剤を与えた子牛の死亡率は12.5%以下と低く、特に実施例12の飼料添加剤を与えた子牛の死亡率は0%であった。
また、実施例11及び12の牛の小腸内容物ではSTの増殖が抑制されていた。さらに、細菌自己誘発因子の誘導も抑制されていた。これより、本発明の飼料添加剤に用いるバチルス・チューリンゲンシス細菌の胞子を含有する飼料添加剤は、牛に投与することにより、ST感染を予防・治療することが分かった。




 

 


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