米国特許情報 | 欧州特許情報 | 国際公開(PCT)情報 | Google の米国特許検索
 
     特許分類
A 農業
B 衣類
C 家具
D 医学
E スポ−ツ;娯楽
F 加工処理操作
G 机上付属具
H 装飾
I 車両
J 包装;運搬
L 化学;冶金
M 繊維;紙;印刷
N 固定構造物
O 機械工学
P 武器
Q 照明
R 測定; 光学
S 写真;映画
T 計算機;電気通信
U 核技術
V 電気素子
W 発電
X 楽器;音響


  ホーム -> 衣類 -> YKK株式会社

発明の名称 剥離時の不快音を低減した繊維製面ファスナーとその取付製品
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2004−173819(P2004−173819A)
公開日 平成16年6月24日(2004.6.24)
出願番号 特願2002−341930(P2002−341930)
出願日 平成14年11月26日(2002.11.26)
代理人
発明者 石橋 亮 / 村山 禎一 / 田中 守 / 大杉 新太郎
要約 課題
面ファスナー自体と面ファスナー装着製品の剥離時における音質を低音側ヘとシフトさせて不快感を低減させる繊維製面ファスナーと同面ファスナーの装着製品を提供する。

解決手段
平板状基布の一表面に多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた繊維製の面ファスナーに関する。同面ファスナーの基布の組織や構成糸などを規定することにより、100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの100Hzから3000Hzの領域の面積Aと、3000Hzから15000Hzの領域の面積Bの比(A/B)の値を0.4以上とすることにより、繊維製面ファスナーの剥離時における不快音を小さな音質とする。
特許請求の範囲
【請求項1】
平板状基布の一表面に多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーにあって、
100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの100Hzから3000Hzの領域の面積Aと、3000Hzから15000Hzの領域の面積Bの比(A/B)が0.4以上であることを特徴とする繊維製面ファスナー。
【請求項2】
平板状基布の表裏いずれかの表面に多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーにあって、
100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの最大成分が3000Hzより低い周波数であることを特徴とする繊維製面ファスナー。
【請求項3】
平板状基布の一表面に多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーにあって、
100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの100Hzから3000Hzの領域の面積Aと、3000Hzから15000Hzの領域の面積Bの比(A/B)が0.4以上であり、
100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの最大成分が3000Hzより低い周波数である、
ことを特徴とする繊維製面ファスナー。
【請求項4】
半径4.0mmで雄雌の各面ファスナーの基布を180°曲げたときの各基布の曲げ強さの和が36gf・cm/2.5cm以下であり、少なくとも一方の面ファスナー部材の接合面が、全面に均質に分散して配された多数の繊維製係合素子から構成されてなる請求項1〜3記載の繊維製面ファスナー。
【請求項5】
接合相手となる各繊維製面ファスナー同士の基布の見掛け密度が0.5g/cm以下であり、少なくとも一方の面ファスナー部材の接合面が全面に均質に分散して配された多数の繊維製係合素子から構成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の繊維製面ファスナー。
【請求項6】
前記面ファスナーの基布が織編構造を有し、編構造にあってはウェール密度N1(ウェール数/cm)とコース密度N2(コース数/cm) とし、織構造にあっては経糸及び緯糸の各密度N1,N2(経糸本数/cm、緯糸本数/cm)が次式(1) を満足してなる請求項4又は5記載の繊維製面ファスナー。
5.9≦N1+N2≦29 (1)
【請求項7】
接合相手となる少なくとも一方の繊維製面ファスナー部材の基布が、接結糸を介して多層に織編成された多重織編構造を有すると共に、各層間に間隙を有してなり、接合相手となる他方の面ファスナー部材の基布の見掛け密度が0.5g/cm以下であり、
多重織編構造を有する一方の繊維製面ファスナー部材が、係合素子が立ち上がる基層の背面側に見掛け密度0.5g/cm以下である少なくとも1層以上を含んでなる請求項5記載の繊維製面ファスナー。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかの面ファスナーが取り付けられた面ファスナー取付製品であって、
前記面ファスナーの剥離音の100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された音響スペクトルの100Hzから3000Hzの領域の面積Aと、3000Hzから15000Hzの領域の面積Bの比(A/B)が0.4以上であることを特徴とする面ファスナー取付製品。
【請求項9】
前記面ファスナーの係合素子が立ち上がる前記基布の背面と取付対象物との間に空隙を形成する空隙形成手段を有してなる請求項8記載の面ファスナー取付製品。
【請求項10】
前記面ファスナーの係合素子が立ち上がる前記基布の背面と取付対象物との間に制振手段を有してなる請求項8記載の面ファスナー取付製品。
【請求項11】
前記制振手段が、半径4mmで180°曲げたときの曲げ強さが0.7gf・cm/2.5cm以下の各種布帛類である請求項10記載の面ファスナー取付製品。
【請求項12】
前記制振手段が、見掛け密度0.5g/cm以下の各種布帛類からなる請求項10記載の面ファスナー取付製品。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は繊維製の面ファスナー及び同面ファスナーが取り付けられた面ファスナー取付製品に関し、特に剥離時の音の小さな繊維製面ファスナーとその面ファスナーの取付製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
面ファスナーの剥離時の音を小さくする方法について、例えば2件の米国特許明細書が公開されている。その1つである、米国特許第4, 776, 068明細書( Quiet Touch Fastener Material(1986))によれば、面ファスナーの基布であるテープをラティス構造とすることにより空気中へのエネルギーの伝播を減少させるとしている。また他の1つである、米国特許第4, 884, 323号明細書(Quiet Touch Fastner Attachment System (1989) )には、面ファスナー部材と取付対象である生地との間にマウンティング部材を有し、生地と面ファスナーとをマウンティング部材を介して隔離する方法が開示され、或いは吸音性の材料を面ファスナー部材の背面に取り付けて基布自体の容積を増し、剥離時の振動を抑える方法が開示されている。これらの方法によれば、面ファスナーは端縁部のみが縫着などにより取り付けられ、中央部には生地と面ファスナーを固定する要素がないため、広幅の面ファスナーの取り付けには適さないし、生地の背面に別の吸音性材料を取り付ける場合は、面ファスナーが取り付けられる部分の基布の容積が増加し、外観上も手触りも低下し、極めて違和感を感じる。また、縫製方法が複雑になり工程が増えるという問題点もある。
【0003】
また、特開平6−103号公報では、基布背面に振動吸収材を有する面ファスナーが開示されている。この方法で十分な効果を得るには振動吸収剤の重量が十分に無ければならず、面ファスナーが厚くなる欠点がある。また、これらの技術は剥離音の大きさを低く抑えることに注目している。しかし、人間の聴感上、不快な音と不快ではない音が存在する。音を単純に小さくしただけでは十分とは言えず、聴感上も不快を感じさせないことが重要である。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第4, 776, 068号明細書
【特許文献2】
米国特許第4, 884, 323号明細書
【特許文献3】
特開平6−103号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
面ファスナーを剥離する時に比較的大きな異音が発生する。この異音は基布が振動することにより発する音である。個々の係合素子が剥離する際には必ず音の発生を伴い、この音の発生を完全に消すことは困難である。
【0006】
前述の特許文献1〜3では、基布の振動が空気に伝達される割合を低下する方法によって、発生音を小さくしている。しかし、これらの方法は音質について考慮されておらず、発生音は小さくなっても音質が不快と感じさせる場合には製品として十分とは言えない。また、面ファスナーが製品に縫製された場合、音質に変化が起こる。そのため、面ファスナーのみではなく、面ファスナーが取り付けられたときの製品全体の音質の変化をも考慮する必要がある。
【0007】
本発明は、面ファスナー自体の発する剥離音の音質を低音側ヘとシフトさせて不快感を低減させるとともに、面ファスナーを取り付けた製品が発する剥離音をも低音側ヘとシフトし、不快感を抑えるようにした繊維製面ファスナー及び同面ファスナーの装着製品を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用効果】
本発明では面ファスナーの剥離時に発生する音の音質に着目し、フーリエ変換による音響スペクトルの比較から不快感を感じさせる成分を低減させるとともに、発生音自体を低減させて不快感をなくそうとするものである。また、剥離音の周波数を低く抑えるための手段を開発した。
【0009】
上記特許文献1においては面ファスナーの基布をラティス構造として、振動が空気へと伝わる効率を低下させ、さらに、背面に質量のある材料を取り付けることにより静音化を図っている。また、特許文献2では背面にマウンティングシステムを有し、面ファスナーを装着する生地と面ファスナーの基布とを分離して基布から生地へと振動が伝わることを防いでいる。
【0010】
発明者らの実験の結果、面ファスナーからの異音の発生は係合素子同士が係合した面ファスナーの基布が、フックおよびループにより強く引っ張られ、次いで係合が外れたときに引き寄せられた基布が元の状態へ瞬時に復元するために発生することが分かった。このとき、スピーカーコーンのように振動が空気に伝達され、音として伝わると考えられる。上記特許文献1が開示するラティス状構造はスピーカーコーンに穴をあけることに相当し、空気への振動の伝達効率を低く抑えている。
【0011】
上記特許文献1〜3の全てに示された手法は音を小さくすることにのみ注目しており、音質については何ら検討がなされていない。面ファスナーの剥離時に発生する音は離散的で、鋭く、減衰の速い音である。一般にこのような音は耳障りな音である。これらの音から高い周波数成分を取り除くと音の質感が変化し、まろやかな音に変わる。
【0012】
このような音の比較には音響スペクトルを用いると便利である。音響スペクトルは横軸に周波数をとり、縦軸に強度をとって表される。音響スペクトルはフーリエ変換により求めるられる。通常はコンピュータにより高速フーリエ変換(FFT)が行われる。FFTは2の階乗個のデータを必要とし、分解能はデータの個数に依存する。また、分析可能な最も低い周波数はサンプリング時間によって決まる。また、最も高い周波数はサンプリング周期によって決まる。従って、音響スペクトルを議論する際には、分析範囲を明示することが重要である。通常、音響スペクトルは縦軸、横軸ともに対数で示される。
【0013】
本発明の第1の基本的な構成は、繊維構造材からなる平板状基布の一表面に多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーにあって、100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの100Hzから3000Hzの領域の面積Aと、3000Hzから15000Hzの領域の面積Bの比(A/B)が0.4以上であることを特徴とする。
【0014】
発明者らの実験によれば、100Hzから150000Hzの間の周波数領域にあって、3000Hzを基準としてその前後の面積を比較することにより、音の質を評価できることが分かった。3000Hz以上の高い周波数を多く含む剥離音は耳障りで、不快な感じを与え、少ない場合にはまろやかな音となる。フーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの100Hzから3000Hzの領域の面積Aと、3000Hzから15000Hzの領域の面積Bの比(A/B)が0.4以下であると、剥離音が耳障りで且つ不快感を感じる。
【0015】
更には、100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの最大成分を3000Hzより低い周波数であると、同じくその剥離音は不快音と感じることがない。特に、平板状基布の一表面に多数の繊維製係合素子を有する接合面を備えた面ファスナーにあって、100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの100Hzから3000Hzの領域の面積Aと、3000Hzから15000Hzの領域の面積Bの比(A/B)が0.4以上であり、100Hzから15000Hzの領域でフーリエ変換された剥離音の音響スペクトルの最大成分が3000Hzより低い周波数である場合には、耳障りでなく殆ど不快な感じがない。
【0016】
本発明にあっては、更に面ファスナー基布の硬さが音質に影響を与えることを見出し、なされたものである。面ファスナー基布をより柔軟な基布とし、さらには空隙を設けると、剥離時の発生音の音質を低周波数側にシフトすることができて、剥離時の不快音をよりまろやかな音へと変換することができる。
【0017】
具体的には、面ファスナーの基布の密度を低くし、基布を柔らかくし、基布の弾性率を低くし、高い周波数成分の振動伝達を低くすることにより、発生音を低周波数側ヘシフトする。更に、基布の高音の振動伝達を低くする方法として、基布を構成する糸条を直線的とはせずに、できるかぎり大きく屈曲した組織を採用することが効果的である。同時に、基布の密度、特にその見掛け密度を0.5g/cm以下と低くした場合にはさらに効果的である。
【0018】
また、半径4.0mmで雄雌の各面ファスナー部材の基布を180°曲げたときの各基布の曲げ強さの和が36gf・cm/2.5cm以下であって、少なくとも一方の面ファスナー部材の接合面が、全面に均質に分散して配された多数の繊維製係合素子から構成されている場合にも、高い周波数成分の振動伝達を低くすることにより、発生音を低周波数側ヘシフトすることができる。
【0019】
弾性率が高い場合は固有振動数が高音側にあり、弾性率の低いものは固有振動数が低周波数側にシフトする。面ファスナーの基布についても同様に基布が硬い場合には高い音が発生し、基布が柔らかい場合には低い音が発生する。前述のように糸を屈曲させる、密度を低くする等の方法は面ファスナーの基布を柔らかくする効果があり、発生音を低音側ヘとシフトする。
【0020】
振動は横波と縦波に分けて考えることができる。横波は糸の長手方向に対して直角方向の振動である。この振動は周囲の糸、バックコーティング材との摩擦により容易に減衰する。また、制振材等を設けた場合にはさらに効率良く減衰する。一方、縦波は糸の長手方向に振動する波である。この波の伝播速度は糸の貯蔵弾性率によって決まり、減衰は糸の損失弾性率によってきまる。貯蔵弾性率と損失弾性率の比は室温では通常10:1程度であり、室温において減衰は大きくない。縦波を減衰させるには糸を屈曲させる方法が有効である。屈曲により縦波のエネルギーの一部は横波へと変換され、縦波は屈曲のたびに急速に減衰する。
【0021】
この減衰効果を高めるためには糸の屈曲角度が90°以上であることが望ましい。平織りのように糸の屈曲が小さい織り組織の場合、振動は減衰せずに広い範囲に拡散する。一方、編み組織のように糸が大きく屈曲する組織では糸の屈曲により振動は減衰し、狭い範囲の振動にとどまる。特に糸が嵩高い場合には効果が大きい。織編組織の見掛け密度を0.5g/cm以下とする場合にも、編糸が大きく屈曲すること及び柔軟であることと相まって、その減衰効果が大きい。
【0022】
糸を屈曲させ、相互に隙間を持たせることにより、高い周波数の成分は速く減衰し、低い周波数の成分のみが残る。そのため、中心の周波数は低周波数側ヘシフトする。さらには、このような基布は全体が柔らかく、弾性率が低くなるために固有振動数も低周波数側にシフトする。
【0023】
基布の密度を下げるには織編組織を粗くする方法が有効である。編みの場合、横方向の繰り返し数(ウエール密度)をN1(回/cm)とし、縦方向の繰り返し数(コース密度)をN2(回/cm)とするとき、N1+N2が5.9以上29.0以下とすると前記の条件を満たし、剥離音を低下させることができる。また、織りの場合には、例えば緯糸密度を打ち込み数18回/cm以下、経糸密度37.5本/cm以下、緯糸太さ140〜300デニール、経糸太さ140〜300デニール、ループ糸450デニールとすることにより前記条件を満たすことができる。
【0024】
更には、糸の嵩高さを調整し、密度を下げる方法として、けん縮糸を用いることもできる。けん縮糸は糸そのものが嵩高さを持っており、織編物の嵩が高くなり、見掛け密度が低下する。また、織編組織にあって、織編成時に構成糸条の一部をループ状に織り込み又は編み込むと、更に見掛け密度が小さくなり、面ファスナーの剥離時に発生する高い周波数の音を低周波数側へと効果的にシフトし、不快な音をよりまろやかな音に変換する。
【0025】
糸としての貯蔵弾性率と損失弾性率の比は混紡によっても改善できる。特にウレタン繊維等の室温付近にタンデルタのピークをもつ材質の糸を混紡すると、糸としての損失弾性率が著しく高くなる。また、LDPE(低級ポリチレン)のようにガラス転移点が低温にあり、結晶化度の小さな材料も有効である。前述のように損失弾性率を高くすると、高い音を効果的に吸収するようになり、剥離時の発生音が低音側ヘとシフトする。また、基布をレース状組織とすると振動を伝える糸が多重に屈曲され、さらに振動を伝達する糸の本数そのものが減り、見かけの密度が低下するためにさらに効果的である。
【0026】
面ファスナーの剥離時の音は面ファスナーのみから出ているのではなく、取り付けられた製品へと振動が伝達し、製品からも発生している。そのため、面ファスナーの音を小さくしただけでは不充分で、製品の特性をも考慮する必要がある。同種の面ファスナーを用いても、縫製される相手の布によって発生する音が異なる。このような違いをなくすためには、面ファスナーの基布と縫製相手の布との間に空隙形成手段をもつスペーサを介装し、振動が布へ伝達されない構造とすることも有効である。この場合、スペーサとしては音を和らげる性質を持った布を使い、これを挟み込む方法も有効である。スペーサとしては、面ファスナーの基布と同様に見掛け密度が0.5g/cm以下の布帛が適しており、前述の面ファスナーの基布と同様の理由により、振動を低周波数側ヘとシフトする役割をはたす。
【0027】
面ファスナーをスペーサーを介して生地に取り付けた場合と、直接生地に取り付けた場合の剥離音の違いを測定したところ、明らかにスペーサーを介して縫製した試験体の剥離音は低周波数側にシフトしていることが分かった。従って、剥離時の不快音の発生は抑えられている。また、それぞれの上記高周波成分比(A/B)も、直接生地に取り付けた試験体の方が、スペーサーを介して生地に縫製した試験体の値より大きい。また、直接生地に縫製した試験体について音響スペクトルの最大成分は高い周波数側に広く広がり、スペーサーを介して生地に縫製した試験体について音響スペクトルの最大成分は低い周波数に集中していた。そのため、面ファスナーをスペーサーを介して生地に縫製した試験体の剥離音が低く、不快感を与えない。
【0028】
前記面ファスナーの係合素子が立ち上がる前記基布の背面と取付対象物との間に制振手段を設けることも有効である。この制振手段としては、半径4mmで180°曲げたときの曲げ強さが0.7gf・cm/2.5cm以下の各種布帛類であることが好ましく、或いは見掛け密度0.5g/cm以下の各種布帛類からなってもよい。
【0029】
このような不快音を低減した面ファスナーを衣料に使用した場合、面ファスナーの脱着時に不快感を伴わず、好適である。一般衣料用途としては、身障者用簡易脱着下着、肩パット、下着、ユニフォーム、作業服、スキーウェアー、ブルゾン、ボトム、パンツ、スカート、ドレス、スラックス、帯等に用いることができる。手袋、ポケットカバーのとめ等の脱着を頻繁に行うものについては不快音が発生しないことが、使い心地の面から重要である。このような用途には、本発明の面ファスナーを好適に用いることができる。
【0030】
また、本発明の面ファスナーを用いれば、各種袋、かばん、財布等においても静粛な場所での開閉に気を使う必要はなく開閉が可能となる。特に音の発生が問題となる軍用、狩猟用用途として、雑納、かばん、ベスト、ジャケット、衣服、銃のホルダー、寝袋等においても、本発明の面ファスナーの使用が好ましい。新生児や幼児用の肌着、コンビ肌着、オムツ、オムツカバー、おくるみ、カバーオールに用いれば、就寝時にも音を気にすることなく、着替えや、オムツの交換が可能となる。
【0031】
文具のケース等においては教室、図書館等比較的静かな場所で開閉する必要があり、音は重要な要素である。これらの場所で使用する各種書類入れ、筆箱、結束バンド、システム手帳等に適している。また、医療用の各種用品にも面ファスナーは多く使用されている。血圧測定用の腕帯、サポーター、義肢、義足の接続、寝巻きの帯、寝巻きの合わせ部の固定、枕カバー、シーツ等に用いられているが、剥離時に不快な音がするものは好まれない。面ファスナーは運動靴等の履物にも使用されており、この様な用途においても不快音の伴わない、該面ファスナーを使用できる。
【0032】
さらに、面ファスナーは各種電子機器のケースにも使用されている。この種のケースとして、ビデオカメラ、CDプレイヤー、カメラ、カメラレンズ、等のケースを挙げることができ、これらのケースにも本発明の面ファスナーが好適に使用できる。ヘッドレストのカバーや、シートカバー、カーテンベルト等の車両用の用途にも適用が可能である。更には、カーペットのずれ防止、カーテンベルト、壁紙の固定用にも、本発明の面ファスナーは好適である。
【0033】
【発明の実施形態】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に従って具体的に説明する。
面ファスナーの剥離時に発生する音は、図1に示すような波形の音を発生する。同図から理解できるように、このときの発生音は離散的で、鋭く、減衰の速い音である。図2は、そのうちの1つの音を拡大している。図2からも理解できるように、1回の剥離音は高い周波数の音であるが、その僅かに0.1秒足らずで、瞬間的に減衰するのが特徴である。一般的に、このような音は耳障りな音である。これらの音から高い周波数成分を取り除くと音の質感が変化し、まろやかな音に変化する。
【0034】
表1の試料について剥離音を測定した結果を図3に示した。このときの測定は、マイクロホンを繊維製面ファスナーから65mm離れたところに設置し、その剥離時の発生音を測定している。同表に示す基布構造のうち、通常製品(織り)は、平織りに近い組織の織物である。また、同表の通常製品(起毛)は起毛織物である。一方、編みは経編み組織からなり、その見掛け上の密度も低く、編み組織のために構成糸は大きく屈曲している。編み組織を採用すると、見かけの密度と糸の屈曲の効果が相乗的に反映して、発生音を大きく低音側へとシフトする。
【0035】
面ファスナーの剥離時に発生する音の周波数が3000Hz以下の成分を数値積分した面積をAとし、3000Hz以上の成分を同様に数値積分した面積をBとしたとき、その比A/Bの値を高周波成分比と呼ぶこととする。この高周波成分比が0.4以上であれば、不快な音とは感じられない。図3に示す各試験体の高周波成分比は、通常の織り製品で0.164、起毛製品(起毛) で0.204、編み製品で1.075であった。また、音響スペクトルの最大成分は通常製品(織り) で5330Hz、通常製品(起毛) で3070Hz、編みで420Hzであった。編みは剥離音が明らかに他の試験体に比べて、低音に聞こえ、不快感のないものであった。
【0036】
【表1】


【0037】
本発明においては面ファスナーの基布の密度を低くし、基布を柔らかくし、基布の弾性率を低くし、高い周波数成分の振動伝達を低くすることにより、発生音は確実に低周波数側ヘとシフトする。具体的に基布の高音の振動伝達を低くする方法として、基布を構成する糸条を直線的とはせずに、できるかぎり大きく屈曲した組織を採用することが効果的である。また、基布の密度を低くし、特に見掛け密度を0.5g/cm以下とした場合にはさらに効果的である。
【0038】
振動は横波と縦波に分けられ、縦波を減衰させるには糸を屈曲させる方法が有効である。屈曲により縦波のエネルギーの一部は横波へと変換され、縦波は屈曲のたびに急速に減衰する。この減衰効果を高めるためには糸の屈曲角度が90°以上であることが望ましい。平織りのように糸の屈曲が小さい織り組織の場合、振動は減衰せずに広い範囲に拡散する。一方、編み組織のように糸が大きく屈曲する組織では糸の屈曲により振動は減衰し、狭い範囲の振動にとどまる。
【0039】
特に糸が嵩高い場合には効果が大きい。織編組織の見掛け密度が0.5g/cm以下の場合にも、その減衰効果が大きい。弾性率が高い場合は固有振動数が高音側にあり、弾性率の低いものは固有振動数が低周波数側にシフトする。面ファスナーの基布についても同様に基布が硬い場合には高い音が発生し、基布が柔らかい場合には低い音が発生する。前述のように糸を屈曲させる、密度を低くする等の方法は面ファスナーの基布を柔らかくする効果があり、発生音を低音側ヘと効果的にシフトする。
【0040】
面ファスナーの基布の硬さはカトーテックの順曲げ試験機KES−F2により曲げに必要な力として求めることができる。KES−F2は、図4に示すような動きをする。固定チャック1と可動チャック2とが所要の間隔をおいて配され、固定チャック1と可動チャック2とにより両端が挟まれた試料は、可動チャック2が一律の曲率をもつ軌道上を移動するに伴い曲げられる。すなわち、可動チャック2は一定の曲率を保つように首を振りながら移動する。このとき測定可能な試料の最小曲率は4mmである。このような方法により曲率が4.0mmのときの固定チャック1にかかるモーメントを求めて、基布の柔らかさを評価する。曲げる角度を180°として、試料の曲げ強さを求めた。データは幅を25mmに換算して、25mmあたりの曲げ強さとして比較した。
【0041】
雄雌の面ファスナーについて、その係合素子を削り落とし、基布のみについて前述の方法により曲げ強さを測定した。曲げ強さとして、雄雌の面ファスナー基布の測定値の和を取った。発生音は騒音計を試料から65mmの距離において測定した。結果は、図5に示すように、曲げ強さが大きくなると発生音が大きくなった。通常の面ファスナーの曲げ強さの和は46gf・cm/2.5cmであり、その剥離時の発生音は95dBであった。これに対して、基布の曲げの和を19gf・cm/2.5cmとした場合には75dBまで低下した。このような関係から、明確に音の違いのわかる10dB低下点を求めると、基布の曲げの和は36gf・cm/2.5cmであればよいことが分かる。
【0042】
また、剥離時に発生する音のフーリエ変換したスペクトルの主ピークは、曲げ強さ46gf・cm/2.5cmのものは約3670Hzであったが、19gf・cm/2.5cmのものは775Hzまで低温側へとシフトして低下した。図6から、高周波成分比(A/B)は、46gf・cm/2.5cmでは0.29であるのに対して、19gf・cm/2.5cmでは0.67であることが分かる。また、同図から曲げ強さと高周波成分比の関係は直線的であると考えてよい。
【0043】
この高周波成分比が0.4となるときの曲げ強さは36gf・cm/2.5cmであり、本発明で規定する高周波成分比が0.4以上、すなわち曲げ強さが36gf・cm/2.5cm以下とすれば、面ファスナーの剥離時に不快な音を発生させないで済むことが分かる。また、図5によっても理解できるように、曲げ強さが36gf・cm/2.5cm以下であれば、剥離音の大きさも通常品よりも10dB以上低下し、音も小さくなったと感じることができる。
【0044】
糸を屈曲させ、相互に隙間を持たせることにより、高い周波数の成分は速く減衰し、低い周波数の成分のみが残る。そのため、中心の高い周波数は低周波数側ヘとシフトする。さらには、このような基布は全体が柔らかく、弾性率が低くなるために固有振動数も低周波数側へと大きくシフトする。
【0045】
基布の密度を下げるには織編組織を粗くする方法が有効である。編構造の場合、横方向の繰り返し数(ウエール密度)をN1(回/cm)とし、縦方向の繰り返し数(コース密度)をN2(回/cm)とするとき、N1+N2が5.9以上29.0以下にすると、組織が粗くなり剥離音を低下させることができる。また、織構造の場合には、経糸密度を37.5(本/cm)以下、緯糸密度を18.0(本/cm)以下、緯糸太さ140〜300デニール、経糸太さ140〜300デニール、ループ糸450デニールとすることにより、組織が粗くなり剥離音を低下させることができる。
【0046】
さらにはかさ高さを調整し、密度を下げる方法として、けん縮糸を用いることもできる。けん縮糸は糸そのものが嵩高さを持っており、織編物が嵩高くなり、密度が低下し、曲げ強さも低下する。
【0047】
糸としての貯蔵弾性率と損失弾性率の比は混紡により改善できる。特にウレタン繊維等の室温付近にタンデルタのピークをもつ材質の糸を混紡すると糸としての損失弾性率が著しく高くなる。また、LDPEの様にガラス転移点が低温にあり、結晶化度の小さな材料も有効である。前記の様に損失弾性率を高くすると高い音を効果的に吸収するようになり、剥離時の発生音が低音側ヘシフトする。また、基布をレース状組織とすると振動を伝える糸が多重に屈曲され、さらに振動を伝達する糸の本数そのものが減り、見掛けの密度が低下するためにさらに効果的である。
【0048】
面ファスナーの剥離時の音は面ファスナーのみから出ているのではなく、取り付けられた製品へ振動が伝達し、製品からも発生している。そのため、面ファスナーの音を小さくしただけでは不充分で、製品の特性も考慮する必要がある。同じ面ファスナーを用いても縫製される相手の布によって、発生する音が異なる。このような違いをなくすためには、面ファスナー基布と布の間に空隙を設け、振動が布へ伝達されない構造とすることが有効である。また、スペーサとして音を和らげる性質を持った布を挟み込む方法も有効である。スペーサとしては面ファスナー基布と同様に、曲げ強さで評価することができ、曲げ強さが0.7gf・cm/2.5cm以下の布が適しており、既述した面ファスナーの基布と同様な理由により、振動を低周波数側ヘとシフトする役割をはたす。
【0049】
面ファスナーをスペーサを介して生地に取り付けた場合と、直接生地に取り付けた場合の違いを図7に示した。試験体Pは、タフタ生地に表1に示した編みを基布とする面ファスナーを直接取り付けこたものであり、試験体Pは、スペーサを介してタフタ生地に同様の面ファスナーを取り付けたものである。これらの試料P,Pについて、既述の方法により剥離音を測定し、FFTにより音響スペクトルとして図7に示している。スペーサとして曲げ強さ0.38gf・cm/2.5cmのパイル織物を用いた。
【0050】
同図から明らかなように、スペーサを介して縫製した試験体の剥離音は低周波数側にシフトしている。従って、剥離時の不快音の発生は抑えられている。またそれぞれの音の大きさは、直接タフタ生地(曲げ強さ0.90gf・cm/2.5cm)に縫製した試験体Pについて88dBであり、スペーサを介してタフタ生地に縫製した試験体Pでは75dBであった。また、音響スペクトルの最大成分は直接タフタ生地に縫製した試験体Pについては3340Hz、スペーサを介してタフタ生地に縫製した試験体Pについては2200Hzであった。スペーサを介してタフタ生地に縫製した試験体Pは剥離音が低く、不快感を与えないものであった。
【0051】
次に、本発明の典型的な実施例を具体的数値に基づき説明する。
【実施例1】
曲げ強さを12.3gf・cm/2.5cm、見掛け密度を0.45g/cmとした編構造の基布によるループと基布の曲げ強さを6.3gf・cm/2.5cm、見掛け密度を0.40g/cmとした織構造のフックを組み合わせ、剥離音を測定した。剥離音の最大成分の周波数は700Hzであり、高周波成分比は1.05であった。この剥離音は低く、耳障りではなかった。
【0052】
【実施例2】
人工皮革でできた鞄の蓋の止めに面ファスナーを用いた製品において、面ファスナーとして曲げ強さを12.3gf・cm/2.5cm、見掛け密度を0.45g/cmの編み基布を用いた面ファスナーを用い、面ファスナーと該人工皮革の間に、曲げ強さを0.5gf・cm/2.5cm、見掛け密度を0.42g/cmのニット生地を挟み込んで縫製した。鞄の蓋を開けるときに発生する音の最大成分の周波数は約900Hzであり、高周波成分比は1.3であった。この音は通常の面ファスナーを取り付けた鞄の蓋を開けるときの音に比べて、極めて低く、耳障りではなかった。
【0053】
【実施例3】
手首部分に固定用の面ファスナーを有するゴルフ用手袋にあって、面ファスナーとして曲げ強さを12.3gf・cm/2.5cm、見掛け密度を0.42g/cmの編み構造を有する基布を用いたループを有する雌面ファスナーと、曲げ強さを6.3gf・cm/2.5cm、見掛け密度を0.40g/cmの織構造を有するフックを有する雄面ファスナーとを用いた。更に、各面ファスナーと手袋基布の間に曲げ強さを0.5gf・cm/2.5cm、見掛け密度を0.35g/cmのニット生地を挟み、ミシンにより縫製した。面ファスナーの剥離音の最大成分の周波数は700Hzであった。高周波成分比は0.91であり、剥離音は低く、耳障りではなかった。
【0054】
以上は、本発明の代表的な実施形態を説明するものであり、これらの実施形態に限定されず、例えば面ファスナーの基布やスペーサの素材、組織、構成繊維の太さなど、本発明の請求の範囲内において、その用途により任意に選択できるものであって、多様な変形が可能であることは上述の説明からも明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】面ファスナーの剥離時に発生する音の時間−出力に関する特性図である。
【図2】図1の一部を拡大して示す特性図である。
【図3】面ファスナーの基布構造による剥離時の発生音の差異を比較して示す周波数−相対強度の比較特性図である。
【図4】面ファスナーの基布の曲げ強さの測定機構の概略説明図である。
【図5】前記基布の曲げ強さと発生音の相関図である。
【図6】前記基布の曲げ強さと高周波成分比の相関図である。
【図7】面ファスナー取付製品に取付構造の差異による剥離時の発生音の相対強度の説明図である。
【符号の説明】
1 固定チャック
2 可動チャック
スペーサなし試験体
スペーサ付き試験体




 

 


     NEWS
会社検索順位 特許の出願数の順位が発表

URL変更
平成6年
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年


 
   お問い合わせ info@patentjp.com patentjp.com   Copyright 2007-2013