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発明の名称 炭素鋼部材の腐食抑制方法および装置
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2003−66186(P2003−66186A)
公開日 平成15年3月5日(2003.3.5)
出願番号 特願2001−258051(P2001−258051)
出願日 平成13年8月28日(2001.8.28)
代理人 【識別番号】100078765
【弁理士】
【氏名又は名称】波多野 久 (外1名)
発明者 閏間 裕 / 布施 行基 / 稲見 一郎
要約 課題
原子力プラントの一次系配管や構成機器表面の腐食を抑制し、放射能の付着を低減する技術に関するものであり、特に、炭素鋼部材で製作されている部位の腐食を抑制すること。

解決手段
炭素鋼部材である炭素鋼鋼管1にブラスト噴射ノズル68を挿入し、圧縮空気によってブラスト材を高速噴射して圧縮応力を付与する。
特許請求の範囲
【請求項1】 炭素鋼部材に圧縮応力を付与することにより、炭素鋼部材の腐食を抑制することを特徴とする炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項2】 圧縮応力付与手段で、前記炭素鋼部材の表面にブラスト材あるいはショットを噴射することを特徴とする請求項1記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項3】 前記炭素鋼部材を、加熱または冷却手段を用い、炭素鋼部材の肉厚間に温度勾配を付与することにより発生する熱ひずみを利用して、炭素鋼部材に圧縮応力を付与することを特徴とする、請求項1記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項4】 前記炭素鋼部材にレーザ光を照射して、炭素鋼部材を局所的にプラズマ化させ、発生する衝撃力を利用して炭素鋼部材に圧縮応力を付与することを特徴とする、請求項1記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項5】 前記炭素鋼部材の表面に流体を噴射し、その衝突動圧を利用して炭素鋼部材に圧縮応力を付与することを特徴とする、請求項1記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項6】 噴射されるブラスト材あるいはショットは球状の鋼粒子、もしくは酸化イットリウムを5重量%前後含み主成分が酸化ジルコニウムからなるセラミック粒子であることを特徴とする、請求項2記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項7】 噴射されるブラスト材またはショットを噴射する媒体として圧縮空気を用いたことを特徴とする、請求項2記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項8】 炭素鋼部材に温度勾配を付与する冷却手段に液体窒素、液体ヘリウムなどの液化ガスを用いることを特徴とする、請求項3記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項9】 炭素鋼部材に温度勾配を付与する加熱手段の加熱温度を300〜600℃の温度範囲とする、請求項3記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項10】 炭素鋼部材にレーザ光を照射して圧縮応力を付与する際、炭素鋼部材へのレーザ光照射を水などの溶液中で行うことを特徴とする請求項4記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項11】 炭素鋼部材にレーザ光を照射して圧縮応力を付与する際、炭素鋼部材へのレーザ光はパルス幅が1μ秒以下でパワー密度が10(W/cm)以上であることを特徴とする、請求項4記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項12】 炭素鋼部材にレーザ光を照射して圧縮応力を付与する際、炭素鋼部材に照射されるレーザ光は、ガラスレーザ、YAGレーザ、銅蒸気レーザ、エキシマレーザのいずれかであることを特徴とする請求項4記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項13】 炭素鋼部材に流体を噴射させて圧縮応力を付与する際、炭素鋼部材の表面に噴射される流体の噴き出し初速度を100〜1000m/秒としたことを特徴とする請求項5記載の炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項14】 炭素鋼部材の表面に圧縮応力を付与した後、この炭素鋼部材を300〜600℃の空気中で酸化処理することを特徴とする炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項15】 酸化皮膜が形成された炭素鋼部材に対して流体を噴射することにより、炭素鋼部材の表面に圧縮応力を付与しつつ、酸化皮膜を脱落させ、除洗を行うことを特徴とする炭素鋼部材の腐食抑制方法。
【請求項16】 炭素鋼部材に圧縮応力を付与する圧縮応力付与手段を備え、この圧縮応力付与手段で炭素鋼部材の表面に圧縮応力を付与して腐食を抑制したことを特徴とする炭素鋼部材の腐食抑制装置。
【請求項17】 前記圧縮応力付与手段は、炭素鋼部材の表面にブラスト材あるいはショットを噴射させる手段で構成したことを特徴とする請求項16記載の炭素鋼部材の腐食抑制装置。
【請求項18】 前記圧縮応力付与手段は、炭素鋼部材に温度勾配を付与する加熱または冷却手段で構成したことを特徴とする請求項16記載の炭素鋼部材の腐食抑制装置。
【請求項19】 前記圧縮応力付与手段は、炭素鋼部材の表面にレーザ光を照射するレーザ光照射手段で構成したことを特徴とする請求項16記載の炭素鋼部材の腐食抑制装置。
【請求項20】 前記圧縮応力付与手段は、炭素鋼部材の表面に流体を噴射する手段で構成したことを特徴とする請求項16記載の炭素鋼部材の腐食抑制装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、原子力発電プラントや再処理プラントのように放射能を含む溶液を取り扱う施設において、放射能を含む溶液と接する部位で使用される炭素鋼部材の腐食抑制方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】原子力発電プラントや再処理プラントのように放射能を含む溶液を取り扱う施設において放射能を含む溶液と接する部位には、一般的に耐薬品性、高温における耐食性や機械的強度に優れているといった観点から、ステンレス鋼やニッケル基合金などの高価な材料が用いられている。
【0003】しかしながら、沸騰水型原子力発電プラントにおいて放射能を含む高温の一次冷却水が流れる水溶液環境では、ステンレス鋼に応力腐食割れ(以降SCCと称する)と呼ばれる腐食形態が存在するため、ステンレス鋼の使用には注意を要するという特殊事情がある。SCCは最終的には脆性破壊に至る腐食モードであり、構造材としては致命的な欠点と広く認識されている。
【0004】SCCは材料要因、応力要因、環境要因が重畳した時に発生する現象であり、また、これらの要因を一つでも取り除くことができれば、SCCは発生しないと言われている。沸騰水型原子力発電プラントではSCCを防止するため、材料要因に対しては従来材であったステンレス304鋼の代替材としてステンレス316L鋼を採用し、応力要因に対しては溶接時に残留した応力を緩和する熱処理を付加的に行い、環境要因に対しては起動時の復水器脱気運転や運転中の水素注入などにより環境中の酸素や過酸化水素濃度を低下させるなどのSCC発生抑制対策がとられていて、それらの有効性が確認されている。
【0005】現行の沸騰水型原子力発電プラントにおいては、放射能を含む高温の一次冷却水が流れる原子炉再循環系配管には、材料対策や残留応力緩和処理を施すことによりSCCの発生を抑制したステンレス鋼が使用されているが、原子炉水浄化系や残留熱除去系には一層の安全化を図る観点から、ステンレス鋼に代わり、上記のような高温高圧水環境ではSCCを起こさないとされている炭素鋼部材が配管材として多く用いられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】一般的に沸騰水型原子力発電プラントで用いられる炭素鋼部材は、例えばJIS(G3455)で規定される高圧配管用炭素鋼鋼管である。高圧配管用炭素鋼鋼管はステンレス鋼と比較して、引張り強さ、降伏点(または耐力)、伸びといった値で示される機械的性質は特に劣るものではないが、両者には水溶液環境における腐食特性に大きな違いがある。
【0007】炭素鋼とは一般に炭素を0.04〜1.7wt%含む可鍛性の鋼を指し、実用的な炭素鋼は炭素のほかにケイ素、マンガン、リン、イオウ、さらに酸素、水素、窒素、その他の微量元素を含み、これらが機械的性質に影響を及ぼすことが知られている。
【0008】沸騰水型原子力発電プラントで用いられる高圧配管用炭素鋼鋼管は、高温高圧における使用環境を考慮し、合金成分を調整し、加えて「焼なまし」または「焼ならし」を施すことによって十分な機械的強度を保持しているが、水溶液環境における腐食を抑制するクロムやニッケル等を含んでいないため、例えば室温で大気飽和させた静止水に接触させるだけで容易に腐食し、表面に鉄酸化物であるさびを発生させる。
【0009】このように、炭素鋼は腐食を抑制する成分を含まないため、ステンレス鋼と比較してきわめて安価であるものの、その使用される環境を十分に考慮し使用することが重要である。
【0010】上述のように、炭素鋼は腐食を起こしやすいので、産業に使用する場合は一般的に、表面塗装、腐食抑制剤、電気防食など、適当な防食法を施して使用する場合が多い。
【0011】しかし、希な例ではあるが、反応生成物が鋼面を覆うことによって腐食環境を遮断したり、反応速度を遅めるなどの自発的な防食効果を生じ、特別な防食法を施工せずに実用に堪える場合がある。
【0012】例えばボイラー蒸発管のように、弱アルカリ性高温水中で使用する鋼管表面に生じた緻密なマグネタイト層の防食性は十分に実用に堪えることが知られている。また、常温の淡水を移送する配管に生じたさび層もある程度の防食性を有する。さらに、常温の濃硫酸中で生成する難溶性の硫酸第一鉄は、保護皮膜となって炭素鋼を不動態化するため、濃硫酸タンクや配管には、炭素鋼が使用されている。
【0013】これらの例は炭素鋼を防食法なしに用いて成功している典型例であるが、これとて防食効果は限定された環境条件下で保持されているだけであり、条件が満たされなくなると速やかに効力を失って腐食が急速に進むと言われている。
【0014】一般的に弱酸性環境下では鉄イオンの溶解性が大きく、腐食成生物による保護層が生成されないので、炭素鋼が弱酸性環境下で防食を施工せずに実用的に使用されることはない。また中性環境下でも、さび層の下では局部的にpHが低下し、腐食が促進されると言われている。
【0015】高温水における金属材料の腐食は、使用されている金属材料と腐食環境を構成する腐食物質との反応によって反応生成物が生じることにより、金属材料の肉厚が減少し、機械的性質の劣化をもたらす。従って、反応生成物の組成、構造、性質が高温腐食の進行に影響するところが大きい。
【0016】反応生成物は金属と腐食環境の界面において生成し、成長するものであるが、高温では金属内の拡散が速くなるため、内部酸化、浸炭、窒化、水素腐食に見られるごとく、金属内部においても表面から変化を生じていることが多い。
【0017】反応生成物が金属と腐食環境との界面、すなわち、金属表面に生成する場合、その反応生成物の状態および性質が腐食速度に大きく影響する。
【0018】反応生成物が固相である場合、これをスケールと称するが、反応の進行とともに金属と腐食環境との界面にスケールが発生し、成長すると金属と腐食環境を隔離する働きをする。スケールが緻密な反応生成物の結晶層からなり、細孔や細隙がなければ、以降の腐食はスケール中のイオン拡散を反応過程として進行することになる。固相中の拡散は、結晶粒内の格子欠陥または結晶粒界を通して起こるので一般に遅い。また、スケール層の成長とともに拡散経路がより長くなるので、腐食速度は時間の経過とともに遅くなる。すなわち、固相スケールは多かれ少なかれ腐食速度を抑制し、材料の期待される寿命からみて十分でない場合もあるが、防食性を有しているといえる。
【0019】沸騰水型原子力発電プラントの原子炉水浄化系や残留熱除去系といった高温高圧水環境で、ステンレス鋼と比較して明らかに耐食性の劣る炭素鋼が使用できるのは、高温で生成する反応生成物の自発的な防食効果に期待するものであり、反応生成物が多少なりとも腐食を抑制する働きをするためである。ただし、炭素鋼配管の設計にあたっては、腐食反応による減肉を想定して「腐れしろ」と呼ばれる厚みを加え、十分な機械的強度に対する裕度をもって配管肉厚が決定されている。
【0020】ところで、原子力発電プラントにおいては、接液している構造部材の腐食と放射能の発生には次のような強い因果関係がある。つまり、放射能の発生は以下のように考えられている。
【0021】まず、原子炉給水系や復水系の各種の接液材料表面において腐食生成物が発生し、その一部が水中に放出される。放出された腐食生成物は水の流れに沿って移行し、最終的には原子炉内に持込まれる。
【0022】原子炉内に持込まれる腐食生成物にはステンレス304鋼で製作されている給水ヒータ伝熱管から発生する溶解性のニッケルイオンやクロム酸イオンが、また、原子炉復水系の構成機器から発生する不溶解性の鉄粒子などがある。これらの溶解性や不溶解性の腐食生成物が原子炉内に持込まれるとその一部は蒸発乾固現象や共析反応などによって燃料被覆管表面に一旦付着する。
【0023】これらの反応は沸騰を伴う原子炉圧力容器内の系で特に顕著である。沸騰水型原子力発電プラントにおいて、原子炉炉心部に装荷される燃料集合体は、約4mの燃料被覆管の下部を除いてほぼ全長で沸騰現象が生じていることから、腐食生成物の付着現象が著しい。また、加圧水型原子力発電プラントでも燃料被覆管の上部で沸騰が生じており、沸騰水型原子力発電プラントほど激しくないものの付着現象は同様に生じている。
【0024】燃料被覆管に付着した腐食生成物は中性子の照射を受け放射化される。一旦燃料に付着して放射化された腐食生成物は放射性腐食生成物、もしくは燃料クラッドなどと呼称される。放射性腐食生成物の大部分は燃料被覆管上に固定化され、プラント停止時に行われる燃料交換の際に系外に持ち出されるが、そのごく一部は、運転中や停止時において剥離や溶解現象により粒子状やイオン状の形態となって原子炉水中に再放出される。放出された放射性腐食生成物のうち粒子状のものは、原子炉底部等の一次冷却水が滞留する部位や水平配管等に主に重力沈降現象によって付着する。
【0025】一方、イオン性の腐食生成物は、高温の一次系冷却水が流れるステンレス鋼や炭素鋼が腐食する際に、その腐食皮膜中に次式で示される共析や同位体交換等のメカニズムで取り込まれる。
【0026】
【化1】

【0027】なお、放射能の発生源としては、炉心構造材が直接その場で中性子の照射を受けて放射化し、その一部が溶解や脱離して原子炉水中の放射能濃度を高める場合がある。放射能発生源には制御棒のピン/ローラ材に用いられているコバルト基合金であるステライト材から発生する58Coや60Coがある。
【0028】また、燃料被覆管を角筒状燃料チャンネル内に固定するために用いられる燃料バネは、ニッケル基合金のインコネル材から制作されるが、インコネル材からも同種の放射性核種が生成し、炉水中へ放出され、原子炉水中の放射能濃度を高めている。
【0029】現在の原子力発電プラントにおいて、原子炉水中に含まれる放射能は、ウランやプルトニウム等の原子燃料から核反応によって生成された核分裂性生成物によるものではなく、上記のような放射性腐食生成物が再放出された放射能と、放射化された炉心構造材から発生した放射能であり、主要な核種は58Co、60Co、51Cr、54Mn、59Feである。
【0030】放射能を含む溶液と接している原子炉一次系配管では、高温高圧水との接触により腐食し、腐食皮膜を生成するが、この際皮膜中にイオン性の放射能が取り込まれる。皮膜中に蓄積する放射能量は、平衡状態では次式のようにその腐食皮膜量に比例しており、そのため、材料の腐食皮膜量が重要となっている。
【0031】
【数1】

【0032】特にステンレス鋼と炭素鋼を比較した場合、炭素鋼の腐食速度が早く、腐食皮膜量も多いため、蓄積する放射能量も多くなる。この現象は原子炉一次系の高温高圧水環境を模擬することができる装置を用いた実験室規模の腐食試験で多数報告されており、また実際の原子力発電プラントでも確認されている。
【0033】原子炉一次系配管や構成機器表面に放射能が付着すると、安全には細心かつ十分な対策が施されているが、配管や装置周りの放射線線量率が上昇し、点検時に作業員が被ばくする可能性があるだけでなく、別の作業で付近にいる作業員が被ばくする事態も予想される。このため、放射線線量率の上昇は点検日数の増加などの作業コストアップを招き、結果的に発電コストの上昇になるばかりでなく、作業員が被ばくする恐れがあると衛生管理上大きな社会問題とも成りうる。
【0034】原子炉一次系配管や構成機器表面への放射能付着を抑制する対策はかなり以前から検討されており、技術別に分類すると、■酸化皮膜付与・プレフィルミング、■表面処理・表面改質、■水質制御、■鉄注入・鉄濃度コントロール、■放射能濃度低減技術、■プラントの運転・運用・設備などがある。
【0035】しかし、実際に沸騰水型原子力発電プラントで採用された技術としては、■表面処理・表面改質技術で原子炉再循環配管の電解研磨処理、■水質制御技術で亜鉛イオン注入、■鉄注入・鉄濃度コントロール等のわずかな事例があるだけである。
【0036】さらに、これらの腐食抑制対策は主にステンレス鋼を対象にして立案されたものであり、炭素鋼の腐食抑制を対象としたものではなかった。
【0037】また近年、炭素鋼を対象とした提案も散見されるが、炭素鋼の腐食抑制対策が実際のプラントにおいて採用されたとの報告もなく、有効性と実現性は疑問視されている。
【0038】金属の腐食電位(自然電極電位)に及ぼす負荷応力の影響については、一般に圧縮応力は金属材料の腐食電位を低下させることが知られている。たとえばステンレス鋼では電位の低下によってSCCの感受性が低下することがよく知られている。
【0039】特開平6−172853号公報や特開平11−90830号公報には「ステンレス鋼の鋼材表面にショットブラストや冷温鋼球噴射を行い、圧縮応力場形成によって耐食性を向上させる」旨の提案がある。しかし、これらの提案は、ステンレス鋼を対象としており、耐食性とはSCC発生抑制や溶接部の健全性向上を意味しているため、放射能付着抑制を目的としたものではなかった。また、上述の提案はステンレス鋼のSCC発生を抑制することを目的としているため、炭素鋼に対して圧縮応力を付与するものではなかった。
【0040】現行の沸騰水型原子力発電プラントにおいては、炭素鋼配管の腐食に対して、建設時の溶接前にジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどの粉末防錆材を表面に散布して保管する対策や、配管溶接後には、還元剤であるヒドラジンを溶液中に200〜500ppmの濃度になるように溶解させて保管するなどの対策が行われている。しかし、実際の原子力発電プラント運転開始後には、その運転中や停止中において何ら積極的な対策を行っていない。
【0041】原子力発電プラントや再処理プラントにおいて、原子炉一次系配管や構成機器表面への放射能の付着に起因する放射線線量率上昇の抑制を図ることは、発電コストの上昇や被ばく問題を回避するために重要な課題であるが、原子炉一次系配管や構成機器表面、特に炭素鋼部材表面の腐食による放射能の蓄積に対する有効な解決策は、確立されていない。
【0042】そのため、原子力発電プラントにおけるコストの削減および作業の安全性確保のため、機器配管類の腐食を抑制し、放射能の蓄積を低減する改善策が求められていた。
【0043】本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、高温流体環境下で用いられる炭素鋼部材の腐食を抑制し、炭素鋼部材の保守点検作業の作業性を向上させた炭素鋼部材の腐食抑制方法および装置を提供することを目的とする。
【0044】本発明の他の目的は、原子力プラントの原子炉一次系配管や構成機器表面に用いられる炭素鋼部材の腐食を抑制し、放射能の付着を低減させる炭素鋼部材の腐食抑制方法および装置を提供するにある。
【0045】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、金属材料に圧縮応力を付与することによりその電位を低下させ、腐食生成物の発生および進行を抑制できる可能性があると考えた。さらにこのアイデアが高温高圧環境下で使用される炭素鋼部材の腐食抑制に適用できるのではないかと考え、下記の実験を行った。
【0046】短冊状に成形した炭素鋼を試験片として、ブラスト処理によって圧縮応力を付与し、高温高圧ループによって原子力プラントの運転条件を再現し、炭素鋼の腐食実験を行った。実験後、腐食皮膜量を測定したところ、1000時間経過時点での皮膜量がブラスト処理を行わなかった試験片と比較して、約半分に抑制されていた。また、炭素鋼の試験片に付着している放射能も約半分であった。
【0047】また、本発明者らは、ブラスト処理以外にも温度勾配の付与や、レーザ照射、液体流の噴射等、炭素鋼部材に圧縮応力を付与する方法についても研究し、部材の腐食抑制および放射能付着抑制に効果があることを知見した。
【0048】本発明に係る炭素鋼部材の腐食抑制方法は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、炭素鋼部材に圧縮応力を付与することにより、炭素鋼部材の腐食を抑制する方法である。
【0049】また、本発明に係る炭素鋼部材の腐食抑制方法は、上述した課題を解決するために、請求項14に記載したように、炭素鋼部材の表面に圧縮応力を付与した後、この炭素鋼部材を300〜600℃の空気中で酸化処理する方法である。
【0050】また、本発明に係る炭素鋼部材の腐食抑制方法は、上述した課題を解決するために、請求項15に記載したように、酸化皮膜が形成された炭素鋼部材に対して流体を噴射することにより、炭素鋼部材の表面に圧縮応力を付与しつつ、酸化皮膜を脱落させ、除洗を行う方法である。
【0051】さらに、本発明に係る炭素腐食抑制装置は、上述した課題を解決するために、請求項16に記載したように、炭素鋼部材に圧縮応力を付与する圧縮応力付与手段を備え、この圧縮応力付与手段で炭素鋼部材の表面に圧縮応力を付与して腐食を抑制したものである。
【0052】
【発明の実施の形態】図1は、本発明を適用した沸騰水型原子力発電プラントの原子炉周りの配管系統図を模式的に記したものである。図1を用いて、原子炉周りの一次冷却水の流れと炭素鋼部材が使用されている部位を説明する。
【0053】沸騰水型原子力発電プラントで、炭素鋼部材が使用されている原子炉水浄化系Aや残留熱除去系Bには高温高圧水が流れており、その水質は不純物をほとんど含まないため、pHはほぼ中性である。
【0054】原子炉1内の炉水である原子炉冷却材は原子炉再循環配管2と再循環ポンプ3からなる原子炉再循環系Cで強制循環されている。なお、沸騰水型原子力発電プラントは原子炉再循環系Cを複数系統備えているが、図1では2系統の例を示している。また、原子炉には再循環系を備えない自然循環式の沸騰水型原子力発電プラントも現存する。一方、最近の沸騰水型原子力発電プラントでは原子炉再循環系Cを持たず、インターナルポンプを複数台用いて炉水の強制循環を行う改良型沸騰水型原子力発電プラントも製造されている。
【0055】原子炉水浄化系Aにおいて、炭素鋼配管4は、例えば原子炉1と循環ポンプ5とを連結するラインの部位など、原子炉水浄化系Aの構成機器同士を接続させるために使用されている。
【0056】原子炉水浄化系Aは原子炉再循環系Cの吸込側より原子炉水を取水して、循環ポンプ5で昇圧し、再生熱交換器6および非再生熱交換器7でろ過脱塩塔8の樹脂に適した温度(50℃以下)まで冷却する。ろ過脱塩塔8にて原子炉冷却材中の不純物を除去し、再生熱交換器6にて熱回収後、給水系配管9に合流し原子炉1に戻る構造となっている。図1では各構成機器を1ユニットで示すが、通常は複数ユニット、例えば2ないし3ユニット有している。
【0057】炭素鋼配管4の使用温度条件としては最高で炉水温度の288℃、最低で約50℃と温度幅がある。また、圧力条件は最高で炉水圧力の6.9MPaである。なお通常、原子炉水浄化系はプラントの通常運転中のみならず、プラントの停止時でも運転されている。
【0058】一方、残留熱除去系Bで炭素鋼配管10は、例えばポンプ11や熱交換器12等の構成機器を接続するために用いられている。
【0059】残留熱除去系Bは、主に原子炉1の停止時に炉心の崩壊熱を除去するために付帯されているものであり、原子炉水を原子炉再循環吸込配管より取水し、ポンプ11で昇圧し、熱交換器12で冷却後、原子炉再循環吐出配管を経て原子炉1に戻す。冷却された一部の原子炉水は原子炉圧力容器頂部にあるヘッドスプレーノズル13からスプレーされ、原子炉圧力容器ヘッド部の冷却を行うこともできる。
【0060】熱交換器12にはバイパスライン14を設けており、バイパス流量を調節することにより熱交換量の調節も可能である。
【0061】残留熱除去系Bは、プラント運転中は非常用炉心冷却系設備の1系統(低圧注水系)として圧力制御室プール水で満水待機状態にあるため、運転に先立って残留熱除去系Bの洗浄および暖機操作が必要である。設計上は原子炉圧力が例えば9.5kg/cmまで低下すると非常用炉心冷却系設備としての機能が要求されなくなるので、残留熱除去系Bの洗浄を開始することができ、原子炉圧力が7.7kg/cmから運転することができる。また、図1では残留熱除去系Bの各構成機器を1ユニットで示すが、原子炉水浄化系Aと同様、通常は2ないし3ユニットで構成されている。
【0062】炭素鋼配管10の使用温度条件は、プラント停止時における残留熱除去系Bの設備の投入時期によって異なるが、おおむね150℃程度が一般的であり、炭素鋼配管が接液する温度としてはこの値が上限となる。
【0063】以下、本発明に係る炭素鋼の腐食抑制方法および装置の実施の形態について、図2〜5を参照して説明する。
【0064】炭素鋼部材に圧縮応力を付与する方法としては、種々の方法があり、数種類の圧縮応力付与手段を用いて圧縮応力を付与している。本発明者らは、これら各方法について下記の検討を行った。
【0065】まず、炭素鋼(S20C)で縦15mm、横9mm、厚さ1mmの短冊あるいは矩形状の試験片を製作した。次に炭素鋼部材の試験片表面に圧縮応力を付与する目的で、圧縮応力付与手段としてショットピーニング処理あるいはショットブラスト処理装置を用いてブラスト処理を行った。ブラスト処理は試験片と垂直方向に1.2mm球の鋼粒子を用い、噴射媒体を空気とし、圧力5〜7kgf/cm、噴射ノズルとの距離20mmで約10秒間実施した。ブラスト処理を行った炭素鋼部材の試験片は、X線回折装置を用いた応力の測定を行い、圧縮応力として約300〜400(N/mm)の値を有していることを確認した。
【0066】また、炭素鋼部材への圧縮応力付与試験では比較のために硫酸を用いた酸洗処理によって表面の加工層を除去した試験片も準備した。これらの試験片は、外径12.7mm、肉厚1mmの外筒管内に固定治具を用いて保持した。試験片は流路内で流れに対して平行に装着し、テフロン(登録商標)部材を用いて装置および他の試験片と絶縁した状態で、高温高圧ループのテストセクション部に取り付けた。
【0067】高温高圧ループは、沸騰水型原子力発電プラントの高温高圧水条件を模擬可能な装置であり、テストセクション部の運転条件は、温度280℃、圧力7.8MPa、流速27cm/秒とした。水質条件は、溶存酸素濃度230ppb、溶存水素濃度20ppbとし1000時間の連続通水試験を行った。装置の運転中は放射能トレーサとして60Co溶液を注入し、高温高圧ループ水中でトレーサの濃度が0.02Bq/mlになるように調整した。
【0068】図2に高温高圧ループ運転終了後に取出した試験片の腐食皮膜量と、付着放射能量を測定した結果を示す。
【0069】図2に示すように、圧縮応力付与手段であるショットブラスト処理装置を用いてブラスト処理を施した試験片の腐食皮膜量は、酸洗処理を施した試験片に対して大幅に減少しており、1000時間の時点で約半分の量となっていた。この結果より、圧縮応力を付与することによって炭素鋼部材の高温水による腐食が抑制されることが確認された。また、付着放射能量も腐食皮膜量と同様に約半分の量となっており、圧縮応力の付与による放射能付着抑制効果も明らかとなった。
【0070】本試験では鋼粒子を用い、噴射媒体として圧縮空気を用いたブラスト処理を用いたが、炭素鋼部材表面に圧縮応力を付与するといった目的を達成するためには、ショットブラスト処理の手段もある程度限定される。
【0071】まず、ブラスト材(ショット)の形状としては球状と破砕状の2種類があるが、破砕状では母材の研削が進みすぎる点が懸念されることから球状が望ましい。ブラスト材の材質としては本試験で用いた鋼粒子のほかにジルコニア粒子、アルミナ粒子、窒化ケイ素粒子などが実用化されているが、運動エネルギの付与といった観点からは、このなかで比重がもっとも大きい鋼粒子が有利である。ただし、近年開発された酸化イットリウムを5wt%前後含み、主成分が酸化ジルコニウムからなるセラミック粒子は、ブラスト材あるいはショットとしては優れた材料であり、本技術への適用は十分可能と考えられる。
【0072】噴射媒体として圧縮空気の他に、液体を用いたウエットブラスト法がある。ウエットブラスト法はブラスト材に対して緩衝材として作用するので、ブラスト材の消耗、母材の研削は小さいが本特許の目的にはそぐわない。
【0073】実用的なブラスト材の球サイズは0.1mm〜2mm程度であるが、細かいほど研削速度が速くなるとの報告があり、本目的からすればブラスト材(ショット)の球サイズとしては大き目を選択すべきである。
【0074】具体的な施工条件、例えば、ブラスト材の球サイズ、ブラスト材の球噴射圧力、噴射ノズルと対象部材との距離は施工対象とする炭素鋼部材の形状、合金成分、製造履歴、要求される圧縮応力レベルによって変わり、あらかじめ最適条件を得るための予備試験が必要となる。
【0075】一般的に鉄鋼材料においては供用温度ないしはそれ以上の温度で酸化処理を行うと強固な酸化皮膜が形成され、供用後における腐食進行が抑制できることが知られている。この腐食抑制技術は原子炉一次系配管や構成機器表面への放射能付着を抑制する技術のうち、酸化皮膜付与・プレフィルミングに分類される技術である。
【0076】この腐食抑制技術は、主にステンレス鋼部材を対象とした技術であるが、本発明者らは炭素鋼部材にも有効であると考え、上述のブラスト処理の有効性確認試験においてブラスト処理を行った後に空気中で酸化処理させた炭素鋼部材の試験片を作成し、ブラスト処理された炭素鋼部材の試験片を非酸化処理試験片と同時に高温高圧ループに装荷して、ループ試験を行い放射能付着量を比較した。酸化処理の条件は300℃、400℃、500℃、600℃の4条件とし、空気中で各5時間の熱処理し、ループ試験を行った。
【0077】その結果、いずれの温度条件でも、放射能付着量は酸化処理を行わない試験片より少なく、特に400℃の条件において最も抑制効果が大きかった。
【0078】このことより、炭素鋼部材をブラスト処理後にさらに空気中酸化処理することにより、放射能の付着を抑制できることが確認された。
【0079】ブラスト処理によって炭素鋼部材の表面に圧縮応力を付与する手段について記述したが、同様な効果は炭素鋼部材の材料に温度勾配を付与し、温度勾配によって発生する炭素鋼部材の熱ひずみを利用する手段、レーザ光を照射して局所的にプラズマ化させ、その熱的な膨張力を利用する手段、水などの液体を炭素鋼部材の表面に噴射し、その衝突動圧を利用する手段などの種々の圧力付与手段が適用可能である。
【0080】以下に炭素鋼部材への各圧縮応力付与手段による、圧縮応力付与について記載する。
【0081】図3は炭素鋼部材に温度勾配を付加し、温度勾配によって発生する熱ひずみによって表面に圧縮応力を付与する概念図である。
【0082】炭素鋼部材31は加熱ヒータ32によって加熱されている。炭素鋼部材31の温度は温度計33によって計測され、所定の温度に保持されている。このような状態でバルブ34を開放し、冷却材タンク35に貯えられた冷却材、例えば純水を散水ヘッダー36に送る。散水ヘッダー36には微小な穴が多数設けられており、そこから冷却材37が炭素鋼部材31の表面に向って噴霧され、冷却手段38を構成している。冷却手段38からの噴霧処理によって冷却された炭素鋼部材31の上部側と加熱されている下部側には内部で温度勾配が発生し、炭素鋼部材31の上部側には圧縮応力場が形成される。
【0083】図3に示した圧縮応力付与手段では冷却材37としては純水を用いたが、純水に代えて液体窒素、液体ヘリウムなどの液化ガスを用いることによってより大きな温度勾配を付加することが可能であり、液化ガスにより短時間で大きな圧縮応力を付加することができる。炭素鋼部材31は水溶液との接触により容易に腐食されるが、本冷却手段のように液体窒素や液体ヘリウムによれば、腐食は発生しない。
【0084】また、加熱ヒータ32による加熱工程を、放射能付着抑制効果が期待できる300〜600℃の空気中における酸化処理工程と捉えると、加熱条件をこの温度域に設定することにより、腐食抑制効果が得られる圧縮応力の付与と、放射能付着抑制効果が期待される酸化皮膜付与が同時に達成できる。
【0085】さらに、温度勾配の発生量によっては、加熱または冷却手段の一方のみによって熱ひずみによる圧縮応力を与えることも可能である。
【0086】図4は、炭素鋼部材の表面にレーザ光を照射して局所的にプラズマ化させ、その熱的な膨張力によって表面に圧縮応力を付与する概念図である。
【0087】炭素鋼部材41の表面に圧縮応力を付与するためにレーザ装置、例えばパルスレーザ装置42からパルスレーザ光43が出射される。このパルスレーザ光43は光路中の反射鏡44で反射し、所望の部位を照射する。
【0088】パルスレーザ光43が炭素鋼部材41に照射されると、部材表面でパルスレーザ光43のエネルギが吸収されて瞬時に加熱される。その結果、炭素鋼部材41が急激に蒸発し高温高圧のプラズマ状態になる。この瞬間的なプラズマの噴出により、その反力として衝撃力が炭素鋼部材41の表面に与えられる。この衝撃力によって炭素鋼部材41の表面が圧縮されて塑性変形され、圧縮残留応力が炭素鋼部材41の表面に与えられる。この炭素鋼部材41への圧縮応力付与は現象的には衝撃硬化と分類される。また、レーザ光による残留応力の付与は、気中や真空中で行うよりも、水中などの液体中で行う方が溶液の慣性力によるプラズマの封じ込め効果が期待できることから、より効果的である。
【0089】なお、炭素鋼部材41の表面に圧縮応力を残留させることができるパルスレーザ光43の照射条件はパルス幅が1μ秒以下でパワー密度が10(W/cm)以上のレーザであることを実験的に確認した。このレーザ照射条件を満足するレーザとしてはガラスレーザ、YAGレーザ、銅蒸気レーザ、エキシマレーザ等がある。
【0090】図5は水を100m/秒以上の高流速で炭素鋼表面に噴射し、その衝突動圧を利用して炭素鋼部材の表面に圧縮応力を付与する概念図を示すものである。
【0091】炭素鋼部材51の表面に対向するように噴射ノズル52を構え、高圧ポンプ53の吐出水を導管54で導き、ジェット水55を噴射している。ジェット水55の噴射ノズル52からの噴き出し初速度が遅いと圧縮応力の発生が期待できず、一方速すぎると噴射ノズル52の操作性や高圧ホースの引き回し等の取扱い性が悪くなる。そのため、ジェット水55の噴射ノズル52からの噴き出し初速度は、100〜1000m/秒程度が好ましい。図5では気中での処理について模式的に示したが、水中でも処理が可能である。水中で行う際には気中のような水撃(ウオーターハンマー)作用だけでなく、キャビテーションが破壊する際の衝撃波も圧縮応力形成に有効に作用する。
【0092】以下、本発明に係る炭素鋼部材の腐食抑制装置の実施形態を、図6〜10を参照しながら説明する。
【0093】図6および図7は、炭素鋼部材としての炭素鋼配管61の内表面に圧縮応力を付与する圧縮応力付与手段の第1実施例を示すものである。
【0094】図6および図7に示された圧縮応力付与手段は、配管内表面に圧縮応力を付与するブラスト処理装置60を示す。このブラスト処理装置60は、ブラスト処理によって炭素鋼配管61の内表面に圧縮応力を付与するものである。
【0095】ブラスト処理装置60は台座62を有し、この台座62に炭素鋼部材としての炭素鋼配管61が乗せられている。台座62には対をなすローラ63が、軸方向に間隔をおいて複数組装備されており、対をなすローラ63は駆動装置64と動力伝達機構65によって回転駆動される駆動ローラ63aと従動ローラ63bとを有し、対象とする炭素鋼配管61自体を回転させるようになっている。また、台座63はブラスト材あるいはショットを炭素鋼配管61の下部から回収し易くするためにわずかに傾斜構造を有している。
【0096】まず、ブラスト処理に先立ち、対象とする炭素鋼配管61端部のうち傾斜の上位側にはブラスト材(ショット)の飛散防止のために仮端栓66がカバーとして着脱可能に取り付けられる。一方、傾斜の下位側にはブラスト材の飛散防止と回収のためにブラスト回収機構67が取り付けられる。
【0097】ブラスト材(ショット)の噴射ノズル68は炭素鋼配管61内に挿入して使用するが、この炭素鋼配管61内における保持とブラスト材噴射時の反力の制御、さらには移動性を考慮して3本の支持脚69を有している。支持脚69は伸縮可能な構造とし、対象とする炭素鋼配管61のサイズに対応して調整可能である。噴射ノズル68は回転軸70先端に設けられるが、この回転軸70はカップリング機構71を介して後方の回転機構72に連結され、この回転機構72によって回転自在に保持される。支持脚69の先端部には車輪69aが取り付けられ炭素鋼配管61内での噴射ノズル68の回転や炭素鋼配管61内での移動を円滑に行うことができる。噴射されたブラスト材(ショット)は対象部材である炭素鋼配管61の傾斜とブラスト材を移送するための圧縮空気によってブラスト回収機構67に集められ、ブラストタンク73に送られる。ブラストタンク73の下部から排出するブラスト材はコンプレッサー74で生成する圧縮空気とともに噴射ノズル68まで導かれブラスト処理が継続的に行われる。
【0098】ブラスト処理実施中は炭素鋼配管61の回転、もしくはブラスト噴射ノズル68の回転、もしくは両者を同時に回転させることによって短時間で平均的なブラスト処理加工が可能となる。処理部位の移動は噴射ノズル68を前後に移動させることによって容易に行える。
【0099】図8に熱ひずみによって沸騰水型原子力発電プラントの炭素鋼配管の内表面に圧縮応力を付与する圧縮応力付与装置の第2実施例を示す。
【0100】図8は、炭素鋼配管81に圧縮応力を付与する圧縮応力付与手段として加熱・冷却装置80を用いたものである。
【0101】炭素鋼部材としての炭素鋼配管81はすでに溶接にて供用場所に取り付けられた状況にあり、熱処理のため加熱ヒータ82が巻き付けられている。処理対象とする炭素鋼部材としての炭素鋼配管81は前後をバルブ83で隔離されており、処理前の時点では液体と接液しておらず、大気と接している。
【0102】炭素鋼配管81の表面温度は温度計84で計測されており、その温度計測出力85を温度調節器86に送って、この温度調節器86で加熱ヒータ82への電流値87が調整される。ここで、設定される温度は300〜600℃の温度範囲とし、加熱時間は最長でも5時間で十分である。この熱処理によって炭素鋼配管81の表面には放射能付着抑制に有効な酸化皮膜が形成される。
【0103】熱処理後、炭素鋼配管81前後のバルブ83が開放され、炭素鋼配管81の内部に例えば純水等の冷却材88が流される。この冷却手段により冷却材88を流通することによって、炭素鋼配管81の内表面と外表面には温度勾配が生じ、内表面側には圧縮応力が付与される。一連の手順によって炭素鋼配管81の内表面側には腐食抑制に機能する圧縮応力が付与されるばかりでなく、放射能付着抑制に有効な酸化皮膜が生成する。
【0104】上記では冷却材として純水を用いたが、液体窒素、液体ヘリウムなどの液化ガスを用いることによって、より大きな温度勾配を付加することが可能であり、液化ガスの使用により短時間で大きな圧縮応力を付加することができる。炭素鋼部材である炭素鋼配管81は水溶液との接触により腐食される恐れがあるが、冷却手段に液体窒素、液体ヘリウムを用いればこの問題は発生しない。
【0105】この圧縮応力付与および酸化皮膜形成の熱処理は、対象とする炭素鋼配管が初めて水と接液する原子力発電プラントの建設時に行うのがもっとも効率的であるが、運転開始後の原子力発電プラントでは、付着した放射能を除去するいわゆる除洗処理が行なわれることがあり、この除洗処理作業の際に炭素鋼配管81に熱処理を行っても良い。つまり、除洗処理によって炭素鋼表面の放射能を含んだ酸化皮膜が除去され、母材の新生面が露出されるが、この際に熱処理を行うとその後の放射能の付着抑制に有効であることが期待できる。
【0106】図9にレーザ光照射によって沸騰水型原子力発電プラントの炭素鋼配管の内表面に圧縮応力を付与する圧縮応力付与手段の第3実施例を示す。
【0107】図9は、炭素鋼配管91に圧縮応力を付与する圧縮応力付与手段としてレーザ照射装置90を用いたものである。
【0108】炭素鋼鋼管91は前後をバルブ92およびバルブ93で配管系統Pと隔離可能な構造となっている。このような状態でまず、バルブ93を閉じ、バルブ92を解体して、一部開放する。バルブ93では上流側からの冷却水の流入を仮端栓94で塞ぐ。バルブ3の、解体したバルブ開口部95から耐久性の光ファイバ等のケーブルファイバ96に自走装置97を有する出射ヘッド98を挿入する。
【0109】出射ヘッド98は回転ミラーで360℃全方位にレーザ光の出射が可能である。さらに出射ヘッド98近傍には高感度CCDカメラなどの小型監視センサが備えられており、レーザ光の出射の状況は、付設されたセンサケーブル(図示せず)を通して監視装置Vに入力され、この監視装置Vにより、照射された部位の監視が可能である。
【0110】パルスレーザ光はレーザ発生装置99で発せられ、操作員が監視装置Vで状況を見ながらレーザ処理を行うことができる。レーザ光の出射環境は対象とする炭素鋼配管91の滞留水を除去した状態でも、満水状態でも処理が可能であり、状況によって判断されるが、好ましくは満水状態で行なわれる。出射ヘッド98を回転させながら炭素鋼配管91を前後に移動させることによって、レーザ光照射を対象とする炭素鋼配管91の内表面全面に行うことができ、それによって、対象とする炭素鋼配管91のレーザ照射部には圧縮応力が付与され、腐食を抑制することができる。
【0111】図9に示す圧縮応力付与手段としてのレーザ処理装置90では、すでに供用部位に取り付けられた状態の炭素鋼配管91への処理について記述しているが、この処理は第1実施例にあるようなブラスト処理と全く同じ装置構成で処理が可能であり、作業的には第3実施例の方が効率的である。
【0112】図10にジェット水処理によって沸騰水型原子力発電プラントの炭素鋼配管の内表面に圧縮応力を付与する圧縮応力付与手段の第4実施例を示す。
【0113】図10は炭素鋼配管101に圧縮応力を付与する圧縮応力付与手段としてジェット水噴射装置100を用いたものである。
【0114】炭素鋼配管101は前後をバルブ102とバルブ103で配管系統Pと隔離可能な構造となっている。このような状態でまず、バルブ103を閉じ、バルブ102を解体する。バルブ102で上流側からの冷却水の流入を仮端栓104で塞ぐ。バルブ102の解体によるバルブ開口部105から自走装置106を有する噴射ヘッド107が挿入されている。本実施例における自走装置106はジェット水の反力に対抗すべく実施例3と比較して強化されている。
【0115】噴射ヘッド107は図示しない回転機構で360℃全方位にジェット水の噴射が可能である。さらに噴射ヘッド107には高感度CCDカメラなどの監視センサが付帯しており、ジェット水の噴射の状況や、噴射された部位の監視が、センサケーブル(図示せず)を経て監視装置Vにより監視可能である。ジェット水は高圧ポンプ108で発せられ、可とう性導管109を通じて噴射ヘッドに送られている。ジェット水の噴射に先立ち、バルブ5を開放するとともにバルブ開口部にシール110を取り付けてシール構造に構成し、ジェット水が配管系統P外に出ないように構成されている。ジェット水の噴射操作は操作員が監視装置Vで状況を見ながら処理を行うことができる。
【0116】定期検査時等ですでに放射能を含む酸化皮膜が形成された時期においてこの処理を行うと、ジェット水によって対象面における放射能を含む酸化皮膜が脱落し、腐食抑制に機能する圧縮応力が付与されるばかりでなく、除洗の効果も加わる。原子炉浄化系配管で上記の処理を行った場合には配管系統Pに付設された浄化装置で脱落した放射能を含む酸化皮膜を除去できるため、新たな設備が不要である。
【0117】
【発明の効果】本発明に係る炭素鋼部材の腐食抑制方法によれば、高温水環境での炭素鋼の腐食を抑制することにより、腐食生成物の放射化による放射能線量率の上昇を防止することができるので、点検作業のコストを削減し、また、被ばくの危険を低減し、作業の安全性を確保することができる。
【0118】また、炭素鋼部材表面へ圧縮応力を付与したのち、酸化処理を行うことにより、放射能付着抑制効果をさらに高めることができる。
【0119】また、すでに放射能の付着した部材に対して、高流速で流体を噴射することにより、圧縮応力の付与と同時に、除洗を行うことができ、コストを削減することができる。
【0120】さらに、本発明に係る炭素鋼部材の腐食抑制装置によれば、炭素鋼部材に圧縮応力を付与することにより、炭素鋼部材の腐食を抑制し、放射能の付着を低減することができる。




 

 


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