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発明の名称 溶融紡糸用口金
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2001−262428(P2001−262428A)
公開日 平成13年9月26日(2001.9.26)
出願番号 特願2000−68904(P2000−68904)
出願日 平成12年3月13日(2000.3.13)
代理人 【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬 (外2名)
【テーマコード(参考)】
4L045
【Fターム(参考)】
4L045 AA05 BA26 CB02 CB10 CB13 CB17 DA60 
発明者 小川 達也 / 小柳 正
要約 目的


構成
特許請求の範囲
【請求項1】 溶融紡糸によって二つの中空部を有する断面形状のマルチフィラメントを製造するための溶融紡糸用口金であって、下記(1)、(2)の要件を満足する紡孔が複数個配設されていることを特徴とする溶融紡糸用口金。
(1)紡孔が、二つの環状スリットからなる。
(2)二つの環状スリットの非スリット部が各1ヶ所で且つ同一方向に設けられている。
【請求項2】 二つの環状スリットが各々円形であって、全体としてメガネフレーム状であり、二つの環状スリットを連結するスリットの長さが0.3mm以下であることを特徴とする請求項1記載の溶融紡糸用口金。
【請求項3】 二つの環状スリットが隣接しており、全体として小判型の形状またはデジタル8字型の形状であることを特徴とする請求項1記載の溶融紡糸用口金。
【請求項4】 スリットの幅が0.04〜0.1mmで、独立した中空部の面積が0.5〜5.0mm2 、且つ、非スリット部の幅が0.1〜0.3mmである紡孔を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融紡糸用口金。
【請求項5】 溶融紡糸用口金に配設される紡孔の孔数が10〜100個であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶融紡糸用口金。
【請求項6】 紡孔の非スリット部が、冷風の吹き出し方向に向けて配設された請求項1〜5のいずれかに記載の溶融紡糸用口金。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特殊断面形状、特に、二つの中空部を有する横断面形状のマルチフィラメントを安定して製造するために有用な溶融紡糸用口金に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリエチレンテレフタレート繊維は、生産技術の向上と取扱の容易性から衣料用合成繊維として世界中で大量に生産されており、この生産技術の向上によって、光沢や吸水速乾性などの機能を付与する目的で、フィラメント横断面を異型断面とすることが盛んに行われている。
【0003】近年、生活快適性や環境安全性の観点から軽量性や保温性を改良する目的で、フィラメント横断面に中空部を設ける生産技術が開発され、中空断面糸が商業生産されている。例えば、特開平11−241216号公報には、フィラメント横断面に1個の中空部を有する、軽量で保温性に優れたポリエステルマルチフィラメントの製造方法が開示されている。特公平2−52004号公報(イ)及び特開昭56−49070号公報(ロ)には、フィラメント横断面に2個ないしそれ以上の中空部を有する中空断面繊維の製造方法が開示されている。前記公報(イ)、(ロ)には、フィラメント横断面を8字状とする紡孔と、それを用いてフィラメントを製造する方法が開示されている。
【0004】しかし、(イ)、(ロ)においては、いずれもステープル繊維からなる糸及び布帛の開示であり、それらを使用して得られるパイル布帛すなわち起毛布帛や立毛布帛の風合い改良に関するものである。これらの先行技術には、メガネ型横断面のマルチフィラメントの製造方法に関しては何ら開示がない。しかも、(イ)は、ステープル繊維の横断面に中空を有する8字型の繊維が開示されているものの、その中空率は約10%以下と極めて低く、それ以上に中空率を大きくした場合については何ら言及されていない。
【0005】本発明者らの研究によれば、マルチフィラメントの軽量性及び保温性を向上させるためには、フィラメントの中空率を大きくする必要があるが、中空率を大きくすると、その反面、フィラメントの曲げ応力が高くなり、風合いの柔軟性が損なわれることが明らかになった。即ち、軽量性、保温性と柔軟な風合いとは相反する関係にあることがわかった。
【0006】軽量で、保温性を発揮するためには、フィラメントの中空率が約20%以上であることが好ましい。しかし、単に中空率を約20%以上にすると、風合いが硬くなり、柔軟な風合いの編織物が得られないという問題があった。更に製造方法に関しても、(イ)、(ロ)は、ステープル繊維に関するものであって、繊維は混合して紡績に供されるため、繊維の長さ方向における糸質の均一性、例えば均一な染色性は要求されない。従って、(イ)、(ロ)には、糸質の均一性に優れたマルチフィラメントを、糸切れなく安定に製造する方法については記載も示唆もされていない。
【0007】糸長方向での糸質が均一でないと、編織物にした際に染めスジや染め斑などの欠点を生じるので、マルチフィラメントにおける糸質の均一性は工業的には極めて重要な課題である。特に、1 つの中空部を有するフィラメントとは異なり、2つの中空部を有するフィラメントで中空率が約20%以上と大きなフィラメントを得るには、使用するポリマーの重合度を高めたり、大きな断面積を有する紡孔を使用したり、または紡口直下を急冷する方法がある。しかし、かかる紡糸方法は、いずれもマルチフィラメントの糸質斑を生じ易いことや、紡糸時に糸切れなどが生じ易いので、糸長方向に糸質が均一で、かつ、工業的に安定した紡糸を実現することが困難であるという問題があった。
【0008】従って、軽量で保温性を発揮しうるに十分な20%以上の中空率を有し、かつ、柔軟な風合いを兼ね備えたマルチフィラメント、及び、編織物に用いた場合にも染めスジや染め斑などの問題がない中空マルチフィラメントを工業的に安定して製造する方法の出現が強く求められていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、軽量で保温性を発揮しうるに十分な中空率を有し、かつ、柔軟な風合いを兼ね備え、且つ、編織物に用いた場合にも染めスジや染め斑などの問題がない特殊断面形状、特に、二つの中空部を有する横断面形状のマルチフィラメントを、安定して製造するために有用な溶融紡糸用口金を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、軽量性、保温性及び風合いの柔軟性が両立したマルチフィラメントを製造するために鋭意検討を行った結果、特定の溶融紡糸用口金(紡糸用口金を、以下、紡口ともいう)を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】即ち、本発明は下記の通りである。
〔1〕溶融紡糸によって二つの中空部を有する断面形状のマルチフィラメントを製造するための溶融紡糸用口金であって、下記(1)、(2)の要件を満足する紡孔が複数個配設されていることを特徴とする溶融紡糸用口金。
(1)紡孔が、二つの環状スリットからなる。
【0012】(2)二つの環状スリットの非スリット部が各1ヶ所で且つ同一方向に設けられている。
〔2〕二つの環状スリットが各々円形であって、全体としてメガネフレーム状であり、二つの環状スリットを連結するスリットの長さが0.3mm以下であることを特徴とする上記1記載の溶融紡糸用口金。
【0013】〔3〕二つの環状スリットが隣接しており、全体として小判型の形状またはデジタル8字型の形状であることを特徴とする上記1記載の溶融紡糸用口金。
〔4〕スリットの幅が0.04〜0.1mmで、独立した中空部の面積が0.5〜5.0mm2 、且つ、非スリット部の幅が0.1〜0.3mmである紡孔を有することを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の溶融紡糸用口金。
【0014】〔5〕溶融紡糸用口金に配設される紡孔の孔数が10〜100個であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の溶融紡糸用口金。
〔6〕紡孔の非スリット部が、冷風の吹き出し方向に向けて配設された上記1〜5のいずれかに記載の溶融紡糸用口金。以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】本発明において、マルチフィラメントとは、溶融紡糸により得られるマルチフィラメントであればその種類は問わない。なかでも特に、ポリエステルマルチフィラメントが好ましく用いられるので、以下、主としてポリエステルマルチフィラメントの場合につき説明する。ポリエステルとしては、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるポリエチレンテレフタレートである。
【0016】ポリエステルには、10モル%未満の他のポリエステル成分が含まれていてもよい。他のポリエステル成分としては、イソフタル酸、アジピン酸、ドデカン二酸、スルホイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノールなどの酸成分や、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール成分などがあげられる。
【0017】必要によって、艶消し剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、顔料などを含有してもよい。ポリエステルの固有粘度[η]は、0.60〜0.80であることが好ましい。固有粘度[η]が0.60未満又は0.80を越えると、以下に述べる紡孔の形状や紡口直下の冷却条件の選定が難しく、製造を安定して行うことが難しくなる傾向がある。
【0018】(I)紡孔の形状本発明の紡糸用口金における紡孔は、二つの環状スリットからなり、二つの環状スリットの非スリット部が各1ヶ所あり且つ同一方向に設けられている。紡孔の断面形状は、例えば、メガネフレーム型、小判型、デジタル8字型等のスリット形状を有し、且つ、紡孔の扁平度が2〜4である紡孔が好ましい。
【0019】このような紡孔を用いてなるフィラメントの横断面形状としては、例えば、フィラメントの長手方向に延びる独立した二つの中空部を有するメガネ型である。この2つの円形部は、中空糸製造時の紡糸安定性や糸質の均一性を確保する目的からほぼ対称であることが好ましい。本発明における紡孔の形状の代表例を図1に示す。
【0020】図1(a)は、いわゆる8字型のメガネ型紡孔の形状を示す図であり、図1(b)は小判型のメガネ型紡孔の形状を示す図であり、図1(c)はデジタル8字型のメガネ型紡孔の形状を示す図である。好ましくは、図1(a)の紡孔が採用される。本発明において、非スリット部とは、環状スリットの不連続部分を言い、例えば、図1(a)〜(c)において1で示す部分を言う。したがって、紡孔から吐出された中空糸は、非スリット部の直下では開口している(閉じていない)状態である。
【0021】本発明における紡孔の扁平度は2〜4であることが好ましい。紡孔の扁平度が2未満では、重合体の表面張力によりフィラメントの扁平度が2未満となる。一方、紡孔の扁平度が4を越えると、紡口下で糸曲り等が発生し安定した生産が難しくなる傾向がある。本発明における紡孔のスリット幅は0.04〜0.1mmであることが好ましい。紡孔のスリット幅が0.04mm未満では、紡糸時の紡孔による圧力損失が大きくなり、安定した糸の製造が難しくなる傾向がある。また、紡孔のスリット幅が0.1mmを越えると紡糸時のポリマーの吐出線速度が遅くなり、細化固化する過程のポリマーの変形が大きくなったり、糸長方向に糸の太さが変化する等、安定した糸の製造が難しくなる傾向がある。スリット幅は、更に好ましくは、0.045〜0.06mmである。
【0022】本発明における紡孔の独立した中空部の面積は0.5〜5.0mm2 であることが好ましく、更に好ましくは、1.0〜3.5mm2 である。紡孔の中空部の面積が0.5mm2 未満では、中空率20%を維持することが困難で、軽量性と保温性を満足するフィラメントが得られない場合がある。また、5.0mm2 を越えると、中空率が高くなるが、フィラメントの断面不良が発生して、フィラメント製造時に紡口直下で糸曲がりなどが生じて安定した製造ができなくなる場合がある。なお、紡孔の独立した中空部の面積は、後述する方法により求める。
【0023】本発明において、紡孔における1 つの中空部に非スリット部は1ヶ所あることが好ましい。紡孔の非スリット部が2ヶ所以上である場合、紡口下を急冷することにより、ポリマー同士が接着しないために生ずる中空とならない不良異型の糸が発生し、目的とする中空糸が効果的に得られない場合がある。本発明の紡孔における1 つの中空部に1ヶ所ある非スリット部は、幅が0.1〜0.3mmであることが好ましい。0.1mm未満では、中空部にかかる圧力で紡孔が変形しやすくなり、0.3mmを越えると、距離が長くなりすぎポリマー同士が接着せず、中空部を持たない不良異型の糸が発生し、目的とする中空糸が効果的に得られない場合がある。
【0024】本発明においては、紡孔における二つの中空部は、連結していることが重要である。連結していない場合、メガネ型断面とならず単なる1つの中空断面となる割合が高くなり、本発明の目的である二つの中空部を有した横断面のフィラメントが安定して得られにくい。連結される距離は0.3mm以下が好ましく、例えば、二つの環状スリットが各々円形である場合は、その距離は0でもよい。
【0025】また、紡糸用口金に配設される紡孔の孔数は10〜100個であることが、実用上、工業的観点から好ましい。
(II)マルチフィラメントの製造方法次に、本発明の溶融紡糸用口金から得られるマルチフィラメントの製造方法について、ポリエステルマルチフィラメントについての一例を説明する。
【0026】紡孔から重合体を吐出線速度2〜10m/分で吐出する。吐出線速度は、好ましくは、3〜8m/分である。吐出線速度が2m/分未満では、紡孔の円形部を大きくしても中空率を20%以上に形成しにくい。一方、10m/分を越えると、中空率を高く形成することが可能となるが、吐出孔周辺の汚染が早くなり紡口直下での糸曲りによる紡糸時の糸切れが発生し、安定した製造がしにくく、糸質斑が大きくなり本発明の目的が十分には達成されない。吐出線速度は、紡孔の穿孔面積と孔当たりのポリマーの吐出量によって設定される。
【0027】紡孔より吐出されたマルチフィラメントを、紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍1cmの温度を200℃以下として冷却、固化し、仕上げ剤を付与する。紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍1cmの温度が200℃を越えると、紡口形状や紡孔の扁平度を大きくしても、満足しうる中空糸を得にくく、繊度変動値(U%)が1.4%を越え、糸質の均一なマルチフィラメントとすることが困難となる傾向がある。紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍1cmの温度は180℃以下が好ましく、更に好ましくは170℃以下である。
【0028】吐出されたマルチフィラメントを冷却固化し、仕上げ剤を付与した後、一旦巻き取ることなく、連続して延伸するに際し、紡糸速度(m/分)と延伸倍率の積が3000〜4500(m/分)で延伸する。この紡糸速度と延伸倍率の積は、マルチフィラメントの熱収縮応力と曲げ応力という繊維特性を特異的な範囲に特定する重要な要件である。この積が3000(m/分)未満では、熱収縮応力が0.05cN/dtex未満となり、本発明の目的が十分には達成されない。また、この積が4500(m/分)を越えると、熱収縮応力が0.2cN/dtexを越えて、本発明の目的が十分には達成されない。紡糸速度と延伸倍率の積は、好ましくは、3500〜4200(m/分)、より好ましくは、3700〜4100(m/分)である。
【0029】通常、ポリエステルマルチフィラメントを連続延伸する場合、紡糸速度として約1000〜3000m/分が採用される。紡糸速度1000の場合の延伸倍率が約4.5〜5倍であることから、この積は約4500〜5000(m/分)となる。紡糸速度が3000m/分の場合には、延伸倍率が約1.5〜2倍であることから、この積は約4500〜6000(m/分)となる。
【0030】本発明においては、紡孔の非スリット部が、冷風の吹き出し方向に向いていることが、繊度変動値(U%)を小さくするために好ましい。非スリット部が冷風の吹き出し方向に向いていない場合、吐出された重合体の非スリット部に対応する部分が接着しにくいため不良異型が発生しやすく、目的とするメガネ型中空糸が安定して製造できない場合がある。最も好ましくは、図4に例示するように、全ての紡孔の非スリット部を有する扁平の長軸(W2)が、冷風の吹き出し方向に対して直角に配置されていることである。
【0031】(III)マルチフィラメントの特性本発明の紡糸用口金を用いて得られるマルチフィラメントは、編織物にした場合に、編織物中で扁平形状の長辺が編織物の面方向となり(いわゆるレンガ積み構造)、曲げやすくなり、柔らかさを発現するものと思われる。得られるフィラメントの代表的な横断面形状を図2に示す。図2(a)は、いわゆる8字型フィラメントのメガネ型横断面の形状を示す図であり、図2(b)は小判型フィラメントのメガネ型横断面の形状を示す図であり、図2(c)はデジタル8字型フィラメントのメガネ型横断面の形状を示す図である。
【0032】フィラメントの扁平度は、1.5〜2.5が好ましい。また、布帛にした際の軽量性、保温性及び柔軟な風合いを兼備えるためには、中空率は25〜35%であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートの比重は約1.35〜1.38であることから、中空率が25〜27%の場合に見掛け比重はおよそ1.0になる。なお、中空率は、後述する方法により求めることができる。
【0033】本発明において、マルチフィラメントは、前記の横断面形状特性に加えて、熱収縮応力、及び、好ましくは、更にフィラメントの曲げ特性が特定されていることにより、軽量性、保温性及び柔軟な風合いを兼ね備えた中空糸が実現されている。本発明におけるマルチフィラメントは、通常、熱収縮応力が0.05〜0.2cN/dtexである。0.05cN/dtex未満の場合、より柔軟な風合いとなるが、製編織に使用する際に生機の収縮力がきわめて小さく、ペーパーライクな風合いになる。また、0.2cN/dtexを越えると、曲げ応力が大きくなり本発明の目的が十分には達成されない。熱収縮応力は、より好ましくは0.05〜0.15cN/dtex、最も好ましくは0.05〜0.10cN/dtexである。
【0034】前述の先行技術に示されているような、あるいは公知のポリエステルマルチフィラメントの熱収縮応力は、通常0.2〜0.5cN/dtexであることから、それに比し、本発明におけるマルチフィラメントの熱収縮応力は特異的に低い値を示すことが大きな特徴である。本発明におけるマルチフィラメントのかかる低い熱収縮応力は、微細構造的には、繊維軸方向の分子配向が公知のポリエステルフィラメントに比較して極めて低いことを意味する。繊維軸方向の配向度が測定できない特殊な異型断面フィラメントにおいては、この熱収縮応力を配向度の指標とみなすことができる。なお、熱収縮応力は、マルチフィラメントを加熱した際の収縮応力であり、後述する方法により測定される。
【0035】本発明におけるフィラメントは、フィラメント軸方向の分子配向度が低いことに起因して、高い中空率にも係わらず曲げ応力が小さいために、従来のマルチフィラメントでは達成できなかった軽量性、保温性及び柔軟な風合いを兼ね備えることができる。本発明におけるマルチフィラメントの曲げ応力は、10×10-3N/dtex以下であることが好ましい。曲げ応力は、後述の連続ベンデ ング測定機によって測定され、マルチフィラメントの曲げ硬さの指標である。
【0036】曲げ応力が10×10-3cN/dtexを越えると、柔軟な風合いの発現が困難になる傾向がある。曲げ応力は、フィラメントのデシテックスが一定であれば、中空率が高くなるにしたがって大きくなる。曲げ応力が小さいほど、編織物に柔軟な風合いをもたらすことができる。フィラメント曲げ応力は、より好ましくは6×10-3cN/dtex以下、更に好ましくは5×10-3cN/dtex以下である。
【0037】本発明におけるマルチフィラメントは、糸長方向の糸質の均一性の指標である繊度変動値(U%)が1.4%以下であることが好ましい。繊度変動値(U%)が1.4%を越えると、編織物に加工したとき、染めスジや染め斑などの欠点が生じ易くなる。繊度変動値(U%)は、より好ましくは1.2%以下、更に好ましくは1.0%以下である。
【0038】本発明におけるフィラメントのデシテックスは、0.5〜4dtexであることが好ましく、より好ましくは、1〜3dtexである。フィラメントデシテックスが4dtexを越えると、風合いが硬くなる傾向がある。
【0039】
【発明の実施の形態】以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、測定、評価等の方法は下記の通りである。
(1)紡口直下雰囲気温度の測定フィラメント近傍温度は、安立計器社製・HFT−50型温度測定器を用いて、紡糸中の紡口直下3cmにおけるフィラメントの近傍1cmの位置の雰囲気温度を測定した。
【0040】(2)紡孔の扁平度図1に示すように紡孔に外接する長方形を描き、この長方形の短軸(W1)と長軸(W2)の比を、式(1)により算出した。
紡孔の扁平度=(W2)/(W1)……(1)
(3)紡孔の中空部の面積図1で示されるS1 とS2の面積の和を紡孔の中空部の面積として求めた。
【0041】(4)紡孔の吐出孔面積図1で示される紡孔のスリット部の面積を紡孔の吐出孔面積として求めた。
(5)中空率フィラメントから任意に5点の横断面写真を撮影し、その横断面写真を図積分して、式(2)により求めた。
【0042】
中空率(%)=〔(フィラメントの中空部の面積)/(フィラメントの全面積)〕×100……(2)
(6)フィラメントの扁平度フィラメントの横断面写真上に、図2(a)に示すように断面に外接する長方形を描き、この長方形の短軸(L1)と長軸(L2)の比を、式(3)により算出した。
【0043】
フィラメントの扁平度=(L2)/(L1)……(3)
(7)熱収縮応力の極値温度熱応力測定装置(例えば、カネボウエンジニアリング社製・KE−2)を用いて測定する。糸(マルチフィラメント)を20cmの長さに切り取り、これの両端を結んで輪を作り、測定器に装填する。初荷重0.044cN/dtex、昇温速度100℃/分の条件で測定し、熱応力の温度変化を示すチャートから熱応力曲線のピーク値を読みとる。その値が熱収縮応力の極値温度である。
【0044】(8)曲げ応力マイクロニクス社製の連続ベンデ ング測定機・CV−101型を使用して、マルチフィラメントの曲げ応力を測定する。測定は、糸長方向に50cmごとに計25回測定し、この平均値をマルチフィラメントのデシテックスで除して、曲げ応力とする。
【0045】(9)繊度変動値(U%)
USTER TESTER−3(zellweger社製)を用い、以下の条件により測定する。
〔測定条件〕
ハイパスフィルター:有り測定速度:100m/分測定スロット:3テスト時間:5分圧力:2.5×105 Pa撚り:1500t/mS(10)破断強度、破断伸度JIS−L1015に準じて測定する。
【0046】(11)軽量性式(4)により、見掛け比重を算出し、見掛け比重が1.0未満のものを◎、1.1〜1.0のものを○、1.1を越えるものは×とする。但し、ポリエステル延伸糸の密度は1.37として計算する。
見掛け比重=1.37×〔1−(中空率)/100〕……(4)
(12)風合い以下の基準で熟練者が判定する。
【0047】◎:非常に柔軟、○:柔軟、×:劣る(硬い)
(13)総合評価軽量性と柔軟性のバランスを評価して、以下の基準で判定する。
◎:軽量性と柔軟性を兼ね備えていて非常に優れている○:軽量性と柔軟性を兼ね備えている×:軽量性か柔軟性の一方を欠いている(14)不良異型評価メガネ型断面の紡孔を24ホール穿孔した紡口を16個装着した紡糸設備により紡糸する。この紡糸により得られたマルチフィラメントの横断面写真を撮影し、24本のフィラメント中、メガネ型中空となっていないフィラメント数を数え不良異型数を求めた。
【0048】不良異型フィラメント数……0〜1個:良好、2〜3個:ほぼ良好、3個以上:不良(15)紡糸安定性メガネ型断面の紡孔を24ホール穿孔した溶融紡糸用口金を16個装着した紡糸設備により紡糸する。この紡糸において、連続的に紡糸−延伸を行った際の糸切れ回数により1日当たりの糸切れ回数を測定する。
【0049】1回以内:良好、1〜3回:ほぼ良好、3回以上:不良〔実施例1、比較例1〜3〕本例では、マルチフィラメントの紡糸にあたり、紡孔の形状が不良異型に及ぼす影響について説明する。酸化チタンを0.5wt%含む、固有粘度[η]0.65のポリエチレンテレフタレートを公知の紡糸機−連続延伸機を用いて下記に示す条件で紡糸し、巻き取ることなく連続して延伸を行った。
【0050】紡糸にあたっては、図1(a)、図3(a)〜(c)に示す形状に穿孔された紡孔を、図4に示す様な畝状に24個配列した溶融紡糸用口金を使用した。この紡糸用口金において、紡孔のスリット巾は0.045mm、独立した中空部の面積は1.57mm2 、非スリット部の巾は0.1mm、扁平度は2.2であり、二つの環状スリットを連結するスリットの長さは0.1mmであった。
【0051】(紡糸条件)
紡糸温度:295℃紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍温度:160℃紡孔配列:図4の紡孔配列の口金を使用吐出量:巻取デシテックスを一定になるよう変化紡孔からの吐出線速度:3.1〜5.0m/分冷風速度:0.7m/分仕上げ剤付着率:0.7wt%(延伸条件)
第1ゴデットロール速度:2400m/分(紡糸速度に同じ)
第1ゴデットロール温度:85℃第2ゴデットロール速度:延伸糸の破断伸度が30%となるように設定第2ゴデットロール温度:130℃巻取速度/第2ゴデットロール速度:0.983紡糸速度×延伸倍率:4080m/分(延伸糸デシテックス):72dtex/24f結果を表1に示す。
【0052】実施例1では不良異型が少なく、本発明の目的とする断面形状のフィラメントを安定して生産することが可能である。また、得られたマルチフィラメントは、扁平度2.1、中空率27%、見掛け比重1.00、熱収縮応力0.09cN/dtex、曲げ応力4.6×10-3cN/dtex、繊度変動値(U%)1.1%であり、本発明の目的とするマルチフィラメントであった。
【0053】このマルチフィラメントを、コース数47本/2.54cm、ウエル数35本/2.54cmの筒編にして、精練−染色−仕上げセットした結果、軽量でソフトな風合いの布帛が得られた。これに対し、比較例1〜3では不良異型が多く、本発明の目的とする断面形状のフィラメントを安定して生産することが出来なかった。
【0054】〔実施例2〜4〕本例では、冷風の吹出し方向に対する紡孔の非スリット部の向きと不良異型について説明する。図1(a)に示す形状で、冷風の吹出し方向に対し紡孔の非スリット部の向きを表2のように異ならせて紡糸−延伸を行った。
【0055】用いた紡糸用口金において、紡孔のスリット巾は0.045mm、独立した中空部の面積は1.57mm2 、非スリット部の巾は0.1mm、扁平度は2.2であり、二つの環状スリットを連結するスリットの長さは0.1mmであった。その他の紡糸条件は、下記のように設定した。このときの紡糸性と得られたマルチフィラメントの不良異型を表2に示す。
【0056】(紡糸条件)
紡糸温度:295℃紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍温度:160℃紡孔配列:図4の紡孔配列の口金を使用吐出量:28.8g/分・エンド冷風速度:0.7m/分仕上げ剤付着率:0.7wt%(延伸条件)
第1ゴデットロール速度:2400m/分(紡糸速度に同じ)
第1ゴデットロール温度:85℃第2ゴデットロール速度:4150m/分第2ゴデットロール温度:130℃巻取速度/第2ゴデットロール速度:0.983紡糸速度×延伸倍率:4080m/分(延伸糸デシテックス):72dtex/24f表2から明らかなように、紡孔の非スリット部の向きが冷風の吹出し方向に一致するとき、最も良好な断面形状のマルチフィラメントが得られた。
【0057】〔実施例5〜7〕本例では、紡孔のスリット巾を異ならせ、吐出線速度を変えた場合のフィラメントの中空率及び紡糸性への影響について説明する。図1(a)に示す形状の紡孔で、スリット巾以外は実施例2におけるものと同様の寸法の紡糸用口金を用い、紡糸−延伸を行った。
【0058】紡糸条件及び[紡糸速度×延伸倍率]は、実施例1に準じ、破断伸度が30%となる条件にてマルチフィラメントを製造した。得られた中空糸の形状及び物性を表3に示す。表3から明らかなように、スリット巾が0.04〜0.1mmの範囲内のときに紡糸性が最も良好で、軽量かつ柔軟な風合いの編織物が得られた。
【0059】〔実施例8〜11〕本例では、紡孔の独立した中空部の面積を変えた場合の、フィラメントの中空率への影響について説明する。図1(a)に示す形状で、紡孔の独立した中空部の面積を表4に示すように異ならせて、紡糸−延伸を行った。
【0060】その他の紡糸条件は、下記のように設定した。このときの紡糸性と、得られたマルチフィラメントの物性及び繊度変動値(U%)を表4に示す。
(紡糸条件)
紡糸温度:295℃紡口直下3cmにおけるフィラメント近傍温度:160℃紡孔配列:図4の紡孔配列の口金を使用吐出量:28.8g/分・エンド冷風速度:0.7m/分仕上げ剤付着率:0.7wt%(延伸条件)
第1ゴデットロール速度:2400m/分(紡糸速度に同じ)
第1ゴデットロール温度:85℃第2ゴデットロール速度:4150m/分第2ゴデットロール温度:130℃巻取速度/第2ゴデットロール速度:0.983巻取速度:4080m/分(延伸糸デシテックス):72dtex/24f表4から明らかなように、紡孔の独立した中空部の面積が0.5〜5.0mm2 の範囲のとき、最も紡糸性が良好で、軽量かつ柔軟な風合いのマルチフィラメントが得られた。
【0061】〔実施例12〜14〕本例では、紡孔の非スリット部の巾とフィラメントの不良異型について説明する。図1(a)に示す形状で、紡孔の非スリット部の巾を表5のように異ならせて紡糸−延伸を行った。
【0062】その他の紡糸条件は、下記のように設定した。このときの紡糸性と、得られたマルチフィラメントの不良異型数を表5に示す。
(紡糸条件)
紡糸温度:295℃紡孔配列:図4の紡孔配列の口金を使用吐出量:28.8g/分・エンド冷風速度:0.7m/分仕上げ剤付着率:0.7wt%(延伸条件)
第1ゴデットロール速度:2400m/分(紡糸速度に同じ)
第1ゴデットロール温度:85℃第2ゴデットロール速度:4150m/分第2ゴデットロール温度:130℃巻取速度/第2ゴデットロール速度:0.983巻取速度:4080m/分(延伸糸デシテックス):72dtex/24f表5から明らかなように、紡孔の非スリット部の巾が本発明の0.1〜0.3mmの範囲のとき、最も良好な断面形状のマルチフィラメントが得られた。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
【表5】

【0068】
【発明の効果】本発明の溶融紡糸用口金を用いることにより、得られたマルチフィラメントは、高い中空率であるにもかかわらず、特定の断面形状と特定の繊維特性を有することから、編織物に使用した場合、軽量で保温性と柔軟な風合いを兼ね備えた特性を発揮することができる。また、高い中空率であるにもかかわらず、マルチフィラメントの糸方向の糸質の均一性に優れていることから、実用上も良好な品位の編織物を提供できる。
【0069】また、本発明により、かかる優れたマルチフィラメントを安定、かつ、均一に工業的に製造することができる。




 

 


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