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発明の名称 表面処理装置および表面処理方法並びに表面処理物
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2001−192826(P2001−192826A)
公開日 平成13年7月17日(2001.7.17)
出願番号 特願2000−106841(P2000−106841)
出願日 平成12年4月7日(2000.4.7)
代理人 【識別番号】100098785
【弁理士】
【氏名又は名称】藤島 洋一郎
【テーマコード(参考)】
4K029
5D029
5D075
5D112
5D119
5D121
【Fターム(参考)】
4K029 AA11 AA24 AA27 BA34 BD12 CA10 DE04 GA02 
5D029 KB11 LB20 LC21
5D075 EE03 FG04 FG11 GG16 GG20
5D112 AA02 AA05 AA07 AA24 BA01 FB21 FB26 FB27
5D119 BA01 JA43 JA64 NA05
5D121 AA02 AA04 EE04 EE19
発明者 外崎 峰広 / 小林 正人 / 植田 充紀 / 沖田 裕之 / 武笠 智治
要約 目的


構成
特許請求の範囲
【請求項1】 絶縁物にイオンを注入することにより絶縁物の表面を処理する表面処理装置であって、絶縁物に注入するイオンを含むプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、絶縁物に対してパルス状電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記プラズマ発生手段により、絶縁物に注入するイオンを含むプラズマを発生させ、当該プラズマ中で前記電圧印加手段により正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を絶縁物に印加することにより、イオンを絶縁物に注入することを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】 前記電圧印加手段は、絶縁物に対して印加するパルス状電圧の波形を制御する波形制御手段を有することを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。
【請求項3】 絶縁物にイオンを注入することにより絶縁物の表面を処理する表面処理方法であって、注入するイオンを含むプラズマ中において、正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を絶縁物に印加することにより、絶縁物にイオンを注入することを特徴とする表面処理方法。
【請求項4】 前記絶縁物にパルス状電圧を印加する際に、電圧パルスの間に電圧を印加しない期間を設けることを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項5】 絶縁物にパルス状電圧を印加する際に、当該パルス状電圧にDC電圧成分を重畳すること特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項6】 絶縁物に印加するパルス状電圧の波形を、パルスピーク値、パルス立ち上がり時間、パルス間隔及およびパルス幅のうちの少なくともいずれかが異なる複数のパルスを組み合わせた波形とすることを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項7】 絶縁物に印加するパルス状電圧の波形を制御することにより、絶縁物にイオンを注入する際の注入量、注入深さおよび注入プロファイルのうちの少なくともいずれか一つを制御することを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項8】 表面処理の対象となる絶縁物が、ヘリカルスキャン方式による磁気テープの記録または再生の少なくとも一方に使用される回転ドラムであることを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項9】 表面処理の対象となる絶縁物が、記録媒体の記録層を支持する基材であることを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項10】 表面処理の対象となる絶縁物が、基材上に記録層が形成されてなる記録媒体であることを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項11】 表面処理の対象となる絶縁物が、基材上に記録層が形成されてなると共に、当該記録層上に保護膜が形成されてなる記録媒体であり、少なくとも前記記録媒体の保護膜に対して、イオンを注入して表面処理を施すことを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項12】 表面処理の対象となる絶縁物が、液晶パネルにおいて液晶を封入するためのパネル基板であることを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項13】 表面処理の対象となる絶縁物が、絶縁体に印刷が施されてなる印刷物であることを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項14】 表面処理の対象となる絶縁物が、光透過性を有することを特徴とする請求項3記載の表面処理方法。
【請求項15】 前記絶縁物は、基板と、この基板の上に設けられると共に、絶縁物の表面を構成する保護膜とを含むことを特徴とする請求項14記載の表面処理方法。
【請求項16】 酸化ケイ素を主成分とする被処理物にイオンを注入することにより被処理物の表面を処理する表面処理方法であって、注入するイオンを含むプラズマ中において、正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を絶縁物に印加することにより、被処理物にイオンを注入することを特徴とする表面処理方法。
【請求項17】 光透過性を有する絶縁物に、プラズマ中においてイオンが注入されることにより、その表面が処理されていることを特徴とする表面処理物。
【請求項18】 前記絶縁物は、イオン注入の有無にかかわらず、所定の波長領域において、実質的にその光透過率が等しいことを特徴とする請求項17記載の表面処理物。
【請求項19】 前記絶縁物は、イオン注入の有無にかかわらず、380nm以上900nm以下の範囲内の領域のある一部において、実質的にその光透過率が等しいことを特徴とする請求項17記載の表面処理物。
【請求項20】 前記絶縁物は、少なくとも基材と記録層とを有する光記録媒体または光記録媒体の基材として用いられるものであることを特徴とする請求項17記載の表面処理物。
【請求項21】 前記絶縁物の表面における降伏応力は、イオン注入により大きくなっていることを特徴とする請求項17記載の表面処理物。
【請求項22】 前記絶縁物の表面の硬度は、イオン注入により高くなっていることを特徴とする請求項17記載の表面処理物。
【請求項23】 前記絶縁物は、基板と、この基板の上に設けられ、前記絶縁物の表面を構成する保護膜とを含むと共に、前記基板と前記保護膜との密着力が、イオン注入により大きくなっていることを特徴とする請求項17記載の表面処理物。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、絶縁物にイオンを注入することによりその表面を処理するための表面処理装置および表面処理方法、並びにこの表面処理方法により得られる表面処理物に関する。
【0002】
【従来の技術】光ディスク装置などの光記録装置の分野においては、面記録密度を向上させるための研究開発が活発になされている。特に、近年、光源波長が短い(410nm前後)青紫色レーザが開発され、このレーザを用いると共に、光学ピックアップに設けられた対物レンズの開口数(NA;Numerical Aperture)を大きくすることにより、面記録密度を向上させる試みがなされている。このように対物レンズのNAが大きくなると、光線収差の一種であるコマ収差の増大による信号再生への悪影響を回避することが要求されてくる。
【0003】ところで、従来より、CD(Compact Disk)やMD(Mini Disk )に代表される光ディスクの基板の構成材料としては、ポリカーボネートなどの絶縁材料が用いられている。これらのCDやMDなどでは、上述したコマ収差の増大を防止するために、ディスク基板(レーザ光が通過する部分)の厚さを0.1mm程度に薄くする必要がある。ところが、ディスク基板が薄くなると、傷が付きやすく、読み書きを行う際にエラーが発生するという問題があった。また、面記録密度の向上に伴い、光ディスクと光学ピックアップとの距離が短くなるので、これらが接触してしまうことがある。このように、光ディスクと光学ピックアップとが接触した場合には、光ディスクおよび光学ピックアップが損傷したり、この損傷に伴い発生する塵埃が光ディスクや光学ピックアップに付着したりして、読み書きを行う際にエラーが発生するという問題があった。したがって、光ディスク、更には光学ピックアップの表面を保護する必要がある。
【0004】一般に、物質(被処理物)の表面を保護する手法としては、その表面に保護膜を形成する手法や、表面にイオンを注入することにより表面処理を施して、硬度,弾塑性特性,電気伝導度,潤滑性,耐久性,耐湿性,耐食性,濡れ性あるいは気体透過率などの各種特性を改良する手法が知られている。
【0005】被処理物にイオンを注入する方法としては、イオンビームを被処理物に直接照射することで、イオンを被処理物に注入する手法(以下、イオンビーム注入法と称する。)が知られている。しかしながら、イオンビーム注入法は、被処理物が立体的な構造を有するような場合には、被処理物の表面に均一にイオンを注入することが困難であるという問題があった。
【0006】そこで、このような問題を解決して、被処理物が立体的な構造を有していても均一にイオンを注入することが可能な手法として、注入するイオンを含むプラズマを発生させ、基板にバイアスを印加することによって当該プラズマに含まれるイオンを加速させ、被処理物に引き込んで注入する手法(以下、プラズマ注入法と称する。)が考案されている。
【0007】プラズマ注入法では、注入するイオンを含むプラズマ中に被処理物を配して、図24に示したような負のパルス状のバイアス電圧を被処理物に印加する。そして、被処理物に負の電圧が印加されたときに、プラズマ中のイオンが被処理物に引き込まれて、被処理物にイオンが注入される。
【0008】このようなプラズマ注入法では、注入するイオンを含むプラズマを被処理物の周囲に均一に発生させておけば、被処理物が立体的な構造を有していたとしても、被処理物の表面に均一にイオンを注入することができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来、プラズマ注入法を適用できるのは、被処理物が金属等の導体の場合に限られていた。なぜなら、被処理物が絶縁体の場合には、プラズマ注入法によるイオン注入を行うと、直ぐに被処理物に電荷がたまり、いわゆるチャージアップの状態になってしまい、イオンが被処理物に引き込まれなくなってしまうからである。
【0010】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面処理の対象が絶縁物であっても、プラズマ注入法によりイオンを注入して表面処理を施すことが可能な表面処理装置および表面処理方法並びにこの表面処理方法により得られる表面処理物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明に係る表面処理装置は、絶縁物にイオンを注入することにより絶縁物の表面を処理する表面処理装置であって、絶縁物に注入するイオンを含むプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、絶縁物に対してパルス状電圧を印加する電圧印加手段とを備え、プラズマ発生手段により、絶縁物に注入するイオンを含むプラズマを発生させ、当該プラズマ中で電圧印加手段により正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を絶縁物に印加することにより、イオンを絶縁物に注入するようにしたものである。
【0012】本発明に係る表面処理方法は、絶縁物にイオンを注入することにより絶縁物の表面を処理する表面処理方法であって、注入するイオンを含むプラズマ中において、正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を絶縁物に印加することにより、絶縁物にイオンを注入するようにしたものである。
【0013】本発明に係る表面処理物は、プラズマ中において光透過性を有する絶縁物にイオンが注入されることにより、その表面が処理されたものである。
【0014】本発明に係る表面処理装置では、電圧印加手段により正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧が絶縁物に印加されると、プラズマ発生手段により発生したプラズマ中のイオンが絶縁物に均一に注入される。
【0015】本発明に係る表面処理方法では、プラズマ中において、プラズマ中のイオンが絶縁物に注入される。
【0016】本発明に係る表面処理物では、光透過性を有する絶縁物にイオンが注入されている。ここでは、プラズマ中においてイオンが注入されているので、基体の全体に渡って、均一に注入されている。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】[第1の実施の形態]図1は、本発明の第1の実施の形態に係る表面処理装置の構成を表すものである。この表面処理装置1は、絶縁物からなる被処理物2に対してプラズマ注入法によりイオンを注入することにより、被処理物2の表面を処理するためのものである。
【0019】ここで、イオン注入による表面処理の対象となる被処理物2の材料としては、例えば、アモルファスポリオレフィン(APO;Amorphous Polyolefin),ポリカーボネート(PC;Polycarbonate ),ポリメチルメタクリレート(PMMA;Polrmethyl Methacrylate ),ポリエチレンテレフタラート(PET;Polyethylene Terephthalate),アクリル樹脂,ポリイミド樹脂,カーボンあるいはガラスなどが挙げられる。また、被処理物2に注入するイオン種としては、例えば、炭素(C),窒素(N),タングステン(W),タンタル(Ta),クロム(Cr),モリブデン(Mo),コバルト(Co),白金(Pt),ニッケル(Ni),鉄(Fe),チタン(Ti),マンガン(Mn),銅(Cu)あるいはサマリウム(Sm)などが挙げられる。
【0020】この表面処理装置1は、真空容器3と、真空容器3の内部を排気するためのクライオポンプ4と、真空容器3の内部において被処理物2を支持するホルダー5と、被処理物2に注入するイオンを供給するイオン発生装置6と、イオン供給のオン/オフの切り換えを行うシャッタ7と、正のパルス電圧と負のパルス電圧を含むパルス状電圧を被処理物2に印加するパルス電源回路8とを備えている。
【0021】真空容器3は、内部が排気され高真空状態とされる容器である。この表面処理装置1では、この真空容器3の内部において、被処理物2に注入するイオンを含むプラズマを発生させ、当該プラズマに含まれるイオンを被処理物2に注入する。
【0022】クライオポンプ4は、真空容器3の内部を排気して、高い真空状態を得るための真空ポンプである。この表面処理装置1では、クライオポンプ4により真空容器3の内部を排気して、イオンを真空容器3の内部に導入する前の真空度、すなわち背景真空度を、例えば1.33×10-5Pa(10-7Torr)程度とする。また、クライオポンプ4により真空容器3の内部を排気して、イオンを真空容器3の内部に導入してプラズマを発生させたときの真空度、すなわちイオン注入を行う際の真空度を、例えば1.33×10-3Pa(10-5Torr)程度とする。
【0023】ホルダー5は、被処理物2を支持するためのものであり、真空容器3に取り付けられた絶縁性の支持部材9により、真空容器3の内部に支持されている。絶縁物からなる被処理物2に対して表面処理を施す際、当該被処理物2は、このホルダー5に取り付けられる。なお、支持部材9は例えば碍子を介して真空容器3に取り付けられている。
【0024】このホルダー5には、冷却水導入用パイプが組み込まれており、当該パイプに冷却水を流すことにより、ホルダー5に取り付けられた被処理物2を冷却できるようになっている。この冷却水導入用パイプは、支持部材9を介して真空容器3の外部に導出されるようになっている。したがって図中矢印Aに示すように、冷却水導入用パイプにより冷却水を循環させることができる。
【0025】このように水冷機能を備えたホルダー5を用いることにより、被処理物2に対してイオン注入を行う際に、被処理物2の温度が上昇しても、その温度を制御することが可能である。したがって、被処理物2がプラスチック等のように高温での処理が好ましくない材料からなる場合でも、被処理物2の温度上昇を抑えて、被処理物2へのイオン注入を行うことができる。
【0026】イオン発生装置6は、被処理物2に注入するイオンを供給して、被処理物2に注入するイオンを含むプラズマを発生させるプラズマ発生手段であり、被処理物2に注入するイオンを発生させるイオン発生源10を備えると共に、イオン発生源10から発生した粒子のうち、被処理物2に注入するイオンだけを真空容器3の内部に導くための質量分離器11を備えている。なお、図示はしないが、真空容器3とイオン発生装置6とは、例えば碍子を介して隣接するように構成されている。
【0027】ここで、イオン発生源10としては、例えば、カウフマン型イオンソース,マグネトロンスパッタソースあるいはカソーディックアークソースなどが使用可能である。ここで、カウフマン型イオンソースおよびマグネトロンスパッタソースでは、イオン源となる動作ガスが導入され、当該動作ガスからイオンが生成される。一方、カソーディックアークソースは、動作ガスを使用することなくイオンを発生させる。具体的には、カソーディックアークソースでは、イオン源となる材料からなるカソードを用いてアーク放電を発生させ、このアーク放電によりカソードが蒸発してイオン化した粒子を取り出す。このようなカソーディックアークソースでは、イオン発生に動作ガスを使用しないため、高真空状態を維持しつつイオンを発生させることができるという利点がある。
【0028】なお、イオン発生源10としてカソーディックアークソースを用いる場合には、カソードが融けることによる液滴の発生が問題になることがある。このような液滴発生の問題を解消するために、電磁フィルターを用いて液滴を除去するようにしたものもあり、そのようなカソーディックアークソースはフィルタードカソーディックアークソースと呼ばれている。この表面処理装置1では、フィルタードカソーディックアークソースをイオン発生源10として用いるようにしても良い。
【0029】イオン発生源10からは、所望するイオンと共に、中性の粒子や質量の大きなマクロパーティクルも同時に発生する。しかし、所望するイオン以外の粒子までもが被処理物2に到達してしまうことは好ましくない。そこで、このイオン発生装置6は、イオン発生源10からの粒子のうち、所望するイオンだけを、質量分離器11により真空容器3の内部に導くようにしている。
【0030】質量分離器11は、例えば約45度屈曲した経路を有し、当該経路に沿ってマグネットが配置されてなる。この質量分離器11では、マグネットからの磁場により、所望するイオンが、屈曲した経路に沿って真空容器3の内部に導かれるようになっている。一方、中性の粒子や質量の大きなマクロパーティクルは、磁場に拘束されにくいため、屈曲した経路を通過できずに遮られる。
【0031】このような質量分離器11を、イオン発生源10と真空容器3との間に配置しておくことで、中性の粒子や質量の大きなマクロパーティクルを遮り、所望するイオンだけを真空容器3の内部に導くことが可能となる。これにより、中性の粒子や質量の大きなマクロパーティクルによる影響を除去して、表面処理の品質を向上させることできる。
【0032】シャッタ7は、イオン発生装置6のイオン出射口近傍に配され、イオン供給のオン/オフの切り換えを行う。すなわち、シャッタ7が開かれたときに、イオン発生装置11からのイオン供給がなされ、シャッタ7が閉じられたときに、イオン発生装置6からのイオン供給が停止される。
【0033】パルス電源回路8は、ホルダー5に支持された被処理物2に対して、正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を印加する電圧印加手段である。すなわち、パルス電源回路8は、被処理物2にイオンを注入する際に、バイアス電圧としてパルス状の電圧を被処理物2に対して印加する。そして、被処理物2に負のパルス電圧が印加されたときに、プラズマ中のイオンが被処理物2に引き込まれて、被処理物2にイオンが注入されることとなる。
【0034】このパルス電源回路8は、正の直流(DC;Direct Current)電圧源となる第1の電源21と、負の直流電圧源となる第2の電源22と、第1の電源21からの直流電圧をパルス状電圧に変換する第1のインバータ回路23と、第2の電源22からの直流電圧をパルス状電圧に変換する第2のインバータ回路24と、第1および第2のインバータ回路23,24からのパルス状電圧を昇圧するパルストランス25と、第1および第2のインバータ回路23,24を制御する制御回路26と、制御回路26の動作を制御するコンピュータ27とを備えている。
【0035】このパルス電源回路8では、第1のインバータ回路23により、第1の電源21からの正の直流電圧をパルス状電圧に変換するとともに、第2のインバータ回路24により、第2の電源22からの負の直流電圧をパルス状電圧に変換する。
【0036】これらのインバータ回路23,24からの出力は、波形制御手段としての制御回路26により制御される。すなわち、このパルス電源回路8は、正のパルス状電圧を出力する第1のインバータ回路23と、負のパルス状電圧を出力する第2のインバータ回路24とが並列に動作するとともに、それらのインバータ回路23,24を制御回路26により制御することで、インバータ回路23,24から出力される正負のパルス状電圧をそれぞれ独立に、それらのパルスピーク値(パルス波高)、パルス立ち上がり時間、パルス間隔およびパルス幅等を変化させることが可能となっている。
【0037】具体的には例えば、制御回路26は、第1のインバータ回路23から出力される正の電圧パルスと、第2のインバータ回路24から出力される負の電圧パルスとが交互に出力されるように、第1のインバータ回路23からの出力と、第2のインバータ回路24からの出力との切り換えを行う。そして、このように制御回路26により制御され、第1および第2のインバータ回路23,24から出力されたパルス状電圧が、パルストランス25の一次巻線に供給される。
【0038】パルストランス25に供給されたパルス状電圧は、パルストランス25により昇圧される。ここで、パルストランス25の二次巻線からの端子は、ホルダー5を支持する支持部材9の内部を通って、ホルダー5の被処理物支持面に設置されている。したがって、ホルダー5に被処理物2が取り付けられている場合には、パルストランス25により昇圧されたパルス状電圧が被処理物2に印加されることとなる。
【0039】ここで、被処理物2に印加されるパルス状電圧は、第1のインバータ回路23から出力される正の電圧パルスが昇圧されてなるパルスと、第2のインバータ回路24から出力される負の電圧パルスが昇圧されてなるパルスとを含むようにする。すなわち、被処理物2には、正のパルス電圧と負のパルス電圧を含むパルス状電圧が印加される。
【0040】このように、被処理物2に印加する電圧を、正のパルス電圧と負のパルス電圧を含むパルス状電圧とすることにより、被処理物2にイオン注入を行う際に、被処理物2に電荷がたまってしまうようなことがなくなる。すなわち、負のパルス電圧を印加することにより被処理物2に電荷がたまったとしても、当該電荷は正のパルス電圧により直ちに中和される。同様に、正のパルス電圧を印加することにより被処理物2に電荷がたまったとしても、当該電荷は負のパルス電圧により直ちに中和される。したがって、いわゆるチャージアップの状態になってしまうようなことなく、被処理物2に対して継続してイオンの注入を行うことができる。
【0041】なお、このパルス電源回路8において、被処理物2に印加するパルス状電圧のパルスピーク値,パルス立ち上がり時間,パルス間隔,パルス幅あるいは正負のパルスの順番などは、コンピュータ27への指示入力によって可変とされる。すなわち、このパルス電源回路8を用いる際は、どのような波形のパルス状電圧を被処理物2に印加するかをコンピュータ27に入力する。この入力に基づいて、コンピュータ27は制御回路26の動作を制御する。制御回路26は、コンピュータ27からの指示に基づいて、所望する波形のパルス状電圧が被処理物2に印加されるように、第1および第2のインバータ回路23,24からの出力を制御する。
【0042】具体的には、例えば、被処理物2に印加するパルス状電圧のパルスピーク電圧を、正負それぞれ0V〜40kV程度にまで、正負それぞれ独立に変えられるようにする。また、パルス幅は数μsec〜数sec程度の範囲で可変とする。また、パルス間隔は数十μsec〜数sec程度の範囲で可変とする。また、正負のパルスの順番も制御回路26に接続されたコンピュータ27により制御できるようにする。
【0043】このパルス電源回路8において、インバータ回路23,24には、半導体素子を用いて構成された回路を用いることが好ましい。半導体素子を用いた構成されたインバータ回路は廉価であるので、パルス電源回路8に組み込むインバータ回路23,24として半導体素子を用いて構成された回路を用いることで、パルス電源回路8を安価に構成することが可能となる。また、半導体素子を用いて構成された回路は小型化しやすいので、インバータ回路23,24として半導体素子を用いて構成された回路を用いることは、パルス電源回路8を小型化する上でも好ましい。
【0044】なお、インバータ回路23,24として半導体素子を用いて構成された回路を用いる場合には、インバータ回路23,24から高い出力電圧を得ることが難しくなるが、その場合は、上記パルス電源回路8のように、インバータ回路23,24からの出力をパルストランス25により昇圧するようにすればよい。
【0045】すなわち、インバータ回路23,24として半導体素子を用いて構成された回路を用いる場合は、例えば、インバータ回路23,24から出力されるパルス状電圧のパルスピーク電圧は、数百V〜数kV程度とする。これをパルストランス25により昇圧して、パルスピーク電圧が数十kV程度のパルス状電圧とする。そして、このようにパルストランス25により昇圧されたパルス状電圧を被処理物2に印加する。
【0046】次に、このような構成を有する表面処理装置1を用いた被処理物2の表面処理方法について説明する。
【0047】まず、表面処理の対象となる絶縁物よりなる被処理物2を、真空容器3の内部に配されたホルダー5に取り付ける。その後、真空容器3の内部を、クライオポンプ4により排気して、高真空状態とする。このときの真空容器3の内部の真空度、すなわちイオンを真空容器3の内部に導入する前の真空度(背景真空度)は、例えば1.33×10-5Pa(10-7Torr)程度とする。
【0048】なお、被処理物2が、例えばプラスチック等のように高温での処理が好ましくない材料からなる場合には、ホルダー5に組み込まれた冷却水導入用パイプに冷却水を流して、被処理物2の温度が上がりすぎないようにしておく。
【0049】次に、イオン発生装置6により、被処理物2に注入するイオンを発生させ、当該イオンを真空容器3の内部に導入する。これにより、真空容器3の内部に、被処理物2に注入するイオンを含むプラズマを発生させる。このときの真空容器3の内部の真空度、すなわちイオン注入を行う際の真空度は、例えば1.33×10-3Pa(10-5Torr)程度となる。
【0050】そして、注入するイオンを含むプラズマ中に被処理物2が配された状態において、パルス電源回路8により正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状のバイアス電圧を発生させ、当該パルス状電圧を被処理物2に印加する。これにより、被処理物2にイオンが引き込まれ、被処理物2へのイオン注入がなされる。より詳細には、負のパルス電圧が被処理物2に印加されたときに、プラズマ中に含まれている正イオンが被処理物2に引き込まれ、当該正イオンが被処理物2に注入される。
【0051】このように正イオンを被処理物2に引き込んで、被処理物2へのイオン注入を行うと、被処理物2に電荷がたまる。そのため、被処理物2に負電圧を印加し続けたのでは、絶縁物からなる被処理物2へのイオン注入を継続することはできない。そこで、この表面処理装置1では、被処理物2に印加するバイアス電圧を、正のパルス電圧と負のパルス電圧を含むパルス状電圧として、被処理物2にたまった電荷を正のパルス電圧により中和する。より詳細には、正のパルス電圧が被処理物2に印加されたときに、電子が被処理物2に引き込まれ、当該電子により被処理物2にたまっていた電荷が中和される。このように、被処理物2にたまっていた電荷を中和しておけば、その後、負のパルス電圧を印加したときに、改めて、正イオンが被処理物2に引き込まれ、被処理物2へのイオン注入がなされることとなる。
【0052】以上のように、被処理物2に印加するバイアス電圧を、正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧とすることで、被処理物2が絶縁物であってもチャージアップ状態になることなく、被処理物2へのイオン注入を行うことができる。
【0053】本実施の形態では、被処理物2へのイオンの注入量や注入深さや注入プロファイル等は、被処理物2に印加される負のパルス電圧のパルスピーク値,パルス立ち上がり時間,パルス間隔あるいはパルス幅などに依存する。したがって、被処理物2に印加するパルス状電圧の波形を制御することにより、被処理物2にイオンを注入する際の注入量や注入深さや注入プロファイル等を制御することができる。
【0054】図2は、表面処理装置1によりプラズマ注入法でイオン注入を行った際に得られる注入プロファイル(被処理物2の表面からの深さと、被処理物2に注入されたイオンの濃度との関係)の一例を示したものである。この図からも分かるように、プラズマ注入法では、被処理物2に印加するパルス状電圧を制御することにより、被処理物2に注入するイオンの注入量や注入深さや注入プロファイル等を制御することができる。したがって、注入するイオンの濃度のピークが、被処理物2の表面近傍に存在するようにすることも可能である。
【0055】しかも、ここでのイオン注入は、プラズマに含まれるイオンを被処理物2に注入するプラズマ注入法によるものであるので、イオンビーム注入法とは異なり、被処理物2が立体的な構造を有していても、被処理物2の表面に均一にイオンを注入することが可能である。
【0056】なお、図3は、イオンビーム注入法でイオン注入を行った際に得られる注入プロファイルの一例を示したものである。イオンビーム注入法の場合には、一定エネルギーのイオンビームが加速されて被処理物に注入されるため、その注入プロファイルは、表面からある程度の深さのところにピークを持つガウシアン型の分布となる。
【0057】以上のようなイオン注入による表面処理の対象となる被処理物2の例としては、例えば、ヘリカルスキャン方式による磁気テープの記録・再生に使用される回転ドラムや、記録媒体の記録層を支持する基材や、基材上に記録層が形成されてなる記録媒体や、基材上に例えば磁性材料よりなる記録層(磁性層)が形成されると共に当該記録層上に保護膜が形成されてなる記録媒体や、液晶パネルにおいて液晶を封入するためのパネル基板や、絶縁体に印刷が施されてなる印刷物や、プラスチック等の絶縁材料により作製された各種のマイクロマシンなどが挙げられる。
【0058】図4は、ヘリカルスキャン方式による磁気記録再生装置の外観を表すものである。この磁気記録再生装置には、上述したような、例えばプラスチックにより形成された回転ドラム30が配設されている。この回転ドラム30を用いて磁気テープの記録・再生を行う際は、図4中の矢印B1に示すように、回転ドラム30に磁気テープ31を巻き付けて走行させるとともに、図4中の矢印B2に示すように、モータにより回転ドラム30を回転させる。そして、回転ドラム30に搭載された磁気ヘッドにより、磁気テープ31の記録・再生を行う。
【0059】本実施の形態に係る表面処理方法により回転ドラムに対して表面処理を施せば、その表面硬度を大幅に向上させることができ、磁気テープとの摺動によっても摩耗しにくいプラスチック製の回転ドラムを得ることができる。その結果、従来のアルミニウム合金よりなる回転ドラムに比べて、大幅に軽量化を図ることができ、回転ドラムを回転駆動するモータへの負荷を、例えば1/10程度にまで大幅に軽減することができる。このように、モータへの負荷を軽減することにより、ヘリカルスキャン方式の磁気記録再生装置の駆動に必要な電力を大幅に低減することが可能となる。したがって、例えば電池駆動時間を大幅に長くするようなことが可能となる。また、電力が少なくて済むので、地球環境に対しても非常に好ましい。
【0060】ところで、回転ドラムをプラスチックにより作製した場合には、その表面の絶縁性により、回転ドラムに磁気テープが貼り付いてしまうという問題が生じる場合がある。その場合には、イオン注入を行う際に、チタン等の金属イオンも導入しておく。これにより、回転ドラムの表面に導電性を持たせることが可能となり、磁気テープの貼り付きの問題を解消できる。
【0061】具体的には、イオン発生源10に例えばメタンガス(CH4 )等を導入してイオンを生成する際に、メタンガスと共に、Ti(CH32 Cl2 や、テトラメチルアミノチタンや、テトラキスジメチルアミノチタン(TDMAT)や、テトラキスジエチルアミノチタン(TDEAT)等の有機金属を導入して、チタンイオンもプラズマ中に供給する。これにより、回転ドラムの表面をチタン化することができ、磁気テープ貼り付きの問題を解消することができる。
【0062】なお、回転ドラムの表面に導電性薄膜を形成するようにしても、磁気テープ貼り付きの問題は解消可能であるが、プラスチック上に導電性薄膜を形成した場合は、プラスチックと導電性薄膜との密着性が悪く、回転ドラムの耐久性に劣る。したがって、磁気テープ貼り付きの問題は解消するには、上述のように、イオン注入を行う際にチタン等の金属イオンも導入し、これにより回転ドラムの表面に導電性を持たせるようにすることが好ましい。
【0063】また、回転ドラム上に後から薄膜を形成した場合には、当該薄膜の成膜条件によっては、表面加工精度が変化してしまう。これに対して、イオン注入の場合には、回転ドラムの表面に沿ってイオンが注入されるので、回転ドラムの表面加工精度が変化するようなことは殆どない。例えば、機械加工後の面粗度が0.8Sであった場合には、イオン注入を行った後の面粗度もほぼ0.8Sのまま維持される。したがって、表面加工精度を維持するという観点からも、イオン注入による表面処理だけを行うようにした方が好ましい。
【0064】被処理物2が、基材上に磁性層が形成されたディスク状記録媒体である場合には、イオン注入を行う際に、ディスク状記録媒体に印加するパルス状電圧の波形を制御して、磁性層の表面近傍により多くのイオンが注入されるようにすることが好ましい。これにより、主に磁性層表面近傍を改質して、磁性層の表面硬度を非常に高めることができる。
【0065】なお、本発明を用いてイオン注入を行う際には、詳細は後述するように、被処理物2に印加するパルス状電圧の波形を制御することにより、被処理物2にイオンを注入するだけでなく、成膜も同時に行うことができる。そこで、上述したディスク状記録媒体に対する表面処理を行う際は、ディスク状記録媒体に印加するパルス状電圧の波形を制御して、イオン注入による表面改質と同時に、磁性層を保護する保護膜の形成等を同時に行うようにしても良い。
【0066】また、被処理物2が、基材上に磁性層および保護膜が形成されたディスク状記録媒体である場合には、保護膜にイオンを注入することで、保護膜の表面硬度を高めて、ディスク状記録媒体の耐久性および信頼性を向上させることができる。そして、このようにディスク状記録媒体の保護膜の表面硬度を高めることにより、例えば、従来は傷付防止のためにキャディに入れて使用していたようなディスク状記録媒体をキャディに入れることなく使用するようなことも可能となる。
【0067】なお、このディスク状記録媒体に対する表面処理を行う際には、ディスク状記録媒体に印加するパルス状電圧の波形を制御して、保護膜の表面近傍により多くのイオンが注入されるようにすることが好ましい。これにより、主に保護膜表面近傍を改質して、保護膜の表面硬度を非常に高めることができる。
【0068】更に、被処理物2が、液晶パネルにおいて液晶を封入するためのプラスチックパネル基板である場合には、プラスチックパネル基板の表面処理を行うことにより、透湿度および酸素透過度を、従来のガラスパネル基板なみに向上させることができ、良質のプラスチックパネル基板とすることができる。したがって、プラスチック製のパネル基板を利用することができ、液晶パネルの軽量化や低コスト化が図られる。
【0069】また、被処理物2が、絶縁体に印刷が施されてなる印刷物である場合には、印刷物に対してイオンを注入することで、印刷されたインクを改質して、印刷を落ちにくくすることができる。なお、本実施の形態のイオン注入はプラズマ注入法によるものであるので、イオンビーム注入法と異なり、被処理物2が立体的な構造を有していても均一にイオンを注入することが可能である。したがって、印刷物が立体的な構造を有している場合でも、当該印刷物の表面全体に対して均一にイオン注入を行い、印刷面全体について、印刷を落ちにくくすることができる。
【0070】次に、上記表面処理装置1によりイオン注入を行う際に被処理物2に印加するパルス状電圧について、具体的な例(図5乃至図12)を挙げて説明する。
【0071】図5に示した例では、まず、負のパルス電圧を印加し、その直後に、パルスピークの絶対値がほぼ等しい正のパルス電圧を印加し、その後、電圧を印加しない期間を設けている。そして、このようなパルス列を被処理物2に繰り返し印加するようにしている。
【0072】パルス状電圧を図5に示すような波形にした場合は、負のパルス電圧を印加したときに、正のイオンが加速され被処理物2に引き込まれる。これにより、被処理物2へのイオン注入がなされる。このとき、正のイオンが被処理物2に引き込まれことにより、被処理物2には電荷がたまる。一方、正のパルス電圧を印加したときには、電子が被処理物2に引き込まれる。これにより、被処理物2にたまっていた電荷が中和される。
【0073】したがって、図5に示すような波形のパルス状電圧を被処理物2にバイアス電圧として印加するようにすることで、被処理物2が絶縁物であってもチャージアップ状態となることなく、被処理物2へのイオン注入を継続して行うことができる。
【0074】図6に示した例は、図5に示す例と正負の順番を逆にした例である。すなわち、まず、正のパルス電圧を印加し、その直後に、パルスピークの絶対値がほぼ等しい負のパルス電圧を印加し、その後、電圧を印加しない期間を設けている。そして、このようなパルス列を被処理物2に繰り返し印加するものである。
【0075】パルス状電圧を図6に示すような波形にした場合も、図5に示した例と同様に、負のパルス電圧を印加したときに、正のイオンが加速され被処理物2に引き込まれる。これにより、被処理物2へのイオン注入がなされる。このとき、正のイオンが被処理物2に引き込まれことにより、被処理物2には電荷がたまる。一方、正のパルス電圧を印加したときには、電子が被処理物2に引き込まれる。これにより、被処理物2にたまっていた電荷が中和される。
【0076】したがって、図6に示すような波形のパルス状電圧を被処理物2にバイアス電圧として印加するようにすることで、図5に示した例と同様に、被処理物2が絶縁物であってもチャージアップ状態となることなく、被処理物2へのイオン注入を継続して行うことができる。
【0077】図7に示した例では、まず、負のパルス電圧を印加した後、電圧を印加しない期間を設けている。続いて、負のパルス電圧とパルスピークの絶対値がほぼ等しい正のパルス電圧を印加した後、電圧を印加しない期間を設けている。そして、このようなパルス列を被処理物2に繰り返し印加するようにしている。
【0078】パルス状電圧を図7に示したような波形にした場合も、図5および図6に示した例と同様に、被処理物2が絶縁物であってもチャージアップ状態となることなく、被処理物2へのイオン注入を継続して行うことができる。
【0079】また、図7に示した例では、負のパルス電圧を印加した後に電圧を印加しない期間を設けて、ある程度の時間が経ってから、正のパルス電圧を印加するようにしている。このように、負のパルス電圧を印加した後に電圧を印加しない期間を設けた場合には、その期間中に、被処理物2にたまっていた電荷がある程度抜けることとなる。したがって、正のパルス電圧の印加による電荷の中和を行いやすくなる。
【0080】図8に示した例では、まず、負のパルス電圧を印加し、その直後に、パルスピークの絶対値が負のパルス電圧のそれよりも小さい正のパルス電圧を印加し、その後、電圧を印加しない期間を設けている。そして、このようなパルス列を被処理物2に繰り返し印加するようにしたものである。
【0081】パルス状電圧を図8に示したような波形にした場合も、図5乃至図7に示した例と同様に、負のパルス電圧を印加したときに、被処理物2へのイオン注入がなされと共に、被処理物2に電荷がたまり、正のパルス電圧を印加することにより、被処理物2にたまっていた電荷が中和される。
【0082】なお、図8に示した例では、正のパルス電圧のパルスピークの絶対値を、負のパルス電圧のパルスピークの絶対値よりも小さくしているが、被処理物2にたまった電荷の中和は、この例のように正のパルスを小さくしても、十分に行うことが可能である。特に、パルス間に電圧を印加していない期間を設けている場合には、その期間において、被処理物2にたまっていた電荷が抜けるので、被処理物2にたまった電荷を中和するための正のパルス電圧は、より小さなものであっても構わない。
【0083】図9に示した例は、図8に示した例と正負の順番を逆にした例である。すなわち、図8に示した例では、まず、正のパルス電圧を印加し、その直後に、パルスピークの絶対値が小さい負のパルス電圧を印加し、その後、電圧を印加しない期間を設けている。そして、このようなパルス列を被処理物2に繰り返し印加する。この場合においても、図5乃至図8に示した例と同様に、被処理物2に電荷がたまっても、中和される。
【0084】なお、図9に示した例では、正のパルス電圧のパルスピークの絶対値を、負のパルス電圧のパルスピークの絶対値よりも大きくしているが、被処理物2にたまった電荷の中和は、この例のように正のパルスを大きくして行うようにしても可能である。また、この例の場合は、正のパルス電圧を印加したときに、被処理物2にたまった電荷を中和する以上の電子が被処理物2に引き込まれる。したがって、この例の場合は、電子照射による表面処理の効果も得られる。
【0085】図10に示した例では、まず、複数の負のパルス電圧を印加する。このとき、徐々に負の電圧が大きくなるパルスを連続させて、全体的に見ると、図中点線で示すような緩やかな負の傾きを持つパルス列からなる波形とする。そして、これらの負のパルス電圧を印加した直後に、正のパルス電圧を印加し、その後、電圧を印加しない期間を設けている。そして、このようなパルス列を被処理物2に繰り返し印加するようにしている。
【0086】パルス状電圧を図10に示したような波形にした場合は、複数の負のパルス電圧を印加したときに、正のイオンが加速され被処理物2に引き込まれる。これにより、被処理物2へのイオン注入がなされる。このとき、正のイオンが被処理物2に引き込まれことにより、被処理物2には電荷がたまる。一方、正のパルス電圧を印加したときには、電子が被処理物2に引き込まれる。これにより、被処理物2にたまっていた電荷が中和される。
【0087】この例にように、正のイオンを加速して被処理物2に引き込むためのバイアス電圧となる負のパルス電圧を、複数のパルスを組み合わせたものとすることにより、被処理物2にイオンを注入する際の注入プロファイルを、より細かく制御することが可能となる。
【0088】なお、図5乃至図10に示した例では、パルス間に電圧を印加していない期間を設けているが、電圧を印加していない期間において、初期エネルギーのまま被処理物2に到達したイオンは、そのまま被処理物2の上に堆積する。したがって、電圧を印加しない期間では、被処理物2へのイオン注入ではなく、被処理物2への成膜がなされることとなる。すなわち、図5乃至図10に示した例では、イオン注入の効果と成膜の効果の両方が得られることとなる。
【0089】一方、被処理物2への成膜を行いたくない場合には、被処理物2に印加するパルス状電圧にDC電圧成分を重畳すればよい。DC電圧成分を重畳したパルス状電圧の例を図11に示す。この例のように、パルス状電圧に正のDC電圧成分を重畳しておくことにより、パルスとパルスの間において成膜状態となることなく、被処理物2へのイオン注入だけを行うことができる。
【0090】ところで、以上の説明では、被処理物2に負電圧を印加したときにイオンが注入されるものとして説明してきたが、条件によっては、被処理物2に負電圧を印加したときに、被処理物2の内部にイオンが入り込まず、スパッタリング状態にもなり得る。
【0091】すなわち、被処理物2に十分に大きな負電圧を印加した場合には、被処理物2に到達するイオンのエネルギーが十分に大きくなり、被処理物2の内部にイオンが入り込み、イオン注入状態となるが、被処理物2に印加する負電圧が小さい場合には、被処理物2に到達するイオンのエネルギーが小さく、被処理物2の内部にイオンが入り込まず、スパッタリング状態となる。
【0092】具体的には例えば、被処理物2がプラスチックからなり、イオン種が炭素の場合、被処理物2に印加する負電圧が10kV程度のときには、イオンが十分に加速され、イオン注入状態となるが、被処理物2に印加する負電圧が数百V程度の場合には、イオンの加速が不十分であり、被処理物2の内部にイオンが入り込まず、スパッタリング状態となる。
【0093】そして、被処理物2に表面処理を施す際は、このようなスパッタリングを積極的に利用するようにしてもよい。スパッタリングを積極的に利用する場合のパルス状電圧の例を図12に示す。図12に示した例では、負のパルス電圧を印加する際に、まず、−数百V程度のバイアスを与えて、これにより、被処理物2の表面をスパッタリングする。その後、−10kV程度のパルスを与えて、これにより、被処理物2へのイオン注入を行う。
【0094】このように、被処理物2に印加する電圧を調整することにより、被処理物2へのイオン注入だけではなく、被処理物2のスパッタリングをも行うことができる。すなわち、被処理物2に印加する電圧を調整することにより、スパッタリングとイオン注入とを組み合わせた表面処理を、被処理物2に対して施すことができる。
【0095】ところで、上記表面処理装置1では、イオン発生装置11をパルス動作させたり、シャッタ7の開閉動作を制御することにより、被処理物2に注入するイオンを断続的に供給することができる。そこで、被処理物2に注入するイオンの供給を、被処理物2に印加するバイアス電圧のパルスと同期させて行うようにしてもよい。これにより、例えば、被処理物2に対して純粋にイオン注入だけを行うようにしたり、或いは、イオン注入と成膜やスパッタリングとを組み合わせて表面処理を行うようにするなど、所望する条件での表面処理をより細かく制御して行うことが可能となる。
【0096】このように本実施の形態では、プラズマイオン注入法によりイオン注入を行う際に、正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を被処理物2に印加するようにしたので、被処理物2が絶縁物であっても、内部に電荷がたまり、いわゆるチャージアップの状態になるおそれがない。また、プラズマイオン注入法により行うので、イオンビーム注入法と異なり、被処理物2が立体的な構造を有していても均一にイオンを注入することが可能である。そのため、絶縁物の表面の、硬度,弾塑性特性,電気伝導度,潤滑性,耐久性,耐湿性,耐食性,濡れ性および気体透過率等の各種特性を改質することができる。したがって、従来は導電体により作られていた多くの部品を、プラスチックなどの安価な材料に作製することが可能となる。
【0097】[第2の実施の形態]本発明の第2の実施の形態は、光透過性を有する絶縁物からなる被処理物の表面処理方法、およびそれにより得られる表面処理物に関するものである。ここでは、被処理物が光ディスク基板である場合について説明する。なお、以下の説明では、第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、ここではその説明を省略する。
【0098】図13は、本実施の形態の表面処理方法を表すフローチャートである。本実施の形態では、まず、例えばポリカーボネートあるいはアモルファスポリオレフィンよりなる透明基板を用意し、この透明基板に対して例えばアルコールを用いた超音波洗浄を行う(図13ステップS1)。
【0099】次に、洗浄した透明基板上に、保護膜を形成する(ステップS2)。具体的には、まず、例えばスピンコート法により熱硬化性を有するシリコーン(例えば東芝製トスガード510)を塗布する(ステップS2−1)。続いて、例えば、湿度が40%以下に制御された乾燥庫中においてシリコーンを乾燥させた(ステップS2−2)のち、例えば80℃で3時間加熱することにより、シリコーンを硬化させ(ステップS2−3)、シリコーンが硬化されてなる保護膜を形成する。このようにして、透明基板の上に保護膜が形成された被処理物2を作製する。
【0100】なお、ここでは、熱硬化性を有するシリコーンの代わりに、紫外線硬化性を有するシリコーン(例えば、東芝製TUV6020)を用いることもできる。その場合には、例えば、高圧水銀灯を用いて、照射距離10cm,出力80W/cmの条件のもとで、10分間紫外線を照射して、シリコーンを硬化させる。また、シリコーンを塗布して硬化させる方法の他に、図14に示したように、液体または気体のシリコーン原料をプリカーサ(前駆体)として用いたCVD(ChemicalVapor Deposition )法により保護膜を形成することもできる(図14ステップS2a)。
【0101】次に、先の図1に示したような表面処理装置1を用い、次のようにして被処理物2の表面処理を行う(ステップ3)。すなわち、まず、例えば、冷却水導入用パイプを介して供給された冷却水により水冷されたホルダー5に被処理物2を取り付け、真空容器3の内部をクライオポンプ4により排気して高真空状態にする。続いて、例えば、メタンガス(CH4 )などのパラフィン炭化水素をイオンソースとして、カウフマン型のイオン発生源10から炭素イオンを発生させ、発生したイオンを真空容器3の内部に導入する。これにより、真空容器3の内部に、被処理物2に注入するイオンを含むプラズマを発生させる。このとき、真空容器内部の真空度を、例えば10-2〜10-6Paとする。ここでは、炭素イオン以外にも、窒素イオンや酸素イオンを発生させることも有用である。窒素イオンを発生させる場合には、イオンソースに例えばN2 (窒素)やNH3 (アンモニア)を用い、酸素イオンを発生させる場合には、イオンソースに例えばO2 (酸素)やH2 Oを用いる。なお、カウフマン型のイオン発生源10の代わりに、イオン発生源10として、カソーディックアークソースを備えたイオン発生装置6を用いることもできる。
【0102】真空容器3の内部を注入イオンを含むプラズマ雰囲気としたのち、例えば、パルス電源によりパルス状のバイアス電圧を1〜20分間被処理物2に印加する。これにより、被処理物2に炭素イオン,窒素イオンあるいは酸素イオンなどのイオンが引き込まれ、被処理物2へのイオンの注入がなされる。なお、本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、パルス電源8により正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を印加することが好ましい。電圧の印加は、例えば、パルス幅を5μ秒程度、正のパルス電圧を10kV程度、負のパルス電圧を−10kV程度、周波数を1〜100kHzの条件で行う。
【0103】このようにして得られる表面処理物(被処理物2)の表面では、イオンが注入されたことにより化学的構造が変化する。その結果、イオンが注入されていないものよりも降伏応力(降伏点)が大きく、高い硬度を有すると共に、耐摩耗性に優れている。また、透明基板と保護膜との密着力も大きくなっている。
【0104】更に、透湿度や酸素透過度が非常に小さく、大気中の水蒸気や酸素を吸収しないようにすることができる。したがって、従来は、プラスチック製のディスク基板では、大気中の水蒸気や酸素をディスク基板が吸収し、その影響により、ディスク基板が変形してしまうという問題があったが、これを解決することができる。
【0105】一方、この表面処理物は、化学的構造が変化したにもかかわらず、イオンが注入されていないものと同等の光学特性を有している。例えば、380〜900nmの波長領域において、イオンが注入されていないものの光透過率とほぼ等しい光透過率を有している。
【0106】このように本実施の形態に係る表面処理方法によれば、光透過性を有する被処理物2(ここでは、光ディスク基板)にイオンを注入することにより、被処理物表面の硬度,耐摩耗性および密着力を、イオンが注入されていないもののそれらよりも向上させることができる。一方、得られた表面処理物の光学特性は、イオンが注入されていないものと同等に保たれる。したがって、ディスク基板の厚さが薄くなった場合にも、損傷を受けにくく、光ディスクの長寿命化を図ることができる。
【0107】なお、上記第2の実施の形態では、被処理物2が、透明基板の上に保護膜が形成されてなる光ディスク基板である場合について説明したが、透明基板の上に光透過性を有する記録層が設けられた光ディスクや、記録層の上に更に保護膜が設けられた光ディスクを被処理物とすることもできる。光ディスクを被処理物とした場合には、その表面に塵埃などの異物が付着した場合においても損傷を受けにくく、光ディスクの長寿命化を図ることができることに加えて、光信号の読み書きを行う際のエラーの発生を回避することができ、光ディスクの信頼性を向上させることができる。また、ガラスなどの酸化ケイ素を主成分とする被処理物に対して表面処理を施す場合にも、同様にして適用することができる。
【0108】[第3の実施の形態]本発明の第3の実施の形態は、表面処理物としての対物レンズおよびその表面処理方法に関するものである。なお、以下の説明では、第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、ここではその説明を省略する。
【0109】図15は、本実施の形態に係る表面処理物としての対物レンズを用いた光学ピックアップの概略構成を表すものである。この光学ピックアップは、例えば、図示しないレーザダイオードから出射し、ミラー53において反射した光信号を、光ディスク40の記録・再生面に導くためのものであり、光透過性を有する絶縁物からなる対物レンズ50を備えている。対物レンズ50は、例えば、アクリル樹脂よりなる透明基板51と、この透明基板51の上に形成された表面保護層52とを有している。
【0110】表面保護層52は、例えば、先の図1に示したような表面処理装置1を用いて透明基板51に対して表面処理を施すことにより形成されたものである。具体的には、例えば、イオン発生源10にカソーディックアークソースを用い、イオン発生源10から、炭素イオン,酸素イオンあるいは窒素イオンなどの所望のイオンを発生させ、発生したイオンを高真空状態の真空容器3の内部に導入したのち、ホルダー5に取り付けられた透明基板51にパルス状電圧を印加することにより、形成されたものである。
【0111】この表面保護層52は、第2の実施の形態の保護膜と同様に、イオンが注入されていないもの(すなわち、透明基板51にイオンが注入されていないもの)とは化学的構造が異なっている。そのため、イオンが注入されていないものよりも降伏応力(降伏点)が大きく、高い硬度を有すると共に、耐摩耗性に優れている。一方、この表面保護層52は、イオンが注入されていないものと同等の光学特性を有している。
【0112】このように本実施の形態に係る対物レンズおよびその表面処理方法によれば、透明基板51の表面にイオンを注入することにより表面保護層52が形成されるので、イオンが注入されていないものよりも対物レンズ表面の硬度および耐摩耗性を向上させることができる。したがって、対物レンズ50と光ディスク40とが衝突することによる対物レンズ表面の損傷を防止することができ、耐久性に優れた光学ピックアップを得ることができる。
【0113】
【実施例】更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。なお、以下の各実施例では、図1に示した表面処理装置1を用いて表面処理を行った。
【0114】[実施例1]本実施例において、被処理物2は、アモルファスポリオレフィンを円盤状に成形したプラスチック基板とした。また、被処理物2に注入するイオン種はカーボンとし、イオン発生源10には、コモンウェルス・サイエンティフィック社(Commonwealth Scientific Corp. )製のフィルタードカソーディックアークソースを用いた。
【0115】そして、まず、表面処理の対象となるプラスチック基板を、真空容器3の内部に配されたホルダー5に取り付けるとともに、イオン注入を行ったときにプラスチック基板の温度が上昇しすぎないように、ホルダー5に組み込まれた冷却水導入用パイプに冷却水を流した。そして、表面処理の対象となるプラスチック基板をホルダー5に取り付けた後、真空容器3の内部をクライオポンプ4により排気して高真空状態とした。このときの真空容器3の内部の真空度、すなわちイオンを真空容器3の内部に導入する前の真空度(背景真空度)は、約1.33×10-5Pa(10-7Torr)とした。
【0116】次に、イオン発生装置6によりカーボンイオンを発生させ、当該カーボンイオンを真空容器3の内部に導入した。ここで、カーボンイオン流によるイオン電流は約10A、カーボンイオンのエネルギーは約25eVとなるようにした。そして、このようにカーボンイオンを真空容器3の内部に導入して、カーボンイオンを含むプラズマを発生させた。このときの真空容器3の内部の真空度、すなわちイオン注入を行う際の真空度は、約1.33×10-3Pa(10-5Torr)であった。
【0117】そして、カーボンイオンを含むプラズマ中にプラスチック基板が配された状態において、パルス電源8によりパルス状電圧を発生させ、当該パルス状電圧をバイアス電圧として、プラスチック基板に印加した。これにより、プラスチック基板にカーボンイオンが引き込まれ、プラスチック基板へのイオン注入が行われた。
【0118】なお、このようにイオン注入を行っているときには、被処理物2であるプラスチック基板の表面に、プラズマシースが青白く発生しているのが観測された。
【0119】そして、本実施例では、プラスチック基板に印加するパルス状電圧の波形を変えて、それらの比較を行った。具体的には、まず、第1の例として、図16に示したように、正負のパルスが交互に現れるパルス状電圧をプラスチック基板に印加した。ここで、パルス状電圧の正負のパルスピーク値は±10kVとし、正負のそれぞれのパルスの幅は5μsecとし、パルス間隔は0.1msec(10kHz)とした。また、第2の例として、図17に示したように、負のパルスだけからなるパルス状電圧をプラスチック基板に印加した。ここで、パルス状電圧の負のパルスピーク値は−10kVとし、パルス幅は5μsecとし、パルス間隔は0.1msec(10kHz)とした。
【0120】そして、これら2つの条件にてイオン注入を行ったプラスチック基板について、それらの表面硬度を測定した。ここで、表面硬度の測定は、NEC製の薄膜硬度計「MHA−400」による押し込み硬度試験により行った。
【0121】図16に示したパルス状電圧を印加してイオン注入を行った場合の測定結果を図18に示すとともに、図17に示したパルス状電圧を印加してイオン注入を行った場合の測定結果を図19に示す。なお、図18および図19において、横軸は押し込み硬度試験用圧子の押し込み深さ(単位;nm)を示しており、縦軸は押し込み硬度試験用圧子に加えた押し込み荷重の大きさ(単位;μN)を示している。
【0122】図18および図19から分かるように、負のパルスだけからなるパルス状電圧をプラスチック基板に印加してイオン注入を行った場合(図19の場合)に比べて、正負のパルスが交互に現れるパルス状電圧をプラスチック基板に印加してイオン注入を行った場合(図18の場合)の方が、荷重を与えたときの変位量が少なく、表面硬度が向上している。
【0123】すなわち、正負のパルスが交互に現れるパルス状電圧をプラスチック基板に印加してイオン注入を行った方が、プラスチック基板の表面改質効果が大きく得られている。これは、負のパルスだけからなるパルス状電圧をプラスチック基板に印加してイオン注入を行った場合には、チャージアップのためにイオン注入があまり行われないのに対して、正負のパルスが交互に現れるパルス状電圧をプラスチック基板に印加してイオン注入を行った場合には、チャージアップ状態となることなく、イオン注入が安定に行われるからである。
【0124】[実施例2]本実施例では、アモルファスポリオレフィンを円盤状に成形したプラスチック基板上に油性インクを塗布し、これを被処理物2とした。ここで、プラスチック基板上に塗布する油性インクの膜厚は約10μmとした。また、実施例1と同様に、被処理物2に注入するイオン種はカーボンとし、イオン発生源10には、コモンウェルス・サイエンティフィック社製のフィルタードカソーディックアークソースを用いた。
【0125】そして、まず、油性インクが塗布されたプラスチック基板を、真空容器3の内部に配されたホルダー5に取り付けるとともに、イオン注入を行ったときにプラスチック基板の温度が上昇しすぎないように、ホルダー5に組み込まれた冷却水導入用パイプに冷却水を流した。そして、油性インクが塗布されたプラスチック基板をホルダー5に取り付けた後、真空容器3の内部をクライオポンプ4により排気して高真空状態とした。このときの真空容器3の内部の真空度、すなわちイオンを真空容器3の内部に導入する前の真空度(背景真空度)は、約2.79×10-5Pa(2.1×10-7Torr)とした。
【0126】次に、イオン発生装置6によりカーボンイオンを発生させ、当該カーボンイオンを真空容器3の内部に導入した。ここで、カーボンイオン流によるイオン電流は約10A、カーボンイオンのエネルギーは約25eVとなるようにした。そして、このようにカーボンイオンを真空容器3の内部に導入して、カーボンイオンを含むプラズマを発生させた。このときの真空容器3の内部の真空度、すなわちイオン注入を行う際の真空度は、約6.65×10-3Pa(5×10-5Torr)であった。
【0127】そして、カーボンイオンを含むプラズマ中にプラスチック基板が配された状態において、パルス電源8により正負のパルスが交互に現れるパルス状電圧を発生させ、当該パルス状電圧をバイアス電圧として、プラスチック基板に印加した。これにより、プラスチック基板にカーボンイオンが引き込まれ、プラスチック基板へのイオン注入が行われた。ここで、プラスチック基板に印加するパルス状電圧は、第1の実施例と同様に、正負のパルスピーク値を±10kVとし、パルス幅を5μsecとし、パルス間隔を0.1msec(10kHz)とした。
【0128】なお、このようにイオン注入を行っているときには、油性インクが塗布されたプラスチック基板の表面に、プラズマシースが青白く発生しているのが観測された。
【0129】そして、以上のように油性インクを塗布したプラスチック基板に対してイオン注入による表面処理を行う前と行った後について、減衰全反射法(ATR:attenuated total reflectance)により、赤外分光特性を測定した。なお、赤外分光特性の測定には、島津製作所製のATR測定用顕微鏡「FTIRAIM8000」を用いた。赤外分光特性の測定結果を図20に示す。図20に示したように、プラズマイオン注入法による表面処理を行うことにより、油性インクが塗布されたプラスチック基板の表面特性が変化しており、イオン注入により表面改質がなされていることが分かる。
【0130】また、油性インクを塗布したプラスチック基板に対してイオン注入による表面処理を行う前と行った後について、ヘイドン製の表面評価装置によるスクラッチテストを行った。その結果、表面処理を行う前は荷重0.01gで傷が付いたが、表面処理を行った後は荷重1gまで傷が付かなかった。
【0131】また、以上のようにイオン注入による表面処理を施した後、油性インクが塗布されたプラスチック基板を、アセトンやエタノール等の溶媒に入れて、超音波洗浄機に1時間ほどかけたところ、油性インクが溶けなくなっていることが確認された。これは、イオン注入による表面処理により、プラスチック基板上に塗布された油性インクが、アセトンやエタノール等の溶媒に対して不溶となるように改質されたことを示している。
【0132】なお、ポリカーボネート,ポリメチルメタクリレート,ポリエチレンテレフタラート,アクリル樹脂などからなるプラスチック基板、あるいはシリコン基板やガラス基板の上に油性インクを塗布してなる被処理物2に表面処理を施した場合についても、同様の結果が得られる。また、油性インクを塗布する代わりに、紫外線硬化樹脂あるいは磁性粉末とバインダとの混合物を塗布した場合についても、同様の結果が得られる。更に、プラズマCVD装置により酸化シリコン(SiO2 )膜や窒化シリコン(Sixy )膜を形成したのち、これらの薄膜にイオン注入を行った合についても、同様の結果が得られる。
【0133】[実施例3]本実施例においては、図4に示した回転ドラム30をプラスチックにより作製し、当該回転ドラム30を被処理物2とした。
【0134】本実施例では、まず、回転ドラム30をプラスチックにより作製した。そして、イオン発生源10にRFプラズマソースを用い、50sccmの流量でメタンガスを導入し、当該メタンガスから炭素、水素および炭化水素のイオンを発生させたことを除き、他は実施例2と同様にして、回転ドラム30の表面にイオンを注入した。なお、イオン注入を行っているときには、回転ドラム30の表面に、プラズマシースが青白く発生しているのが観測された。
【0135】次に、プラスチック製の回転ドラム30に対してイオン注入を行うことにより、回転ドラム30の表面の硬度が向上したことを確認するために、上記回転ドラム30と同一の材料からなるプラスチック製試験片を作製し、上記の条件でイオン注入を行う前と行った後の表面硬度を、NEC製の薄膜硬度計「MHA−400」により測定した。その結果、イオン注入を行う前の表面硬度が0.5GPaであったのに対して、イオン注入を行った後の表面硬度は20GPaであった。これは、回転ドラムを実用化するのに十分な硬度である。すなわち、本発明を適用することにより、摩耗の問題を解決して、プラスチック製の回転ドラムを実用化することが可能となることが確認された。
【0136】更に、回転ドラム30に、メタンガスに加えてチタンを含む有機金属ガスをRFプラズマソースに導入したことを除き、他は上記の条件で回転ドラムを作製し、この回転ドラムを走行試験装置に組み込み、1000時間にわたって走行試験を行った。なお、走行試験装置は、ヘリカルスキャン方式により磁気テープの記録・再生を行うときと同様に、回転ドラムを回転させるとともに磁気テープを走行させて、走行試験を行う装置であり、磁気テープのワインドおよびリワインドを自動的に繰り返し、磁気テープを連続して走行させるようになっている。
【0137】走行試験を行った結果、回転ドラムの摩耗の問題や、磁気テープ貼り付きの問題は起こらず、1000時間以上の寿命が確保可能であることが確認できた。この走行試験結果から、本発明を適用して表面処理を施すようにすることにより、プラスチック製の回転ドラムにおいて、摩耗の問題や磁気テープ貼り付きの問題を解消することができ、プラスチック製の回転ドラムを実用化することが可能となること分かった。
【0138】[実施例4]本実施例においては、光ディスク,光磁気ディスクまたは磁気ディスク等のようなディスク状記録媒体に使用される、プラスチック製のディスク基板を、表面処理の対象となる被処理物2とした。すなわち、ここでは、表面処理の対象となる絶縁物を、記録媒体の記録層を支持する基材とした。また、被処理物2に注入するイオン種はカーボンとし、イオン発生源10には、コモンウェルス・サイエンティフィック社製のフィルタードカソーディックアークソースを用いた。
【0139】そして、まず、イオンを真空容器3の内部に導入する前の真空度を、約1.33×10-5Pa(10-7Torr)としたことを除き、他は実施例2と同様にして、被処理物2の表面にイオンを注入した。なお、イオン注入を行う際の真空度は、約1.33×10-3Pa(10-5Torr)であった。また、イオン注入を行っているときには、回転ドラム30の表面に、プラズマシースが青白く発生しているのが観測された。
【0140】そして、ディスク基板に対してイオン注入による表面処理を行う前および行った後のそれぞれについて、当該ディスク基板の透湿度および酸素透過度を測定した。
【0141】その結果、イオン注入による表面処理を行う前は、透湿度が10g・m-2・24h-1であり、酸素透過度が1/1.33×10-14 cm2 /s・Pa(1×10-11 cm3 ・cm/cm2 ・s・cmHg)であった。これに対して、イオン注入による表面処理を行った後は、透湿度が0.007g・m-2・24h-1となり、酸素透過度が3/1.33×10-17 cm2 /s・Pa(3×10-14 cm3 ・cm/cm2 ・s・cmHg)となった。このように、イオン注入による表面処理を行うことにより、ディスク基板の透湿度および酸素透過度が非常に小さくなった。
【0142】[実施例5]本実施例においては、ディスク基板上に磁性層が形成されてなる磁気ディスクを、表面処理の対象となる被処理物2とし、磁性層上に形成された保護膜に対してイオン注入を行った。すなわち、ここでは、表面処理の対象となる絶縁物を、基材上に記録層が形成されてなる記録媒体とした。また、被処理物2に注入するイオン種はカーボンとし、イオン発生源10には、コモンウェルス・サイエンティフィック社製のフィルタードカソーディックアークソースを用いた。
【0143】本実施例では、まず、磁性粉末をバインダに混ぜて、プラスチック製のディスク基板上に塗布し、ディスク基板上に磁性層が形成されてなる磁気ディスクを作製した。
【0144】そして、この磁気ディスクを、真空容器3の内部に配されたホルダー5に取り付けるとともに、イオン注入を行ったときに磁気ディスクの温度が上昇しすぎないように、ホルダー5に組み込まれた冷却水導入用パイプに冷却水を流した。そして、表面処理の対象となる磁気ディスクをホルダー5に取り付けた後、真空容器3の内部をクライオポンプ4により排気して高真空状態とした。このときの真空容器3の内部の真空度、すなわちイオンを真空容器3の内部に導入する前の真空度(背景真空度)は、約1.33×10-5Pa(10-7Torr)とした。
【0145】次に、イオン発生装置6によりカーボンイオンを発生させ、当該カーボンイオンを真空容器3の内部に導入した。ここで、カーボンイオン流によるイオン電流は約10A、カーボンイオンのエネルギーは約25eVとなるようにした。そして、このようにカーボンイオンを真空容器3の内部に導入して、カーボンイオンを含むプラズマを発生させた。このときの真空容器3の内部の真空度、すなわちイオン注入を行う際の真空度は、約1.33×10-3Pa(10-5Torr)であった。
【0146】そして、カーボンイオンを含むプラズマ中に磁気ディスクが配された状態において、パルス電源8により正のパルス電圧と負のパルス電圧を含むパルス状電圧を発生させ、当該パルス状電圧をバイアス電圧として、磁気ディスクに印加した。これにより、磁気ディスクにカーボンイオンを引き込んで、磁気ディスクの磁性層へのイオン注入を行った。
【0147】なお、このようにイオン注入を行っているときには、表面処理の対象となる磁気ディスクの表面に、プラズマシースが青白く発生しているのが観測された。
【0148】以上のように磁気ディスクの磁性層にイオンを注入することで、磁性層の表面硬度を高めて、磁気ディスクの耐久性および信頼性を向上することができた。
【0149】[実施例6]本実施例では、光ディスク,光磁気ディスクまたは磁気ディスク等のようなディスク状記録媒体において記録層を保護する保護膜を、表面処理の対象となる被処理物2とした。すなわち、基材上に記録層が形成されてなると共に、当該記録層上に保護膜が形成されてなる記録媒体を表面処理の対象とし、記録層上に形成された保護膜に対してイオン注入を行った。また、被処理物2に注入するイオン種はカーボンとし、イオン発生源10には、コモンウェルス・サイエンティフィック社製のフィルタードカソーディックアークソースを用いた。
【0150】本実施例では、まず、プラスチック製のディスク基板上に記録層を形成し、次に、当該記録層上にスピンコート装置を用いて紫外線硬化樹脂からなる保護膜を形成して、ディスク基板上に記録層および保護膜が積層形成されてなるディスク状記録媒体を作製した。
【0151】そして、実施例5と同様にして、ディスク状記録媒体の表面にイオンを注入した。なお、イオン注入を行っているときには、ディスク状記録媒体の表面に、プラズマシースが青白く発生しているのが観測された。
【0152】[実施例7]本実施例では、液晶パネルにおいて液晶を封入するためのパネル基板をプラスチックにより作製し、当該パネル基板を、表面処理の対象となる被処理物2とした。また、被処理物2に注入するイオン種はカーボンとし、イオン発生源10には、コモンウェルス・サイエンティフィック社製のフィルタードカソーディックアークソースを用いた。
【0153】そして、まず、実施例5と同様にして、パネル基板の表面にイオンを注入した。なお、イオン注入を行っているときには、パネル基板の表面に、プラズマシースが青白く発生しているのが観測された。
【0154】そして、以上のようにパネル基板に対してイオン注入による表面処理を行う前と行った後について、当該パネル基板の透湿度および酸素透過度を測定した。その結果、イオン注入による表面処理を行う前は、透湿度が10g・m-2・24h-1であり、酸素透過度が1/1.33×10-14 cm2 /s・Pa(1×10-11 cm3 ・cm/cm2 ・s・cmHg)であったのに対して、イオン注入による表面処理を行った後は、透湿度が0.007g・m-2・24h-1となり、酸素透過度が3/1.33×10-17 cm2 /s・Pa(3×10-14 cm3 ・cm/cm2 ・s・cmHg)となった。このように、イオン注入による表面処理を行うことにより、パネル基板の透湿度および酸素透過度が非常に小さくなり、プラスチック製のパネル基板の透湿度および酸素透過度を、ガラスによって作製したパネル基板と同程度にすることができた。
【0155】[実施例8]本実施例では、プラスチック基板に印刷を施し、それを表面処理の対象となる被処理物2とした。すなわち、絶縁体に印刷が施されてなる印刷物を表面処理の対象とし、その印刷面に対してイオン注入を行った。また、被処理物2に注入するイオン種はカーボンとし、イオン発生源10には、コモンウェルス・サイエンティフィック社製のフィルタードカソーディックアークソースを用いた。
【0156】本実施例では、まず、実施例5と同様にして、印刷を施したプラスチック基板の表面にイオンを注入した。なお、このようにイオン注入を行っているときには、表面処理の対象となるプラスチック基板の表面に、プラズマシースが青白く発生しているのが観測された。
【0157】そして、印刷が施されたプラスチック基板に対してイオン注入による表面処理を行う前および行った後のそれぞれについて、新東科学製のヘイドンType22型の表面評価装置によるスクラッチテストを行った。その結果、表面処理を行う前は荷重0.01g程度で印刷面に傷が付いたが、表面処理を行った後は荷重1gまで傷が付かなかった。
【0158】また、以上のようにイオン注入による表面処理を施した後、プラスチック基板を、アセトンやエタノール等の溶媒に入れて、超音波洗浄機に1時間ほどかけたところ、印刷が落ちないことが確認された。これは、イオン注入による表面処理により、プラスチック基板に印刷されたインクが、アセトンやエタノール等の溶媒に対して不溶となるように改質されたことを示している。
【0159】[実施例9]本実施例では、まず、ポリカーボネートよりなる透明基板を用意し、この透明基板に対して30分間アルコールを用いた超音波洗浄を行った。次に、洗浄した透明基板上に、スピンコート法によりシリコーン(東芝製トスガード510)を塗布した。続いて、湿度が40%以下に制御された乾燥庫中においてシリコーンを乾燥させた(乾燥時間30分)のち、オーブンを用いて80℃で3時間加熱することにより、シリコーンを硬化させ、透明基板上に厚さ約2μmの保護膜を形成した。
【0160】次に、表面処理装置1を用い、次のようにして被処理物2の表面処理を行った。すなわち、まず、冷却水導入用パイプを介して供給された冷却水により水冷されたホルダーに透明基板を取り付け、真空容器の内部をクライオポンプにより排気して高真空状態にした。続いて、メタンガスをイオンソースとして、イオン発生源から炭素イオンを発生させ、この炭素イオンを真空容器の内部に導入した。これにより、真空容器の内部に、炭素イオンを含むプラズマを発生させた。なお、このとき、真空容器内部の真空度は、5×10-3Pa程度であった。
【0161】真空容器の内部を炭素イオンを含むプラズマ雰囲気としたのち、パルス電源により、保護膜が形成された透明基板に、正負のパルスが交互に現れるパルス状電圧を3分間印加した。このとき、パルス状電圧の正負のパルスピーク値は±10kVとし、正負のそれぞれのパルスの幅は5μsecとし、パルス間隔は0.1msec(10kHz)とした。これにより、保護膜に炭素イオンが引き込まれ、注入された。
【0162】更に、透明基板に、N2 またはNH3 をイオンソースとして、イオン発生源から窒素イオンを発生させたことを除き、他は上記の条件で透明基板の表面処理を行った。
【0163】なお、本実施例に対する比較例1として、保護膜を形成せずに、透明基板にイオンを注入したことを除き、他は本実施例と同様にして表面処理を行った。また、本実施例に対する比較例2として、クォーツガラス上にDLC(Diamond LikeCarbon )よりなる保護膜を形成し、後述する光透過率の測定を行った。
【0164】そののち、得られた表面処理物の特性を調べるために、本実施例の表面処理前のものおよび表面処理後のもの(表面処理物)、並びに比較例1の表面処理物について、以下に詳しく述べるように、光透過率の測定,赤外吸収スペクトルの測定およびスクラッチテストを行った。
【0165】光透過率は、分光光度計(PERKIN ELMER社製Lambda19)を用いて測定した。得られた結果を図21に示す。なお、図21では、縦軸は光透過率(単位;%)を示し、横軸は光の波長(単位;nm)を示している。また、データAは本実施例の表面処理前のものの光透過率を示し、データBは本実施例の炭素イオンによる表面処理後のものの光透過率を示し、データCは比較例1の表面処理物の光透過率を示し、データDは比較例2の光透過率を示している。図21からも分かるように、本実施例の表面処理前のものと表面処理後のものとでは、光透過率にほとんど変化がなく、共に可視光領域(波長380〜900nm)において80%以上の光透過率を有していた。したがって、本実施例の表面処理物は、青紫色レーザを備えた光ディスク装置に用いる光ディスク基板に適用できることが確認された。
【0166】赤外吸収スペクトルの測定は、実施例2と同様にして、減衰全反射法により行った。ここでは、測定深度を0.5〜2.5μm付近とした。得られた結果を図22に示す。なお、図22では、縦軸は赤外吸収スペクトル(任意単位)を示し、横軸は波数(単位;cm-1)を示している。また、データAは本実施例の表面処理前のもののスペクトルを示し、データBは本実施例の炭素イオンによる表面処理後のもののスペクトルを示し、データEは本実施例の窒素イオンによる表面処理後のもののスペクトルを示している。データAと、データBおよびデータEとでは、図22に矢印で示した波数の領域において、赤外吸収強度に変化が認められた。例えば、イオンを注入する前(データA)には、1100cm-1付近に最大のピークに付随するショルダー(図22符号S)が見られるが、イオンを注入することにより、このショルダーが消失している。これは、イオンを注入した結果、保護膜の表面付近において、化学的構造が変化していることを示している。
【0167】スクラッチテストは、スクラッチテスト装置(新東科学社製トライボギア(HEIDON-22 ))を用いて行った。具体的には、荷重を0〜0.49N(0〜50g重)に変化させながら、探針により試料の表面を10mm/分の速さで引っかいた際(引っかき距離10mm)の摩擦力を測定した(連続荷重モード)。なお、探針には、アルミナ(Al23 )よりなると共に、先端半径が0.05mmであり、先端角度が60°である通常の探針を用いた。得られた結果を図23に示す。なお、図23では、縦軸は摩擦力(単位;N)を示し、横軸は荷重(単位;Nを示している。また、データAは本実施例の表面処理前のものの摩擦力を示し、データBは本実施例の炭素イオンによる表面処理後のものの摩擦力を示している。表面処理前のものについては、降伏点が0.23N(23g重)であり、これを越える力が負荷されると、保護膜が破壊されることが分かった。一方、表面処理物の降伏点は、0.33N(34g重)であった。すなわち、イオンを注入することにより、保護膜の硬度,耐摩耗性および保護膜と透明基板との間の密着力が向上することが確認された。
【0168】以上の結果から、本実施例の表面処理方法により保護膜に対するイオン注入を行えば、得られる表面処理物は、表面処理を行う前のものと比べて、高い硬度を有すると共に、耐摩耗性に優れていることが分かった。また、この表面処理物の光透過率は、表面処理を行う前のもののそれとほとんど変化がないことも分かった。
【0169】[実施例10]本実施例は、まず、アクリル樹脂よりなる透明基板51を用意し、表面処理装置1を用い、実施例9と同様にして透明基板51の表面に炭素イオンを注入して、表面保護層52を形成した。これにより、対物レンズ50が作製された。
【0170】そののち、得られた対物レンズ50について、薄膜硬度計を用いて、表面保護層52側から先端半径0.5μmのバーコビッチ圧子により押し込み距離100nmまで押し込み、さらに荷重290μNまで測定を行ったが、表面保護層52には、なんら圧痕が見られず、歪み変位曲線よりも変形がほとんどないことが示された。このことは、応力による保護膜52の塑性変形がなく、降伏点が大きなことを示しており、このような表面処理が有効であることを示唆している。
【0171】[第4の実施の形態]本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態に用いた表面処理装置の変形例としてインバータ回路を真空管を用いて構成したものである。インバータ回路として真空管を用いると 第1の実施の形態のようにパルストランスを介さずに インバータ回路から出力されるパルス状電圧を被処理物に直接印加することができる。また、このように真空管方式を採用した場合には、パルストランス方式においては共振のため測定できなかった電流波形を測定することが可能になる。なお、以下の説明では、第1の実施の形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、ここではその説明を省略する。
【0172】本実施の形態では、真空チャンバ3内に5cmグリッドのカウフマン型イオン源10よりイオンのみが、基板ホルダー5および例えば直径150mmの基板2に向かって例えば200V,1mAで照射される。真空チャンバ3内は真空ポンプ(図示せず)により例えば10-4Paまでに真空引きされるが、イオン源10の動作時にはメタンガスがフィラメントにより分解されて炭素,水素イオンとなるため、真空度は10-2Paとなる。基板ホルダー5は碍子により真空チャンバ3より絶縁されており、かつ冷媒液体窒素により冷却されている。この基板ホルダー5にはパルス電源回路60より高電圧パルスが印加されるようになっている。
【0173】パルス電源回路60は、コイル63を間にして正負のパルス電圧を出力するための高電圧真空管61,62を備えている。これら高電圧真空管61,62には制御器64,65を介して充電器66,67が接続されている。一方の充電器66は正の直流電圧、他方の充電器67は負の直流電圧をそれぞれ出力するものである。制御器64,65にはタイミング信号発生器68からタイミング信号が供給され、これにより充電器66,67から出力される正負の直流電圧のオン・オフ制御を行い、正負のパルス状電圧に変換すると共に、正のパルス状電圧と負のパルス状電圧とが交互に出力されるように制御器64,65の切換え制御を行うようになっている。
【0174】すなわち、このパルス電源回路60では、充電器66,67から出力される正負の直流電圧が、タイミング信号発生器68から供給されるタイミング信号に基づいてオン・オフ制御されパルス状電圧に変換された後、高電圧真空管61,62により増幅される。これにより正負のパルス状電圧が交互に出力され、支持部材9および基板ホルダー5を介して被処理物2に印加される。その他の作用は第1の実施の形態と同様である。
【0175】図25〜図30はそれぞれパルス電源回路60から出力される電圧波形の具体例、図31〜図36は図25〜図30に示した電圧波形を印加したときの電流波形を表すものである。なお、電圧はテクトロニクス社製の高電圧プローブ、電流はピアソン社製のCTプローブにより測定することができる。図25において、Td1は負のパルスの立上がり時間が2μsecであることを示している。また、Tnは立上がり、立下がりを含めてパルス幅が10μsecであること、Tpは正のパルス幅が5μsec、Tcは周期が1msecであることをそれぞれ示している。このときの電流波形は図31に示したように、0.2Aほど定常的にパルス電流が測定される。
【0176】図26では、負のパルスの立下がり時間Tbが100μsecであることを示している。このときの電流波形は図32に示したとおりである。図27では、正のパルスの立下がり時間Td2が負のパルスと同様に2μsecであることを示している。このときの電流波形は図33に示したとおりである。図28、図29および図30は、それぞれ図25,図26および図27に対して正負の極性が反転した場合の波形である。なお、上述のパルス幅Tp,Tnの値はそれぞれ1μsec〜1000μsecの範囲内であることが好ましい。また、図中の正負の電圧の具体的な値は、例えば、+Vは10KV、−Vは−20KVである。なお、+Vは0KVから200KV、−Vは、0から−200KVの範囲内とすることが好ましい。
【0177】本実施の形態では、パルス電源回路60としてトランスの代わりに真空管を用いるようにしたので、高い出力電圧を得ることができることに加え、正負のパルス幅の制御が可能になる。従って、被処理物の種類に応じて適正なパルス幅の電圧を印加することができ、イオン注入による表面処理をより適切に行うことが可能になる。その他の作用効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0178】以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記第3の実施の形態では、透明基板51の表面にイオンを注入して表面保護層52を形成するようにしたが、第2の実施の形態と同様に、透明基板上に予め形成された保護膜に対してイオンを注入するようにしてもよい。
【0179】また、上記第2の実施の形態では被処理物2として光ディスク基板を例に挙げると共に、上記第3の実施の形態では被処理物2として光学ピックアップを構成する対物レンズ50を例に挙げて説明したが、本発明は、光磁気ディスクなどの他の光透過性を有する被処理物についても広く適用することができる。
【0180】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、請求項1または請求項2記載の表面処理装置あるいは請求項3ないし請求項16のいずれか1項に記載の表面処理方法によれば、プラズマ中において正のパルス電圧と負のパルス電圧とを含むパルス状電圧を印加することにより、絶縁物あるいは酸化ケイ素を主成分とする被処理物にイオンを注入するようにしたので、イオンを注入する際に、絶縁物あるいは酸化ケイ素を主成分とする被処理物の内部に電荷がたまり、いわゆるチャージアップの状態になるおそれがなくなり、表面にイオンが均一に注入されるという効果を奏する。特に、絶縁物であるプラスチックに対しても、イオン注入による表面処理を施すことが可能となる。すなわち、本発明の表面処理装置あるいは表面処理方法によれば、プラスチックに対してイオン注入による表面改質を施して、硬度、弾塑性特性、電気伝導度、潤滑性、耐久性、耐湿性、耐食性、濡れ性、気体透過率などの各種特性を改質することが可能となる。したがって、従来は金属やガラスなどにより作られていた多くの部品を、安価なプラスチックに置き換えることが可能となり、産業上極めて有効である。
【0181】また、請求項14または請求項15記載の表面処理方法あるいは請求項17ないし請求項23のいずれか1項に記載の表面処理物によれば、光透過性を有する絶縁物の表面処理がなされるように構成したので、光学的特性がイオンが注入されていないもののそれとほぼ等しく、かつ表面の機械的特性がイオンが注入されていないものよりも優れた表面処理物を得ることができるという効果を奏する。
【0182】特に、請求項20記載の表面処理物によれば、光記録媒体または光記録媒体に用いられる基材の表面が処理されているので、その厚さが薄い場合や、その表面に塵埃などの異物が付着した場合にも、損傷を受けにくく、光記録媒体の長寿命化を図ることができる。また、光信号の読み書きを行う際のエラーの発生を回避することができ、光記録媒体の信頼性を向上させることができる。




 

 


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