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発明の名称 絶縁物の表面処理方法、プリンタヘッド及び記録媒体用基材
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2001−11622(P2001−11622A)
公開日 平成13年1月16日(2001.1.16)
出願番号 特願平11−177193
出願日 平成11年6月23日(1999.6.23)
代理人 【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃 (外2名)
【テーマコード(参考)】
2C057
4K029
5D112
5D121
【Fターム(参考)】
2C057 AF65 AF93 AG07 AG08 AG29 AP02 AP12 AP33 AP34 AP60 AQ02 
4K029 AA11 BA01 BD11 CA10 DE04
5D112 AA02 AA11 AA24 BA01 BA03 BA05 BA09 GA02 GA18 GA22
5D121 AA02 GG03 GG05
発明者 渡辺 誠一 / 篠崎 研二 / 河野 稔 / 三橋 裕之 / 外崎 峰広 / 小林 正人
要約 目的


構成
特許請求の範囲
【請求項1】 絶縁物にイオンを注入することにより表面を処理する表面処理方法であって、上記絶縁物の表面に導電性を有する金属薄膜を成膜した後に、上記絶縁物に対して、注入するイオンを含むプラズマ中で、正のパルス電圧及び負のパルス電圧を含むパルス状電圧を印加することによって、当該絶縁物の表面にイオンを注入することを特徴とする絶縁物の表面処理方法。
【請求項2】 上記絶縁物に対して上記パルス状電圧を印加する際には、パルス電圧の間に電圧を印加しない期間を設けることを特徴とする請求項1記載の絶縁物の表面処理方法。
【請求項3】 上記絶縁物に対して上記パルス状電圧を印加する際には、当該パルス状電圧にDC電圧成分を重畳することを特徴とする請求項1記載の絶縁物の表面処理方法。
【請求項4】 上記パルス状電圧の波形を、パルスピーク値、パルス立ち上がり時間、パルス間隔及びパルス幅のうちの少なくともいずれかが異なる複数のパルスを組み合わせた波形とすることを特徴とする請求項1記載の絶縁物の表面処理方法。
【請求項5】 上記絶縁物に対して印加する上記パルス状電圧の波形を制御することによって、当該絶縁物に注入するイオンの注入量、注入深さ及び/又は注入プロファイルを制御することを特徴とする請求項1記載の絶縁物の表面処理方法。
【請求項6】 表面処理の対象となる絶縁物が、被印刷物に向けてインク液滴を噴出することで印刷を行うプリンタに備えられるプリンタヘッドであることを特徴とする請求項1記載の絶縁物の表面処理方法。
【請求項7】 表面処理の対象となる絶縁物が、記録媒体の信号記録層を支持する基材であることを特徴とする請求項1記載の絶縁物の表面処理方法。
【請求項8】 被印刷物に向けてインク液滴を噴出することで印刷を行うプリンタに備えられるプリンタヘッドであって、上記インク液滴を噴出する液滴噴出部の表面には、イオンが注入されることによって改質されてなる表面改質層が形成されていることを特徴とするプリンタヘッド。
【請求項9】 上記液滴噴出部には、上記表面改質層の上に、導電性を有する金属薄膜が形成されていることを特徴とする請求項8記載のプリンタヘッド。
【請求項10】 記録媒体の信号記録層を支持する記録媒体用基材であって、当該記録媒体用基材の表面には、イオンが注入されることによって改質されてなる表面改質層が形成されていることを特徴とする記録媒体用基材。
【請求項11】 上記表面改質層の上には、導電性を有する金属薄膜が形成されていることを特徴とする請求項10記載の記録媒体用基材。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、イオンを注入することによって表面を処理する絶縁物の表面処理方法に関する。また、本発明は、被印刷物に向けてインク液滴を噴出することで印刷を行うプリンタに備えられるプリンタヘッドに関する。さらに、本発明は、記録媒体の信号記録層を支持する記録媒体用基材に関する。
【0002】
【従来の技術】被処理物に対して表面処理を施すことにより、例えば、硬度、弾塑性特性、電気伝導度、潤滑性、耐久性、耐湿性、耐蝕性、濡れ性、気体透過率等の各種物理的・化学的特性を改質する手法としては、表面にイオンを注入する手法が知られている。
【0003】このように、被処理物の表面にイオンを注入する手法としては、この被処理物に対してイオンビームを直接照射する、いわゆるイオンビーム注入法がある。しかしながら、イオンビーム注入法は、被処理物が立体的な構造を有するような場合には、この被処理物の表面に対して均一にイオンを注入することが困難であるという問題があった。
【0004】そこで、被処理物が立体的な構造を有している場合であっても、表面に対して均一にイオンを注入することが可能な手法として、注入するイオンを含むプラズマを発生させ、このプラズマに含まれるイオンを被処理物に注入する手法(以下、プラズマ注入法と称する。)が提案されている。
【0005】被処理物に対してプラズマ注入法によってイオン注入を行う際には、注入するイオンを含むプラズマ中に被処理物を配し、この被処理物に対して、図9に示すような負のパルス電圧を印加する。そして、被処理物に負の電圧が印加されたときに、プラズマに含まれているイオンが被処理物に引き込まれて、この被処理物の表面にイオンが注入される。
【0006】プラズマ注入法では、注入するイオンを含むプラズマを被処理物の周囲に均一に発生させておけば、被処理物が立体的な構造を有していたとしても、被処理物の表面に均一にイオンを注入することができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述したようなプラズマ注入法は、従来、主として、被処理物が金属等の導電性を有する材料によって形成されている場合に限定されて用いられていた。なぜなら、被処理物が絶縁体である場合には、プラズマ注入法によるイオン注入を行うと、この被処理物に電荷がたまってしまい、いわゆるチャージアップした状態になってしまう。プラズマ注入法では、被処理物がチャージアップしてしまうと、プラズマに含まれるイオンが効果的に被処理物に引き込まれなくなってしまう。したがって、絶縁物に対してプラズマ注入法を適用する場合には、プロセス時間が長くなってしまい、生産性を向上させることが困難であるといった問題があった。
【0008】本発明は、以上のような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、表面処理の対象が絶縁物であっても、プラズマ注入法によってイオンを注入する際に、効果的に表面処理を施すことが可能な絶縁物の表面処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、イオンが注入されることによって改質されてなる表面改質層が表面に形成されたプリンタヘッド及び記録媒体用基材を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明に係る絶縁物の表面処理方法は、絶縁物にイオンを注入することにより表面を処理する表面処理方法である。先ず、上記絶縁物の表面に導電性を有する金属薄膜を成膜する。次に、上記絶縁物に対して、注入するイオンを含むプラズマ中で、正のパルス電圧及び負のパルス電圧を含むパルス状電圧を印加することによって、当該絶縁物の表面にイオンを注入する。
【0010】以上のような本発明に係る絶縁物の表面処理方法によれば、絶縁物に印加するバイアス電圧を正のパルス電圧及び負のパルス電圧を含むパルス状電圧としていることにより、イオンの注入を行う際に、この絶縁物に電荷がたまってしまうことがない。また、イオンの注入を行う前に、絶縁物の表面に導電性を有する金属薄膜を成膜しておくことで、パルス状電圧が印加されたときに、この絶縁物の表面に対して垂直な方向に電界が発生する。これにより、絶縁物の表面に対して垂直な方向にイオンが注入されることとなり、効果的にイオンを注入することができる。
【0011】また、本発明に係るプリンタヘッドは、被印刷物に向けてインク液滴を噴出することで印刷を行うプリンタに備えられるプリンタヘッドである。そして、上記インク液滴を噴出する液滴噴出部の表面には、イオンが注入されることによって改質されてなる表面改質層が形成されている。
【0012】以上のように構成された本発明に係るプリンタヘッドは、液滴噴出部に表面改質層が形成されていることによって、この液滴噴出部におけるインクに対する濡れ性を制御することができる。したがって、この液滴噴出部におけるインクの焼き付きや、異なる種類のインク同士が混じり合ってしまうことなどを防止することができる。
【0013】さらに、本発明に係る記録媒体用基材は、記録媒体の信号記録層を支持する基材である。そして、当該記録媒体用基材の表面には、イオンが注入されることによって改質されてなる表面改質層が形成されている。
【0014】以上のように構成された本発明に係る記録媒体用基材は、その表面に表面改質層が形成されていることによって、硬度や剛性を改善することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、まず、本発明に係る絶縁物の表面処理方法を行うために用いる表面処理装置の一構成例として、図1に示すような表面処理装置1について説明する。この表面処理装置1は、絶縁物からなる被処理物2に対してプラズマ注入法によってイオンを注入することにより、この被処理物2の表面を処理する装置である。
【0016】ここで、イオン注入による表面処理の対象となる被処理物2の材料としては、例えば、アモルファスポリオレフィン(APO)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等のプラスチック材料、並びに、カーボン材料、ガラス材料などが挙げられる。また、被処理物2に注入するイオン種としては、例えば、C,N,W,Ta,Cr,Mo,Co,Pt,Ni,Fe,Ti,Mn,Cu,Smなどが挙げられる。
【0017】この表面処理装置1は、真空容器3と、真空容器3の内部を排気するためのクライオポンプ4と、真空容器3の内部において被処理物2を支持するホルダー5と、被処理物2に注入するイオンを供給するイオン発生装置6と、イオン供給のオン/オフの切り換えを行うシャッタ7と、正のパルス電圧及び負のパルス電圧を含むパルス状電圧を被処理物2に印加するパルス電源8とを備える。
【0018】真空容器3は、内部が排気されて高真空状態とされる容器である。この表面処理装置1では、この真空容器3の内部に、被処理物2に注入するイオンを含むプラズマを発生させて、被処理物2に対するイオン注入を行う。
【0019】クライオポンプ4は、真空容器3の内部を排気して、高い真空状態を得るための真空ポンプである。被処理物2に対する表面処理を行う際には、先ず、クライオポンプ4によって真空容器3の内部を排気し、イオンを真空容器3の内部に導入する前の圧力、すなわち背景圧力を、例えば10-7Torr以下程度とする。また、イオンが真空容器3の内部に導入され、プラズマを発生させたときの圧力、すなわち表面処理中の圧力は、例えば10-4Torr以下程度とする。
【0020】ホルダー5は、被処理物2を支持するためのものであり、真空容器3に取り付けられた絶縁性の支持部材9によって、真空容器3の内部に支持されている。被処理物2に対して表面処理を行う際には、このホルダー5に被処理物2を固定する。
【0021】また、ホルダー5には、冷却水導入用パイプが組み込まれており、このパイプに冷却水を流すことにより、このホルダー5に固定された被処理物2を冷却できるように構成されている。冷却水導入用パイプは、支持部材9を介して、真空容器3の外部に導出されている。そして、冷却水導入用パイプには、図1中矢印Aで示すように、真空容器3の外部から冷却水を供給される。
【0022】本手法のように、プラズマを発生させてイオン注入を行う場合には、イオン注入に伴って、被処理物2の温度が上昇する。しかしながら、被処理物2が例えばプラスチック材料等のように高温での処理が好ましくない材料からなる場合には、イオン注入時に被処理物2の温度があまりに上昇することは問題である。
【0023】そこで、この表面処理装置1では、水冷機能を備えたホルダー5によって被処理物2を冷却することが可能とされている。これにより、表面処理装置1は、被処理物2の温度が上昇してしまうことを抑えて、安定して確実なイオン注入を行うことができる。
【0024】イオン発生装置6は、真空容器3の内部にイオンを含むプラズマを供給するプラズマ発生手段である。イオン発生装置6は、例えば、被処理物2に注入するイオンを発生させるイオン発生源10を備えるとともに、イオン発生源10から発生した粒子のうち、被処理物2に注入するイオンだけを真空容器3の内部に導くための質量分離器11を備える。
【0025】ここで、イオン発生源10としては、例えば、カウフマン型イオンソース、マグネトロンスパッタソース、カソーディックアークソースなどがを使用可能である。ここで、カウフマン型イオンソース及びマグネトロンスパッタソースでは、イオン源となる動作ガスが導入され、当該動作ガスからイオンを生成される。一方、カソーディックアークソースは、動作ガスを使用することなくイオンを発生させる。具体的には、カソーディックアークソースでは、イオン源となる材料からなるカソードを用いてアーク放電を発生させ、このアーク放電によりカソードが蒸発してイオン化した粒子を取り出す。このようなカソーディックアークソースでは、イオン発生に動作ガスを使用しないため、高真空状態を維持しつつイオンを発生させることができるという利点がある。
【0026】なお、イオン発生源10としてカソーディックアークソースを用いる場合には、カソードが融けることによる液滴の発生が問題になることがある。このような液滴発生の問題を解消するために、電磁フィルターを用いて液滴を除去するようにしたものもあり、そのようなカソーディックアークソースはフィルタードカソーディックアークソースと呼ばれている。この表面処理装置1では、このようなフィルタードカソーディックアークソースをイオン発生源10として用いとしてもよい。
【0027】イオン発生源10からは、所望とするイオンとともに、中性の粒子や質量の大きなマクロパーティクルも同時に発生する。しかし、所望とするイオン以外の粒子までもが被処理物2に到達してしまうことは好ましくない。そこで、このイオン発生装置6は、質量分離器11によって、イオン発生源10からの粒子のうち、所望するイオンだけを真空容器3の内部に導くようにしている。
【0028】この質量分離器11は、例えば約45゜に屈曲した経路を有し、当該経路に沿ってマグネットが配置されてなる。そして、マグネットからの磁場により、所望するイオンが、屈曲した経路に沿って真空容器3の内部に導かれるようになされている。一方、中性の粒子や質量の大きなマクロパーティクルは、磁場に拘束されにくいため、屈曲した経路を通過できずに遮られる。
【0029】このような質量分離器11を、イオン発生源10と真空容器3との間に配置しておくことで、中性の粒子や質量の大きなマクロパーティクルを遮り、所望とするイオンだけを真空容器3の内部に導くことが可能となる。これにより、中性の粒子や質量の大きなマクロパーティクルによる影響を除去して、表面処理の品質を向上することできる。
【0030】シャッタ7は、イオン発生装置6のイオン出射口近傍に配設され、被処理物2に対するイオン供給のオン/オフの切り換えを行う。すなわち、シャッタ7が開放されたときに、イオン発生装置11から被処理物2に向けてイオンが供給され、シャッタ7が閉蓋されたときに、イオン発生装置6からのイオンの供給が停止される。
【0031】パルス電源8は、真空容器3内のホルダー5と電気的に接続されてなり、ホルダー5を介して、被処理物2に対してパルス状電圧を印加する機能を有している。パルス電源8は、従来から用いられている各種回路構成によって構成することができるが、以下ではその一例を挙げて説明する。
【0032】このパルス電源8は、例えば、図1に示すように、正の直流電圧源となる第1の電源21と、負の直流電圧源となる第2の電源22と、第1の電源21からの直流電圧をパルス電圧に変換する第1のインバータ回路23と、第2の電源22からの直流電圧をパルス電圧に変換する第2のインバータ回路24と、第1及び第2のインバータ回路23,24からのパルス電圧を昇圧するパルストランス25と、第1及び第2のインバータ回路23,24を制御する制御回路26と、制御回路26の動作を制御するコンピュータ27とを備える。
【0033】このパルス電源8では、第1のインバータ回路23により、第1の電源21からの正の直流電圧をパルス電圧に変換するとともに、第2のインバータ回路24により、第2の電源22からの負の直流電圧をパルス電圧に変換する。
【0034】これらインバータ回路23,24からの出力は、制御回路26により制御される。すなわち、このパルス電源8は、正のパルス電圧を出力する第1のインバータ回路23と、負のパルス電圧を出力する第2のインバータ回路24とが並列に動作するとともに、それらのインバータ回路23,24から出力される正負のパルス電圧をそれぞれ独立に、パルスピーク値、パルス立ち上がり時間、パルス間隔及びパルス幅等を変化させることが可能となっている。
【0035】具体的に例えると、制御回路26は、第1のインバータ回路23から出力される正のパルス電圧と、第2のインバータ回路24から出力される負のパルス電圧とが交互に出力されるように、第1のインバータ回路23からの出力と、第2のインバータ回路24からの出力との切り換え及び出力調整を行う。そして、このようにして制御回路26によって制御され、第1及び第2のインバータ回路23,24から出力されたパルス状電圧は、パルストランス25の一次巻線に供給される。
【0036】パルストランス25に供給されたパルス状電圧は、パルストランス25により昇圧される。パルストランス25は、二次巻線の一方の端子が設置されているとともに、この二次巻線の他方の端子がホルダー5を支持する支持部材9の内部を通って、ホルダー5の固定面に接続されている。したがって、ホルダー5に被処理物2が固定されている場合には、パルストランス25により昇圧されたパルス状電圧が被処理物2に印加されることとなる。
【0037】また、パルス電源8は、被処理物2に対して印加するパルス状電圧のパルスピーク値、パルス立ち上がり時間、パルス間隔及びパルス幅、或いは正負パルスの順番等を、コンピュータ27への入力指示を行うことによって、自由に制御することができるように構成されている。すなわち、このパルス電源8を用いる際には、どのような波形のパルス状電圧を被処理物2に対して印加するかをコンピュータ27に入力する。コンピュータ27は、この入力指示に基づいて、所望とする波形のパルス状電圧が被処理物2に印加されるように、制御回路26に対する指示を出力する。そして、制御回路26は、コンピュータ27の指示に基づいて、第1の及び第2のインバータ回路23,24からの出力を制御する。
【0038】具体的に例えると、パルス電源8では、被処理物2に印加するパルス状電圧のパルスピーク値を、1kVから100kV程度にまで、正負それぞれ独立に制御可能とされる。また、パルス幅は、1μsから50μs程度の範囲で制御可能とされる。また、パルス間隔(パルス周期)は、1kHzから100kHz程度の範囲で制御可能とされる。また、正負のパルス状電圧を出力する順番も、制御回路26に接続されたコンピュータ27によって制御可能とされる。
【0039】このように、表面処理装置1では、制御回路26が正負のパルス状電圧の切り替え及び出力調整を行うことによって、被処理物2に対して印加するパルス状電圧の波形を自由に制御することができるように構成されている。
【0040】このパルス電源8において、インバータ回路23,24には、半導体素子を用いて構成された回路を用いることが好ましい。半導体素子を用いて構成されたインバータ回路は廉価であることから、パルス電源16に組み込むインバータ回路23,24を低コストで実現することが可能となる。また、半導体素子を用いて構成された回路は小型化が容易であることから、パルス電源8を小型化することが可能となる。
【0041】なお、インバータ回路23,24として、半導体素子を用いて構成された回路を用いる場合には、インバータ回路23,24から高い出力電圧を得ることが難しくなるが、その場合は、上述したパルス電源8のように、インバータ回路23,24からの出力をパルストランス25によって昇圧するようにすればよい。
【0042】また、インバータ回路23,24には、真空管を用いて構成された回路を用いても良い。真空管を用いて構成されたインバータ回路は、高い出力電圧を得ることが可能である。したがって、インバータ回路23,24として、真空管を用いて構成された回路を用いる場合には、パルストランス25を介さずに、インバータ回路23,24から出力されるパルス状電圧を被処理物2に直接印加するようにしてもよい。
【0043】以上のように構成された表面処理装置1を用いて、本発明に係る手法により被処理物2に対して表面処理を行う際には、先ず、絶縁物である被処理物2の表面に導電性を有する金属薄膜を成膜する。
【0044】この成膜工程では、被処理物2の表面に、例えば、各種CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって金属薄膜を100nm程度の厚さで成膜する。金属薄膜を形成する材料としては、例えば、チタン、窒化チタン、銅などの元素を用いることができる。チタンを材料とする金属薄膜を成膜する場合には、プリカーサーとして、例えば、四塩化チタン(TiCl4)を用いることができる。窒化チタンを材料とする金属薄膜を成膜する場合には、プリカーサーとして、例えば、テトラキスジメチルアミノチタン(TDMAT:Tetrakis(dimethylamino)Titanium)やテトラキスジエチルアミノチタン(TDEAT:Tetrakis(diethylamino)Titanium)を用いる。銅を材料とする金属薄膜を成膜する場合には、プリカーサーとして、例えば、銅ヘキサフロロアセチルアセトネートトリメチルヴィニールサイレーン(Cu(hfac)TMVS:copper hexafluoroacetylacetonate trimethylvinylsilane)を用いることができる。
【0045】次に、表面に金属薄膜が形成された被処理物2を、真空容器3の内部に設けられたホルダー5に固定する。その後、真空容器3の内部をクライオポンプ4によって排気して、高真空状態とする。このときの真空容器3内の圧力、すなわち、背景圧力は、例えば10-7Torr程度とする。
【0046】なお、被処理物2が、例えばプラスチック等のように高温での処理が好ましくない材料からなる場合には、ホルダー5に組み込まれた冷却水導入用パイプに冷却水を流して、被処理物2の温度が上昇しすぎないようにしておく。
【0047】次に、イオン発生装置6により、被処理物2に注入するイオンを発生させ、プラズマビーム状態で真空容器3の内部に供給する。このときの真空容器3内の圧力、すなわち表面処理中の圧力は、例えば、10-5Torr程度となる。
【0048】次に、注入するイオンを含むプラズマ中に被処理物2が配された状態で、パルス電源8によって発生させたパルス状電圧を、被処理物2に対して印加する。これにより、被処理物2にイオンが引き込まれ、この被処理物2へのイオン注入が行われる。
【0049】より詳細には、負のパルス電圧を被処理物2に印加したときに、プラズマ中に含まれている正イオンが被処理物2に引き込まれ、この被処理物2に注入される。このとき、被処理物2へのイオンの注入量、注入深さ及び注入プロファイルは、被処理物2に印加される負のパルス電圧のパルスピーク値、パルス立ち上がり時間、パルス間隔、パルス幅等に依存する。したがって、被処理物2に印加するパルス状電圧の波形を制御することにより、被処理物2に注入するイオンの注入量、注入深さ及び注入プロファイル(被処理物2の表面からの深さと、被処理物2に注入されたイオン濃度との関係)を制御することができる。
【0050】ところで、このようにイオンを被処理物2に引き込んでイオン注入を行うと、被処理物2が絶縁体であることから、この被処理物2には電荷がたまり、いわゆるチャージアップした状態となる。そのため、被処理物2に負の電圧を印加し続けた場合には、被処理物2へのイオン注入を効率よく継続することができなくなってしまう。そこで、本手法では、被処理物2に印加するバイアス電圧を、正のパルス電圧及び負のパルス電圧を含むパルス状電圧として、被処理物2にたまった電荷を正のパルス電圧によって中和する。
【0051】より詳細には、正のパルス電圧を被処理物2に印加したときに、電子が被処理物2に引き込まれ、この電子によって被処理物2にたまっていた電荷が中和される。このように、被処理物2にたまっていた電荷を中和しておけば、その後、負のパルス電圧を印加したときに、再び効率よくイオンが被処理物2に引き込まれ、被処理物2へのイオン注入を効率よく行うことが可能となる。
【0052】以上のように、被処理物2に印加するバイアス電圧を、正のパルス電圧及び負のパルス電圧を含むパルス電圧とすることで、絶縁物である被処理物2がチャージアップした状態になることなく、この被処理物2へのイオン注入を効率よく連続して行うことができる。これにより、被処理物2に対して表面処理を行う際に、プロセス時間を短くして、生産性を向上させることができる。
【0053】また、被処理物2に対して印加するパルス状電圧には、電圧を印加しない期間を設けることが望ましい。本手法で用いる表面処理装置1では、被処理物2に対してバイアス電圧を印加しないときに、イオンが被処理物2に引き込まれて注入されることがなく、このイオンが被処理物2上に堆積する。すなわち、このときには、イオン発生装置8によってイオンがプラズマビーム状態で被処理物2に向けて照射されることにより、イオンが被処理物2上に堆積し、イオンを構成する元素によって形成された薄膜が成膜されることとなる。
【0054】したがって、電圧を印加しない期間を含むパルス状電圧を被処理物2に印加することによって、被処理物2上に、イオンが注入されてなる表面改質層と、イオンを構成する元素によって形成された薄膜層とが、僅かずつ同時に形成されることとなる。
【0055】以上のように、本発明に係る手法では、表面処理の対象となる被処理物2の表面に、先ず、導電性を有する金属薄膜を成膜し、その後、イオン注入を行う。これにより、被処理物2が3次元的な表面形状を有している場合であっても、この被処理物2の表面に対して均一にイオンを注入することができる。以下では、この点について、図2を参照しながら説明する。
【0056】すなわち、図2に示すように、金属薄膜50が表面に形成された被処理物2に対してパルス状電圧を印加すると、図中矢印Bで示すように、この被処理物2の表面に対して垂直な方向にプラズマシースが生じる。これにより、プラズマ中に含まれるイオンは、被処理物2の表面に対して垂直な方向に注入されることとなる。このとき、注入されるイオンは、金属薄膜50を通過して、被処理物2に注入される。これにより、被処理物2の表面には、その表面形状に沿って、均一な厚さの表面改質層51が形成されることとなる。
【0057】一方、金属薄膜50を形成せずにイオン注入を行う場合には、例えば、被処理物2の表面に形成された微小な突起等に対して全体的にイオン注入が行われてしまい、3次元的な表面形状を有する被処理物2に対して均一な厚さでイオンを注入することができない。
【0058】したがって、本手法によれば、被処理物2が3次元的な表面形状を有している場合であっても、表面にイオンが注入されてなる表面改質層を、均一な厚さで高品質に形成することができる。
【0059】また、本手法では、被処理物2に印加するバイアス電圧を、正のパルス電圧及び負のパルス電圧を含むパルス状電圧としていることから、被処理物2が絶縁物であってもチャージアップした状態となってしまうことがなく、この被処理物2に対して連続的に、且つ効率的に行うことができる。したがって、被処理物2に対する表面処理に必要な時間を短縮して、生産性を向上させることができる。
【0060】ところで、従来のようにイオンビーム注入法によってイオン注入を行う場合には、一定のエネルギーを有するイオンビームが加速されて被処理物に注入されるため、その注入プロファイルは、図3に示すように、表面からある程度の深さのところにピークを有する、ガウシアン型の分布となる。
【0061】これに対して、本手法のようにプラズマ注入法によってイオン注入を行う場合には、被処理物2に印加するパルス状電圧の波形を制御することにより、イオンの注入量、注入深さ及び/又は注入プロファイルを制御することができる。したがって、イオンの注入プロファイルを、例えば、図4に示すように、被処理物2の表面近傍にピークを有するようにすることが可能となる。
【0062】なお、上述したような表面処理の対象となる被処理物2としては、例えば、以下に挙げるようなものを挙げることができる。すなわち、ヘリカルスキャン方式による磁気テープの記録及び/又は再生に使用される回転ドラム、被印刷物に向けてインク液滴を噴出することで印刷を行うプリンタに使用されるプリンタヘッド、記録媒体の記録層を支持する基材、基材上に記録層が形成されてなる記録媒体、基材上に記録層が形成されてなるとともに当該記録層上に保護膜が形成されてなる記録媒体、液晶パネルにおいて液晶を封入するためのパネル基板、絶縁体に印刷が施されてなる印刷物、プラスチック等の絶縁材料により作製された各種のマイクロマシン等を被処理物2とすることができる。
【0063】つぎに、上述したように被処理物2に対してイオン注入を行う際に、この被処理物2に対して印加するパルス状電圧の波形について、図5及び図6を参照しながら、具体的な例を挙げて説明する。なお、被処理物2に印加するパルス状電圧の波形は、以下で説明するような例に限定されるものではなく、上述したように、パルスピーク値やパルス立ち上がり時間等を制御するとともに、正のパルス電圧及び負のパルス電圧を組み合わせて、所望とする表面処理が行われるように調整すればよい。
【0064】被処理物2に印加するパルス状電圧は、例えば、図5に示すように、先ず、負のパルス電圧を印加し、その直後に、パルスピークの絶対値がほぼ等しい正のパルス電圧を印加し、その後、電圧を印加しない期間を設けた波形とする。そして、このような波形のパルス列を被処理物2に対して繰り返し印加する。
【0065】パルス状電圧を図5に示すような波形にした場合では、負のパルス電圧を印加したときに、この被処理物2に対してイオンが引き込まれ、イオン注入が行われる。このとき、イオンが被処理物2に引き込まれることにより、この被処理物2には電荷がたまる。また、正のパルス電圧を印加したときには、被処理物2にたまっていた電荷が中和される。
【0066】したがって、図5に示すような波形のパルス状電圧を、被処理物2に対してバイアス電圧として印加することで、絶縁物によって形成された被処理物2がチャージアップした状態となってしまうことなく、イオン注入を継続して行うことができる。
【0067】図6に示す例は、図5に示す例と正負の順番を逆にした例である。すなわち、図6に示す例では、先ず、負のパルス電圧を印加し、その直後に、パルスピークの絶対値がほぼ等しい正のパルス電圧を印加し、その後、電圧を印加しない期間を設けている。そして、このようなパルス列を被処理物2に対して繰り返し印加する。
【0068】パルス状電圧を図6に示すような波形にした場合も、図5に示した例と同様に、負のパルス電圧を印加したときに、この被処理物2に対してイオンが引き込まれ、イオン注入が行われる。このとき、イオンが被処理物2に引き込まれることにより、この被処理物2には電荷がたまる。また、正のパルス電圧を印加したときには、被処理物2にたまっていた電荷が中和される。
【0069】したがって、図6に示すような波形のパルス状電圧を被処理物2に対して印加することで、図5に示した例と同様に、絶縁物によって形成された被処理物2がチャージアップした状態となってしまうことなく、イオン注入を継続して行うことができる。
【0070】なお、図5及び図6に示した例では、パルス間に電圧を印加していない期間を設けているが、電圧を印加していない期間において、初期エネルギーのまま被処理物2に到達したイオンは、そのまま被処理物2の上に堆積する。したがって、電圧を印加しない期間では、被処理物2へのイオン注入ではなく、被処理物2への成膜がなされることとなる。すなわち、図5及び図6に示した例では、イオン注入の効果と成膜の効果の両方が得られることとなる。
【0071】一方、被処理物2への成膜を行いたくない場合には、被処理物2に印加するパルス状電圧にDC電圧成分を重畳すればよい。これにより、パルスとパルスの間において成膜状態となることなく、被処理物2へのイオン注入だけを行うことができる。
【0072】ところで、以上の説明では、被処理物2に負電圧を印加したときにイオンが注入されるものとして説明してきたが、条件によっては、被処理物2に負電圧を印加したときに、被処理物2の内部にイオンが入り込まず、スパッタリング状態にもなり得る。したがって、本手法では、被処理物2に対して印加するパルス状電圧の波形を制御することによって、イオン注入を行う一方で、積極的にスパッタリングを施すようにしてもよい。
【0073】また、上述した表面処理装置1では、イオン照射装置6をパルス動作可能としたり、シャッタ7の開閉動作を制御することによって、真空容器3内にイオンを断続的に供給することができる。そのため、例えば、イオン注入を行う際には、被処理物2に注入するイオンの供給を、被処理物2に印加するバイアス状電圧のパルスと同期させて行うとしてもよい。このように、イオンを断続的に供給することが可能であることによって、被処理物2に対する表面処理を、所望とする条件で、より細かく制御して行うことが可能となる。
【0074】つぎに、本発明に係るプリンタヘッドについて説明する。以下では、本発明に係るプリンタヘッドの一構成例として、図7に示すようなプリンタヘッド60について説明することとする。
【0075】プリンタヘッド60は、紙等の被印刷物に向けてインク液滴を噴出することで印刷を行うプリンタに備えられるプリンタヘッドである。プリンタヘッド60は、プリンタに対して互いに隣接して複数個備えられる。そして、被印刷物に対して、各プリンタヘッド60が独立してインク液滴を噴出することによって、この被印刷物上に全体としてひとつの画像を印刷する。
【0076】プリンタヘッド60は、図7に示すように、インク液滴を噴出する液滴噴出部61を備えている。液滴噴出部61は、数μm〜数十μm程度の高さを有する障壁部62によって囲まれてなる凹状の空間であり、その空間の内部に複数の四角柱63が立設されている。また、液滴噴出部61は、その下部に発熱体(図示せず。)が組み込まれている。また、障壁部62は、液滴噴出部61に供給されたインクが、隣接するプリンタヘッド60同士で混じり合わないようにする障壁としての機能を有している。
【0077】このプリンタヘッド60をプリンタに組み込んで印刷を行う際には、プリンタヘッド60を、液滴部61に対して被印刷物が対向するように配設しておく。そして、液滴噴出部61にインクを供給するとともに、この液滴噴出部61に供給されたインクを発熱体によって加熱する。すると、液滴噴出部61に供給されたインクは、この液滴供給部61からインク液滴として噴出する。そして、このインク液滴が被印刷物に到達することにより、印刷が行われる。
【0078】プリンタヘッド60は、液滴噴出部61の表面に、イオンが注入されることによって改質されてなる表面改質層が形成されている。具体的には、例えば、障壁部62の表面に表面改質層が形成されていることによって、この障壁部62の撥油性が向上されており、四角柱63の表面に障壁部63とは別の表面改質層が形成されていることによって、この四角柱63の硬度が向上されている。
【0079】プリンタヘッド60は、障壁部62の撥油性が向上されていることによって、隣接するプリンタヘッド60に供給されたインク同士が、障壁部62を介してそれぞれ混じり合ってしまうことを防止することができる。また、プリンタヘッド60は、四角柱63の硬度が向上されていることによって、耐久性や信頼性を向上させることができる。
【0080】また、プリンタヘッド60では、液滴噴出部61に表面改質層が形成されて、上述したように障壁部62や四角柱63の特性が改善されることによって、インクの流れが円滑になり、このプリンタヘッド60にインクが焼き付いてしまうといったことを防止することができる。
【0081】したがって、プリンタヘッド60は、液滴噴出部61に表面改質層が形成されていることによって、信頼性を向上させることができ、長時間使用した場合であっても、高い印刷品質を維持できるものとなる。
【0082】つぎに、上述したプリンタヘッド60を作製する場合について説明する。
【0083】プリンタヘッド60を作製する際には、先ず、例えばシリコンによって形成された所定の厚さを有する基板上に、酸化シリコン等の絶縁膜を各種薄膜形成技術によって形成する。次に、絶縁膜が形成された基板上に、数μm程度の厚さでポリシリコン薄膜を成膜する。次に、このポリシリコン薄膜上に、第1のフォトレジストを形成し、塩素系ガス或いはフッ素系ガスを用いた異方性ドライエッチングを施すことにより、このポリシリコン薄膜を選択的にエッチングする。このとき、例えば水酸化アルカリ水溶液等によってウエットエッチングを施してもよい。このように、ポリシリコン薄膜に対してエッチングを行うことによって、例えば20μm程度の幅を有するポリシリコンヒータを形成する。すなわち、このポリシリコンヒータが、上述した発熱体となる。
【0084】次に、第1のフォトレジストを除去し、ポリシリコンヒータが形成された基板上に、断熱層を形成する。この断熱層は、例えば酸化シリコンやポリイミド等によって形成する。次に、断熱層上に、第2のフォトレジストを形成し、リソグラフィ技術によってパターニングを行う。そして、上述と同様にして、異方性ドライエッチング或いはウエットエッチングを行うことにより、複数の四角柱63を形成する。
【0085】次に、第2のフォトレジストを除去し、四角柱63の表面に第1の金属薄膜を形成する。このとき、第1の金属薄膜は、上述した被処理物2の表面に金属薄膜を形成する場合と同様にして、例えば各種CVD法により、チタン、酸化チタン、銅などの材料によって形成する。
【0086】次に、四角柱63の表面に第1の金属薄膜が形成された基板に対して、上述した被処理物2の場合と同様にして、表面処理装置1を用いてイオン注入を行う。具体的には、例えば、気体のメタン等のパラフィン炭化水素をイオンソースとするカウフマン型イオン源によって、真空容器3内に炭素イオンを含むプラズマを供給する。このとき、固体のカーボンをイオンソースとしてカソーディックアークイオン源によって、炭素イオンを含むプラズマを供給するとしてもよい。また、このときの真空容器3内の圧力、すなわち表面処理中の圧力は、10-2Pa〜10-6Pa程度となる。
【0087】そして、カーボンイオンを含むプラズマが基板を囲んでいる状態で、この基板に対して、上述した被処理物2の場合と同様にしてパルス状電圧を印加する。このとき印加するパルス状電圧の波形は、例えば、パルス幅を5μsとし、パルス電圧のピーク値を±10kV程度とする。また、パルス間隔は、1kHz〜100kHz程度とする。また、表面処理を行う時間は、例えば、1分〜20分程度とする。
【0088】これにより、四角柱63は、その表面に表面改質層が形成されて、硬度が向上する。
【0089】次に、第1の金属薄膜をウエットエッチングによって除去する。このとき、例えば、第1の金属薄膜がチタンである場合にはフッ化水素、窒化チタンである場合には過酸化水素水と水酸化アンモニウムとの混合液、銅である場合には硝酸を用いてウエットエッチングを行う。
【0090】次に、第1の金属薄膜が除去された基板上に、第2のフォトレジストを形成し、リソグラフィ技術によって障壁部62の表面だけが露出するようにパターニングを行う。なお、障壁部62を形成する材料としては、酸化シリコン又はクロムを用いることができる。そして、第2のフォトレジストによって露出された障壁部62の表面に、第1の金属薄膜と同様にして第2の金属薄膜を形成し、表面処理装置1を用いてイオン注入を行う。
【0091】このように、上述した四角柱63の表面処理の場合とは、注入するイオン種や表面処理条件を変えて、障壁部62の表面に対する表面処理を行う。これにより、障壁部62の表面には、四角柱63に形成された表面改質層とは異なる性質、すなわち、撥油性を示す表面改質層を形成することができる。
【0092】次に、第1の金属薄膜と同様にして、第2の金属薄膜を除去することによってプリンタヘッド60が完成する。
【0093】以上のようにして、プリンタヘッド60を作製することにより、四角柱63の表面と障壁部62の表面とに対して異なる表面処理を施して、異なる物理的性質を示す表面改質層をそれぞれ形成することができる。したがって、プリンタヘッド60を、例えば、障壁部62の表面が撥油性を示すとともに、四角柱63の硬度を向上させて形成することができる。
【0094】したがって、プリンタヘッド60は、上述したように、液滴噴出部61に表面改質層が形成されることによって、信頼性を向上させることができ、長時間使用した場合であっても、高い印刷品質を維持できるものとなる。
【0095】また、上述したように、プリンタヘッド60を本発明に係る手法によって作製することにより、このプリンタヘッド60が障壁部62や四角柱63のような複雑な3次元的形状を有する場合であっても、その表面形状に沿って均一な表面改質層を形成することができる。したがって、プリンタヘッド60を、高品質に且つ確実に製造することができる。
【0096】なお、上述の説明では、イオン注入を行う際に形成した金属薄膜を除去するとしたが、金属薄膜を除去せずにプリンタヘッド60を作製するとしてもよい。この場合には、障壁部62や四角柱63の表面に、金属薄膜が残ったままで、プリンタヘッド60が完成する。このように、その表面に形成された表面改質層上に、さらに金属薄膜が形成されている場合には、この金属薄膜によって、例えば、四角柱63の剛性や硬度を向上させることができる。プリンタヘッド60において、金属薄膜を除去するか、或いは残すかについては、所望とする印刷特性や、要求される物理的特性を考慮して決定すればよい。
【0097】つぎに、以下では、上述したように表面処理が施されたプリンタヘッド60における撥油性を確認するために、油の接触角を測定する実験を行った場合について説明する。
【0098】接触角の測定実験先ず、酸化シリコンによって形成された評価用基板を用意し、この評価用基板と油との間の濡れ現象を協和界面科学社製の接触角計(CA−D型)によって測定した。次に、上述したプリンタヘッド60の表面処理と同様にして、この評価用基板の表面に金属薄膜を形成した後に、イオン注入を行うことによって表面処理を施した。次に、表面処理後の評価用基板に対して、同様に油との間の濡れ現象を測定した。
【0099】その結果、表面処理を施す前は、接触角が40゜であったのに対して、表面処理後は、接触角が140゜であった。したがって、酸化シリコン製の評価用基板に対して、本発明に係る表面処理を施すことによって、撥油性が向上したことが確認された。
【0100】つぎに、本発明に係る記録媒体用基材について説明する。以下では、本発明に係る記録媒体用基材の一構成例として、図8に示すようなディスク基板70について説明することとする。
【0101】ディスク基板70は、例えば、磁気ディスク、再生専用光ディスク、光磁気ディスク、相変化型光ディスク等のような記録媒体の信号記録層を支持する記録媒体用基材である。ディスク基板70は、図8に示すように、基板本体71の表面にイオンが注入されてなる表面改質層72が形成されており、この表面改質層72上に、金属薄膜73が形成されている。
【0102】ディスク基板70は、記録媒体の基材として用いられる場合に、例えば、情報信号の記録及び/又は再生(以下、記録再生という。)を行う信号記録層や、この信号記録層を保護するための光透過保護層などの各層が金属薄膜73上に積層形成される。このようにして形成された記録媒体は、例えば、記録再生装置によって信号記録層に向けてレーザ光が照射され、信号記録層に対する情報信号の記録再生が行われる。
【0103】ディスク基板70において、基板本体71は、例えば、アモルファスポリオレフィン(APO)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等のプラスチック材料、又はガラス材料などによって全体略平板状に形成されてなる。
【0104】また、表面改質層72は、上述した被処理物2の表面処理方法と同様にして、基板本体71の表面に対してイオン注入を行うことによって形成された層である。ディスク基板70は、表面改質層72が形成されていることによって、硬度や剛性を向上されている。これにより、記録媒体は、たわみを抑制することができるとともに、記録再生時に高速回転した際に共振が生じて大きな面ぶれが発生することを抑制することができる。したがって、ディスク基板70を記録媒体の基材として用いることによって、安定して記録再生を行うことが可能な記録媒体を実現することができる。
【0105】また、ディスク基板70には、金属薄膜73が形成されている。この金属薄膜73は、上述した被処理物2の表面処理方法と同様にして表面改質層72を形成する際に形成したものであり、記録再生に用いるレーザ光を反射させる光反射層としての機能を有している。また、金属薄膜73は、レーザ光が照射されることによって信号記録層の温度上昇を抑制する放熱層としての機能を有している。
【0106】このように、ディスク基板70においては、表面改質層72を形成するために形成した金属薄膜73を、そのまま記録媒体の光反射層や放熱層として利用することができる。したがって、金属薄膜73を除去する工程や、新たに光反射層や放熱層を形成する工程が不要となる。
【0107】なお、ディスク基板70においては、目的とする記録媒体の層構成に、光反射層や放熱層が不要である場合には、表面改質層72を形成後に金属薄膜73を除去し、表面改質層72上に、各層を積層形成するとしてもよい。
【0108】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る絶縁物の表面処理方法によれば、絶縁物に対してイオン注入を行う場合であっても、この絶縁物に電荷がたまってしまうことがない。また、イオン注入を行う前に、絶縁物の表面に導電性を有する金属薄膜を成膜しておくことで、この絶縁物の表面に対して垂直な方向にイオンが注入されることとなり、絶縁物の表面形状が立体的である場合でも、効果的にイオンを注入することができる。したがって、絶縁物に対してイオン注入を行う場合であっても、継続して効果的にイオンを注入することができる。これにより、絶縁物に対して、高品質な表面処理を生産性よく施すことが可能となる。
【0109】また、本発明に係るプリンタヘッドは、液滴噴出部に表面改質層が形成されていることによって、この液滴噴出部におけるインクに対する濡れ性を制御することができる。これにより、この液滴噴出部におけるインクの焼き付きや、異なる種類のインク同士が混じり合ってしまうことなどを防止して、プリンタの印刷品質や信頼性を向上させることができる。
【0110】さらに、本発明に係る記録媒体用基材は、その表面に表面改質層が形成されていることによって、硬度や剛性を改善することができる。したがって、本発明に係る記録媒体用基材を用いることにより、記録媒体のたわみや面ぶれが抑制されて高記録密度化に対応した信頼性の高い記録媒体を実現することができる。




 

 


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