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発明の名称 ヒノキチオールの製造方法
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2001−97916(P2001−97916A)
公開日 平成13年4月10日(2001.4.10)
出願番号 特願平11−274299
出願日 平成11年9月28日(1999.9.28)
代理人 【識別番号】100108693
【弁理士】
【氏名又は名称】鳴井 義夫 (外3名)
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006 AA02 AA04 AC24 AC27 AC28 AC41 AD16 BA28 BA29 BA50 BA51 BB11 BB14 BB22 BB41 BB42 BB47 BB61 BC10 BC35 BD21 BD70 BD83 
4H039 CA40 CA60 CG90 CH90
発明者 清水 克也 / 長門 康浩
要約 目的


構成
特許請求の範囲
【請求項1】 シクロペンタジエンと一般式R−X(Rはイソプロピル基、Xはハロゲンまたはトシル基またはアルキルスルホネート基)で表されるイソプロピル化剤から1−イソプロピルシクロペンタジエンを得(第1工程)、該1−イソプロピルシクロペンタジエンとジハロケテンとを反応させてケテン付加体を得(第2工程)、該ケテン付加体を分解することによって(第3工程)、ヒノキチオールを製造する方法であって、第一工程がさらに以下の3つの工程からなることを特徴とする、ヒノキチオールの製造方法。
(1)シクロペンタジエンと、アルカリ金属またはアルカリ金属水素化物の少なくとも1種とから、シクロペンタジエニル金属を調製する工程(シクロペンタジエニル金属調製工程)。
(2)該シクロペンタジエニル金属とイソプロピル化剤とを、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒の存在下、反応させて、イソプロピルシクロペンタジエンを取得する工程(イソプロピル化工程)。
(3)該イソプロピルシクロペンタジエン中の5−イソプロピルシクロペンタジエンを、熱により1−イソプロピルシクロペンタジエンに選択的に異性化する工程(異性化工程)。
【請求項2】 イソプロピル化工程に続いて、静置後下層を抜液することにより、イソプロピルシクロペンタジエンを主成分とする相を分離することを特徴とする、請求項1記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項3】 イソプロピル化工程において、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒がジメチルスルホキシドであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項4】 シクロペンタジエニル金属調製工程において、アルカリ金属がナトリウムであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項5】 シクロペンタジエニル金属調製工程において、アルカリ金属水素化物が水素化ナトリウムであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項6】 生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒に加えて、脂肪族炭化水素を存在させて、イソプロピル化工程を実施することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項7】 イソプロピル化工程において、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒を、シクロペンタジエニル金属に対して4倍モル以上使用することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項8】 イソプロピル化工程において、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒を、シクロペンタジエニル金属に対して6倍モル以上使用することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項9】 イソプロピル化工程において、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒を、シクロペンタジエニル金属に対して10倍モル以上使用して、イソプロピル化剤にシクロペンタジエニル金属を含む溶液を添加することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項10】 イソプロピル化工程において、反応温度が30℃を越えないことを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項11】 シクロペンタジエニル金属調製工程およびイソプロピル化工程を、不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項12】 異性化工程の温度が0から40℃であることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項13】 第3工程において、トリエチルアミンと水、および親水性有機溶媒の存在下にケテン付加体の分解を実施する際に、トリエチルアミンを反応系に滴下しながら実施することを特徴とする、請求項1から12のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項14】 第3工程において、ギ酸、酢酸またはプロピオン酸の群から選ばれる、少なくとも1種からなる有機酸を、さらに添加してケテン付加体の分解を実施することを特徴とする、請求項13記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項15】 親水性有機溶媒が、ターシャリーブタノールであることを特徴とする、請求項13又は請求項14記載のヒノキチオールの製造方法。
【請求項16】 ヒノキチオールが接触する部分の材質が、ハステロイC、ガラス、樹脂またはセラミックの群から選ばれる一つまたは複数の材質からなることを特徴とする、請求項1から15のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法の第3工程、及びヒノキチオールを精製する工程を実施するための装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ヒノキチオール(別名、β−ツヤプリシン、β−Thujaplicin)の製造法に関するものである。本発明で製造されるヒノキチオールは、広範囲に抗菌・抗カビ作用を有するとともに、細胞賦活作用、チロシナーゼ活性阻害作用、植物のエチレン生成阻害作用などを有し、抗菌・抗カビ剤として医薬化粧品、養毛剤、シャンプー・石鹸の成分として有用であるほか、鮮度保持フィルムや抗菌塗料などにも配合される。
【0002】
【従来の技術】ヒノキチオールの製造法として、従来、下記のような方法が知られている。
(1)メトキシトロピリデンを原料に、イソプロピルトロポン、アミノイソプロピルトロポンを経由して製造する方法(Tetrahedron.,32,1051頁(1991))。
(2)カルボンを過酸化水素でエポキシ化後、アセタール化など6工程を経て製造する方法(特開昭62−93250号公報)。
(3)イソプロピルシクロヘキサノンまたはイソプロピルシクロヘキセノンをシアノヒドリン化後、2工程を経て、イソプロピルシクロヘプタノンを合成し、これを酸化、臭素化、脱臭化水素化することにより製造する方法(特開昭63−5048、特開昭63−17841号公報)。
(4)ブロモトロポロンに有機スズ化合物を作用させた後、Pd/C触媒の存在下、水素還元する方法(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1989,616頁(1989))。
【0003】これらの方法は、工程数が多かったり、原料入手が困難であり、工業的に実施する上で実用的な製造法とは言えない。その他の製造法として、シクロペンタジエンを原料に、イソプロピルシクロペンタジエンを得、これにジクロロケテンを付加させ、この付加体を加溶媒分解することによって得る方法が知られている。この方法は、原料のシクロペンタジエンが入手しやすく、工程数も少ないので、工業的に実施する上で有利な方法である。この方法では、ヒノキチオールは専らイソプロピルシクロペンタジエンの3つの異性体のうち、1−イソプロピルシクロペンタジエンから生成することが知られている。従って、1−イソプロピルシクロペンタジエンを選択的に合成することによって、目的のヒノキチオールの収率を向上させ、あるいは精製工程の負荷を軽減する検討が行われている。逆に言えば、ヒノキチオールを製造する上で、いかに1−イソプロピルシクロペンタジエンを高選択的に作るかが重要である。このような方法として例えば以下のような方法がある。
【0004】(5)シクロペンタジエンにグリニャール試薬(エチルマグネシウムブロマイド)とイソプロピルトシレートを反応させて、1−イソプロピルシクロペンタジエンを高選択的に得、これにジクロロケテンを付加させた後、加溶媒分解反応によりヒノキチオールを製造する方法(特公昭51−33901号公報)。
(6)塩基性条件下でシクロペンタジエンにアセトンを作用させて、6,6−ジメチルフルベンを得、これを水素化ジアルキルアルミニウムで還元して選択的に1−イソプロピルシクロペンタジエンを得、これにジクロロケテンを付加させた後、加溶媒分解反応によりヒノキチオールを製造する方法(特開平8−40971号公報)。
【0005】これらの方法は、先述の(1)から(4)の方法に比べ、入手容易で安価なシクロペンタジエンを原料に、少ない工程数でヒノキチオールを得ている点で優れているが、(5)ではグリニャール試薬、(6)では水素化ジアルキルアルミニウムのように、一般に高価な試薬を用いており、工業的に実施する上では経済的でなかった。イソプロピルシクロペンタジエンの異性体のうち、5−イソプロピルシクロペンタジエンは、室温付近で熱により、選択的に1−イソプロピルシクロペンタジエンに異性化することが、本発明者らの検討により判明したので、結局のところ、2−イソプロピルシクロペンタジエンを作らずに、5−もしくは1−イソプロピルシクロペンタジエン、もしくはこの混合物をいかに高選択的、かつ安価で取扱容易な試薬を用いて作るかが重要である。
【0006】一般に、アルキルシクロペンタジエンには、先述したように、アルキル基の位置により、下記化1に示す3種の異性体の存在が知られている。5−、1−、および2−アルキルシクロペンタジエンである。熱力学的に安定な平衡状態では、1−体と2−体がほぼ等量と少量の5−体からなる異性体混合物である。
【化1】

【0007】ヒノキチオールの製造法ではないが、シクロペンタジエンをアルキル化してアルキルシクロペンタジエンを得る方法として、今まで種々の方法が知られている。
(7)シクロペンタジエンと脂肪族低級アルコールを触媒の存在下に気相で反応させる方法(特公平4−27215号公報)や炭化水素上でシクロペンタジエンとエチレンを気相で反応させる方法(日本化学会誌、1977(3)、375頁(1977))。
(8)液体アンモニア中で金属ナトリウムとシクロペンタジエンを反応させた後、等量のハロゲン化アルキルを反応させる方法(Izv.Vyssh.Vchebn.Zaved.,Khim.Khim.Technol.,19(10),1511頁(1970))。
(9)4級アンモニウム塩などの相間移動触媒存在下、金属水酸化物の水溶液中でシクロペンタジエンとハロゲン化アルキルを反応させる方法(米国特許第3560583号明細書)や、酸化カルシウムのような脱水剤存在下に有機溶媒中でシクロペンタジエンとアルカリ金属水酸化物を反応させてシクロペンタジエニル金属を発生させ、これにハロゲン化アルキルを作用させる方法(ロシア特許第520341号明細書)。
【0008】(10)先述の従来技術(5)と同様、グリニャール試薬(アルキルマグネシウムブロマイド)を用いる方法であり、シクロペンタジエンのグリニャール試薬とハロゲン化アルキルやアルキル硫酸を反応させて1−アルキルシクロペンタジエンを選択的に得る方法(Montasch.Chemie.,91,805頁,812頁(1960))。
(11)プロスタグランジン類の製造方法の第一工程として、シクロペンタジエンとアルキルリチウムからシクロペンタジエニルリチウムを得、これと7−ブロモヘプタン酸エチルを反応させて1−体を得る方法(特公昭53−33583号公報)が開示されている。
(12)ジメトキシエタンやジグライムなどの有機溶媒中、金属ナトリウムとシクロペンタジエンからシクロペンタジエニル金属溶液を得、これをアルキル化剤に滴下して、1−体または5−体を得る方法(Tetrahedron,vol.21,2313頁(1965))。
【0009】(13)ノルボルネン誘導体の製造方法の第一工程として、テトラヒドロフラン溶媒中、水素化ナトリウムとシクロペンタジエンを反応させてシクロペンタジエニルナトリウムを生成させた後、これにアルキル化剤を低温で滴下する方法が、実施例中に記載されている(特開昭54−63063号公報)。
(14)光学活性シクロペンテンジオールの製造方法の第一工程として、塩基存在下、シクロペンタジエンとアルキル化剤を反応させてアルキルシクロペンタジエンを得る方法が開示されている(特開平6−239779号公報)。アルキル化剤の種類が網羅的に例示され、塩基としてアルカリ金属、アルカリ土類金属、金属水素化物、アルカリ金属アルコキシドなど広範囲に渡って記載され、また反応溶媒についても、ジエチルエーテル、n−ヘキサン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが例示され、反応に悪影響を及ぼさない限り、いかなる溶媒を用いても良いとほとんど無制限に記載されている。しかし、実施例には、テトラヒドロフラン溶媒中、水素化ナトリウムとシクロペンタジエンを反応させてシクロペンタジエニルナトリウムを生成させた後、これにアルキル化剤を低温で滴下する、という例しか記載がなく、これは上記従来技術(13)と全く同じ方法である。
【0010】ここで(7)の方法は、気相反応のため特別の装置が必要であり、また多置換アルキル体が生成するためモノアルキル体の収率が低く、さらに得られるアルキルシクロペンタジエンが平衡混合物であり、5−体および/または1−体を選択的に得る方法ではない。(8)の方法は、液体アンモニアを取り扱うという、取扱い上の難点がある上に、得られるアルキルシクロペンタジエンは平衡混合物である。(9)の方法も、液体アンモニアは使わないものの、やはり平衡組成のアルキルシクロペンタジエンしか得られない。(10)から(12)の方法は、5−体および/または1−体を高選択的に得る方法であるが、(10)では(5)と同様、グリニャール試薬、(11)ではアルキルリチウム、といずれも高価であった。さらに(12)の方法では、より安価な金属ナトリウムを使用するのであるが、1級アルキル基を付加する例しか記載が無く、本発明者らの検討結果では、イソプロピル基のような、反応性の低い2級または3級アルキル基を付加する場合には、5−体および/または1−体の選択性が低いことが分かっており、本発明のヒノキチオールの製造法に適用することはできない。
【0011】(13)の方法は、詳述すると、水素化ナトリウムとシクロペンタジエンから調製したシクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液を、−45〜−55℃に冷却し、これに1級アルキルブロマイドを加え、1時間撹拌後、さらに−30℃から−45℃で4.5時間撹拌する方法が、参考例1に記載されている。参考例1には、得られるアルキル基の位置の違いによる異性体の割合についての記載はないが、本文中にこの発明のアルキル化反応について、先ず生成した5−体が、直ちに1−体、2−体に異性化する、と記載されている。ところが、従来技術(14)の実施例1には、水素化ナトリウムとシクロペンタジエンから調製したシクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液に、−50℃で1級アルキルブロマイドを滴下する、という記載があり、(13)と全く同じ方法であるにもかかわらず、低温のままで5−体を、室温まで昇温して1−体を選択的に得ている。2−体の生成については全く記載が無い。以上のように、(13)と(14)で異性体に関する記述は異なる。本発明者らが、(14)の実施例を検討した限りにおいては、反応で得られた生成物が、実施例記載の1H−NMRでは異性体種を判別できず、本当に5−および/または1−アルキルシクロペンタジエンを高選択的に得られるかを確認できなかった。
【0012】また、(13)と(14)の実施例中の方法で2級アルキル基であるイソプロピル基を付加しても、1−体と2−体がほぼ等量の平衡組成のイソプロピルシクロペンタジエン混合物しか得られないことが、本発明者らの検討でわかっている。すなわち、(13)と(14)の方法は、ヒノキチオールの製造方法には適用できない。以上述べたように、アルカリ金属またはアルカリ金属水素化物を用いて、安価で高選択的にヒノキチオールを製造する方法は今まで無かった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、入手が容易なシクロペンタジエンから1−イソプロピルシクロペンタジエンを合成し、これにジクロロケテンを付加した後、塩基存在下に分解することによりヒノキチオールを製造する方法であって、1−イソプロピルシクロペンタジエンを、安価で、かつ高選択的に製造する方法を提供するものである。ここでいう高選択性とは、イソプロピルシクロペンタジエンの3つの異性体の総計に対し、1−イソプロピルシクロペンタジエンの割合が、少なくとも80%以上のことを言い、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上のことを言う。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、(1)シクロペンタジエンと一般式R−X(Rはイソプロピル基、Xはハロゲンまたはトシル基またはアルキルスルホネート基)で表されるイソプロピル化剤から1−イソプロピルシクロペンタジエンを得(第1工程)、該1−イソプロピルシクロペンタジエンとジハロケテンとを反応させてケテン付加体を得(第2工程)、該ケテン付加体を分解することによって(第3工程)、ヒノキチオールを製造する方法において、第一工程がさらに以下の3つの工程からなることを特徴とする、ヒノキチオールの製造方法。
(a)シクロペンタジエンとアルカリ金属またはアルカリ金属水素化物の少なくとも一種とからシクロペンタジエニル金属を調製する工程(シクロペンタジエニル金属調製工程)。
(b)該シクロペンタジエニル金属とイソプロピル化剤とを、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒の存在下、反応させて、イソプロピルシクロペンタジエンを取得する工程(イソプロピル化工程)。
(c)該イソプロピルシクロペンタジエン中の5−イソプロピルシクロペンタジエンを、熱により1−イソプロピルシクロペンタジエンに選択的に異性化する工程(異性化工程)。
【0015】(2)イソプロピル化工程に続いて、静置後下層を抜液することにより、イソプロピルシクロペンタジエンを主成分とする相を分離することを特徴とする、上記(1)記載のヒノキチオールの製造方法。
(3)イソプロピル化工程において、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒がジメチルスルホキシドであることを特徴とする、上記(1)又は(2)記載のヒノキチオールの製造方法。
(4)シクロペンタジエニル金属調製工程において、アルカリ金属がナトリウムであることを特徴とする、上記(1)から(3)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【0016】(5)シクロペンタジエニル金属調製工程において、アルカリ金属水素化物が水素化ナトリウムであることを特徴とする、上記(1)から(3)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
(6)生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒に加えて、脂肪族炭化水素を存在させて、イソプロピル化工程を実施することを特徴とする、上記(1)から(5)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
(7)イソプロピル化工程において、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒を、シクロペンタジエニル金属に対して4倍モル以上使用することを特徴とする、上記(1)から(6)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【0017】(8)イソプロピル化工程において、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒を、シクロペンタジエニル金属に対して6倍モル以上使用することを特徴とする、上記(1)から(6)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
(9)イソプロピル化工程において、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒を、シクロペンタジエニル金属に対して10倍モル以上使用して、イソプロピル化剤にシクロペンタジエニル金属を含む溶液を添加することを特徴とする、上記(1)から(6)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
(10)イソプロピル化工程において、反応温度が30℃を越えないことを特徴とする、上記(1)から(9)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【0018】(11)シクロペンタジエニル金属調製工程およびアルキル化工程を、不活性ガス雰囲気下で行うことを特徴とする、上記(1)から(10)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
(12)異性化工程の温度が0から40℃であることを特徴とする上記(1)から(11)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
(13)第3工程において、トリエチルアミンと水、および親水性有機溶媒の存在下にケテン付加体の分解を実施する際に、トリエチルアミンを反応系に滴下しながら実施することを特徴とする、上記(1)から(12)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法。
【0019】(14)第3工程において、ギ酸、酢酸またはプロピオン酸の群から選ばれる、少なくとも1種からなる有機酸を、さらに添加して実施することを特徴とする、上記(13)記載のヒノキチオールの製造方法。
(15)親水性有機溶媒が、ターシャリーブタノールであることを特徴とする、上記(13)又は(14)記載のヒノキチオールの製造方法。
(16)ヒノキチオールが接触する部分の材質が、ハステロイC、ガラス、樹脂またはセラミックの群から選ばれる一つまたは複数の材質からなることを特徴とする、上記(1)から(15)のいずれかに記載のヒノキチオールの製造方法の第3工程、及びヒノキチオールを精製する工程を実施するための装置。
【0020】本発明のヒノキチオールの製造法を化学式で示すと、下記化2のようである。
【化2】

【0021】先述したように、ヒノキチオールになるのは、下記化3に示すように1−イソプロピルシクロペンタジエンだけであり、2−イソプロピルシクロペンタジエンや5−イソプロピルシクロペンタジエンからは、ヒノキチオールを製造できない。
【化3】

【0022】また、第一工程を化学式で示すと、下記化4のようである。
【化4】

【0023】従来技術で述べたように、シクロペンタジエンを原料に、1−イソプロピルシクロペンタジエン、ケテン付加体を経てヒノキチオールを製造する方法は既知である。一般的に、アルキルシクロペンタジエンには二重結合とアルキル基の位置の違いにより、1−体、2−体および5−体の三種の異性体が存在し、シクロペンタジエンと塩基からシクロペンタジエニル金属を得、これとアルキル化剤を反応させると、下記化5に示すように先ず5−体が一旦生成したあと、1−体と2−体に異性化し、平衡状態では少量の5−体とともに1−体と2−体がほぼ等量で存在していることが知られている。
【化5】

【0024】V.A.Mironovらは、シクロペンタジエニル金属へのアルキル付加は、下記化6に示すようにまず5−体が生成し、5−体のアルキル基の付いている炭素上の水素が隣接する炭素に1,2−水素移動して1−体に異性化、さらに1−体のメチレンプロトンが同じように隣の炭素に1,2−水素移動して2−体に異性化することを明らかにした。さらに5−体から1−体への異性化はより低温でも進むが、1−体から2−体への異性化はより高温が必要であることも示した(Tetrahedron,vol.19,1939頁(1963))。
【化6】

【0025】従って、異性化が1,2−水素移動により進むものであれば、2−体の生成を最小限にして5−体および/または1−体を生成することは可能である。S.McLeanらは、上記の1,2−水素移動による異性化は強塩基が存在しないときに有効であり、強塩基が存在すると下記化7に示すように5−体からアルキルシクロペンタジエニルアニオンが生成し、これは直接平衡混合物に異性化すると述べている(Tetrahedron、vol.21,2313頁、2329頁(1965))。
【化7】

【0026】すなわち、強塩基が存在すると、5−体および/または1−体を選択的に合成することはできず、1−体と2−体がほぼ等量の平衡混合物が生成することを意味している。従って、言い換えれば、5−体および/または1−体を選択的に合成するには、一旦生成したアルキルシクロペンタジエンと強塩基を接触させないことが必須条件と言える。ここで言う強塩基とは、金属ナトリウムとシクロペンタジエンから得られるシクロペンタジエニルナトリウムのようなシクロペンタジエニル金属のことである。従来技術の(8)、(9)の方法では、均一溶媒中、シクロペンタジエンのグリニャール試薬やシクロペンタジエニルリチウムのようなシクロペンタジエニル金属を用いて5−体および/または1−体を選択的に得ているが、この理由は、これらのシクロペンタジエニル金属の塩基性が低いためにアルキルシクロペンタジエニルアニオンを生成しないためではないかと本発明者らは考えている。シクロペンタジエニル金属の金属がナトリウムのようなアルカリ金属である場合、反応原料として系内に必要であるにもかかわらずその存在自体が平衡組成への異性化を促進する強塩基であるため、反応操作にはある工夫が必要となってくる。従来技術の(12)でMcLeanらは、アルキル化剤にシクロペンタジエニルナトリウムのジメトキシエタンやジグライムの溶液を滴下することで、5−体および/または1−体を高選択的に得ている。滴下と同時にアルキル化反応を起こさせ、系内には実質的にフリーのシクロペンタジエニルナトリウムを存在させないようにすることで、アルキルシクロペンタジエニルアニオン経由の平衡組成への異性化を防いでいる、ものと本発明者らは考えている。逆の滴下、すなわちシクロペンタジエニルナトリウムの溶液にアルキル化剤を滴下して反応させた場合、滴下中に生成するアルキルシクロペンタジエンがフリーのシクロペンタジエニルナトリウムと接触するため、平衡組成か2−体の多い組成のアルキルシクロペンタジエンしか得られていない。また従来技術(13)と(14)の実施例中の方法は同じ方法であり、上記従来技術(12)とは逆に、シクロペンタジエニルナトリウム溶液にアルキル化剤を滴下する方法である。生成するアルキルシクロペンタジエンの異性体比については記述が異なり、(13)ではすぐに5−体は1−体と2−体に異性化すると述べ、(14)では5−体または1−体が高選択的に得られると述べている。滴下順序から考えれば、(13)の記載が正しいように思われるが、(14)の方法で5−体と1−体を高選択的に得ているとすれば、その理由は不明である。
【0027】従来技術の(12)で5−体および/または1−体を選択的に得るには、滴下したシクロペンタジエニルナトリウムとアルキル化剤の反応が速いこと、すなわちアルキル化剤の反応性が高いことが必要である、と推測される。例えば従来技術の(12)の方法で反応させてもアルキル化剤の反応性が低ければ、実質的に系内にシクロペンタジエニルナトリウムが存在することになってしまい、反応系が均一系のため、この強塩基と生成物のアルキルシクロペンタジエンが接触し、アルキルシクロペンタジエニルアニオン経由の異性化が進行すると考えられるからである。実際、従来技術(12)の方法ではメチル基などのような1級アルキル基の付加の例しか記載されていない。本発明者らも、これら従来技術に従ってアルキル化を試みたが、ジメチル硫酸やn−プロピルブロマイドなどの1級アルキル化剤では、5−体および/または1−体が選択的に生成するが、反応性の低い2級アルキルハライドであるイソプロピルブロマイドでは、得られたイソプロピルシクロペンタジエンは1−体と2−体がほぼ等量の混合物であった。従来技術(14)の方法も、5−体および/または1−体が高選択的に得られる理由は不明であるにしろ、同様、均一系の反応系において、強塩基であるシクロペンタジエニルナトリウムを用いている点は、従来技術(12)と同様であり、実施例に記載されている3つのアルキル基は、全て1級アルキル基であり、反応性の低い2級、3級アルキル基の付加の例はない。この方法に従って本発明者らがイソプロピルシクロペンタジエンの合成を実施したが、(12)と同様、1−体と2−体がほぼ等量の平衡混合物しか得られなかった。検討結果は、発明の参考比較例1に示した。
【0028】そこで本発明者らは、シクロペンタジエニルナトリウムまたはシクロペンタジエニルカリウムのような強塩基を用い、なおかつ、反応性の低い2級アルキル化剤との反応でも、アルキルシクロペンタジエニルアニオン経由で異性化することが抑制できる方法を検討した結果、生成物のアルキルシクロペンタジエンと二液相を形成する有機溶媒を用いれば、選択的に5−体および/または1−体が得られることを見いだした。すなわちシクロペンタジエニルナトリウムもしくはカリウムとアルキル化剤の反応は上記溶媒中で起こるが、反応によって生成するアルキルシクロペンタジエンが直ちに溶媒から相分離し、相分離することにより生成物のアルキルシクロペンタジエンとシクロペンタジエニルナトリウムもしくはカリウムのような強塩基との接触が妨げられ、その結果アルキルシクロペンタジエニルアニオン経由の異性化が起こらず、5−体および/または1−体が選択的に得られることを見出したのである。本方法では、従来技術(12)とは異なり、アルキル化剤の反応性が5−体および/または1−体の選択性に何ら影響を及ぼさないこと、また滴下順序の影響がないこと、反応操作に特殊な工夫が要らないことがわかった。これは生成物のアルキルシクロペンタジエンと、強塩基であるシクロペンタジエニルナトリウムなどとを、相分離により接触させないという原理から理解できる。実際、従来技術(12)および(14)では選択性の得られなかった、イソプロピルブロマイドのようなアルキル化剤を反応させた場合でも、5−体および/または1−体が選択的に得られることがわかった。今まで述べたような相分離により、生成物のアルキルシクロペンタジエンとシクロペンタジエニルナトリウムもしくはカリウムのような強塩基とを接触させないで5−体および/または1−体の選択性を高めるという概念は今までになく、本発明者らの鋭意検討した結果初めて得られた概念である。5−体および/または1−体を選択的に得る従来技術は全て均一系の反応であり、5−体および/または1−体の選択性と反応場の相の状態を関連づけたものは、従来、皆無であった。
【0029】従来技術の(9)に記載した、4級アンモニウム塩などの相間移動触媒の存在下、金属水酸化物たとえば水酸化ナトリウムの水溶液中でシクロペンタジエンを反応させてシクロペンタジエニルナトリウムを調製し、これにハロゲン化アルキルを加える方法も、金属水酸化物を使う点と反応が二液相という意味で、外見上類似しているかのような印象があるが、反応システムは全く異なるものである。従来技術(9)でも二液相であるが、アルキル化剤を添加する前は、水と金属水酸化物から成る水相とシクロペンタジエンとシクロペンタジエニルナトリウムから成る有機相の二相であり、静置状態では水相が下相となる。ここにアルキル化剤を添加すると有機相中でシクロペンタジエニルナトリウムと反応し、生成したアルキルシクロペンタジエンはそのまま有機相にとどまるため、有機相中で生成物のアルキルシクロペンタジエンとシクロペンタジエニルナトリウムが接触することになり、アルキルシクロペンタジエニルアニオン経由で異性化し、その結果平衡組成しか得られないことになる。本発明の反応系では、これとは相の構成成分が異なり、シクロペンタジエニルアルカリ金属と有機溶媒からなる均一相にアルキル化剤を添加すると、生成したアルキルシクロペンタジエンはすぐさま相分離し、アルキルシクロペンタジエン相を形成し、シクロペンタジエニルアルカリ金属との接触を遮断されるのである。
【0030】以上述べたように、アルカリ金属またはアルカリ金属水素化物の少なくとも1種を用い、生成物のアルキルシクロペンタジエンと二液相を形成する溶媒を用いることによって、イソプロピル化のような2級アルキル基の付加において5−体および/または1−体を選択的に得る方法を見出したのは、いかに生成物のアルキルシクロペンタジエンとシクロペンタジエニルアルカリ金属との接触を防ぎ、アルキルシクロペンタジエニルアニオン経由の異性化を防止するか、という本発明者らの詳細な検討によるものであった。そして5−アルキルシクロペンタジエンは、室温付近で熱により選択的に1−アルキルシクロペンタジエンに異性化されるので、結局、1−アルキルシクロペンタジエンが高選択的に得られるのである。
【0031】本検討の結果、シクロペンタジエンから1−イソプロピルシクロペンタジエンを得、これにジハロケテンを付加させ、得られるケテン付加体を加溶媒分解してヒノキチオールを得る製造方法において、安価で、極度の非水条件が不要で操作が簡便な、高選択的な1−イソプロピルシクロペンタジエンの高選択的な製造方法が見出されたのである。従って、結局のところ、安価で、極度の非水条件が不要で操作が簡便で、高選択的なヒノキチオールの製造法が見いだされたのである。
【0032】以下、本発明の構成要件について詳述する。本発明の第一工程から説明する。シクロペンタジエニル金属調製工程は、溶媒中でシクロペンタジエンとアルカリ金属またはアルカリ金属水素化物を反応させ、シクロペンタジエニル金属を生成する工程である。シクロペンタジエニル金属は溶媒中では実際には、シクロペンタジエニルアニオンと金属イオンとにイオン化して溶解している。アルカリ金属またはアルカリ金属水素化物はシクロペンタジエンから水素を引き抜く塩基として作用している。本発明で用いられるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、好ましくは、ナトリウムまたはカリウムであり、さらに好ましくはナトリウムである。本発明で用いられる金属水素化物は、例えば、水素化ナトリウムや水素化カリウムなどであり、好ましくは水素化ナトリウムである。
【0033】シクロペンタジエニル金属を調製する際に用いる溶媒については、シクロペンタジエニル金属を溶解するする溶媒であれば、どのような溶媒でも用いることができ、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘキサンなどである。ただし次のイソプロピル化工程でイソプロピル化剤との反応に悪影響を与えるような溶媒の場合、シクロペンタジエニル金属調製後、イソプロピル化剤との反応の前に一旦溶媒を留去する工程が必要がある。従って、次工程のイソプロピル化工程に用いる溶媒を、このシクロペンタジエニル金属調製時にも使用することが、溶媒留去工程を省ける点から好ましい。ただし、次のイソプロピル化工程で用いる、イソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性溶媒としてジメチルスルホキシドを採用する場合、このジメチルスルホキシドをシクロペンタジエニル金属調製工程においても溶媒として採用すると、シクロペンタジエニル金属調製工程からイソプロピル化工程に移るときに溶媒留去の必要なく、操作が簡便であるのだが、ジメチルスルホキシドは水素化ナトリウムと条件によっては激しく反応し爆発する危険性があるので、注意を要する。イソプロピル化工程にジメチルスルホキシドを採用する場合には、シクロペンタジエニル金属調製工程でジメチルスルホキシド以外の溶媒を用い、シクロペンタジエニル金属調整後、該溶媒を除去した後、ジメチルスルホキシドを添加してイソプロピル化工程を実施する方が、爆発危険性を避ける意味では好ましい。
【0034】シクロペンタジエンとアルカリ金属またはアルカリ金属水素化物との量比は、特に限定されるものではない。通常、シクロペンタジエンに対する、アルカリ金属またはアルカリ金属水素化物のモル比は、0.1から10の範囲であり、好ましくは0.2から2の範囲であり、さらに好ましくは0.4から1の範囲である。ただし、イソプロピル化工程にジメチルスルホキシドを採用する場合には、1を越えない方が好ましい。
【0035】シクロペンタジエニル金属調整時の反応温度は、−10℃から溶媒の沸点温度まで採用できるが、低すぎると反応が進みにくく、高すぎるとシクロペンタジエンの二量化が進みジシクロペンタジエンを生成しやすいので、好ましくは0℃から80℃、さらに好ましくは10℃から50℃である。圧力は常圧もしくは加圧下で実施できる。シクロペンタジエンの常圧での沸点は約40℃なので、常圧−開放系で行う場合には、シクロペンタジエンのロスを防ぐために還流冷却器を備えた反応器で実施する方がよい。またシクロペンタジエンとアルカリ金属またはアルカリ金属水素化物との反応は発熱反応であるため、所定の反応温度を維持するための工夫を反応器に加えた方が良い。またシクロペンタジエニル金属は空気中の酸素で容易に酸化されやすいので、酸化を防ぐために窒素などのような不活性ガスで反応系をシールした方が好ましい。反応時間は通常10分から6時間である。シクロペンタジエニル金属調製時の溶媒に、次工程のイソプロピル化工程で使うものと同じ溶媒を用いた場合、本工程で得られるシクロペンタジエニル金属溶液をそのまま何の後処理をすることなくイソプロピル化工程に供することができる。ただし、先述したように、ジメチルスルホキシドをシクロペンタジエニル金属調製工程の溶媒に用いるときは、安全上の注意が必要である。
【0036】イソプロピル化工程は、前の工程で得られたシクロペンタジエニル金属とイソプロピル化剤との反応により、イソプロピルシクロペンタジエンを得る工程である。本工程で用いられるイソプロピル化剤は、一般式R−Xで表され、Rはイソプロピル基を表し、Xはハロゲンまたはトシル基またはアルキルスルホネート基を表す。例えば、イソプロピルクロライド、イソプロピルブロマイド、イソプロピルヨーダイド、イソプロピルトシレート、ジイソプルピル硫酸などである。
【0037】イソプロピル化工程の溶媒は、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成し、かつシクロペンタジエニル金属を溶解するような溶媒である。さらに、シクロペンタジエニル金属とイソプロピル化剤の反応は、シクロペンタジエニル金属中のシクロペンタジエニルアニオンがアルキル化剤を求核攻撃することが第一段階なので、シクロペンタジエニルアニオンに対する溶媒和が少ない溶媒が好ましい。従って、水素結合するような酸性の水素を持たず、アニオンへの溶媒和が小さく、かつ強い極性によりシクロペンタジエニル金属の金属イオンを強く溶媒和することでシクロペンタジエニル金属を溶解するような溶媒、即ち、非プロトン性極性溶媒で、かつ生成物のアルキルシクロペンタジエンと二液相を形成するような溶媒が好ましい。このような溶媒としては、スルホン化合物やスルホキシド化合物が挙げられ、例えば、スルホラン、ジメチルスルホキシドやジエチルスルホキシドなどである。さらに好ましくはジメチルスルホキシドである。非プロトン性極性溶媒であっても生成物のアルキルシクロペンタジエンと二液相を形成しない溶媒では、5−および/または1−イソプロピルシクロペンタジエンを高選択的に得ることはできない。例えば、アセトニトリルやテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンは代表的な非プロトン性極性溶媒であるが、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンとは二液相を形成せず、5−および/または1−イソプロピルシクロペンタジエンを高選択的に得ることはできない。
【0038】また、生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと、イソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する溶媒との相分離を補助する目的で、炭化水素系溶媒を追加的に添加して用いることは効果的である。イソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する溶媒と均一相となってしまう炭化水素系溶媒は好ましくなく、好ましくは脂肪族炭化水素である。あまり沸点が低いと操作中のロスが多いので、さらに好ましくは炭素数6以上の脂肪族炭化水素である。直鎖状もしくは分岐状を問わない。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどが好適に挙げられる。なお、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の溶媒を併用してもかまわない。
【0039】生成物のイソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する非プロトン性極性溶媒の使用量は重要であり、目的とするイソプロピルシクロペンタジエンの異性体を高い選択率で得るためには、シクロペンタジエニル金属に対してモル比で4倍モル以上であり、好ましくは6倍モル以上である。4倍モルより少ないと、2−イソプロピルシクロペンタジエンの生成が増加する傾向にある。理由は明確ではないが、溶媒が少ないと、相対的にイソプロピルシクロペンタジエン相に含まれるシクロペンタジエニル金属の量が増えるためではないかと、本発明者らは考えている。さらに、炭化水素を追加的に添加せず、イソプロピル化剤にシクロペンタジエニル金属溶液を滴下するときには、10倍モル以上用いることが好ましい。用いる溶媒量によりイソプロピルシクロペンタジエンの異性体比が変化する事実は、従来技術の均一系反応では観られなかったことであり、本発明のイソプロピル化工程が二相反応で進むことに特有の事象である。
【0040】イソプロピル化工程における反応は、以下の二相を形成しながら進行する。
(A相)イソプロピルシクロペンタジエンを主成分とする相。炭化水素を共存させるときは、炭化水素とイソプロピルシクロペンタジエンがA相の主成分となる。
(B相)イソプロピルシクロペンタジエンと二液相を形成する溶媒、とシクロペンタジエニル金属を主成分とする相。
イソプロピル化剤とシクロペンタジエニル金属はB相で反応し、反応で生成したイソプロピルシクロペンタジエンはすぐざまA相に移行し、強塩基であるシクロペンタジエニル金属と接触しない。
【0041】シクロペンタジエニル金属とイソプロピル化剤との量比は、特に限定されるものではない。シクロペンタジエニル金属に対するイソプロピル化剤のモル比は、通常、0.1から10の範囲である。好ましくは0.5から3、さらに好ましくは0.8から1.2である。従来技術(12)の場合、この比が1未満であると、反応系内にシクロペンタジエニル金属がフリーで存在することになるため、結果的に5−体および/または1−体を高選択的に得ることはできないが、本発明の場合には相分離を利用するため、このような制限がない。このことは、反応操作上、運転許容幅が広い、という意味で利点である。特に、連続的に反応を行おうとする場合、大きな利点となる。
【0042】イソプロピル化工程の反応温度は−20℃から30℃の範囲であり、好ましくは−10℃から25℃の範囲である。さらに好ましくは−5から10℃の範囲である。−20℃より低い温度では反応が遅く、30℃より高い温度では2−イソプロピルシクロペンタジエンの生成が増加するからである。反応操作としては、シクロペンタジエニル金属溶液にイソプロピル化剤を滴下または少量ずつ添加しても良いし、イソプロピル化剤にシクロペンタジエニル金属溶液を滴下または少量ずつ添加しても良い。また−20℃より低い温度でシクロペンタジエニル金属とイソプロピル化剤を混合後、−20℃から25℃に昇温させて反応させても良い。また反応による発熱を効果的に除去でき、上記温度範囲内に反応温度を維持できる反応装置であれば、シクロペンタジエニル金属とイソプロピル化剤を一度に混合させ、それと同時に反応を起こさせても良い。
【0043】スタティックミキサーのような撹拌作用の付いた管型反応器に、両者をフィードしながら反応させる形式でも良い。本発明の方法は、5−体および/または1−体の高選択的生成を相分離というシステムで実現しているため、従来技術(12)のように反応操作に特別の工夫は要らないのである。シクロペンタジエニル金属とイソプロピル化剤との反応は、槽型反応器で実施する場合には、撹拌下実施するのが良い。好ましくは反応液1立方メートルあたり0.1kW以上の撹拌強度で実施するのが好ましい。さらに好ましくは、反応液1立方メートルあたり0.2kW以上である。0.1kW/m3 より小さいと反応の進行が遅くなるばかりか、5−および/または1−イソプロピルシクロペンタジエンの選択性が低下するからである。イソプロピル化反応中は、窒素のような不活性ガスで反応系をシールした方が好ましい。未反応のシクロペンタジエニル金属が空気中の酸素により酸化されるからである。シクロペンタジエニル金属の酸化が起こると、次に述べる後処理操作において、二液相になっている反応液の液々界面付近に不溶物が浮遊し、分層操作に困難をきたす場合があるからである。
【0044】イソプロピル化終了後の後処理操作は以下の通りである。反応終了後は、反応液は二液相を形成しており、先ず下相を抜液して上相のアルキルシクロペンタジエンを含む相を取り出し、この中に微量含まれるアルカリ分を除去するために、液がアルカリを呈しないまで水洗を繰り返しても良いし、一旦塩酸や硫酸などの鉱酸を加えて酸性にした後、水洗しても良い。この際ヘキサンなどの炭化水素を添加してもかまわない。また反応終了後の二液相を形成している反応液に、先ず鉱酸を加えて系全体を酸性にしたあと、下相を抜液しても良い。後処理操作中の液温度も重要であり、30℃を越えないのが好ましい。30℃を越えると2−イソプロピルシクロペンタジエンの生成が後処理操作中に増大する傾向にあるからである。
【0045】異性化工程は、イソプロピル化工程で得られたイソプロピルシクロペンタジエン中の5−イソプロピルシクロペンタジエンをに熱により1−体に異性化する工程である。後処理操作後に得られるイソプロピルシクロペンタジエンを主成分とする液には、シクロペンタジエニル金属などの強塩基が存在しないため、先述したように、異性化は熱による1,2−水素移動により実現される。5−体から1−体への熱による異性化は可逆反応であるが、1−体の方に平衡が偏っているので、5−体は異性化後、非常に少量しか存在し得ない。一方、1−体から2−体への異性化も起こり、これも可逆反応で、平衡組成は先に述べたように1−体と2−体がほぼ1対1の比となるが、この異性化は5−体から1−体への異性化に比べて遅い。従って、5−体と1−体の混合物をある温度において必要な時間だけ保つことにより、5−体から1−体への異性化のみを進行させ、1−体を主生成物とすることができる。異性化においては5−体と1−体を含む液を静置しても良いし、撹拌しても良い。異性化の温度は、0℃から40℃の範囲である。0℃より低いと異性化の進行が遅く実用的でなく、高すぎると異性化の進行は速くなるが、同時に望ましくない異性体である2−体の生成も促進されてしまい、制御が困難になってしまう。異性化に必要な時間は、温度条件や異性化開始時の異性体比等によって異なるため一概には言えないが、おおよそ以下の通りである。異性化温度10℃では8から40時間程度、20℃では3から30時間程度、30℃では30分から10時間程度である。異性化の時間がこれより短いと5−体の残存が多く、長すぎると2−体の生成が増大する傾向にある。
【0046】以上が、シクロペンタジエニル金属調製工程、イソプロピル化工程、異性化工程の3つの工程から成る第1工程である。本発明の第2工程は、第1工程で得られた1−イソプロピルシクロペンタジエンに、ジハロケテンを付加し、ケテン付加体を発生させる工程である。ジハロケテンとしては、一般式CXY=C=Oで表され、X、Yは塩素、臭素、ヨウ素から選ばれる。例えば、ジクロロケテン、ジブロモケテン、クロロブロモケテンなどである。この中でもジクロロケテンが好ましい。
【0047】ジハロケテンは非常に不安定なため、ケテン発生とケテン付加をワンポットで行うのが好ましい。ケテン発生方法は、下記の2つの既知の方法のいずれかを採用することができる。
(1)一般式CHXY−COZ1(X、Yは先述の通り。Z1は塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子である。)で表される、ジハロ酢酸ハロリドに、トリエチルアミンを作用させて脱ハロゲン化水素する方法。
(2)一般式CXYZ2−COZ1(X、Y、Z1は先述の通り。Z2は塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるハロゲン原子である。)で表される、トリハロ酢酸ハロリドに、金属亜鉛粉末を作用させて脱ハロゲン化物する方法。
【0048】ジハロ酢酸ハロリドの脱ハロゲン化水素でジハロケテンを発生する方法で、本発明の第2工程を説明すると、以下のようである。第1工程で得られた、イソプロピルシクロペンタジエンにジハロ酢酸ハロリドを加え、所定温度範囲を維持しながら、この混合液にトリエチルアミンを滴下する。もしくは、イソプロピルシクロペンタジエンに、ジハロ酢酸ハロリドとトリエチルアミンを同時に滴下する。この際、トリエチルアミンを滴下するのが好ましい。所定量のトリエチルアミンを一度にイソプロピルシクロペンタジエンと混合すると、トリエチルアミンの塩基性により、イソプロピルシクロペンタジエン中の1−イソプロピルシクロペンタジエンが2−体に異性化してしまうからである。またトリエチルアミンは、ケテンの重合触媒でもあるので、トリエチルアミンは少量ずつ滴下し、できる限り、反応系内にフリーで存在することを避けた方が好ましい。本工程の反応は発熱反応であり、反応温度を所定の範囲に維持する上でも、滴下方式は好ましい。
【0049】ジハロケテン発生原料として使用できるジハロ酢酸ハロリドとして、例えば、ジフロロ酢酸クロライド、ジクロロ酢酸クロライド、ジブロモ酢酸クロライド、ジフロロ酢酸ブロマイド、ジクロロ酢酸ブロマイド、ジブロモ酢酸ブロマイド等が挙げられるが、好ましくはジクロロ酢酸クロライドである。イソプロピルシクロペンタジエンに対するジハロ酢酸ハロリドのモル比は、イソプロピルシクロペンタジエン中の1−体の比にもよるが、通常0.1から10であり、好ましくは0.5から5であり、さらに好ましくは0.5から3である。ジハロ酢酸ハロゲン化物に対するトリエチルアミンのモル比は、0.5から2である。トリエチルアミンがこの範囲より少ないと、ジハロ酢酸ハロリドが未反応で残存する量が多くなり、この範囲より多くなると、未反応のトリエチルアミンが反応系内に残存する量が多くなり、1−イソプロピルシクロペンタジエンから2−イソプロピルシクロペンタジエンへの異性化を促進する傾向が大きくなるからである。好ましくは0.7から1.5であり、さらに好ましくは0.9から1.1である。
【0050】上記の範囲のジハロ酢酸ハロリドとトリエチルアミンとから発生するジハロケテンの量により、生成物であるケテン付加体の収率や、ケテン付加体中の1−イソプロピルシクロペンタジエン由来の付加体(1−体付加体と略す)と2−イソプロピルシクロペンタジエン由来の付加体(2−体付加体)の比が変わってくる。一般にジハロケテンの量が多いと、ケテン付加体の収率は向上するが、ケテン付加体中の1−体付加体の比が下がり、ジハロケテンの量が少ないと、ケテン付加体の収率は下がるが、ケテン付加体中の1−体付加体の比は上がる。ジハロケテンは2−イソプロピルシクロペンタジエンよりも1−イソプロピルシクロペンタジエンへの付加の方が、より優先的に進むからである。
【0051】第2工程の反応温度は、通常、−30℃から50℃であり、好ましくは−30℃から30℃、さらに好ましくは−10℃から10℃の範囲である。温度が低すぎると、反応の進行が遅く実用的でなく、温度が高すぎると、未反応の1−イソプロピルシクロペンタジエンが2−イソプロピルシクロペンタジエンへ異性化したり、発生したケテンが重合する傾向があるからである。第2工程の反応は、槽型反応器で実施する場合には、撹拌下実施するのが良い。好ましくは反応液1立方メートルあたり0.1kW以上の撹拌強度で実施するのが好ましい。さらに好ましくは反応液1立方メートルあたり0.2kW/m3以上の撹拌強度で実施するのが良い。撹拌強度が0.1kW/m3 より小さいと、発生したケテンがイソプロピルシクロペンタジエンに付加するより、重合してしまう割合が増える傾向にあるからである。
【0052】また、ジハロケテンをジハロ酢酸ハロリドの脱ハロゲン化水素で発生させる場合、トリエチルアミンのハロゲン化水素塩が大量に発生し、撹拌が困難になる場合があるので、溶媒で希釈するのが好ましい。この溶媒は、ジハロ酢酸ハロリド、ジハロケテンに対して不活性なものであれば用いることができる。例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、石油エーテル等の飽和炭化水素が挙げられる。第1工程後処理後に得られるイソプロピルシクロペンタジエンがヘキサン溶液の状態であれば、そのまま第2工程に供することができる。第2工程終了後の反応液の後処理は次のように行えばよい。反応液を、ろ過もしくは遠心分離などにより、トリエチルアミンのハロゲン化水素塩を除去した後、塩酸などの鉱酸で洗浄しても良いし、水洗を繰り返し実施しても良い。または反応液に鉱酸もしくは水を添加し、トリエチルアミンのハロゲン化水素塩を溶解した後、下相の水相を抜液してケテン付加体を含む有機相を取得しても良い。ここで得られたケテン付加体を含む有機相から、溶媒に用いた飽和炭化水素を留去する。溶媒留去後のケテン付加体は、さらに蒸留で精製しても良いし、そのまま、次の第3工程の原料にしてもかまわない。
【0053】一方、後処理の際にケテン付加体を含む有機相から分離除去された、トリエチルアミンのハロゲン化水素塩塩、もしくはトリエチルアミンのハロゲン化水素塩を含む水相から、トリエチルアミンを回収することは、資源節約の観点から重要である。トリエチルアミンのハロゲン化水素塩塩、もしくはトリエチルアミンのハロゲン化水素塩を含む水に、水酸化ナトリウムのような無機塩基を添加し、中性もしくはアルカリ性にする。この際、析出している塩が無いように、必要であれば水を加える。こうすることによって、トリエチルアミンを含む有機相とハロゲン化ナトリウムのような無機塩を含む水相に分離するため、水相を除去し、トリエチルアミンを含む有機相を取り出し、蒸留によりトリエチルアミンを精製する。精製されたトリエチルアミンは、再び、第2工程の原料として使用できる。
【0054】次に第3工程について説明する。第3工程は、第2工程で得られたケテン付加体を、塩基を含む混合溶媒中で分解して、ヒノキチオールを製造する工程である。混合溶媒としては、酢酸−酢酸カリウム−水系、酢酸−酢酸ナトリウム−水系、酢酸−トリエチルアミン−アセトン−水系が知られている。本反応は、ケテン付加体からの塩素引き抜きが引き金となって起こると言われており、塩素キャッチャーとして塩基が使われる。またヒノキチオールのヒドロキシル基源として水の存在が必須である。本発明者らの検討の結果、上記従来技術の系のうち、トリエチルアミンを用いる系が、所要時間が短いため好ましい。
【0055】トリエチルアミンを用いる系について、鋭意検討した結果、次のことがわかった。従来技術では、混合溶媒とケテン付加体原料を一度に仕込んで、分解反応を行っているが、この場合高沸点物が多量に副生することが、本発明者らにより、反応液のGPC分析からわかった。しかも反応時間に比例して高沸物が増えるのではなく、反応初期に高沸副生物の生成が多いことを、見出した。そこでトリエチルアミンを最初から所定量仕込むのではなく、滴下もしくは少量ずつ分割して反応系に添加することが、この高沸副生物の生成を大幅に抑制し、その結果ヒノキチオールの収率が向上するので好ましい。さらに、従来技術では酢酸を必須成分として添加しているが、本発明者らが見出したトリエチルアミン滴下法を用いれば、酢酸が無くても高収率でヒノキチオールが得られることがわかった。さらに、酢酸に限らず、ギ酸、プロピオン酸のうち少なくとも1種の有機酸を添加すると、一層ヒノキチオールの収率は向上する。
【0056】また本反応では、高沸副生物のほかに、5員環にラクトン環が付いたビス環化合物(ラクトン副生物と略す)が副生することも判明した。ラクトン副生物は、目的の生成物であるヒノキチオールと沸点が近く、副生量が多いと、ヒノキチオール精製時に負荷が大きくなるため、反応で副生する量を抑えることが好ましい。この件について、本発明者らは、鋭意検討した結果、親水性有機溶媒として、アセトンに替えてターシャリーブタノールを用いたところ、このラクトン副生物の生成が大幅に抑えられることを見出した。
【0057】各成分の比率は特に限定されるものでは無いが、原料のケテン付加体に対してモル比で、水は0.1から30、好ましくは0.5から20、さらに好ましくは0.8から10の範囲である。トリエチルアミンは、ケテン付加体に対してモル比で、0.1から10、好ましくは0.5から5、さらに好ましくは0.8から3の範囲である。有機酸は、トリエチルアミンに対して、0から0.9、好ましくは0から0.7、さらに好ましくは0から0.5の範囲である。有機酸の量がトリエチルアミンに対してモル比で1を越えると、反応が進まなくなるからである。親水性有機溶媒の量は、特に限定されないが、通常、ケテン付加体に対してモル比で、5から30の範囲である。
【0058】第3工程の反応温度は、第1工程、第2工程に比べ高い温度が用いられる。通常50℃から140℃の範囲である。常圧で実施する場合には、反応系の還流温度で実施することが好適に行われる。このようにして第3工程で得られた、粗ヒノキチオールを含む反応液は、抽出・洗浄等の操作を適宜行う。さらに使用する用途、もしくは最終製品に要求される純度に応じて、蒸留または再結晶、もしくは蒸留と再結晶を組み合わせた精製を実施する。粗ヒノキチオールを含む反応液を抽出・洗浄する際に、トリエチルアミンの塩酸塩を含む水溶液が廃水として発生するが、第2工程のときと同様の方法で、この廃水からトリエチルアミンを回収して、再使用することができる。
【0059】粗ヒノキチオールを精製する際に注意しなければならない点は、ヒノキチオールが鉄とキレート錯体を作りやすく着色しやすいこと、また逆に言えば、鉄を材質にした装置であると腐食が激しい点である。従って、ヒノキチオールが接触する装置の材質は、ハステロイCのような高級金属材質か、ガラスもしくはガラスライニングされた装置、またはテフロンコーティングなどの樹脂コーティング、またはセラミック材もしくはセラミックコーティングされた装置、を用いるのが好ましい。ヒノキチオールを精留する場合には、充填材として、セラミック充填材を用いるのが好ましい。
【0060】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。本発明の生成物のガスクロマトグラフィーによる分析条件を次に示す。
1.イソプロピルシクロペンタジエンの分析装置:島津製作所GC−14A、島津製作所クロマトパックCR−4Aカラム:J&Wサイエンティフィック社キャピラリーカラムDB−1(長さ30m×内径0.25mm、液相膜厚0.25μm)
温度条件:カラム40℃×5分→250℃(10℃/分)。注入口60℃、検出器250℃(FID)
2.付加体および加溶媒分解物の分析装置:島津製作所GC−14A、島津製作所クロマトパックCR−4Aカラム:J&Wサイエンティフィック社キャピラリーカラムDB−1(長さ30m×内径0.25mm、液相膜厚0.25μm)
温度条件:カラム100℃×2分→250℃(10℃/分)。注入口300℃、 検出器300℃(FID)
【0061】本発明の実施例で使用した試薬類は下記のとおりである。
・シクロペンタジエンジシクロペンタジエン(和光純薬工業(株)製)を160℃で熱分解して製造した。
・イソプロピルブロマイド:東京化成工業(株)製・ジメチルスルホキシド:和光純薬工業(株)製 特級・n−ヘキサン:和光純薬工業(株)製 特級・ジクロロ酢酸クロライド:東京化成工業(株)製・トリエチルアミン:和光純薬工業(株)製 特級・酢酸:片山化学工業(株)製 特級・アセトン:片山化学工業(株)製 一級・ターシャリーブタノール:和光純薬工業(株)製 特級・テトラヒドロフラン:和光純薬工業(株)製 特級【0062】
【実施例】(実施例1)窒素雰囲気下で、金属ナトリウム13.79g(0.600mol)をテトラヒドロフラン240gに分散させた。シクロペンタジエン47.76g(0.723mol)を導入し、液温度を30℃に維持しつつ1時間撹拌した。テトラヒドロフランを減圧下に留去した後、ジメチルスルホキシド281.50g(3.603mol)を導入し、シクロペンタジエニルナトリウムのジメチルスルホキシド溶液を得た。該溶液にn−ヘキサン142.09gを加えた後0℃に冷却し、イソプロピルブロマイド147.67g(1.201mol)を50分かけて滴下した。この間、反応液温度が5℃を越えないように冷却した。滴下終了後該反応液に対し、液温度が10℃を越えないように冷却しつつ、1規定塩酸62.52gおよびn−ヘキサン154.75gを徐々に加え、同温度で数分間撹拌した。撹拌停止後同温度で数分間静置し、有機層と水層を分離させ、イソプロピルシクロペンタジエン含有n−ヘキサン溶液419.78gを得た。該n−ヘキサン溶液をガスクロマトグラフで分析した結果、イソプロピルシクロペンタジエンの収率は95.2%(0.571mol)、異性体の比率は1−体:5−体:2−体=28.3:68.4:3.3であった。
【0063】該イソプロピルシクロペンタジエン含有n−ヘキサン溶液を、20.0℃で6時間静置することによって5−体を1−体へと異性化させた。異性化後の異性体の比率は1−体:5−体:2−体=95.8:0.9:3.3であった。該n−ヘキサン溶液にn−ヘキサン173.97gを加え、イソプロピルシクロペンタジエン61.77g(0.571mol)を含有するn−ヘキサン溶液を得た。該n−ヘキサン溶液にジクロロ酢酸クロライド92.58g(0.628mol)を加えた後、溶液温度を0℃に保ちながらトリエチルアミン66.58g(0.658mol)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、1N塩酸を加えて塩を溶解した後有機層を分離させ、付加体含有n−ヘキサン溶液を得た。該付加体含有n−ヘキサン溶液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、付加体の収率は85.8%(0.490mol)であった。
【0064】該付加体含有n−ヘキサン溶液のn−ヘキサンを留去した後減圧蒸留し、付加体含有留分107.32g(純度98%、0.480mol)を得た。該付加体をガスクロマトグラフィーで分析したところ、イソプロピルシクロペンタジエンの1−体:5−体:2−体に由来する付加体の比率はそれぞれ99.8:0:0.2であった。該付加体含有留分に酢酸172.94g、ターシャリーブタノール651.07g、水172.99gよりなる混合溶媒を加えて溶解し、還流温度まで昇温した。該溶液を撹拌しつつ、還流状態でトリエチルアミン340.0gを2時間かけて滴下した。滴下終了後さらに2時間加熱還流した後、室温まで冷却した。水953.71gと濃塩酸72.92gを加えた後、ヘキサン858.57gを加えて数分間撹拌した。撹拌停止後数分間静置して有機層と水層を分離させた。得られた有機層をガスクロマトグラフィーで分析したところ、ヒノキチオールの収率は85.2%(0.409mol)であった。
【0065】(実施例2)窒素雰囲気下で、金属ナトリウム31.77g(1.382mol)をテトラヒドロフラン554gに分散させた。シクロペンタジエン109.07g(1.650mol)を導入し、液温度を30℃に維持しつつ1時間撹拌した。テトラヒドロフランを減圧下に留去した後、ジメチルスルホキシド1291.90g(16.535mol)を導入し、シクロペンタジエニルナトリウムのジメチルスルホキシド溶液を得た。窒素雰囲気下で0℃に冷却したイソプロピルブロマイド340.01g(2.765mol)に対し、上記のジメチルスルホキシド溶液を4時間かけて滴下した。
【0066】この間、反応液温度が5℃を越えないように冷却した。滴下終了後該反応液に対し、液温度が10℃を越えないように冷却しつつ、1規定塩酸30.01gおよびn−ヘキサン377.23gを徐々に加え、同温度で数分間撹拌した。撹拌停止後同温度で数分間静置し、有機層と水層を分離させ、イソプロピルシクロペンタジエン含有n−ヘキサン溶液676.23gを得た。該n−ヘキサン溶液をガスクロマトグラフで分析した結果、イソプロピルシクロペンタジエンの収率は95.6%(1.321mol)、異性体の比率は1−体:5−体:2−体=26.4:69.7:3.9であった。該イソプロピルシクロペンタジエン含有n−ヘキサン溶液を、20.0℃で6時間静置することによって5−体を1−体へと異性化させた。異性化後の異性体の比率は1−体:5−体:2−体=95.1:1.0:3.9であった。以後の操作は実施例1と同様に行った。
【0067】(比較例1)イソプロピルシクロペンタジエンと均一に混合する非プロトン性極性溶媒を用い、シクロペンタジエニルナトリウムをイソプロピル化剤に滴下してイソプロピル化を行った例を以下に示す。窒素雰囲気下で、金属ナトリウム30.55g(1.329mol)をテトラヒドロフラン533gに分散させた。シクロペンタジエン105.41g(1.595mol)を導入し、液温度を30℃に維持しつつ1時間撹拌し、シクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液を得た。
【0068】窒素雰囲気下で0℃に冷却したイソプロピルブロマイド326.91g(2.658mol)に対し、上記のテトラヒドロフラン溶液を4時間かけて滴下した。この間、反応液温度が5℃を越えないように冷却した。滴下終了後該反応液に対し、液温度が10℃を越えないように冷却しつつ、1規定塩酸28.0gおよびn−ヘキサン361.92gを徐々に加え、同温度で数分間撹拌した。撹拌停止後同温度で数分間静置し、有機層と水層を分離させた。該有機層をガスクロマトグラフで分析した結果、イソプロピルシクロペンタジエンの収率は60.3%(0.801mol)、異性体の比率は1−体:5−体:2−体=41.1:0.6:58.3であった。
【0069】(比較例2)イソプロピルシクロペンタジエンと均一に混合する非プロトン性極性溶媒を用い、シクロペンタジエニルナトリウムにイソプロピル化剤を極低温下で混合後、昇温してイソプロピル化を行った例を以下に示す。窒素雰囲気下で、金属ナトリウム31.24g(1.359mol)をテトラヒドロフラン504gに分散させた。シクロペンタジエン107.80g(1.631mol)を導入し、液温度を30℃に維持しつつ1時間撹拌し、シクロペンタジエニルナトリウムのテトラヒドロフラン溶液を得た。
【0070】該溶液を−50℃に冷却し、イソプロピルブロマイド334.29g(2.718mol)を40分かけて滴下した。この間、反応液温度を−50℃に維持した。滴下終了後、3時間かけて反応液温度を3℃まで昇温した後、液温度が10℃を越えないように冷却しつつ、1規定塩酸28.8gおよびn−ヘキサン360.02gを徐々に加え、同温度で数分間撹拌した。撹拌停止後同温度で数分間静置し、有機層と水層を分離させた。該有機層をガスクロマトグラフで分析した結果、イソプロピルシクロペンタジエンの収率は58.3%(0.792mol)、異性体の比率は1−体:5−体:2−体=41.2:1.0:57.8であった。
【0071】
【発明の効果】本発明により、シクロペンタジエンとイソプロピル化剤から1−イソプロピルシクロペンタジエンを得、該1−イソプロピルシクロペンタジエンとジハロケテンとを反応させてケテン付加体を得、該ケテン付加体を分解することによってヒノキチオールを製造する方法において、1−イソプロピルシクロペンタジエンを安価かつ高選択的に製造することが可能となる。その結果、ヒノキチオールを安価かにしかも高収率で合成することが可能となる。




 

 


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