発明の名称 |
射出成形用組成物 |
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発行国 |
日本国特許庁(JP) |
公報種別 |
公開特許公報(A) |
公開番号 |
特開2001−234203(P2001−234203A) |
公開日 |
平成13年8月28日(2001.8.28) |
出願番号 |
特願2000−50508(P2000−50508) |
出願日 |
平成12年2月22日(2000.2.22) |
代理人 |
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発明者 |
大塚 昭仁 |
要約 |
目的
構成
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特許請求の範囲
【請求項1】 金属粉末またはセラミックス粉末より成る焼結用粉末とバインダーを含有する射出成形用組成物であって、前記バインダーは、イソパラフィンワックスおよびノルマルパラフィンワックスと、ビカット軟化点が100℃以上、170℃以下の樹脂成分から成り、かつ前記バインダーは、射出成形用組成物全体当たり30〜70容量%の量で含有されており、前記イソパラフィンワックスは、バインダー当たり10〜50容量%の量で含有されていることを特徴とする射出成形用組成物。 【請求項2】 前記樹脂成分が、バインダー当たり20〜50容量%である請求項1に記載の射出成形用組成物。 【請求項3】 前記樹脂成分が、ポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形用組成物。 【請求項4】 前記バインダーにバインダー当たり、3容量%以上、20容量%以下のフタル酸エステルを含有する請求項1から3のいずれかに記載の射出成形用組成物。
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発明の詳細な説明
【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、金属あるいはセラミックスの射出成形焼結製品の製造に供される射出成形組成物に関する。 【0002】 【従来の技術】射出成形粉末冶金法は、金属粉末あるいはセラミックス粉末などの焼結用粉末とバインダーとを混練して得られる射出成形組成物を所定形状の金型に射出成形し、得られた成形品を加熱して脱バインダーし、さらに焼結を行うことにより焼結製品が得られる製造方法であり、特に三次元的に複雑な形状を有する製品やナイフエッジ部などの薄肉部を有する製品を製造するのに有効な方法である。 【0003】しかしながら、製品形状もより複雑化され、薄肉部を多く有する製品やウエルド部(組成物の流れが合流する箇所)が着きにくい製品形状においては、射出成形時にクラック等の欠陥を生じる問題があった。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記課題を解決するため、より複雑な形状を有する製品形状においても、射出成形時の成形欠陥発生を抑制できる射出成形用組成物を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】本発明の射出成形用組成物は、金属粉末またはセラミックス粉末より成る焼結用粉末とバインダーを含有する射出成形用組成物であって、前記バインダーがイソパラフィンワックスおよびノルマルパラフィンワックスとビカット軟化点が100℃以上、170℃以下の樹脂成分から成り、かつ前記バインダーが、射出成形用組成物全体当たり30〜70容量%の量で含有されていることを特徴とする。 【0006】また、前記イソパラフィンワックスは、バインダー当たり10〜50容量%、樹脂成分は、バインダー当たり20〜50容量%含まれていることが好ましく、使用するビカット軟化点が100℃以上、170℃以下の樹脂成分としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。さらに必要により20容量%以下のフタル酸エステル量が使用されていることを特徴とする。 【0007】 【発明の実施の形態】本発明の特徴は、イソパラフィンワックスと、ノルマルパラフィンワックスと、ビカット軟化点が100℃〜170℃の樹脂からなら成り、必要によりフタル酸エステルを使用した点である。イソパラフィンワックス、ノルマルパラフィンワックスは射出成形時の流動性ならび脱脂性に寄与するが、特に、イソパラフィンワックスにおいては、高い靱性を有しているため、成形性の改善効果がある。 【0008】また、樹脂成分は、脱脂時の形状保持に作用し、フタル酸エステルは、分散性や金型との離型性に作用する。以下各構成要素につき説明する。 【0009】(焼結用粉末)本発明において、焼結用粉末としては、鉄、ステンレス鋼、銅−ニッケル合金等の金属粉末やアルミナやジルコニア等のセラミックス粉末が、最終的に製造する焼結製品の用途等に応じて使用される。 【0010】(バインダー)本発明の射出成形用組成物においては、焼結用粉末の射出成形を可能とし、かつ得られる射出成形体に一定の強度を確保するために、射出成形用組成物全体当たり30〜70容量%の量でバインダーを含ませる。このバインダーの含有量が30容量%未満では組成物の流動性が低下し、射出成形が困難となる。また、70容量%を越えると、成形時に成形体表面に面引けと称する欠陥が生じ、また得られる射出成形体中の焼結用粉末の充填密度が低くなり、最終的に得られる焼結製品の密度を向上させることが困難となる。 【0011】本発明において、上記バインダーとしては、上述のとおり、イソパラフィンワックスとノルマルパラフィンワックスとビカット軟化点が100℃〜170℃の樹脂からなり、必要によりフタル酸エステルを使用する。 【0012】パラフィンワックスは、射出成形時における組成物の流動性ならびに脱脂性に寄与するものであり、一般的にはノルマルパラフィンワックスが使用されるが、室温状態で優れた靱性を有するイソパラフィンワックスを添加することにより、ウエルド部が付きにくい製品形状においても改善され、結果として良好な成形体が得られる。イソパラフィンワックスの添加量が10容量%未満では、成形性の改善効果が不十分であり、50容量%を越えるとコストが高くなるため、添加量は、10容量%以上、50容量%以下が好ましい。 【0013】樹脂成分は形状を保持するために必要な成分であり、ビカット軟化点が100℃未満の樹脂では、保形性が不十分となり脱脂時に変形が生じ、170℃を越えると混練温度が高くなり、ワックス成分の分解蒸発が生じるので、ビカット軟化点を100℃〜170℃とした。このような樹脂成分としては、ポリプロピレンが好ましい。また、前記樹脂成分量が20容量%未満では、保形性が不十分であり、50容量%以上添加すると脱脂時間を要するため、樹脂添加量としては、20〜50容量%が好ましい。 【0014】本発明において使用するフタル酸エステルは、分子中のエステル結合の存在により、焼結用粉末との親和性にも優れ、バインダーとの橋渡し的役割を果たし、分散効果と共に金型との離型性に作用するため、離型の不十分な製品形状には、フタル酸エステルの添加は有効である。添加量については製品形状によって調整する必要もあるが、3容量%以上の添加が有効であり、20容量%を超えると、得られる射出成形体の強度が低下し、成形体が脆くなるため、添加量は20容量%以下が好ましい。 【0015】(射出成形用組成物)本発明の射出成形用組成物は、焼結用粉末、バインダーを上述した割合で均一に混練することによって容易に調整される。この組成物は、射出成形、脱脂および焼結の各工程を経て最終製品とされる。 【0016】射出成形は、プラスチックの射出成形に使用されている通常の射出成形機を用いて行うことが可能である。 【0017】脱脂は、一般的に射出成形体の加熱処理を行うことによって行われるが、焼結粉末として酸化されやすい金属が使用されている場合には、加熱処理を不活性ガス雰囲気下または還元性雰囲気下で行うことが好適である。 【0018】焼結は、使用する焼結用粉末の種類によっても異なるが、従来より通常実施されている真空、不活性ガス雰囲気、還元性雰囲気下の条件で行うことができる。 【0019】 【実施例】(実施例1)バインダーとして融点が50℃のイソパラフィンワックス:15容量%、ノルマルパラフィンワックス:40容量%、ビカット軟化点が130℃のポリプロピレン樹脂:45容量%であるバインダーを使用した。 【0020】平均粒径5μmのカルボニル鉄粉に、前記組成のバインダーを45容量%添加して混練し、射出成形組成物を調整した。 【0021】次いで、上記射出成形組成物を射出成形し、図1に示すような中空部を有する成形体テストピース(最大長さ39mm×27mm、最大高さ12mmで、直径3mmの孔部と15mm×13mmの開口部を有する)を作製し、得られた成形体のクラックの発生の有無を調査した。 【0022】さらに上記で得られた成形体を、窒素気流中で350℃まで加熱し、脱脂処理を行い、処理後の脱脂体を観察し、クラックや変形等の有無により、脱脂体の評価を行った。さらに、脱脂処理が行われた脱脂体を1200℃、真空雰囲気で2時間焼結処理を行い、得られた焼結体を観察し、クラックや変形等の有無により焼結体の評価を行った。以上の結果を表1に示す。 【0023】(実施例2)バインダーとして融点が50℃のイソパラフィンワックス:30容量%、ノルマルパラフィンワックス:25容量%、ビカット軟化点が130℃のポリプロピレン樹脂:45容量%であるバインダーを使用した以外は、実施例1と同様に、射出成形組成物を調整し、射出成形を行い、得られた成形体、脱脂体、焼結体を観察し、クラックや変形等の有無により評価を行った。以上の結果を表1に示す。 【0024】(実施例3)バインダーとして融点が50℃のイソパラフィンワックス:45容量%、ノルマルパラフィンワックス:10容量%、ビカット軟化点が130℃のポリプロピレン樹脂:45容量%であるバインダーを使用した以外は、実施例1と同様に、射出成形組成物を調整し、射出成形を行い、得られた成形体、脱脂体、焼結体を観察し、クラックや変形等の有無により評価を行った。以上の結果を表1に示す。 【0025】(実施例4)バインダーとして融点が50℃のイソパラフィンワックス:30容量%、ノルマルパラフィンワックス:25容量%、ビカット軟化点が130℃のポリプロピレン樹脂:40容量%、フタル酸エステル5容量%であるバインダーを使用した以外は、実施例1と同様に、射出成形組成物を調整し、射出成形を行い、得られた成形体、脱脂体、焼結体を観察し、クラックや変形等の有無により評価を行ったが、特に離型性は良好であった。以上の結果を表1に示す。 【0026】(比較例1)バインダーとして、ノルマルパラフィンワックス:55容量%、ビカット軟化点が130℃のポリプロピレン樹脂:45容量%であるバインダーを使用した以外は、実施例1と同様に、射出成形組成物を調整し、射出成形を行なったが、成形体のウェルド部が着かないでクラックが生じた。以上の結果を表1に示す。 【0027】(比較例2)ビカット軟化点が88℃のポリエチレン樹脂をポリプロピレン樹脂の替わりに使用した以外は、実施例2と同様に射出成形組成物を調整し、該組成物を用いて射出成形、脱脂処理を行ったが、脱脂時に変形が生じた。結果を表1に示す。 【0028】(比較例3)バインダーとして融点が50℃のイソパラフィンワックス:40容量%、ノルマルパラフィンワックス:45容量%、ビカット軟化点が130℃のポリプロピレン樹脂:15容量%であるバインダーを使用した以外は、実施例1と同様に、射出成形組成物を調整し、該組成物を用いて射出成形、脱脂処理を行ったが、脱脂時に変形が生じた。結果を表1に示す。 【0029】(比較例4)バインダーとして融点が50℃のイソパラフィンワックス:20容量%、ノルマルパラフィンワックス:10容量%、ビカット軟化点が130℃のポリプロピレン樹脂:45容量%、フタル酸エステル:25容量%であるバインダーを使用した以外は、実施例1と同様に、射出成形組成物を調整し、該組成物を用いて射出成形を行ったが、成形体のウエルド部が着かないで、クラックが生じた。結果を表1に示す。 【0030】 【表1】
【0031】 【発明の効果】本発明によれば、射出成形時に生じる成形欠陥の発生を抑制することが可能であり、本発明の射出成形用組成物は、複雑な三次元形状を有する焼結製品の製造に極めて有用である。
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