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発明の名称 炭化チタン・酸化膜被覆工具
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開平10−263904
公開日 平成10年(1998)10月6日
出願番号 特願平9−77504
出願日 平成9年(1997)3月28日
代理人
発明者 石井 敏夫 / 権田 正幸 / 植田 広志 / 島 順彦
要約 目的


構成
特許請求の範囲
【請求項1】 基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、並びに酸化アルミニウムのいずれか一種の単層皮膜または二種以上の多層皮膜を有しその少なくとも一層がチタンの炭化物からなるとともに、前記皮膜表面にチタンの炭酸化物または炭窒酸化物からなる層を形成し、さらに前記チタンの炭酸化物または炭窒酸化物からなる層を介して酸化膜を形成した炭化チタン・酸化膜被覆工具において、前記チタンの炭化物層の等価X線回折強度PR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311),PR(222)のうちPR(311)が最も大きいことを特徴とする炭化チタン・酸化膜被覆工具。
【請求項2】 基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、並びに酸化アルミニウムの二種以上の多層皮膜を有しその多層皮膜の基体表面側から第二層以降の少なくとも一層がチタンの炭化物からなるとともに、前記皮膜表面にチタンの炭酸化物または炭窒酸化物からなる層を形成し、さらに前記チタンの炭酸化物または炭窒酸化物からなる層を介して酸化膜を形成した炭化チタン・酸化膜被覆工具において、前記チタンの炭化物層の等価X線回折強度PR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311),PR(222)のうちPR(111)が最も大きいことを特徴とする炭化チタン・酸化膜被覆工具。
【請求項3】 前記酸化膜がα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化チタン・酸化膜被覆工具。
【請求項4】 前記酸化膜の表面にチタンの窒化膜が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の炭化チタン・酸化膜被覆工具。
【請求項5】 周期律表のIVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物のうちの少なくとも一種以上とFe、Ni、Co、W、Mo、Crのうちの少なくとも一種以上とよりなる超硬質合金を基体とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の炭化チタン・酸化膜被覆工具。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、硬質皮膜被覆工具として有用な炭化チタン・酸化膜被覆工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、被覆工具は超硬質合金、高速度鋼、特殊鋼よりなる基体表面に硬質皮膜を化学蒸着法や、物理蒸着法により成膜することにより作製される。このような被覆工具は皮膜の耐摩耗性と基体の強靭性とを兼ね備えており、広く実用に供されている。特に、高硬度材を高速で切削する場合に、切削工具の刃先温度は1000℃前後まで上がるとともに、被削材との接触による摩耗や断続切削等の機械的衝撃に耐える必要があり、耐摩耗性と強靭性とを兼ね備えた被覆工具が重宝されている。
【0003】硬質皮膜には、耐摩耗性と靭性に優れた周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物からなる非酸化膜や耐酸化性に優れた酸化膜が単層あるいは多層膜として用いられる。非酸化膜では例えばTiC、TiN、TiCNが利用され、酸化膜では特にα型酸化アルミニウムやκ型酸化アルミニウム等が利用されている。特に、周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物からなる非酸化膜は硬度が高く、耐摩耗性に優れるのが特長であり被覆工具に多用されているが、その欠点は酸化されやすく特性が安定しないことである。
【0004】この欠点を補うため、非酸化膜上に耐酸化性に優れた酸化アルミニウム等の酸化膜を形成する多層膜構造を持たせることにより非酸化膜の酸化を防止することが行われている。この非酸化膜/酸化膜の多層膜構造の欠点は非酸化膜と酸化膜との間の密着性が低いこと、あるいは高温で機械強度が安定しないことである。前記酸化膜としてκ型酸化アルミニウム膜を用いた場合、このκ型酸化アルミニウムは前記非酸化膜との密着性は比較的良好でありしかも1000〜1020℃と比較的低温で成膜できる長所はあるものの、準安定状態のアルミナであるため高温での使用時にα型酸化アルミニウムに変態するため体積が変化し、膜中にクラックが入り、膜が剥がれるという欠点がある。これに対して、前記酸化膜としてα型酸化アルミニウムを用いた場合、このα型酸化アルミニウムは高温でも安定なアルミナ膜であり高温特性に優れる長所があるものの、非酸化膜の上に直接成膜するためには高温で成膜する必要があり、α型酸化アルミニウムの結晶粒径が大きくなり機械特性が低下する欠点がある。
【0005】上記のように耐摩耗性の優れた非酸化膜と高温特性の優れた酸化膜の両者の特長を活かし、両者を密着性良く形成する等を目的として、チタンの炭化物からなる膜の表面上にチタンの炭酸化物、炭窒酸化物からなる層を介在して酸化膜を形成する方法、あるいは、Al2O3等の上記の酸化膜を形成しないもののチタンの炭化物、窒化物、炭窒化物等の膜特性を改善する等を目的とする方法が従来より種々提案されている。例えば、特許番号2535866号ではX線回折で(220)面に最強ピークが現れるTiの炭窒酸化物の単層またTiの炭窒酸化物とTiの炭化物および炭窒化物のうちの一種もしくは2種の複層からなる内層とκ型酸化アルミニウムまたはκ型酸化アルミニウムとα型酸化アルミニウムから成る外層とで構成した表面被覆硬質合金製切削工具が提案されている。また、特許番号2556101号ではX線回折におけるピーク高さが(200)面に現れ、2番目のピーク高さが(220)面に現れ、さらに3番目のピーク高さが(111)面に現れるピーク高さ分布を有するTiの炭化物が提案されている。さらに、この特許番号2556101号では従来のTiC層では最高のピーク高さが(200)面に現れ、同2番目が(111)面に、同3番目が(220)面に現れると記述されている。
【0006】また、特開平2−159363、特開平5−287323、特開平5−295517では基体と接する第一層に(111)面の配向の強いTiの炭化物、窒化物、炭窒化物の膜あるいはB1型化合物を用いることを提案している。また、特開平8−281502では(200)面に対する(111)面の強度比が2〜60の周期律表4a、5a、6a族の炭化物、窒化物、炭酸化物、窒酸化物からなる硬質膜が提案されている。また、特開平8−257808ではX線回折ピーク強度がI(111)>I(220)>I(200)であるチタンの炭酸化物層を少なくとも一層含む複合硬質層が提案され、特開平8−90311ではX線回折による最大ピーク強度が(111)面に現れるチタンの炭窒化物層が少なくとも一層含まれそのチタンの炭窒化物層の上に特定のκ-Al2O3層を被覆する切削工具が提案されている。
【0007】しかしながら、上記の提案はいずれも本発明とは異質なるものである。例えば、特許番号2535866号ではX線回折で(220)面に最強ピークが現れるTiの炭窒酸化物の単層またTiの炭窒酸化物とTiの炭化物および炭窒化物のうちの一種もしくは2種の複層からなる内層が提案されているが、(111)面、(311)面に関しては言及されておらず、特許番号2556101号では従来の周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物からなる非酸化膜、特にTiの炭化物層はX線回折時の最高ピークがいずれも(200)面に現れ(311)面、(111)面あるいは(220)面は(200)面の強度よりも低いのが特徴である。また、特開平2−159363、特開平5−287323、特開平5−295517、特開平8−257808で提案されている(111)面の強度が高い膜を用いる場合においても、基体と接する第一層の(111)面の強度が高いことが必須になっていたり、あるいは、(111)面と(200)面間のX線回折強度比のみを規定しその他の(220)面、(311)面等を考慮していないものである。また、これら従来例の多くは膜に圧縮力が発生するイオンプレーティング方法により硬質膜を成膜するものであり、この場合は、化学反応を用いて成膜し引っ張り応力が発生するため本質的に膜特性が異なるCVD方法により成膜した例は記載されていない。また、特開平8−257808、特開平8−90311で提案されている膜はTiCNOあるいはTiCNであり、チタンの炭化物層に関しては言及されていない。また、特開平2−159363、特開平5−287323、特開平8−281502等は酸化アルミニウム等の主要な酸化膜が被覆されておらず、酸化アルミニウム等の主要な酸化膜を被覆する本発明とは異質なものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は耐摩耗性の優れた非酸化膜と高温特性の優れた酸化膜の両者の特長を活かし、両者を密着性良く形成するものとして、先に特願平8−192795、特願平8−334948を提案し、更なる改善策を鋭意研究してきた結果、(111)面、(311)面の配向が強い、即ち等価X線回折強度PR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311),PR(222)のうちPR(111)あるいはPR(311)が最も大きい周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物からなる膜、特にTiの炭化物層の表面上にチタンの炭酸化物、炭窒酸化物からなる層を介して酸化膜を形成することにより優れた工具特性が得られることを見いだした。即ち、本発明が解決しようとする課題は(111)面、(311)面の配向が強い、即ち等価X線回折強度PR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311),PR(222)のうちPR(111)あるいはPR(311)が最も大きいことを特徴とする周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物からなる膜、特にTiの炭化物層の表面上にチタンの炭酸化物、炭窒酸化物の一種からなる層を介して酸化膜を形成することにより、切削特性等の品質が安定した炭化チタン・酸化アルミニウム被覆工具を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するために改善策を鋭意研究してきた結果、Tiの炭化物層を以下のように改質することで炭化チタン・酸化アルミニウム被覆工具の特性が改善され、前記の問題点が解消することを見出し、本発明に想到した。
【0010】即ち本発明は、基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、並びに酸化アルミニウムのいずれか一種の単層皮膜または二種以上の多層皮膜を有しその少なくとも一層がチタンの炭化物からなるとともに、前記皮膜表面にチタンの炭酸化物または炭窒酸化物からなる層を形成し、さらに前記チタンの炭酸化物または炭窒酸化物からなる層を介して酸化膜を形成した炭化チタン・酸化膜被覆工具において、前記チタンの炭化物層の等価X線回折強度PR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311),PR(222)のうちPR(311)が最も大きいことを特徴とする炭化チタン・酸化膜被覆工具である。また、本発明は基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、並びに酸化アルミニウムの二種以上の多層皮膜を有しその多層皮膜の基体表面側から第二層以降の少なくとも一層がチタンの炭化物からなるとともに、前記皮膜表面にチタンの炭酸化物または炭窒酸化物からなる層を形成し、さらに前記チタンの炭酸化物または炭窒酸化物からなる層を介して酸化膜を形成した炭化チタン・酸化膜被覆工具において、前記チタンの炭化物層の等価X線回折強度PR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311),PR(222)のうちPR(111)が最も大きいことを特徴とする炭化チタン・酸化膜被覆工具である。上記本発明では、前記酸化膜がα型酸化アルミニウムを主とする酸化膜で形成されたり、前記酸化膜の表面にチタンの窒化膜が形成される構成が実用性の高いものである。また、周期律表のIVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物のうちの少なくとも一種以上とFe、Ni、Co、W、Mo、Crのうちの少なくとも一種以上とよりなる超硬質合金を基体として用いることが実用性に富むものである。
【0011】
【発明の実施の形態】図2は代表的な本発明による炭化チタン・酸化膜被覆工具の皮膜部分を試料面にして2θ−θ走査法により測定したX線回折パターンを示したものであり、図1は後述のように図2のX線回折パターンから求めた各(hkl)面の等価X線回折強度PR(hkl)値を図示したものである。X線源にはCuのKα1(波長λ=1.5405A)を用いた。膜の構成は、基体表面にTiNとTiCNを成膜した後、TiC層を成膜したものである。図1から本発明品のTiCの等価X線回折強度はPR(311)の値が最も大きく、次にPR(111)が大きく、PR(220)、PR(200)の値は小さいことがわかる。
【0012】等価ピーク強度PR(hkl)はTiの炭化物層の(hkl)面からのX線ピーク強度を定量的に評価するために次式により定義したものである。ここでI(hkl)は(hkl)面による実測時のX線回折強度を表し、I0(hkl)はASTMファイル No.32−1383 (Powder Diffraction File Published by JCPDS International Center for Diffraction Data)に記載されているTiCのX線回折強度であり、配向が等方的である粉末粒子の(hkl)面からのX線回折強度を表している。表1はASTMファイル No.32−1383に記載されているTiCのX線回折強度I0(hkl)とd定数からX線源に上記CuKα1線を用いた時に得られる2θ値を計算したものをまとめたものである。
【0013】
【表1】

【0014】PR(hkl)={I(hkl)/I0(hkl)}/[Σ{I(hkl)/I0(hkl)}/5]但し、(hkl)=(111)、(200)、(220)、(311)、(222)
上式からわかるように、PR(hkl)は、ASTMファイルに記載された等方粒子のX線ピーク強度に対する、X線回折で実測した皮膜の(hkl)面からのX線回折ピーク強度の相対強度を示しており、PR(hkl)値が大きい程(hkl)面からのX線ピーク強度が他のピーク強度よりも強く、(hkl)面が基体表面の接線方向に配向していることを示す。図1、図2等に示すように、本発明品におけるTiの炭化物層のPR(hkl)を測定すると、後述の通りそのTiの炭化物層はPR(311)、PR(111)が大きく、PR(200)、PR(220)は小さい値に留まっており、(311)面、(111)面への配向が強く、(200)面、(220)面の配向が弱いことがわかる。
【0015】本発明における被覆方法には既知の成膜方法を適用することが可能である。例えば、通常の化学蒸着法(熱CVD)、プラズマを付加した化学蒸着法(PACVD)等を用いることができる。用途は切削工具に限るものではなく、Tiの炭化物膜を含む単層あるいは多層の硬質皮膜により被覆された耐摩耗材や金型、溶湯部品等でも良い。また酸化アルミニウム膜はα型酸化アルミニウム単相に限るものではなく他の酸化物、例えばκ型酸化アルミニウムとα型酸化アルミニウムとの混合膜やα型酸化アルミニウムとγ型酸化アルミニウム、θ型酸化アルミニウム、δ型酸化アルミニウム、χ型酸化アルミニウム等、他の酸化アルミニウムとの混合膜あるいはα型酸化アルミニウムと酸化ジルコニウム等他の酸化物との混合膜であっても同様の効果が得られる。
【0016】本発明におけるTiの炭化物膜、酸化アルミニウム膜は必ずしも最外層である必要はなく、例えば更にその上に少なくとも一層のチタン化合物(例えばTiN層等)を被覆しても良い。
【0017】次に本発明による被覆工具を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものでない。
【0018】(実施例1)WC72%,TiC8%,(Ta,Nb)C11%,Co9%(%はいずれも重量%を示す。)の組成よりなる切削工具用超硬基板をCVD炉内にセットし、その表面に、化学蒸着法によりH2キャリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用い0.3μm厚さのTiNを900℃でまず形成し、次に、H2キャリヤーガスとTiCl4ガスとCH3CNガスを原料ガスに用い6μm厚さのTiCN膜を900℃で成膜した後、950〜1020℃でCH4/TiCl4ガスの容積比が3〜10のTiCl4ガスとCH4ガスとH2キャリヤーガスとをトータル2,200ml/分で120分間流してTiC膜を成膜し、そのまま連続して本構成ガスに更に2.2〜110ml/分のCO2ガスを追加して5〜30分間成膜することによりTiCO層を薄く成膜した。次いで、AlCl3ガスとH2ガス2l/分とCO2ガス100ml/分およびH2Sガス8ml/分とをCVD炉内に流し1010℃でα型酸化アルミニウムを成膜し、その後、H2ガス4l/分とTiCl4ガス50ml/分とN2ガス1.3l/分を流し1010℃で窒化チタニウム膜を成膜し本発明品(被覆工具)No.1、2を作製した。作製した膜のX線回折を理学電気(株)製のX線回折装置(RU−300R)を用いて2θ−θ法により2θが20〜90°の範囲内で測定した。X線源には上記CuKα1線のみを用い、Kα2線とノイズとは装置に内蔵されたソフトにより除去した。上記図2はその測定結果の一例を示したものである。図2と同様のX線回折パターンから求めた本発明品の炭化チタン膜の各ピークのX線回折強度I(hkl)の測定値を表2のNo.1、2に、そのX線回折強度I(hkl)から式(1)により求めた等価X線強度比PR(hkl)値を表3のNo.1、2に示した。図1は表3中にまとめた本発明品No.1、2の等価X線強度比PR(hkl)値を図示したものである。表3のNo.1〜2と図1より、本発明品はPR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311)、PR(222)のうちPR(111)あるいはPR(311)が最も大きく(111)面や(311)面の配向が最も強いことがわかる。なお、実測される2θ値は表1にまとめたASTMファイルに記載されている2θ値の前後で微妙に異なるため、図2等のX線回折パターンにおいてTiC(炭化チタン)のピークを同定するときは、2θ値とともに、その前後のWCのピーク、TiCNのピーク、TiNのピーク、α-Al2O3のピーク等との位置関係も考慮して決定した。
【0019】
【表2】

【0020】
【表3】

【0021】(従来例1)Tiの炭化物膜の等価X線強度比PR(hkl)値の差異による炭化チタン膜被覆工具の切削特性への影響を明らかにするために、実施例1と同様にWC72%,TiC8%,(Ta,Nb)C11%,Co9%(%はいずれも重量%を示す。)の組成よりなる切削工具用超硬基板をCVD炉内にセットし、その表面に、化学蒸着法によりH2キャリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用い0.3μm厚さのTiNを900℃でまず形成し、次に、H2キャリヤーガスとTiCl4ガスとCH3CNガスを原料ガスに用い6μm厚さのTiCN膜を900℃で成膜した後、950〜1020℃でCH4/TiCl4ガスの容積比が2〜3のTiCl4ガスとCH4ガスとH2キャリヤーガスとをトータル2,200ml/分で120分間流してTiC膜を成膜し、そのまま連続して本構成ガスに更に2.2〜110ml/分のCO2ガスを追加して5〜30分間成膜することによりTiCO層を薄く成膜した。次いで、AlCl3ガスとH2ガス2l/分とCO2ガス100ml/分およびH2Sガス8ml/分とをCVD炉内に流し1010℃でα型酸化アルミニウムを成膜し、その後、H2ガス4l/分とTiCl4ガス50ml/分とN2ガス1.3l/分を流し1010℃で窒化チタニウム膜を成膜し従来品(被覆工具)No.3、4を作製した。作製した膜のX線回折パターンを実施例1と同様にして測定し得られた炭化チタン膜の各ピークのX線回折強度の測定値I(hkl)とその測定値I(hkl)から求めたPR(hkl)値を表2、表3のNo.3、4に示した。表3のNo.3、4より、本従来品はPR(200)あるいはPR(220)がPR(111)、あるいはPR(311)よりも大きく、(200)面あるいは(220)面の配向が強いことがわかる。
【0022】次に、実施例1および従来例1の条件で製作した切削工具(スローアウェイチップ)を用いて、以下の条件で連続切削し、平均逃げ面摩耗量が0.4mm、クレーター摩耗が0.1mmのどちらかに達した時間を寿命と判断した。
被削材 FC25(HB230)
切削速度 180m/min送り 0.3mm/rev切り込み 1.5mm水溶性切削油使用この切削試験の結果を表4に示す。表4より、従来例1の条件で作製した従来品のスローアウェイチップNo.3、4は25分間以内の切削で寿命に達しているのに対して、実施例1の条件で作製した本発明によるスローアウェイチップチップNo.1、2の寿命はいずれも40〜50分間切削できる良好なもので、切削耐久特性が優れていることがわかる。また、表3、4より、PR(311)値が最も強く、次いで(111)面が強い時には切削寿命が50分に達し特に切削特性が優れることがわかる。
【0023】
【表4】

【0024】(実施例2)WC72%,TiC8%,(Ta,Nb)C11%,Co9%(%はいずれも重量%を示す。)の組成よりなる切削工具用超硬基板をCVD炉内にセットし、その表面に、化学蒸着法によりH2キャリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用い0.3μm厚さのTiNを900℃でまず形成し、次に、H2キャリヤーガスとTiCl4ガスとCH3CNガスを原料ガスに用い6μm厚さのTiCN膜を900℃で成膜した後、950〜1020℃でCH4/TiCl4ガスの容積比が3〜10のTiCl4ガスとCH4ガスとH2キャリヤーガスとをトータル2,200ml/分で120分間流してTiC膜を成膜し、そのまま連続して本構成ガスにCH4ガスと同量のN2ガスと2.2〜110ml/分のCOガスとを追加して5〜30分間成膜することによりTiCNO層を薄く成膜した。次いで、AlClガスとH2ガス2l/分とCO2ガス100ml/分およびH2Sガス8ml/分とをCVD炉内に流し1010℃でα型酸化アルミニウムを成膜し本発明品(被覆工具)No.21、22を作製した。作製した膜のX線回折パターンを実施例1と同様にして測定し実地例2の一例を示す図3のX線回折パターンを得た。図3より形成された酸化膜は大部分がα-Al2O3でありκ-Al2O3が一部形成されていることがわかる。図3のX線回折パターンから求めた本発明品No.21、22の炭化チタン膜の各ピークのX線回折強度I(hkl)の測定値を表5のNo.21、22に、そのX線回折強度I(hkl)から式(1)により求めた等価X線強度比PR(hkl)値を表6のNo.21、22にまとめた。表6より、本発明品はPR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311)、PR(222)のうちPR(111)あるいはPR(311)が最も大きく(111)面や(311)面の配向が最も強いことがわかる。なお、実測される2θ値は表1にまとめたASTMファイルに記載されている2θ値の前後で微妙に異なるため、図3等のX線回折パターンにおいてTiC(炭化チタン)のピークを同定するときは、2θ値とともに、その前後のWCのピーク、TiCNのピーク、TiNのピーク、κ-Al2O3のピーク、α-Al2O3のピーク等との位置関係も考慮して決定した。
【0025】(従来例2)Tiの炭化物膜の等価X線強度比PR(hkl)値の差異による炭化チタン膜被覆工具の切削特性への影響を明らかにするために、実施例1と同様にWC72%,TiC8%,(Ta,Nb)C11%,Co9%(%はいずれも重量%を示す。)の組成よりなる切削工具用超硬基板をCVD炉内にセットし、その表面に、化学蒸着法によりH2キャリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用い0.3μm厚さのTiNを900℃でまず形成し、次に、H2キャリヤーガスとTiCl4ガスとCH3CNガスを原料ガスに用い6μm厚さのTiCN膜を900℃で成膜した後、950〜1020℃でCH4/TiCl4ガスの容積比が2〜3のTiCl4ガスとCH4ガスとH2キャリヤーガスとをトータル2,200ml/分で120分間流してTiC膜を成膜し、そのまま連続して本構成ガスに更にCH4ガスと同量のN2ガスと2.2〜110ml/分のCO2ガスとを追加して5〜30分間成膜することによりTiCNO層を薄く成膜した。次いで、AlCl3ガスとH2ガス2l/分とCO2ガス100ml/分およびH2Sガス8ml/分とをCVD炉内に流し1010℃でα型酸化アルミニウムを成膜し従来品(被覆工具)No.23、24を作製した。作製した膜のX線回折パターンを実施例1と同様にして測定した炭化チタン膜の各ピークのX線回折強度の測定値I(hkl)とその測定値I(hkl)から求めたPR(hkl)値を表5、表6のNo.23、24に示した。表6のNo.23、24はPR(200)あるいはPR(220)が、PR(111)あるいはPR(311)よりも大きく、(200)面あるいは(220)面の配向が強いことがわかる。
【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】次に、実施例2および従来例2の条件で製作した切削工具(スローアウェイチップ)を用いて、以下の条件で連続切削し、平均逃げ面摩耗量が0.4mm、クレーター摩耗が0.1mmのどちらかに達した時間を寿命と判断した。
被削材 FC25(HB230)
切削速度 180m/min送り 0.3mm/rev切り込み 1.5mm水溶性切削油使用この切削試験の結果を表7に示す。表7より、従来例2の条件で作製した従来品のスローアウェイチップNo.23、24は20分間以内の切削で寿命に達しているのに対して、実施例2の条件で作製した本発明によるスローアウェイチップNo.21、22の寿命はいずれも30〜40分間切削できる良好なもので、切削耐久特性が優れていることがわかる。また表6、表7より、PR(311)値が最も強く、次いでPR(111)値が強い時には切削寿命が40分に達し特に切削耐久特性が優れることがわかる。
【0029】
【表7】

【0030】以上より、チタンの炭化物層の等価X線回折強度PR(111)、PR(200)、PR(220)、PR(311),PR(222)のうちPR(311)あるいはPR(111)のいずれかを最も大きくすることにより切削耐久特性の優れた炭化チタン・酸化膜被覆工具を得られることがわかる。本発明ではTiの炭化膜の組成はTiCに限るものではなく微量(不可避)の添加物、不純物等が含まれたものでも上記実施例と同様の作用効果が得られることは勿論である。また、下地膜はTiCNに限るものではなく、例えばTiN膜上に本発明のTiの炭化膜を成膜した場合も上記実施例と同様の作用効果が得られた。また、工具の形状はスローアウェイ型の切削工具に限るものではなく、他の形状例えばエンドミル形状等他の形状であっても同様の効果が得られ、ロール等の耐摩耗材においても同様の効果が確認された。
【0031】
【発明の効果】上述のように、本発明によれば、皮膜の密着性が良く、機械特性の優れた長寿命の炭化チタン・酸化膜被覆工具が実現でき、極めて有用なものである。




 

 


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