発明の名称 |
チタン酸ストロンチウム基板の表面処理方法 |
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発行国 |
日本国特許庁(JP) |
公報種別 |
公開特許公報(A) |
公開番号 |
特開平8−102560 |
公開日 |
平成8年(1996)4月16日 |
出願番号 |
特願平6−236189 |
出願日 |
平成6年(1994)9月30日 |
代理人 |
【弁理士】 【氏名又は名称】西田 新
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発明者 |
鯉沼 秀臣 / 吉本 護 / 石山 修 / 篠原 真 |
要約 |
目的 STO(SrTiO3 )基板の最表面の終端構造を、ほぼ完全なTiO2 面とすることが可能な処理方法を提供する。
構成 STO基板を酸素雰囲気下で高温アニールする。そのアニール温度は1000℃前後とし、また、雰囲気酸素の圧力は例えば常圧(1atm)とする。 |
特許請求の範囲
【請求項1】 高温超伝導薄膜または強誘電体薄膜をエピタキシャル成長させる基板の表面処理方法であって、チタン酸ストロンチウム基板を酸素雰囲気下で高温アニールすることにより、TiO2 面で終端された最表面構造を得ることを特徴とするチタン酸ストロンチウム基板の表面処理方法。
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発明の詳細な説明
【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、高温超伝導薄膜あるいは強誘電体薄膜をエピタキシャル成長させるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )基板(以下STO基板と称する)の表面処理方法に関する。 【0002】 【従来の技術】STO基板にSrTiO3 等の薄膜をエピタキシャル成長させる場合、通常、成膜前に基板表面を清浄化する処理が行われており、その表面清浄化方法としては、従来、購入したSTO〔001〕基板を有機溶剤等で洗浄した後、真空中でスパッタエッチ(Arスパッタ等)し、さらにアニールするといった方法が一般に採用されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところで、上記した従来の方法によれば、表面処理を行った後でも、STO基板の最表面にTiO2 面とSrO面とが混在しており(図3の模式図参照)、このことが、後のエピタキシャル成長を精密に制御できない要因となっている。 【0004】すなわち、STO基板にSrTiO3 等の薄膜を原子層の単位で制御性良く成長させる場合、STO基板の最表面は完全なTiO2 面またはSrO面とすることが良いと言われており、基板の最表面にTiO2 面とSrO面とが混在していると、その不完全性が結晶成長過程において反映され、その影響がエピタキシャル成長を原子層単位で精密に制御する上での阻害要因となる。 【0005】本発明はそのような事情に鑑みてなされたもので、STO基板の最表面の終端構造をほぼ完全なTiO2 面とすることが可能な処理方法の提供を目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明の表面処理方法は、STO基板を酸素雰囲気下で高温アニールすることにより、TiO2 面で終端された最表面構造を得ることによって特徴づけられる。 【0007】ここで、本発明において採用する高温アニールの温度は750℃〜1300℃の範囲が適当で、また、アニール時の雰囲気酸素の圧力は特に限定はなく、常圧(1atm) 、加圧または減圧のいずれの状態でもよい。 【0008】 【作用】STO〔001〕基板を、酸素雰囲気下で1000℃±200℃程度の高温でアニールすると、STO基板の最表面はほぼ100%TiO2 面で終端される。これは、STO基板を1000℃付近にまで加熱すると、基板の構成元素であるTiは基板表面にとどまるが、Srは基板表面から飛び出してしまい、その結果として基板最表面にはSrOが存在しなくなる、といったメカニズムによるものと考えられる。 【0009】なお、以上の点を考慮すると、本発明の表面処理方法を実施する際の高温アニールの温度範囲は、Srのみが基板表面から飛び出すのに必要な温度の最低値付近を下限値とし、また上限値は高温加熱によりTiが基板表面から飛び出さない程度の温度とする必要があり、その具体的な数値は先に述べたように750℃〜1300℃が適当である。 【0010】 【実施例】まず、購入したSTO〔001〕基板(無処理)を試料とし、その試料を処理炉内に配置して、常圧(1atm) の酸素雰囲気下で1000℃に加熱して10時間の高温アニールを行い、この処理後の試料の表面を、CAICISS(Coaxial Impact Collision Ion Scattering Spectroscopy)により測定した。また、購入したままの状態のSTO〔001〕基板を試料として、同様にCAICISSにより測定したところ、図1に示すTOFスペクトルSP1とSP3が得られた。 【0011】その測定結果から、未処理の試料のTOFスペクトルSP3では、TiとSrの双方の信号が観測され、その最表面にTiO2 面とSrO面が混在しているのに対し、高温アニールを施した試料のTOFスペクトルSP1では、Sr信号が極めて小さくて、最表面がほぼ100%のTiO2 面となっていることが判明した。このことから、本発明の表面処理方法が、STO基板の最表面の終端構造をほぼ完全なTiO2 面とするのに適した優れた方法であることが確認できた。 【0012】そして、前記した表面処理を施した試料表面に、MBE法等によりSr薄膜をエピタキシャル成長させた後、その試料の最表面構造をCAICISSにより測定したところ、図1に示すTOFスペクトルSP2が得られ、この測定結果から基板最表面が完全なSrO面の状態になっていることが判った。従って、STO基板の最表面を100%TiO2 面とすることで、その基板表面にSrTiO3 の薄膜を原子層の単位で精密に制御しつつ成長させることが可能となることが確認できた。 【0013】ここで、CAICISSのTOFスペクトル測定により、STO基板の最表面構造が100%TiO2 面であるか否かを評価できる理由を以下に説明する。まず、SrTiO3 はペロブスカイト構造をとっていることから、STO基板の表面に、図2に示すように、He+ を〔111〕の方位から照射(入射角α=35°)してその散乱強度を測定すると、STO基板の表面第1原子層が完全なTiO2 面であれば、Tiのシャドーコーンに第2層目のSrが隠れてTi信号のみが観測される。逆に、表面第1原子層が完全なSrO面であると、Srのシャドーコーンに第2層目のTiが隠れてSr信号のみが観測される。一方、TiO2 面とSrO面が混在した状態であると、CAICISSのTOFスペクトルはSrとTiの両方のピークが出現した状態となる。従って、このようなCAICISSによるTOFスペクトル測定を行うことにより、STO基板の最表面の構造完全性(100%TiO2 面)を評価できる。 【0014】なお、本発明の表面処理方法を実施する際の高温アニールは、1000℃の温度で10時間程度の熱処理が好ましいが、先に述べたように、アニール温度は750℃〜1300℃の範囲であれば本発明方法は実施可能で、また、アニールの処理時間は、設定するアニール温度の高低に応じて適宜に変更してもよい。 【0015】さらに、本発明の方法は、SrTiO3 薄膜をエピタキシャル成長させる場合のほか、Bi2Sr2CuO6 等の他の高温超伝導薄膜あるいは強誘電体薄膜をSTO基板に成長させる際の前処理に適用できることは勿論である。 【0016】 【発明の効果】以上説明したように、本発明の表面処理方法によれば、最表面がほぼ100%TiO2 面で終端されたSTO〔001〕基板を安定して作製することができるので、STO基板上に高温超伝導薄膜や強誘電体薄膜をエピタキシャル成長させるにあたり、その成長様式を精密に制御することが可能になる。その結果、これら薄膜の高品質化が進み、ひいては種々の高性能電子デバイスの開発等の実現が可能となる。
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