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発明の名称 軟磁性多層膜
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開平8−97034
公開日 平成8年(1996)4月12日
出願番号 特願平6−228513
出願日 平成6年(1994)9月22日
代理人 【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武 (外2名)
発明者 長谷川 直也
要約 目的
本発明は、高い透磁率と高い飽和磁束密度を有するとともに低い保磁力を有し優れた軟磁気特性を有した上で高耐熱性と耐食性を兼ね備えさせた軟磁性多層膜の提供を目的とする。

構成
本発明は、Fe-Xなる組成(但しXは、Al,Si,Cr,Ru,Rh,Pd,Re,Auより選ばれる少なくとも1種以上の元素を示す。)を有する第1の磁性層と、Fe-X-M-Cなる組成(但しMは、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wより選ばれる少なくとも1種以上の元素を示し、Cは炭素を示す。)を有する第2の磁性層が交互に積層され、前記第1の磁性層が、平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶を主体として構成され、前記第2の磁性層が、平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶と平均結晶粒径10nm以下の元素Mの炭化物の粒子を主体として構成されてなるものである。
特許請求の範囲
【請求項1】 Fe-Xなる組成(但しXは、Al,Si,Cr,Ru,Rh,Pd,Re,Auより選ばれる少なくとも1種以上の元素を示す。)を有する第1の磁性層と、Fe-X-M-Cなる組成(但しMは、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wより選ばれる少なくとも1種以上の元素を示し、Cは炭素を示す。)を有する第2の磁性層が交互に積層され、前記第1の磁性層が、平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶を主体として構成され、前記第2の磁性層が、平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶と平均結晶粒径10nm以下の元素Mの炭化物の粒子を主体として構成されてなることを特徴とする軟磁性多層膜。
【請求項2】 請求項1記載の軟磁性多層膜において、第1の磁性層と第2の磁性層のうち、少なくとも1つが1層あたり5〜40nmの範囲の厚さに形成されてなることを特徴とする軟磁性多層膜。
【請求項3】 請求項1または2記載の第1の磁性層の組成をFe100-aaとした場合に、その組成比aを原子%で1<a≦25なる関係を満足するものとし、請求項1または2記載の第2の磁性層の組成をFe100-a-b-ca b c とした場合に、その組成比a,b,cを原子%で1<a≦252≦b≦152≦c≦20なる関係を満足するものとしたことを特徴とする軟磁性多層膜。
【請求項4】 前記第2の磁性層の成膜直後の構造が非晶質であり、第1の磁性層が結晶質であって、前記第2の磁性層が、熱処理により、平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶と平均結晶粒径10nm以下の元素Mの炭化物の粒子を主体とする組織とされたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の軟磁性多層膜。
発明の詳細な説明
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は優れた軟磁気特性と耐食性を兼備した軟磁性多層膜に関する。
【0002】
【従来の技術】本出願人は先に、センダストやパーマロイなどの従来の磁性材料に比較し、格段に高い飽和磁束密度と優れた透磁率を兼ね備えた磁性材料として、Fe-M-C系(但しMは、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wより選ばれる少なくとも1種以上の元素を示し、Cは炭素を示す。)の微結晶合金を開発し、種々の特許出願を行っている。ところでこの種の3元系の微結晶合金は、16〜17kGの高飽和磁束密度を有する特徴を有するが、この3元系合金では耐食性を付与することが難しいために、この合金にAlなどの耐食性向上効果を奏する添加元素を含有させた4元系合金を開発し、耐食性を向上させることができるようになっている。また更に、この4元系微結晶合金に、低磁歪を実現するためにSiなどの種々の磁歪調整元素を添加した5元系合金を開発し、磁歪を調整することができるようになっている。
【0003】しかしながら、前記4元系あるいは5元系の微結晶合金においては、耐食性や磁歪を調整する元素を添加したがために、高飽和磁束密度を実現するためのFeの含有量が減少し、これによって飽和磁束密度が13kG程度に低下してしまう問題が生じている。また、周知の如く磁気記録の分野においては、磁気記録媒体の記録密度が向上し、より高保磁力の磁気記録媒体が登場しているので、その磁気記録媒体に対して読み書きを行うことができる磁気ヘッドの開発が進められ、このような背景から更に高い飽和磁束密度を有する軟磁性材料の登場が望まれている状況にある。
【0004】ところで従来、高い飽和磁束密度を実現できる構造であって、Feの薄膜と非晶質薄膜を交互に積層した多層軟磁性膜として、Feの薄膜とCo-Nb-Zr非晶質合金薄膜を用いた構造の多層膜が報告されている。(F.W.A. Dirne 他:Applied physics Letter 誌、第53巻、第24号(1988年)2386〜2388頁参照)
このような多層膜においては、Feの薄膜の粗大な柱状結晶の成長を抑制できる利点があるものの、Co-Nb-Zr非晶質合金膜の結晶化温度(高くとも450℃程度)を超えた温度に加熱すると、Co-Nb-Zr非晶質合金膜の軟磁気特性が著しく低下する問題がある。また、高温で熱処理すると、Feの薄膜の結晶粒も膜の横方向に大きく成長するために、多層膜としては耐熱性に劣る欠点があった。従って例えば、ガラス溶着工程を経て高温に加熱されて製造される磁気ヘッドなどに、この種の多層膜を適用することはできない問題があった。
【0005】一方、本発明者らは特開平3ー265105号公報に示す明細書において、Fe-M-C(ただしMは、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wのうち、少なくとも1種を示す。)なる組成式で示される軟磁性合金膜とFeの薄膜を交互に積層してなる構造の軟磁性積層膜について特許出願を行っている。この特許出願に係る軟磁性積層膜は、Fe-M-C合金膜中に分散した元素Mの炭化物により、Fe-M-C合金膜中のbccFeのみならず、Feの薄膜中の結晶粒界をもピン止めできる効果を有し、Feの薄膜中の結晶粒の横方向への粗大化も抑制できる効果を有し、これが故に高い耐熱性を有する特徴を有していた。また、従来のCo-Nb-Zr系などの非晶質膜の飽和磁束密度は10kG程度であったのに対し、Fe-M-C系の単層膜は、結晶化後に約17kGの高い飽和磁束密度を示すので、多層膜全体として従来より高い飽和磁束密度を示す特徴があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、これら従来の軟磁性多層膜は、Feの薄膜とFeを主体とする合金膜を用いているために、耐食性に劣る欠点があった。従って磁気ヘッド用などとして用いるためには、耐熱性を有するものの、耐食性の面で不足を生じる問題がある。
【0007】本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、高い透磁率と高い飽和磁束密度を有するとともに低い保磁力を有し優れた軟磁気特性を示すとともに、このような優れた軟磁気特性を有した上で高耐熱性と耐食性を兼ね備えさせた軟磁性多層膜を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明においては、Fe-Xなる組成(但しXは、Al,Si,Cr,Ru,Rh,Pd,Re,Auより選ばれる少なくとも1種以上の元素を示す。)を有する第1の磁性層と、Fe-X-M-Cなる組成(但しMは、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wより選ばれる少なくとも1種以上の元素を示し、Cは炭素を示す。)を有する第2の磁性層が交互に積層され、前記第1の磁性層が、平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶を主体として構成され、前記第2の磁性層が、平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶と平均結晶粒径10nm以下の元素Mの炭化物の粒子を主体として構成することで課題を解決した。
【0009】本発明の軟磁性多層膜において、第1の磁性層と第2の磁性層のうち、少なくとも1つを1層あたり5〜40nmの範囲の厚さに形成することが好ましい。また、先に記載の第1の磁性層の組成をFe100-aaとした場合に、その組成比aを原子%で1≦a≦25なる関係を満足するものとし、先に記載の第2の磁性層の組成をFe100-a-b-c a b c とした場合に、その組成比a,b,cを原子%で1<a≦25、2≦b≦15、25≦c≦20なる関係を満足するものとすることが好ましい。更に成膜条件に左右されず、確実に非晶質相を生成させるためには、3≦b≦15、5≦c≦20とすることがより好ましい。
【0010】次に、本発明において、前記第2の磁性層の成膜直後の構造が非晶質であり、第1の磁性層が結晶質であって、前記第2の磁性層が、熱処理により、平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶と平均結晶粒径10nm以下の元素Mの炭化物の粒子を主体とする組織としたものであることが好ましい。
【0011】
【作用】耐食性を向上させる元素XをFeに添加したFe-Xなる組成の第1の磁性層と、耐食性を向上させる元素XをFe-M-C系に添加した第2の磁性層を交互に積層してなるので、耐食性を改善した飽和磁束密度の特に高い第1の磁性層の優れた軟磁気特性と、耐食性が高く透磁率や保磁力の優れた第2の磁性層の特性が兼備される。その場合、第1の磁性層の結晶粒径を平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶を主体として構成し、第2の磁性層を平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶と平均結晶粒径10nm以下の元素Mの炭化物の粒子とから構成することで、第1の磁性層と第2の磁性層の優れた面が充分に兼備される。
【0012】前記の構造において、第1の磁性層と第2の磁性層の少なくとも一方を5〜40nmの範囲の厚さに形成することで、欠陥を生じさせることなく、粗大粒子を生じさせることがないので、良好な軟磁気特性と耐食性を兼ね備えさせることができる。また、組成比を特定の範囲とすることでより良好な軟磁気特性と耐食性を兼ね備えさせることができる。更に、成膜時において結晶質状態の第1の磁性層と、成膜時に非晶質状態とした磁性層を形成し、これらを熱処理することで非晶質の磁性層に微細結晶粒を生じさせ第2の磁性層とすることができる。
【0013】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。図1は本発明に係る軟磁性多層膜の一実施例の断面構造を示すもので、この例の軟磁性多層膜Aは、基板K上に交互に積層された第1の磁性層1と第2の磁性層2を具備して構成されている。この図に示す構造は第1の磁性層1を3層、第2の磁性層2を2層、それぞれ交互に積層させたものであり、最外層には第1の磁性層1が配置されている。なお、本発明において第1の磁性層1と第2の磁性層2の積層順序は任意で良く、例えば、基材Kに対して第2の磁性層2を当接させても良い。また、第1の磁性層1と第2の磁性層2の積層数も適宜の数を選択して良いが、後述する各層の厚さ制限範囲と、磁気ヘッド用などとして全体的に0.2〜数μmオーダーの厚さが必要になることなどから、実用的には10〜数100層の積層構造とすることが好ましい。
【0014】前記第1の磁性層1は、Fe-Xなる組成(但しXは、Al,Si,Cr,Ru,Rh,Pd,Re,Auより選ばれる少なくとも1種以上の元素)を有するものであり、その組成をFe100-aaと表記した場合に、その組成比aを原子%で0<a≦25とすることが好ましい。前記第2の磁性層2は、Fe-X-M-Cなる組成(但しMは、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wより選ばれる少なくとも1種以上の元素を示し、Cは炭素を示す。)を有するものであり、その組成をFe100-a-b-c a b c と表記した場合に、その組成比a,b,cを原子%で0<a≦25、1≦b≦15、0.5≦c≦20なる関係を満足するものとしたものである。なお、第1の磁性層においてその組成比aを1≦a≦25の範囲とし、第2の磁性層においてその組成比a,b,cを1≦a≦25、2≦b≦15、2≦c≦20とすることがより好ましく、特にb,cを3≦b≦15、5≦c≦20とするのが更に好ましい。
【0015】前記元素Xは、bcc-Feに固溶する元素であり、bcc-Feに固溶してその耐食性を改善する元素である。この元素XをFe層およびFe-M-C層の両方に含有させることが重要である。なお、これらの元素の組み合わせの系の中でも、[Fe-Al/Fe-Al-M-C]なる多層膜あるいは[Fe-Si-Al/Fe-Si-Al-M-C]なる多層膜が耐食性と磁歪調整および高飽和磁束密度を得る面から特に好ましい。
【0016】前記の組成式で示される第1の磁性層1と第2の磁性層2において、元素Xの含有量を示すaが、a<1原子%の関係であると耐食性改善の効果が顕著ではない。また、a>25原子%の関係であると、飽和磁束密度が低くなり過ぎる。次に、第2の磁性層2において、元素Mの含有量を示すbが、b<2原子%の関係であると成膜時の非晶質形成能が十分ではなくなるおそれがあるとともに、b>15原子%の関係であると、飽和磁束密度が低くなり過ぎる。更に、第2の磁性層2において、Cの含有量を示すcが、c<2原子%の関係であると後述する第1の磁性層1の柱状結晶を分断できなくなるおそれがあり、c>20原子%の関係では飽和磁束密度が低くなりすぎる問題がある。
【0017】次に前記第1の磁性層1において、図1に示すFe-Xなる組成の結晶粒3・・・の平均結晶粒径は40nm以下とされ、その結晶粒3は柱状結晶とされている。また、第2の磁性層2は、Fe-Xなる組成の結晶粒4・・・の結晶粒界に元素Mの炭化物5・・・が析出された構造になっていて、この第2の磁性層2においてもFe-Xなる組成の結晶粒4・・・の平均結晶粒径は40nm以下にされている。また、第2の磁性層2内の炭化物5の粒径は10nm以下にされている。ここで、前記結晶粒3・・・または結晶粒4・・・の平均結晶粒径が40nmを超えるようであると、良好な軟磁気特性を得ることが難しくなる。更に、元素Mの炭化物5の粒径が10nmを超えると、図2に拡大して示すように、隣接する結晶粒4、4が直接接触する面積(炭化物の介在していない部分での結晶粒4、4どうしの接触面積)を充分に確保できなくなるので、10nm以下が好ましい。これは、結晶粒4、4間の交換相互作用を充分に働かせて高い軟磁気特性を得るためには、結晶粒4、4の直接接触する面積を出来るだけ広くとることが有利になることに起因している。
【0018】なお、第1の磁性層1の厚さは40nm以下とされている。第1の磁性層1のFe-Xなる組成の結晶粒3の大きさは、図1に示すようにその層自体の厚さと同程度になる。従って、結晶粒3の粒径を40nm以下とするためには、層厚を40nm以下とすることが好ましい。
【0019】次に、第2の磁性層2が5nmより薄いと、第1の磁性層1のFe-Xなる組成の結晶粒3の柱状結晶を充分に分断することができなくなり、結晶粒3が粗大化する。この理由は、第2の磁性層2をスパッタや真空蒸着などの成膜法で形成した場合、膜の素材物質がアイランド状(島状)に点在して生成し、これが最後につながって連続膜になるので、膜が薄すぎると第2の薄膜磁性2が連続膜になる以前の厚さになるため穴が生じやすく、この穴付きの第2の磁性層上に第1の磁性層1を形成したのでは、穴を通して上下の第1の磁性層1がつながって磁性層1の結晶が粗大な柱状結晶になってしまうおそれが高いためである。次の理由は、第2の磁性層2を第1の磁性層1上に成膜する場合、最初に堆積したごく薄い部分は、bccのFeの結晶であり、厚さの増加とともに次第に非晶質が堆積するようになる。従って厚さ5nm以下の第2の磁性層2では一部結晶層の堆積となってしまい、非晶質層の堆積が充分ではなくなるためである。
【0020】なお、仮に第1の磁性層1を5nm以下に形成し、第2の磁性層2を40nm以上に形成し、第1の磁性層1に穴等の欠陥がないとすれば、上記のような問題を生じないが、第1の磁性層1の飽和磁束密度は第2の磁性層2の飽和磁束密度よりも大きいので、第1の磁性層1の厚さを第2の磁性層2の厚さよりも小さくすると多層膜全体としての飽和磁束密度を高くするためには不利となる。
【0021】前記構造の軟磁性多層膜Aは、Al,Si,Cr,Ru,Rh,Pd,Re,Auより選ばれる少なくとも1種以上の元素Xを含む耐食性に優れ、極めて高い飽和磁束密度を示すFe-Xなる組成の第1の磁性層1と、元素Xに加えてTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,Wより選ばれる少なくとも1種以上の元素Mと炭素Cを含む耐食性に優れ、飽和磁束密度が高く、低磁歪のFe-M-X-Cなる組成の第2の磁性層2を積層しているために、全体として飽和磁束密度が極めて高く、磁歪が低く、かつ、耐食性に優れる特徴がある。
【0022】従って、製造過程のガラス溶着により高温度に加熱され、耐食性の要求される磁気ヘッド用の軟磁性多層膜として有用な特徴があり、磁気ヘッド用とした場合に、耐食性と低磁歪と高飽和磁束密度の全てを兼ね備えた優れた磁気ヘッドを提供することができる。なお、Fe-M-C系の単層膜で耐食性を上げるためには、耐食性を上げる効果のある元素を添加する必要があり、その元素を添加すると飽和磁束密度は13〜14kG程度に低下するが、上記構造の軟磁性多層膜を用いると、16〜17kG程度の飽和磁束密度を容易に得ることができる。
【0023】次に前記構造の軟磁性多層膜Aを製造するための方法の一つの例について説明する。図3は軟磁性多層膜Aを製造するために用いて好適な成膜装置の一例を示すもので、この例の成膜装置は、支持軸10によって水平に回転自在に支持された基板ホルダ12と、この基板ホルダ12の上方に離間して左右に配置されたカソード13、14を具備して構成され、装置全体が図示略の真空容器に収納されて構成されている。また、カソード13、14はそれぞれ整合器15を介して高周波電源16に接続されている。
【0024】更に、基板ホルダ12の上面には、基板Kが設置され、カソード13の下面には第2の磁性層形成用のターゲット18がカソード14の下面には第1の磁性層形成用のターゲット19がそれぞれ装着されている。前記ターゲット18は、純鉄、Fe-X合金、Fe-X-M合金のいずれかからなるメインターゲット18aと、このメインターゲット18aの下面に装着された炭素Cあるいは元素Xあるいは元素Mからなるチップ状のサブターゲット18bとから形成されるとともに、前記ターゲット19は、Fe-X合金から形成されている。なお、各ターゲットの組成や配置は製造しようとする多層膜中に元素MやXを添加できれば良いので自由に選択して良い。
【0025】前記成膜装置を用いて軟磁性多層膜Aを製造するには、まず、成膜装置内部を不活性ガスを含む減圧雰囲気とし、カソード13とカソード14に通電してターゲット18とターゲット19の構成原子をスパッタし、基板ホルダ12の回転により基板Kをカソード13の下方かカソード14の下方に順次移動させて基板K上にスパッタ粒子を堆積させることで行う。基板ホルダ12の回転によりカソード14の下方に基板Kを静止させた場合は、基板K上に第1の磁性層1の堆積を行うことができ、カソード13の下方に基板Kを静止させた場合は、第2の磁性層用のスパッタ粒子の堆積を行うことができ、第2の磁性層用の準備層(即ち、非晶質層)の堆積を行うことができる。なお、これらの堆積を行う場合、各層の厚さは先に述べたような厚さの範囲内に入るように成膜処理を行う。
【0026】図4に、第1の磁性層1を3層と第2の磁性層用の準備層2’を2層、基板K上に交互に堆積した状態を示す。この状態において、第1の磁性層1は、柱状晶の配列した状態を呈しているが、第2の磁性層用の準備層2’は成膜処理のままでは非晶質状態となっている。必要数の層の堆積が終了したならば、400〜700℃に加熱する熱処理を行って非晶質状態の第2の磁性層用の準備層2’を結晶化し、微細結晶粒を析出させる。この熱処理により第2の磁性層用の準備層2’をFe-Xなる組成の結晶粒4とその粒界に析出した元素Mの炭化物5からなる第2の磁性層2とすることができ、図1に示す軟磁性多層膜Aを得ることができる。
【0027】なお、約550℃以上の温度で熱処理を行うと、元素Xは第1の磁性層1と第2の磁性層2の間で拡散を起こすので、元素Xの濃度が第1の磁性層1と第2の磁性層2の間で平均化されてしまうことを本発明者らのオージェ電子分光による多層膜の深さ方向の組成分析により知見している。一方、元素MとCは強く結合して炭化物を形成するために、容易には拡散せず、大部分は第2の磁性層2中に止まる。
【0028】ところで、基板K上に第1の磁性層1を成膜する場合、40nm以上の厚さに形成すると、図5に示すように膜の堆積をする間に結晶粒1”の成長が起こり、結晶粒が粗大化してしまう。即ち、膜の堆積初期段階においては、微結晶粒であったものが、膜の成長とともに粒径が大きくなってしまい、大きな膜厚であると軟磁気特性の面で劣るようになる。従って第1の磁性層1の結晶粒を粗大化させないように第1の磁性層1の厚さを40nm以下にすることが好ましい。また、第1の磁性層1の上下を非晶質の準備層2’で挟むことで第1の磁性層1の柱状晶の成長を分断することができ、この準備層2’上に再度第1の磁性層1を成膜すると、再度微細結晶粒の堆積が始まることで第1の磁性層1・・・の全てを微細結晶粒とすることができる。
【0029】次に、図6は本発明に係る軟磁性多層膜の他の構造例を示すもので、この例の構造は、第1の磁性層1を3層と第2の磁性層2を3層、基板K上に順次積層してなるものである。この例のように第2の磁性層2を最外層に配置しても先の例と同等の効果を得ることができる。
【0030】(製造例)以下、具体的な製造例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。結晶化ガラス製の基板を図2に示す構成の高周波2極スパッタ装置の基板ホルダーに装着し、スパッタ装置内を0.67PaのArガス雰囲気とし、高周波入力を2.4×104W/m2として2つのカソードを同時放電し、基板ホルダを間欠的に回転移動させて前記基板上に厚さ10nmの第1の磁性層と、厚さ10nmの第2の磁性層用の準備層を交互に多数回(90〜250回)積層し、全体で厚さ5μmの軟磁性多層膜準備層を得た。なお、用いたターゲットは、得ようとする軟磁性多層膜の組成に合わせて、Feターゲット、Fe-X合金ターゲット、Fe-X-M合金ターゲットを使い分けた。なおまた、各カソードの下に基板を静止させている時間をタイマーで制御し、第1の磁性層と第2の磁性層の厚さがほぼ同じになるように調整した。
【0031】この成膜後、550℃で20分間保持後徐冷する熱処理を行い非晶質の準備層を結晶化して軟磁性多層膜を得た。また、従来例として、純Fe層とFe-Hf-C層とを交互に250周期(合計500層)積層して形成した軟磁性多層膜を形成するとともに、比較例として、各層の厚さを前述した好ましい範囲から外れた厚さに形成した軟磁性多層膜を形成した。
【0032】得られた各軟磁性多層膜の膜組成と、膜の堆積数と、第1の磁性層の粒径と、第2の磁性層のFe-Xなる組成の結晶粒の粒径と、元素Mの炭化物の粒径と、得られた各軟磁性多層膜の初透磁率(μ:1MHz)と、保磁力(Hc)と、飽和磁束密度(Bs)を測定した結果、および、耐食性試験の結果を表1に示す。結晶粒径の測定は、透過型電子顕微鏡観察またはX線回折ピークの半値幅から算出し、耐食性試験は、60゜C、相対湿度90%の環境下に96時間放置した場合の多層膜の外観を以下の基準で評価したものである。
・・・変色や腐食が全く見られないもの。
・・・多層膜全体の10%未満が変色したもの。
×・・・多層膜全体の10%以上が変色(腐食)したもの。
【0033】
【表1】

【0034】表1に示す結果から明らかなように、第1の磁性層と第2の磁性層を前述した好ましい厚さ範囲内とし、各元素の割合を前記の範囲内とした試料においては、優れた透磁率と低い保磁力と高い飽和磁束密度を発揮した。これに対し、第1の磁性層あるいは第2の磁性層の厚さを規定の範囲の厚さから外して形成した比較例の試料は、第1の磁性層の結晶粒径が大きくなってしまうとともに、透磁率が低く、保磁力も大きくなってしまい、軟磁気特性が低下している。なお、表1における比較例の1つである第2の磁性層の厚みが3nmの試料においては、第2の磁性層中のFe-X合金結晶粒径が2〜4nmのもののほかに、第2の磁性層が第1の磁性層とつながってしまい、50nm以上になってしまった結晶粒も存在していた。表1に示す結果から明らかなように、本発明に係る試料は、耐食性に優れ、高い透磁率と低い保磁力および高い飽和磁束密度を兼ね備え、優れていることが明らかになった。
【0035】次に、第1の磁性層と第2の磁性層において、元素Xの含有量を前記した最も好ましい範囲内に設定した試料とその範囲外とした種々の試料を作成し、これらの試料の初透磁率(μ:1MHz)と、保磁力(Hc)と、飽和磁束密度(Bs)を測定した結果、および、耐食性試験の結果を表2に示す。表2において*印を付した試料は元素Xの含有量を最も好ましい範囲から外した試料を示す。
【0036】
【表2】

【0037】表2に示す結果から、前記最も好ましい範囲から外れた組成を有する軟磁性多層膜は、前記好ましい組成範囲の試料に比べ、透磁率と保磁力と飽和磁束密度と耐食性のいずれかが劣っていることが判明した。
【0038】次に、第1の磁性層と第2の磁性層において、元素MかCの含有量を前記した最も好ましい範囲内に設定した試料とその範囲外とした種々の試料を作成し、これらの試料の初透磁率(μ:1MHz)と、保磁力(Hc)と、飽和磁束密度(Bs)を測定した結果、および、耐食性試験の結果を表3に示す。表3において*印を付した試料は元素MあるいはCの含有量を最も好ましい範囲から外した試料を示す。
【0039】
【表3】

【0040】表3に示す結果から、前記最も好ましい範囲から外れた組成を有する軟磁性多層膜は、前記最も好ましい組成範囲の試料に比べ、透磁率と保磁力と飽和磁束密度のいずれかが劣っていることが判明した。なお、表3の一番下の欄の試料において炭化物の粒径が10nmを超えているものは、第2の磁性層内のFe-X結晶粒間の磁気的交換結合が妨げられ、軟磁気特性が低下している。また、表3の、下から3番目の欄の試料においては、Hf、C濃度が低いために第2の磁性層の準備層が非晶質にならず、第1の磁性層がつながって50nm以上となったものもあった。
【0041】次に、第1の磁性層と第2の磁性層において、元素Xを他の元素で置換した試料の測定結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】表4に示す結果から、いずれの試料も高い透磁率と低い保磁力と高い飽和磁束密度を有し、充分な耐食性も兼ね備えていることが明らかである。なお、表1〜表4に示す試料においては、[Fe-Si-Al/Fe-Si-Al-Hf-C]系、[Fe-Al/Fe-Al-Hf-C]系、[Fe-Si/Fe-Si-Hf-C]系、[Fe-Cr/Fe-Cr-Zr-C]系、[Fe-Al/Fe-Al-Ta-C]系、[Fe-Al/Fe-Al-Nb-C]系、[Fe-Al/Fe-Al-Ti-C]系、[Fe-Al/Fe-Al-V-C]系]、[Fe-Ru/Fe-Ru-Hf-C]系、[Fe-Rh/Fe-Rh-Hf-C]系、[Fe-Pd/Fe-Pd-Hf-C]系、[Fe-Re/Fe-Re-Hf-C]系、[Fe-Au/Fe-Au-Hf-C]系の各試料において、いずれも優れた特性が得られた。
【0044】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、耐食性を向上させる元素XをFeに添加したFe-Xなる組成の第1の磁性層と、耐食性を向上させる元素XをFe-M-C系に添加した第2の磁性層を交互に積層してなるので、耐食性が高く飽和磁束密度の特に高い第1の磁性層の優れた特性と、耐食性が高く透磁率や保磁力の優れた第2の磁性層の優れた特性を兼ね備えた軟磁性多層膜を得ることができる。その場合、第1の磁性層の結晶粒径を平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶を主体として構成し、第2の磁性層を平均結晶粒径40nm以下の体心立方構造を有するFe-X合金固溶体の結晶と平均結晶粒径10nm以下の元素Mの炭化物の粒子とから構成することで、第1の磁性層と第2の磁性層の優れた面を兼ね備えさせることができる。
【0045】前記の構造において、第1の磁性層と第2の磁性層のそれぞれを5〜40nmの範囲の厚さに形成することで、良好な軟磁気特性と耐食性を兼ね備えさせることができる。また、組成比を前述した範囲とすることで、より良好な軟磁気特性と耐食性を兼ね備えさせた軟磁性多層膜を得ることができる。
【0046】更に、成膜時において結晶質状態の第1の磁性層と、成膜時に非晶質状態とした磁性層を形成し、これらを熱処理することで非晶質の磁性層に微細結晶粒を生じさせ第2の磁性層とすることができる。




 

 


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