| 発明の名称 |
内燃機関用クランクシャフト |
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| 発行国 |
日本国特許庁(JP) |
| 公報種別 |
公開特許公報(A) |
| 公開番号 |
特開平8−295978 |
| 公開日 |
平成8年(1996)11月12日 |
| 出願番号 |
特願平7−103836 |
| 出願日 |
平成7年(1995)4月27日 |
| 代理人 |
【弁理士】 【氏名又は名称】大場 充
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| 発明者 |
上野 大成 / 大塚 公輝 |
| 要約 |
目的 振動や騒音の発生を低減させる内燃機関用クランクシャフトを球状黒鉛鋳鉄により低コストで製造する。
構成 内燃機関用クランクシャフトを、炭素量が2.7〜3.0%、炭素当量が3.6〜3.9%、黒鉛球状化率が80%以上、かつ縦弾性係数が180kN/mm2 以上である鋳放し球状黒鉛鋳鉄により、特にパーライト基地で鋳造する。 |
特許請求の範囲
【請求項1】 炭素量が質量比で2.7〜3.0%、炭素当量が3.6〜3.9%、黒鉛球状化率が80%以上、かつ縦弾性係数が180kN/mm2 以上である鋳放し球状黒鉛鋳鉄により製造することを特徴とする内燃機関用クランクシャフト。 【請求項2】 前記球状黒鉛鋳鉄がパーライト基地であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用クランクシャフト。
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発明の詳細な説明
【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、内燃機関用クランクシャフトに関し、特に振動や騒音の発生を低減し得る高剛性の球状黒鉛鋳鉄からなる内燃機関用クランクシャフトに関する。 【0002】 【従来の技術】内燃機関用クランクシャフト(以下、「クランクシャフト」という)は、ピストンを介して燃焼の爆発力を受け、またピストン他の往復慣性力を支持するなど、内燃機関の運転によって強い繰返し荷重を受ける。この荷重によりクランクシャフトは振動し、その結果内燃機関各部に好まざる振動を誘発し、また不快な騒音を発生させたりする。 【0003】クランクシャフトに必要な剛性を確保するためには、大きく分けて2つの手段がある。第1は、十分な剛性が得られるように部材の寸法と形状を決定することである。例えばクランクシャフトの形状と寸法を往復運動の慣性力とできるだけバランスするように設計する。第2は、部材をできるだけ弾性係数の高い材料とすることである。クランクシャフト用材料は、一般に低コストで製造しやすく強度も高い鉄鋼材料が使われ、そのなかでも鍛鋼材と球状黒鉛鋳鉄材が多い。鍛鋼材は約210kN/mm2 の縦弾性係数を持ち、鉄鋼材料としては最も高剛性であって、クランクシャフトの振動を抑制するという面で優れた材料である。 【0004】一方、球状黒鉛鋳鉄材は一般に鍛鋼材に比べて低コストで製造でき、低価格を重点にしたエコノミータイプ自動車用のエンジンに使われることが多い。しかし、縦弾性係数は175kN/mm2 程度しかない。このため、振動が大きくなりやすい高出力タイプのエンジンや、高級車に使われる騒音を嫌うエンジンでは鍛鋼品が使われることが多い。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】上記のように、クランクシャフトの材料はエンジンの要求特性によって使い分けられているが、両方の長所を兼ね備えた材料が望まれる。すなわち、高い剛性を持ち、かつ低コストで製造可能なクランクシャフト材である。鍛鋼材に近い弾性係数を持つ球状黒鉛鋳鋼が検討された例があるが、球状黒鉛鋳鉄に比べて鋳造性がかなり悪くなるため、低コストで製造することはかなり難かしい。また、通常の球状黒鉛鋳鉄に比べて炭素量が1%前後も低い低炭素球状黒鉛鋳鉄が文献等で検討されている(例えば、L.Y.Fang,C.R.Loper Jr.:Transactions of the American Foundrymen's Society,99(1991),p313 )が、185〜190kN/mm2 程度の縦弾性係数が得られる見込がある反面、熱処理が前提であり、黒鉛の形状も崩れやすく球状化率80%を確保するのは難しい。本発明の目的は、高い剛性を持ち、かつ低コストで製造できる球状黒鉛鋳鉄からなるクランクシャフトを提供することである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、球状黒鉛鋳鉄の剛性すなわち弾性係数を左右する因子を実験的に詳細に調査した。その結果、化学組成を制限することにより、正確に弾性係数を制御でき、従来の球状黒鉛鋳鉄なみの製造コストで180kN/mm2 以上の縦弾性係数を持つ球状黒鉛鋳鉄が得られ、またこの球状黒鉛鋳鉄によりクランクシャフトが製造できることを見出し本発明に想到した。即ち、本発明のクランクシャフトは、炭素量が質量比で2.7〜3.0%、炭素当量が3.6〜3.9%、黒鉛球状化率が80%以上、かつ縦弾性係数が180kN/mm2 以上である鋳放し球状黒鉛鋳鉄により製造することを特徴とする。そして、前記球状黒鉛鋳鉄はパーライト基地であることが望ましい。 【0007】 【作用】球状黒鉛鋳鉄の弾性係数を左右する因子は大きく分けて、(1)基地組織、(2)黒鉛の形状、(3)黒鉛の量の3つがあると考えられる。 (1)基地組織基地組織は、球状黒鉛鋳鉄では完全フェライトから完全パーライトまでいずれの組織にもできる。基地組織中のフェライトの弾性係数はパーライトのそれよりも若干小さいと見られる。本発明のクランクシャフトのように高強度が必要な部材では、パーライト基地の球状黒鉛鋳鉄を使用して、弾性係数の高い球状黒鉛鋳鉄とする。また、パーライト化促進元素の添加等により黒鉛化を阻害すれば、黒鉛の面積率が若干小さくなり弾性係数が若干向上する。具体的には、完全フェライト地の球状黒鉛鋳鉄の縦弾性係数は165kN/mm2 前後、完全パーライト地では175kN/mm2 前後である。熱処理を施すことによって基地組織をマルテンサイトやベイニティックフェライトにすることも可能であるが、弾性係数は低下する傾向にあることが従来から分かっている。このような熱処理による基地組織の改善では、縦弾性係数が175kN/mm2 以上を持つ球状黒鉛鋳鉄を製造することは難しい。 【0008】(2)黒鉛の形状黒鉛の形状については、弾性係数の面からはできるだけ球状であることが望ましい。例えば、片状黒鉛鋳鉄のように尖った黒鉛を有している場合、材料に応力がかかると片状黒鉛の先端部分が切欠きとなってその周囲に大きな応力がかかり、局部的に容易に塑性変形を起こし、材料全体で見れば剛性が落ちることになる。片状黒鉛鋳鉄の縦弾性係数は100kN/mm2 前後である。 【0009】(3)黒鉛の量黒鉛の量については、前記の文献にも示唆されており、基地組織に占める体積率(面積率)が小さくなるほど弾性係数が高くなると推定される。しかし、この点に関する知られた実験データは少なく、実際に球状黒鉛鋳鉄でクランクシャフトを製造する際に弾性係数をできるだけ高くするという観点からのアプローチはこれまでには見られない。 【0010】本発明者は、黒鉛の量と弾性係数の関係を詳細に調査し以下の結果を得た。 (a)CとSiの含有量を変えたパーライト基地の種々の球状黒鉛鋳鉄と球状黒鉛鋳鋼を作製し、黒鉛面積率と弾性係数を測定した。従来材として、鍛鋼クランクシャフトに使用されている黒鉛を含まないS48C調質鋼の弾性係数も測定した。この結果を図2に黒鉛面積率と縦弾性係数の関係として示す。図2から、黒鉛の形状が球状であることを前提とすると、縦弾性係数は黒鉛面積率が高くなると、ほぼ直線的に小さくなることが分かる。 【0011】(b)黒鉛面積率を小さくする効果、すなわち弾性係数を高くする効果は、SiはCの約3分の1であることが分かった。これは球状黒鉛鋳鉄の場合は炭素当量に一致するもので、これによってほぼ説明のできるようである。しかし、球状黒鉛鋳鋼の領域(C≦約1.5%)においても同様の傾向があり、これは実験により初めて明らかになったものである。炭素当量が約3.9%以下のとき、縦弾性係数は180kN/mm2 以上になることがわかる。 【0012】(c)この他の元素の影響は、基地組織がほぼパーライトの場合、CとSiの影響に比べて十分小さい。 【0013】(d)また、上記の実験結果からは炭素当量を下げていけば、それに相当するだけ弾性係数は高くなることになるが、クランクシャフトのように大きな鋳造品でもチルを発生するようになり、鋳造性も急激に悪化するため実用化は困難である。このような不具合を生じない下限の炭素当量は3.6%である。 【0014】(e)また、炭素当量を下げるために、Cの含有量を下げていくと、黒鉛形状が崩れ易く黒鉛球状化率を80%以上に安定して保つことが困難になり、材料の強度を大きく低下させるようになる。黒鉛球状化率が80%以上で、材料の強度を低下させないための下限のC量は2.7%である。 【0015】(f)一方、Cの含有量が3.0%を越えると、縦弾性係数が180kN/mm2 以下になるか、Siを縦弾性係数が180kN/mm2 以上になる炭素当量まで下げてもチルが発生するようになる。 【0016】以上の結果をまとめて図3に示す。斜線で示した範囲が本発明の化学成分である。 【0017】この他、球状黒鉛鋳鉄の強度を向上させるためによく利用される焼ならし処理によって、1〜2%程度弾性係数が低下することが分かった。鋳造時に発生したチルを熱処理によって消した場合も、チルの発生していない鋳放し球状黒鉛鋳鉄に比べて若干弾性係数が低下する。このように、原理は明確ではないが鋳放し材の弾性係数が最も高い。 【0018】以上のように、特定のC含有量及び炭素当量の場合に、下記の作用により黒鉛球状化率が80%以上であり、かつ縦弾性係数が180kN/mm2 以上である鋳放し球状黒鉛鋳鉄製の内燃機関のクランクシャフトが製造でき、高剛性球状黒鉛鋳鉄からなるクランクシャフトを従来とほぼ同じコストで製造できる。 (1)鋳放しでチルのない組織とすることで、チルを消すために行われる熱処理による弾性係数の低下を防ぐ。また、熱処理費も削減できる。 (2)黒鉛球状化率を80%以上にすることによって、弾性係数を含む機械的性質の低下を防ぐ。 (3)鋳造性を大きく悪化させない組成とすることで、低コストで製造できる。 (4)黒鉛面積率を小さくすることにより弾性係数を向上させる。 (5)基地組織をほぼパーライトとすることにより、弾性係数を含む機械的性質の低下を防ぐ。 【0019】 【実施例】以下、本発明を一実施例により詳細に説明する。表1に示す化学成分でクランクシャフトを製作した。 【表1】 クランクシャフトの化学成分(質量%) 区分 記号 C Si Mn P S Cu Mg 炭素当量 実施例 A 2.98 2.43 0.39 0.021 0.005 0.70 0.045 3.79 比較例 B 3.65 2.58 0.50 0.020 0.005 0.75 0.036 4.51【0020】製作したクランクシャフトは直列4気筒のガソリンエンジン用のもので、質量は約15kgである。ここで、Siの値は接種後の完成したクランクシャフトの化学成分である。実施例(記号A)の組成は本発明の高弾性係数球状黒鉛鋳鉄クランクシャフトに係わるものであり、比較例(記号B)は従来の球状黒鉛鋳鉄である。前述のように、弾性係数を大きく左右する元素はCとSiであり、本実施例ではSiを2.5%前後の一定とし、Cを約3%まで下げて製作した。各部の組織を確認した結果、チルの発生はなく、実施例(記号A)及び比較例(記号B)とも黒鉛球状化率は80%以上であった。次に、上記、実施例(記号A)及び比較例(記号B)のクランクシャフトを鋳放しのままで、クランクジャーナル部分から弾性係数測定用の圧縮試験片を加工した。弾性係数の測定には種々の方法があり、一般の引張試験でも測定できるが、測定誤差が大きく十分な比較検討が行えないため、圧縮試験によって測定した。図1に、炭素量(C)と縦弾性係数の関係を示す。図1から、実施例(記号A)のものはCとSiを一定以下の値にすることにより、縦弾性係数が180kN/mm2 以上の球状黒鉛鋳鉄となっており、この球状黒鉛鋳鉄を用いてクランクシャフトが製造できることが確認できた。一方、比較例(記号B)のものは、縦弾性係数が176kN/mm2 程度の球状黒鉛鋳鉄となっており、剛性が不足している。 【0021】 【発明の効果】以上、詳細に説明の通り、本発明のクランクシャフトは、炭素量が2.7〜3.0%、炭素当量が3.6〜3.9%、黒鉛球状化率が80%以上、かつ縦弾性係数が180kN/mm2 以上である鋳放し球状黒鉛鋳鉄により、低コストで製造することができ、高い剛性により振動や騒音レベルを低下する内燃機関が得られる。
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