| 発明の名称 |
良好な強度、延性、靱性を有するFe−Cu合金鋼 |
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| 発行国 |
日本国特許庁(JP) |
| 公報種別 |
公開特許公報(A) |
| 公開番号 |
特開平9−241793 |
| 公開日 |
平成9年(1997)9月16日 |
| 出願番号 |
特願平8−79421 |
| 出願日 |
平成8年(1996)3月8日 |
| 代理人 |
【弁理士】 【氏名又は名称】吉島 寧 (外1名)
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| 発明者 |
丸山 直紀 / 杉山 昌章 |
| 要約 |
目的
構成
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特許請求の範囲
【請求項1】 良好な強度、延性、靱性を有するFe−Cu合金鋼において、C:0.2wt%以下、Si:3.0wt%以下、Mn:3.0wt%以下およびCu:0.5〜5.0wt%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ粒径(直径)が1〜15nmのbcc構造を有するCuが析出分率20〜80%で分散したマルテンサイト組織あるいはベイナイト組織あるいはフェライト組織あるいはこれらのうちの2種または3種の混合組織からなる、良好な強度、延性、靱性を有することを特徴とするFe−Cu合金鋼。 【請求項2】 Ni:0.5〜5.0wt%、Cr:3.0wt%以下、Ti:0.10wt%以下、Nb:0.15wt%以下、V:0.15wt%以下の内の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載のFe−Cu合金鋼。
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発明の詳細な説明
【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、体心立方(bcc)構造を有するCu析出相を鋼板中に分布せしめることを特徴とした、従来鋼より良好な強度−延性、強度−靱性の両方を達成するFe−Cu合金鋼に関するものであり、フェライト組織からなる降伏強度10kgf/mm2 程度の軟鋼から主としてマルテンサイト組織からなる120kgf/mm2程度の高張力鋼まで幅広い強度の材料に適用が可能である。 【0002】 【従来の技術】近年来、自動車や船舶などの外板や建築物等の構造物には軽量化が要求されており、その解決手段として鋼板の高強度化が不可欠となっていた。従来、鋼板を高強度化する手段としては大きく分けて、(1)Si,Ni,Mo等の固溶強化元素を多量に添加するかあるいはNb,Ti,V等の析出強化元素を多量に添加する、(2)結晶粒を微細化するかあるいは複合組織に制御する2つの方法があり、使用される用途に応じた材質的要求、経済性を考慮し最適な強化法が選択されてきた。 【0003】上述した(1)の方法による強化は、その組織がフェライト、ベイナイト、マルテンサイトの如何にかかわらず古くから利用されてきているが、一般的に高い引張強度を得ようとするとそれに反比例して延性や靱性が悪化してしまう。さらにMo,Ni等の元素を多量に添加すると、炭素当量が増加して溶接性が劣化するという問題点も生じる。 【0004】一方、(2)の方法によるに強化は、フェライト・マルテンサイトの2相組織鋼(例えば特公昭61−15128号公報)に代表されるように強度と延性、あるいは下部ベイナイト鋼のように強度と靱性を両立することが可能な方法である。しかしながら、この方法は組織を選択した時点で達成できる強度がある程度決まってしまうため、低強度から高強度鋼板に至るあらゆる強度レベルでの強度−延性、強度−靱性特性向上に適用することができない。このため、あらゆる強度レベルの鋼板について現有する鋼板に比べさらに良好な強度−延性、強度−靱性特性を有する鋼板を開発することが望まれていた。 【0005】そこで発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意、実験と検討を重ねた結果、適正量のCuを添加し、かつ析出するCuの構造を適正に制御することによって、鋼板の組織の如何にかかわらず従来の析出強化により高強度化した鋼板よりも、優れた強度−延性、強度−靱性の両方を達成できることを見いだした。 【0006】Cuを添加する鋼板としてと、特開昭61−288015号公報、特開平5−331591号公報、特開平6−108200号公報が開示されている。これらは、高温での溶体化処理後に550℃前後の時効処理を施すことによって析出する面心立方(以下、fcc)構造を有するε−Cuを利用し、高強度−高靱性かあるいは高強度−高延性を達成できるとしている。 【0007】しかしながら、本発明が示すようにfcc構造のε−Cuでは、従来の析出強化法の範疇を超えた強度−靱性、強度−延性の両方を達成することはできない。また「Journal of Nuclear Materials」(vol.148、1987、p.107)には、フェライト中に体心立方(以下、bcc)構造のCuを析出させることで高い硬度が得られると記載されている。しかしながら、靱性や延性、あるいは強度−延性、強度−靱性特性に関する記載はなく、またマルテンサイトやベイナイトなどの他の組織を有する鋼についての記載はない。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】本発明は上述した現状に鑑み開発されたもので、低強度鋼から高強度鋼まですべての鋼種について、従来強化法で問題となっていた高強度化による延性、靱性の劣化を抑えて、高強度を達成することができる鋼材とその製造方法を提供することを目的としたものである。 【0009】 【課題を解決するための手段】本発明は、前記課題を解決するために次の手段を講じた。 【0010】すなわち、本発明の第1の特徴は、C:0.2wt%以下、Si:3.0wt%以下、Mn:3.0wt%以下およびCu:0.5〜5.0wt%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ粒径(直径)が1〜15nmのbcc構造を有するCuが析出分率20〜80%で分散したマルテンサイト組織あるいはベイナイト組織あるいはフェライト組織あるいはこれらのうちの2種または3種の混合組織からなる、良好な強度、延性、靱性を有することを特徴とするFe−Cu合金鋼である。 【0011】本発明の第2の特徴は、前記のFe−Cu合金鋼にNi:0.5〜5.0wt%、Cr:3.0wt%以下、Ti:0.10wt%以下、Nb:0.15wt%以下、V:0.15wt%以下の内の1種または2種以上を含有することを特徴とするものである。 【0012】なお、ここで強度とは引張強度を意味し、良好な強度−延性、強度−靱性とは、炭化物による析出強化鋼やCu析出相の構造を適正に制御していない従来鋼よりも、高強度化した際の延性、靱性の低下が少ないことを意味する。具体的にはTiC、NbC、VC等の炭化物、TiN、NbN、VN、AlN等の窒化物、酸化物、ε−Cuによる析出強化法に比較して、同一引張強度で比較した時に一様伸びで2%以上増加し、Vノッチシャルピー試験時の衝撃吸収エネルギーvE0 が30J以上増加しているものを指す。また、bcc構造とは体心立方構造のことを意味している。 【0013】ここでbcc構造を有するCuの析出分率は以下の(1)から(4)の過程により求めるものとする。 (1)アトムプローブ電界イオン顕微鏡(AP−FIM)でマトリックス中にCuが析出していることを確認する。 (2)マトリックス中の析出物がε−Cuあるいは9R−Cuでないことを透過型電子顕微鏡で確認する。 (3)集束した電子線プローブを用いたX線分析法(エネルギー分散型X線分光法)によりマトリックスの組成分析を行う。 (4)下式に分析値を代入する。 bcc−Cuの析出分率=(マトリックス中のCuの分析値/添加Cu量)×100(%) この他に、bcc−Cuとε−Cuを判別する手法として、広域X線吸収端微細構造(EXAFS)を用いる方法も実施可能である。 【0014】 【発明の実施の形態】本発明鋼では、低強度鋼から高強度鋼まですべての鋼種について、高強度化による延性、靱性の劣化を抑えかつ高強度を達成することができる。その方法は、Feマトリックス中に直径1〜15nmの体心立方(bcc)構造のCu粒子(以下、bcc−Cu)を整合析出物として微細に分散させることがポイントである。 【0015】発明者らは、種々の析出相の構造を制御した鋼板について機械試験と詳細な観察を重ねた結果、Feにbcc−Cuを分散させた時に、従来の析出強化法で特徴的であった伸び値の低下と衝撃時の吸収エネルギーの減少が軽減されることを見いだした。この原因を解析した結果、鋼板にひずみを加えるかあるいは衝撃を加えた時にbcc−Cuが9R構造のCu粒子にマルテンサイト変態し、この際に析出物近傍から転位が一部解放されると同時にエネルギーの吸収が起こり、その結果、延性、靱性の劣化が他の析出強化鋼より少なくなっていることを見いだした。 【0016】ちなみにNb(C,N)、Ti(C,N)等の炭窒化物やfcc構造のε−Cuではひずみ付加あるいは衝撃付加で析出相のマルテンサイト変態が起きないために上記のような効果は期待できない。更にbcc−Cuによる析出強化法は、母相の組織に依存せず良好な強度−延性、強度−靱性特性を与えることも明らかにした。すなわち、フェライト、ベイナイト、マルテンサイトあるいはこれらの混合組織の如何にかかわらず、bcc−Cu以外の析出強化と比較して、同レベルの強度を得る場合、延性、靱性の劣化は少なくて済む。 【0017】以下に、本発明について詳細に説明する。まず成分の限定理由について説明する。 C:Cは組織をフェライト、ベイナイト、マルテンサイト、あるいはその混合組織に制御するのに必須の元素である。ただし、0.2wt%を超えるとセメンタイトが多量に析出し、Cu析出物による延性、靱性に対する期待効果がほとんどなくなるためにその上限を0.2wt%に限定した。 【0018】Si:Siは組織をフェライト、ベイナイト、マルテンサイト、あるいはその混合組織に制御するのに必須の元素であり、また脱酸元素としても必要である。しかしながら、3.0wt%を超えると熱延時の脱スケール性の悪化やコスト高を招く。従ってSi含有量は3.0wt%以下の範囲に制限した。 Mn:MnはSiと同じくAr3 変態点を低下させることで組織をフェライト、ベイナイト、マルテンサイト、あるいはその混合組織に制御するのに必須の元素である。しかしながら3.0%を超えるとコスト高になるので、Mn含有量を3.0wt%以下の範囲に制限した。 【0019】Cu:Cuは本発明において最も重要な元素である。しかしながら、0.5wt%未満であるとbcc−Cuとしての効果が発現せず、また5.0wt%を超えるとCuの熱間脆性による鋼板の表面割れが顕著になるために、Cu含有量の範囲を0.5〜5.0wt%の範囲に制限した。ただし、NiをCuと等量だけ添加するとCuの熱間脆性が軽減されるので、CuとNiを複合添加する場合は5.0wt%を超えるCuの添加も可能である。Cuは炭素当量を上げない元素でもあるので溶接性の向上にも有効である。 【0020】Cr:CrはMnの代替元素であり、Ar3 変態点を低下させることで組織をフェライト、ベイナイト、マルテンサイト、あるいはその混合組織に制御するのに用いられる元素である。しかしながら3.0%を超えるとコスト高になるので、Cr含有量を3.0wt%以下の範囲に制限した。 Ni:NiはCu添加に起因する熱間脆性を抑制する効果がある。しかしながら、0.5wt%未満であるとその効果が発現せず、また5.0wt%を超えるとコスト高になる。従って、その適正添加範囲を0.5〜5.0wt%に限定した。 【0021】Ti:Tiは脱酸元素として、また炭窒化物として再加熱時のオーステナイト粒径を制御する元素として必要である。しかしTiの添加量が0.10wt%を超えるとCuの添加効果が失われるため、単独添加、複合添加いずれの場合もTi含有量の範囲を、0.10wt%以下とした。 Nb:Nbは炭窒化物として再加熱時のオーステナイト粒径を制御する元素として必要である。しかしNbの添加量が0.15wt%を超えるとCuの添加効果が失われるため、単独添加、複合添加いずれの場合もNb含有量の範囲を0.15wt%以下とした。 V:Vは炭窒化物として再加熱時のオーステナイト粒径を制御する元素として必要である。しかしVの添加量が0.15wt%を超えるとCuの添加効果が失われるため、単独添加、複合添加いずれの場合もV含有量の範囲を、0.15wt%以下とした。 【0022】次にbcc−Cuの粒径と析出分率の限定理由について説明する。bcc−Cuの粒径が1nm未満だと強度上昇が期待できない。また15nmを超えるとε−Cuあるいは9R構造のCuに相変態してしまい延性、靱性は急激に低下する。従ってbcc−Cuの粒径を1nmから15nmの範囲に制限した。ただし、理想的には1〜8nm程度に大きさを制御することが延性向上の点から好ましい。bcc−Cuの析出分率が80%を超えるとε−Cuあるいは9R構造のCuが存在する確率も高くなり、靱性、延性の低下を引き起こす。また20%未満だとCuの効果はあまり見られない。従って、bcc−Cuの析出分率は20〜80%の範囲に限定した。 【0023】なお、bcc−Cu析出物の制御方法としては以下に示す方法が有効である。 (1) 750℃以上の温度に再加熱するかあるいは750℃以上の温度で圧延終了し、これを10℃/sec以上の冷却速度で冷却した後、250℃以上かつ450℃以下で20分以上の時効処理を施したものをさらに480℃以上かつ600℃以下で10〜120分の時効処理を施す。 【0024】(2) 750℃以上で加熱するかあるいは750℃以上で圧延を終了した後、0.5〜8℃/secの冷却速度で室温まで冷却する。 【0025】(3) 750℃以上で加熱するかあるいは750℃以上で圧延を終了した後、10℃以上の冷却速度で冷却した後、480℃〜600℃で10〜120分間の時効処理を施す。 【0026】(4) 750℃以上で加熱するかあるいは750℃以上で圧延を終了した後、10℃以上の冷却速度で冷却し、室温で1%以上の予歪みを加えた後、480℃〜600℃で10〜120分間の時効処理を施す。これらの熱処理はいずれも、fcc構造のε−Cuや9R構造のCuに成長あるいは変態しないようにすることがポイントである。 【0027】(1)〜(4)の方法の中でFe中にbcc−Cuを微細に分散させる手法としては(1) の2段時効法が好ましい。すなわちbcc−Cuの核形成が起こる温度域で時効し、bcc−Cuの核を微細に分散させた後、それより高温で時効してbcc−Cuを成長させる。 【0028】 【実施例】次にこの発明を実施例により更に詳細に説明する。表1に示す成分に調整した鋼材A〜Jを、表2に示す種々の条件で処理を施した。このようにして得られた鋼板から、引張試験用の試験片、シャルピー衝撃試験用の試験片、透過電子顕微鏡観察用の試験片およびアトムプローブ電界イオン顕微鏡(AP−FIM)用の試験片を切り出した。表3は得られた試験片No.1〜16の引張強度(TS)、全伸び(T−El)、0℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギー値(vE0) 、Feマトリクス中のCuの主な析出形態および全Cu添加量に対するbcc−Cuの析出分率を調査した結果を示している。 【0029】表3から明らかなように、Feマトリクス中のCuの主な析出形態がbcc−Cuでかつその析出分率が20〜80%の範囲にあるものは、ε−CuやNbC、TiC、VCなどによる析出強化鋼に比べ、同一強度で比較してT−El値、vE0 値が上昇している。例えば、試料No.1とNo.2を比較すると引張強度は720MPaで同一であるにも関わらず、bcc−Cuを適正に分布させたNo.1の方がT−Elで3.5%、vE0 で38Jで大きくなっている。すなわちNo.1の方が強度−靱性および強度−延性両方が優れている。 【0030】No.6とNo.7は冷却速度を変え、Cuの析出形態を変えたものである。No.6の方が比較鋼No.7よりT−Elで3.9%、vE0 で31J大きくなっている。No.8とNo.9はマルテンサイトとフェライトの2相組織鋼、No.10とNo.11はフェライト組織鋼においてCuの析出形態を変えたものである。上と同様にbcc−Cuを適正に分散させたNo.8とNo.10の方が、強度−靱性あるいは強度−延性両方が優れている。 【0031】No.13はVCによる析出強化鋼、No.16はNbC、TiCによる析出強化鋼である。それぞれ、bcc−Cu分散強化鋼であるNo.12、No.14と比べると、本発明鋼であるNo.12とNo.14の方が同一引張強度で比較して、T−El、vE0 共に大きい。No.15は2回目の時効処理の温度が600℃を超えてε−Cuが析出したために、強度−靱性、強度−延性両方が低下した例である。 【0032】 【表1】
【0033】 【表2】
【0034】 【表3A】
【0035】 【表3B】
【0036】 【発明の効果】本発明の合金鋼は、従来の析出強化鋼に比較して良好な強度−延性、強度−靱性両方を有しており、さらにCuを利用していることで溶接性や疲労特性にも優れる。本発明は、フェライト組織、マルテンサイト組織、ベイナイト組織、およびこれらの混合組織を有する合金鋼について適用が可能であり、従って軽量化部材として自動車の外板や足廻り部材等の構造部材、造船、建築、海洋構造物、鋼管等の構造部材や強度部材に適用することが可能である。また合金単価の低いCuを利用することで安価に鋼板を製造する効果も有している。
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