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発明の名称 低温靱性および耐硫化物応力腐食割れ性に優れた高強度低合金油井用調質鋼
発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開平7−11384
公開日 平成7年(1995)1月13日
出願番号 特願平5−158900
出願日 平成5年(1993)6月29日
代理人 【弁理士】
【氏名又は名称】小林 英一
発明者 山根 康義 / 玉置 克臣
要約 目的
低温靱性および耐硫化物応力腐食割れ性に優れた高強度低合金油井用調質鋼を提供する。

構成
調質鋼の組成をsol.Al:0.01%以下、Si:0.5〜2.0%、O:0.005%以下、Niを0.3〜3.0%とする。
特許請求の範囲
【請求項1】 重量比にて C:0.10〜0.50%Si:0.50〜2.00%Mn:0.10〜1.50%P:0.015%以下S:0.005%以下Ni:0.30〜3.00%Cr:0.50〜1.50%Mo:0.10〜2.00%sol.Al:0.010%以下B:0.0005〜0.0050%O:0.0050%以下を含み、さらにTi:0.01〜0.10%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.10%のうちより選ばれた1種または2種以上を含み、残部はFeおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする低温靱性および耐硫化物応力腐食割れ性に優れた高強度低合金油井用調質鋼。
発明の詳細な説明
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、耐硫化物応力腐食割れ性に優れた高強度低合金油井用鋼にかかわり、とくに高靱性で寒冷地の硫化水素を含むいわゆるサワー環境の油井あるいはガス井に使用される鋼管などに関する。
【0002】
【従来の技術】硫化物応力腐食割れは前記サワーガス井などの硫化水素を含む湿潤な環境下で使用される鋼材に応力が作用して生ずる現象であり、一般に材料強度が高くなるほど耐硫化物応力腐食割れ性は劣化することが知られている。従来、上述のサワー環境で使用する高強度油井管などには焼入れ、焼もどし熱処理を施した鋼が供されてきた。この際、耐硫化物応力腐食割れ性の劣化を招かないためには十分に焼入れ、高い温度で焼もどすことが重要であり、そのために、Cr、Mo、Ti、Nb、V、Bなどの焼き入れ性ないしは焼きもどし抵抗性向上作用のある元素が添加されるのが普通である。このようにして製造された鋼材の耐硫化物応力腐食割れ性は良好で、鋼材の耐硫化物応力腐食割れ性に関しては一応の解決が図られている。
【0003】しかし、最近では石油資源の枯渇に伴い、氷点下数十℃の寒冷地での石油などの採掘も行われるようになり、その際特にハンドリングやランニング中に低温脆性破壊の発生することがあり、鋼材には高強度、耐硫化物応力腐食割れ性とともに低温靱性が要求されるようになった。鋼材の低温靱性の向上にはNiの添加が有効であることはよく知られた事実であるが、Niは例えば「鉄と鋼」第5巻(1968年)第55号に報告されているように、鋼材の耐硫化物応力腐食割れ性を劣化させる元素であることから添加することができず、現状では一定以上の低温靱性は期待できないのが実情である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、耐硫化物応力腐食割れ性を損なわずに高靱性を有し、しかも降伏強度が63kgf/mm2 (90ksi )〜87kgf/mm2 (125ksi )と最近の鋼材の高強度化の要望に応えることのできる耐硫化物応力腐食割れ性に優れた低合金高強度油井用調質鋼を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記問題点を解決するために先ず硫化物応力腐食割れの機構を再検討し、かつそれに及ぼすNiの影響について研究した。従来、硫化物応力腐食割れ現象が始めて認識された当時では水素脆性説と活性経路割れ(以下APCと称する)説との両説があった。その後多くの研究により水素脆性説が一応定説となったのであるが、本発明者らはさらに研究を進めた結果、次の事実を知見するに至った。すなわち、硫化水素を含む環境における鋼材の割れ発生機構には水素脆性とAPCのいずれもが作用しており、APCは初期に発生して水素の集積場所を形成する作用を果たし、それが水素脆性を助長することが明らかになった。この際、鋼中のNiは水素脆性には無関係で、APCを発生させやすい作用があることを併せて明らかにすることができた。さらにそのNiの作用について詳しく検討した結果、APCは鋼表面のCr酸化物および硫化鉄(FeS)を主体とする腐食生成被膜が応力により局部的に破壊され、鋼表面の新生面が腐食反応のアノード、腐食生成被膜がカソードとして働くことによって生じる。その際、Niは腐食生成被膜を強固にし、カソード反応を促進する結果、APCが促進されることを明らかにした。またさらに研究を重ねた結果、sol.Alも同様の作用をもつことを見出した。すなわち、通常の優れた耐硫化物応力腐食割れ性を有する高強度鋼は製鋼時に脱ガスの目的でAlを添加するため、通常0.01〜0.1%程度のAlを含有しており、APCの促進はNi単独の効果によってもたらされるのではなく、sol.Alとの相互作用によってもたらされることが見出されたのである。
【0006】そこで、本発明者らは高靱性を得る手段としてNiを有効に利用するため、脱酸の確保はAlを極力使用せず、Siによって確保するという観点からさらに研究を進め、本発明を完成するに至ったのである。すなわち本発明は、重量比にて C:0.10〜0.50%Si:0.50〜2.00%Mn:0.10〜1.50%P:0.015%以下S:0.005%以下Ni:0.30〜3.00%Cr:0.50〜1.50%Mo:0.10〜2.00%sol.Al:0.010%以下B:0.0005〜0.0050%O:0.0050%以下を含み、さらにTi:0.01〜0.10%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.10%のうちより選ばれた1種または2種以上を含み、残部はFeおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする低温靱性および耐硫化物応力腐食割れ性に優れた高強度低合金油井用調質鋼である。
【0007】
【作用】まず、本発明鋼の基本組成の限定理由について説明する。
C:Cは鋼の焼入れ、焼もどし抵抗性を向上させることにより強度を確保する作用があり、そのためには少なくとも0.10%を必要とする。しかし0.50%を越えて過多となると、焼入れ時、焼割れを起こして製造不能になることから0.50%を上限とし、0.10〜0.50%の範囲に限定した。
【0008】Si:Siは脱酸のために添加するが、sol.Alを0.01%以下に抑えるためにはAlの添加量が制限されるため、この目的のためには少なくとも0.50%を必要とする。しかし、2.00%を越えて過多となると靱性の劣化をきたすので上限を2,00%とし、0.50〜2.00%の範囲に限定した。
【0009】Mn:MnはSiと同様に脱酸作用があり、かつ強度靱性を高める作用があるが、0.10%未満ではその作用効果が得られず、また1.50%を越して過多となると靱性の劣化を来すようになるので、上限を1.50%とし、0.10〜1.50%の範囲に限定した。
【0010】P:Pは鋼中に不可避的に随伴される不純物であり、少ないほどよいが、特にその含有量が0.015%を越すと、粒界に偏析して加工に際し亀裂を生じやすくなり、また焼入れ時に焼割れを発生するので0.015%を上限とした。
S:SもPと同様に鋼中に不可避的に随伴される不純物であり、少ないほど良好であるが、とくにその含有量が0.005%を越すとMnS系介在物を形成して熱間圧延により延伸し、割れ発生の起点を誘発する有害成分であるので、その上限を0.005%とした。
【0011】Ni:Niは鋼の焼入れ性を促進し、とくに本発明の主目的である低温靱性向上に寄与する元素であるが、その効果を発揮するためには少なくとも0.30%を必要とする。しかし、3.0%を越えて過多となると効果が飽和し、コストも上昇するので上限を3.0%とし、0.30〜3.0%の範囲に限定した。
【0012】Cr:Crは焼もどし抵抗性を高める作用があるが、そのためには少なくとも0.5%を必要とする。しかし、1.50%を越えて過多となると腐食反応を促進し、鋼中への水素の侵入を助長する結果、硫化物応力腐食割れの発生を助長するので上限を1.50%とし、0.50〜1.50%の範囲に限定した。
【0013】Mo:Moは鋼の焼もどし抵抗性を高める作用があり、そのために少なくとも0.10%を必要とする。しかし、2.00%を越えると耐硫化物応力腐食割れ性を劣化させるので上限を2.00%とし、0.10〜2.00%の範囲に限定した。
sol.Al:Alは脱酸作用があり、Si、Mnとともに添加されるが、前述のようなNiの悪影響を引き出さないようにするには、sol.Alで0.010%以下にする必要があるので、上限を0.010%とした。
【0014】B:Bは鋼の焼入れ性および焼もどし抵抗性を向上する作用があるので、必要に応じて添加される。しかし、上記作用効果は0.0005%未満では現れず、また0.005%を越えて添加してもこれらの効果が飽和するので0.0005〜0.0050%の範囲に限定した。
【0015】上記組成を本発明鋼の基本組成とし、下記限定量のTi、Nb、Vのいずれか1 種または2種または3種を添加することにより、本発明の効果をより高強度の範囲まで付与させることができる。これらの添加元素量の限定理由は次の通りである。
Ti:TiはAlと同様に窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与して靱性を高める作用があり、さらにB含有鋼の場合はBとともに焼入れ性、焼もどし抵抗性を向上する作用があるので、Alとともに必要に応じて添加される。しかして、その含有量は0.01%未満では上記効果が得られず、他方0.10%を越えて過多となると靱性の劣化をもたらすので上限を0.10%とし、0.01〜0.10%の範囲内に限定した。
【0016】Nb、V:Nb、Vはいずれも鋼の焼もどし抵抗性を向上する作用があるので必要に応じ単独または複合して添加されるものであるが、いずれも0.01%未満では上記効果が得られない。しかし、0.10%を越えるとこれらの作用が飽和するので両者とも0.01〜0.10%の範囲に限定した。
【0017】O:Oはその含有量が多いと各種の酸化物を形成して、熱間加工性、耐硫化物応力腐食割れ性および靱性を著しく劣化させるため、0.005%以下にする必要があるので、上限を0.005%とした。次に上記限定組成を有する本発明鋼の望ましい製造方法について説明する。
【0018】上記本発明による限定組成を有する本発明鋼の製造方法は常法によって行えばよいので、特に限定の要はないが、例えば継目無し鋼管を例として説明すると次のように行うことが望ましい。すなわち上記成分組成の鋼を溶製し、脱ガスを十分に行った後、ガス吸収を抑制して造塊し分塊圧延するかもしくは連続鋳造によりブルームとし、さらに分塊圧延をし、ついでマンネスマン方式による熱間圧延により所定の寸法の鋼管とする。
【0019】その後、該鋼管をAc3変態点以上のオーステナイト結晶粒が粗大化しない範囲の温度に加熱して急冷する焼入れ処理を行う。この焼入れ処理によって得られた鋼管の組織は主としてマルテンサイト組織であり、非常に硬く、脆く硫化物応力腐食割れにきわめて敏感であるので靱性を与えるために650〜720℃の温度で焼もどしを行うことが望ましい。この焼もどし処理によっても本発明鋼はいずれも引張り強さ63〜87kgf/mm2 を得ることができる。このようにして後記実施例で示すように従来引張り強さ63〜87kgf/mm2 級鋼では達成困難とされていた高靱性が本発明鋼では達成可能となったもので、本発明鋼の大きな特徴の一つである。
【0020】
【実施例】表1に示すような成分を有する本発明鋼供試材A、B、C、D、E、F、G、Hおよび比較供試材I、J、K、L、Mを同一条件で溶製し、脱ガス処理後、ガス吸収を抑制して造塊し、その後分塊圧延し、ついで熱間圧延により外径88.9mm、厚さ12.7mmの鋼管とした。
【0021】
【表1】

【0022】これらの各供試材は表2に示す条件によって焼入れ、焼もどしを行った後、引張り試験およびシャルピー衝撃試験によって機械的性質を調査した。つぎに硫化物応力腐食割れ試験はNACE TM0177−90 Method Aに規定された方法に従って行い、試験片は肉厚中央から採取して試験に供した。
【0023】表2の硫化物応力腐食割れ試験結果における数値は割れ発生に対する限界応力を降伏強度に対する負荷応力の割合で示したものである。従って各供試材は表2に示す応力比以下では割れが発生しなかったことを示している。表2より明らかなように、比較鋼供試材ではI、Lを除き、もっとも良好なものでも応力比が75%を越えると割れるのに対し、本発明鋼の各供試材は応力比が90%以上でも割れることがない。このように、本発明による各供試材は耐硫化物応力腐食割れ性に優れており、しかも降伏強度も63〜87kgf/mm2 に達し、その靱性もシャルピー衝撃試験によるvE-60 吸収エネルギーで8.4〜11.5kg・m と高く、高強度、高靱性であることを示している。これに対し、比較鋼はI、Lのように降伏強度、耐硫化物応力腐食割れ性に遜色がない場合でも靱性は劣り、またJ、K、Mのように降伏強度に遜色がない場合でも、耐硫化物応力腐食割れ性、靱性とも劣る。
【0024】
【表2】

【0025】
【発明の効果】本発明の鋼は成分組成を限定し、とくにNiとの共存によりAPCの発生を促進するsol.Alの含有量を0.01%以下に限定することにより、比較的低コストの低合金鋼で耐硫化物応力腐食割れ性を確保するとともに、焼入れ、焼もどし後の降伏強さが63〜87kgf/mm2 を確保し、しかも高靱性の高強度油井用鋼を得ることができた。


 

 


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