| 発明の名称 |
焼入れ性の優れたステンレスかみそり用鋼 |
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| 発行国 |
日本国特許庁(JP) |
| 公報種別 |
公開特許公報(A) |
| 公開番号 |
特開平6−145907 |
| 公開日 |
平成6年(1994)5月27日 |
| 出願番号 |
特願平4−294739 |
| 出願日 |
平成4年(1992)11月4日 |
| 代理人 |
【弁理士】 【氏名又は名称】大場 充
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| 発明者 |
平 邦夫 / 熊谷 敦 / 長澤 政幸 |
| 要約 |
目的 短時間の熱処理で優れた硬さが得られ、しかも耐食性にも優れたステンレスかみそり用鋼を提供する。
構成 重量%でC 0.55を越え0.73%以下、Si 1.0%以下、Mn 1.0%以下、Cr12%以上14%以下、Mo 0.2%以上1.0%以下、あるいはさらに、Ni 1.0%以下、残部Feおよび不純物よりなり、焼なまし状態での炭化物密度を140〜200個/100μm2とした焼入れ性の優れたステンレスかみそり用鋼である。 |
特許請求の範囲
【請求項1】 重量%でC 0.55を越え0.73%以下、Si 1.0%以下、Mn 1.0%以下、Cr 12%以上14%以下、Mo 0.2%以上1.0%以下、残部Feおよび不純物よりなり、焼なまし状態での炭化物密度を140〜200個/100μm2とした焼入れ性の優れたステンレスかみそり用鋼。 【請求項2】 重量%でC 0.55を越え0.73%以下、Si 1.0%以下、Mn 1.0%以下、Cr 12%以上14%以下、Mo 0.2%以上1.0%以下、Ni 1.0%以下、残部Feおよび不純物よりなり、焼なまし状態での炭化物密度を140〜200個/100μm2とした焼入れ性の優れたステンレスかみそり用鋼。
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発明の詳細な説明
【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、かみそり刃を作るために使用されるステンレス鋼系のかみそり用鋼に関するものである。 【0002】 【従来の技術】現在、かみそり用鋼として広く一般に用いられているマルテンサイト系ステンレス鋼(Cr 12〜13%含有)は、焼入れ焼もどしの熱処理により、かみそり刃としての硬さであるHV620ないし650の硬さが得られる。また、防錆性および耐食性の点で高炭素鋼よりも優れている。上記のかみそり用のマルテンサイト系ステンレス鋼は、通常、熱間圧延と冷間圧延および焼なまし処理の組合せにより帯状のかみそり用鋼として次工程に供給される。次工程では打抜きのあと、連続炉による焼入れ焼もどしの熱処理と刃付けおよび表面処理(テフロンコーティングやスパッタリング)が施されて製品となる。上記のマルテンサイト系ステンレス鋼は、組織的には基地にクロム炭化物が分散した状態であり、この炭化物の粒度や分布状態が加工性や熱処理後のかみそり刃としての特性に大きな影響を及ぼす。 【0003】主に熱間加工後の冷間加工性を向上させる目的として炭化物を微細化する方法は、米国特許4,021,272に開示されている。この方法は、熱間加工されてコイル状に巻かれた帯鋼のコイル状態をゆるめ(オープンコイルという)、塩浴で恒温焼なましするものである。かみそり刃としての特性のうち、耐食性と高硬度を得るために0.30〜0.15%の比較的低いC量を含有する高Cr鋼の炭化物の密度を200〜500個/100in2としたかみそり刃は米国特許4,180,420に開示されている。また同様に、耐食性と切れ味を向上させるために、比較的低いC量(0.30〜0.55%)とし、焼なまし状態での炭化物の平均粒径を0.5μm以下としたかみそり用鋼およびその製造方法が特開昭54−121218号に開示されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】現在かみそり用鋼に対しては、切れ味をさらに向上させるため、より高硬度が求められているが、同時に製造時の生産性、特に連続炉による焼入れ焼もどしやテフロンコーティング処理のラインスピードの向上も求められている。つまり、短時間焼入れで高硬度が得られる材料が必要となる。前述の特開昭54−121218号および米国特許4,180,420号に見られる提案は、炭化物の粒径を小さくしたり、炭化物の密度を高めることにより、十分な熱処理硬さを得ようとするものであるが、化学組成の点でC量が少ないため、十分な硬さを確保することが難しく、実用に至っていない。また、現用の0.65%C−13%Cr鋼は炭化物密度が十分でなく、せいぜい100個/100μm2程度と小さいため、短時間焼入に適した材料とは言えない。 【0005】米国特許4,021,272は、かみそり用鋼の炭化物の微細化の方法を提案しているものの、本発明の主目的の1つである短時間焼入を達成するために、どのような炭化物密度にすれば良いかについては、全く開示のないものである。また、米国特許4,021,272はソルトバスを用いるため、その取扱いと処理時間が長い点でも難点があり改善が要望されていた。すなわち、従来知られている技術は、主に耐食性向上のために低C量のステンレス鋼とし、低Cとしたために劣化する熱処理硬さを保証する目的で炭化物密度を特定の範囲にするもの、あるいは一般的に炭化物の微細化を促進する煩雑な方法を開示するに留まり、C量が0.55を越える範囲で新しい課題である短時間焼入に対応できるかみそり用鋼および新規な簡便な製造方法は知られていなかったのである。本発明の目的は、課題解決の手段として、化学組成を適正化することにより、短時間熱処理が可能な高い炭化物密度を有し、しかも高硬度のかみそり刃が得られるかみそり用鋼を提供するものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明は、主要成分がC 0.55を越え0.73%以下、Cr 12%以上14%以下の鋼について、かみそり用鋼の新しい要求特性である短時間焼入を可能にし、かつ十分な熱処理硬さを得るために必要な炭化物密度を見出した結果なされたものである。そして、炭化物密度向上に少量に制限されたMo添加が効果があることを見出したものである。 【0007】具体的には、本発明は重量%でC 0.55を越え0.73%以下、Si 1.0%以下、Mn 1.0%以下、Cr 12%以上14%以下、Mo 0.2%以上1.0%以下、あるいはさらにNi 1.0%以下を含有し、残部Feおよび不純物よりなり、焼なまし状態での炭化物密度を140〜200個/100μm2とした焼入れ性の優れたステンレスかみそり用鋼である。また、本発明のステンレスかみそり用鋼は、前記の化学組成の帯鋼を熱間圧延後、Ac1点以上に設定した焼鈍炉で焼なましを行なうことにより得ることができる。 【0008】 【作用】本発明は、Moの少量の添加によって、炭化物密度の向上を図ったものである。また、Moは非酸化性の酸や孔食を誘発する塩素のようなハロゲン系元素に対する耐食性の向上などの効果もある。加えて、Moは焼入れ臨界冷却速度を下げる効果が著しく大きく、その結果として焼入れ硬化能、焼入れ深さを向上させる他、焼もどし軟化抵抗も増加させる。しかし、Moは過度に添加するとMs点を低下させ、焼入時に残留オーステナイトを過剰に生成させ焼入れ硬さの低下をまねくため、少量に制限する必要がある。本発明ではMoによる炭化物密度を高める効果が1.0%でほぼ飽和するため、1.0%以下に規定した。また、本発明に際しての研究の結果、炭化物密度を高めて短時間焼入れを可能にするためにはMo 0.20%以上は必要である。 【0009】その他の化学組成の限定理由について述べる。Cは、焼入れ時オーステナイト化温度において炭化物から基地に固溶し、焼入れで生成するマルテンサイトの硬さを決定する重要な元素である。かみそり用鋼としての十分な硬さを得るため、および炭化物密度を安定して140〜200個/100μm2とするためには少なくとも0.55%を越えることが必要である。また、マルテンサイトステンレス鋼では、CとCr量のバランスにより、凝固時に大型の共晶炭化物が晶出する。かみそり替刃材のような0.1mm程度の厚さで、しかも鋭利な刃先を有する用途には、このような大型の炭化物は、刃欠けの原因となるため、絶対に避けなければならない。このため、Cr量とのバランスから上限を0.73%とした。Siは通常鋼の精錬時の脱酸剤として用いられるが、鋼中に固溶し、低温焼もどしにおける軟化を抑制する元素として知られている。しかし、Siの量が多すぎるとSiO2系の硬質の非金属介在物として鋼中に残存する確率が高く、刃欠けや点錆の原因となるため上限を1%とした。 【0010】MnもSiと同様、精錬時の脱酸剤としての役割を有するが、1%を越えると本成分系では熱間における加工性を低下させるため、これを上限とした。Crは耐食性を向上させる点からステンレス鋼には不可欠の元素であることは周知の通りである。この耐食性を十分に発揮させるためおよび炭素との結合により微細なクロム炭化物を本発明の炭化物密度で分散させるためには、少なくとも12%以上必要である。また、14%を越えるとC量とのバランスからM7C3型(M=Cr,Fe)の大型炭化物の晶出をまねき、優れた焼入れ性を確保するのに必要な炭化物密度の条件からも外れてくるため、これを上限とした。 【0011】Niは硫酸のような非酸化性の酸に対する耐食性を向上させるのに有効な元素である。しかし、1%を越えるとマルテンサイト変態開始温度(Ms点)を低下させ焼入時に残留オーステナイトを過剰に生成させ焼入硬さの低下をまねくため添加する場合は、1%以下に抑える必要がある。 【0012】次に、本発明のかみそり用鋼の重要な構成要件である炭化物密度の条件について述べる。短い焼入れ保持時間でしかも、高い硬さを得るためには、オーステナイト化温度において、炭化物が迅速に、しかも十分に固溶し、基地の炭素量を高めることが必要となる。このためには、焼なまし状態において、微細な炭化物を、高密度で分散させる必要がある。本発明者は現用材の密度100個/100μm2と比較して、短時間焼入れの効果を得るには、少なくとも140個/100μm2以上必要であることを知見した。炭化物密度が高くなるほど、短時間の焼入れで、高硬度が得られる効果は大となるが、一方密度が高くなるにつれ、焼なまし硬さは上昇する。これは、素材の冷間圧延性を阻害する原因となる。この観点から、200個/100μm2を越えると、冷間圧延に多大の工数を必要とするだけでなく、冷間圧延時の帯鋼の破断の確率も増加するためこれを上限とした。 【0013】 【実施例】本発明鋼B〜H、比較鋼A、従来鋼Iは、表1に示す組成の厚さ 1.5mmの熱間圧延帯鋼をAc1点以上の840℃×5時間に設定したバッチ式焼鈍炉で焼なましを行ない、その後冷間圧延−780℃×5分の焼なまし−冷間圧延−780℃×5分の焼なまし−冷間圧延によって0.1mmの厚さに仕上げたものである。表1に炭化物密度を示す。従来鋼Iが98個/100μm2であるのに対し、本発明鋼B〜Hは140〜200個/100μm2となっている。Mo 0.12%添加の比較鋼Aは、118個/100μm2にとどまっている。Moを添加した本発明鋼B〜Hの炭化物の密度調査より、十分な炭化物微細化のためには、Moが0.20%以上必要であることがわかる。 【0014】 【表1】
【0015】本発明鋼B〜H、比較鋼A、従来鋼Iのかみそり刃製造における熱処理特性を確認するために、真空中でオーステナイト化温度に保持した後急冷し、実際のかみそり刃製造と同じ-75℃、15分のサブゼロ処理を行ない、さらに実際の製造工程で行なわれるテフロンコーティング処理と同じ350℃、1時間で焼もどしした場合の製品硬さおよびこの状態での分極特性から、かみそり刃の耐食性を示す1つの指針となる腐食電位を測定した結果も表2に示した。 【0016】 【表2】
【0017】表2より、従来鋼Iより本発明鋼B〜Hは、何れも焼入れ焼もどし硬さが高くなっている。また、腐食電位は従来鋼Iに比べ本発明鋼B〜Hは、電気化学的に貴側に移行しており、Mo添加によって耐食性向上の効果があった。また、本発明鋼C,Hおよび従来鋼Iについて、かみそり刃の製造工程を仮定して、焼入れ時のオーステナイト化保持温度を1100℃とし、焼入れ後 -75℃、15分のサブゼロ処理を行なった後の硬さとオーステナイト化保持時間の関係を図1に示す。図1より本発明鋼C,Hが従来鋼Iよりも同一オーステナイト化保持時間で高い硬さが得られ、同一硬さを得るには従来鋼の1/2〜2/3のオーステナイト化保持時間で十分であることがわかる。以上の結果により、本発明鋼は従来鋼に比べて短時間で高硬度が得られることが確認された。 【0018】 【発明の効果】本発明のかみそり用鋼は、従来の材料に比べて短時間の焼入れで高い硬度が得られるため、かみそり刃製造工程における焼入れスピードを1.5〜2倍に上げることが可能となり、しかも同一の焼入れ条件では従来鋼より高い熱処理硬さが得られ、かつ耐食性も向上することができるため、高生産性、高性能のかみそり刃の製造が達成できる。また、Moにより炭化物密度を高めているため、特別な製造工程の変更が必要でなく、低コストで短時間の焼入れが可能なかみそり用鋼を得ることができ、工業上極めて有用である。
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